説明

アンカ素子

【課題】外形付与部を設けたシャフトを有する固定素子に簡単に取り付けることができ、固定装置打込みの手間が減じられたアンカ素子を提案する。
【解決手段】アンカ素子は、固定素子における外形付与部を設けたシャフトに配置され、シャフトのための貫通開口(12)を有する。アンカ素子は、360°を超える角度範囲にわたって貫通開口(12)の周りに延在する帯状片を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定素子における外形付与部を設けたシャフトに配置され、シャフトのための貫通開口を有するアンカ素子に関する。さらに本発明は、硬化可能材料によりドリル孔内に係止可能であり、少なくとも1つの上記アンカ素子を有する固定装置、ならびにこのような固定装置を備える固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
外形付与部を有するシャフトを備える固定素子を硬化可能材料によってドリル孔内に化学的に係止させることが公知である。硬化可能材料は、固定素子をドリル孔内に導入する前または導入した後にドリル孔内に挿入される。固定素子は、例えば外形付与部として全長にわたってねじ山を設けたねじ山付ロッドである。固定素子が化学的に係止される場合には、シャフトと硬化された材料との間の接触領域に沿って、またはドリル孔壁と硬化された材料との間の接触領域に沿って固定箇所に機能不良が生じる場合がある。
【0003】
ドリル孔および特にドリル孔壁を清掃することにより、ドリル孔壁における硬化材料の付着、ひいてはドリル孔内における固定素子の係止を改善することができる。ドリル孔の清掃により特に良好な結果を得るためには、使用者が必ずしも入手できない別個の補助手段を必要とする付加的な作業の手間が生じる。
【0004】
ドイツ国特許第2423433号明細書により、硬化可能材料によってドリル孔内に係止可能な、アンカロッドの形態をした固定素子が公知である。このアンカロッドは、ねじ切りされていない部分に半径方向に突出するブラシを有し、このブラシは、硬化可能材料を充填されたドリル孔に固定素子が導入される場合にドリル孔壁を清掃する。
【0005】
公知の手段では、固定素子が硬化可能材料の硬化後にはじめて負荷可能であることが欠点である。
【0006】
米国特許第1,688,087号明細書により、硬化可能材料によってドリル孔内に係止可能な固定装置が公知である。この固定装置は、外形付与部としてねじ山を有するシャフト備える固定素子と、シャフトのためにそれぞれ1つの貫通開口を備える複数の環状ディスク型アンカ素子とを有する。アンカ素子はそれぞれドリル孔の公称径よりも大きい外径を有する。固定装置はドリル孔内に導入される。環状ディスク型アンカ素子は、例えば固定装置の導入前後に挿入される硬化可能材料が固定装置をドリル孔内に係止させるために十分に硬化されるまで固定素子をドリル孔内に機械的に係止させる。さらにアンカ素子は硬化された材料を補強し、付加的により高い引抜き耐力を可能とする。
【0007】
公知の解決手段では、シャフトの外形付与部により、環状ディスク型アンカ素子が、配置された状態でシャフト長さ方向軸線に関して垂直な平面に対してわずかに傾いており、それ故、ドリル孔から突出したシャフト部分が固定装置の打込み後に構成部分の表面から垂直に突出しないことが欠点である。シャフトの後調整は可能であっても限定的にのみ可能である。なぜなら、シャフトの後調整は、少なくとも1つのアンカ素子により生成される対向力に抗して行わなければならないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ドイツ国特許第2423433号明細書
【特許文献2】米国特許第1688087号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、外形付与部を設けたシャフトを有する固定素子に簡単に取り付けることができ、固定装置打込みの手間が減じられたアンカ素子を提案することである。さらに少なくとも1つのアンカ素子を備える固定素子を有する化学的に係止可能な固定装置、および、このような固定装置を備え、打込みの手間を減じた固定システムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、独立請求項に記載の特徴を有するアンカ素子、固定装置および固定システムにより解決される。さらなる有利な実施形態が従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明によれば、アンカ素子は、360°を超える角度範囲にわたって貫通開口の周りに延在する帯状片によって形成されている。
【0012】
帯状片は、組み付けられた状態で固定素子のシャフトを少なくとも一周は完全に取り囲み、帯状片の半径方向内縁は少なくとも部分的にシャフトの外形付与部に係合する。有利には、帯状片は360°の数倍の角度範囲にわたって貫通開口の周りに延在している。帯状片として形成されたアンカ素子により、シャフトにおける外形付与部の勾配を補償することができる。少なくとも1つのアンカ素子を有する固定素子をドリル孔への打込み後に調整することは、多くの場合には不要であるか、または容易に行うことができる。
【0013】
貫通開口は、有利には固定素子のシャフトに適合させた形状を有しており、したがって、円とは異なる構成を有していてもよい。有利には、帯状片は長さに沿って一定の幅を有し、貫通開口は、アンカ素子の外周または帯状片の半径方向外縁を形成する輪郭線に対して同心的に配置されている。代替的な構成では、帯状片は長さに沿って可変の幅を有しており、これにより、貫通開口の半径方向境界と、アンカ素子の外周を形成する輪郭線との間で材料部分の幅は周方向に変化する。
【0014】
有利には、帯状片はコイル状に形成されており、これにより、弦巻状の外形を有している。このアンカ素子は、固定素子のシャフトに簡単に配置することができる。帯状片の勾配は、有利にはシャフトの外形付与部に場合によっては設けられている勾配よりも大きく選択される。コイル状の帯状片の勾配に関連して、ドリル孔に打ち込まれた状態の固定素子の有利な案内または配向が得られる。
【0015】
好ましくは帯状片は非円形の外形を有しており、この外形は360°の角度範囲にわたって少なくとも2つの変曲点を有しており、したがって外形は周方向にドリル孔壁に完全に当接していない。このようなアンカ素子を有する固定素子の導入時には、アンカ素子の一部のみがドリル孔壁に沿って滑動し、これにより、より小さい力、ひいてはよりわずかな手間が固定素子を打ち込むために必要となる。平面図において外形に2つの変曲点が設けらた楕円形の構成の他に、帯状片は外形に3つ以上の変曲点が設けられた構成を有していてもよい。有利には、変曲点のコーナは丸く形成されている。さらに有利には、2つの変曲点の間の帯状片部分はアーチ状に延びている。
【0016】
好ましくは、帯状片は、非円形の外形に対して付加的に、360°の角度範囲にわたって少なくとも2つの変曲点を有する非円形の内形を有しており、これにより、帯状片は、部分的にのみ固定素子のシャフトに当接し、シャフトの外面に対して部分的に離間されている。シャフトに対して離間された帯状片部分の領域には硬化可能材料のための貫通開口が形成される。2つの変曲点が設けられた平面図で見て楕円形の内形の構成の他に、帯状片は3つ以上の変曲点が設けられた内形の構成を有していてもよい。有利には、変曲点は丸く形成されている。さらに有利には、2つの変曲点の間の帯状片部分はアーチ状に延びている。
【0017】
好ましくは、帯状片の隣接する2つの巻き部の変曲点は、互いに角度差をもって配置されており、これにより、打込みのために小さい力を加えるだけでドリル孔壁が有利に清掃されることが保証されている。このことは、帯状片におけるドリル孔壁に当接する部分が帯状片の長さにわたって半径方向に分配して配置されていることによって確保される。
【0018】
有利には、この角度差は次の式、
α=360・n/ξ・ω[°]
に従って規定され、この場合、
nは、帯状片の巻き部の半径方向外側とドリル孔壁との望ましい繰返し接触の回数であり、有利には、巻き部毎に2回以上の繰返し接触が生じ、
ξは、平面図において360°にわたる巻き部の総数またはその関数であり、式:
ξ=hHelix/PHelix
が成り立ち、
Helixは、帯状片の軸線方向全高であり、
Helixは、帯状片の巻き部の勾配であり、
ωは、平面図で見て360°にわたる巻き部の変曲点の数である。帯状片が平面図において楕円状の構成を有している場合、変曲点の数は2個である。対応して変曲点の数は、三角形では3個、四角形は4個、四つ葉クローバ状では4個、五角形では5個、等であり、
αは、角度差、すなわち、帯状片の隣接する2つの巻き部の変曲点が互いにずらされる角度である。
【0019】
本発明による代替的な実施形態では、帯状片は、互いに隣接する周方向部分または縁部分で互いに結合された複数の環状ディスク型素子部分を有する。有利には、これらの環状ディスク型素子は、それぞれ互いに半径方向に向かい合った周方向部分で互いに結合されてアンカ素子をなし、これにより、アンカ素子は、アコーディオン状に圧縮または延伸させることにより、例えば固定素子の係止長さに適合させるために長さを調整することができる。固定素子のシャフトのための貫通開口は、環状ディスク型素子部分の内側開口により形成されている。環状ディスク型素子部分は、例えば一体的に形成されており、アンカ素子の形成時に相応に折りたたまれる。代替的な構成では、環状ディスク型素子部分は固定箇所、例えばはんだ付けもしくは接着箇所で、またはクランプもしくは保持手段によって互いに結合されている。
【0020】
好ましくは、帯状片の半径方向外縁には形状付与部が設けられており、この形状付与部は、アンカ素子をドリル孔の構成に簡単に適合させることを保証する。例えば、形状付与部は半径方向外向きに開口した切欠きによって形成される。有利には、これらの切欠きは一方側で制限されたスリットとして形成されており、これらのスリットは、外縁を起点として貫通開口の方向に延在している。切欠きの間に位置するアンカ素子部分は、容易に変位可能なフィンを形成しており、これにより、極めて堅固な材料からなるアンカ素子においてもドリル孔内への導入時にドリル孔への適合性が得られる。さらに有利には、異なる種類の切欠きがアンカ素子の外縁に設けられている。例えば、外縁で可動なフィンを形成する第1のスリットが設けられており、これらの第1のスリットの間には、第1のスリットの間に位置するアンカ素子縁部を拡開する第2のスリットが設けられている。
【0021】
好ましくは、帯状片の半径方向内縁には形状付与部が設けられており、この形状付与部は、アンカ素子がシャフトの外形付与部の構成に簡単に適合されることを保証する。例えば、形状付与部は、半径方向内向きに開放された切欠きにより形成される。有利には、これらの切欠きは一方側が制限されたスリットとして形成され、これらのスリットは、内縁を起点として帯状片の外縁に向けて半径方向外方に延在している。切欠きの間に位置するアンカ素子部分は容易に変位可能なフィンを形成しており、これにより、極めて堅固な材料からなるアンカ素子においてもアンカ素子を固定素子に配置する場合に固定素子のシャフトへの適合性が得られる。さらに有利には、異なる種類の切欠きがアンカ素子の内縁に設けられている。例えば、内縁で可動なフィンを形成する第1のスリットが設けられており、これらの第1のスリットの間には、第1のスリットの間に位置する帯状片縁部を拡開する第2のスリットが設けられている。
【0022】
アンカ素子の有利で柔軟な構成では、帯状片の内縁および外縁にそれぞれ形状付与部が設けられており、これらの形状付与部は、半径方向に少なくとも部分的にオーバラップしていてもよい。
【0023】
有利には、帯状片は長さに沿って波状の構成を有しており、これにより、特にドリル孔内への導入時にアンカ素子の十分な剛性が保証される。帯状片の波形は、例えば縦延在方向および/または横延在方向に設けられている。
【0024】
アンカ素子をドリル孔壁に有利に係止させるためには、帯状片の厚さは、有利には0.01mm〜2mm、特に有利には0.05mm〜1mmである。
【0025】
有利には、帯状片は帯状片面において異なった厚さを有し、これにより、特にドリル孔内への導入時にはアンカ素子の変形特性を有利に調整することができる。特に有利な構成では、厚さは貫通開口を起点として半径方向外方に増大し、これにより、アンカ素子とドリル孔壁との接触領域には固定素子を機械的に係止させるために大量の材料が提供されている。別の有利な構成では、厚さは外縁を起点として半径方向に貫通開口に向けて増大しており、これにより、アンカ素子とシャフトとの接触領域においてアンカ素子をシャフトに固定するために有利には大量の材料がシャフトに提供される。さらに帯状片の厚さは、一方では貫通開口を起点として半径方向外方に、かつ他方では外縁を起点として半径方向に貫通開口に向けて増大しており、したがって、最大材料厚さを有する帯状片の領域が帯状片の外縁と内縁との間に位置している。
【0026】
好ましくは、帯状片には、硬化可能材料のための少なくとも1つの貫通開口が設けられており、これにより、アンカ素子の導入時に、硬化可能材料をあらかじめ充填されたドリル孔内にアンカ素子を導入する場合に、硬化可能材料の押しのけられた部分が進入し、アンカ素子を完全に覆うことができる。固定素子の導入後にドリル孔に硬化可能材料が充填される場合には、少なくとも1つの貫通開口により、注入された材料の大部分は妨げられずにドリル孔底部まで流れることができる。有利な構成では、少なくとも1つの貫通開口がアンカ素子の外周に設けられている。これに対して代替的または補足的に、アンカ素子または帯状片面に硬化可能材料のための少なくとも1つの周方向に閉じられた貫通開口が設けられる。特に有利には、複数の貫通開口が、帯状片の縦方向長さに沿って互いに離間して設けられており、さらに有利には、複数の巻き部に関して巻き部から巻き部へ互いにずらして配置されており、これにより、硬化された材料内における有利な係止および硬化された材料の補強が保証されている。
【0027】
有利には、帯状片は金属からなっており、有利には鋼薄板から作製されており、これにより、アンカ素子は十分な剛性を有している。アンカ素子の簡単で経済的な作製を、特に打抜き/曲げ加工方法により保証することができる。代替的に、帯状のアンカ素子は巻取り法により作製される。
【0028】
代替的な有利な実施形態では、帯状片はプラスチック、有利には繊維強化プラスチックにより作製されている。特に射出成形法によりアンカ素子の簡単かつ経済的な作製を確実に行うことができる。
【0029】
別の有利な構成では、アンカ素子は非導電性材料により作製されている。電流が伝達されることが不都合である用途、例えば鉄道枕木の固定時には、この帯状のアンカ素子は、シャフトとドリル孔壁と間に十分な間隔が得られることを保証し、構成部分から固定素子のシャフトに電流が流れることを阻止する。
【0030】
代替的な構成では、硬化可能材料が硬化するまでドリル孔内に固定素子が機械的に十分に係止されることを保証するものであれば、帯状片は金属またはプラスチックとは異なる材料から作製されていてもよい。
【0031】
本発明による、硬化可能材料によりドリル孔内に係止可能な固定装置は、外形付与部を設けたシャフトを備える固定素子と、シャフトのための貫通開口を備える少なくとも1つのアンカ素子とを有し、アンカ素子は、360°を超える角度範囲にわたって貫通開口の周りに延在する帯状片により形成されている。
【0032】
固定装置は、容易に作製することができ、構成部分、例えば壁または天井のドリル孔内に簡単に取り付けることができる。固定素子のシャフトの外形付与部は、例えばねじ山である。
【0033】
固定装置の少なくとも1つの帯状アンカ素子は、上記アンカ素子の特徴を個々に、または全て有していてよい。
【0034】
好ましくは、複数のアンカ素子は互いに間隔をおいて固定素子に設けられており、これにより、固定素子の有利な機械的係止、ドリル孔内における固定素子の簡単な整列、ならびに硬化された材料の有利な補強が保証されている。
【0035】
好ましくは、固定素子に種々異なった構成のアンカ素子が設けられており、必要に応じて異なった係止深さで異なった係止特性を互いに組み合わせることもできる。例えば、帯状アンカ素子とスリーブ状または環状ディスク型アンカ素子とが1つのシャフトにおいて組み合わされる。
【0036】
硬化可能材料により公称径(N)を有するドリル孔内に固定装置を係止させるための本発明による固定システムは、固定素子と、固定素子に配置された少なくとも1つのアンカ素子とを備える固定装置を有し、アンカ素子は、ドリル孔の公称径よりも大きい外径を有している。
【0037】
ドリル孔内への固定装置の導入時に、アンカ素子がドリル孔壁に沿って滑動することにより、同時にドリル孔を清掃することができ、この場合に落下する穿孔屑はドリル孔底部に、場合によっては硬化可能材料内に収集され、大部分はもはや周辺空気内に放出されることはない。固定装置または固定素子の打込み前にドリル孔を別個に清掃することはもはや必要なく、しかも係止された固定装置により高い最終負荷値が達成される。さらに少なくとも1つのアンカ素子は、ドリル孔内への固定装置導入時に外部に飛散する硬化材料に対して確実に飛散防止する。
【0038】
清掃ステップが不要となることにより使用時の安全性が高められ、固定装置の打込みが加速される。付加的な機器は不要であり、周辺空気が穿孔屑によりさらに汚染されることはない。さらにこのようなアンカ素子を有する固定装置は、シャフトが係止長さ全体に沿ってドリル孔内の硬化可能材料によって十分に覆われることを保証する。
【0039】
少なくとも1つの帯状のアンカ素子または固定装置は、上記アンカ素子または上記固定装置の個々の特徴ならびに全ての特徴をも有していてよい。
【発明の効果】
【0040】
上記のように構成された本発明によるアンカ素子は、外形付与部を設けたシャフトを有する固定素子に簡単に取り付けることができ、固定装置打込みの手間が減じられるという効果をもたらす。
【0041】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】アンカ素子の第1実施例を示す斜視図である。
【図2】アンカ素子の第2実施例を示す斜視図である。
【図3】アンカ素子の第3実施例を示す平面図である。
【図4】図3に示したアンカ素子の部分図である。
【図5】アンカ素子の第4実施例を示す平面図である。
【図6】固定装置を備える固定システムの側面図である。
【図7】固定素子の変化態様の概略側面図である。
【図8】固定装置の別の変化態様の断面図である。
【図9】固定装置の別の実施例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1に示す帯状片から形成されたコイル状のアンカ素子11は、シャフトのための貫通開口12を有し、360°を超える角度範囲にわたって延在し、本実施例では貫通開口12の周りを3回分、すなわち、1080°の角度範囲にわたって延在している。帯状片によって形成されたアンカ素子11の延在長さは、必ずしも360°の整数倍である必要はない。例えば帯状片は480°の角度範囲にわたって延在し、したがって、貫通開口12を1.3回分だけ周回している。アンカ素子11は、例えば長さをカットすることにより、現場の状況または異なる荷重状態に簡単に適合させることができる。
【0044】
アンカ素子11は、貫通開口12に向いた内縁13と、貫通開口12から離反した外縁14とを有している。アンカ素子11は、金属、有利には鋼薄板により打抜き/曲げ加工方法で作製されている。
【0045】
図2に示す帯状のアンカ素子31は、互いに隣接する周方向部分36または37で互いに結合された複数の環状ディスク型素子片35を有している。この帯状のアンカ素子31は、360°を超える角度範囲にわたって延在し、本実施例では、貫通開口32の周りを7回分、すなわち、2050°の角度範囲にわたって延在している。アンカ素子31のそれぞれの環状ディスク型素子部分35は、貫通開口32に向いた内縁33と、貫通開口32から離反した外縁34とを有している。アンカ素子31は、有利にはプラスチックにより、有利には繊維強化プラスチックにより射出成形法で作製されている。個々の環状ディスク型素子部分35は、例えばはんだ付け箇所または溶接箇所などの別個の結合点で、互いに結合されアンカ素子31をなしている。
【0046】
次に図3から図5に基づき、種々異なった形状付与部の種類について説明する。図1、図2、図8および図9に示したアンカ素子11,31,81および101は、これらの構造の全てを有していてもよいし、または少なくとも部分的に有していてもよい。
【0047】
図3および図4では、帯状のアンカ素子11の外縁14に半径方向外向きに開口した切欠き16の形の形状付与部が設けられており、これらの切欠き16は、容易に変位可能な複数のフィンを形成している。大部分の切欠き16の間には、外縁14を起点として半径方向内向きの複数のスリット17が設けられている。これらのスリット17は、アンカ素子11の自由な縁部を部分的に拡開し、これにより、アンカ素子11をドリル孔壁に簡単に適合させることができる。帯状のアンカ素子11の外縁14には、硬化可能材料のためのさらなる2つの貫通開口18が設けられている。アンカ素子11は外径D1を有している。
【0048】
アンカ素子11は、ディスク平面に波状形状付与部を有している(図4)。アンカ素子11は、帯状片平面において異なる厚さCおよびEを有し、厚さは貫通開口12を起点として半径方向外方に向けて増大する。
【0049】
図5では、帯状のアンカ素子31の外縁34に、半径方向外向きに開口した38の形の形状付与部が設けられており、これらの切欠きは、容易に変位可能な複数のフィンを形成している。帯状のアンカ素子31の内縁33には同様に形状付与部が付加的に設けられており、この形状付与部は、周方向に互いに離間され、半径方向内向きに開口した切欠き39により形成されている。アンカ素子31は外径D2を有している。
【0050】
図6には、硬化可能材料43によってドリル孔42の内部に固定装置50を固定するための固定システム41が示されている。
【0051】
固定装置50は、外形付与部53として雄ねじ山が設けられたシャフト52を備える固定素子51と、前述のように構成され、互いに離間された3つのアンカ素子11および31とを有している。アンカ素子31に対して間隔をおいて、シャフト52の打込み方向端部56に帯状のアンカ素子11が設けられている。
【0052】
固定装置50を打ち込むためには、構成部分44の内部にまずドリルによってドリル孔42が形成され、この場合に、形成されるドリル孔42の公称径Nはアンカ素子11の外径D1よりも小さく、かつアンカ素子31の外径D1よりも小さく選択されている。ドリル孔深さTは、一方では固定素子51のために必要な係止長さにより、かつ他方ではドリル孔42内の穿孔屑を収容するために固定素子51の前方に必要とされる空間により決定される。
【0053】
次いで、ドリル孔42には所定量の硬化可能材料43が充填され、固定装置50が、固定素子51のシャフト52の打込み方向端部56から先にドリル孔42に手動または機械的に導入される。この場合、固定素子51のシャフト52に配置されたアンカ素子11および31はドリル孔壁に沿って滑動し、これにより、ドリル孔壁に付着している穿孔屑の大部分はそこから除去され、硬化可能材料43に混合されるか、またはドリル孔底部に向けて移動する。アンカ素子11および31は、例えば固定素子51のシャフト52に押し込まれるか、またはシャフト52にねじ込まれる。固定装置50の導入時に、硬化可能材料43は、貫通開口18および切欠き16もしくは切欠き38および39を通ってンカ素子11および31を貫流し、これらを取り囲み、これにより、硬化可能材料43、および場合によってはこの硬化可能材料43の内部に位置する穿孔屑が一様に混合され、アンカ素子11および31は材料45の硬化後にこの材料内にほぼ完全に埋設される。
【0054】
代替的には、まず固定装置50がドリル孔42に導入され、次いで硬化可能材料43が挿入される。さらに代替には、まず所定の少量の硬化可能材料43がドリル孔42の内部に挿入され、固定装置50がドリル孔42の内部に導入され、次いでドリル孔42のまだ残されている空間にさらなる量の硬化可能材料43が充填される。
【0055】
さらに固定素子51のシャフト52に射出孔が設けられていてもよい。この射出孔を通って、固定素子51の導入後または導入中に硬化可能材料43をドリル孔42に挿入可能である。
【0056】
既に硬化可能材料43の硬化前に、固定装置50、ひいては固定素子51は制限された荷重レベルで負荷可能である。なぜならば、アンカ素子11および31は固定素子51をドリル孔42の内部に機械的に係止させるからである。硬化可能材料43の硬化後には、打ち込まれた固定装置50は最大許容荷重レベルまで負荷可能である。
【0057】
アンカ素子11の外縁14またはアンカ素子31の外縁34は、さらに少なくとも部分的にドリル孔壁内に係合するので、十分な接触面が提供される、裂断されたコンクリートにおいても固定装置41を使用することができる。
【0058】
異なるアンカ素子11および31の代わりに複数の同種の固定素子11または31をシャフトに設けてもよい。打ち込まれる固定素子に対する要求に関連して、固定素子51のシャフトにアンカ素子を1つのみ設けてもよい。
【0059】
図7に示す固定装置60は、外形付与部63としてねじ山を有するシャフト62を備える固定素子61に帯状のアンカ素子31を設けており、このアンカ素子31は、互いに隣接した周方向部分で互いに結合された複数の環状ディスク型素子部分35により形成されている。
【0060】
図8に示す固定装置70はアンカ素子81として帯状片を有しており、この帯状片は、360°を超える角度範囲にわたって貫通開口82の周りに延在している。帯状片は、非円形の外形および非円形の内形を有している。これらの外形および内形は、それぞれ360°の角度範囲にわたって少なくとも2つの変曲点83または84を有している。帯状のアンカ素子81の隣接する2つの巻き部の変曲点83または84は、本実施例では互いに対して12.5°の角度差(A)をもって配置されている。変曲点83もしくは84は、それぞれ丸く形成されており、帯状のアンカ素子81の部分はそれぞれアーチ状に延在している。帯状のアンカ素子81とシャフト72の外面との間の空間ならびにドリル孔42の壁とアンカ素子81との間の空間は、硬化可能材料のための貫通開口88を形成している。アンカ素子81の最大外形D3は、固定装置70が挿入されるドリル孔の公称径よりも大きく形成されている。
【0061】
図9に示す実施形態では、固定装置70は、外形付与部として雄ねじ山を設けたシャフト92を有する固定素子91と、コイル状に形成された帯状のアンカ素子101とを備えている。この帯状のアンカ素子101の外縁104は、固定素子91の長手方向軸線94に対して鋭角をなしてシャフト92の外面から突出し、シャフト92の端部95の方向に拡開された複数の円錐を形成している。アンカ素子101の外縁104は、隣接する内縁103とのオーバラップUを有している。アンカ素子101が円錐状に構成されていることにより、この固定装置90は有利には後から拡開する特性を有しており、これにより、裂断した基盤、例えばコンクリートにも適している。
【符号の説明】
【0062】
11,31,81,101 アンカ素子
12,32,82 貫通開口
13,33 内縁
14,34,104 外縁
16 切欠き
17 スリット
18,88 貫通開口
35 環状ディスク型素子部分
36,37 周方向部分
41 固定システム
42 ドリル孔
43 硬化可能材料
44 構成部分
50,60,70,90 固定装置
51,61,71,91 固定素子
52,62,72,92 シャフト
53,63 外形付与部
83,84 変曲点
92 シャフト
95 端部
D1,D2,D3 外径
N 公称径
U オーバラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定素子(51;61;71;91)における外形付与部(53;63)を設けたシャフト(52;62;72;92)に配置され、該シャフト(52;62;72;92)のための貫通開口(12;32;82)を有するアンカ素子において、
360°を超える角度範囲にわたって前記貫通開口(12;32;82)の周りに延在する帯状片を備えることを特徴とするアンカ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカ素子において、
前記帯状片がコイル状に形成されているアンカ素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアンカ素子において、
前記帯状片が、360°の角度範囲にわたって少なくとも2つの変曲点(83)を有する非円形の外形を有しているアンカ素子。
【請求項4】
請求項3に記載のアンカ素子において、
前記帯状片が、360°の角度範囲にわたって少なくとも2つの変曲点(84)を有する非円形の内形を有しているアンカ素子。
【請求項5】
請求項3または4に記載のアンカ素子において、
前記帯状片の隣接する2つの前記変曲点(83;84)が、互いに対して所定の角度差をもって配置されているアンカ素子。
【請求項6】
請求項1に記載のアンカ素子において、
前記帯状片が、互いに隣接した周方向部分(36,37)で互いに結合された複数の環状ディスク型素子部分(35)を有しているアンカ素子。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のアンカ素子において、
前記帯状片の半径方向外縁(14;34)および/または半径方向内縁(13;33)に形状付与部が設けられているアンカ素子。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載のアンカ素子において、
前記帯状片が、その延在長さに沿って波状の構成を有しているアンカ素子。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載のアンカ素子において、
前記帯状片に、硬化可能材料(43)のための少なくとも1つの貫通開口(18)が設けられているアンカ素子。
【請求項10】
硬化可能材料(43)によってドリル孔(42)の内部に係止可能な固定装置において、
外形付与部(53;63)を設けたシャフト(52;62;72;91)を有する固定素子(51;61;71;91)と、請求項1から9までのいずれか一項に記載のアンカ素子(11;31;81;101)のうち少なくとも1つとを備えることを特徴とする固定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の固定装置において、
複数の前記アンカ素子(11;31)が、互いに間隔をおいて1本の前記シャフト(52)に設けられている固定装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の固定装置において、
種々異なった構成の前記アンカ素子(11,31)が、1本の前記シャフト(52)に設けられている固定装置。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか一項に記載の固定装置(50;60;70;90)を、硬化可能材料(43)によって、公称径(N)を有するドリル孔(42)に係止させるための固定システム(41)において、
固定素子(51;61;71;91)に配置された少なくとも1つのアンカ素子(11;31;81;101)が、前記ドリル孔(42)の公称径(N)よりも大きい最大外径(D1,D2,D3)を有していることを特徴とする固定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−32048(P2010−32048A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171551(P2009−171551)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】