説明

アンギュラ玉軸受

【課題】樹脂保持器を備えたアンギュラ玉軸受において、軽微な保持器形状の変更で軸受トルクの低減を図る。
【解決手段】樹脂保持器30の小環状部31、大環状部32に、玉40の位置を定める小径側玉受け面35、大径側玉受け面37と、玉受け面35、37からポケット33外側へ更に凹んだ小径側凹所36、大径側凹所38とを形成し、小径側凹所36を、小環状部31の内径面31aから外輪20側へ連ね、小径側玉受け面35を、PCDよりも内輪10側で小径側凹所36と繋ぎ、かつ小環状部31の外径面31bまで連ね、大径側凹所38を、大環状部32の外径面32aから内輪10側へ連ね、大径側玉受け面37を、PCDよりも外輪20側で大径側凹所38と繋ぎ、かつ大環状部32の内径面32bまで連ねて、すべり速度の最も高いところからすべり面積を減らし、玉40による油膜のせん断抵抗を低減した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肩落とし内輪と、肩落とし外輪とを備えたアンギュラ玉軸受がある。図4に例示するように、この種のアンギュラ玉軸受に用いる樹脂保持器として、内輪1の肩落とし部と外輪2の肩部間に収まる小環状部3と、外輪2の肩落とし部及び内輪1の肩部間に収まる大環状部4と、小環状部3と大環状部4との間を柱部5で区切った窓型のポケット6とが形成されたものがある。接触角側の内輪1の肩部を高くしたいため、小環状部3の外径面は、小環状部3の内径面よりも玉セットのピッチ径(以下、PCDと呼ぶ)に近くなっている。また、接触角側の外輪2の肩部を高くしたいため、大環状部4の内径面は、大環状部4の外径面よりもPCDに近い径寸になっている。一般に、ポケット6は、樹脂保持器の内外径間に亘って単一球面状に形成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
今般、自動車用途の軸受では、燃費向上等の環境問題からトルク低減が求められている。軸受トルクの中で、保持器と玉との間で発生するトルクは、玉による油、グリースによる油膜のせん断抵抗が多くの割合を占めている。また、そのせん断抵抗の殆どは、ポケット内面と、玉との間に形成された油膜をせん断するときに発生するものである。図4に例示した従来例のように、ポケット6の内面全体が、玉7の位置を定める玉受け面になっていると、玉7と玉受け面との間の僅かな隙間を油が通過しようとするため、抵抗が発生し、トルクを大きくする要因の1つになる。
【0004】
軸受トルクを下げる手段の1つとして、玉受け面からポケット外側へ更に凹んだ凹所を形成することがある。玉の位置を定める玉受け面と玉との間で設定されたポケットすきまは、凹所と玉との間のすきまよりも十分に小さい(特許文献2〜4)。
【0005】
特許文献2のものは、金属製の波形保持器に凹所を採用したものである。その凹所は、PCDの円周を含む仮想円筒面上から径方向及び円周方向に幅をもって形成されている。玉受け面は、凹所の保持器内径側及び外径側に形成されている。
【0006】
また、特許文献3のものは、金属製の打抜き保持器に凹所を採用したものである。その凹所は、保持器内径から外径側に亘って形成されている。玉受け面は、凹所の円周方向両側に形成されている。
【0007】
特許文献4のものは、金属製のプレス保持器に凹所を採用したものである。その玉受け面は、玉の赤道付近に沿い、その凹所は、玉受け面から保持器内径に亘る楔状空間と、玉受け面から保持器外径に亘る楔状空間とを成し、かつ玉極と対向するところで特に深く凹むように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平4−78331号公報
【特許文献2】特開2003−13962号公報
【特許文献3】特開2006−342901号公報
【特許文献4】特開平2−221715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図4に例示した従来のアンギュラ玉軸受の樹脂保持器によれば、ポケット6の内面に全面的に形成された玉受け面と玉7との間に油膜が形成される。ポケット6の内面の一部を特許文献2等のようにポケット外側へ更に凹んだ凹所に変更すれば、前記せん断抵抗を凹所で低下させることは可能である。
【0010】
しかしながら、樹脂保持器の場合、金属板製の保持器と異なり、小環状部3、大環状部4を塑性変形させて凹所を形成することはできない。特許文献2〜4のように、凹所をPCD近傍で形成したり、保持器内外径に亘って形成したり、保持器内外径の略全部に亘って形成したりすると、樹脂製の小環状部3及び大環状部4の軸方向肉厚を特にPCD近傍で確保することが困難になり、大幅な保持器形状の変更を要する。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、樹脂保持器を備えたアンギュラ玉軸受において、軽微な保持器形状の変更で軸受トルクの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するため、この発明は、肩落とし内輪と、肩落とし外輪と、樹脂保持器とを備え、前記樹脂保持器は、前記内輪の肩落とし部と前記外輪の肩部との間に収まる小環状部、及び前記外輪の肩落とし部と前記内輪の肩部との間に収まる大環状部を有し、前記小環状部の外径面は、当該小環状部の内径面よりも玉セットのピッチ径に近く、前記大環状部の内径面は、当該大環状部の外径面よりも前記ピッチ径に近いアンギュラ玉軸受において、前記小環状部は、ポケットに入った玉の位置を定める小径側玉受け面と、当該玉受け面からポケット外側へ更に凹んだ小径側凹所とを有し、前記大環状部は、前記玉の位置を定める大径側玉受け面と、当該玉受け面からポケット外側へ更に凹んだ大径側凹所とを有しており、前記小径側凹所は、前記小環状部の内径面から外輪側へ連なり、前記小径側玉受け面は、前記ピッチ径よりも内輪側で前記小径側凹所と繋がり、かつ前記小環状部の外径面まで連なり、前記大径側凹所は、前記大環状部の外径面から内輪側へ連なり、前記大径側玉受け面は、前記ピッチ径よりも外輪側で前記大径側凹所と繋がり、かつ前記大環状部の内径面まで連なっている構成を採用した。
【0013】
玉によるせん断抵抗は、一般に、F=η(u/h)Sで求められる。ここで、F:せん断抵抗、η:油の粘度、u:すべり速度、h:油膜厚さ、S:すべり面積である。軸受回転に伴い、玉が自転する際に玉セットのピッチ径(PCD)から径方向に離れる程に、玉自転の周速が速くなるので、すべり速度が速くなる。小環状部の外径面が小環状部の内径面よりもPCDに近く、大環状部の内径面が大環状部の外径面よりもPCDに近いから、小環状部の内径面、大環状部の外径面のところですべり速度が最も速くなり得る。その小環状部の内径面、大環状部の外径面からポケット外側へ更に凹んだ凹所を形成すれば、玉自転の周速の最も速いところから玉との間のすきまをポケットから更に広げ、せん断抵抗を最も効果的に下げることができる。また、小径側凹所、大径側凹所により、ポケットへの間口を広げ、潤滑剤がポケット内を通過する際の抵抗を低下させることができる。また、小径側凹所、大径側凹所の形成で玉受け面の面積を減らすことにより、玉とポケット内側との間に形成される油膜量を少なくし、玉が樹脂保持器に対して運動する際にせん断する油膜量も少なくすることができる。これらの低減によって、軸受トルクを低減することができる。小環状部と大環状部の双方に凹所を形成することで、小径側凹所、大径側凹所の径方向深さを浅くすることができる。さらに、小径側玉受け面を、PCDよりも内輪側で小径側凹所と繋ぎ、かつ小環状部の外径面まで連ねると、PCD近傍を含む比較的にすべり速度の遅くなるところで、小環状部の軸方向肉厚を従来通りに確保することができるので、軽微な小環状部形状の変更で済ますことができる。同じく、大径側玉受け面を、PCDよりも外輪側で大径側凹所と連ね、かつ大環状部の内径面まで連ねると、軽微な大環状部形状の変更に留めることができる。
【0014】
前記小環状部の内径面は前記内輪の肩部外径よりも小径であり、前記大環状部の外径面は前記外輪の肩部内径よりも大径であり、前記小径側凹所は前記内輪の肩部外径よりも小径のところに形成され、前記大径側凹所は前記外輪の肩部内径よりも大径のところに形成されていることが好ましい。肩落としの空間を利用して小径側凹所、大径側凹所の深さを取りつつ、内輪の肩部との間、外輪の肩部との間の環状スペースを利用して小環状部及び大環状部の肉厚を全周に亘って確保することができる。
【0015】
前記小環状部の内外径差は前記大環状部の内外径差よりも大きいことが好ましい。大環状部と比して強度を確保し難い小環状部の強度を確保するため、内外径差を小環状部側で大きくしている。この種の樹脂保持器であれば、小径側凹所の径方向深さが制限され難く、この発明に好適である。
【0016】
前記小環状部の内径面は前記大環状部の外径面よりも幅広で円周方向に亘っていることも好ましい。大環状部と比して強度を確保し難い小環状部の強度を確保するため、小環状部の内径面幅を円周方向に亘って大環状部の外径面よりも大きくしている。この種の樹脂保持器であれば、小径側凹所の軸方向深さが制限され難く、この発明に好適である。
【0017】
例えば、前記小径側玉受け面及び前記大径側玉受け面は、それぞれ球面状に形成することができる。最も一般的な玉受け面形状の従来品から小径側凹所、大径側凹所を形成するだけでこの発明を実施することができる。なお、この発明において、小径側玉受け面、大径玉受け面のそれぞれは、軸受運転中、樹脂保持器に対する玉の位置を定めるために玉と接触し得るポケット内面部分であり、この目的を達成し得る限り、単一又は複数の面から任意の形状にすることができる。
【0018】
例えば、前記樹脂保持器は、射出成型によって形成することができる。小径側凹所、大径側凹所は、小環状部の内径面、大環状部の外径面から凹む形状なので、小環状部、大環状部の成型時に同時に形成することができる。
【0019】
前記小径側凹所及び前記大径側凹所は、小環状部の内径面、大環状部の外径面から凹む形状なので、それぞれ削り加工で形成することもできる。削り加工によれば、小環状部の外径が大環状部の内径よりも大きい従来品にこの発明を適用することができる。
【0020】
前記樹脂保持器は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂で形成することが好ましい。PPSは、射出成型、又は削り加工が可能な樹脂の中でも機械的強度が特に優れるので、小径側凹所、大径側凹所の形成に好適である。
【0021】
この発明に係る樹脂保持器は、従来品と置換することで軸受トルクを低減することができる。
【0022】
この発明に係るアンギュラ玉軸受は、トランスミッションの回転軸の支持に用いることにより、燃費向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
上述のように、この発明は、樹脂保持器を備えたアンギュラ玉軸受において、上記構成の採用により、小径側凹所、大径側凹所で比較的にすべり速度の速いところのせん断抵抗等を効果的に低減し、比較的にすべり速度の遅いPCD近傍のところで小環状部、大環状部の軸方向肉厚を確保したので、軽微な保持器形状の変更で軸受トルクの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るアンギュラ玉軸受の断面図
【図2】図1の小径側凹所の部分拡大図
【図3】図1のアンギュラ玉軸受を組み込んだトランスミッションの全体構成を示す模式図
【図4】従来例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受を図1に基づいて説明する。図示のように、このアンギュラ玉軸受は、肩落とし内輪10と、肩落とし外輪20と、樹脂保持器30とを備えている。なお、図1は、ポケットすきまが円周方向、軸方向及び径方向の各両側に均等な状態で、軸受中心軸及び円周方向に等配した玉40の中心を含む断面上を示している。この発明において、軸方向とは、軸受中心軸に沿った方向のことをいう。また、径方向とは、軸方向に垂直な方向のことをいう。また、円周方向とは、軸受中心軸回りの円周方向のことをいう。
【0026】
内輪10、外輪20は、単列の片肩落としの軌道輪になっている。樹脂保持器30は、内輪10の肩落とし部11と外輪20の肩部21との間の環状空間に収まる小環状部31、外輪20の肩落とし部22と内輪10の肩部12との間の環状空間に収まる大環状部32、及び小環状部31と大環状部32との間を窓型のポケット33に区切る柱部34からなる。肩落とし部11は、軌道溝13から反肩部12側に位置した外周面部からなる。肩落とし部22は、軌道溝23から反肩部21側に位置した内周面部からなる。樹脂保持器30の保持器中心軸は、軸受中心軸と同軸になっている。
【0027】
樹脂保持器30は、転動体案内方式になっており、内輪10、外輪20との間にすきまが設けられている。小環状部31は、ポケット33に入った玉40の位置を定める小径側玉受け面35と、小径側玉受け面35からポケット33外側へ更に凹んだ小径側凹所36とを有している。大環状部32は、玉40の位置を定める大径側玉受け面37と、大径側玉受け面37からポケット33外側へ更に凹んだ大径側凹所38とを有している。ポケット33は、玉40が占め得る空所のことをいう。
【0028】
小径側凹所36は、小環状部31の内径面31aから外輪20側へ連なっている。小径側玉受け面35は、PCDよりも内輪10側で小径側凹所36と繋がり、かつ小環状部31の外径面31bまで連なっている。PCDは、樹脂保持器30に保持された1列の玉40の中心を含む円の直径のことをいう。大径側凹所38は、大環状部32の外径面32aから内輪10側へ連なっている。大径側玉受け面37は、PCDよりも外輪20側で大径側凹所38と繋がり、かつ大環状部32の内径面32bまで連なっている。
【0029】
小環状部31の内径面31a、大環状部32の外径面32aは、それぞれ円筒面に沿うように形成され、保持器中心軸と同軸の面形状になっている。小環状部31の外径面31b、大環状部32の内径面32bは、軸受中心軸に同軸の円錐面に沿うように形成されている。小環状部31の外径面31bは、大環状部32側に円錐面状の大端部をもち、その外径面31b全体は、小環状部31の内径面31aよりもPCDに近い径寸になっている。大環状部32の内径面32bは、小環状部31側に円錐面状の小端部をもち、その内径面32b全体は、大環状部32の外径面32aよりもPCDに近い径寸になっている。小環状部31の外径面31b、大環状部32の内径面32bは、円錐面状に限られず、例えば、円筒面状にすることもできる。小環状部31の内径面31a、大環状部32の外径面32aは、小径側凹所36、大径側凹所38の形成に伴い、外径面31b、内径面32bよりも狭い幅で円周方向に亘っている。
【0030】
小径側玉受け面35、大径側玉受け面37は、玉40と少なくとも軸方向に接触し得る小環状部31、大環状部32の表面部位からなる。図示例の樹脂保持器30が転動体案内方式なので、小径側玉受け面35、大径側玉受け面37は、玉40の表面に沿う面形状に形成され、樹脂保持器30に対する玉40の径方向位置を定める部位ともなっている。小径側玉受け面35、大径側玉受け面37は、樹脂保持器30の相対的な径方向変位によって玉40と軸方向に接触し得る箇所がその外径側縁部と内径側縁部との間で径方向に変位するようになっている。樹脂保持器30に対して径方向に外輪20側へ向う玉40の位置は、小環状部31の外径面31bと交わる小径側玉受け面35の外径側縁部、及び大環状部32の外径面32aと交わる大径側玉受け面37の外径側縁部との接触で定まる。樹脂保持器30に対して径方向に内輪10側へ向う玉40の位置は、小環状部31の内径面31aと交わる小径側玉受け面35の内径側縁部、及び大環状部32の内径面32bと交わる大径側玉受け面37の内径側縁部との接触で定まる。
【0031】
小径側玉受け面35、大径側玉受け面37の面形状は、球面状になっている。この球面状は、公知の転動体案内方式の樹脂保持器で採用されているものなので、この発明の適用に際し、ポケットすきまの設定を変更する必要性がない。
【0032】
小径側玉受け面35、大径側玉受け面37と玉40との間には、ポケットすきまが確保されているだけなので、軸受運転中、両玉受け面35、37と玉40との間のすきまに油膜が形成され、それぞれの間のすきまで玉40が油膜をせん断するせん断抵抗が生じる。したがって、その油膜は、潤滑油、グリース等の適宜の潤滑剤(流体)によって形成される。上記すべり面積Sは、小径側玉受け面35、大径側玉受け面37と玉40とが軸方向に対面する範囲の面積に相当する。小径側凹所36、大径側凹所38と玉40との間には、小径側玉受け面35、大径側玉受け面37のところよりも十分に大きなすきまとなるので、これらの間では、玉40による油のせん断抵抗が問題にならない。小径側凹所36、大径側凹所38の形成により、小径側玉受け面35、大径側玉受け面37を小環状部31の内径面31a、大環状部32の外径面32aと同径まで形成した場合と比して、すべり面積S、油膜量を減らしている。
【0033】
また、小径側玉受け面35の外径側縁部は、比較的にPCDに近く、小径側玉受け面35の内径側縁部は、比較的にPCDから遠い。大径側玉受け面37の内径側縁部は、比較的にPCDに近く、同玉受け面37の外径側縁部は、比較的にPCDから遠い。小径側玉受け面35を例に説明すると、図2に示すように、軸受回転中に玉40が自転する際、小径側玉受け面35の外径側縁部と軸方向に対向する玉40部分での玉自転周速と、小径側玉受け面35の内径側縁部と軸方向に対向する玉40部分での玉自転周速とを比較すると、外径側縁部とPCDとの径差a<内径側縁部とPCDとの径差bになるので、内径側縁部側での玉自転周速の方が高速になる。上記すべり速度uは、これら玉自転周速に基いて定まる。小環状部31の内径面31aと軸方向に対向する玉40部分での玉自転周速は、内径側縁部側の玉自転周速よりもさらに高速になる。小径側凹所36を小環状部31の内径面31aから径方向に凹ませることにより、小径側玉受け面35を内径面31aと同径まで形成した場合と比して、すべり速度uの最も高い領域から油膜のせん断抵抗を低減している。勿論、図1に示す大径側凹所38の形成によっても同様の低減効果を奏している。
【0034】
小径側凹所36、大径側凹所38は、径方向に深くする程、せん断抵抗を低減することができる。玉40の軸方向両側でせん断抵抗を低減することにより、小径側凹所36、大径側凹所38の径方向深さ、軸方向深さを浅くし、樹脂製の小環状部31、大環状部32の強度確保を容易にしている。
【0035】
小環状部31の内径面31aは、内輪10の肩部12の外径よりも小径である。大環状部32の外径面32aは、外輪20の肩部21の内径よりも大径である。内輪10の肩落とし部11上には、肩部12の外径よりも小径な環状スペースが存在する。外輪20の肩落とし部22上には、肩部21の内径よりも大径な環状スペースが存在する。それら環状スペースを利用して小径側凹所36、大径側凹所38の深さを径方向に取ることができる。小径側凹所36は、内輪10の肩部12の外径よりも小径のところに形成されている。このため、小環状部31の円周方向に亘る肉部は、内輪10の肩部12の外径から大径側に存在する環状スペースをも利用して、円周方向に亘って十分な径方向厚さに確保されている。大径側凹所38は、外輪20の肩部21の内径よりも大径のところに形成されている。このため、大環状部32の円周方向に亘る肉部は、外輪20の肩部21の内径から小径側に存在する環状スペースをも利用して、円周方向に亘って十分な径方向厚さに確保されている。
【0036】
小環状部31の内外径差は、大環状部32の内外径差よりも大きい。小環状部31の内外径差は、小環状部31の最大の径方向幅に相当し、図示例だと、外径面31bの大端部外径と、内径面31aの内径との差である。大環状部32の内外径差は、大環状部32の最大の径方向幅に相当し、図示例だと、外径面32aの外径と内径面32bの小端部内径との差である。大環状部32と比して、内外径が小さく強度を確保し難い小環状部31の径方向幅を比較的に大きくし、小径側凹所36の径方向深さが大径側凹所38よりも制限されることを防止している。
【0037】
同じく小環状部31の強度を得るため、小環状部31の内径面31aは、大環状部32の外径面32aよりも幅広で円周方向に亘っている。小環状部31の円周方向に亘る部分の幅を比較的に大きくし、小径側凹所36の径方向深さが大径側凹所38よりも制限されることを防止している。
【0038】
小径側凹所36、大径側凹所38の形成範囲は、ポケット33の軸方向両側に留まり、柱部34の強度を優先するため、小径側凹所36、大径側凹所38は、柱部34から外して形成されている。なお、小径側凹所36、大径側凹所38の径方向深さ及び軸方向深さは、同じになっているが、これに限定されない。大環状部32の外径面32aが小環状部31の内径面31aよりもPCDに近いため、大径側凹所38を径方向に比較的に浅くすることも可能である。
【0039】
樹脂保持器は射出成型によって形成されている。軸方向に二分割の金型で樹脂保持器30を射出成型するため、小環状部31の外径は、大環状部32の内径よりも小径になっている。小径側玉受け面35、小径側凹所36及び小環状部31全体は、軸方向に大環状部32側へ向ってアンダーカットになる部分をもたない。大径側玉受け面37、大径側凹所38及び大環状部32全体は、軸方向に小環状部31側へ向ってアンダーカットになる部分をもたない。
【0040】
小径側凹所36及び大径側凹所38は、削り加工によって形成することもできる。
【0041】
樹脂保持器30は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂で形成することができる。樹脂保持器30は、その他のスーパーエンジニリアリングプラスチックで形成することも可能である。PPSは、スーパーエンジニリアリングプラスチックの中でも機械的強度が特に優れるので、小径側凹所36、大径側凹所38を形成しつつ、小環状部31、大環状部32の強度を確保するのに好適である。
【0042】
このアンギュラ玉軸受は、上述のように、小径側凹所36、大径側凹所38を形成したので、玉自転周速の最も速いところから、せん断抵抗を最も効果的に下げることができる。また、小径側凹所36、大径側凹所38により、ポケット33への間口を広げ、潤滑剤がポケット33内を通過する際の抵抗を低下させることができる。また、小径側凹所36、大径側凹所38の形成で小径側玉受け面35、大径側玉受け面37の面積を減らすことにより、玉40とポケット33内側との間に形成される油膜量を少なくし、玉40が樹脂保持器30に対して運動する際にせん断する油膜量も少なくすることができる。これらの低減によって、軸受トルクを低減することができる。小環状部31、大環状部32に小径側凹所36、大径側凹所38を形成することで同じ軸受トルクの低減効果を片側の凹所形成のみで得るよりも径方向深さを浅くすることができる。さらに小径側玉受け面35、大径側玉受け面37を、PCDよりも内輪10側、外輪20側で小径側凹所36、大径側凹所38と繋ぎ、かつ小環状部31の外径面31b、大環状部32の内径面32bまで連ねることにより、PCD近傍を含む比較的にすべり速度の遅くなるところで小環状部31、大環状部32の軸方向肉厚を確保し、軽微な小環状部31、大環状部32の形状変更で済ますことができる。
【0043】
図3は、上述した実施形態に係るアンギュラ玉軸受を回転軸の支持に用いたトランスミッションの全体構成を模式的に示している。このトランスミッション100は、実施形態に係るアンギュラ玉軸受110を使用した自動車用のものであり、クラッチを介してエンジン200の動力が伝達される第1回転軸120と、この動力を車輪に伝達する第2回転軸130とを有している。回転軸120、130には、複数の変速ギヤ121〜125、131〜135が取り付けられ、それぞれ両端部をアンギュラ玉軸受110で支持された変速軸になっている。アンギュラ玉軸受110の低トルク化により、両回転軸120、130の回転の低トルク化を図り、燃費を向上させることができる。
【0044】
この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0045】
10 内輪
11、22 肩落とし部
12、21 肩部
13、23 軌道溝
20 外輪
30 樹脂保持器
31 小環状部
31a、32b 内径面
31b、32a 外径面
32 大環状部
33 ポケット
34 柱部
35 小径側玉受け面
36 小径側凹所
37 大径側玉受け面
38 大径側凹所
40 玉
100 トランスミッション
110 アンギュラ玉軸受
120 130 回転軸
PCD 玉セットのピッチ径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肩落とし内輪(10)と、肩落とし外輪(20)と、樹脂保持器(30)とを備え、
前記樹脂保持器(30)は、前記内輪(10)の肩落とし部(11)と前記外輪(20)の肩部(21)との間に収まる小環状部(31)、及び前記外輪(20)の肩落とし部(22)と前記内輪(10)の肩部(12)との間に収まる大環状部(32)を有し、
前記小環状部(31)の外径面(31b)は、当該小環状部(31)の内径面(31a)よりも玉セットのピッチ径(PCD)に近く、前記大環状部(32)の内径面(32b)は、当該大環状部(32)の外径面(32a)よりも前記ピッチ径(PCD)に近いアンギュラ玉軸受において、
前記小環状部(31)は、ポケット(33)に入った玉(40)の位置を定める小径側玉受け面(35)と、当該玉受け面(35)からポケット(33)外側へ更に凹んだ小径側凹所(36)とを有し、前記大環状部(32)は、前記玉(40)の位置を定める大径側玉受け面(37)と、当該玉受け面(37)からポケット(33)外側へ更に凹んだ大径側凹所(38)とを有しており、
前記小径側凹所(36)は、前記小環状部(31)の内径面(31a)から外輪(20)側へ連なり、前記小径側玉受け面(35)は、前記ピッチ径(PCD)よりも内輪(10)側で前記小径側凹所(36)と繋がり、かつ前記小環状部(31)の外径面(31b)まで連なり、
前記大径側凹所(38)は、前記大環状部(32)の外径面(32a)から内輪(10)側へ連なり、前記大径側玉受け面(37)は、前記ピッチ径(PCD)よりも外輪(20)側で前記大径側凹所(38)と繋がり、かつ前記大環状部(32)の内径面(32b)まで連なっていることを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記小環状部(31)の内径面(31a)は前記内輪(10)の肩部(12)外径よりも小径であり、前記大環状部(32)の外径面(32a)は前記外輪(20)の肩部(21)内径よりも大径であり、前記小径側凹所(36)は前記内輪(10)の肩部(12)外径よりも小径のところに形成され、前記大径側凹所(38)は前記外輪(20)の肩部(21)内径よりも大径のところに形成されている請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記小環状部(31)の内外径差は前記大環状部(32)の内外径差よりも大きい請求項1又は2に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記小環状部(31)の内径面(31a)は前記大環状部(32)の外径面(32a)よりも幅広で円周方向に亘っている請求項1から3のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記小径側玉受け面(35)及び前記大径側玉受け面(37)は、それぞれ球面状に形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記樹脂保持器(30)は射出成型によって形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項7】
前記小径側凹所(36)及び前記大径側凹所(38)は、それぞれ削り加工によって形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項8】
前記樹脂保持器(30)は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂で形成されている請求項1から7のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受(110)を回転軸(120、130)の支持に用いたトランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−72499(P2013−72499A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212354(P2011−212354)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】