説明

アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの製造方法

【課題】米糠、とりわけ低変性脱脂米糠から得られるたんぱく質を利用してACE阻害剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】低変性脱脂米糠から抽出して得られるたんぱく質を第1のたんぱく質分解酵素で処理し、次いで第2のたんぱく質分解酵素で処理する方法からなる。低変性脱脂米糠は、米糠をアセトン、ヘキサンおよびエタノールから選択される少なくとも1種類の抽出溶剤で抽出した抽出残渣から溶剤を除去することにより得られる。たんぱく質は、この変性脱脂米糠からアルカリ水または酸性水を用いて抽出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低変性脱脂米糠から抽出して得られるたんぱく質をたんぱく質分解酵素で処理することを特徴とするACE阻害剤の製造方法、それにより得られるACE阻害剤の用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病の1つである高血圧症が多くの疾患要因として問題視され、高年齢層だけでなく低年齢化が進んできていることから、社会問題となっている。高血圧症は、体内の血圧調整に関与するレニン−アンジオテンシン系のホルモンが原因と考えられている。レニン−アンジオテンシン系では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)が血中に存在するアンジオテンシンIに作用し、C末端からジペプチド(His−Leu)を遊離させ、活性型のアンジオテンシンIIに変換させる。かかる変換されたアンジオテンシンIIは強い血管収縮作用を有し、血圧上昇を示すことから、ACE活性を阻害することにより、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を抑制し、血圧上昇を抑え、血圧を下降させうることが示されてきた(特許文献1)。
【0003】
一方、食品成分に関する分野の研究により、米糠がコレステロール・脂肪蓄積を抑制することや米糠から得られたペプチドが血清コレステロールを低下させるなどその有用な効果が報告されてきた(非特許文献1)。米糠には、玄米から精白米を作る際に取り除かれる果皮、種皮、糊粉層および胚芽部分が含まれる。一方、米糠の一部については、米油の生産に利用されているが、残りの米糠や米油の搾取後の残渣は、飼料や肥料などに用いられるか、または廃棄されてきた。最近、米糠を原材料として、たんぱく質の変性が非常に少ない脱脂米糠を製造する方法が開発された(特許文献2)。しかしながら、かかる脱脂米糠から得られるたんぱく質を利用してACE活性を阻害する方法についてはいまだ知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−247955号公報
【特許文献2】特開2007−29090号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】『産学官連携による食品産業等活性化のための新技術開発事業 成果概要報告集』築野食品工業(株)18年度「米糠に完全可溶化を目指した機能性食品素材の製造技術の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の解決課題は、米糠、とりわけ低変性脱脂米糠から得られるたんぱく質を利用してACE阻害剤を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、驚くべきことに、低変性脱脂米糠から得られるグロブリン含量の高い米糠たんぱく質をたんぱく質分解酵素で処理すると、前記処理物が極めて高いACE阻害活性を有すること、および前記処理物の有効成分が高度に濃縮された形態で得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)低変性脱脂米糠から抽出して得られるたんぱく質を第1のたんぱく質分解酵素で処理し、次いで第2のたんぱく質分解酵素で処理することを特徴とする、ACE阻害剤の製造方法;
(2)前記低変性脱脂米糠が、100℃未満の温度にて米糠をアセトン、ヘキサンおよびエタノールから選択される少なくとも1種類の抽出溶剤で抽出し、減圧下にて温度20〜80℃で抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去することを特徴とする方法により得られるものである、(1)記載の方法;
(3)たんぱく質の抽出がアルカリまたは酸を用いて行われる、(1)または(2)記載の方法;
(4)アルカリが苛性ソーダまたは苛性カリである、(3)記載の方法;
(5)前記たんぱく質が、グロブリン主体のものである、(1)〜(4)のいずれか1つ記載の方法;
(6)前記たんぱく質の総グロブリン含量が80%またはそれ以上である、(1)〜(5)のいずれか1つ記載の方法;
(7)前記たんぱく質が、Tsuno-RBPTM55 Lot No.061006(築野食品工業(株)製)である、(1)〜(6)のいずれか1つ記載の方法;
(8)第1のたんぱく質分解酵素が、スミチームAP、プロテアーゼA「アマノG」およびプロテアーゼYP−SSからなる群から選択されるものであり、第2のたんぱく質分解酵素が、ペプチダーゼR、アロアーゼAP−10、アミノペプチダーゼ高生産麹菌抽出液およびメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液からなる群から選択されるものである、(1)〜(7)のいずれか1つ記載の方法;
(9)第1のたんぱく質分解酵素が、スミチームAPであり、第2のたんぱく質分解酵素が、メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液またはペプチダーゼRである、(1)〜(8)のいずれか1つ記載の方法;
(10)分子量3,000Da以下の画分にACE阻害活性の90%またはそれ以上が存在する、(1)〜(9)のいずれか1つ記載の方法;
(11)(1)〜(10)のいずれか1つ記載の方法により得られるACE阻害剤;
(12)(11)記載のACE阻害剤を含む飲食物;
(13)(11)記載のACE阻害剤を含むサプリメント;
(14)(11)記載のACE阻害剤を含む、高血圧の治療および/または予防のための医薬品;ならびに
(15)(11)記載のACE阻害剤を含む飼料
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の方法で調製された米糠ペプチドよりIC50値が4倍高いACE阻害剤を提供することができる。また、本発明は、これまで廃棄されていた米糠を原材料とすることから経済的であり、さらに、副作用の問題もなく血圧上昇を抑制できるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、米糠たんぱく質および米たんぱく質におけるSDS−PAGE電気泳動の結果を示す。30μgと50μgの米たんぱく質と米糠たんぱく質をSDS−PAGE電気泳動にかけた。
【図2】図2は、米糠たんぱく質を各種プロテアーゼ系酵素剤で処理した処理物および米糠ペプチドにおけるACE阻害率(%)を示す。
【図3】図3は、米糠たんぱく質を各種プロテアーゼ系酵素剤で処理した処理物および米糠ペプチドにおけるSOD阻害率(%)を示す。
【図4】図4は、米糠たんぱく質を3種の各プロテアーゼ系酵素剤で処理し、次いで2種の各ペプチダーゼ系酵素剤または2種の各ペプチダーゼ高生産麹菌フスマ抽出液で処理した処理物ならびに米糠ペプチドにおけるACE阻害率(%)を示す。図中、「AP」はスミチームAP、「YP−SS」はプロテアーゼYP−SS、「アマノG」はプロテアーゼA「アマノG」、「アミノペプチダーゼ」はアミノペプチダーゼ高生産麹菌抽出液、「メタロエキソペプチダーゼ」はメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液をそれぞれ意味する(以下、同一の略記は同じことを意味するものとする)。
【図5】図5は、米糠たんぱく質を3種の各プロテアーゼ系酵素剤で処理し、次いで2種の各ペプチダーゼ系酵素剤または2種の各ペプチダーゼ高生産麹菌抽出液で処理した処理物ならびに米糠ペプチドにおけるSOD阻害率(%)を示す。
【図6】図6は、米糠たんぱく質をスミチームAPで処理し、次いでメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液で処理した処理物および米糠ペプチドにおけるIC50値をプロットしたグラフを示す。縦軸は、ACE阻害率(%)を表し、横軸は、希釈倍率(倍)を表す。図中、「メタロ」はメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液を意味する。
【図7】図7は、米糠たんぱく質を酵素(スミチームAPおよびペプチダーゼR)処理した処理物におけるACE阻害活性率(%)を示す。縦軸は、ACE阻害活性率(%)を表し、横軸は、希釈倍率(倍)を表す。図中、X印は、ACE活性を50%阻害する時の希釈倍率を表す。
【図8】図8は、米たんぱく質を酵素(スミチームAPおよびペプチダーゼR)処理した処理物におけるACE阻害活性率(%)を示す。縦軸は、ACE阻害活性率(%)を表し、横軸は、希釈倍率(倍)を表す。図中、X印は、ACE活性を50%阻害する時の希釈倍率を表す。
【図9】図9は、米糠ペプチドにおけるACE阻害活性率(%)を示す。縦軸は、ACE阻害活性率(%)を表し、横軸は、希釈倍率(倍)を表す。図中、X印は、ACE活性を50%阻害する時の希釈倍率を表す。
【図10】図10は、濃縮した胡麻麦茶におけるACE阻害活性率(%)を示す。縦軸は、ACE阻害活性率(%)を表し、横軸は、濃縮倍率(倍)を表す。図中、X印は、ACE活性を50%阻害する時の濃縮倍率を表す。
【図11】図11は、濃縮したアミールSにおけるACE阻害活性率(%)を示す。縦軸は、ACE阻害活性率(%)を表し、横軸は、濃縮倍率(倍)を表す。図中、X印は、ACE活性を50%阻害する時の濃縮倍率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の態様において、低変性脱脂米糠から抽出して得られるたんぱく質を第1のたんぱく質分解酵素で処理し、次いで第2のたんぱく質分解酵素で処理することを特徴とする、ACE阻害剤の製造方法を提供する。本発明の方法に使用する低変性脱脂米糠は、以下の工程を100℃未満の温度にて行うことにより得ることができる:(a)米糠から油脂成分を有機溶剤にて抽出する工程;および(b)抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去する工程。好ましくは、抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去する工程を減圧下、100℃未満で行う。かかる工程により、熱変性が抑制された、あるいは熱変性が認められない、低変性脱脂米糠を得ることができる。このような低変性脱脂米糠の製造方法の好ましい一例としては、特開2007−29090に開示された方法が挙げられる。
【0012】
上記工程(a)において、米糠としては、玄米を精米する過程で得られる、例えば玄米表皮や胚芽などを含む米糠が挙げられる。米糠は米糠の原料となる米の種類に特に限定はない。米の種類としては、例えば、ジャポニカ種、インディカ種、ジャワニカ種、もち米、うるち米、赤米または紫黒米などが挙げられるが、これらに限定されない。米糠は、抽出溶剤で抽出される前に、例えばエクストルーダーなどの押し出し機などを用いて押し出されることが好ましい。該押し出し機などを用いることにより、米糠に含まれる例えば玄米表皮や胚芽などの組織や細胞などが破壊され得るので、例えば米糠に含まれる油脂などの抽出溶剤で抽出され得る物質の抽出効率を高めることができる。
【0013】
上記工程(a)において使用する抽出溶剤は、米糠中の油脂成分を抽出でき、米糠たんぱく質の変性が少ない、あるいはないものであればいずれの溶剤であってもよく、通常は、アセトン、へキサン、酢酸エチル、およびメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類から選択される1種類以上のもの(これらの混合物も含む)、好ましくは、アセトン、ヘキサン、およびエタノールから選択される少なくとも1種類の抽出溶剤(これらの混合物も含む)が用いられる。なかでもよく用いられるのはヘキサンである。米糠からの油脂成分の抽出には公知の手段・方法を用いることができる。例えば撹拌抽出や、連続向流抽出などが挙げられる。攪拌は、公知の方法で実施でき、例えば攪拌機などにより行うことができる。連続向流抽出は、例えばロートセルタイプ(回転円形セル式)の連続向流抽出機または単段もしくは多段向流抽出装置などにより行うことができる。抽出は、加温しながら行ってもよい。抽出溶剤の量は、米糠約1kgに対し、抽出溶剤約1〜20L程度、好ましくは約1〜10L程度、さらに好ましくは約1.5〜5L程度が一般的である。抽出は、常温で行ってもよく、加温しながら行ってもよい。抽出温度としては100℃未満であることが重要で、使用溶剤の沸点を超えてはならない。抽出温度としては、例えば約15〜約60℃、約20℃〜約40℃、約20℃〜約80℃などが挙げられる。
【0014】
上記工程(b)の抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去する工程は、抽出残渣と抽出溶剤とを分離することを包含する。かかる分離は公知の手段・方法にて行うことができ、例えば、ろ紙、布もしくはろ過スクリーンなどによるろ過または遠心分離などにより実施できる。また、上記連続向流抽出機などで米糠の抽出を行った場合、抽出が終わった米糠は、脱液された後、自動的かつ連続的に排出され得るので、該排出された米糠をそのまま抽出残渣とすることができる。
【0015】
上記の、抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去する工程は、100℃未満の温度にて行うために、減圧下にて行うことが好ましい。処理温度および減圧の程度は、使用する溶剤の種類や量、抽出残渣の特性などにより、適宜決定されうるが、約90kPa以下、好ましくは約70kPa以下、より好ましくは約0.1〜70kPa、さらに好ましくは約20〜70kPaの減圧下、温度約100℃未満、好ましくは約20〜100℃、さらに好ましくは約20〜80℃、とりわけ好ましくは約40〜80℃の条件下に置くことによって抽出溶剤が除去され得る。抽出溶剤の除去は、公知の手段・方法にて行うことができる。例えば、連続式あるいは回分式いずれにおいても行うことができ、これらに使用する装置も公知である。回分式は、抽出溶剤除去1回分の抽出残渣を上記条件下で抽出溶剤除去処理を行い、抽出溶剤除去終了後その全てを排出し、改めて次の1回分の抽出残渣から抽出溶剤を除去させる方式のことで、例えばロータリーエバポレータまたは真空攪拌乾燥機などにより実施できる。連続式は、例えば連続式伝導撹拌乾燥機などの装置を用いることにより実施し得る。また、抽出方法としては、抽出溶剤の除去中に抽出残渣が静止している静置式と抽出残渣が循環または攪拌されている循環式が挙げられるが循環式が好ましい。加熱方法は特に制限されないが、間接加熱が好ましい。具体的には、例えば連続式伝導伝熱乾燥機で抽出溶剤除去を行う場合、多管式加熱管内に熱媒体(例えば、スチームまたは温水など)を流し、これを回転させて、加熱管束と抽出残渣を接触させて加熱する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0016】
次いで、上記のようにして得られた低変性脱脂米糠から米糠たんぱく質を抽出する。かかる抽出工程は、一般的な手法を用いて行うことができる。当業者は、目的のたんぱく質を多く含んだ形で抽出するための条件、例えば、使用する溶媒、抽出時のpH、温度、抽出時間を適宜決定することができる。本発明の方法では、グロブリンが多く含まれた米糠たんぱく質を抽出することが所望される。上記の低変性脱脂米糠中のグロブリンは、水では十分に抽出されず、アルカリまたは酸の水溶液を用いることによって十分に抽出される。本発明のこのようなアルカリ抽出に用いることができるアルカリとしては、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、苛性カリ(水酸化カリウム)など、酸抽出に用いることができる酸としては、希塩酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、フィチン酸などが例示されるが、これらに限定されない。アルカリ抽出に用いられる好ましいアルカリとしては、苛性ソーダ(pH7〜10)が挙げられる。アルカリまたは酸抽出する際のpH、温度、時間などの条件は、十分量のグロブリンを含む米糠たんぱく質が抽出され、その変性が少ないか、あるいはない条件が好ましい。かかる条件は当業者が容易に決定することができる。
【0017】
本発明に用いられるたんぱく質は、一般的な米たんぱく質のグロブリン含量よりも多くのグロブリンを含むことが好ましい。すなわち、全たんぱく質含量中に約27%(「米の美味しさの科学」農林水産技術情報協会、平成8年3月)以上のグロブリンを含むものが好ましく、さらに多くのグロブリンを含むものが好ましい。本発明で用いることができるたんぱく質は、全たんぱく質含量中に、好ましくは、約30%またはそれ以上、約40%またはそれ以上、約50%またはそれ以上、約60%またはそれ以上のグロブリンを含むものであり、より好ましくは約70%またはそれ以上のグロブリンを含むものである。本発明で用いることができるたんぱく質として、最も好ましくは、全たんぱく質含量中に80%またはそれ以上のグロブリンを含むものである。本発明の技術的特徴の1つは、より多くのグロブリンを含むたんぱく質を用いることで、より高いACE阻害活性を得ることができることである。本発明に用いられる好ましい低変性脱脂米糠由来の高グロブリン含量のたんぱく質の一例は、特開2007−29090に記載される方法により製造され、市販されているTsuno-RBPTM55 Lot No.061006(築野食品工業(株)製)である。
【0018】
上述のごとく、本発明の方法は、上記方法で得られるたんぱく質を第1のたんぱく質分解酵素で処理し、次いで第2のたんぱく質分解酵素で処理することを特徴とする。第1のたんぱく質分解酵素としては、たんぱく質を大きく分解する活性を有するプロテアーゼまたはそれを主体とするものが好ましい。第2のたんぱく質分解酵素としては、第1のたんぱく質分解酵素により遊離したポリペプチドをさらに低分子に分解する活性を有するペプチダーゼまたはそれを主体とするものが好ましい。このように2段階にして反応させると、効率良くたんぱく質の分解が行われ、目的のACE阻害剤を短時間で収率良く得ることができる。本明細書におけるたんぱく質分解酵素とは、たんぱく質またはポリペプチドにおけるペプチド結合を加水分解する活性を有する酵素を意味する。したがって、本発明の製造方法で用いられるたんぱく質分解酵素は、ペプチド結合加水分解活性を有する酵素剤であれば、いかなる種類のものであってもよい。かかる活性を有する酵素として、一般的に市販されている酵素剤であってもよい。また、本発明で用いられるたんぱく質分解酵素を生物から抽出してもよく、たんぱく質分解酵素源としての生物は公知である。これらの生物の中から、たんぱく質を大きく分解する活性を有するプロテアーゼまたはそれを主体とするもの、および/またはポリペプチドをさらに低分子に分解する活性を有するペプチダーゼまたはそれを主体とするものをスクリーニングして用いることができる。かかるスクリーニング方法は当業者に公知である。たんぱく質分解活性の高い生物としては、木材腐朽菌や麹菌などが挙げられ、特に麹菌が好ましい。かかる生物を液体培地、あるいはフスマなどの固体培地にて培養し、培養液あるいは抽出液を本発明のたんぱく質分解酵素源として用いることができる。
【0019】
本発明において、第1のたんぱく質分解酵素として用いることができる酵素剤は、上記生物から公知の手段・方法によって得てもよい。また、第1のたんぱく質分解酵素として市販酵素剤を用いてもよく、例えば、オリエンターゼ20A(エイチビィアイ(株))、オリエンターゼ90N(エイチビィアイ(株))、ニューラーゼF3G(天野エンザイム(株))、スミチームAP(新日本化学(株))、スミチームFP(新日本化学(株))、プロテアーゼA「アマノG」(天野エンザイム(株))、プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業(株))などが挙げられ、好ましくは、スミチームAP、プロテアーゼA「アマノG」またはプロテアーゼYP−SSであり、最も好ましくは、スミチームAPである。本明細書において、「第1のたんぱく質分解酵素」は、「プロテアーゼ」または「プロテアーゼ系酵素剤」とも記載される。
【0020】
本発明において、第2のたんぱく質分解酵素として用いることができる酵素剤は、上記生物から公知の手段・方法によって得てもよい。また、第2のたんぱく質分解酵素として市販酵素剤を用いてもよく、ペプチダーゼR(天野エンザイム(株))またはアロアーゼAP−10(ヤクルト薬品工業(株))が挙げられる。また、本発明における第2のたんぱく質分解酵素として、アミノペプチダーゼまたはメタロエキソペプチダーゼとしての活性を有する酵素を使用することができる。かかる酵素として、市販されている酵素剤、例えば、ペプチダーゼRなどを用いてもよいが、これらだけに限定されない。また、アミノペプチダーゼまたはメタロエキソペプチダーゼとしての活性を有する酵素として、前記ペプチダーゼの生産効率が高い麹菌を調製した抽出液(本明細書では、ペプチダーゼ高生産麹菌ともいう)を用いることができる。例えば、アミノペプチダーゼ高生産麹菌またはメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌を調製した抽出液を用いてもよい。なお、該麹菌は、金沢工業大学バイオ・化学部応用バイオ学科尾関研究室にて、AOAP−8(アミノペプチダーゼ高生産麹菌)およびAOMP−13(メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌)として維持・管理されており、分譲可能な状態となっている。本発明に用いられる第2のたんぱく質分解酵素として好ましいのは、メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液またはペプチダーゼRである。本明細書において、「第2のたんぱく質分解酵素」は、「ペプチダーゼ」または「ペプチダーゼ系酵素剤」とも記載される。
【0021】
本発明の製造方法に用いられる第1のたんぱく質分解酵素と第2のたんぱく質分解酵素の組み合わせは、上述の酵素から任意に選択された酵素剤または麹菌などの生物の培養液や抽出液を用いてもよい。好ましくは、第1のたんぱく質分解酵素として、例えば、スミチームAP、プロテアーゼA「アマノG」およびプロテアーゼYP−SSからなる群から選択されるものを用い、第2のたんぱく質分解酵素として、例えば、ペプチダーゼR、アロアーゼAP−10、アミノペプチダーゼ高生産麹菌抽出液およびメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液からなる群から選択されるものを用いる。さらに好ましくは、第1のたんぱく質分解酵素として、例えばスミチームAPを用い、第2のたんぱく質分解酵素として、例えばメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌のフスマ抽出液またはペプチダーゼRを用いる。
【0022】
本発明の方法において酵素を用いる場合、上記たんぱく質とたんぱく質分解酵素の配合割合は当業者が容易に決定することができる。本発明の方法において生物をたんぱく質分解酵素源として用いる場合、かかる生物の抽出液を上記たんぱく質に作用させてもよく、あるいはかかる生物を上記たんぱく質を含む培地にて直接増殖させてもよい。かかる生物の抽出液を本発明の方法に用いる場合も、上記たんぱく質と抽出液の配合比率は当業者が容易に決定することができる。これらの酵素あるいは生物または抽出液と上記たんぱく質の割合、たんぱく質分解酵素での処理条件、例えば、至適pH、至適温度、処理時間などは、用いられるたんぱく質の成分、量、酵素や生物の種類などの因子に応じて当業者が適宜決定することができる。また、本発明の方法において、各たんぱく質分解酵素による処理後にたんぱく質分解酵素を失活させる工程を含んでもよい。当該たんぱく質分解活性の消失により、次に処理するたんぱく質分解酵素の競合、たんぱく質分解酵素自体の消化による活性の低下、ならびにACE阻害活性を有するペプチドの消化を防ぐことができる。酵素の失活は、次工程に用いる酵素の活性を妨げず、かつACE阻害活性を有するペプチドを失活・減少させないものであれば、一般的な処理、例えば、高温処理、酸アルカリ処理などであってもよいが、これらだけに限定されず、当業者は前記の処理条件などを適宜決定することができる。
【0023】
本発明のACE阻害剤は、上述の工程により得られたACE阻害剤を分子量分画したものであってもよい。分子量分画することにより高いACE阻害活性を得ることが可能となる。分子量分画は公知の方法により行うことができ、例えば、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、透析、限外濾過などにより行ってもよい。本発明のACE阻害剤は、例えば、3,000Da以下、5,000Da以下または10,000Da以下の分子量画分などに分離されてもよい。本発明の好ましい態様において、ACE阻害活性は、分子量3,000Da以下の画分にACE阻害活性の90%またはそれ以上が存在するので、分子量3,000Da以下の画分を本発明のACE阻害剤としてもよい。
【0024】
本発明の方法において、上述のたんぱく質分解酵素処理後または分画工程後、任意選択的に、精製の工程を含んでもよい。精製は、塩析、限外濾過、透析、各種クロマトグラフィー等を用いて行うことができる。これらは、一般に広く用いられている方法である。特に、サンプルの処理量と精製効率の点から、イオン交換クロマトグラフィーや逆相クロマトグラフィーが有効である。かかる精製工程を行うことで、よりACE阻害活性の高いACE阻害剤を得ることができる。本発明の方法により、有効成分が極めて高度に濃縮された形態でACE阻害剤を得ることができる。このため、有効成分を濃縮または精製する工程を要さず、各用途に直接使用することができる。
【0025】
本発明のACE阻害剤は、上記製造方法により得ることができるたんぱく質分解酵素による分解物そのものであってもよく、精製したものであってもよい。本発明のACE阻害剤は、液体、半固体、固体いずれの形状であってもよい。本発明のACE阻害剤を、液剤、懸濁、粉末、錠剤、顆粒、カプセルなどの剤形に処方してもよい。これらの剤形は、溶解、撹拌、混合、粉砕、打錠、凍結乾燥などの公知の手法を用いて製造することができる。本発明のACE阻害剤は、それ自体サプリメントとして使用されてもよく、あるいは食品と混合して、例えば、機能性食品、特定保健用食品、飲料を含む健康食品などの飲食物の形態として使用されてもよい。また、本発明のACE阻害剤は、医薬品または飼料として用いられてもよい。本発明により得られるACE阻害剤は、天然物由来であるので、通常の使用範囲においては毒性や副作用の問題もない。
【0026】
本発明のACE阻害剤をサプリメントや飲食物として用いる場合、通常、食品衛生上許容される種々の添加剤を配合し、各形態に製剤化してもよい。かかる添加剤として、栄養強化剤、賦形剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、保存剤、調味料、または酸化防止剤を含むことができる。また、本発明のACE阻害剤は、種々の食品に配合することができる。かかる食品としては、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子のごとき菓子類;パン、麺類、ご飯、豆腐のごとき穀類やその加工品;発酵食品;発泡酒、焼酎、清酒、薬用酒のごときアルコール飲料、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングのごとき調味料、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズのごとき畜農食品、スープ、味噌汁などの汁物類、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー、ミルク、ココアのごとき飲料などを列挙できるが、これらだけに限定されない。
【0027】
本発明のACE阻害剤を、高血圧の治療および/または予防のための医薬品として用いる場合、上記ACE阻害剤を単独で、または公知のACE阻害剤と組み合わせて使用することができる。また、本発明のACE阻害剤は、前記有効成分以外に、担体や賦形剤などの成分を含有してもよい。本発明のACE阻害剤は、いかなる投与経路にても投与することができる。本発明のACE阻害剤を経口投与してもよい。非経口投与には高度に精製された形態が好ましく、注射(例えば、筋肉注射、皮内、腫瘍内、静脈内、または皮下、または直接注射)、輸液、経皮投与などを用いることができ、局所投与であっても全身投与であってもよい。本発明のACE阻害剤を医薬品とする際に使用することができる担体や賦形剤は、投与形態および剤形に応じて当業者が適宜選択することができる。経口投与用処方には、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等を担体または賦形剤として用いてもよく、必要に応じて結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を配合することもできる。非経口投与用処方には、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を担体または賦形剤として用いてもよく、必要に応じて殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等を添加して調製してもよい。本発明のACE阻害剤を医薬として用いる場合の剤形は、液剤、懸濁、粉末、錠剤、顆粒、カプセルなどの剤形であってもよく、これらの剤形は、溶解、撹拌、混合、粉砕、打錠、凍結乾燥などの公知の手法を用いて製造することができる。
【0028】
本発明のACE阻害剤を飼料として用いる場合、上記ACE阻害剤をそのまま使用してもよく、または、とうもろこし、小麦、フスマ、魚粉、脱脂粉乳、大豆かすなどの一般的に用いられる飼料原料と配合してもよい。
【0029】
本発明のACE阻害剤の投与量は、含有される飲料や食品、その製剤形態、投与方法、使用目的、ならびに動物種、患者の年齢、体重、症状によって適宜決定することができる。本発明のACE阻害剤は、上記方法により、ACE阻害活性が高く、有効成分が高度に濃縮された形態で産生され得る。有効な摂取量は種々の条件によって変動するが、例えば、本発明のACE阻害剤の1日の摂取量は、含有される製品(飲料、食品および製剤など)の全重量に対して0.001〜10質量%であってもよく、0.01〜10質量%であってもよく、好ましくは、0.01〜1質量%である。
【0030】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0031】
材料
本発明において、米糠たんぱく質として市販されているTsuno-RBPTM55 Lot No.061006(築野食品工業(株)製)を用いた。この米糠たんぱく質は、特開2007−29090に記載される方法を用いて製造され、苛性ソーダを用いて抽出されたものである。コントロールとして米たんぱく質(90%精白米より定法の苛性ソーダ抽出で抽出したもの(築野食品工業(株)製))を用いた。米糠たんぱく質と米たんぱく質をSDS−PAGE電気泳動を用いて分析すると、バンドのパターンが大きく相違することから、含有されるたんぱく質の種類が極めて異なることがわかった。さらに、プロテオーム解析からグロブリンを同定し、他のたんぱく質を合算して割合を算出すると、この米糠たんぱく質中の総グロブリン含量は82%であり、米糠たんぱく質には、非常に多くのグロブリンが含まれることが示された(図1)。次に、米糠たんぱく質を処理するため、以下に列挙する市販のプロテアーゼ系酵素剤10種、ペプチダーゼ系酵素剤2種、およびペプチダーゼ高生産麹菌フスマ抽出液2種を用いた。コントロールとしての米糠ペプチドには、米糠ペプチド試作品(Lot No.061020U(築野食品工業(株)製))を用いた。
(プロテアーゼ系酵素剤)
・オリエンターゼ20A(エイチビィアイ(株))
・オリエンターゼ90N(エイチビィアイ(株))
・ニューラーゼF3G(天野エンザイム(株))
・スミチームAP(新日本化学(株))
・スミチームFP(新日本化学(株))
・スミチームFP−G(新日本化学(株))
・プロテアーゼA「アマノG」(天野エンザイム(株))
・プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業(株))
・パンチダーゼNP−2(ヤクルト薬品工業(株))
・PROTEX7L(Genencor)
(ペプチダーゼ系酵素剤)
・ペプチダーゼR(天野エンザイム(株))
・アロアーゼAP−10(ヤクルト薬品工業(株))
(ペプチダーゼ高生産麹菌)
・アミノペプチダーゼ高生産麹菌
・メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌
【0032】
ペプチダーゼ高生産麹菌の調製
上記ペプチダーゼ高生産麹菌(アミノペプチダーゼおよびメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌)2種を各々、フスマ培地(200mLの三角フラスコにフスマ10gに対して6mLの蒸留水を加えオートクレーブ滅菌)に植菌し、30℃で3日間培養した(尾関ら、米ヌカ培地で高生産する麹菌遺伝子群の解析:第6回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集、p67(2006))。なお、該麹菌は、金沢工業大学バイオ・化学部応用バイオ学科尾関研究室にて、AOAP−8(アミノペプチダーゼ高生産麹菌)およびAOMP−13(メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌)として維持・管理されており、分譲可能な状態となっている。培養液にフスマ培地抽出液緩衝液(10mM酢酸緩衝液、pH5.0、0.5%NaCl)50mLを添加し、3時間放置した。その後、ナイロンメッシュフィルターを用いてろ過し、50mLファルコンチューブ中に保存した。
【0033】
各酵素剤およびペプチダーゼ高生産麹菌フスマ抽出液の最適条件を下記の表1に示す。これらのpHおよび温度に基づいて以下の実験を行った。
(表1、各酵素剤およびペプチダーゼ高生産麹菌フスマ抽出液の最適pHと温度)
【表1】

【0034】
1段階目の反応
米たんぱく質(1.25mg)に、各プロテアーゼ系酵素剤(1mg)を各々添加し、表1に記載される最適pHの緩衝液(pHが低い場合はクエン酸緩衝液、pHが高い場合はリン酸緩衝液)を5mlずつ加え、最適温度で振とうウォーターバスを用いて、一晩反応させた。反応液をろ紙でろ過を行い、ACE阻害活性およびSOD阻害率を測定した。ACE阻害活性の測定は、CheungとCuchmanの方法を用いて行った(Cheung, H.S. and Cuchman, D.W., Biochim.Biophys.Acta.,293,451-463(1973))。SOD阻害率の測定では、SOD活性検出キット(和光純薬工業(株))を用い、添付の説明書に従って行った。
【0035】
その結果、ACE阻害活性に関して、米糠ペプチドより高いACE阻害率を示した処理物に用いられたプロテアーゼ系酵素剤は、オリエンターゼ90N、プロテアーゼYP−SS、スミチームAP、スミチームFPおよびプロテアーゼA「アマノG」であった(図2)。SOD阻害率については、ほぼ全ての酵素剤を用いた場合に米糠ペプチドより高かった(図3)。以上の結果より、1段階目の反応で米糠たんぱく質を効率良く分解した酵素剤として、スミチームAP、プロテアーゼYP−SSおよびプロテアーゼA「アマノ」Gを選択した。
【0036】
2段階目の反応
次いで、プロテアーゼ系酵素剤で分解された米糠たんぱく質をさらに低分子に分解するため、ペプチダーゼ活性の高いペプチダーゼを選択した。簡単に説明すると、上記で選択した3種類のプロテアーゼ系酵素剤(スミチームAP、プロテアーゼYP−SSおよびプロテアーゼA「アマノ」G)を、1段階目の反応と同様に、各酵素剤ごとに最適pHに合わせて一晩反応させ、ペプチダーゼ系酵素剤(5mg)、フスマ抽出液(150μl)をそれぞれ添加し、反応させた。ペプチダーゼ系酵素として、ペプチダーゼR、アロアーゼAP−10、アミノペプチダーゼ高生産麹菌、メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌を用いた。これらの反応液をろ紙でろ過後、ACE阻害活性およびSOD活性を測定し、さらに、IC50値を測定した。IC50値を、ACE阻害活性率50%の時の希釈率から算出した試料濃度(mg/ml)とした。
【0037】
その結果、ACE阻害活性およびSOD阻害活性の両方について、全ての酵素剤の組み合わせで米糠ペプチドより高い値を示した(図4および5)。なかでも、ACE阻害率およびSOD阻害率が最も高かった「スミチームAP」と「メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌フスマ抽出液」の組み合わせを最も適切であると判断した。そこで、前記組み合わせについてIC50値を測定すると、米糠ペプチドと比較して4倍低いことが示された(図6)。
【0038】
分子量分画した各画分におけるACE阻害活性の測定
さらに、上述のごとく酵素処理した処理物におけるACE阻害活性の高い画分を調べるため、分子量分画を行い、各画分のACE阻害活性を測定した。簡単に説明すると、米糠たんぱく質(タンパク質含量65%)0.25gおよび米たんぱく質(タンパク質含量38%)0.5gを各々、スミチームAP 2.5mg/50mM クエン酸緩衝液(pH3.0)5ml中において45℃で24時間インキュベートした。次いで、ペプチダーゼR 2.5mg/ pH7.0 5mlおよび1N NaOH 0.1mlを添加し、さらに40℃で16時間インキュベートした。その後、96℃で10分間加熱して酵素を失活させた。この酵素処理物を0.45μmのフィルターでろ過し、マイクロコン(日本ミリポア(株))を用いて分子量3,000、10,000、30,000Daごとに分画し、各画分中のACE阻害活性を測定した。
【0039】
その結果を以下の表2に示した。表中、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物(未分画)のACE阻害活性を100%とすると、米たんぱく質を酵素処理した処理物(未分画)のACE阻害活性は10%であり、米糠ペプチド(Lot No.061020U(築野食品工業(株)))のACE阻害活性は25%であった(表2左欄)。これは、米たんぱく質がグルテリンを多く含むのに対して、米糠たんぱく質がグロブリンを主成分とすることによると考えられる(図1参照)。また、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物の分子量3,000Da以下の画分(表2中、「<3000」と表す)におけるACE阻害活性は、未分画の酵素処理物と比較して90%であり、一方で、3000Da以下の画分(表2中、「>3000」と表す)におけるACE阻害活性は、未分画の酵素処理物と比較して10%であった(表2)。このことから、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物は、分子量3000Da以下の画分に高いACE阻害活性が存在することが示された(表2)。
(表2.米糠たんぱく質を酵素処理した処理物の各分子量画分におけるACE阻害活性の測定)
【表2】

米糠たんぱく質を酵素処理した処理物(未分画)のACE阻害活性を100%とした。
【0040】
ACE阻害活性の測定
さらに詳細に、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物のACE阻害活性効果を調べた。米糠たんぱく質(Tsuno-RBPTM Lot No.061006(築野食品工業(株)))および米たんぱく質の酵素処理物、および米糠ペプチド(Lot No.061020U(築野食品工業(株)))についてACE阻害活性率(%)を測定し、IC50値を算出した。米糠たんぱく質または米たんぱく質の酵素処理においては、1段階目の反応にAPスミチームを用い、2段階目の反応にペプチダーゼRを用いた。また、IC50値を、ACE阻害活性率50%の時の試料の希釈率(%)を算出し、この時の反応液中の試料濃度(mg/ml)とした。IC50値を算出するために、以下の計算式を用いた。

<試料量(mg)>/<反応液量(ml)>×<希釈倍率または濃縮倍率>
=試料濃度(mg/ml)

上記測定において、試料量は、米糠たんぱく質を用いる場合に0.5gとし、米たんぱく質を用いる場合に1.0gとし、米糠ペプチドを用いる場合に0.5gとした。また、反応液量を5mlとした。
【0041】
その結果、米糠たんぱく質の酵素処理した処理物におけるACE阻害活性率は、表3に示すように、500倍希釈時に25.0%、200倍希釈時に63.4%、および100倍希釈時に64.4%であった(表3)。この結果より検量線を作成すると、ACE阻害活性が50%となる希釈率は334倍であり(図7)、この時の試料濃度は0.3mg/mlと算出された。
(表3.米糠たんぱく質の酵素処理物を各倍率で希釈した時のACE阻害活性率(%)の測定結果)
【表3】

【0042】
また、米たんぱく質を酵素処理した処理物におけるACE阻害活性率は、表4に示すように、100倍希釈時に29.5%、50倍希釈時に48、9%、および20倍希釈時に90.7%であった(表4)。この結果より検量線を作成すると、ACE阻害活性が50%となる希釈率は65倍であり(図8)、この時の試料濃度は3.0mg/mlと算出された。
(表4.米たんぱく質の酵素処理物を各倍率で希釈した時のACE阻害活性率(%)の測定結果)
【表4】

【0043】
米糠ペプチドにおけるACE阻害活性率は、表5に示すように、100倍希釈時に41.7%、50倍希釈時に54.4%、および10倍希釈時に84.3%であった(表5)。この結果より検量線を作成すると、ACE阻害活性が50%となる希釈率は75倍であり(図9)、この時の試料濃度は1.3mg/mlと算出された。
(表5.米糠ペプチドを各倍率で希釈した時のACE阻害活性率(%)の測定結果)
【表5】

【0044】
以上より、IC50値を示す時の試料濃度について、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物は0.3mg/ml、米たんぱく質の酵素処理物は3.0mg/ml、米糠ペプチドは1.3mg/mlと算出されたことから、本発明である米糠たんぱく質を酵素処理した処理物は、ACE阻害活性が米たんぱく質の酵素処理物より約10倍高く、米糠ペプチドより約4倍高いことがわかった。
【0045】
さらに、米糠たんぱく質を酵素処理した処理物の有効性を調べるために、比較対象として、市販されている胡麻麦茶(サントリー)およびアミールS(カルピス株式会社)のACE阻害活性率を測定した。上記と同様の方法を実施し、胡麻麦茶およびアミールSともに2、3、および5倍に濃縮したものを使用した。
その結果、胡麻麦茶のACE阻害活性率は、表6に示すように、2倍濃縮時に39.9%、3倍濃縮時に45.0%、5倍濃縮時に57.7%であった(表6)。この結果より検量性を作成すると、ACE阻害活性が50%となる濃縮率は、3.7倍であった(図10)。米糠たんぱく質の酵素処理物と比較すると、米糠たんぱく質の酵素処理物は、胡麻麦茶より451倍高い(334倍/(3.7倍/5ml))ACE阻害活性を有することが示された。
(表6.胡麻麦茶(サントリー)を各倍率で濃縮した時のACE阻害活性率(%)の測定結果)
【表6】


さらに、アミールSのACE阻害活性率は、表7に示すように、2倍濃縮時に26.7%、3倍濃縮時に39.0%、5倍濃縮時に56.9%であった(表7)。この結果より検量線を作成すると、ACE阻害活性が50%となる濃縮率は、4.3倍であった(図11)。米糠たんぱく質の酵素処理物と比較すると、米糠たんぱく質の酵素処理物は、アミールSより388倍高い(334倍/(4.3倍/5ml))ACE阻害活性を有することが示された。
(表7.アミールS(カルピス株式会社)を各倍率で濃縮した時のACE阻害活性率(%)の測定結果)
【表7】


以上より、本発明の方法により、ACE阻害活性の高い有効成分を極めて高い濃度で取得できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、ACE阻害剤およびその製造方法が提供されるので、血圧の上昇を抑制することに関連する分野、例えば、医療、食品などの分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低変性脱脂米糠から抽出して得られるたんぱく質を第1のたんぱく質分解酵素で処理し、次いで第2のたんぱく質分解酵素で処理することを特徴とする、ACE阻害剤の製造方法。
【請求項2】
前記低変性脱脂米糠が、100℃未満の温度にて米糠をアセトン、ヘキサンおよびエタノールから選択される少なくとも1種類の抽出溶剤で抽出し、減圧下にて温度20〜80℃で抽出残渣に含まれる抽出溶剤を除去することを特徴とする方法により得られるものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
たんぱく質の抽出がアルカリまたは酸を用いて行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
アルカリが苛性ソーダまたは苛性カリである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記たんぱく質が、グロブリン主体のものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記たんぱく質の総グロブリン含量が80%またはそれ以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記たんぱく質が、Tsuno-RBPTM55 Lot No.061006(築野食品工業(株)製)である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
第1のたんぱく質分解酵素が、スミチームAP、プロテアーゼA「アマノG」およびプロテアーゼYP−SSからなる群から選択されるものであり、第2のたんぱく質分解酵素が、ペプチダーゼR、アロアーゼAP−10、アミノペプチダーゼ高生産麹菌抽出液およびメタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液からなる群から選択されるものである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
第1のたんぱく質分解酵素が、スミチームAPであり、第2のたんぱく質分解酵素が、メタロエキソペプチダーゼ高生産麹菌抽出液またはペプチダーゼRである、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
分子量3,000Da以下の画分にACE阻害活性の90%またはそれ以上が存在する、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の方法により得られるACE阻害剤。
【請求項12】
請求項11記載のACE阻害剤を含む飲食物。
【請求項13】
請求項11記載のACE阻害剤を含むサプリメント。
【請求項14】
請求項11記載のACE阻害剤を含む、高血圧の治療および/または予防のための医薬品。
【請求項15】
請求項11記載のACE阻害剤を含む飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−36241(P2011−36241A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151187(P2010−151187)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年 2月24日 学校法人金沢工業大学発行の「平成21年度 工学設計III公開発表審査会 予稿集」に掲載 2.平成22年 2月24日 学校法人金沢工業大学主催の「平成21年度 工学設計III公開発表審査会」において発表 3.平成22年 3月 5日 社団法人日本農芸化学会発行の「大会講演要旨集(2010年度(平成22年度)大会[東京])」に掲載 4.平成22年 3月29日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2010年度大会」において発表
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(591066362)築野食品工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】