説明

アンチスキッド制御用モータの制御装置

【課題】ABS制御中においてリザーバがブレーキ液で満たされること、並びに空になることを回避するように、リザーバ内のブレーキ液を汲み上げる液圧ポンプを駆動するモータの回転速度(液圧ポンプの吐出流量)を制御すること。
【解決手段】ABS制御中において、モータの(平均)回転速度は目標回転速度NEtになるように制御される。値NEtの初期値NEini(ABS制御開始時点(時刻t1)での値)は、ABS制御開始時点での車体減速度に基づいて、ABS制御中においてリザーバ液量が「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するように決定される。値NEtの更新タイミング(時刻t2、t3、t4)が到来する毎にリザーバ液量推定値Qの変化傾向が判定され、増加傾向にある場合(時刻t2、t4)、値NEtがより大きい値に更新され、減少傾向にある場合(時刻t3)、値NEtがより小さい値に更新される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチスキッド制御における減圧制御中においてリザーバに排出されたブレーキ液を汲み上げてアンチスキッド制御装置の液圧回路に吐出するために使用される液圧ポンプ、を駆動するモータの回転速度を制御するアンチスキッド制御用モータの制御装置に関する。以下、アンチスキッド制御を「ABS制御」と称呼することもある。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のABS制御用モータの制御装置が広く知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。この文献に記載の装置では、液圧ポンプを駆動するモータの作動音が大きくならないように、モータの(平均)回転速度(従って、液圧ポンプの(平均)吐出流量)が以下のように制御される。なお、「吐出流量」は、単位時間当たりの吐出量である。
【特許文献1】特表2002−506406号公報
【0003】
即ち、モータへの電力供給がオフ状態の場合においてモータが発生する電圧(即ち、発電機としてのモータが誘導起電力により発生する電圧(発電電圧))と比較される電圧閾値と、上記電力供給がオン状態に維持される時間(オン時間)と、からモータの駆動パターンが決定される。上記発電電圧が上記電圧閾値以下となったときに上記電力供給がオフ状態からオン状態に切り換えられ、上記電力供給が上記オン時間だけオン状態に維持された後に上記電力供給がオン状態からオフ状態に切り換えられるように、上記電力供給が上記モータ駆動パターンでオン・オフ制御される。これにより、上記電圧閾値が大きいほど、且つ、上記オン時間が長いほど、ABS制御中においてモータの(平均)回転速度がより大きい値に制御される。
【発明の開示】
【0004】
ところで、ABS制御中においてモータの回転速度が小さいと、液圧ポンプの吐出流量(リザーバからの吸入流量)が小さくなってリザーバがブレーキ液で満たされる傾向がある。リザーバがブレーキ液で満たされると、ブレーキペダルのストロークが大きくなるABS制御の減圧制御においてホイールシリンダ圧が十分に低減され得なくなる等の問題が生じ得る。
【0005】
リザーバがブレーキ液で満たされることを回避するためには、例えば、図12に示すように、減圧制御(時刻t11〜t11’、t12〜t12’、t13〜t13’、t14〜t14’に対応)により増大するリザーバ内のブレーキ液量(リザーバ液量)が次の減圧制御開始時点(時刻t12,t13,t14に対応)より前の段階でゼロになるようにモータの回転速度を比較的大きい値に制御することが有効であると考えられる。
【0006】
しかしながら、この場合、リザーバ液量がゼロでない状態とゼロの状態とが交互に発生する。リザーバ液量がゼロの状態(即ち、ポンプの吸入流量がゼロの状態)では、リザーバ液量がゼロでない状態(即ち、ポンプの吸入流量がゼロでない状態)に比して、液圧ポンプの負荷が大幅に小さいため液圧ポンプ(従って、モータ)の回転速度が大幅に大きくなる。
【0007】
例えば、図12に示した例において、時刻t11以降、モータの駆動パターン(従って、モータの目標回転速度)を一定に維持した場合を想定すると、リザーバ液量がゼロ以外からゼロになるタイミング(例えば、時刻t110を参照)が到来する毎に、液圧ポンプの負荷が急激に減少してモータの実際の回転速度が大幅に大きくなる。一方、リザーバ液量がゼロからゼロ以外になるタイミング(例えば、時刻t12、t13、t14等を参照)が到来する毎に、液圧ポンプの負荷が急激に増大してモータの実際の回転速度が大幅に小さくなる。
【0008】
以上のように、リザーバ液量が次の減圧制御開始時点より前の段階でゼロになるようにモータの回転速度を比較的大きい値に制御する場合、モータの回転速度が変動する。この結果、モータの作動音も変動し、車両の乗員に不快感を与えるという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、ABS制御用モータの制御装置において、リザーバがブレーキ液で満たされること、並びに、リザーバ液量がゼロになることを回避するようにモータの回転速度(液圧ポンプの吐出流量)を制御できるアンチスキッド制御用モータの制御装置を提供することにある。
【0010】
本発明に係るABS制御用モータの制御装置は、車両の車輪にロック傾向がある場合に同車輪のホイールシリンダ圧を減少させる減圧制御を行うABS制御を実行するABS制御装置に適用され、前記減圧制御によりリザーバに排出されたブレーキ液を前記ABS制御装置の液圧回路内に吐出するポンプを駆動するモータの回転速度を制御する。
【0011】
本発明に係るABS制御用モータの制御装置の特徴は、前記ABS制御中における前記リザーバ内のブレーキ液量(リザーバ液量)の推定値を取得する取得手段と、前記リザーバ液量推定値に基づいて、前記リザーバ液量がゼロより大きく且つ前記リザーバが貯留し得るブレーキ液の最大量(最大リザーバ液量)よりも小さい範囲内で推移するように前記モータの目標回転速度に相当する値を決定する決定手段と、前記目標回転速度相当値に基づいて前記ABS制御中における前記モータの回転速度を制御する制御手段とを備える。ここにおいて、「目標回転速度相当値」とは、モータの目標回転速度そのもの、液圧ポンプの目標要求吐出流量等である。
【0012】
これによれば、ABS制御中において、リザーバがブレーキ液で満たされること(リザーバ液量が最大リザーバ液量になること)、並びに、リザーバ液量がゼロになることが回避され得る。従って、上述した「ブレーキペダルのストロークが大きくなる、ABS制御の減圧制御においてホイールシリンダ圧が十分に低減され得なくなる」等の問題の発生が抑制され得、且つ、リザーバ液量がゼロでない状態とゼロの状態とが交互に発生することに伴う上述した「モータの回転速度の変動」をも抑制することができる。
【0013】
この場合、前記決定手段は、前記アンチスキッド制御開始時点での前記車両の車体減速度に基づいて同時点での前記目標回転速度相当値(の初期値)を設定するように構成されることが好適である。
【0014】
一般に、ABS制御中において車両が走行している路面の摩擦係数が大きいほど(従って、ABS制御中における車体減速度が大きいほど)、減圧制御中においてリザーバに排出されるブレーキ液の流量が大きくなる傾向がある。換言すれば、減圧制御中においてリザーバに排出されるブレーキ液の流量と車体減速度とは非常に強い相関がある。従って、上記構成によれば、リザーバ液量がゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するようにモータの回転速度を制御する際において、モータの目標回転速度の初期値を精度良く設定することができる。
【0015】
また、前記決定手段は、前記リザーバ液量推定値の変化傾向に基づいて前記目標回転速度相当値を更新していくように構成されることが好適である。いま、リザーバ液量推定値に推定誤差が含まれている場合を考える。この場合、リザーバ液量推定値そのものに基づいて、リザーバ液量推定値そのものがゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するようにモータの回転速度を制御しても、実際のリザーバ液量は、前記推定誤差の影響により、ゼロ、或いは最大リザーバ液量になる場合が発生し得る。
【0016】
一方、リザーバ液量推定値に推定誤差が含まれている場合であっても、リザーバ液量推定値の変化傾向(増減方向)は前記推定誤差の影響を受けにくく、リザーバ液量推定値の変化傾向(増減方向)は実際のリザーバ液量の変化傾向(増減方向)と一致し易い傾向がある。
【0017】
上記構成は係る知見に基づく。これによれば、リザーバ液量推定値そのものに基づいてモータの目標回転速度を更新していく場合に比して、より一層精度良く、実際のリザーバ液量がゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するようにモータの回転速度を制御することができる。
【0018】
例えば、前記決定手段は、前記リザーバ液量推定値が増加傾向(減少傾向)にある場合、前記目標回転速度相当値をより大きい値(より小さい値)に更新するように構成される。この場合、より具体的には、所定のタイミングが到来する毎に得られる前記ブレーキ液量推定値のうちの今回値が前回値よりも大きい(小さい)場合、前記目標回転速度相当値がより大きい値(より小さい値)に更新される。この場合、前記リザーバ液量推定値の増加傾向の程度が大きいほど、前記目標回転速度相当値の前記更新による増加量をより大きい値に設定することが好適である。なお、「所定のタイミング」とは、例えば、所定時間(一定時間)が経過する時点、(少なくとも減圧制御と増圧制御とを含む1制御サイクルを連続して繰り返し実行する)ABS制御における減圧制御終了時点、ABS制御における増圧制御終了時点等である。
【0019】
ブレーキ液量推定値が増加傾向(減少傾向)にあることは、液圧ポンプの吐出流量(従って、モータの回転速度)が不足していること(過剰であること)を意味する。従って、上記構成によれば、実際のリザーバ液量がゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するようにモータの目標回転速度を適切に更新していくことができる。
【0020】
また、前記決定手段は、前記減圧制御中における前記リザーバ液量推定値の増加勾配に基づいて前記目標回転速度相当値を更新していくように構成されてもよい。より具体的には、前記減圧制御中における前記リザーバ液量推定値の増加勾配が基準値よりも大きい(小さい)場合、前記目標回転速度相当値がより大きい値(より小さい値)に更新される。なお、「基準値」は、一定であっても、車体減速度が大きいほどより大きい値に設定されてもよい。
【0021】
ABS制御中においては、リザーバ液量がゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するために必要な、減圧制御中におけるリザーバ液量の増加勾配の最適値が存在する。従って、上記基準値がこの最適値に設定される場合を想定すると、減圧制御中におけるリザーバ液量の増加勾配が基準値よりも大きい(小さい)ことは、液圧ポンプの吐出流量(従って、モータの回転速度)が不足していること(過剰であること)を意味する。従って、上記構成によっても、実際のリザーバ液量がゼロより大きく且つ最大リザーバ液量よりも小さい範囲内で推移するようにモータの目標回転速度を適切に更新していくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明によるABS制御用モータの制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るABS制御用モータの制御装置を含むABS制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。このABS制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧による制動力をそれぞれ発生させるブレーキ液圧制御部30を含んでいる。
【0024】
ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、車輪RR,FLに係わる系統と車輪FR,RLに係わる系統の2系統から構成されていて、所謂X配管を構成している。
【0025】
ブレーキ液圧制御部30は、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧Pm)を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37と、を含んで構成されている。
【0026】
ブレーキ液圧発生部32は、バキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。マスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
【0027】
RRブレーキ液圧調整部33は、差圧を無段階に(リニアに)調整可能な常開リニア電磁弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。同様に、FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。
【0028】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、直流モータMTにより同時に駆動される液圧ポンプHPf,HPrとを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液を汲み上げ、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0029】
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液を汲み上げ、FRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。
【0030】
再び、図1を参照すると、このABS制御装置10は、車輪速度センサ41fl,41fr,41rl,41rrと、ブレーキスイッチ42と、電子制御装置50とを備えている。電子制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、ROM52、RAM53、バックアップRAM54、及びインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
【0031】
インターフェース55は、前記センサ41**、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
【0032】
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl, 右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを示している。
【0033】
以上のように構成された本発明の実施形態に係るABS制御装置10は、車輪のロックを抑制するために周知のABS制御の一つを実行するようになっている。本例では、ABS制御として、ホイールシリンダ圧Pw**に対して、減圧制御・保持制御・リニア増圧制御を一組とする1制御サイクルが連続して繰り返し実行されるようになっている。
【0034】
(モータMTの回転速度制御の概要)
次に、上述のように構成された本発明の実施形態に係るABS制御用モータの制御装置を含むABS制御装置(以下、「本装置」と云うこともある。)によるモータMTの回転速度制御の概要について説明する。本装置は、電子制御装置50に内蔵された図3に示すスイッチング素子としてのパワートランジスタTrを利用してモータMTの回転速度を制御するようになっている。
【0035】
より具体的に述べると、図3に示したように、パワートランジスタTrは、そのコレクタ端子が車両の電源(電圧Vcc)に接続されるとともに、そのエミッタ端子がモータMTの一方の端子に接続されている。モータMTの他方の端子はアースされている(電圧GND)。また、パワートランジスタTrのベース端子には、本装置(CPU51)の指示により生成されるモータ制御信号Vcontが印加されるようになっている。
【0036】
このモータ制御信号Vcontは、図3に示したように、HighレベルとLowレベルの何れかとなるように生成される。モータ制御信号VcontがHighレベルのとき、パワートランジスタTrがオン状態となってモータMTに電圧Vccが印加される。この結果、図4に示すように、モータMTの2つの端子間電圧であるモータ端子間電圧VMT(図3を参照。)が電圧Vccで一定となり、液圧ポンプHPf,HPrが駆動される状態(モータMTへの電力供給がオン状態、以下、単に「オン状態」と呼ぶ。)となる。
【0037】
一方、モータ制御信号VcontがLowレベルのとき、パワートランジスタTrがオフ状態となってモータMTに電圧Vccが印加されない状態(モータMTへの電力供給がオフ状態、以下、単に「オフ状態」と呼ぶ。)となる。このオフ状態では、モータ端子間電圧VMTはモータMTが発生する電圧となる。この「モータMTが発生する電圧」は、発電機としてのモータMTが誘導起電力により発生する上記発電電圧であって、慣性に起因して回転するモータMTの回転速度の減少に応じて減少し、同回転速度が「0」のとき「0」となる。
【0038】
本装置は、図4に示すように、モータMTがオフ状態の場合において慣性に起因して回転するモータMTの回転速度の減少に応じて減少するモータ端子間電圧VMT(従って、前記発電電圧)が後述するモータMTの目標回転速度NEt(前記目標回転速度相当値に対応)に基づいて決定・変更され得る電圧閾値Von以下となったとき、モータMTをオフ状態からオン状態へと切り換え、オン時間Ton(本例では、一定)に亘ってモータMTをオン状態に維持して液圧ポンプHPf,HPrを駆動した後、モータMTをオン状態からオフ状態に切り換えて同液圧ポンプHPf,HPrの駆動を中止する。
【0039】
本装置は、上記電圧閾値Vonと上記オン時間Tonからなるモータ駆動パターンを繰り返すことで、モータMTへの電力供給をオン・オフ制御して、モータMTの実際の回転速度NEが目標回転速度NEtに一致するようにモータMTの回転速度(従って、液圧ポンプHPf,HPrの回転速度、吐出流量)を制御する。
【0040】
(実際の作動)
次に、本装置の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図5〜図7、並びに、図10に示したタイムチャートを参照しながら説明する。図10では、1つの車輪に対してのみ時刻t1からABS制御が開始・実行される場合における、車体速度Vso、ABS制御が実行される車輪(ABS制御実行車輪)の車輪速度Vw、マスタシリンダ圧Pm、ABS制御実行車輪のホイールシリンダ圧Pw、リザーバRSf,RSr(以下、単に「リザーバ」と呼ぶこともある。)のうちABS制御実行車輪に対応する方の内部のブレーキ液量(リザーバ液量)の推定値Q、及びモータMTの目標回転速度NTtの変化の一例が示されている。
【0041】
CPU51は、図5に示したモータ制御開始・終了判定ルーチンを所定時間(プログラム実行周期Δt)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、車輪速度センサ41**の出力に基づいて車輪速度Vw**(車輪の外周の速度)を計算する。続いて、CPU51はステップ510に進み、車体速度Vsoを車輪速度Vw**の最大値に設定する。
【0042】
次いで、CPU51はステップ515に進み、フラグDRIVEの値が「0」となっているか否かを判定する。ここで、フラグDRIVEは、その値が「1」のときモータ制御実行中であることを示し、その値が「0」のときモータ制御非実行中であることを示す。
【0043】
いま、モータ制御非実行中であって、且つ、モータ制御開始条件が成立していないものとすると、フラグDRIVEの値が「0」になっている。従って、CPU51はステップ515にて「Yes」と判定してステップ520に進み、モータ制御開始条件が成立しているか否かを判定する。モータ制御開始条件は、本例では、ABS制御が開始された場合に成立する。
【0044】
現段階では、前述のごとくモータ制御開始条件が成立していないから、CPU51はステップ520にて「No」と判定し、ステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような作動は、モータ制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。図10に示した例では、時刻t1以前に対応する。
【0045】
次に、この状態にてABS制御が開始された場合(即ち、モータ制御開始条件が成立した場合)について説明する。図10に示した例では、時刻t1に対応する。この場合、CPU51はステップ520に進んだとき「Yes」と判定してステップ525に進み、フラグDRIVEの値を「0」から「1」に変更する。
【0046】
次いで、CPU51はステップ530に進み、前記車体速度Vsoを時間微分して(且つ、符号を逆にして)車体減速度DVsoを求める。これにより、車体減速度DVsoは、ABS制御開始時点(図10では、時刻t1)での値となる。
【0047】
次に、CPU51は、ステップ535に進み、前記車体減速度DVsoと、テーブルMapNEini(図示せず)とに基づいて、モータMTの目標回転速度の初期値NEiniを求める。これにより、値NEiniは、車体減速度DVsoが大きいほどより大きい値に設定される。
【0048】
この値NEiniは、ABS制御中においてリザーバ液量が、「0」より大きく最大リザーバ液量Qfull(リザーバRSf又はリザーバRSr内に貯留され得るブレーキ液量の最大値)よりも小さい範囲内で推移するように、ABS制御開始時点での車体減速度に応じて決定される値である。
【0049】
係る値NEiniを求めるために使用される前記テーブルMapNEiniは、例えば、ABS制御中においてリザーバ液量が「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するために必要なモータMTの回転速度の最適値を、ABS制御開始時点での車体減速度を種々変更しながら探る実験、シミュレーション等を通して作製され得る。
【0050】
次に、CPU51はステップ540に進み、現時点(即ち、ABS制御開始時点、図10では、時刻t1)での目標回転速度NEtを前記値NEiniに設定する。このように、ABS制御開始時点での目標回転速度NEt(=NEini)は、ABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて決定される。そして、CPU51はステップ545に進んで、後述するルーチンにて計算・更新されていくリザーバ液量の推定値QをABS制御開始時点での値である初期値「0」に設定する。
【0051】
そして、CPU51はステップ550に進んで、増圧制御終了時(前記「所定のタイミング」に対応)が到来する毎に得られる上記リザーバ液量推定値Qである値Qc(図10では、時刻t2、t3、t4におけるリザーバ液量推定値Qに対応)の前回値Qcbを、初期値Q0に設定し、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0052】
ここで、値Qcは、後述するように、モータMTの目標回転速度NEtの更新に使用される。値Qcの前回値Qcbの初期値Q0は、本例では、ABS制御開始時点での車体減速度が値DVsoであり且つモータMTの回転速度NEが値NEiniに制御された場合に対応する増圧制御終了時点でのリザーバ液量に設定される。この初期値Q0も、ABS制御開始時点での車体減速度(及びモータMTの回転速度)を種々変更しながら実験、シミュレーション等を通して求めることができる。
【0053】
以降、フラグDRIVEの値が「1」になっているから、CPU51はステップ515に進んだとき「No」と判定してステップ555に進むようになり、同ステップ555にてモータ制御終了条件が成立しているか否かを判定する。モータ制御終了条件は、本例では、ABS制御が終了し、且つ、オフ状態の継続時間TIMoffが所定時間T2(一定)を超えた場合に成立する。
【0054】
現段階では、モータ制御が開始された直後であるからモータ制御終了条件は成立していない。従って、CPU51はステップ555にて「No」と判定してステップ560に進み、モータMTの(平均)回転速度NEが上記目標回転速度NEt(現時点では、ステップ540の処理により値NEiniに等しい)に一致するように上記電圧閾値Vonを設定・変更し、同電圧閾値Vonと上記オン時間Ton(一定)からなるモータ駆動パターンを繰り返すことでモータMTへの電力供給をオン・オフ制御する。そして、CPU71は、ステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、モータ制御終了条件が成立するまで繰り返し実行される。
【0055】
これにより、モータMTの回転速度NEが目標回転速度NEt(値NEtは後述するルーチンにより適宜更新・変更され得る)に一致するように制御される(従って、液圧ポンプHPf,HPrの回転速度、吐出流量が制御される)。この結果、ABS制御中においてリザーバ液量は、「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するように調整される(はずである)。このステップ560は、前記制御手段に対応する。
【0056】
一方、この状態にてモータ制御終了条件が成立した場合、CPU51はステップ555に進んだとき「Yes」と判定してステップ565に進み、フラグDRIVEの値を「1」から「0」に変更する。
【0057】
以降、フラグDRIVEの値が「0」になっているから、CPU51はステップ515に進んだとき「Yes」と判定してステップ520に進み、前記モータ制御開始条件が成立しているか否かを再びモニタするようになる。
【0058】
このように、図5のルーチンの繰り返し実行により、フラグDRIVEの値は、モータ制御実行中においては「1」に維持され、モータ制御非実行中においては「0」に維持される。そして、フラグDRIVEの値が「1」に維持されている間、モータMTの回転速度NEが、適宜更新・変更され得る目標回転速度NEtに一致するように制御されていく。
【0059】
また、CPU51は図6に示したリザーバ液量の計算を行うルーチンを図5のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0060】
いま、モータ制御が実行されているものとすると(図10の時刻t1以降を参照)、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ525)となっている。従って、CPU51はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610に進み、減圧制御中であるか否かを判定する。
【0061】
現時点が減圧制御中である場合(図10では、時刻t1〜t1’、t2〜t2’、t3〜t3’、t4〜t4’を参照)、CPU51はステップ610にて「Yes」と判定してステップ615に進み、排出流量qdrainを、周知の手法の1つにより取得されるホイールシリンダ圧Pwと、Pwを引数とする関数funcqdrainと、に基づいて求める。排出流量qdrainは、減圧制御中(減圧弁PD:開状態)にて減圧弁PDから排出されてリザーバに流入するブレーキ液の流量である。排出流量qdrainは、ホイールシリンダ圧と、開状態にある減圧弁PDの開口面積(一定)と、から算出できるから、このように、ホイールシリンダ圧Pwの関数として求めることができる。なお、2以上の車輪について減圧制御が同時に実行されている場合は、排出流量qdrainは、各輪についての排出流量の総和となる。
【0062】
一方、現時点が減圧制御中でない場合(即ち、保持制御中、或いは、リニア増圧制御中である場合、図10では、時刻t1’〜t2、t2’〜t3、t3’〜t4等を参照)、CPU51はステップ610にて「No」と判定してステップ620に進み、排出流量qdrainを「0」に設定する。これは、保持制御中、或いは、リニア増圧制御中である場合、減圧弁PDが閉状態に維持されていることに基づく。
【0063】
続いて、CPU51はステップ625に進んで、液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量qpumpを、現時点での目標回転速度NEtと、マスタシリンダ圧推定値Pmと、NEt,Pmを引数とするテーブルMapqpumpと、に基づいて求める。吐出流量qpumpは、液圧ポンプHPf,HPrの回転速度と、マスタシリンダ圧とに依存し、回転速度が大きいほど大きく、マスタシリンダ圧が大きいほど小さい。従って、吐出流量qpumpは、このように、目標回転速度NEtとマスタシリンダ圧推定値Pmとに基づいて求めることができる。
【0064】
次いで、CPU51はステップ630に進み、下記(1)式に従って、リザーバ液量推定値Qのプログラム実行周期Δt当たりの変化量ΔQを求める。ここで、「qdrain・Δt」は、プログラム実行周期Δt当たりにリザーバに流入するブレーキ液量に相当し、「qpump・Δt」は、プログラム実行周期Δt当たりにリザーバから液圧ポンプHPf、HPrに吸入されるブレーキ液量に相当する。
【0065】
ΔQ=qdrain・Δt−qpump・Δt ・・・(1)
【0066】
次に、CPU51はステップ635に進んで、リザーバ液量推定値Qを、その時点での値(ABS制御開始時(即ち、モータ制御開始時)の直後にて、ステップ545にて初期値「0」に設定されている。)に、上記求めた変化量ΔQを加えることで更新する。
【0067】
続いて、CPU51はステップ640に進み、前記更新されたリザーバ液量推定値Qが負であるか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ645にてリザーバ液量推定値Qを「0」に再設定する。一方、CPU51はステップ640にて「No」と判定する場合、ステップ650に進んで、リザーバ液量推定値Qが最大リザーバ液量Qfullよりも大きいか否かを判定し、「Yes」と判定する場合、ステップ655にてリザーバ液量推定値Qを最大リザーバ液量Qfullに再設定する。これらの処理により、リザーバ液量推定値Qが「0」以上、値Qfull以下にガード処理される。そして、CPU71はステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0068】
他方、CPU51はステップ650にて「No」と判定する場合(即ち、0<Q<Qfullの場合)、リザーバ液量推定値Qを再設定することなくステップ695に直ちに進む。
【0069】
このように、図6のルーチンの繰り返し実行により、リザーバ液量推定値Q(0<Q<Qfull)は、減圧弁PDから排出されるブレーキ液の流量、及び液圧ポンプHPf,HPrにより吸入されるブレーキ液の流量に基づいて、プログラム実行周期Δtの経過毎に更新されていく。これにより、図10に示すように、リザーバ液量推定値Qは、減圧制御中(時刻t1〜t1’、時刻t2〜t2’等)は、qdrain>qpumpの関係に起因して増大していき、保持制御中、或いは、リニア増圧制御中(時刻t1’〜t2、t2’〜t3等)は、qdrain=0に維持されることから、吐出流量qpumpに応じて減少していく。このようにして、リザーバ液量推定値Qを取得する手段が前記取得手段に相当する。
【0070】
また、CPU51は図7に示したモータ回転速度の更新を行うルーチンを図6のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
いま、モータ制御が実行されているものとすると(図10では、時刻t1以降を参照)、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ525)となっている。従って、CPU51はステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、車輪のスリップ率に基づいて、リニア増圧制御の終了時点(即ち、次の制御サイクルの(減圧制御の)開始時点)である、モータMTの目標回転速度NEtの更新タイミングが到来したか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ795に直ちに進む。即ち、本例では、更新タイミングは、リニア増圧制御の終了時点(即ち、次の制御サイクルの(減圧制御の)開始時点)に設定されている。図10では、時刻t2、t3、t4に対応する。
【0072】
いま、目標回転速度NEtの更新タイミングが到来したものとすると、CPU51はステップ710にて「Yes」と判定してステップ715に進み、値Qcを現時点でのリザーバ液量推定値Qに設定する。即ち、上述したように、値Qcは、増圧制御終了時が到来する毎に得られるリザーバ液量推定値Qである(図10では、時刻t2、t3、t4を参照)。
【0073】
続いて、CPU51はステップ720に進み、値Rを値(Qc/Qcb)に設定する。ここで、上述したように、値Qcbは値Qcの前回値(前回の更新タイミングでの値Qc)であり、値Qcbの初期値は、先のステップ550にて値Q0に設定される。値Qcbは、その後は、後述するステップ740にて上記更新タイミングが到来する毎にその時点での値Qcに更新されていく。従って、現時点での値Rは、前回の更新タイミングから今回の更新タイミングまでの間におけるリザーバ液量推定値Qの増加・減少傾向を表す値となる。
【0074】
次に、CPU51はステップ725に進み、R≧1であるか否か(即ち、リザーバ液量推定値Qが増加傾向にあるか否か)を判定する。以下、先ず、ステップ725にて「Yes」と判定される場合(即ち、リザーバ液量推定値Qが増加傾向にある場合)について説明する。図10では、時刻t2、t4に対応する。
【0075】
この場合、CPU51はステップ730に進み、値Rと、図8に示したテーブルMapNEupとに基づいて目標回転速度NEtの更新による増加量NEup(≧0)を決定する。これにより、値NEupは、値R=1のとき「0」に設定され、値R(≧1)が大きいほどより大きい値に設定される。換言すれば、リザーバ液量推定値Qの増加傾向の程度が大きいほど増加量NEupがより大きい値に設定される。続いて、CPU51はステップ735に進んで、現時点での目標回転速度NEtに上記増加量NEupを加えることで目標回転速度NEtを更新する。
【0076】
次に、ステップ725にて「No」と判定される場合(即ち、リザーバ液量推定値Qが減少傾向にある場合)について説明する。図10では、時刻t3に対応する。この場合、CPU51はステップ745に進み、値Rと、図9に示したテーブルMapNEdownとに基づいて目標回転速度NEtの更新による減少量NEdown(≧0)を決定する。
【0077】
これにより、値NEdownは、値R(0≦R<1)が小さいほどより大きい値に設定される。換言すれば、リザーバ液量推定値Qの減少傾向の程度が大きいほど減少量NEdownがより大きい値に設定される。続いて、CPU51はステップ750に進んで、現時点での目標回転速度NEtから上記減少量NEdownを減じることで目標回転速度NEtを更新する。
【0078】
そして、CPU51はステップ740に進んで、上述したように、値Qcの前回値Qcbをその時点での値Qcに更新し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上、図7のルーチン(及び、図5のステップ535、540)は前記決定手段に対応する。
【0079】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係るABS制御用モータの制御装置によれば、ABS制御中において、モータMTの(平均)回転速度NEは目標回転速度NEtに一致するように制御される。この目標回転速度NEtの初期値NEini(ABS制御開始時点での値、図10では、時刻t1を参照)は、ABS制御開始時点での車体減速度DVsoに基づいて、ABS制御中においてリザーバ液量が「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するように決定される。
【0080】
ABS制御中において、目標回転速度NEtの更新タイミング(リニア増圧制御終了時点)が到来する毎に、リザーバ液量推定値Qが増加傾向にあるか減少傾向にあるかが判定される。そして、リザーバ液量推定値Qが増加傾向(R≧1)にある場合(図10では、時刻t2、t4を参照)、即ち、液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量(従って、モータMTの回転速度)が不足している場合、目標回転速度NEtがより大きい値に更新される。よって、時刻t2’〜t3、及び時刻t4’以降でのリザーバ液量(リザーバ液量推定値Q)の減少勾配は、時刻t1’〜t2、及び時刻t3’〜t4でのリザーバ液量(リザーバ液量推定値Q)の減少勾配よりもそれぞれ大きい。これにより、初期値NEiniが小さめに見積もられたことによりABS制御中においてリザーバ液量が最大リザーバ液量Qfullに達する事態の発生が抑制され得る。
【0081】
一方、リザーバ液量推定値Qが減少傾向(R<1)にある場合(図10では、時刻t3を参照)、即ち、液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量(従って、モータMTの回転速度)が過剰である場合、目標回転速度NEtがより小さい値に更新される。よって、時刻t3’〜t4でのリザーバ液量(リザーバ液量推定値Q)の減少勾配は、時刻t2’〜t3でのリザーバ液量(リザーバ液量推定値Q)の減少勾配よりも小さい。これにより、初期値NEiniが大きめに見積もられたことによりABS制御中においてリザーバ液量が「0」に達する事態の発生が抑制され得る。
【0082】
加えて、リザーバ液量推定値Qに推定誤差が含まれている場合であっても、リザーバ液量推定値Qの変化傾向(増減方向)は前記推定誤差の影響を受けにくく、リザーバ液量推定値Qの変化傾向(増減方向)は実際のリザーバ液量の変化傾向(増減方向)と一致し易い傾向がある。これにより、リザーバ液量推定値Qそのものが「0」と最大リザーバ液量Qfullとの間を推移するようにリザーバ液量推定値Qそのものに基づいて目標回転速度NEtが更新される場合に比して、本例のようにリザーバ液量推定値Qの変化傾向に基づいてモータMTの目標回転速度NEtを更新していくことで、より一層精度良く、実際のリザーバ液量を「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するようにモータMTの回転速度を制御することができる。
【0083】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、上記「モータの目標回転速度に相当する値」として、モータMTの目標回転速度NEtそのものが使用されているが、液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量が使用されてもよい。
【0084】
また、上記実施形態においては、リザーバ液量推定値Qの変化傾向を取得するため、値R(=Qc/Qcb)、即ち、値Qcの前回値に対する今回値の比率が使用されているが、値Qcの今回値から前回値を減じた値S(=Qc−Qcb)が使用されてもよい。この場合、S≧0のときリザーバ液量推定値Qが増加傾向にあると判定され、S<0のときリザーバ液量推定値Qが減少傾向にあると判定され得る。
【0085】
また、上記実施形態においては、リザーバ液量推定値Qが増加傾向にあるか減少傾向にあるかが判定される前記「所定のタイミング」として、リニア増圧制御終了時点が採用されているが、減圧制御終了時点(即ち、保持制御開始時点)、或いは、保持制御終了時点(即ち、リニア増圧制御開始時点)が使用されてもよい。また、前記「所定のタイミング」として、ABS制御開始後において所定時間(一定時間)が経過する時点が採用されてもよい。
【0086】
また、上記実施形態においては、モータMTの回転速度を制御するために電圧閾値Vonが制御されているが、モータMTの回転速度を制御するためにオン時間Tonが制御されてもよい。また、モータMTの回転速度を制御するために電圧閾値Von及びオン時間Tonが共に制御されてもよい。
【0087】
また、上記実施形態においては、車体減速度Vsoに基づいて目標回転速度NEtの初期値NEiniが決定されているが、路面摩擦係数に基づいて目標回転速度NEtの初期値NEiniが決定されてもよい。
【0088】
加えて、上記実施形態においては、リザーバ液量推定値Qが増加傾向にあるか減少傾向にあるかに基づいて目標回転速度NEtが更新されるようになっているが、減圧制御中におけるリザーバ液量推定値Qの増加勾配に基づいて目標回転速度NEtが更新されてもよい。この場合、図7のルーチンに代えて図11にフローチャートにより示したルーチンが実行される。図11のルーチンにおいて、図7のルーチンのステップと同じステップには図7のステップ番号と同じステップ番号が付されている。
【0089】
図11のルーチンは、図7のステップ715、720をステップ1105、1110に置き換えた点においてのみ、図7に示したルーチンと異なる。以下、図7のルーチンと相違する点についてのみ説明する。なお、図11のルーチンでは、ステップ710の「更新タイミング」は、減圧制御終了時点に設定されている。
【0090】
ステップ1105では、今回の減圧制御中のリザーバ液量推定値Qの増加勾配gradが計算される。この増加勾配gradは、例えば、今回の減圧制御開始時点及び減圧制御終了時点の2つのリザーバ液量推定値Qから計算されてもよいし、今回の減圧制御中における複数(3つ以上)の時点でのリザーバ液量推定値Qに基づいて計算されてもよい。
【0091】
ステップ1110では、値Rが値(grad/gradref)に設定される。値gradref(前記基準値に相当)は、例えば、ABS制御中においてリザーバ液量が「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するために必要な、減圧制御中におけるリザーバ液量の増加勾配の最適値(基準値)であり、前記車体減速度DVsoに基づいて決定され得る。
【0092】
これにより、今回の減圧制御の増加勾配gradが前記基準値gradref以上の場合、R≧1となる。この場合、ステップ730、735が実行されて、目標回転速度NEtがより大きい値に更新される。これらの処理は、増加勾配gradが基準値gradrefよりも大きいことは液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量(従って、モータMTの回転速度)が不足していることを意味することに基づくものである。
【0093】
一方、増加勾配gradが前記基準値gradref未満の場合、R<1となる。この場合、ステップ745、750が実行されて、目標回転速度NEtがより小さい値に更新される。これらの処理は、増加勾配gradが基準値gradrefよりも小さいことは液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量(従って、モータMTの回転速度)が過剰であることを意味することに基づくものである。
【0094】
このように構成によっても、実際のリザーバ液量が「0」より大きく最大リザーバ液量Qfullよりも小さい範囲内で推移するようにモータの目標回転速度NEtを適切に更新していくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態に係るABS制御用モータの制御装置を含む車両のABS制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御部の概略構成図である。
【図3】図2に示したモータを駆動制御するための駆動回路の概略構成図である。
【図4】モータ駆動パターンの例を示したグラフである。
【図5】図1に示したCPUが実行するモータ制御の開始・終了判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図6】図1に示したCPUが実行するリザーバ液量の計算を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】図1に示したCPUが実行するモータ回転速度の更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが参照する、リザーバ液量推定値の変化傾向を示す値と、モータの目標回転速度の更新による増加量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図9】図1に示したCPUが参照する、リザーバ液量推定値の変化傾向を示す値と、モータの目標回転速度の更新による減少量との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態によりリザーバ液量推定値の変化傾向に応じてモータの目標回転速度が更新されていく場合の一例を示したタイムチャートである。
【図11】本発明の実施形態の変形例に係るABS制御用モータの制御装置のCPUが実行するモータ回転速度の更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図12】減圧制御により増大するリザーバ液量が次の減圧制御開始時点より前の段階でゼロになるようにモータの回転速度が制御される場合の一例を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0096】
10…車両のABS制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、50…電子制御装置、51…CPU、MT…モータ、HPf,HPr…液圧ポンプ、RSf,RSr…リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪にロック傾向がある場合に同車輪のホイールシリンダ圧を減少させる減圧制御を行うアンチスキッド制御を実行するアンチスキッド制御装置(51、30)に適用されて前記減圧制御によりリザーバ(RSf,RSr)に排出されたブレーキ液を前記アンチスキッド制御装置の液圧回路内に吐出するポンプ(HPf,HPr)、を駆動するモータ(MT)の回転速度を制御するアンチスキッド制御用モータの制御装置であって、
前記アンチスキッド制御中における前記リザーバ内のブレーキ液量であるリザーバ液量の推定値(Q)を取得する取得手段(51、図6のルーチン)と、
前記取得手段が取得した前記リザーバ液量推定値に基づいて、前記リザーバ内のブレーキ液量がゼロより大きく且つ前記リザーバが貯留し得るブレーキ液の最大量(Qfull)よりも小さい範囲内で推移するように前記モータの目標回転速度に相当する値(NEt)を決定する決定手段(51、535、540、図7、図11のルーチン)と、
前記決定手段が決定した前記目標回転速度相当値(NEt)に基づいて前記アンチスキッド制御中における前記モータの回転速度を制御する制御手段(51、560)と、
を備えたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記アンチスキッド制御開始時点での前記車両の車体減速度(DVso)に基づいて同時点での前記目標回転速度相当値を設定する(535、540)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記リザーバ液量推定値の変化傾向(R)に基づいて前記目標回転速度相当値を更新していく(図7のルーチン)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記リザーバ液量推定値が増加傾向にある場合、前記目標回転速度相当値をより大きい値に更新する(730、735)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
所定のタイミングが到来する毎に得られる前記リザーバ液量推定値(Qc)のうちの今回値が前回値よりも大きい場合、前記目標回転速度相当値をより大きい値に更新するように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記リザーバ液量推定値の増加傾向の程度が大きいほど、前記目標回転速度相当値の前記更新による増加量(NEup)をより大きい値に設定する(730)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項7】
請求項3に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記リザーバ液量推定値が減少傾向にある場合、前記目標回転速度相当値をより小さい値に更新する(745、750)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
所定のタイミングが到来する毎に得られる前記リザーバ液量推定値(Qc)のうちの今回値が前回値よりも小さい場合、前記目標回転速度相当値をより小さい値に更新するように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記リザーバ液量推定値の減少傾向の程度が大きいほど、前記目標回転速度相当値の前記更新による減少量(NEdown)をより大きい値に設定する(745)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記減圧制御中における前記リザーバ液量推定値の増加勾配(grad)に基づいて前記目標回転速度相当値を更新していく(図11のルーチン)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記減圧制御中における前記リザーバ液量推定値の増加勾配(grad)が基準値(gradref)よりも大きい場合、前記目標回転速度相当値をより大きい値に更新する(730、735)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。
【請求項12】
請求項10に記載のアンチスキッド制御用モータの制御装置において、
前記決定手段は、
前記減圧制御中における前記リザーバ液量推定値の増加勾配(grad)が基準値(gradref)よりも小さい場合、前記目標回転速度相当値をより小さい値に更新する(745、750)ように構成されたアンチスキッド制御用モータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−126719(P2008−126719A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311003(P2006−311003)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】