説明

アンテナ装置

【課題】スロットを介して高周波信号を放射素子に給電しているアンテナ装置において、周波数特性を所望の特性に変更することである。
【解決手段】本発明にかかるアンテナ装置は、印加される電界によって誘電率が変化する可変誘電率材料を含む第1の誘電体層11と、第1の誘電体層11の第1の面に設けられた放射素子2と、第1の誘電体層11の第2の面に設けられると共に、放射素子2と対向する位置にスロットが形成された接地導体4と、第1の誘電体層11の第1の面側に放射素子2と垂直方向において重畳しないように設けられ、可変電圧を印加可能な第1の電極パターン51と、を備える。本発明にかかるアンテナ装置では、第1の電極パターン51から第1の誘電体層11に所定の電界を印加することで第1の誘電体層11の誘電率を変化させて放射素子2の電気長を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関し、特に周波数特性を変更できるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波近距離レーダでは、4GHz程度の帯域幅を4つのチャネルに周波数分割して用いる規格が制定されている。パッチアンテナに代表される共振型の狭帯域アンテナ1つで周波数分割された複数チャネルに対応するためには、周波数特性を変更することが必要となる。周波数特性を変更できるアンテナ装置に関しては次のような技術が存在する。
【0003】
特許文献1には、広い周波数帯あるいは複数の周波数を1つのアンテナでカバーできるパッチアンテナ装置に関する技術が開示されている。図12は、特許文献1に開示されているパッチアンテナ装置を示す図である。図12に示すように、特許文献1に開示されているパッチアンテナ装置は、裏面にパッチ部102が設けられたガラス基板104、アース電位にセットされたグランド基板103およびガラス基板104の裏面とグランド基板103との間に介在される液晶層101を含むパッチアンテナと、パッチ部102とグランド基板103との間に可変電界を印加するための可変電界印加手段105とを備える。そして、可変電界印加手段105を用いて液晶層101に印加される電界の大きさおよび方向を変化させて液晶層101の誘電率を変化させることで、複数の周波数に対応できるパッチアンテナを構成している。
【0004】
また、図13は特許文献2に開示されているアンテナ装置を示す図である。図13に示すように、特許文献2に開示されているアンテナ装置は、絶縁層230上に放射素子220及び導電線路220'が設けられている。絶縁層230は、透明電極225、上部誘電板230'、液晶250、下部誘電板255、及び下部電極260を備えるLCD上に設けられている。下部電極260は、共通電位、例えば接地電位に接続される。透明電極225は、電位290に個別に結合させることができる。いずれかの透明電極225上の電位が変化したときは、当該電極の下方にある液晶の誘電率が変化し、その結果、導電線路220'の位相変化が誘起される。位相変化は、透明電極225に印加される電圧量を制御することによって、また、電圧を印加する電極数を制御することによって制御することができる。
【0005】
また、特許文献3には、基板の誘電率を変更して伝送特性を変更することができるストリップ線路型伝送路に関する技術が開示されている。また、特許文献4には、強誘電体アンテナおよびその調整方法に関する技術が開示されている。また、特許文献5には、アンテナ共振周波数を可変として広帯域化が図れるアンテナ装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−341027号公報
【特許文献2】特表2009−538565号公報
【特許文献3】国際公開第2008/007545号
【特許文献4】特開2008−167474号公報
【特許文献5】特開平11−154821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14は、パッチアンテナ装置の一例を示す図である。図14に示すパッチアンテナ装置は、誘電体層309、313、放射素子(パッチ部)302、スロット303、接地導体304、および線路導体307を有する。図14に示すパッチアンテナ装置では、RF送信機308から供給される高周波信号を、スロット303を介して放射素子302へ給電している。
【0008】
一方、特許文献1にかかるパッチアンテナ装置では、ガラス基板104の裏面に設けられたパッチ部102にバイアス(直流電圧)を供給し、当該バイアスにより印加される電界を用いて液晶層101の誘電率を変化させている。このように液晶層101の誘電率を変化させることで、パッチアンテナが複数の周波数に対応することを可能にしている。
【0009】
しかしながら、図14に示す構成を備えるパッチアンテナでは、スロット303を介して高周波信号を放射素子302へ給電しているため、放射素子302にバイアス(直流電圧)を供給することができない。このため、図14に示す構成を備えるパッチアンテナ、つまりスロットを介して高周波信号を放射素子に給電しているパッチアンテナにおいて、図12に示した特許文献1に開示されている構成を適用することができない。
【0010】
また、図13に示した特許文献2に開示されているアンテナ装置では、上部誘電板230'に透明電極225が設けられている。このため、スロット303を介して高周波信号を放射素子302へ給電している図14に示したパッチアンテナでは、特許文献2に開示されている構成を適用することができない。
【0011】
上記課題に鑑み本発明の目的は、スロットを介して高周波信号を放射素子に給電しているアンテナ装置において、周波数特性を所望の特性に変更することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるアンテナ装置は、印加される電界によって誘電率が変化する可変誘電率材料を含む第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の第1の面に設けられた放射素子と、前記第1の誘電体層の第2の面に設けられると共に、前記放射素子と対向する位置にスロットが形成された接地導体と、前記第1の誘電体層の前記第1の面側に前記放射素子と垂直方向において重畳しないように設けられ、可変電圧を印加可能な第1の電極パターンと、を備え、前記第1の電極パターンから前記第1の誘電体層に所定の電界を印加することで前記第1の誘電体層の誘電率を変化させて前記放射素子の電気長を変化させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、スロットを介して高周波信号を放射素子に給電しているアンテナ装置において、周波数特性を所望の特性に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1にかかるアンテナ装置を示す斜視図である。
【図2】実施の形態1にかかるアンテナ装置を示す上面図である。
【図3】図2に示すアンテナ装置のA−Aにおける断面図である。
【図4】実施の形態1にかかるアンテナ装置の他の態様を示す断面図である。
【図5】実施の形態1にかかるアンテナ装置の他の態様を示す断面図である。
【図6】実施の形態1にかかるアンテナ装置の他の態様を示す図である。(a)はアンテナ装置を示す斜視図であり、(b)は(a)に示すアンテナ装置のB−Bにおける断面図である。
【図7】実施の形態2にかかるアンテナ装置を示す図である。(a)はアンテナ装置を示す斜視図であり、(b)は(a)に示すアンテナ装置のC−Cにおける断面図である。
【図8】実施の形態2にかかるアンテナ装置の他の態様を示す図である。(a)はアンテナ装置を示す斜視図であり、(b)は(a)に示すアンテナ装置のD−Dにおける断面図である。
【図9】実施の形態2にかかるアンテナ装置の静電界シミュレーションの結果を示す図である。
【図10】実施の形態3にかかるアレイアンテナ装置を示す図である。
【図11】実施の形態3にかかるアレイアンテナ装置の他の態様を示す図である。
【図12】背景技術を説明するための図である。
【図13】背景技術を説明するための図である。
【図14】本発明の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態にかかるアンテナ装置を示す斜視図である。図2は、本実施の形態にかかるアンテナ装置を示す上面図である。図3は、図2に示すアンテナ装置のA−Aにおける断面図である。
【0016】
図1乃至3に示すように、本実施の形態にかかるアンテナ装置は、印加される電界によって誘電率が変化する可変誘電率材料を含む第1の誘電体層11と、第1の誘電体層11の上面(第1の面)に設けられた放射素子2と、第1の誘電体層11の下面(第2の面)に設けられると共に、放射素子2と対向する位置にスロット3が形成された接地導体4と、第1の誘電体層11の上面側に放射素子2と垂直方向において重畳しないように設けられ、可変電圧を印加可能な第1の電極パターン51と、を備える。本実施の形態にかかるアンテナ装置では、第1の電極パターン51から第1の誘電体層11に所定の電界を印加し第1の誘電体層11の誘電率を変化させることで、放射素子2の電気長を変化させている。これにより、スロット3を介して高周波信号を放射素子2に給電しているアンテナ装置において、周波数特性を所望の特性に変更することができる。以下、本実施の形態にかかるアンテナ装置について詳細に説明する。
【0017】
第1の誘電体層11は、印加される電界によって誘電率が変化する可変誘電率材料を含む誘電体層である。ここで、可変誘電率材料としては、例えば比誘電率の電界依存特性を有するチタン酸バリウム等の誘電体セラミックス材料や液晶材料を用いることができる。図3に示すように、第1の誘電体層11の上面にはパッチ形状の放射素子2が設けられている。また、第1の誘電体層11の下面には接地導体4が設けられている。
【0018】
図2に示すように、放射素子2は例えば正方形とすることができる。しかし、放射素子2の形状はこれに限定されることはなく、他の任意の形状としてもよい。接地導体4には、放射素子2と対向する位置にスロット3が形成されている。スロット3の形状は例えば十字形とすることができる。しかし、放射素子2の形状はこれに限定されることはなく、他の任意の形状としてもよい。すなわち、放射素子2およびスロット3の形状は、図2に示した形状に限定されることはなく、高周波信号を放射・伝送できる形状であればどのような形状であってもよい。また、接地導体4は、接地電位41に接続されている。
【0019】
第1の誘電体層11および放射素子2の上面には、更に第2の誘電体層12を形成してもよい。第2の誘電体層12には通常の誘電体材料を用いてもよく、また、第1の誘電体層11と同様に可変誘電率材料を用いてもよい。第2の誘電体層12の上面には第1の電極パターン51が形成されている。第1の電極パターン51の形状は、放射素子2と垂直方向において重畳しない形状とすることが好ましい。すなわち、図2に示すように、本実施の形態にかかるアンテナ装置を上面から見た際に、放射素子2と第1の電極パターン51とが互いに重ならないような形状とすることが好ましい。
【0020】
本実施の形態では、図2に示すように、第1の電極パターン51の形状を、放射素子2に対応した正方形の開口を備えた形状とすることができる。なお、第1の電極パターン51の形状は図2に示した形状に限定されることはない。また、上述したように第1の電極パターン51は放射する信号を阻害しないように放射素子2の直上を覆わないことが好ましいが、放射する信号への影響が小さい場合には、第1の電極パターン51の形状は、垂直方向において放射素子2と若干重畳する形状としてもよい。
【0021】
また、第1の電極パターン51は第1の直流電源(可変電圧直流電源)61に接続されている。第1の直流電源61は、第1の電極パターン51に直流電圧(可変)を印加することができる。ここで、第1の直流電源61の極性は正でも負でもよい。また、第1の電極パターン51は高周波信号にとって接地されているようにするためにコンデンサを介して接地することが好ましい。
【0022】
また、第1の誘電体層11の下面には第3の誘電体層13を設けてもよい。この場合、第3の誘電体層13の第1の誘電体層11と反対側の面(下面)に線路導体7を設け、この線路導体7にRF送信機8から高周波信号を供給することで、スロット3に高周波信号を給電することができる。
【0023】
上記構成を備える本実施の形態にかかるアンテナ装置において、第1の直流電源61から第1の電極パターン51に電圧を印加することで、第1の電極パターン51と接地導体4との間には所定の電界が印加される。ここで、第1の電極パターン51と接地導体4との間には、放射素子2と可変誘電率材料からなる第1の誘電体層11が存在する(図3参照)。そのため、発生した電界によって放射素子2の直下の可変誘電率材料の誘電率が変化する。放射素子2の直下の誘電率が変化すると、放射素子2の電気長が変化し、アンテナ装置の共振周波数が変化する。したがって、スロット3を介して高周波信号を放射素子2に給電している構成を備えるアンテナ装置の周波数特性を変更することができる。
【0024】
なお、本実施の形態にかかるアンテナ装置の構成は、以下のように適宜変更することができる。図1乃至3で示したアンテナ装置では、第1の誘電体層11および放射素子2の上面に第2の誘電体層12を形成し、当該第2の誘電体層12の上面に第1の電極パターン51を形成した例を示した。しかし、第1の電極パターン51の配置や形状については、下部からの高周波信号の給電を阻害せず、更に放射素子2の周辺に電界が生じ第1の誘電体層11の誘電率を変更できる構造であれば、図4に示す構成としてもよい。つまり、第2の誘電体層12を設けずに第1の電極パターン51を第1の誘電体層11の上面(つまり、放射素子2と同一平面上)に形成してもよい。このとき、第1の直流電源61に接続された第1の電極パターン51と放射素子2とが電気的に接続してしまうとアンテナの放射特性に甚大な影響を与えるため、第1の電極パターン51と放射素子2とが電気的に接続しないようにすることが好ましい。
【0025】
また、空気も誘電体であるため、図5に示すように第2の誘電体層12を空気とする構成、すなわち第1の電極パターン51を放射素子2と垂直方向に離間し、放射素子2の上部に形成する構成としてもよい。このとき、第1の電極パターン51を固定するために別の支持体が必要となるが、第1の電極パターン51の剛性が高ければ支持体を放射素子2の近くに配置する必要は無い。
【0026】
また、図1乃至3で示したアンテナ装置では、スロット3に高周波信号を給電するためにRF送信機8に接続された線路導体7および第3の誘電体層13を設けていた。しかし、スロット3への給電方法はこれに限定されることはなく、図6(a)、(b)に示すように接地導体4にスロットライン31を設け、当該スロットライン31を用いて給電してもよい。また、RF送信機8に接続する以外に、例えば、受信機、増幅器、結合器などに接続してもよい。なお、図6(a)、(b)では、第2の誘電体層12を第1の誘電体層11の上面に設け、第2の誘電体層12の上面に第1の電極パターン51を設けた例を示した。しかし、図6(a)、(b)に示したアンテナ装置においても、図5に示したように第2の誘電体層12を空気とする構成、すなわち第1の電極パターン51を放射素子2と垂直方向に離間して、放射素子2の上部に形成する構成としてもよい。
【0027】
次に、本実施の形態にかかるアンテナ装置の製造方法の一例について説明する。例えば、液晶など単体で形状を保つことができない可変誘電率材料を第1の誘電体層11として用いる場合は、次のように構成する。スロット3を設けた接地導体4が形成された剛体誘電体基板(第3の誘電体層13に対応)と、放射素子2と電極パターン51を形成した剛体誘電体基板(第2の誘電体層12に対応)とによって可変誘電率材料を挟む。そして、これらの剛体誘電体基板の周囲を剛体誘電体で覆う。
【0028】
また、剛性の高い強誘電体などの可変誘電率材料を用いる場合は、可変誘電率材料からなる基板11(第1の誘電体層11に対応)の裏面にスロット3を設けた接地導体4を形成し、基板11の表面に放射素子2と電極パターン51を形成することで製造することができる。あるいは、スロット3を用いて給電される放射素子2が形成された可変誘電率基板11(第1の誘電体層11に対応)に、電極パターン51が形成された誘電体基板12(第2の誘電体層12に対応)を積層することでも製造することができる。また、基板11全体を電極パターン51で覆うように構成してもよい。
【0029】
第1の電極パターン51は、アンテナ保護に用いられる金属ケースと同様の形状とすることができる。このとき本実施の形態にかかるアンテナ装置の構造は、放射素子2と接地導体4とが形成された可変誘電率基板11(第1の誘電体層11に対応)を覆う金属ケースに第1の直流電源61が接続された構造である。また、可変誘電率基板11と金属ケースとの間の空気層が第2の誘電体層12に相当する。
【0030】
アンテナ保護に用いる金属ケースには、第1の電極パターン51と同様に、放射を阻害しないために放射素子の直上に開口を設けた金属ケースが用いられる。保護用途の場合は金属ケースを接地電位に接続する。しかし、本実施の形態にかかるアンテナ装置では、金属ケースに第1の直流電源61を用いて可変電位を与えることで、放射素子2と接地導体4とが形成された可変誘電率基板11(第1の誘電体層11に対応)の誘電率を変更することができる。
【0031】
以上で説明したように、本実施の形態にかかるアンテナ装置では、第1の直流電源61から第1の電極パターン51に電圧を印加することで、第1の電極パターン51と接地導体4との間に所定の電界が印加される。そのため、発生した電界によって放射素子2の直下の可変誘電率材料の誘電率が変化する。放射素子2の直下の誘電率が変化すると、放射素子2の電気長が変化し、アンテナ装置の共振周波数が変化する。したがって、スロット3を介して高周波信号を放射素子2に給電している構成を備えるアンテナ装置の周波数特性を変更することができる。
【0032】
また、本実施の形態にかかる発明により、周波数分割されたチャネルを持つ周波数帯において、1つのアンテナ装置で複数のチャネルに対応できるアンテナ装置を提供することができる。すなわち、チャネルごとにアンテナ装置を準備する必要がなくなるため、アンテナ装置全体のコストやサイズを減らすことができる。また、共振型の狭帯域アンテナ装置であるため、近接するチャネルを含む他の周波数帯の信号の影響を受けにくい。このため、所望のチャネルの信号を効率的に取得することができる。
【0033】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図7(a)は、本実施の形態にかかるアンテナ装置を示す斜視図である。図7(b)は、図7(a)に示すアンテナ装置のC−Cにおける断面図である。本実施の形態にかかるアンテナ装置は、実施の形態1にかかるアンテナ装置と比較して、スロット3の電気長を変更するための構成である第4の誘電体層14、第2の電極パターン52、および第2の直流電源62を更に備える。これ以外は実施の形態1にかかるアンテナ装置と同様であるので、同一の構成要素については同一の符号を付し重複した説明は省略する。
【0034】
すなわち、放射素子2と同様に、高周波信号の給電に用いているスロット3もその電気長に依存した周波数特性を持つ。また、第1の直流電源61のみでは放射素子2の周波数特性と共にスロット3の周波数特性を変更することは困難である。このため、スロット3の周波数特性を変更するためには、スロット3内の誘電率も独立して変化させることが好ましい。放射素子2の周波数特性と共にスロット3の周波数特性を変更することにより、良好なRF伝送特性を様々な周波数で得ることができる。
【0035】
図7(a)、(b)に示す本実施の形態にかかるアンテナ装置は、実施の形態1で説明した図6(a)、(b)にかかるアンテナ装置の各構成要素に加えて、接地導体4および第1の誘電体層11の下面(つまり、第1の誘電体層11の下面側)に設けられた可変誘電率材料を含む第4の誘電体層14と、第4の誘電体層14の第1の誘電体層11と反対側の面側に設けられ、可変電圧を印加可能な第2の電極パターン52と、を備える。第2の電極パターン52には可変電圧を印加可能な第2の直流電源(可変電圧直流電源)62が接続されている。第4の誘電体層14には、例えば比誘電率の電界依存特性を有するチタン酸バリウム等の誘電体セラミックス材料を用いることができる。ここで、図7(a)、(b)に示すアンテナ装置では、接地導体4に設けられたスロットライン31を用いて給電することができる。
【0036】
図7(a)、(b)に示す本実施の形態にかかるアンテナ装置では、第2の電極パターン52から所定の電界を印加することで、スロット3の近傍に電界が発生する。ここで、スロット3の近傍には可変誘電率材料からなる第1の誘電体層11および第4の誘電体層14が存在する。そのため、スロット3の近傍に発生した電界によってスロット3内の誘電体の誘電率が変化する。スロット3内の誘電率が変化すると、スロット3の電気長が変化するため、スロット3の周波数特性が変化する。
【0037】
また、図8(a)、(b)は、本実施の形態にかかるアンテナ装置の他の態様を示す図である。図8(a)はアンテナ装置を示す斜視図であり、図8(b)は図8(a)に示すアンテナ装置のD−Dにおける断面図である。図8(a)、(b)に示す本実施の形態にかかるアンテナ装置は、実施の形態1で説明した図1乃至3に示したアンテナ装置の各構成要素に加えて、第3の誘電体層13および線路導体7の下面(つまり、第3の誘電体層13の第1の誘電体層11と反対側の面)に設けられた第4の誘電体層14と、第4の誘電体層14の第3の誘電体層13と反対側の面側に設けられ、可変電圧を印加可能な第2の電極パターン52と、を備える。本実施の形態では、第3の誘電体層13は可変誘電率材料を含み構成される。第2の電極パターン52には可変電圧を印加可能な第2の直流電源62が接続されている。ここで、図8(a)、(b)に示すアンテナ装置では、線路導体7にRF送信機8から高周波信号を供給することで、スロット3に高周波信号を給電することができる。
【0038】
図8(a)、(b)に示す本実施の形態にかかるアンテナ装置においても、第2の電極パターン52から所定の電界を印加することで、スロット3の近傍に電界が発生する。ここで、スロット3の近傍には可変誘電率材料からなる第1の誘電体層11および第3の誘電体層13が存在する。そのため、スロット3の近傍に発生した電界によってスロット3内の誘電体の誘電率が変化する。スロット3内の誘電率が変化すると、スロット3の電気長が変化するため、スロット3の周波数特性が変化する。
【0039】
なお、第4の誘電体層14は、第2の誘電体層12と同様に可変誘電率材料で構成しても、また、空気など一般的な誘電体で構成してもよい。第4の誘電体層14を空気で構成する場合は、第3の誘電体層13と離間して第2の電極パターン52を設ける。また、第2の電極パターン52は線路導体7と同一平面に設けてもよい。
【0040】
また、図8(a)、(b)に示したアンテナ装置のように、第3の誘電体層13の下面に設けられた線路導体7を用いて高周波信号を給電する場合は、線路導体7にRF送信機8と第2の直流電源62とを接続し、RF送信機8から高周波信号を、第2の直流電源62から直流電圧(バイアス)を、線路導体7に重畳して印加してもよい。これにより、高周波信号を伝送する機能を保ちながら線路導体7を第2の電極パターン52として利用することができる。
【0041】
また、第2の電極パターン52には、第1の電極パターン51に印加される電圧の極性と逆の極性を有する電圧を印加することが好ましい。第1および第2の電極パターン51、52の間の電位差によって、スロット3内に効果的に電界を発生させることができるからである。
【0042】
図9は、図8に示したアンテナ装置において第1の電極パターン51に−20V、第2の電極パターン52に+20V、接地導体4に0Vの電位を与えた場合の、線路導体7を含む断面における静電界の電束密度のシミュレーション結果である。図9に示すように、電位が与えられた第1の電極パターン51の効果により、放射素子2に直接電位を与えることなく放射素子2直下に電界を生じさせることができる。
【0043】
よって、第1の誘電体層11に用いた可変誘電率材料の特性を踏まえて電極パターン51に与える電位を第1の直流電源61を用いて調整することにより、放射素子2の共振周波数を変化させることができ、アンテナ装置としての動作周波数を所定の周波数に変更することができる。
【0044】
また、電位が与えられた第2の電極パターン52の効果により、スロット3内部にも電界を生じさせることができる。第1および第3の誘電体層11、13に用いた可変誘電率材料の特性を踏まえて第1および第2の電極パターン51、52に与える電位を第1および第2の直流電源61、62を用いて調整することで、所定の周波数において反射する信号を最小にすることができ、最良の放射効率を得ることができる。
【0045】
また、本実施の形態にかかるアンテナ装置も、実施の形態1と同様の方法を用いて製造することができる。第2の電極パターン52を設ける構造では、実施の形態1の場合と同様に金属ケースを用いることができる。この場合は、放射素子2と接地導体4とが形成された可変誘電率基板11(第1の誘電体層11に対応)を覆う金属ケースの上面51(第1の電極パターン51に対応)と下面52(第2の電極パターン52に対応)を絶縁し、上面51に第1の直流電源61を、下面52に第2の直流電源62をそれぞれ接続する。このとき、基板11と金属ケースとの間の空気層が第2の誘電体層12および第4の誘電体層14に相当する。
【0046】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3について説明する。本発明の実施の形態3は、実施の形態1および実施の形態2で説明したアンテナ装置をアレイ状に配置したアレイアンテナ装置である。アレイアンテナ装置の特性は、それぞれのアンテナ装置の周波数特性が揃っていることが求められる。
【0047】
図10は、実施の形態1および実施の形態2で説明した構造のアンテナ装置(例えば図1乃至3を参照)を複数配列して構成したアレイアンテナ装置を示す図である。各アンテナ装置の各放射素子2の製造寸法にばらつきがある場合、図10のようにぞれぞれの第1の電極パターン51にそれぞれの放射素子2に対応した電圧を各アンテナ装置に接続された第1の直流電源61を用いて印加する。このように、各アンテナ装置の放射素子2の電気長を調整することで、各アンテナ装置の周波数特性を一致させることができ、アレイアンテナ装置としての性能を向上させることができる。つまり、本実施の形態にかかる発明により、特定の周波数でアンテナ装置を用いる場合において、製造過程で生じる各アンテナ装置の特性ばらつきを、各アンテナ装置の第1の電極パターン51に印加する電圧をそれぞれ調整することで補償することができる。
【0048】
図11は、実施の形態1および実施の形態2で説明した構造のアンテナ装置(例えば図1乃至3を参照)を複数配列して構成したアレイアンテナ装置を示す図である。図11に示すアレイアンテナ装置では、各アンテナ装置の第1の電極パターン51をそれぞれ結合している。アレイアンテナ装置を構成する全ての放射素子2が同一寸法であり、第1の電極パターン51が各放射素子2に対して同様に配置されている場合、各アンテナ装置の周波数特性を同様に変更するための電圧は同一となる。そのため、図11のように各アンテナ装置の第1の電極パターン51をそれぞれ結合して同電位とすることが可能であり、第1の直流電源61を1つにまとめてアレイアンテナ全体の周波数特性を変更できる。第2の電極パターン52を備える実施の形態2で説明したアンテナ装置を複数配列した場合は、第2の電極パターン52も結合することができ、第2の直流電源62も1つにまとめることができる。なお、アレイアンテナ装置の配列方向や間隔については、図10、図11に示した構成に限定されることはない。
【0049】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
2 放射素子
3 スロット
4 接地導体
7 線路導体
8 RF送信機
11 第1の誘電体層
12 第2の誘電体層
13 第3の誘電体層
14 第4の誘電体層
31 スロットライン
51 第1の電極パターン
52 第2の電極パターン
61 第1の直流電源
62 第2の直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される電界によって誘電率が変化する可変誘電率材料を含む第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の第1の面に設けられた放射素子と、
前記第1の誘電体層の第2の面に設けられると共に、前記放射素子と対向する位置にスロットが形成された接地導体と、
前記第1の誘電体層の前記第1の面側に前記放射素子と垂直方向において重畳しないように設けられ、可変電圧を印加可能な第1の電極パターンと、を備え、
前記第1の電極パターンから前記第1の誘電体層に所定の電界を印加することで当該第1の誘電体層の誘電率を変化させて前記放射素子の電気長を変化させる、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の誘電体層の前記第1の面に可変誘電率材料を含む第2の誘電体層を更に備え、前記第1の電極パターンは当該第2の誘電体層を介して設けられている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1の電極パターンは前記第1の誘電体層の前記第1の面に設けられている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の電極パターンは前記第1の誘電体層の前記第1の面と空気を介して離間して設けられている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記接地導体は前記スロットに高周波信号を給電するためのスロットラインを備える、請求項1乃至4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記接地導体の前記第1の誘電体層と反対側の面に設けられた第3の誘電体層と、
前記第3の誘電体層の前記接地導体と反対側の面に設けられ、前記スロットに高周波信号を給電する線路導体と、を更に備える、
請求項1乃至4に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記接地導体の前記第1の誘電体層と反対側の面に設けられた可変誘電率材料を含む第4の誘電体層と、
前記第4の誘電体層の前記接地導体と反対側の面側に設けられ、可変電圧を印加可能な第2の電極パターンと、を更に備え、
前記第2の電極パターンから所定の電界を印加することで前記スロット内の誘電率を変化させる、
請求項1乃至5に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記第3の誘電体層の前記接地導体と反対側の面に設けられた第4の誘電体層と、
前記第4の誘電体層の前記第3の誘電体層と反対側の面側に設けられ、可変電圧を印加可能な第2の電極パターンと、を更に備え、
前記第3の誘電体層は可変誘電率材料を含み、前記第2の電極パターンから所定の電界を印加することで前記スロット内の誘電率を変化させる、
請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第2の電極パターンから印可される電圧の極性は、前記第1の電極パターンから印加される電圧の極性と逆の極性である、請求項7または8に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1乃至8に記載のアンテナ装置が複数配列されたアレイアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−85145(P2012−85145A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230429(P2010−230429)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】