説明

アントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌飲料の製造方法

【課題】有色サツマイモを原料とした生理活性物質に富むアントシアニンを高濃度に含み、低カロリーの乳酸菌飲料を提供する。
【解決手段】有色サツマイモを糖化処理し、その糖化液にラクトバシルス属に属し、マンニト−ルを産生するヘテロ型乳酸菌を加え発酵させるアントシアニンを含有する乳酸菌発酵食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低カロリー甘味料マンニトールおよびアントシアニンを含有する乳酸菌飲料の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、有色サツマイモを原料とし、ヘテロ型乳酸菌のマンニトール生産能を利用した乳酸菌飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンは赤色系植物に含まれており、機能性健康食品として様々な生理効果があることが知られている。アントシアニンには抗酸化能や抗変異原性など様々な生体調節機能性が報告されており、生体調節機能性が期待されている。例えば、活性酸素ラジカルを除去する作用、皮膚の老化防止剤としての働き、抗インフルエンザウイルス活性があることが報告されている。
【0003】
一方、乳酸菌による発酵食品は古くから食されている身近な食品であり、整腸作用を有する以外、コレステロール値や血圧を低下させる等の生体調節機能があること、更に発癌物質を排除する作用のあることが報告されている。しかし、市販の乳酸菌飲料には10%を越える濃度でグルコース等の糖類が含有されており、このことが、糖尿病患者、あるいはダイエットの努力をしている者には問題となっている。
【0004】
サツマイモを乳酸菌発酵食品の原料として用いる提案もいくつかなされている。例えば、特許文献1には、山川紫サツマイモ、脱脂粉乳、および砂糖を原料とし、それに乳酸菌スターターを配合して赤色をした乳酸菌飲料を製造する方法が開示されている。特許文献1に開示されている技術によれば、サツマイモに含まれるアントシアニンを出来るだけ分解しないで乳酸菌飲料に取り込むことに成功している。しかし、上記特許文献1の技術では、乳酸菌発酵に必要な糖原として砂糖が乳酸菌添加と同時に大量に配合されている。
【特許文献1】特開平1−168259
【特許文献2】特開平7−255375
【特許文献3】特開2001−86929
【0005】
特許文献2には、黄色系植物色素を含む甘藷に乳原料を加え、これにラクトバシルス・ブルガリカス、及び/またはストレプトコッカス・サーモフィラスからなる乳酸菌を使用して発酵させ、乳酸発酵食品を製造する方法が開示されている。この特許文献2に開示された技術でも糖原は、乳原料とショ糖であり、サツマイモが糖原として使用されていない。
【0006】
特許文献3には、赤色系サツマイモ原料として山川紫およびベニハヤトを使用し、これにラクトバシルス・デルブルッキィ及びラクトバシルス・ヘルベティカスのいずれかまたは加えた乳酸菌を使用して乳酸発酵させて、サツマイモ乳酸発酵食品を製造している。この特許文献3に開示された技術でもサツマイモは糖原として使用されておらず、かつ、得られた乳酸発酵食品は糖質を16重量%程度含有することが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これまで有色サツマイモを利用したアントシアニンを含む乳酸菌飲料の製造方法における問題点を解決することを目的としている。本発明の第一の目的は、有色サツマイモを発酵用糖原料とし、従来の方法より簡便にかつアントシアニン含有量の高い乳酸菌飲料を製造する方法を提供することを目的としている。さらに本発明の第二の目的は、安価で低カロリー乳酸菌飲料を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、有色サツマイモから糖化液Aを製造する工程(1)、工程(1)で製造された糖化液A、及び乳原料からなる発酵原料に、ラクトバシルス(Lactobachirus)属に属し、マンニト−ルを産生するヘテロ型乳酸菌を加え、発酵させる工程(2)とからなるアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法である。
【0009】
有色サツマイモは、アヤムラサキであることが好ましい。
【0010】
有色サツマイモから糖化液Aを製造する工程(1)は、有色サツマイモに糖化酵素を配合し、反応させる工程を含むことが好ましい。
【0011】
工程(2)において、乳酸菌を加える方法は、糖、及び/又は乳原料と水との混合物に乳酸菌を植菌し、培養してなるスターターとして加える方法であることが好ましい。
【0012】
ラクトバシルス属に属し、マンニト−ルを産生するヘテロ型乳酸菌は、ラクトバシルス・ロイテリであることが好ましい。
【0013】
前記工程(2)における発酵原料は、更にフルクトースを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乳酸菌発酵食品は、ポリフェノール、特にアントシアニンを高濃度に含有し、高い抗酸化活性、脂質抗酸化性がある。また、乳酸菌発酵飲料本来の特性である整腸作用、抗癌効果もあると考えられる。従って、美容、健康増進、健康維持、老化防止、生活習慣病の予防、治療に役立つと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明につき詳しく説明する。本発明の方法は、有色サツマイモから糖化液を製造する工程(1)と、工程(1)で製造された糖化液を含む発酵原料に、特定の乳酸菌を加え、発酵させる工程(2)とからなっている。
【0016】
本発明では、原料として有色サツマイモを使用する。本発明における有色サツマイモとは、皮のみならず果肉までも有色のサツマイモで、九州の、特に鹿児島で多く栽培されている。このような有色サツマイモの品種としては、九州118号、九州121号、九州125号、九州128号、九系144号、九系182号等の黄色サツマイモ、九州119号、九系165号、九系174号、九系194号、九系195号、山川紫、ベニハヤト、種子島紫、アヤムラサキ等の赤色サツマイモ等がある。これらのうちでは、原料である粉末化物、あるいは摩砕物が手に入りやすく、アントシアニン含有量の多いアヤムラサキが好ましい。これらのサツマイモは粉末状か、すりこぎ等で摩砕された状態で使用される。
【0017】
有色サツマイモを糖化することにより、サツマイモに含有されているデンプンから、乳酸菌発酵及びマンニトール生産に必要な一つの炭素源であるグルコースを製造する。
【0018】
本発明で用いる糖化剤としては、デンプンをオリゴ糖に加水分解するα−アミラーゼおよびデンプンもしくはオリゴ糖をグルコースに加水分解するグルコアミラーゼを逐次添加して用いることが好ましい。
【0019】
本発明の工程(1)においては、まず市販の有色サツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物に、水と糖化剤とを添加する。添加する方法は特別の装置を必要とせず、公知の、固体−液体混合装置、例えば翼付攪拌機を備えた反応容器、あるいはスターラー攪拌機を備えた反応容器等を用いることができる。
【0020】
工程(1)における水の添加はサツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物と糖化剤との攪拌混合を容易にするためであり、サツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物と水の割合は通常5〜20重量%、好ましくは10重量%である。
【0021】
工程(1)において、有色サツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物、糖化剤、好ましくはα―アミラーゼ、および水とからなる混合物を60℃〜80℃の温度、好ましくは65℃〜75℃、特に好ましくは70℃の温度で1〜3時間、好ましくは2時間恒温恒室装置中に放置する。この工程により有色サツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物のデンプンはオリゴ糖へと分解される。その後グルコアミラーゼを添加し、35℃〜65℃の温度、好ましくは50℃〜60℃で1〜5時間、好ましくは2時間恒温恒室装置中に放置する。その後必要に応じて濾過を行う。この工程によりグルコース含有有色サツマイモ粉末化物、あるいは摩砕物の糖化液が製造される。(以後糖化液Aという)。
【0022】
次に上記工程(1)で得た糖化液Aに、他の発酵原料と乳酸菌を加え発酵させる。(工程(2))
【0023】
本発明では、工程(2)の乳酸菌発酵で用いる乳酸菌として、ラクトバシルス属に属し、マンニトールを生産するヘテロ発酵型乳酸菌を用いる。このような乳酸菌としては、例えばラクトバシルス・ロイテリ(Lactobachirus reuteri)、ラクトバシルス・ブレビス(Lactobachirus brevis)、 ラクトバシルス・フェルメンタム(Lactobachirus fermentum)、ラクトバシルス・サンフランシセンシス(Lactobachirus sanfranciscensis),ラクトバシルス・インターメディウス(Lactobachirus intermedius)等を挙げることができる。これらの中ではアントシアニンを最も分解しないという点でラクトバシルス・ロイテリが最も好ましい。
【0024】
工程(2)における乳酸菌の配合は、乳酸菌を発酵原料に直接配合してもよいが、好ましくは、予め糖、及び/または乳原料等の発酵原料中で乳酸菌を培養してなるスターターとして用いることが好ましい。スターター作製の際、乳酸菌に対する増殖促進物質として0.3〜0.7重量%の割合で酵母エキスを10重量%乳原料溶液に添加することが望ましい。スターターを調製する際の発酵温度は45℃以下、好ましくは30℃〜40℃、時間は10〜48時間、好ましくは18〜24時間の範囲である。
【0025】
本発明の乳酸菌発酵食品の製造方法においては、発酵原料の一部として乳原料用いる。このような乳原料としては、牛乳、水牛乳、ヤギ乳、ヤク乳、馬乳等を用いることができる。これらの乳原料は生乳としてのみならず、脱脂粉乳として用いることが出来る。
【0026】
本発明の乳酸発酵食品は有色サツマイモと、必要に応じて配合する乳原料とを主成分とするが、更に必要に応じて、他の成分、例えば、りんご、ぶどう、いちご、ブルーベリー等の他の果汁、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ等の野菜汁、マンノース、果糖、葡萄糖、糖蜜、砂糖、乳糖、ぶどう糖、麦芽糖、デキストリン等の糖類、酵母エキス、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸鉄等の無機金属塩を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0027】
本発明の製造方法においては、工程(1)で得られた糖化液Aのグルコース量に対し2倍〜4倍量のフルクトースを添加することが好ましい。フルクトースの添加量は、グルコース量10 g/lに対しフルクトース20〜30g/lの範囲とすることが特に好ましい。
【0028】
工程(2)においては、更に発酵原料液100重量%に対して、酵母エキスを0.3〜0.7重量%の割合で添加すると本発明の発酵工程、あるいはスターターの製造工程で乳酸菌の増殖が早くなり、発酵が迅速に進むため好ましい。
【0029】
上記混合液に上述の方法で作製したスターターを添加し、発酵を行う。発酵温度は45℃以下、好ましくは30℃〜40℃、時間は10〜48時間、好ましくは24〜48時間の範囲である。発酵中マンニトール生産を促進させるため、ゆるやかな攪拌培養が好ましい。
【0030】
有色サツマイモ乳酸菌飲料製造の際、酸味を付ける等の味調整ため有色サツマイモの色調を損なわないラクトバシルス・ヘルベティカス(Lactobachirus helveticus)、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobachirus acidphilus)、ラクトバシルス・デルブルーチキー・ブルガリカス(Lactobachirus delblueckii bulgaricus)等のマンニトールを生産しない乳酸菌を工程(2)の発酵工程の途中で添加してもかまわない。しかし、その添加は、マンニトールを生産する乳酸菌によりマンニトールが十分生産された後に加える必要がある。
【0031】
以上の方法により、マンニトールを含有し、グルコースやフルクトースをほとんど含有しないため低カロリーでかつアントシアニンを豊富に含む乳酸菌発酵食品が製造できる。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの実施例になんら制約されない。
【0033】
(実施例1)
《工程(1)》
アヤムラサキ粉末化物、あるいは摩砕物10 g、α−アミラーゼ30 mgに総量100 mlになるよう水を添加し、ゆるやかに攪拌しつつ、70℃で2時間反応させた。その後温度を55℃に下げ、グルコアミラーゼを30 mg添加しさらに2時間反応させ、糖化液を得た。この糖化液中には、2 g/100 mlのグルコースと、0.65 g/100 mlのフルクトースが含まれていた。
【0034】
《スターターの調製》
乳原料10g、酵母エキス0.3gに総量100 mlになるよう水を添加し、121℃で10分間滅菌処理した。その後ラクトバシルス・ロイテリを植菌し、37℃で24時間培養し、スターターを得た。
【0035】
《工程(2)》
脱脂粉乳7g、酵母エキス0.3g、フルクトース3.35g(グルコース:フルクトース濃度は1:2)に100 mlになるよう糖化液を加え、70℃で15分間殺菌処理した。その後ラクトバシルス・ロイテリのスターターを3ml植菌し、37℃で24時間発酵させ、さらにラクトバシルス・ヘルベティカスを3ml植菌し、37℃で24時間発酵させることにより目的の乳酸菌飲料を得た。
【0036】
《糖類の分析》
得られた糖化液および乳酸菌飲料の糖濃度を、HPLCで測定した。分析条件は以下の通り行った:カラム YMC-パックポリアミン ІІ 250×4.6 mmlD。移動相 アセトニトリル/水 (75/25)、流速1.0 ml/min、温度15ºC、検出器RI、 32×10-6 RIU/FS。フルクトース、グルコース、マンニトールそしてラクトースを標準物質として用いた。
【0037】
《菌体数の測定》
菌体数はBCP加プレートカウント寒天培地(日水製薬株式会社)を用いたコロニーカウント法により測定した。
【0038】
《アントシアニン成分量の測定》
アントシアニン含量の測定は、以下に述べる方法で行った。5mlの0.1% HCl含有メタノールを5mlの試料に添加し、4ºCで一晩抽出する。3500 rpmで5分間遠心分離後、その上清の530nmにおける吸収値を測定した。アントシアニン含量は標準物質としてシアニジンクロライドを使用し算出した。
【0039】
《有機酸分析》
有機酸は以下の条件で測定した。カラム:YMC-パック ODS-AQ-304(300X4.6mm)、検出波長:220nm、移動相:20mM H3PO4-NaH2PO4(PH
2.8)、流速:1.0 ml/min、温度:15ºCとした。乳酸、酢酸を標準物質として使用した。
【0040】
工程(1)における実施例での糖濃度の測定結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
工程(2)において得られた有色サツマイモ乳酸菌飲料の成分分析を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
(比較例1)
実施例1において、ラクトバシルス・ロイテリの代わりにラクトバシルス・ヘルベティカスを用いる以外は、実施例1と同様に行なった。発酵工程前後における紫サツマイモ乳酸菌飲料の糖組成の変化を、表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
(比較例2)
工程(1)の糖化工程を行わない以外は、実施例と同様に行ない、発酵原料の発酵工程前後における糖成分を分析した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法で製造された有色サツマイモを原料とする乳酸菌発酵食品は、そのまま、あるいは更に寒天、果実等を配合した食品、あるいは他の食品の調味材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色サツマイモから糖化液Aを製造する工程(1)、工程(1)で製造された糖化液A、及び乳原料からなる発酵原料に、ラクトバシルス(Lactobachirus)属に属し、マンニト−ルを産生するヘテロ型乳酸菌を加え、発酵させる工程(2)とからなるアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項2】
有色サツマイモが、アヤムラサキであることを特徴とするアントシアニンを含有する低カロリー請求項1に記載の乳酸発酵食品の製造方法。
【請求項3】
有色サツマイモから糖化液Aを製造する工程(1)が、有色サツマイモに糖化酵素を配合し、反応させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜2に記載のアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項4】
工程(2)において乳酸菌を加える方法が、糖、及び/又は乳原料と水との混合物に乳酸菌を植菌し、培養してなるスターターとして加える方法であることを特徴とする請求項1〜3に記載のアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項5】
ラクトバシルス属に属し、マンニト−ルを産生するヘテロ型乳酸菌が、ラクトバシルス・ロイテリであることを特徴とする請求項1〜4に記載のアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項6】
工程(2)における発酵原料が、更にフルクトースを含むことを特徴とする請求項1〜5に記載のアントシアニンを含有する低カロリー乳酸菌発酵食品の製造方法。

【公開番号】特開2006−254820(P2006−254820A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78405(P2005−78405)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】