説明

アンモニアおよびCOSの除去により高温合成ガス流を処理して化学的生成物に変換する方法

【解決手段】 費用効果が高く環境に無害で持続可能な態様により、化学物質をほとんど若しくはまったく加える必要なく、水性ガス洗浄工程と、HCN洗浄と、生物学的処理とを使って、合成ガスからアンモニア、COS、およびHCNを(若干の粒子状物質除去とともに)高い効率で除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年10月27日付で出願された米国特許出願第12/606,469号に基づく利益および優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、アンモニアと、COS(硫化カルボニル)と、HCN(シアン化水素、通称「青酸」)とを合成ガスから除去する方法に関し、この方法は、環境に無害で持続可能な態様により、水性ガス洗浄工程と生物学的処理との組み合わせを使い、さらに特定の場合にはHCN洗浄を使って行う。
【背景技術】
【0003】
液体モーター燃料として、または従来のガソリン若しくはディーゼルモーター燃料との混合用に使用するバイオ燃料の生産は、世界規模で増加している。そのようなバイオ燃料としては、例えばエタノールおよびn−ブタノールなどがある。バイオ燃料が推進される主な要因の1つは、発酵とバイオプロセス技術により再生可能な資源からバイオ燃料を生成できる点にある。バイオ燃料は、これまで糖およびデンプンなど発酵しやすい炭水化物から生成されてきた。例えば、従来のバイオエタノール生成に使用される主な農作物の2つは、サトウキビ(ブラジルその他の熱帯諸国)およびトウモロコシ(米国その他の温帯諸国)である。発酵性炭水化物が容易に得られる農原料は、食糧および飼料の生産、耕地の使用、水の可用性、および他の要因において競合が生じるため、可用性が制限される。そのため、森林廃棄物、植林地の樹木、わら、草、および他の農業廃棄物などのリグノセルロース原料がバイオ燃料の現実的な原料になる可能性がある。ただし、植物と樹木の機械的支持構造を可能にしているリグノセルロース材料は、品質が非常に不均一であるため、生物変換を行う上で本質的に扱いが難しい。
【0004】
リグノセルロースバイオマスをエタノールに変換する際利用できる技術経路の1つとしては、ガス化装置内でリグノセルロースバイオマスを合成ガス(syngas)(別名合成ガス(synthesis gas)、主にCO、H、およびCOと、他の成分、例えばCH、N、NH、HSその他の微量ガスとの混合物)に変換したのち、このガスを嫌気性微生物で発酵させ、バイオ燃料、例えばエタノール、n−ブタノール、または酢酸、酪酸などの化学物質を生成する経路がある。この技術経路では、全成分を効率よく(例えば、75%超)合成ガスに変換でき、一部の嫌気性微生物株を使うと、高い効率(例えば、理論的に90%超)で合成ガスをエタノール、n−ブタノールその他の化学物質に変換できる。さらに、合成ガスは、他の多くの炭素質原料、例えば天然ガス、改質ガス、泥炭、石油コークス、石炭、固体廃棄物、および埋立地ガスから生成できるため、前記技術経路の汎用性をより高めている。
【0005】
ただし、バイオマスから合成ガスを生成する過程でアンモニア、硫化カルボニル(COS)、およびシアン化水素(HCN)が混入物質として生じ、合成ガスを有用な化学物質に変換する上で化学的にも生物学的にも悪影響を及ぼす。これらの混入物質は、合成ガスから除去したのち、環境的に許容される態様で、一般に著しい費用をかけて管理または分解しなければならない。
【0006】
合成ガスの使用前にその合成ガスからアンモニア、COS、およびHCNを除去する従来の方法は、一般に、それらの化合物を水溶液で洗浄(スクラビング)して前記合成ガスから除去したのち、洗浄液を排出して廃液処理またはそれに代わる処分方法を実施する工程を伴う。
【0007】
新式のアンモニア除去工程には水洗浄工程が含まれ、その場合、ガスを洗浄する水にアンモニアが溶解する。その結果生じた洗浄液は、アンモニア蒸留装置へポンプで送られ、そこで蒸気を使ってアンモニアが除去される。前記蒸留装置からのアンモニア蒸気を処理すると硫酸アンモニウムを生成でき、これを凝縮させて濃アンモニア溶液を生成し、焼却または触媒的変換で窒素および水素を生成すると、それらをガス化装置に戻してリサイクルできる。
【0008】
コークス炉ガスからアンモニアを除去するもう1つの工程は、US Steelが開発したPHOSAM工程である。この工程では、リン酸一アンモニウムの溶液を使ってガス流からアンモニアを吸収する。この工程は販売可能な無水アンモニアを生成するが、回収塔において50℃台の温度および最高190psig(圧力計で約13大気圧)の圧力で運用される。そのため、より堅牢で費用効果の高い合成ガス処理方法であって、特にエタノール、酢酸、またはブタノールなどの有用な液体生成物への生物学的変換に使用する場合のものが必要とされている。
【0009】
広く知られ使用されている生物学的処理工程は、水を利用したスクラバー(ガス洗浄装置)と効果的に併用され、合成ガスからアンモニア、COS、およびHCNを高い効率で除去するという目的を達成できる。生物学的処理工程は、高価な化学物質による過剰コストを生じることなく大気圧および低温で実施でき、危険および/または有害な廃棄物も生じることなく実施できる。アンモニウム、COS、およびHCNをガス流からの水に吸収させる生物学的処理工程は、これまでも行われている。アンモニアは、一般に、pH値がやや酸性または中性の洗浄液を使って除去され、その使用済み洗浄液は好気性の廃液処理システムへ送られ、そこでアンモニアが酸化されて硝酸塩になったのち、一般にその硝酸塩にメタノールなどの有機電子供与体を加えて脱窒することで、前記硝酸塩が還元されて窒素ガスになる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、費用効果が高く環境上持続可能な態様でアンモニア、COS、およびHCNを合成ガスから高い効率で除去して分解するという目的は、合成ガスの生物学的発酵でエタノールおよび/または他の溶解性生成物が生じる過程で、多量の細胞バイオマスの分解を促進するとともに二次代謝産物および溶解固形物の蓄積を防ぐ上で当該システムから水を一部パージしなければならないことを利用して達成される。合成ガスをエタノールに変換する場合、パージした水には酢酸または酢酸塩が含まれる。その酢酸または酢酸塩は、アンモニア(およびCOS)の捕捉に使用されるスクラバー(ガス洗浄装置)内のpHを決定し、酢酸塩は、吸収されたアンモニアが生物学的に酸化されて生じる硝酸塩をNガスに変換する際の電子供与体として使用できる。
【0011】
そのため、本発明に伴う多段階工程では、水を利用したスクラバーを生物学的処理ゾーンと効果的に併用しており、前記生物学的処理ゾーンにHCNスクラバーを含めると、費用効果が高く環境上持続可能な態様でアンモニア、COS、およびHCNを合成ガスから高い効率で除去して分解できる。
【0012】
本発明では、分離装置かそれと同様な装置により合成ガス中の粒子状物質を除去する予備工程後、合成ガス流に含まれるアンモニアガスおよびCOSと残りの粒子状物質とが、スクラバー内で捕捉される。この作業で同時に前記合成ガスが冷却され、その結果前記合成ガスから洗浄液中へと著しい水蒸気の凝縮が生じる。前記スクラバーに加えられる前記洗浄液は、発酵工程および/または蒸留装置底部からのパージ水であり、酸(エタノール生成の場合は酢酸)を含んで酸性となっている。これにより前記スクラバー内のpHが十分低く保たれて、高い効率でアンモニアを除去することが可能になる。COSは極めて水溶性が高いため、前記スクラバー内で捕捉される。
【0013】
次に、アンモニアを多く含んだ前記溶液は、2段階からなる無酸素好気性の生物学的処理ゾーンに送られる。この生物学的処理ゾーンからの流出液は、98%台のHCNを合成ガスから除去するため使用されるHCN洗浄塔で、加工液として使用できる。そのHCNスクラバーからの流出液は、上記と同じ無酸素好気性処理ゾーンでリサイクルまたは処理することができる。さらに、この生物学的処理ゾーンからの流出液は、内部でリサイクルおよび処理して前記無酸素好気性処理ゾーンに戻すことができる。
【0014】
前記生物学的処理ゾーンから適切な量の流出液リサイクル流を前記HCNスクラバーへ送ると、高い効率でHCNを除去でき、前記無酸素好気性処理工程を順次行うことにより、アンモニウムとその酸化で生じる硝酸塩を高い効率で除去することができる(前記生物学的工程の前記無酸素段階での還元により)。硝化(生物学的なアンモニウム酸化)に対しCOSおよびHCNが生じうる阻害作用または毒性を排除する前記無酸素工程では、COSおよびHCNの除去も達成される。前記スクラバー水においてアンモニアの吸収およびアンモニウムへの解離で生じるアルカリ度は、前記無酸素生物学的処理工程で酢酸塩または酢酸を使って硝酸塩をNガスに還元する際に生じるアルカリ度も加わって、前記無酸素生物学的処理工程の後、外部からのアルカリ度源(例えば、腐食剤)をほとんど若しくはまったく必要とすることなく、前記アンモニウム酸化または硝化工程中、水に緩衝作用をもたらす上で十分なアルカリ度となる。そのため、その工程構成では、生物学的処理装置を水を利用したスクラバーと効果的に併用され、必要に応じて合成ガスからアンモニア、COS、およびHCNを高い効率で除去するHCNスクラバーが設けられる。前記発酵工程からの前記パージ流は、前記スクラバーに酢酸を供給する。これがスクラバー水の適切なpH範囲を維持する上で役立ち、同時に同じ目的で酸を追加する必要がなくなるため、コスト節約にもなる。
【0015】
粒子状物質の除去後、前記スクラバー廃水流出液の少なくとも一部は、前記生物学的処理ゾーンの第1の工程である前記無酸素生物学的処理工程へ送られ、そこでアンモニアから生成された硝酸塩の一部が変換され、アンモニウムが窒素ガスに変換され、またCOSの少なくとも一部が主にCOおよびHSに変換されて無酸素流出液流を生成する。
【0016】
また、前記スクラバーからの、HCNを含んだ処理済み合成ガス流の流出液の少なくとも一部は、HCNスクラバーに送られてHCN洗浄水流に接触し、HCNが除去される。その場合、HCN洗浄水の流出液は前記HCNスクラバーから排出され、そのHCN洗浄水の流出液の少なくとも一部が、前記無酸素生物学的処理工程で前記スクラバー廃水流出液と混合される。
【0017】
また、HCNと反応し、またはこれを補足回収するベンチュリースクラバー内で前記スクラバー水に化学物質を加えて、そのスクラバー内で高い捕捉効率を実現することもできる。次いでHCN、またはHCNと化学物質との混合反応で生成された生成物は、下流の粒子状物質除去または無酸素好気性生物学的処理工程で取り除かれる。例えば、HCNと反応してグリコロニトリルを生じるホルムアルデヒドを加えると、生成されたグリコロニトリルを前記無酸素好気性生物学的処理段階で処理できる。
【0018】
前記パージ水により前記スクラバー廃水流出液に加えられる酢酸塩または酢酸は、硝酸塩をNガスに還元する電子供与体および微生物の細胞が成長するための炭素源の双方として使用される。これにより、外部から電子供与体源および炭素源を加える必要がなくなり、そのためのコストも節約される。また、COSもHCNも無酸素生物学的処理工程で同時に分解される。HCNは、前記生物学的処理ゾーンの第2の工程である前記好気性生物学的処理工程の微生物に無害な化合物変換される。COSおよびHCNの分解は、これらの化合物が一定の濃度レベルで存在した場合、硝化工程を抑制する能力を有するという点で重要である。前記無酸素流出液流の少なくとも一部は、前記好気性生物学的処理工程へ送られて、アンモニウムが硝酸塩に硝化される。その後、前記生物学的に処理された廃水流は、前記好気性生物学的処理工程から回収される。前記生物学的に処理された廃水流の一部は、内部でリサイクルされて前記無酸素生物学的処理工程に戻され、HCN洗浄が提供される場合は、前記生物学的に処理された廃水流出液流の別の部分は、リサイクルされて前記HCNスクラバーへ送られ、前記HCN洗浄水流に接触する。前記生物学的に処理された廃水は硝酸塩を含み、この硝酸塩は、前記HCNスクラバーを通じてリサイクルされ前記無酸素生物学的処理工程に戻される流れから除去される。前記生物学的に処理された廃水が前記好気性生物学的処理工程から前記無酸素生物学的処理工程へと内部でリサイクルされる量は、所定の流出液中硝酸塩濃度を保つよう調整される。
【0019】
前記無酸素生物学的処理工程における硝酸塩からNへの還元反応は、還元される硝酸性窒素1mgあたり約3.57mgのアルカリ度を生じる。これは、水中におけるアンモニアの吸収およびアンモニウムへの解離による場合と同じである(吸収されるNH−N 1mgあたり3.57mgのアルカリ度)。前記無酸素流出液流が前記好気性生物学的処理工程へ送られる際、上記のアルカリ度は、アンモニア吸収によるアルカリ度も加わって、その後で硝酸塩へのアンモニウム酸化に必要とされる範囲にpH値を保つが、そのアンモニウム酸化では、NH−N 1mgがNO−Nに酸化する過程で約7.14mgのアルカリ度が消費される。前記無酸素生物学的処理工程で生じたいかなる残留有機物の酸化も、この好気性生物学的処理工程で起こる。
【0020】
前記生物学的に処理された廃水の流れを、内部でリサイクルして前記好気性生物学的処理工程から前記無酸素生物学的処理工程に戻し、またはHCNスクラバー経由で送って制御することにより、最終的に得られる前記生物学的に処理された廃水流出液の硝酸塩濃度を制御することができる。また、上記の前記生物学的に処理された廃水流を前記無酸素生物学的処理工程へと直接リサイクルする内部リサイクルループにより、そのリサイクル率を、HCN洗浄に必要なリサイクル率と別個に扱えるようになるため、生物学的に処理された廃水流出液の最終品質に関する工程管理を改善できる。極めて厳密な硝酸塩排出レベルを達成しなければならない場合は、小規模の無酸素生物学的処理仕上げ工程を排出前に加えることができる。
【0021】
以上の結果、費用効果が高く環境に無害で持続可能な態様により、化学物質をほとんど若しくはまったく加える必要なく、アンモニア、COS、および任意選択でHCNが(若干の粒子状物質除去とともに)合成ガスから高い効率で除去される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本方法の第1の実施形態の工程を示したブロック図であり、当該工程は、本方法に基づいて動作する合成ガス変換システムにより実施される。
【図2】図2は、本方法の第2の実施形態の工程を示したブロック図であり、当該工程は、本方法に基づいて動作する合成ガス変換システムにより実施される。
【図3】図3は、本方法の第3の実施形態の工程を示したブロック図であり、当該工程は、本方法に基づいて動作する合成ガス変換システムにより実施される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
COおよびH/COから酢酸、エタノール、および他の生成物への生物変換はよく知られている。例えば、近年の書籍では、Das,A.およびL.G.Ljungdahl共著『Electron Transport System in Acetogens』(酢酸生成菌における電子伝達系)と、Drake,H.L.およびK.Kusel共著『Diverse Physiologic Potential of Cetogens』(酢酸生成菌の多様な生理学的可能性)とにおいて、このような生物変換の生化学的経路およびエネルギー論が簡潔に要約されて説明されており、それぞれL.G.Ljungdahl編『Biochemistry and Physiology of Anaerobic Bacteria』(嫌気性細菌の生化学と生理学)(Springer、2003年)の第14章および第13章に転載されている。合成ガスの成分、すなわちCO、H、COを個々に、または互いに組み合わせて、または通常合成ガス中に存在する他の成分とともに変換する能力を有した適切な微生物であれば、いずれを利用してもよい。これに適した微生物および/または成長条件としては、ATCC BAA−624の識別特性をすべて有する微生物Clostridium Carboxidivorans(クロストリジウム・カルボキシディボランス)の生物学的に純粋な培養について開示した2006年5月25日付出願の米国特許出願第11/441,392号「Indirect or Direct Fermentation of Biomass to Fuel Alcohol」(バイオマスから燃料アルコールへの間接または直接発酵)、およびATCC BAA−622の識別特性をすべて有する微生物Clostridium Ragsdalei(クロストリジウム・ラグスダレイ)の生物学的に純粋な培養について開示した2006年8月31日付出願の米国特許出願第11/514,385号「Isolation and Characterization of Novel Clostridial Species」(新規性のあるクロストリジウム種の単離と特徴付け)のものなどがあり、どちらの文献もこの参照により本明細書に組み込まれる。Clostridium Carboxidivoransを使用すると、例えば合成ガスを発酵させてエタノールおよび/またはn−ブタノールを生成することができる。Clostridium Ragsdaleiを使用すると、例えば合成ガスを発酵させてエタノールを生成することができる。
【0024】
適切な微生物および成長条件としては、COに適応させて使用できるATCC 33266の識別特性を有した嫌気性細菌Butyribacterium Methylotrophicum(ブチリバクテリウム・メチロトロフィクム)などがあり、参照文献「Evidence for Production of n−Butanol from Carbon Monoxide by Butyribacterium Methylotrophicum」(Butyribacterium Methylotrophicumによる一酸化炭素からのn−ブタノール生成に関する証拠)(Journal of Fermentation and Bioengineering、vol.72、1991年、p.58〜60)、「Production of butanol and ethanol from synthesis gas via fermentation」(発酵による合成ガスからのブタノールおよびエタノールの生成)(FUEL、vol.70、1991年5月、p.615〜619)に教示されているとおり、n−ブタノールのほか酪酸の生成が可能になる。その他の適切な微生物としては、ATCC 49587(米国特許第5,173,429号)、ならびにATCC 55988および55989(米国特許第6,136,577号)の識別特性を有する株を伴ったClostridium Ljungdahli(クロストリジウム・リュングダリイ)などがあり、これによりエタノールだけでなく酢酸の生成も可能になる。これらすべての参照文献は、その全体が本明細書に組み込まれる。バイオマスから合成ガスを生成する過程でアンモニア、硫化炭素(COS)、およびシアン化水素(HCN)が混入物質として生じ、エタノールなどの有用な化学物質へと合成ガスを変換する上で化学的にも生物学的にも悪影響を及ぼす。これらの混入物質は、合成ガスから除去したのち、環境的に許容される態様で管理または分解しなければならない。本発明に伴う多段階工程では、水を利用したスクラバー(ガス洗浄装置)を生物学的処理装置と効果的に併用し、任意選択で前記生物学的処理ゾーンにHCNスクラバーを含めることにより、費用効果が高く環境上持続可能な態様でアンモニア、COS、およびHCNを合成ガスから高い効率で除去して分解する。
【0025】
本発明は、適切な濃度の合成ガス成分を含むいかなる流れとも併用できる。適切な流れは、最低10重量%のCOおよび/またはHを含むことが好ましい。本システムは、通常、嫌気性条件下で動作する。
【0026】
広く知られ使用されている生物学的処理工程は、水を利用したスクラバーと効果的に併用され、費用効果が高く環境上持続可能な態様で、アンモニア、COS、およびHCNを合成ガスから高レベルで除去し、それらを分解し、または副次的に使用するという目的を満たすことができる。このような目的は、合成ガスの生物学的発酵でエタノールおよび他の溶解性生成物が生じる過程で、多量の細胞バイオマスの分解を促進するとともに二次代謝産物および溶解固形物の蓄積を防ぐ上で変換システムから水を一部パージしなければならないことを利用して達成される。
【0027】
合成ガスをエタノールに変換する場合、パージした水には酢酸または酢酸塩が含まれる。前記パージした水に酢酸または酢酸塩が存在することで、アンモニア(およびCOS)の捕捉に使用されるスクラバー内のpHを制御でき、吸収されたアンモニアが生物学的に酸化されて生じる硝酸塩をNガスに変換する際の電子供与体として、酢酸塩を使用できるという2つの作用がある。
【0028】
本発明では、図1に示す一の適切なシステム10において、予備工程としてサイクロン分離装置またはそれと同様な装置12が高温の合成ガス11に含まれる粒子状物質を除去したのち、前記合成ガス11の流れがベンチュリースクラバー14へ送られ、そこで当該合成ガス流中のアンモニアガスおよびCOSと残りの粒子状物質とが捕捉される。この作業で同時に前記合成ガスが冷却され、その結果前記合成ガスから洗浄液中へと著しい水蒸気の凝縮が生じる。前記スクラバー14に加えられる前記洗浄液は、発酵工程および/または蒸留装置底部からのパージ水13であり、酢酸を含んで酸性となっている。この酸度により前記スクラバー14内のpHが十分低く保たれて、高い効率でアンモニアを除去することが可能になる。COSは極めて水溶性が高いため、ここでも高い効率で捕捉される。本発明では、通常、前記洗浄液のpH値を少なくとも1から2未満、好ましくはアンモニアのpH値8.95より低く、2により近く保つ。これにより、スクラバー循環水のpH値が8.0未満、好ましくは7.5未満に保たれるはずである。前記発酵工程および/または蒸留装置底部からの、酢酸を含む前記パージ水を、前記スクラバー14内の前記スクラバー循環水に加えると、望ましいpH値が容易にもたらされる。
【0029】
分離装置16で、前記スクラバー溶液中の粒子状物質がさらに除去されたのち、アンモニアを多く含むその溶液は、配管17を通じて、無酸素処理工程24および好気性処理工程26を有す2段階の無酸素好気性生物学的処理システム18へと送られる。次に、この生物学的処理システムからの流出液は、加工液として配管19経由で洗浄塔20へ送られたのち、少なくとも90%、より好ましくは98%を超えるHCNが前記合成ガスから除去される。HCNスクラバー22からの流出液は配管21を通じて除去され、配管60経由でリサイクルされ、または上記と同じ無酸素好気性処理システムで処理される。
【0030】
前記生物学的処理システムから配管19を通じて適切な量の流出液リサイクル流を前記HCNスクラバー22へ送ると、高い効率でHCN除去が実現され、前記無酸素好気性処理工程を順次行うことにより、アンモニウムとその酸化で生じる硝酸塩が高い効率で除去される(前記生物学的工程の前記無酸素段階での還元により)。この無酸素工程では、次の好気性工程で硝化(生物学的なアンモニウム酸化)に対し阻害または毒性作用を生じうるCOSおよびHCNの除去も達成される。
【0031】
アルカリ度は、前記ベンチュリースクラバー14の水中におけるアンモニアの吸収およびアンモニウムへの解離で生じ、前記無酸素処理工程18で酢酸塩または酢酸を使って硝酸塩をNガスに還元する際に生じるアルカリ度も加わって、前記無酸素工程の後、前記アンモニウム酸化または硝化工程中、水に緩衝作用をもたらす上で十分なアルカリ度が存在することになる。その結果、外部からのアルカリ度源(例えば、腐食剤)は、ほとんど若しくはまったく必要なくなる。
【0032】
この工程では、一般的な用語で上記説明したように、前記合成ガスは配管11の上流で前処理され、サイクロンまたはそれと同様な装置で粒子状物質の大半が除去される。
【0033】
前記前処理済みの合成ガス流をベンチュリースクラバー14に送ったのち、粒子状物質を16で洗浄することにより、固形物が25で除去および処分され、同時にアンモニアおよびCOSも吸収される。このように、前記合成ガスから捕捉された粒子状物質は、前記ベンチュリー14後に16において、当該流れが前記生物学的処理工程18へ送られる前に水流から除去される。
【0034】
粒子状物質の除去後、液体流は、すべて配管17を通じて前記生物学的処理システム18の前記第1の工程である無酸素反応器24へ送られる。ここで、前記液体流は、前記HCNスクラバー22から配管21で送られてくる流れ(前記スクラバーで捕捉されたHCNとともに、前記好気性または硝化工程で生成された硝酸塩を含む)と混合される。前記パージ水により加えられる酢酸塩または酢酸は、硝酸塩をNガスに還元する電子供与体および無酸素工程で細胞が成長するための炭素源の双方として使用される。これにより、それらを外部から加える必要がなくなり、そのためのコストも節約される。COSもHCNも前記無酸素段階で同時に変換および/または分解される。これは、これらの化合物が一定の濃度レベルで存在した場合、硝化工程を抑制する能力を有するという点で重要である。
【0035】
硝酸塩から窒素ガス(N)への還元反応は、還元される硝酸性窒素1mgあたり約3.57mgのアルカリ度を生じる。これは、水中におけるアンモニアの吸収およびアンモニウムへの解離による場合と同じである(吸収されるNH−N 1mgあたり3.57mgのアルカリ度)。この流れは次に前記好気性工程26へ送られ、そこでこのアルカリ度が除去される。前記無酸素工程により生じたいかなる残留有機物の酸化も、この好気性反応器26で起こる。この工程において、当該好気性反応器26からの流出液の一部は硝酸塩を含有し、この硝酸塩は、前記HCNスクラバー22を通じリサイクルされて前記無酸素工程24に戻される水から除去され、また別の部分は当該システム10から41で除去される。
【0036】
配管19経由の前記HCNスクラバー22を通じた配管、または配管28経由で前記好気性段階から直接戻す配管により、当該好気性工程からリサイクルされて前記無酸素工程に戻される液体流を配分すると、最終的な流出液中の硝酸塩濃度を制御することができる。これにより、ここでの液体流リサイクル率を、スクラバー22でHCN洗浄に必要なリサイクル率と別個に扱えるようになる。極めて厳密な硝酸塩排出レベルを達成しなければならない場合は、小規模の無酸素仕上げ工程(図示せず)を排出前に加えることができる。
【0037】
前記スクラバー流出液の一部は、別個のHCN除去システム30へ送ることができる。システム30は任意のHCN除去システムを有するものであってよく、その場合、HCNは、(生物学的または化学的手段で)分解され、(GACでの吸着により)水溶液から除去され、または溶液から揮散して他のもの(例えば、触媒酸化剤、気相GACその他)により管理される。HCNは、主に溶解ガスとしてpH8.0以下で存在するため、揮散および処理が極めて効率的に行え、費用効果も高い。最後に、この方法により処理された前記合成ガスは、配管40で発酵工程へ送られる。
【0038】
図2は、工程構成10′における本発明の構成の変形形態を示しており、この構成は図1の上流部分と実質的に同一のもので、高度なHCN洗浄および除去が不要な場合に効率的なことがわかった本発明の構成を表しており、スクラバー部分20は当該工程に一体化されておらず、またはHCNと反応しあるいは下流の粒子状物質除去工程または無酸素好気性生物学的処理工程で除去しやすい形態または化合物でHCNを封鎖分離する化学物質がスクラバー水に加えられる。図1と同様な要素は、図2でも同様な番号で示している。図2の構成では、冷却された合成ガスが前記スクラバー14から発酵工程へ直接送られ、必要に応じて硫化水素スクラバーへ送られる。望ましい場合は、HCNと反応し、またはこれを分離する化学物質を配管43でスクラバー14に加え、下流の分離装置16または無酸素好気性生物学的処理システム18でHCNを除去できる。分離装置16で、前記スクラバー溶液中の粒子状物質がさらに除去されたのち、アンモニアを多く含むその溶液は、配管17を通じて、無酸素処理工程24および好気性処理工程26を有す2段階の無酸素好気性生物学的処理システム18へと送られる。前記無酸素好気性処理工程を順次行うことにより、アンモニウムとその酸化で生じる硝酸塩が高い効率で除去される(前記生物学的工程の前記無酸素段階での還元により)。この無酸素工程では、次の好気性工程で硝化(生物学的なアンモニウム酸化)に対し阻害または毒性作用を生じうるCOSおよびHCNの除去も達成される。
【0039】
上述したように、アルカリ度は、前記ベンチュリースクラバー14の水中におけるアンモニアの吸収およびアンモニウムへの解離で生じ、前記無酸素処理工程18で酢酸塩または酢酸を使って硝酸塩をNガスに還元する際に生じるアルカリ度も加わって、前記無酸素工程の後、前記アンモニウム酸化または硝化工程中、水に緩衝作用をもたらす上で十分なアルカリ度が存在することになる。その結果、外部からのアルカリ度源(例えば、腐食剤)は、ほとんど若しくはまったく必要なくなる。
【0040】
図2の工程は同じ態様で作用し、前記合成ガスが配管11上流のサイクロンまたはそれと同様な装置内で前処理され、前記ベンチュリースクラバー14内で大量の粒子状物質が除去されたのち、粒子状物質が16で洗浄されて固形物が25で除去および処分され、同時にアンモニアおよびCOSも吸収される。
【0041】
粒子状物質の除去後、液体流は、すべて配管17を通じて前記生物学的処理システム18の前記第1の工程である無酸素反応器24へ送られる。COSもHCNも、存在する場合は前記無酸素段階で同時に分解される。
【0042】
前記流れは、ここでも前記好気性工程26へ送られ、そこでアルカリ度が除去され、また前記無酸素工程により生じたすべての残留有機物の酸化も起こる。この工程において、当該好気性反応器26からの流出液の一部は硝酸塩を含有し、この硝酸塩は、リサイクルされ前記無酸素工程24に戻される水から除去され、また別の部分は当該システム10′から41で除去される。
【0043】
最後に、この方法により処理された前記合成ガスは、配管40で発酵工程へ送られるが、これについては図3の説明でより詳しく記述する。
【0044】
図3では、工程構成10″において、図2の開示に発酵の下流処理が加えられている。同様な要素は、ここでも同様に採番されている。蒸留システムまたは蒸留装置50は、配管13経由でパージ水を前記スクラバー14に供給する。前記スクラバー14から配管23で得られる洗浄および冷却済みの合成ガスは、発酵槽52へ送られ、そこで酢酸塩およびエタノールが生成される。そこへの栄養素の供給および工程水は、配管54を通じて供給される。この発酵槽52からの発酵流出液は、配管64で前記蒸留システム50へ送られ、発酵工程からのオフガスは配管56を通じて除去される。前記蒸留システム50からのエタノールは、配管58経由で除去されて最終処理へ送られ、当該蒸留システム50の底部物60は発酵槽52へ送られる。
【0045】
上述のように本発明の方法にはいくつかの利点があり、その一部を以上で説明したが、他の利点は本発明固有のものである。また、本明細書の開示内容を逸脱しない範囲で、変更(修正)形態も提案することができる。そのため、本発明の範囲は、必然的に添付の請求項だけに限定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温合成ガス流から粒子状物質とアンモニアとCOSとを除去することにより当該高温合成ガス流を処理して化学的生成物に変換する方法であって、
前記高温合成ガス流をスクラバーに送る工程と、
酸性溶液をスクラバー循環水に加えて、当該スクラバー循環水のpH値を8.0未満、好ましくは7.5未満に保つ工程と、
前記スクラバー循環水中のアンモニアと、COSと、粒子状物質とを捕捉し、前記高温合成ガス流から前記スクラバー循環水へ水を凝縮させる工程と、
前記スクラバーから吸収されたCOSとアンモニアと粒子状物質とを含有するスクラバー廃水流出液を前記スクラバーから回収し、COSおよびアンモニアを除去するため前記スクラバー廃水流出液流の少なくとも一部を生物学的処理ゾーンへ送る工程と、
COSとアンモニアと粒子状物質との含有濃度が低下した処理済み合成ガス流の流出液を前記スクラバーから回収する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記高温合成ガス流は分離装置へ送られ、前記スクラバーへ送られる前に前記粒子状物質の大半が除去されるものである方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記酸性溶液は、前記処理済み高温合成ガス流を化学的生成物に変換する工程からのパージ水を含有し、前記処理済み高温合成ガス流を化学製品に変換する工程は、発酵工程であり、前記パージ水は、酢酸および水を含有するものである方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記酸性溶液は酢酸を含有し、当該酸性溶液は、前記アンモニアガスを十分捕捉できるよう前記スクラバーのpH値を十分低減して前記スクラバーの効率を十分高められる量だけ、前記スクラバー循環水に加えられるものである方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記スクラバー廃水流出液流の少なくとも一部は、無酸素生物学的処理工程を経て無酸素流出液流を生じ、この無酸素流出液流の少なくとも一部は、好気性生物学的処理工程を経て、この好気性生物学的処理工程から生物学的に処理された廃水流が回収され、この生物学的に処理された廃水流の一部は、リサイクルされて前記無酸素生物学的処理工程に戻されるものである方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記好気性生物学的処理工程から前記無酸素生物学的処理工程へリサイクルされる前記生物学的に処理された廃水の量は、所定の流出液中硝酸塩濃度を保つよう調整され、前記無酸素生物学的処理工程は、6.0〜9.0のpH値範囲、好ましくは6.5〜8.5のpH値範囲で保たれるものである方法。
【請求項7】
請求項5記載の方法において、前記高温合成ガス流はHCNを含み、前記スクラバーからの前記処理済み合成ガス流の流出液の少なくとも一部は、HCNスクラバーへ送られ、HCN洗浄水流出液の少なくとも一部は、前記無酸素生物学的処理工程へ送られることにより、HCNが除去されるものである方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、前記スクラバーからの前記処理済み合成ガス流の流出液の少なくとも一部は発酵ゾーンに入って、合成ガスが水性発酵もろみ中の嫌気性微生物に接触してエタノールなどの溶解性化学的生成物に変換され、前記酸性溶液は、前記水性発酵もろみの一部を含有するものである方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、前記廃水流出液流はアンモニウムを含み、前記スクラバー廃水流出液流の少なくとも一部は、前記生物学的処理ゾーン内の無酸素生物学的処理工程へ送られて、アンモニアから生成された硝酸塩の一部が変換され、アンモニウムが窒素ガスに変換され、またCOSの少なくとも一部が主にCOおよびHSに変換されて、無酸素流出液流を生成し、前記無酸素流出液流の少なくとも一部は、前記生物学的処理ゾーン内の好気性生物学的処理工程へ送られて、アンモニウムが硝酸塩へと硝化され、前記生物学的に処理された廃水流は、前記好気性生物学的処理工程から回収され、前記生物学的に処理された廃水流の一部は、リサイクルされて前記無酸素生物学的処理工程に戻されるものである方法。
【請求項10】
請求項5記載の方法において、前記高温合成ガス流はHCNを含み、前記処理済み合成ガス流の流出液の少なくとも一部は、HCNスクラバーへ送られてHCN洗浄水流と接触し、HCN洗浄水流出液の少なくとも一部は、前記生物学的処理ゾーン内の前記無酸素生物学的処理工程へ送られ、そこで前記好気性生物学的処理工程の微生物に無害な化合物へとHCNが変換されるものである方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記パージ水は、微生物の細胞を成長させ、前記無酸素生物学的処理工程で硝酸塩をNガスに還元する上で十分な炭素をもたらす酢酸を含有するものである方法。
【請求項12】
請求項5記載の方法において、前記生物学的に処理された廃水流出液流の少なくとも一部は、前記HCNスクラバーへ送られて前記HCN洗浄水流に接触するものである方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記HCN洗浄水流出液の少なくとも一部は、HCN除去システムへ送られ、HCNの少なくとも一部が除去されてHCN除去システム流出液を生じ、そのHCN除去システム流出液の少なくとも一部は、前記HCNスクラバーへ戻されるものである方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、HCN処理済み合成ガス流の流出液の少なくとも一部は、発酵システムへ送られて、合成ガスが水性発酵もろみ中の嫌気性微生物に接触して化学的生成物、例えばエタノールおよび他の液体生成物に変換され、前記酸性洗浄液は、前記水性発酵もろみの少なくとも一部を含有するものである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−508531(P2013−508531A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536849(P2012−536849)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/052429
【国際公開番号】WO2011/056368
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510227517)コスカタ、インク. (1)
【Fターム(参考)】