説明

アンモニア含有水溶液による含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法

【課題】含ハロゲン高分子を低コストで効率的に脱ハロゲン化する方法を提供する。
【解決手段】180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を含ハロゲン高分子に接触させる、含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア含有水溶液による含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含塩素高分子(樹脂)は化学的・機械的特性に優れ、産業又は民需製品として幅広く用いられている。これら含塩素高分子は日本の合成樹脂製品のおおよそ10%強の生産量があり、産業廃棄物や生活廃棄物中にも多量に含まれ、廃棄されている。含塩素高分子の廃棄処理としては焼却、埋め立てなどが主であるが、埋め立てでは埋立地の不足や、いわゆる環境ホルモンと称される有害な可塑剤の溶出などの問題点が指摘されている。
【0003】
一方、ポリ塩化ビニルの熱分解については多くの研究が行われており、窒素雰囲気下においては分解温度が300℃前後で側鎖の脱塩素化反応が進み、350℃以上では主鎖分解が起こり、600℃以上ではナフタリン系化合物が生成することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。したがって、焼却時には塩化水素ガスやダイオキシンなどの有害物質排出の可能性があり、燃焼ガス中に含有する塩化水素は炉材の腐食の原因となるため排ガス処理が必要となる。
【0004】
このような問題を解決するために、含塩素高分子を前処理して脱塩素化を行うことが考えられており、例えば、超臨界水あるいは超臨界水酸化処理(例えば、非特許文献1参照)、熱水処理、メカノケミカル法などがある。しかし、超臨界水処理では、臨界温度374℃以上、臨界圧22.06MPa以上の条件下でおこなわれるため、高温処理によりポリ塩化ビニルの炭素骨格鎖が切断されて低分子有機ハロゲン化合物が生成する可能性があり、また、高温高圧装置を用いるため建設コストが高く、保守が容易ではない。また、反応装置の腐食が激しくこれを抑制するために、装置内を2重構造にしたり、温度勾配をつけたりするなど、装置構造が複雑となる。また、メカノケミカル法では酸化カルシウムや炭酸カルシウム粒子と含塩素樹脂粒子との接触により脱塩素化を行うが、対象試料との接触を良好にするために試料の粉砕処理が必要である。
【0005】
また、熱水処理では、塩化水素の形で脱塩素化が進み、水蒸気と共に凝縮して塩酸を生成するため反応器の腐食の問題がある。これを防止するため、分解生成ガスに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を作用させて中和する方法(例えば、非特許文献2参照)や、分解生成ガスにアンモニアを作用させて塩化アンモニウムを回収する方法(例えば、特許文献1又は2参照)等が開発されている。しかし、強アルカリを添加する場合は、添加塩基濃度が数パーセント以上とアルカリ濃度が高いため、反応器のアルカリ腐食の原因となる。また、特許文献1記載の方法は、熱分解のために350℃以上に加熱することが必要である。
【特許文献1】特開昭52−53979号公報
【特許文献2】特開2000−104075号公報
【非特許文献1】圓藤紀代司著、「高温高圧水中におけるポリ塩化ビニルの分解」、高分子加工、2001年、第50巻、第10号、p.434−438
【非特許文献2】申宣明、吉岡敏明、奥脇昭嗣著、「農業用ポリ塩化ビニルフィルムの高温水溶液処理における分解挙動と生成する炭素質の特性」、廃棄物学会論文誌、1998年、第9巻、第4号、p.141−148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、含ハロゲン高分子を低コストで効率的に脱ハロゲン化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、アンモニアは他のアルカリ化合物に比べて含ハロゲン高分子中への浸透性または透過性に優れており、脱ハロゲン化速度が大きいことを見出した。さらに本発明者らは、180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を含ハロゲン高分子に接触させることで、炭素骨格鎖の切断を伴うような激しい熱分解をすることなく含ハロゲン高分子を効率的に脱ハロゲン化できることを見い出した。本発明は、このような知見に基づきなされるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を、含ハロゲン高分子に接触させることを特徴とする含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法、
(2)前記アンモニア含有水溶液の濃度が0.006〜10mol/lであることを特徴とする(1)項に記載の含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法、および
(3)前記含ハロゲン高分子がポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデンであることを特徴とする(1)又は(2)項に記載の含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法
を提供するものである。
本発明において、含ハロゲン高分子とは、ハロゲンを含有する高分子化合物及びハロゲンを含有する樹脂組成物をいう。ここで、ハロゲン原子の含有形態は限定されるものではなく、高分子に、構成原子として結合するもの、ドープされたもの、他の添加剤として混合されたもののいずれでもよい。また、高分子は固体状でも溶融体でもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を含ハロゲン高分子に接触させることで、炭素骨格鎖の切断を伴うような激しい熱分解をすることなく含ハロゲン高分子を効率的に脱ハロゲン化することができる。該アンモニア含有水溶液は樹脂透過性に優れるため、樹脂試料の粉砕、微粒子化が不要であり、さまざまな形状の試料についても効率的に脱ハロゲン化することができる。
また、本発明によれば、低濃度のアンモニア含有水溶液を用いて効率的に脱ハロゲン化することができるので、アンモニア使用量は少量でよく、また、し尿処理、畜産廃棄物処理、下水処理、下水汚泥処理、生ゴミ処理などの各種有機廃棄物処理におけるメタン醗酵工程やその前処理工程で発生するアンモニアを使用でき、コスト的にも優れている。近年、下水処理場等から発生するアンモニアの処分について問題となっているが、このアンモニアを本発明に使用することで、このような問題についても併せて解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法は、180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を含ハロゲン高分子に接触させることを特徴とする。
従来の熱水処理法において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ剤が用いられているが、これは、含ハロゲン高分子から脱離したハロゲンガスやハロゲン化水素を中和する目的で用いられている。
本発明では、アンモニアが他のアルカリ化合物に比べて含ハロゲン高分子中への浸透性または透過性に優れており、脱ハロゲン化速度が大きいことに着目し、より低温でより効率的に脱ハロゲン化反応を起こす目的でアンモニア含有水溶液を使用する。アンモニア含有水溶液は樹脂透過性に優れるため、樹脂試料の粉砕、微粒子化が不要であり、さまざまな形状の試料についても効率的に脱ハロゲン化することができる。また、アンモニア含有水溶液は塩基性のため、脱ハロゲン化反応生成物(例えば塩酸など)の中和にも役立つ。
【0011】
本発明において、アンモニア含有水溶液とは、アンモニア水溶液およびアンモニウム塩の水溶液をいう。アンモニウム塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニアの弱酸塩が挙げられる。アンモニアの強酸塩は、その水溶液が酸性となるため、同濃度のアンモニア水溶液あるいは弱酸塩の水溶液と比べて脱ハロゲン効果は小さい。本発明ではアンモニア水溶液の使用が特に好ましい。
【0012】
本発明に用いられるアンモニア含有水溶液の濃度は、0.006〜10mol/lであることが好ましく、0.6〜6mol/lであることがより好ましい。アンモニア含有水溶液の濃度が高いほど脱ハロゲン化速度は大きくなるが、濃度が高すぎると反応装置の腐食を招く恐れがある。
本発明では低濃度のアンモニア含有水溶液で十分に効率的に脱ハロゲン化することができるので、アンモニア使用量は少量でよく、また、し尿処理、畜産廃棄物処理、下水処理、下水汚泥処理、生ゴミ処理などの各種有機廃棄物処理におけるメタン醗酵工程やその前処理工程で発生するアンモニアを使用できる。
【0013】
本発明において、アンモニア含有水溶液は180℃以上350℃未満に加熱され、好ましくは200〜250℃に加熱される。従来、窒素雰囲気下での脱ハロゲン化反応は約300℃以上で行われており、含ハロゲン高分子の炭素骨格鎖の切断を伴う激しい熱分解は350℃以上で起こる。本発明では低温で処理するため、含ハロゲン高分子の炭素骨格鎖の切断を伴う激しい熱分解は起こらない。また、本発明は、従来法よりも低温で脱ハロゲン化反応を行うため、処理温度を低下させることで処理圧力を低減することもでき、反応器の腐食を激減することができる。特に、処理温度が200℃程度の場合は、テフロン内張り反応器で十分処理できるので装置の低コスト化を実現できる。
本発明において、180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液は、液体状態のみならず気体状態のものも含む。したがって、180℃以上350℃未満のアンモニア含有蒸気を含ハロゲン高分子に接触させることも本発明の範囲に含まれる。
【0014】
反応装置としては、回分式反応器、半回分式反応器、又は流通式反応器のいずれを用いてもよいが、回分式又は半回分式反応器を用いることが好ましく、半回分式反応器を用いて行うことがより好ましい。半回分式反応器を用いる場合、含ハロゲン高分子試料を反応器内に入れてアンモニア含有水溶液を流通させる。なお、流通式反応器の場合、含ハロゲン高分子試料およびアンモニア含有水溶液を同時に反応器内に導入するため連続的に脱ハロゲン化反応を行うことができるが、固体試料を連続的に供給するためには、試料の大きさの均一化や粉砕などの操作が必要となる。
回分式又は半回分式反応器において、密閉された反応器内のアンモニア含有水溶液は加熱に伴って加圧されるが、さらに外部からポンプを用いて加圧してもよい。ただし、加圧上限は特に制限されないが、装置のコストを考慮すると低いほうが好ましい。
本発明に用いられるアンモニア含有水溶液は、180℃以上350℃未満に加熱し1〜50MPaに加圧されることが好ましく、200〜250℃に加熱し5〜15MPaに加圧されることがより好ましい。
【0015】
本発明では、脱ハロゲン化反応が進むにつれて塩酸等の反応生成物により反応液のpHが低下していく。したがって、反応液の中和を考慮して、アンモニア含有水溶液は、含有ハロゲン量と等モル量以上のアンモニア量を使用することが好ましい。特に、回分式反応器を用いる場合には、反応器の腐食を防止するために、含有ハロゲン量と等モル量以上のアンモニア量を使用することが望ましい。
【0016】
本発明が適用されるハロゲンを含有する高分子化合物としては、好ましくは含塩素高分子、含臭素高分子、含ヨウ素高分子であり、より好ましくは含塩素高分子、含臭素高分子であり、特に好ましくは含塩素高分子である。具体的には、含塩素高分子としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロプレン等、含臭素高分子としてはポリ臭化ビニル、ポリ臭化パラキシリレン等が挙げられる。また、ポリアセチレンやポリチエノピラジン、ポリフェロセニレンシリレン等にハロゲン元素(例えばヨウ素)をドーピングした導電性高分子にも本発明を適用することができる。特に、汎用されているポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデンに本発明を好適に適用することができる。
また、本発明が適用されるハロゲンを含有する樹脂組成物としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、ポリ臭化ジフェニルエーテル、ポリ臭化ナフタレン等の難燃剤を含む樹脂が挙げられる。
アンモニア含有水溶液は樹脂透過性に優れるため、樹脂試料の粉砕、微粒子化が不要である。したがって、処理される含ハロゲン高分子はいかなる形状でもよく、溶融した液状のものでもよい。
【0017】
本発明の方法の操作手順について、回分式反応器を用いる場合を例に挙げて説明する。まず、反応容器内に含ハロゲン高分子試料を設置し、反応容器の溶媒導入口からアンモニア含有水溶液を導入して反応容器を密栓する。反応容器内のアンモニア含有水溶液が180℃以上350℃未満となるように反応容器を加熱し、所定の温度条件下で脱ハロゲン化反応を行う。反応時間はアンモニア含有水溶液の温度と濃度に依存し、半回分式反応器を用いる場合はさらにアンモニア含有水溶液の流速に依存するが、5〜120分が好ましく、20〜60分がより好ましい。
所定時間経過後、開栓して常圧に戻し、反応容器の溶媒排出口から反応液を排出し、これを冷却凝縮して回収する。回収した溶液については検定され、有害物質が検出されたときは任意の方法で無害化処理される。例えば、内分泌かく乱物質が検出されたときは亜臨界水酸化処理により完全に酸化分解することができる。一方、処理後の固体残渣は反応容器の冷却後回収される。脱ハロゲン化反応後の固体残渣は主として炭素と水素からなるので、焼却して熱源とすることができ、また活性炭などの原料とすることもできる。
【0018】
本発明は、具体的には例えば以下の用途に用いることができる。
(1)使用済み医療器具(注射器など)の処理
本発明は180℃以上350℃未満という高温で処理され、かつ試料の粉砕が不要なため、使用済み注射器などの医療機材をそのまま洗浄や滅菌など手を加えることなく処理することができるので安全性が高い。また、気体生成物がほとんど発生しないのですべて密閉系で処理でき、廃液をすべて回収し、分析してから廃棄することができる。有害たんぱく質や病原菌などに汚染されている可能性がある場合、酸素あるいは過酸化水素などの酸化剤を添加した亜臨界水酸化処理などの工程を経ることで排水中の有機物をそのまま完全に酸化分解できる。
【0019】
(2)電線被覆材の無害化、資源化
電線被覆材は多量に生産され、廃棄されているが、電線被覆材には柔軟性を持たせたり難燃性を付与したりするために可塑剤や難燃剤等の各種添加剤が含まれており、廃棄時にこれら添加剤が内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)として溶出し環境へ影響を与えるという問題がある。本発明の方法は閉鎖系処理であるので、処理後は固体残渣および廃液としてすべて回収することができ、さらに亜臨界水酸化処理を行って内分泌かく乱物質を完全に酸化分解して無害化することが可能である。固体残渣は主として炭素と水素からなるので、焼却して熱源とすることができ、また活性炭などの原料とすることもできる。なお、被覆材中に含まれる繊維などの合成樹脂、紙、ゴムなどについては分別処理する必要がなく、これらは本発明における処理温度ではほとんど分解しないか、分解速度が遅いため機械的に分類できる。
【0020】
(3)水道管、下水配管
水道管や下水配管に用いられている硬質塩化ビニルの処理はさまざまな形状、大きさが存在するため、従来、粉砕などの微細化に要するエネルギーが大きかった。しかし、本発明によれば微細化の必要が全くないか、あるいは少なくてすむ。
(4)農業用塩化ビニル
ビニールハウスなどに使用され、毎年多量に廃棄されている農業用塩化ビニル樹脂は土壌などで汚れている。しかし、本発明によれば、洗浄工程がほとんど不要で、そのまま処理することができる。
【0021】
(5)壁紙などの建材の処理
壁紙は塩化ビニル樹脂に合成のりや紙などが付着しているため、従来、その処理は困難を極めていた。しかし、本発明によれば、紙や合成樹脂等からなる積層試料について、そのまま処理することができ、しかも本発明における処理温度では、これら高分子材料はほとんど分解しないか、分解速度が遅いため機械的に分類できる。
(6)食品包装用ラップ
スーパーなどで使用されている食品包装用ラップは、ポリ塩化ビニリデンなどの含塩素高分子材料が多く使用されており、肉汁や野菜汁などが付着している。本発明によれば、洗浄工程がほとんど不要で、そのまま処理することができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
反応装置に半回分式反応器を用いた。市販の粒状ポリ塩化ビニル(商品名:Vinyl
Chloride Polymer、関東化学社製、ポリ塩化ビニル100%、分子量62500)50mgを反応容器に入れ、シリンジポンプ(100DM、商品名、ISCO社製)を用いて0.6mol/lのアンモニア水溶液を流速3ml/min(標準状態)で連続的に反応器に供給した。アンモニア水溶液を反応器に供給を始めると同時に、反応器を240℃に保たれている溶融塩浴に浸した。反応器を溶融塩浴に浸した時点から反応時間の計測を開始した。熱電対を用いて反応器内の温度を測定したところ、1.5分以内に240℃に達した。反応温度240℃で所定時間反応を行った後、反応溶液を回収して脱塩素率を測定した。脱塩素率の測定は、イオンクロマトグラフ(DX−120、日本ダイオネックス製;分離カラムIon Pax AS12A、それぞれ商品名)を用いて塩素イオン濃度を測定することにより行った。
比較例として、上記のアンモニア水溶液に代えて、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を導入したもの、及び蒸留水を導入したものについても同様に試験を行い、測定を行った。
【0024】
これらの測定結果を図1に示す。図1は、脱塩素率の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱塩素率(%)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図1から明らかなように、蒸留水と水酸化ナトリウムとを比較すると、水酸化ナトリウムはそれほど脱塩素率の向上に効果がないことがわかった。水酸化ナトリウムは、従来の熱水処理で添加剤として用いられているが、これは脱塩素率を向上させる目的ではなく、反応の進行に伴うpH低下を調整する目的で添加されていることがわかる。
これに対し、アンモニア水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液よりも低濃度であるにもかかわらず、脱塩素率を飛躍的に向上させることがわかった。
【0025】
実施例2
実施例1で用いたアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、蒸留水のそれぞれについて、反応温度を変化させたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。反応溶液を回収して、脱塩素化速度定数を以下のようにして求めた。脱塩素化速度は、一次反応速度式で近似できると仮定できるので、反応速度は下記(1)式で表される。
−dC/dt=kC (1)
式中、Cは試料中の塩素濃度、kは反応速度定数、tは時間である。ここで、試料中の塩素濃度Cは、元素分析によって求めた初めの試料中の塩素濃度と実施例1と同様にイオンクロマトグラフを用いて測定した溶出塩素イオン濃度との差から求めた。
この(1)式を積分すると下記(2)式が導き出される。
ln(C/C0)=−kt=−Aexp(−E/RT)t (2)
式中、Cは反応時間tにおける試料中の塩素濃度、C0は初めの試料中の塩素濃度、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数である。
各温度において反応時間に対してC/C0を対数プロットし、(2)式より得られる直線の勾配(−k)より反応速度定数を求めた。
【0026】
これらの結果を図2に示す。図2は、各温度における脱塩素化速度定数についてのアレニウスプロットを示すグラフであり、縦軸は脱塩素化速度定数k(1/min)を、横軸は反応温度1000/T(1/K)を表す。
図2から明らかなように、0.6mol/lアンモニア水溶液についての脱塩素化速度は、無添加の蒸留水の場合の35〜40倍、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液の場合より15〜20倍大きいことがわかった。このことから、アンモニア水溶液はどの温度範囲でも同様に脱塩素効果が大きいことがわかった。
【0027】
実施例3
反応装置に回分式反応器を用いた。室温の反応容器(内容積3.6ml)に、試料30mgを入れ、所定濃度のアンモニア水溶液2mlを入れた。反応容器を密栓し、220℃に保たれている溶融塩浴に浸した。反応器を溶融塩浴に浸した時点から反応時間の計測を開始した。熱電対を用いて反応器内の温度を測定したところ、1.5分以内に220℃に達した。反応温度220℃で反応を行った後、反応容器を浴から取り出し、水で急冷した。反応容器から内容物を取り出し、蒸留水でろ過し、ろ液中の塩素イオン濃度を実施例1と同様にイオンクロマトグラフを用いて脱塩素率を測定した。
【0028】
これらの測定結果を図3に示す。図3は、脱塩素率の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱塩素率(%)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図3から明らかなように、アンモニア濃度が濃いほど脱塩素率が向上することがわかった。これらについて脱塩素化速度定数を計算したところ、脱塩素化速度はアンモニア水溶液中のアンモニア濃度のおよそ0.5乗に比例して増大することがわかった。
なお、アンモニア水溶液に代えて蒸留水を用いて同様に反応を行ったところ、この温度では、本実施例で測定した時間内には脱塩素化反応はほとんど起こらなかった。
【0029】
実施例4
他のアンモニウム塩の水溶液として、弱酸塩である炭酸アンモニウム水溶液(炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムの混合物、NH3として30%、関東化学製)0.1mol/l又は強酸塩である塩化アンモニウム水溶液(関東化学製、99%)0.1mol/lを用い、反応温度を250℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、アンモニア水溶液と蒸留水について反応を行い、脱塩素率を測定した。
これらの測定結果を図4に示す。図4は、脱塩素率の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱塩素率(%)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図4から明らかなように、強酸塩の塩化アンモニウム水溶液も脱ハロゲン効果を示したが、弱酸塩の炭酸アンモニウム水溶液の方が脱塩素効果が高い。
【0030】
実施例5
ビニールホースは、軟質塩化ビニル材の代表製品として使用されており、主成分としてポリ塩化ビニルが用いられ、また、やわらかくするために可塑剤などの添加物が多く含有されている。
試料として市販のビニールホース(商品名:パワード、(株)三洋化成社製)を用い、反応温度及び圧力を220℃・2.3MPa、240℃・3.3MPa、260℃・4.7MPaとしたこと以外は実施例3と同様にして、アンモニア水溶液と蒸留水について反応を行い、所定時間経過後、反応溶液を回収して脱塩素濃度を測定した。
【0031】
これらの測定結果を図5に示す。図5は、脱塩素濃度の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱塩素濃度(ppm)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図5から明らかなように、軟質塩化ビニル材の脱塩素化についても、どの温度でもアンモニアの添加が脱塩素に有効であることがわかった。
【0032】
実施例6
試料として、硬質塩化ビニルを主成分とする市販の塩化ビニルパイプ(商品名:ヒシパイプ、(株)三菱樹脂社製)を用い、反応温度及び圧力を230℃・2.8MPa、250℃・4.0MPaとし、反応時間を10分及び40分としたこと以外は実施例3と同様にして、アンモニア水溶液と蒸留水について反応を行い、脱塩素率を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、硬質塩化ビニルの脱塩素化についても、どの温度でもアンモニアの添加が脱塩素に有効であることがわかった。
【0035】
実施例7
試料として、ポリ塩化ビニリデン製の市販の食品包装用ラップフィルム(商品名:NEWクレラップ、呉羽化学工業株式会社製)を用い、反応温度及び圧力を200℃・1.6MPa、220℃・2.3MPaとし、反応時間を5、10、20分としたこと以外は実施例3と同様にして、アンモニア水溶液と蒸留水について反応を行い、脱塩素率を測定した。結果を表2及び図6に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
図6は、表2の結果をプロットした脱塩素率の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱塩素率(%)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図6から明らかなように、ポリ塩化ビニリデン材(食品包装用ラップフィルム)の脱塩素化についても、どの温度でもアンモニアの添加が脱塩素に有効であることがわかった。
【0038】
実施例8
試料として、難燃剤として利用されているデカブロモジフェニルエーテル(和光純薬工業製、純度98%)の粉末50mgを用い、反応温度を260℃及び340℃とし、反応時間を5、10、20分としたこと以外は実施例3と同様にして、アンモニア水溶液と蒸留水について反応を行い、脱臭素率を測定した。
これらの測定結果を図7に示す。図7は、脱臭素率の経時変化を示すグラフであり、縦軸は脱臭素率(%)を、横軸は反応時間(分)を表す。
図7から明らかなように、アンモニア水溶液が脱臭素にも非常に効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、脱塩素率の経時変化を示すグラフである(実施例1)。
【図2】図2は、各温度における脱塩素化速度定数についてのアレニウスプロットを示すグラフである(実施例2)。
【図3】図3は、脱塩素率の経時変化を示すグラフである(実施例3)。
【図4】図4は、脱塩素率の経時変化を示すグラフである(実施例4)。
【図5】図5は、脱塩素濃度の経時変化を示すグラフである(実施例5)。
【図6】図6は、脱塩素率の経時変化を示すグラフである(実施例7)。
【図7】図7は、脱臭素率の経時変化を示すグラフである(実施例8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃以上350℃未満に加熱したアンモニア含有水溶液を、含ハロゲン高分子に接触させることを特徴とする含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法。
【請求項2】
前記アンモニア含有水溶液の濃度が0.006〜10mol/lであることを特徴とする請求項1に記載の含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法。
【請求項3】
前記含ハロゲン高分子がポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の含ハロゲン高分子の脱ハロゲン化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−45469(P2006−45469A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232355(P2004−232355)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】