説明

アンモニア用スクリュ圧縮機

【課題】モータのステータに耐アンモニア対策を不要とし、アンモニアの機外への漏出のおそれを無くし、良好な性能を有するアンモニア用スクリュ圧縮機を提供する。
【解決手段】駆動側、従動側のスクリュロータ11,12を有する圧縮機本体13の圧縮機ケーシング15と、駆動部であるモータ14のモータケーシング16とが一体的に結合され、駆動側のスクリュロータ11のロータ軸17とモータ14の出力軸18とが直結され、出力軸18がロータ軸17側のみで支持されたアンモニア用スクリュ圧縮機1Aにおいて、圧縮機本体13の下方にモータ14を位置させて、これらを縦形配置にし、圧縮機本体13の吸込口21をモータ14側に形成し、モータ14のステータコイルに電力供給するための端子部25、及びステータコイルのコイルエンド26を、アンモニア液よりも比重が大で、アンモニアガスとは相溶性のない油に浸せきさせてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを冷媒とする冷凍装置に用いるアンモニア用スクリュ圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、国際的な取組み及び早急な解決が求められている地球規模に広がる環境問題が少なくなく、中でも冷凍装置に関係するものとしてオゾン層の破壊、地球の温暖化の問題がある。そして、これらの問題に対する国際的な取決めもあり、以前は広く用いられてきたHCFC冷媒のR22はオゾン層を破壊するものとして規制対象になっており、現在はオゾン層への影響がなく、オゾン破壊係数が零であるR407C,R404A等のHFC冷媒がHCFC冷媒に取って代わりつつある。しかしながら、HFC冷媒は温暖化係数が大きく、地球温暖化防止の点では問題があり、HCFC冷媒とともに大気へみだりに放出することは禁じられている。
【0003】
そこで、これらの人工的に作り出された冷媒ではなく、自然界に元々ある物質で冷媒としての性質を備えた自然冷媒が、オゾン破壊係数が零で、温暖化係数も低く、自然界に大量に存在することから見直されてきた。この自然冷媒としては、アンモニアがあるが、アンモニア冷媒は、銅に対する腐食性、毒性、可燃性がある。
【0004】
このため、アンモニアを冷媒とする冷凍装置にスクリュ圧縮機を採用するには、アンモニア対策が必要となり、従来、この対策を施したアンモニア用スクリュ圧縮機の公知例がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−141226号公報
【0005】
特許文献1には、アンモニアを冷媒とする冷凍装置に用いられるアンモニア用スクリュ圧縮機が開示されており、このアンモニア用スクリュ圧縮機は、ステータに耐アンモニア性のあるアルミニウム製エナメル線を採用したアルミニウム製モータを内蔵している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したステータに耐アンモニア性のあるアルミニウム製エナメル線を採用したアンモニア用スクリュ圧縮機の場合、同仕様の他のモータに比してモータのコストが大幅にアップするとともに、性能が悪いという問題がある。
ちなみに、特許文献1には、上記圧縮機以外に、開放形スクリュ圧縮機及びキャンドモータを用いたキャンド形スクリュ圧縮機も開示されている。この開放形スクリュ圧縮機の場合、モータの出力軸に結合する圧縮機本体における駆動側のスクリュロータのロータ軸が、メカニカルシールを介して圧縮機本体ケーシングを貫いているが、この貫通部の隙間を零にすることは不可能で、圧縮機本体内からのアンモニアの漏出が避けられないという問題がある。さらに、メカニカルシールの耐久寿命があるため、メカニカルシールのメンテナンスも必要になるという問題がある。一方、キャンド形スクリュ圧縮機の場合、ステータがキャンによりロータから隔離されたキャンドモータが使用され、コストの大幅な増大を招くだけでなく、性能が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる従来の問題をなくすことを課題としてなされたもので、モータのステータに耐アンモニア対策を不要とし、アンモニアの機外への漏出のおそれを無くし、良好な性能を有するアンモニア用スクリュ圧縮機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1発明は、互いに噛み合う駆動側、従動側のスクリュロータを有する圧縮機本体の圧縮機ケーシングと、駆動部であるモータのモータケーシングとが一体的に結合され、上記駆動側のスクリュロータのロータ軸と上記モータの出力軸とが直結され、この出力軸が上記ロータ軸側のみで支持された片側支持状態にあるアンモニア用スクリュ圧縮機において、上記圧縮機本体の下方に上記モータを位置させて、これらを縦形配置にするとともに、圧縮機本体の吸込口を上記モータ側に形成し、上記モータのステータコイルに電力供給するための端子部、及び上記ステータコイルのコイルエンドを、アンモニア液よりも比重が大で、アンモニアガスとは相溶性のない油に浸せきさせた構成とした。
【0009】
第2発明は、第1発明の構成に加えて、上記モータ内の油面を、耐アンモニア性の部材からなり、上下方向の多数の小貫通部を有する邪魔板で覆った構成とした。
【0010】
第3発明は、第1発明の構成に加えて、上記モータ内に開閉弁を介して上記油を補給する給油流路と、上記モータ内の油面レベルを検出し、この油面レベルが設定レベルよりも低下した場合には、上記開閉弁を開状態にし、上記油面レベルが上記設定レベルに達すると上記開閉弁を閉状態にする油面センサとを設けた構成とした。
【発明の効果】
【0011】
第1発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機によれば、上記モータのステータコイルはアンモニアガスに触れることがなく、これによる腐食を考える必要がなくなり、銅線を用いることができ、圧縮機ケーシングとモータケーシングとを一体化して半密閉構造にすることが可能となり、機外へのアンモニアガスの漏出を零にすることができ、ステータコイルに銅線を用いることができることと相まって、上記端子部も一般的な銅合金製にすることにより製造コストを低減させることが可能になる等の効果を奏する。
【0012】
第2発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機によれば、第1発明による効果に加えて、邪魔板により油面の波立ちが抑制され、上記コイルエンドが常時確実に油内に浸せきされた状態を維持できるようになり、銅線を使用したステータコイルの腐食防止の信頼性を一層高めることができるという効果を奏する。
【0013】
第3発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機によれば、第1発明による効果に加えて、上記モータ内において、設定レベルの油面が維持されるようになる結果、上述した第2発明と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、第1発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機1Aを適用し、アンモニア冷媒を用いた冷凍装置Iを示したものである。そして、この冷凍装置Iは、アンモニア用スクリュ圧縮機1A、油分離回収器2、凝縮器3、膨張弁4および蒸発器5を含む冷媒循環流路L1と、油分離回収器2の底部から油冷却器6を経て、アンモニア用スクリュ圧縮機1A内の給油箇所に至る油流路L2とを備えている。
【0015】
アンモニア用スクリュ圧縮機1Aは、互いに噛み合う駆動側、従動側のスクリュロータ11,12を有する圧縮機本体13と、駆動部であるモータ14とからなり、圧縮機本体13の圧縮機ケーシング15とモータ14のモータケーシング16とは一体的に結合され、半密閉構造を形成している。駆動側のスクリュロータ11のロータ軸17はモータ14の出力軸18に直結され、ロータ軸17側のみで支持された片側支持状態にある。圧縮機本体13とモータ14とは、圧縮機本体13の下方にモータ14が位置するように縦形配置されており、圧縮機本体13の吸込口21がモータ14側、即ち、圧縮機本体13の下方に形成されている。即ち、圧縮機本体13の吸込口21が下方に設けられ、吐出口22が上方に設けられている。そして、スクリュロータ11,12により下方の吸込口21から吸い込まれたアンモニアガスが油流路L2から油注入を受けつつ圧縮され、圧縮されたアンモニアガスが油流路L2からの油を随伴して上方の吐出口22から油分離回収器2に向けて吐出される。
【0016】
一方、モータ14のロータ23は出力軸18に吊持された状態になっており、そのロータ23を取り巻くステータ24のステータコイルにはモータケーシング16の下部側面を液密に貫通して設けられた端子部25から電力供給される。また、上記ステータコイルには銅線が用いられ、端子部25は一般的に使用される銅合金により形成されるとともに、上記ステータコイルのコイルエンド26及び端子部25は、例えばナフテン系の鉱物油のような、アンモニア液よりも比重が大で、アンモニアガスとは相溶性のない油27に浸せきさせられている。この結果、コイルエンド26を含み、上記ステータコイル及び端子部25がアンモニアガスに触れることはなく、これらがアンモニアガスにより腐食されることは防止される。このように、銅線、銅合金の使用により、モータ14のコストが低減される。また、上述したように、圧縮機ケーシング15とモータケーシング16とが半密閉構造を形成するようにできたのは、アンモニアガスが流動する圧縮機ケーシング15にモータケーシング16を連通状態にしても、上記ステータコイル及び端子部25がアンモニアガスに触れることがないことによる。そして、この半密閉構造によりアンモニアガスの機外への漏出も零となる。また、ロータ23を含むモータ14内の空間からステータ24を隔離するキャンのような隔壁を設ける必要もなく、これによる性能低下が生じることもない。
【0017】
油分離回収器2は内部に油分離エレメント31を有するとともに、その下方に油流路L2に通じる油溜め部32を有し、油分離エレメント31と油溜め部32との間の空間部に吐出口22からの油を随伴したアンモニアガスを流入させている。そして、アンモニアガスが油分離回収器2内に流入し、油分離エレメント31を経て上方へ通過してゆく過程でアンモニアガスから油が分離され、油分離されたアンモニアガスは油分離エレメント31の上方から凝縮器3へ向けて出てゆく一方、分離された油は一旦油溜め部32に溜められた後、油流路L2から出てゆく。この油流路L2に流入してきた油は油冷却器6で冷却されて、圧縮機本体13内のスクリュロータ11,12が収容されたロータ室の他、軸受、軸封部等の給油箇所に導かれた後、吐出口22を経て油溜め部32に回収され、繰り返し循環させられる。
【0018】
凝縮器3に流入したアンモニアガスは低温熱源に熱を移し、自らは凝縮してアンモニア液となり膨張弁4を通過する過程で絞り膨張して、気液混合状態になり蒸発器5に至り、ここで高温熱源から熱を受け取りアンモニアガスとなり圧縮機本体13に戻り、上記同様の循環を繰り返す。
【0019】
図2及び3は、第2発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機1Bを適用し、アンモニア冷媒を用いた冷凍装置IIを示したものである。この冷凍装置IIにおいて、上述した冷凍装置Iと互いに共通する部分については、同一番号を付して説明を省略する。
この冷凍装置IIでは、モータ14内の油面は、耐アンモニア性の部材からなり、上下方向の多数の小貫通部34を有する例えばパンチングメタルのような邪魔板35で覆われている。
【0020】
そして、斯かる構成により、油面の波立ちが抑制され、コイルエンド26が常時確実に油27内に浸せきされた状態を維持できるようになり、銅線を使用した上記ステータコイルの腐食防止の信頼性を一層高めることが可能となる。
【0021】
図4は、第3発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機1Cを適用し、アンモニア冷媒を用いた冷凍装置IIIを示したものである。この冷凍装置IIIにおいて、上述した冷凍装置Iと互いに共通する部分については、同一番号を付して説明を省略する。
この冷凍装置IIIでは、油冷却器6の二次側における油流路L2の部分から分岐し、モータ14内に開閉弁37を介して上記油を補給する給油流路L3と、モータ14内の油面レベルを検出し、この油面レベルが設定レベルよりも低下した場合には、開閉弁37を開状態にし、上記油面レベルが上記設定レベルに達すると開閉弁37を閉状態にする油面センサ38とが設けられている。
【0022】
そして、斯かる構成により、モータ14内において、上記設定レベルの油面が維持されるようになる結果、上述した第2発明の場合と同様、コイルエンド26が常時確実に油27内に浸せきされた状態を維持できるようになり、銅線を使用した上記ステータコイルの腐食防止の信頼性を一層高めることが可能となる。
【0023】
なお、上述したアンモニア用スクリュ圧縮機1A,1B及び1Cは、いずれも油冷式の圧縮機本体13を備えたものであるが、本発明はこれに限定するものでなく、油冷式の圧縮機本体13に代えて、無給油式の圧縮機本体を用いてもよい。そして、この無給油式の圧縮機本体を用いた場合には、油分離回収器2は省かれ、吐出口22は直接凝縮器3に通じることになる。また、この場合には、第3発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機1Cについては、図4に示す冷凍装置IIIにおいて、給油流路L3の給油源を油溜め部32とし、給油流路L3を油冷却器6の二次側における油流路L2の部分から分岐させたのに代えて、図示しない給油源を別途設けて、この給油源に給油流路L3を接続するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機を適用した冷凍装置の全体構成を示す図である。
【図2】第2発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機を適用した冷凍装置の全体構成を示す図である。
【図3】図2に示すモータにおける邪魔板を拡大して示す平面図である。
【図4】第3発明に係るアンモニア用スクリュ圧縮機を適用した冷凍装置の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
I,II,III 冷凍装置
1A,1B,1C アンモニア用スクリュ圧縮機
2 油分離回収器
3 凝縮器
4 膨張弁
5 蒸発器
6 油冷却器
11,12 スクリュロータ
13 圧縮機本体
14 モータ
15 圧縮機ケーシング
16 モータケーシング
17 ロータ軸
18 出力軸
21 吸込口
22 吐出口
23 ロータ
24 ステータ
25 端子部
26 コイルエンド
27 油
31 油分離エレメント
32 油溜め部
34 小貫通孔
35 邪魔板
37 開閉弁
38 油面センサ
L1 冷媒循環流路
L2 油流路
L3 給油流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う駆動側、従動側のスクリュロータを有する圧縮機本体の圧縮機ケーシングと、駆動部であるモータのモータケーシングとが一体的に結合され、上記駆動側のスクリュロータのロータ軸と上記モータの出力軸とが直結され、この出力軸が上記ロータ軸側のみで支持された片側支持状態にあるアンモニア用スクリュ圧縮機において、
上記圧縮機本体の下方に上記モータを位置させて、これらを縦形配置にするとともに、圧縮機本体の吸込口を上記モータ側に形成し、
上記モータのステータコイルに電力供給するための端子部、及び上記ステータコイルのコイルエンドを、アンモニア液よりも比重が大で、アンモニアガスとは相溶性のない油に浸せきさせたことを特徴とするアンモニア用スクリュ圧縮機。
【請求項2】
上記モータ内の油面を、耐アンモニア性の部材からなり、上下方向の多数の小貫通部を有する邪魔板で覆ったことを特徴とする請求項1に記載のアンモニア用スクリュ圧縮機。
【請求項3】
上記モータ内に開閉弁を介して上記油を補給する給油流路と、上記モータ内の油面レベルを検出し、この油面レベルが設定レベルよりも低下した場合には、上記開閉弁を開状態にし、上記油面レベルが上記設定レベルに達すると上記開閉弁を閉状態にする油面センサとを設けたことを特徴とする請求項1に記載のアンモニア用スクリュ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−118417(P2006−118417A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306576(P2004−306576)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】