説明

アンモニア雰囲気に接する圧力容器

【課題】シールド部の材料を強固にすることにより、繰り返し使用可能回数を向上させた、13族元素窒素化合物の結晶を製造するための圧力容器の提供。
【解決手段】温度600℃〜850℃、及び圧力30MPa〜250MPaのアンモニア雰囲気下で、13族元素窒素化合物の結晶を製造するための圧力容器であって、該アンモニア雰囲気に接する該圧力容器のシールド部の材料が、イリジウムと白金の合金又はイリジウム単体であり、ここで、イリジウムが、該シールド部の材料の全体に対して、20重量部〜100重量部で含有されていることを特徴とする圧力容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア雰囲気で13族元素窒素化合物結晶を製造するための新規圧力容器に関する。より詳しくは、本発明は、超臨界アンモニア含有溶液中でGaNなどの13族元素窒素化合物の結晶を製造するアモノサーマル法に用いる白金などの貴金属ライニングを施した圧力容器において、シールド部の材料を特定のものにすることにより繰り返しの使用においても圧力を保持することができるようにした圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNを代表とする13族元素窒素化合物結晶は、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー(LD)用途に用いられている。このような発光デバイスは、Al、Ga、Inなどの13族元素からなるAlN、GaN、InNなどの13族元素窒素化合物の結晶、又は2若しくは3種の13族元素を含む混合型の13族元素の窒化物を使用している。
【0003】
発光デバイスの窒化物薄膜は、一般に、サファイア基板や炭化ケイ素基板にヘテロエピタキシャル成長により製造されるが、サファイア基板や炭化ケイ素基板の格子定数と窒化物膜の格子定数の間に差があるため、窒化物膜に転移欠陥などの欠陥が生じて、発光デバイスの特性を低下させている。純度の高い良質な13族元素窒素化合物結晶が得られれば、それを基板として用いることで、基板の上に格子定数差が無い薄膜成長が可能であり、13族元素窒素化合物結晶半導体の光デバイスの高効率化や、パワー半導体用途などへの展開も期待できる。
【0004】
バルク結晶の13族元素窒素化合物の結晶、特にGaNバルク結晶を製造する方法としては、高温高圧法、HPVE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、フラックス法、昇華法などが報告されている。しかしながら、GaNを主とする13族元素窒素化合物結晶の育成が困難なことから、汎用されるには至っていない。HPVE法によるGaN基板の市販品の販売も開始されてきているが、価格がかなり高い上に、GaNを成長させる基板との剥離方法やGaN基板自体の反りなどの問題があり、実用的なレベルには至っていない。
【0005】
以下の特許文献1に記載されるように、GaNのバルク結晶は、結晶シード上での選択的結晶化により、超臨界アンモニア含有溶液から得られている。
また、以下の非特許文献1には、Yuji Kagamitaniらによって、アンモニアにハロゲン化アンモニウムを含ませた超臨界アンモニア含有溶液を用いて、GaNを結晶成長させる方法も報告されている。
これらのアンモニア超臨界を用いた13族元素窒素化合物結晶の製造方法は、アモノサーマル法又は安熱法などといわれ、普及しつつある。
【0006】
しかしながら、アモノサーマル法によるGaNバルク結晶を半導体用基板として実用化するためには、高温高圧下での容器からの不純物がアンモニアに溶解して、GaN結晶内に取り込まれるのを防ぐことが望まれている。そこで、以下の非特許文献2に記載されるように、Chenらは、白金でライニングした反応容器を用いて、略200MPaの高圧下でアンモニアを溶媒とし、添加剤としてNHClを用いて、GaN結晶を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004/533391号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yuji Kagamitani, Dirk Ehrentraut, Akira Yoshikawa, Naruhiro Hoshino, Tsuguo Fukuda著、「Japanese Journal of Applied Physics」、Vol.45、No.5A、2006年、p. 4018−4020
【非特許文献2】X.L. Chenm, Y.G. Cao, Y.C. Lan, X.P. Xu, J.Q. Lu, P.Z. Jiang, T. Xu, Z.G. Bai, Y.D. Yu, J.K. Liang著、「Journal of Crystal Growth」、Vol.209、2000年、p.208−212
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、超臨界アンモニア含有溶液中でGaNなどの13族元素窒素化合物の結晶を製造する、いわゆるアモノサーマル(Ammonothermal)法に用いる白金などの貴金属ライニングを施した圧力容器において、貴金属のライニングの剥離やライニングの亀裂や磨耗などが起こらず、繰り返し使用しても圧力を保持することができる貴金属ライニング付き圧力容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究し実験を重ねた結果、白金などの貴金属をライニングした圧力容器を用いて超臨界アンモニア含有溶液中で小サイズのGaN結晶の製造を繰り返し、貴金属ライニング付圧力容器を、繰り返し使用に耐え得るようにする手段を種々検討した結果、アンモニアに接する圧力容器のシールド部の材料を、イリジウムと白金の合金又はしくはイリジウム単体として構成し、該シールド部の材料の全体に対して、イリジウムを20重量部〜100重量部で含有させることにより、該シールド部を強固なものにし、それにより、貴金属ライニング付圧力容器の繰り返し使用回数を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりものである。
[1]温度600℃〜850℃、及び圧力30MPa〜250MPaのアンモニア雰囲気下で、13族元素窒素化合物の結晶を製造するための圧力容器であって、該アンモニア雰囲気に接する該圧力容器のシールド部の材料が、イリジウムと白金の合金又はイリジウム単体であり、ここで、イリジウムが、該シールド部の材料の全体に対して、20重量部〜100重量部で含有されていることを特徴とする圧力容器。
【0012】
[2]前記13族元素窒素化合物がGaNである、前記[1]に記載の圧力容器。
【0013】
[3]GaN結晶を製造する方法であって、以下の工程:
請求項2に記載の圧力容器内に、鉱化剤、酸素除去添加剤、及びGaNを含有する原料窒化物を投入し、さらに、アンモニア溶媒を導入した後、封止し、
その後、該圧力容器内部の温度を600℃〜850℃に、かつ、該圧力容器内部のアンモニア雰囲気の圧力を30MPa〜250MPaに保持して、前記原料GaN窒化物からGaN結晶を育成する、
を含むGaN結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧力容器では、シールド部の材料はイリジウムと白金の合金又はイリジウムで構成され、ここで、該材料の全体に対してイリジウムは20重量部〜100重量部で含有されている。これにより、シールド部の硬度が格段に高められるため、シールド部に力がかかっても、磨耗や傷が起こらず、圧力容器は、繰り返し使用可能なものとなる。また、シールド部の材料としてイリジムと白金の合金又はイリジウムを使用すると、温度850℃以下では、シールド部が溶融して密着(融着)することが無く、蓋を開けてもシールド材が剥離したり破損したりせず、これにより圧力容器の繰り返し使用が可能となる。さらに、圧力容器のシールド部以外のライニング部の材質としては、白金は比較的柔らかく圧力容器内側の形状に追随することができるため、白金が適しているが、シールド部の材料としてイリジムと白金の合金又はイリジウムを用いると、白金ライング材と隙間無く溶接することができ、また溶接後の強度も十分に高いため、この点でも、本発明の圧力容器のシールド部の材料は優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の13族元素窒素化合物結晶製造用圧力容器の概略断面図。
【図2】本発明の圧力容器のシールド部の概略断面図。
【図3】本発明のコーン部上部に接続する上部配管の概略図。
【図4】本発明の圧力容器を用いて得られたGaN成長結晶の図面に代わる写真。
【図5】本発明の圧力容器を用いて得られたGaN成長結晶のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、化合物半導体基板として将来有望なGaNやAlNなどの13族元素窒素化合物を、工業的量産が期待できるアモノサーマル法で製造し、貴金属ライニング付き圧力容器の繰り返し使用における耐久性等について検討した。
GaNやAlNなどの13族元素窒素化合物を半導体用結晶基板として用いるためには、圧力容器材料からの鉄、ニッケル、クロミウム、コバルト、モリブデン、チタン、アルミニウムなどの溶出を防ぐため、白金などの貴金属ライニングを施した圧力容器が用いられる。しかしながら、白金などの貴金属は比較的柔らかい材料であるため圧力容器の本体と蓋部分のシールド部が磨耗し易く、圧力容器を繰り返し使用するにつれて、その磨耗したところから、溶媒が漏れ容器内の圧力が維持できず、繰り返しの使用ができなくなってくる。また、白金などの貴金属をそのままシールド部に使用して、500℃以上の高温下で保持すると、シールド部が溶解して固着してしまい、蓋が開かなくなるという問題もある。シールド部が固着した場合に、力をかけて蓋を開けるとシールド部に亀裂などの破損が発生し、圧力容器を繰り返し使用することができなくなってしまう。
【0017】
本発明者らは、アモノサーマル法によりGaNなどの13族元素窒素化合物の結晶の作製を繰り返しながら、アモノサーマル法で繰り返し使用できる貴金属ライング付き圧力容器を種々検討した。アモノサーマル法では、従来、温度400℃〜850℃、及び30MPa〜250MPaのアンモニア雰囲気において腐食しにくい白金がライング材として使用されてきたが、圧力容器のシールド部に白金を用いると、シールド部が固着したり、剥がれたり、磨耗したりして、圧力容器のシールド部による破損が原因で圧力容器の繰り返し使用ができなくなることが判明した。そこで本発明者らは、温度400℃〜850℃、及び圧力30MPa〜250MPaのアンモニア雰囲気において腐食せず、溶融による固着や、剥がれや磨耗が起こらない材料を種々検討して、圧力容器のシールド部材料としてイリジウムと白金の合金又はイリジウムが適していることを見出した。
【0018】
アモノサーマル法に用いる圧力容器のライニングは、アンモニア腐食防止という観点からは、白金、イリジウム、タングステン、レニウムが優れているが、圧力容器と密着して圧力容器の内側構造に追随してライニングできるという加工上の観点からは白金が優れている。ところが、圧力容器のシールド部分は、例えば、図1及び図2に示すように、圧力容器の本体にコーン部を押し付けて高圧下でもアンモニアが漏れないように、シールドするため、白金のように硬度が低い材料では、磨耗や傷が生じて、繰り返し使用ができない。
これは、白金の硬度、例えば白金のビッカース硬度が約40であり、圧力容器の金属材料に比べて柔らかいことに起因すると考えられる。
【0019】
本発明では、圧力容器のシールド部の材料として、イリジウムと白金の合金又はイリジウムであって、該材料の全体に対してイリジウムを20重量部〜から100重量部含有するものを用いる。イリジウムのビッカース硬度は、約220であり白金の5倍以上である。本発明では、硬度が最も低いイリジム20重量部のイリジムと白金の合金でさえ、ビッカース硬度が約120以上あり、白金に比べ磨耗などの損傷に強く、圧力容器の繰り返し使用に対して耐久性が高い。
【0020】
また、従来技術の圧力容器においては、シールド部では、例えば本体圧力容器部分と蓋部分を押し付けてシールドするため500℃以上の高温では、シールド部が溶融して密着(融着)してしまい、蓋を開ける際に、白金シールド材が剥離したり破損したりして、繰り返し使用ができない。
本発明では、圧力容器のシールド部の材料としてイリジウムと白金の合金又はイリジウムであって、該材料の全体に対してイリジウムを20重量部〜から100重量部含有するものを用いることにより、シールド部の硬度を格段に高め、シールド部に力がかかっても、磨耗や傷が起こらず、圧力容器を繰り返し使用することができる。
また、イリジムと白金の合金又はイリジウムをシールド部の材料に使用すると、温度850℃以下では、シールド部が溶融して密着(融着)することが無く、蓋を開けてもシールド材が剥離したり破損したりせず、繰り返し使用が可能となる。さらに、圧力容器のシールド部以外のライニング部としては、白金は比較的柔らかく圧力容器内側の形状に追随することができるため、白金が適している。シールド部材料にイリジウムと白金の合金又はイリジウムを用いると、白金ライング材と隙間無く溶接することができ、溶接後の強度も十分に高いので、この点でも本発明のシールド部の材料は優れているといえる。
【0021】
13族元素としては、B、Al、Ga、In等が挙げられる。13族元素窒素化合物結晶には、BN、AlN、GaN、InNが挙げられる。13族元素窒素化合物結晶には、BN、AlN、GaN、InNを含む13族元素窒素化合物の混晶などの結晶も挙げられる。
【0022】
また、これらの13族元素窒素化合物結晶にドーピング材としてマグネシムや亜鉛、炭素、シリコン、ゲルマニウムなどを、13族元素のモル数に対して1/10〜1/1000000の範囲のごく微量含んだものも、13族元素窒素化合物の結晶に含まれる。
【0023】
アンモニア雰囲気とは、純粋なアンモニア、又はアンモニアが熱分解して窒素と水素を含んだもの、あるいは、そのアンモニア雰囲気にアルカリ性や酸性などのいわゆる鉱化剤を含んだものをいう。
本発明に係るアンモニア雰囲気で13族窒素化合物結晶を製造する方法とは、高温のアンモニア雰囲気での超臨界結晶化法であり、例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等に記載される方法である。13族窒素化合物結晶を製造するための原料は、BN、AlN、InN、GaN又はこれらの混合物が、好ましく用いられる。また、この原料には、アルミニウムアミド、アルミニウムイミド、カリウムアミド、インジウムアミド、インジウムイミドなども用いられる。これらの原料で用いる13族元素を含む窒素化合物は、純度の高いものが好ましいが、使用の際、アンモニア溶媒に溶解させるので、結晶性が高い必要は無い。
【0024】
本発明に係るアンモニア雰囲気で13族窒素化合物結晶を製造する方法においては、酸性鉱化剤、アルカリ性鉱化剤、ほぼ中性の金属塩鉱化剤を用いることができる。酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物があり、塩化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウム、フッ化アンモニウムなどのハロゲン化アンモニウムなどが挙げられる。アルカリ性鉱化剤としては、アルカリ金属元素を含む鉱化剤が挙げられる。例えば、NaNH、KNH、LiNHなどのアルカリ金属アミドが挙げられる。ほぼ中性の金属塩鉱化剤には、MgCl、MgBrなどのハロゲン化マグネシウム、CaCl、BaBrなどのハロゲン化カルシウム、NaCl、NaBr、KCl、KBr、CsCl、CsBr、LiCl、LiBrなどのハロゲン化アルカリ金属化合物が挙げられる。
【0025】
酸性鉱化剤、アルカリ性鉱化剤又はほぼ中性の金属塩鉱化剤は、アンモニア溶媒に溶解させて用い、原料の窒素化合物の溶解を促進させる働きがある。これらの鉱化剤の使用割合は、鉱化剤/アンモニアモル比が通常0.0001〜0.2となる範囲であり、鉱化剤/アンモニアモル比が0.001〜0.1となる範囲が好ましく、鉱化剤/アンモニアモル比が0.005〜0.05となる範囲がより好ましい。
【0026】
本発明において、アンモニア雰囲気の温度(圧力容器の内部温度)は、通常600℃〜850℃、好ましくは630℃〜800℃、より好ましくは650℃〜750℃である。アンモニア雰囲気の温度が600℃より低い場合には、13族元素窒素化合物結晶の成長速度が遅く生産性の高い製造には向かない。アンモニア雰囲気の温度は、600℃〜750℃程度までは温度が高いほど13族元素窒素化合物結晶の結晶成長速度が大きく製造に適しているが、750℃〜850℃までは、温度を上げても結晶成長速度が大きくなる効果は小さい。しかしながら温度を上げれば上げるほど圧力容器の耐温の要求も高くなり、圧力容器の材質上、耐圧も要求されるので、アンモニア雰囲気温度が850℃を超えるのは製造上適当ではない。
【0027】
アンモニア雰囲気の圧力条件は、通常20MPa〜500MPa、好ましくは30MPa〜250MPa、より好ましくは70MPa〜200MPaである。圧力が20MPaより低いと、13族元素窒素化合物結晶の成長速度が遅すぎて、製造には向かない。一方、圧力が500MPaを超えると、大きい容積の圧力容器を製造することが困難であるため、製造には向かない。圧力20MPa〜500MPaの範囲では、13族元素窒素化合物結晶の結晶成長速度は、圧力が高ければ高いほど速く製造上望まれるが、圧力が高いと大型の圧力容器にコストがかかり、適当ではない。アモノサーマル法は、圧力の観点から工業的には、人工水晶の水熱合成に似ていることを考慮すると、適切な圧力は、70MPaから200MPaであると考える。但し、本発明においては、アンモニア雰囲気の圧力条件は、30MPa〜250MPaである。
【0028】
図1は、本発明に係る13族元素窒素化合物結晶の製造方法に用いることができる圧力容器の概略断面図であり、図2は、本発明に用いるシールド部の概略図である。
【0029】
本発明でいう「圧力容器のシールド部」とは、圧力容器を構成する部品の内、圧力容器の溶媒が接する部分であり、しかも圧力容器を構成する2つ以上の部品を密着させて圧力を保持する部分をいう。例えば、図1及び図2で示す圧力容器の場合、「圧力容器のシールド部」とは、本体胴部側の受け側の本体胴シールド部(2)とコーン蓋部側のコーン蓋シールド部(4)の両者を指す。図1および図2のような圧力容器のシールド部の方式をコーンシール方式という。本発明では、例えば、コーンシール方式を用いた場合には、本体胴シールド部(2)とコーン蓋シールド部(4)の両者が「圧力容器のシールド部」に当たり、このシールド部の材料が、イリジウムと白金の合金又はイリジウムであって、該材料の全体に対してイリジウムを20重量部〜100重量部含有するもので構成される。このシールド部材料のインジウムの含有量は、20重量部〜100重量部が好ましく、40重量部〜100重量部がより好ましく、60重量部〜100重量部さらに好ましい。インジウムの含有量が20重量部未満では、硬度が白金に近づき、磨耗や熱による融着が起こりやすく適当ではない。インジウムの含有量が高いほど、硬度が高く、磨耗や熱による融着が起こりにくい。本発明のシールド部材料を用いることによって、アモノサーマル法による13族元素窒素化合物結晶の製造における圧力容器の繰り返し使用における耐久性が、格段に向上する。
【0030】
圧力容器のシールド部の厚みは、高温高圧のアンモニアの腐食を防ぎ、かつシールド部の磨耗や破損、熱による融着を防止できればよい。具体的には、シールド部の厚みは、0.1mm〜30mmが好ましく、0.3mm〜20mmがより好ましく、0.5mm〜10mmがさらに好ましい。シールド部が0.1mmより薄い場合には、剥がれ易く傷に対して亀裂が起こり易く適当ではない。また、シールド部材料は高価な貴金属材料であるため、30mmより厚くするのはコスト的に適当ではない。
【0031】
本発明でいう「圧力容器のシールド部」のシールド方式は特に限定をしないが、例えばコーンシール方式、ガスケット方式、グレイロック方式であることができる。いずれのシール方式でもシールド部の材料の磨耗や融着を防ぐことが、圧力容器の繰り返し使用に必要であり、本発明のシールド部材料を用いることにより、圧力容器の繰り返し使用における耐久性が、格段に向上する。
【0032】
13族元素窒素化合物結晶の製造は、先ず、圧力容器内に、鉱化剤、酸素除去添加剤、13族金属元素を含む原料を入れ、圧力容器内にアンモニア溶媒を導入して、圧力容器を封止する。圧力容器内にアンモニアを導入する前に、圧力容器内を脱気して真空に保ち、酸素や水分を除去することが好ましい。圧力容器にアンモニアを導入するときには、圧力容器をアンモニアの沸点以下に冷やすと、アンモニアの蒸気圧が低いため、圧力容器を封止するのが容易である。
【0033】
13族元素窒素化合物結晶は、圧力容器内で製造される。本発明に用いる圧力容器は、13族元素窒素化合物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐えうるものの中から選択する。本発明に用いる圧力容器は、耐圧性と耐侵食性を有する材料で構成されており、このような材料としては、好ましくは、Inconel625(Inconelは、The International Nickel Company, Inc. の登録商標)、Rene41(Reneは、Alvac Metals Company の登録商標)、Udimet520(Udimetは、Special Metals, Inc.の登録商標)が挙げられる。
【0034】
圧力容器の耐侵食性を向上させるために、圧力容器のシールド部以外でアンモニアに触れる部分を白金、金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウムなどの金属又はこれらの合金でライニング又はコーティングすることが好ましい。特に、白金やイリジウム又はそれらの合金でライニングされた圧力容器が好ましい。なお圧力容器のシールド部とこのライニング部分を常に密着させて使用する場合には、圧力容器のシールド部とライング部分の密着部分を溶接することが好ましい。
【0035】
13族窒素化合物結晶の製造方法における結晶成長時間としては、1日以上一年以下が好ましく、より好ましくは2日以上6ヶ月以下である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を非制限的な実施例により具体的に説明する。
[実施例1〜4]
図1及び図2に示す圧力容器を用いてGaNの結晶成長を行った。
圧力容器の材料はRene41(Reneは、Alvac Metals Company の登録商標)であり、本体胴シールド部2とコーン蓋シールド部4のシールド部材料は、イリジウム20重量部のイリジウムと白金の合金を用いた。本体胴シールド部2のイリジウムと白金の合金の厚さは上面から12mm側面から11mmであり、コーン蓋シールド部4の厚みは1.0mmであった。用いた圧力容器のシールド部以外のアンモニアが接する容器内側部分は厚さ0.5mmの白金で内張りライニングを施した。圧力容器の内径は8mm、内面筒長さ約204mm、容積約10mlであった。
【0037】
圧力容器の本体胴部1の筒の底に、鉱化剤として乾燥させた純度99.99%のNHCl粉体0.19gを置いた。次いで、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置きその上に、HVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚をGaN原料として置いた。次いで図1に示すように、本体胴部1の上にコーン蓋部3を載せ、緩衝パッキング材6と外側蓋部5をセットし、外側蓋部5と本体胴部1をしっかりとねじ止めした。さらにコーン蓋部3の上部に、図3に示す上部配管をセットした。
【0038】
圧力容器全体を覆うようにヒーターを配置し、本体胴部の中心を界にして上下2段のヒーターを配置した。図1に示すように、下段の温度は、本体胴部の内面筒の底から15mmの位置に、熱伝対Aを圧力容器に差し込んで測定した。また、上段の温度は、本体胴部の内面筒の底から150mmの位置に、熱伝対Bを圧力容器に差し込んで測定した。
【0039】
図3に示すバルブ18は閉めたままで、配管7から手動バルブ16を介して一旦圧力容器内を窒素ガスで置換した後、配管7の先に真空脱気装置をつなぎ手動バルブ16を開けて、圧力容器内を排気して真空とした。その後、手動バルブ16を閉じて真空状態を維持した状態で、配管7と配管13を外して、図1に示す圧力容器と、配管7と配管13を外した上部配管を一体として重量を測定した。ついで、配管7と配管13をセットして、同様にして圧力容器内を真空にした後、本体胴部1の外側からドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、配管7から手動バルブ16を介してアンモニアを圧力容器内に充填した。アンモニアの流量を測定して、アンモニア量が−33℃の液体アンモニア状態で圧力容器内の容積の50%になるように、圧力容器内にアンモニアを充填した。アンモニア充填後に、バルブ16を閉じて、室温に戻し、再び配管7と配管13を外して上部配管付圧力容器の重さを測定して、アンモニアの充填量が適切であることを確認した。
【0040】
アンモニア雰囲気で加熱処理してGaN結晶成長を行わせるために、圧力容器の外側からヒーターで加熱して、圧力容器の下段と上段の温度が所定の上段保持温度と下段保持温度になるように12時間かけて昇温し、以下の表1に示す所定の上段保持温度と下段保持温度で24時間保持し、さらに12時間かけて60℃まで降温し、さらに室温になるまで、放置した。なお、GaN結晶成長の圧力に関しては、120MPaを超えないように手動バルブで圧を逃がしながら、所定の上段保持温度と下段保持温度において120MPaを維持するように調整した。
【0041】
圧力容器の温度がほぼ室温になっていることを確認して、圧力容器全体をヒーターから外して、配管7の出口側をアンモニア回収用スクラバー排気につなぎ手動バルブ16をゆっくり開放して、圧力容器内のアンモニアを排出させた。
圧力容器内のアンモニアを完全に排出させるために、圧力容器内に高純度窒素を圧力0.5MPaで10回圧入し、その後大気開放する操作を繰り返した。アンモニアの排気は全てアンモニア回収用スクラバー排気に接続して排気した。その後、圧力容器の蓋を開け、内部に成長したGaN結晶を確認した。
実施例1〜4の実験結果を以下の表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜4のいずれにおいても、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置いたHVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚は、全て溶解し、圧力容器の本体胴部1の筒の底や白金ライニングの内壁際に、六角柱状のGaN成長結晶が確認できた。
実施例1〜4いずれにおいても、図4の光学顕微鏡写真で示すような、長さほぼ3mm以下のほぼ六角柱状のGaN成長結晶が得られた。図4は、実施例2で得られたGaN成長結晶の光学顕微鏡写真である。この実施例2のGaN成長結晶のX線回折分析結果を図5に示す。実施例1、3、及び4においても、図5と同様のGaN成長結晶のX線回折分析結果が得られた。
GaN結晶成長実験を繰り返し、圧力容器のシールド部の繰り返し結晶成長耐久回数を測定し、表1に示した。繰り返し結晶成長耐久回数の基準は、圧力容器の部品を交換せずに結晶成長圧力120MPaが維持できた繰り返しGaN結晶成長回数をいう。
表1から分かるように、本発明の高温高圧アンモニア雰囲気下に用いる圧力容器のシールド材は、以下の表5に示す比較例に比較して、格段に繰り返し結晶成長耐久回数が多く、圧力容器の使用耐久性が向上していた。
【0044】
[実施例5〜8]
図1及び図2に示す本体胴シールド部2とコーン蓋シールド部4のシールド部材料を、イリジウム40重量部のイリジウムと白金の合金を用いた以外は、実施例1〜4と同様の方法で、GaN結晶成長を実施した。
実施例5〜8の実験結果を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例5〜8のいずれにおいても、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置いたHVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚は、全て溶解し、圧力容器の本体胴部1の筒の底や白金ライニングの内壁際に、六角柱状のGaN成長結晶が確認できた。
実施例5〜8いずれにおいても、図4の光学顕微鏡写真で示すような、長さほぼ3mm以下のほぼ六角柱状のGaN成長結晶が得られた。実施例5〜8のいずれにおいても、図5と同様のGaN成長結晶のX線回折分析結果が得られた。
GaN結晶成長実験を繰り返し、圧力容器のシールド部の繰り返し結晶成長耐久回数を測定し、表2に示した。繰り返し結晶成長耐久回数の基準は、圧力容器の部品を交換せずに結晶成長圧力120MPaが維持できた繰り返しGaN結晶成長回数をいう。
表2から分かるように、本発明の高温高圧アンモニア雰囲気下に用いる圧力容器のシールド材は、以下の表5に示す比較例に比較して、格段に繰り返し結晶成長耐久回数が多く、圧力容器の使用耐久性が向上していた。
【0047】
[実施例9〜12]
図1及び図2に示す本体胴シールド部2とコーン蓋シールド部4のシールド部材料を、イリジウム60重量部のイリジウムと白金の合金を用いた以外は、実施例1〜4と同様の方法で、GaN結晶成長を実施した。
実施例9〜12の実験結果を以下の表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例9〜12のいずれにおいても、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置いたHVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚は、全て溶解し、圧力容器の本体胴部1の筒の底や白金ライニングの内壁際に、六角柱状のGaN成長結晶が確認できた。
実施例9〜12いずれにおいても、図4の光学顕微鏡写真で示すような、長さほぼ3mm以下のほぼ六角柱状のGaN成長結晶が得られた。実施例9〜12のいずれにおいても、図5と同様のGaN成長結晶のX線回折分析結果が得られた。
GaN結晶成長実験を繰り返し、圧力容器のシールド部の繰り返し結晶成長耐久回数を測定し、表3に示した。繰り返し結晶成長耐久回数の基準は、圧力容器の部品を交換せずに結晶成長圧力120MPaが維持できた繰り返しGaN結晶成長回数をいう。
表3から分かるように、本発明の高温高圧アンモニア雰囲気下に用いる圧力容器のシールド材は、以下の表5に示す比較例に比較して、格段に繰り返し結晶成長耐久回数が多く、圧力容器の使用耐久性が向上していた。
【0050】
[実施例13〜16]
図1及び図2に示す本体胴シールド部2とコーン蓋シールド部4のシールド部材料を、イリジウム100%の純イリジウム材を用いた以外は、実施例1〜4と同様の方法で、GaN結晶成長を実施した。
実施例13〜16の実験結果を以下の表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例13〜16のいずれにおいても、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置いたHVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚は、全て溶解し、圧力容器の本体胴部1の筒の底や白金ライニングの内壁際に、六角柱状のGaN成長結晶が確認できた。
実施例13〜16のいずれにおいても、図4の光学顕微鏡写真で示すような、長さほぼ3mm以下のほぼ六角柱状のGaN成長結晶が得られた。実施例13〜16のいずれにおいても、図5と同様のGaN成長結晶のX線回折分析結果が得られた。
GaN結晶成長実験を繰り返し、圧力容器のシールド部の繰り返し結晶成長耐久回数を測定し、表4に示した。繰り返し結晶成長耐久回数の基準は、圧力容器の部品を交換せずに結晶成長圧力120MPaが維持できた繰り返しGaN結晶成長回数をいう。
表4から分かるように、本発明の高温高圧アンモニア雰囲気下に用いる圧力容器のシールド材は、以下の表5に示す比較例に比較して、格段に繰り返し結晶成長耐久回数が多く、圧力容器の使用耐久性が向上していた。
【0053】
[比較例1〜4]
図1及び図2に示す本体胴シールド部2とコーン蓋シールド部4のシールド部材料を、白金100%の純白金材を用いた以外は、実施例1〜4と同様の方法で、GaN結晶成長を実施した。
比較例1〜4の実験結果を以下の表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
比較例1〜4のいずれにおいても、圧力容器の本体胴部1の筒の底から40mmのところに白金製網を置いたHVPE法で作製した厚さ0.4mmの縦10mm横5mmのGaN板8枚は、全て溶解し、圧力容器の本体胴部1の筒の底や白金ライニングの内壁際に、六角柱状のGaN成長結晶が確認できた。
比較例1〜4のいずれにおいても、図4の光学顕微鏡写真で示すような、長さほぼ3mm以下のほぼ六角柱状のGaN成長結晶が得られた。比較例1〜4のいずれにおいても、図5と同様のGaN成長結晶のX線回折分析結果が得られた。したがって、比較例1〜4のいずれにおいても、実施例1〜16と同様にGaN結晶が得られたことが確認された。
GaN結晶成長実験を繰り返し、圧力容器のシールド部の繰り返し結晶成長耐久回数を測定し、表5に示した。繰り返し結晶成長耐久回数の基準は、圧力容器の部品を交換せずに結晶成長圧力120MPaが維持できた繰り返しGaN結晶成長回数をいう。
表5から分かるように、比較例1〜4での高温高圧アンモニア雰囲気下に用いる圧力容器のシールド材は、繰り返し結晶成長耐久回数が1回のみであり、繰り返し使用ができない。比較例1〜4のいずれにおいても、1回のGaN結晶成長により、シールド部の磨耗や剥がれが見られた。この剥がれは、融着が原因と考えられる。この剥がれの程度は、比較例1にくらべ比較例4が激しく、使用温度が高いほど剥がれの程度が大きかった。比較例1〜4のいずれにおいても、コーン蓋シールド部に剥がれが起こりやすく、本体胴シールド部には磨耗が確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 本発明の圧力容器本体胴部
2 本体胴シールド部
3 コーン蓋部
4 コーン蓋シールド部
5 外側蓋部
6 緩衝パッキング材
7 配管
8 配管
9 配管
10 配管
11 配管
12 配管
13 配管
14 3方接続ジョイント
15 3方接続ジョイント
16 手動バルブ
17 圧力計(センサー)
18 自動弁(バルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度600℃〜850℃、及び圧力30MPa〜250MPaのアンモニア雰囲気下で、13族元素窒素化合物の結晶を製造するための圧力容器であって、該アンモニア雰囲気に接する該圧力容器のシールド部の材料が、イリジウムと白金の合金又はイリジウム単体であり、ここで、イリジウムが、該シールド部の材料の全体に対して、20重量部〜100重量部で含有されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記13族元素窒素化合物がGaNである、請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
GaN結晶を製造する方法であって、以下の工程:
請求項2に記載の圧力容器内に、鉱化剤、酸素除去添加剤、及びGaNを含有する原料窒化物を投入し、さらに、アンモニア溶媒を導入した後、封止し、
その後、該圧力容器内部の温度を600℃〜850℃に、かつ、該圧力容器内部のアンモニア雰囲気の圧力を30MPa〜250MPaに保持して、前記原料GaN窒化物からGaN結晶を育成する、
を含むGaN結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153056(P2011−153056A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17174(P2010−17174)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】