説明

アーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒とその利用

【課題】アーク放電法による単層カーボンナノチューブの製造において触媒として用いることによって、すぐれた透明性と導電性を有する透明導電膜を得るための導電性材料として好適に用いることができる単層カーボンナノチューブを与える触媒を提供することを目的とし、更には、上述した触媒を用いるアーク放電法による単層カーボンナノチューブの製造方法と、このようにして得られる単層カーボンナノチューブを導電性フィラーとして用いてなる透明導電膜を提供する。
【解決手段】本発明によれば、硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜3.2モル部、鉄0.45〜2.2モル部、ニッケル0.45〜2.2モル部からなることを特徴とする、アーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒が提供される。本発明による触媒を用いて得られた単層カーボンナノチューブを用いることによって、透明性と導電性にすぐれる導電膜を製膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒に関する。詳しくは、本発明は、アーク放電法による単層カーボンナノチューブの製造において触媒として用いることによって、すぐれた透明性と導電性を有する透明導電膜を得るための導電性フィラーとして好適に用いることができる単層カーボンナノチューブを与える触媒を提供することを目的とし、更には、上述した触媒を用いるアーク放電法による単層カーボンナノチューブの製造方法と、このようにして、本発明に従って得られる単層カーボンナノチューブを導電性フィラーとして用いてなる透明導電膜を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイやタッチパネル等の製造に必要不可欠のものである。このような透明導電膜の材料としては、従来、ITO(インジウム−スズ酸化物)が広く用いられているが、しかし、ITOは、原料インジウムが希少資源であるうえに、ITOを用いて得られる透明導電膜は可撓性に乏しいために用途が制限されている。
【0003】
このような事情にあって、最近、ITOの代替材料の開発が強く求められるに至っており、なかでも、単層カーボンナノチューブがすぐれた導電性と可撓性を有することに加えて、資源供給の点において、豊富さと安定性があることから注目されている。しかし、一方において、単層カーボンナノチューブを用いて得られる導電膜は、用いた単層カーボンナノチューブの直径や長さ、カイラリティ等の構造の相違によって、透明導電膜としての性能が変化することが知られている。
【0004】
一般に、絶縁体からなる基材上にカーボンナノチューブのような導電性フィラーからなる層を設ける場合に、その導電性フィラーの存在密度がある値以上に達するとき、導電性フィラー同士が互いに接触し、電気伝導が生じるというパーコレーション理論に基づけば、電気伝導が生じるかどうかが決定される存在密度(パーコレーション閾値)Pcは、次式のように表される(非特許文献1参照)。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、Pはフィラーの連結確率、Dはフィラーの直径、Lはフィラーの長さ、dcは電気的接触が発生する距離である。即ち、単層カーボンナノチューブは、長さが大きく、直径が小さい程、L/Dの値が大きくなるので、Pcが小さくとも、導電性にすぐれた導電膜を得ることができると考えられる。また、カイラリティは単層カーボンナノチューブが金属的性質(即ち、金属性)を有するか、又は半導体的性質(半導体性)を有するかを決定する。単層カーボンナノチューブは、金属性の単層カーボンナノチューブを多く含む程、大きい導電性を有する。
【0007】
従って、カーボンナノチューブを導電性フィラーとして用いて透明性と導電性にすぐれる導電膜を製造するには、カーボンナノチューブを精製して、導電膜の製造に適した構造のカーボンナノチューブを得ること、又はカーボンナノチューブを製造する段階において、導電膜の製造に適した構造を有するカーボンナノチューブを得ることが必要である。
【0008】
一般に、カーボンナノチューブを精製する方法は、従来、種々のものが既に提案されている。例えば、過酸化水素による分解速度の違いを利用し、金属性乃至半導体性の単層カーボンナノチューブのうち、導電性にすぐれた金属性の単層カーボンナノチューブの割合を増加させることが提案されている(特許文献1及び非特許文献2参照)。しかし、この方法によれば、金属性の単層カーボンナノチューブの割合を半数以上に増加させるまでに、単層カーボンナノチューブの総量が著しく減少する問題がある。
【0009】
また、単層カーボンナノチューブの水分散液に中空糸膜を用いるクロスフロー濾過を適用して、長さ1.5μm以下の短いバンドル(束)を形成する単層カーボンナノチューブを取り除き、そのような単層カーボンナノチューブを用いることによって、同じ透明性をもつ導電膜であっても、その導電性を高めることができることが知られている(特許文献2参照)。
【0010】
単層カーボンナノチューブの長さを制御するには、硝酸と硫酸の混酸や、過酸化水素、過硫酸塩化合物等の酸化剤を用いてカーボンナノチューブ壁の欠陥部分を切断し、短いカーボンナノチューブの割合を増加させる方法が知られている(特許文献3及び非特許文献3参照)。しかし、単層カーボンナノチューブの長さを小さくすることは、上述したように、導電膜の製造という観点からは有用ではない。
【0011】
このように、カーボンナノチューブを精製する方法は、種々のものが提案されているにもかかわらず、透明導電膜の原材料としてすぐれた性質を有する単層カーボンナノチューブそのものの製造方法については、未だ、十分に解明されていない。
【0012】
単層カーボンナノチューブの主な製造方法としては、アーク放電法、気相化学蒸着法(CVD)等が知られている。CVD法は大量合成に適するものの、生成するカーボンナノチューブの構造に欠陥が多い、即ち、結晶性が低いという問題が指摘されている(特許文献4参照)。カーボンナノチューブの構造に欠陥があるときは、そのようなカーボンナノチューブを用いても、高い導電性を有する導電膜を得ることはできない。一方、アーク放電法によれば、得られるカーボンナノチューブは、純度は低いものの、結晶性が高いので、透明導電膜用途のカーボンナノチューブの製造方法としては、CVD法よりもアーク放電法の方がすぐれている(特許文献5及び6参照)。
【0013】
アーク放電法における触媒に関する研究は十年以上前から行われている。例えば、Liu等は、圧力200torrの水素雰囲気下におけるアーク放電法において、硫黄1.0モル部に対して、コバルト0.93モル部、鉄1.93モル部及びニッケル3.47モル部を含む炭素ロッドを陽極に用いた際に、最もよい収率で単層カーボンナノチューブを得たと報告している(非特許文献4)。Kiangらは、コバルト触媒に硫黄を添加することによって、コバルトのみを用いた場合よりも、直径の大きい単層カーボンナノチューブを得ることができることを報告している(非特許文献5参照)。
【0014】
しかし、ある組成の触媒を用いて単層カーボンナノチューブを得、この単層カーボンナノチューブを用いて透明導電膜を製造したとき、その触媒の組成と得られる透明導電膜の性能との関係については、従来、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−188380号公報
【特許文献2】特開2008−251273号公報
【特許文献3】特開2008−100895号公報
【特許文献4】特開2001−020071号公報
【特許文献5】特開平6−157016号公報
【特許文献6】特開2006−036575号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】遠藤ら監修、「ナノカーボンハンドブック」(2007年7月17日、株式会社エヌ・ティー・エス発行、第470頁)
【非特許文献2】Y. Miyata et al., J. Phys. Chem. B, 110, 25(2006).
【非特許文献3】J. Liu et al., Science, 280, 1253(1998).
【非特許文献4】C. Liu et al., Carbon, 37, 1865(1999).
【非特許文献5】C.-H. Kiang et al., J. Phys. Chem., 98, 6612(1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明は、アーク放電法において、透明性と導電性にすぐれた透明導電膜を製造するために好適に用いることができる単層カーボンナノチューブを製造することができる触媒を提供することを目的とする。更に、本発明は、そのような触媒を用いるアーク法による単層カーボンナノチューブの製造方法と、このようにして製造された単層カーボンナノチューブを用いて得られる透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜3.2モル部、鉄0.45〜2.2モル部、ニッケル0.45〜2.2モル部からなることを特徴とする、アーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒が提供される。
【0019】
なかでも、本発明によれば、好ましい触媒として、硫黄1モル部に対し、コバルト2.8〜3.2モル部、鉄0.9〜1.1モル部、ニッケル0.9〜1.1モル部からなることを特徴とする触媒と、硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜1.1モル部、鉄1.8〜2.2モル部、ニッケル1.8〜2.2モル部からなることを特徴とする触媒が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明による触媒を用いて得られる単層カーボンナノチューブは、長さの面で透明性と導電性にすぐれた導電膜の製造に適する構造を有し、そのような透明導電膜は、液晶ディスプレイやタッチパネル等の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1及び3において得られた精製単層カーボンナノチューブの水分散液の吸収スペクトルである。
【図2】比較例1及び3において得られた精製単層カーボンナノチューブの水分散液の吸収スペクトルである。
【図3】実施例1、2及び4において得られた精製単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル図(ラジアルブリージングモードのピークが観測される波数領域)である。
【図4】比較例3、4及び6において得られた精製単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル図(ラジアルブリージングモードのピークが観測される波数領域)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のアーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒は、硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜3.2モル部、鉄0.45〜2.2モル部、ニッケル0.45〜2.2モル部からなる。
【0023】
本発明によれば、真空反応容器中において、不活性ガス雰囲気下にこのような触媒とグラファイトからなる陽極とグラファイトからなる陰極との間に直流アーク放電を生じさせ、陽極を蒸発させ、この蒸気を凝縮させるアーク放電法によって、透明性と導電性にすぐれた導電膜の製造に適した構造を有する単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【0024】
アーク放電に用いる真空反応装置は、真空反応容器中に触媒を含む陽極と陰極を備え、不活性ガス雰囲気下にアーク放電法によって単層カーボンナノチューブを生成させることができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0025】
従って、陽極の形態や構造も、上述したようなアーク放電法によって触媒と炭素とを同時に蒸発させることができれば、特に限定されず、一例として、円柱状のグラファイトロッドに中心軸に沿って孔を穿ち、その孔に触媒とグラファイト粉末の混合物を充填したものを挙げることができる。しかし、上記以外にも、例えば、グラファイトやカーボンブラック等の炭素材料と触媒とを混練し、一体に成形してなるものでもよい。
【0026】
本発明によれば、上述したような陽極において、触媒の炭素材料に対する割合は、特に限定されないが、通常、5〜15重量%の範囲であり、好ましくは、7〜13重量%の範囲である。
【0027】
用いる不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができるが、ヘリウムが好ましい。また、雰囲気ガスの圧力は、特に限定されないが、通常、50〜760Torrの範囲であり、好ましくは、100〜200Torrの範囲である。
【0028】
一般に、アーク放電法によって製造された単層カーボンナノチューブには、本発明による触媒を用いる場合を含めて、アモルファスカーボンや触媒金属等の不純物が含まれている。これら不純物は、従来、知られている種々の方法によって除去することができる。例えば、空気中における焼成や、硝酸、硫酸、過酸化水素等による湿式酸化、遠心分離、これらの組み合わせ等を挙げることができる。これらのなかでも、単層カーボンナノチューブの精製方法としては、アモルファスカーボンと触媒金属粒子の双方に効果的であることから、硝酸による酸化と遠心分離の組み合わせが好ましい。
【0029】
このようにして精製しても、単層カーボンナノチューブには、尚も、透明導電膜の製造に用いるに適さない長さの単層カーボンナノチューブが残存している。このような単層カーボンナノチューブは、例えば、その水分散液に中空糸膜を用いるクロスフロー濾過を行適用することによって除去することができる。
【0030】
本発明によれば、このようにして精製された単層カーボンナノチューブを溶媒中、好ましくは、水に分散させて分散液とし、これを基材上に塗布し、溶媒を乾燥、除去することによって、透明導電膜を得ることができる。
【0031】
単層カーボンナノチューブを水に分散させるには、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等の分散剤を用いる方法や、超音波照射による方法、これらの組み合わせ等によることができる。
【0032】
本発明に従って、このようにして得られる透明導電膜は、例えば、550nmの可視光に対する透過率80%において、200Ω/□〜480Ω/□程度の低い抵抗値を有する。これに対して、従来から知られている触媒を用いて製造された単層カーボンナノチューブを用いることによっては、得られる導電膜は500Ω/□より高い抵抗値を示す。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
(単層カーボンナノチューブの製造)
コバルト/鉄/ニッケル/硫黄モル比=2.5/1/1.5/1にて混合して、触媒を調製し、更に、この触媒とグラファイト粉末を重量比3:2で混合して混合物を得た。ニッケルは三津和化学薬品(株)製を用い、その他の金属、硫黄及びグラファイト粉末は和光純薬工業(株)製を用いた。
【0035】
直径9mm、長さ220mmの円柱型グラファイトロッドに中心軸に沿って穿った直径3mmの孔中に上記触媒とグラファイト粉末の混合物を充填した。グラファイトロッドへの充填前と充填後の重量差から求めた陽極中の炭素材料に対する触媒の割合は9重量%であった。
【0036】
上記触媒とグラファイト粉末の混合物を充填したグラファイトロッドを陽極、グラファイトロッドを陰極として、アーク放電法にて反応させ、単層カーボンナノチューブの集合体、即ち、これを含む布状にまとまった煤を得た。反応容器の雰囲気ガスはヘリウムを用い、圧力を120Torrとした。
【0037】
(単層カーボンナノチューブの精製)
このようにして得られた単層カーボンナノチューブを含む布状の煤1gを前記非特許文献3に記載された方法を参考にして精製した。即ち、69%硝酸水溶液100mLを加え、加熱還流条件下に2日間反応させた。得られた反応混合物を冷却した後、これにイオン交換水を加え、遠心分離して、粗製の単層カーボンナノチューブを得た。次に、この粗製の単層カーボンナノチューブをトライトンX−100(和光純薬工業(株)製)の0.5重量%水溶液に分散させ、これに水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを10に調節した。
【0038】
この分散液を限外濾過装置(SPECTRUM社製、MidiKros、中空糸膜の孔径は200nm)において、バッファにトライトンX−100の0.2重量%水溶液を用いて、クロスフロー濾過を行って、精製単層カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0039】
(単層カーボンナノチューブの評価)
上記精製単層カーボンナノチューブ分散液を基材ポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製コスモシャインA4100)にスプレーコートし、分散剤をメタノールで洗浄、除去した後、乾燥させて、表面に導電膜を製膜した。この導電膜の表面抵抗を4端子2探針法(ダイアインスツルメンツ社製、ロレスターFP)にて測定した。また、分光光度計(日立(株)製、U−2000)を用いて、基材ポリエステルフィルムを含む上記透明導電膜の550nmの可視光に対する透過率を測定した。透過率が80%であるときの表面抵抗の測定値を表1に示す。
【0040】
実施例2〜6
表1に示す組成を有する触媒を実施例1と同様にしてグラファイト粉末と重量比3:2で混合して混合物を得、これを表1にて示す割合にて実施例1と同じグラファイトロッドの孔に充填した。このように触媒とグラファイト粉末の混合物を充填したグラファイトロッドを陽極として用いた以外は、実施例1と同様にして、単層カーボンナノチューブを製造し、これを精製し、得られた精製単層カーボンナノチューブを用いて、実施例1と同様にして、透明導電膜を製膜し、その性能を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例1〜6
表2に示す組成を有する触媒を実施例1と同様にしてグラファイト粉末と重量比3:2で混合して混合物を得、これを表2にて示す割合にて実施例1と同じグラファイトロッドの孔に充填した。このように触媒とグラファイト粉末の混合物を充填したグラファイトロッドを陽極として用いた以外は、実施例1と同様にして、単層カーボンナノチューブを製造し、これを精製し、得られた精製単層カーボンナノチューブを用いて、実施例1と同様にして、透明導電膜を製膜し、その性能を評価した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
比較例7
アーク放電法において、鉄を触媒に用いて製造された市販の単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン(株)製、FH−A)を実施例1と同様にして、精製し、これを用いて透明導電膜を製膜し、その性能を評価した。その結果、550nmの可視光に対する透過率が80%であるとき、表面抵抗値は1000Ω/□であった。
【0045】
表1及び表2と共に比較例7に示すように、アーク放電法において、本発明による触媒を用いて得られた単層カーボンナノチューブを用いることによって、200Ω/□〜480Ω/□程度の低い抵抗値を有する導電膜を得ることができる。しかし、比較例において得られた単層カーボンナノチューブを用いて得られる導電膜はいずれも、500Ω/□以上の高い抵抗値を示す。
【0046】
透明導電膜の製造に適する単層カーボンナノチューブは、構造の観点からみて、条件1として、金属性単層カーボンナノチューブを多く含むか、条件2として、直径が小さいか、又は条件3として、長さが大きいかのいずれか1つ以上の条件を満たすものである。
【0047】
条件1は、単層カーボンナノチューブの紫外−可視吸収スペクトルを測定することによって評価することができ、条件2は、単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを測定することによって評価することができる。単層カーボンナノチューブ単体は互いに凝集してバンドル(束)構造を形成しやすいので、一本毎の長さを直接に評価することは困難であるが、透明導電膜としての性能の向上が上記条件1や条件2を満たす単層カーボンナノチューブを用いることによるものではないことが上記スペクトルによる評価において明らかになれば、この場合には、条件3によるものであると推測することができる。
【0048】
(吸収スペクトルによる金属性又は半導体性単層カーボンナノチューブの割合についての比較)
実施例1、3、比較例1及び3のそれぞれにおいて得られた精製単層カーボンナノチューブの水分散液の吸収スペクトル(日立(株)製、U−2000)を測定した。結果を図1及び図2に示す。図中、記号Mで示した600〜800nmの領域に現れるピークは金属性単層カーボンナノチューブに由来する吸収ピークであり、記号Sで示した830〜1100nmの領域に現れるピークは半導体性単層カーボンナノチューブに由来する吸収ピークである。これらのピークについて積分値の比S/Mを求めた場合、S/Mが小さくなるほど、金属性単層カーボンナノチューブの割合が増加していると考えられる。
【0049】
そこで、実施例1、3比較例1及び3のそれぞれにおいて得られた上記精製単層カーボンナノチューブについて、積分値の比S/Mをそれぞれ求めたところ、実施例1では1.50、実施例3では1.56、比較例1では1.57、比較例3では1.45となり、実施例による単層カーボンナノチューブと比較例による単層カーボンナノチューブとの間で有意な差は見出されなかった。かくして、実施例による導電膜と比較例による導電膜の間の抵抗値の差は、用いた単層カーボンナノチューブにおける金属性単層カーボンナノチューブの割合の相違によるものではないことが理解される。
【0050】
(ラマンスペクトルによる単層カーボンナノチューブの直径についての比較)
実施例1、2、4、比較例3、4及び6のそれぞれにおいて得られた精製単層カーボンナノチューブの水分散液20mLをとり、イソプロピルアルコール20mLを加えて単層カーボンナノチューブを凝集させ、メンブレンフィルターで濾過、回収した。この精製単層カーボンナノチューブについて、ラマンスペクトル(日本分光(株)製、NRS−3100)を励起波長532nmにて測定した。100〜300cm-1の波数領域における測定結果を図3及び図4に示す。
【0051】
この領域に現れるピークは単層カーボンナノチューブのラジアルブリージングモード(外周方向への分子振動)に由来しており、このピークトップの波数はカーボンナノチューブの直径の逆数に比例することが知られている。ラマンスペクトルにおいて、ピークトップが高波数側にシフトしているもの、即ち、直径の小さい単層カーボンナノチューブを用いて得られる導電膜が必ずしも抵抗値において低いということはない。従って、実施例による導電膜と比較例による導電膜の間の抵抗値の差は、単層カーボンナノチューブの直径の違いによるものではないことが理解される。
【0052】
以上から、本発明によって得られる単層カーボンナノチューブは、紫外−可視吸収スペクトル及びラマンスペクトルによる評価の結果、前記条件3を満たすことによって、即ち、長さが大きいという構造的な条件によって、透明導電膜の製造に適する構造を備えているものと理解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜3.2モル部、鉄0.45〜2.2モル部、ニッケル0.45〜2.2モル部からなることを特徴とする、アーク放電法による単層カーボンナノチューブ製造用触媒。
【請求項2】
硫黄1モル部に対し、コバルト2.8〜3.2モル部、鉄0.9〜1.1モル部、ニッケル0.9〜1.1モル部からなることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
硫黄1モル部に対し、コバルト0.9〜1.1モル部、鉄1.8〜2.2モル部、ニッケル1.8〜2.2モル部からなることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の触媒を含む陽極を用いることを特徴とする、アーク放電法による単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によって得られる単層カーボンナノチューブを導電性フィラーとして用いてなる透明導電膜。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−78867(P2011−78867A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231253(P2009−231253)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(302069734)本荘ケミカル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】