説明

イオンソースヘッド及びそれを用いたイオン注入装置

【課題】金属材料をイオン注入する場合であっても、寿命が長く、高濃度のイオン注入を行うことが可能なイオンソースヘッド及びそれを用いたイオン注入装置を提供する。
【解決手段】本発明のイオンソースヘッド200は、アークチャンバ202と、両端部がアークチャンバ202外に露出するようにアークチャンバ202内に配置されたフィラメント204と、フィラメント204の端部と電気的に接続するフィラメント電極206と、フィラメント電極206の少なくとも一部を覆う位置に配置された絶縁体214とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体装置の製造過程において、半導体基板に不純物拡散層を形成するためにイオン注入を行うイオン注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、半導体装置として必要な半導体特性を得るために、半導体基板に不純物を導入することが多い。半導体基板に不純物を導入する際には、イオン注入装置を用いて不純物をイオン状態にし、不純物イオンを半導体基板に注入している(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図5は従来のイオン装置の構成を示す概略図である。従来のイオン注入装置500は、内部でイオンを発生させ、発生したイオンを外部に放出するイオンソース部502と、イオンソース部502で発生したイオンの中から必要なイオンを質量別に選別し、分離する質量分析器504と、質量分析器504で選別されたイオンを加速してイオンビームにする加速器506と、ウエハを保持し、イオンビームをウエハに照射してウエハ内にイオンを注入するイオン注入室508とを有する。
【0004】
従来のイオン注入装置のイオンソース部502では、イオンを発生させる際、アーク放電が発生しているアークチャンバ内に不純物ガスを導入し、アーク放電を利用して不純物ガスをプラズマ状態にすることにより、アークチャンバ内でイオンを発生させている。
【0005】
図6は、従来のイオン注入装置500のイオンソース部502内に設置されるイオンソースヘッド600の構成を示す側面図であり、図7は、従来のイオンソースヘッド600におけるアークチャンバ602周辺部の構成を示す断面図である。
【0006】
従来のイオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッド600は、アークチャンバ602と、フィラメント604と、2本のフィラメント電極606と、固体気化器608と、フランジ610とを備えている。
【0007】
アークチャンバ602は、棒状のフィラメント604が装着される容器状のチャンバ本体700と、蓋部702とから構成される。フィラメント604は、アークチャンバ602の互いに対向する側面に設けられた開口部を通してアークチャンバ602内に挿入される。アークチャンバ602の開口部において、アークチャンバ602の側面とフィラメント604が接触しないように、フィラメント604を覆うように絶縁体612が設けられている。2本のフィラメント電極606は各々フランジ610に固定され、フランジ610に固定された側と反対側の端部において、フィラメント604の端部と各々接続されている。また、アークチャンバ602とフィラメント電極606とが接触しないように、アークチャンバ602とフィラメント電極606との間に絶縁体614が配置されている。
【0008】
固体気化器608はフランジ610に固定され、固体気化器608内とアークチャンバ602内とはガス管616により接続されている。
【0009】
固体気化器608内では、固体気化器608内に保持された固体不純物が加熱されることにより気化し、不純物ガスが発生する。発生した不純物ガスは、ガス管616を通してアークチャンバ602内に供給される。イオンソース部502内において、イオンソースヘッド600は真空状態に維持されている。フィラメント電源からフィラメント電極606を介してフィラメント604に電流を流すことにより、フィラメント604で熱電子が発生し、続いてアーク放電が発生して、アークチャンバ602内がプラズマ状態となる。これによりアークチャンバ602内で発生した不純物イオンは、アークチャンバ602の蓋部702に設けられたスリット704を通してアークチャンバ602の外部に引き出される。引き出された不純物イオンは質量分析器504において質量別に選別される。選別された不純物イオンは、加速器506により加速され、イオン注入室508内に保持されたウエハに照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−115704号公報
【特許文献2】特開平6−349431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、半導体製造プロセスにおいて、不純物として絶縁性の物質が用いられてきたが、最近、化合物半導体を用いた半導体デバイスを作成するために、金属材料を半導体内にイオン注入することが求められている。
【0012】
しかし、上記従来の構造では、イオンビーム源となる金属がアークチャンバ602内においてプラズマ分解されイオン化された時に、その金属イオンが、フィラメント電極606とアークチャンバ602とを絶縁する絶縁体614に付着する。これにより、短時間でイオンソースヘッド600の絶縁性が低下したり、アーク電流がリークし高濃度のイオン注入ができないという問題点があった。
【0013】
固体気化器608内において、例えば三塩化アルミニウムを昇華させてアークチャンバ602内に導入し、アーク放電によりイオン化すると、アルミニウムイオンは正の電荷を帯びており、塩化物イオンは負の電荷を帯びている。
【0014】
アークチャンバ602の密閉性は低いため、アークチャンバ602内で生成したイオンはアークチャンバ602外に漏れ出す。またイオンビームの引き出し口であるスリット704から引き出されたイオンの一部がフィラメント電極606側に回り込む。アークチャンバ602外に漏れ出したイオンは、それぞれ相反する電荷をもつフィラメント電極606に引き寄せられる。このため、アルミニウムイオンが、フィラメント電極606とアークチャンバ602とを絶縁する絶縁体614に容易に付着してしまう。
【0015】
そこで本発明は上記従来の問題点に鑑み、金属材料をイオン注入する場合であっても、寿命が長く、高濃度のイオン注入を行うことが可能なイオンソースヘッド及びそれを用いたイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来の課題を解決するため、本発明のイオンソースヘッドは、アークチャンバと、両端部が前記アークチャンバ外に露出するように前記アークチャンバ内に配置されたフィラメントと、前記フィラメントの端部と電気的に接続するフィラメント電極と、前記フィラメント電極の少なくとも一部を覆う位置に配置された絶縁体とを備える。
【0017】
また、本発明のイオン注入装置は、上記イオンソースヘッドを有するイオンソース部と、前記イオンソース部で発生したイオンを質量別に選別する質量分析器と、前記質量分析器で選別された前記イオンを加速する加速器と、前記加速器で加速された前記イオンを半導体基板に照射するイオン注入室とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイオンソースヘッド及びイオン注入装置によれば、フィラメント電極とアークチャンバとの間の絶縁性が低下することを抑制することができるので、寿命が長く、高濃度のイオン注入を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係るイオン注入装置の構成を示す概略図
【図2】同イオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッドの構成を示す側面図
【図3】同イオンソースヘッドにおけるアークチャンバ周辺部の構成を示す断面図
【図4】本発明の他の実施の形態に係るイオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッドの構成を示す側面図
【図5】従来のイオン装置の構成を示す概略図
【図6】従来のイオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッドの構成を示す側面図
【図7】従来のイオンソースヘッドにおけるアークチャンバ周辺部の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のイオンソースヘッドは、アークチャンバと、両端部が前記アークチャンバ外に露出するように前記アークチャンバ内に配置されたフィラメントと、前記フィラメントの端部と電気的に接続するフィラメント電極と、前記フィラメント電極の少なくとも一部を覆う位置に配置された絶縁体とを備える。
【0021】
ある実施形態において、前記絶縁体が、前記フィラメント電極のうち、前記フィラメント電極と前記アークチャンバとが近接している部分を覆うように配置されていることが好ましい。
【0022】
また、ある実施形態において、前記フィラメント電極を固定するフランジをさらに備え、前記絶縁体が、前記フィラメント電極のうち、前記フィラメント電極と前記アークチャンバとが近接している部分から、前記フランジと固定されている部分までを覆うように配置されていてもよい。
【0023】
また、ある実施形態において、金属を気化させるための固体気化器と、前記固体気化器と前記アークチャンバとを接続するガス管とをさらに備えていてもよい。
【0024】
絶縁体の材料としては、酸化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、ダイヤモンド等を用いることができる。この中で、絶縁体が酸化アルミニウムにより構成されることが好ましい。
【0025】
本発明のイオン注入装置は、上記のイオンソースヘッドを有するイオンソース部と、前記イオンソース部で発生したイオンを質量別に選別する質量分析器と、前記質量分析器で選別された前記イオンを加速する加速器と、前記加速器で加速された前記イオンを半導体基板に照射するイオン注入室とを備える。
【0026】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係るイオン注入装置及びイオンソースヘッドについて、図1〜3を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係るイオン注入装置の構成を示す概略図、図2は、同イオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッドの構成を示す側面図、図3は、同イオンソースヘッドにおけるアークチャンバ周辺部の構成を示す断面図である。
【0028】
本実施の形態に係るイオン注入装置100は、内部でイオンを発生させ、発生したイオンを外部に放出するイオンソース部102と、イオンソース部で発生したイオンの中から必要なイオンを質量別に選別し、分離する質量分析器104と、質量分析器で選別されたイオンを加速してイオンビームにする加速器106と、ウエハを保持し、イオンビームをウエハに照射してウエハ内にイオンを注入するイオン注入室108とを有する。
【0029】
イオン注入装置100のイオンソース部102内に設置されるイオンソースヘッド200は、アークチャンバ202と、フィラメント204と、ロッド形状である2本のフィラメント電極206と、固体気化器208と、フランジ210とを備えている。
【0030】
アークチャンバ202は、棒状のフィラメント204が装着される容器状のチャンバ本体300と、蓋部302とから構成される。また、チャンバ本体300及び蓋部302は、モリブデンにより作られている。フィラメント204は、図3に示すように、絶縁体212を介して、アークチャンバ202の相対向する側面の中央部に設けられた開口部を貫通するように取り付けられる。絶縁体212の材料としては、酸化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、ダイヤモンド等を用いることができる。この中で、絶縁体212が酸化アルミニウムにより構成されることが好ましい。
【0031】
2本のフィラメント電極206は各々フランジ210に固定され、フランジ210に固定された側と反対側の端部において、フィラメント204の端部と各々接続されている。2本のフィラメント電極206のうち、アークチャンバ202との距離が近い部分の周囲は、円筒形状の絶縁体214によりそれぞれ覆われている。絶縁体214の材料としては、酸化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、ダイヤモンド等を用いることができる。この中で、絶縁体214が酸化アルミニウムにより構成されることが好ましい。
【0032】
固体気化器208はフランジ210に固定され、固体気化器208内とアークチャンバ202内とはガス管216により接続されている。
【0033】
固体気化器208内では、固体気化器208内に保持された固体不純物が加熱されることにより気化し、不純物ガスが発生する。発生した不純物ガスは、ガス管216を通してアークチャンバ202内に供給される。イオンソース部102内において、イオンソースヘッド200は真空状態に維持されている。フィラメント電源からフィラメント電極206を介してフィラメント204に電流を流すことにより、フィラメント204で熱電子が発生し、続いてアーク放電が発生して、アークチャンバ202内がプラズマ状態となる。これによりアークチャンバ202内で発生した不純物イオンは、アークチャンバ202の蓋部302に設けられたスリット304を通してアークチャンバ202の外部に引き出される。引き出された不純物イオンは質量分析器104において質量別に選別される。選別された不純物イオンは、加速器106により加速され、イオン注入室108内に保持されたウエハに照射される。
【0034】
本実施の形態に係るイオンソースヘッド200では、2本のフィラメント電極206のうち、アークチャンバ202との距離が近い部分の周囲は、絶縁体214により覆われている。フィラメント電極206のうち絶縁体214により周囲を覆われている部分には、アークチャンバ202外に漏れ出した金属イオンが電気的に引き寄せられなくなるので、フィラメント電極206を覆う絶縁体214に金属イオンが付着することが抑制される。
【0035】
また、フィラメント電極206とアークチャンバ202とは、従来のように絶縁体を介して接続されてはおらず、空間的に分離されている。このため、フィラメント電極206を覆う絶縁体214に金属イオンが付着しても、イオンソースヘッド200の絶縁性は低下せずに維持される。したがって、本実施の形態に係るイオンソースヘッド200及びイオン注入装置100は、金属材料をイオン注入する場合であっても、寿命が長く、高濃度のイオン注入を行うことができる。
【0036】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係るイオン注入装置及びイオンソースヘッドについて、図4を用いて説明する。図4は、本実施の形態に係るイオン注入装置のイオンソース部内に設置されるイオンソースヘッドの構成を示す側面図である。
【0037】
本実施の形態に係るイオン注入装置は、2本のフィラメント電極406のほぼ全体が、円筒形状の絶縁体414により周囲を覆われている点で、実施の形態1に係るイオン注入装置100と異なる。絶縁体414の材料としては、酸化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、ダイヤモンド等を用いることができる。この中で、絶縁体414が酸化アルミニウムにより構成されることが好ましい。本実施の形態に係るイオン注入装置における他の構成については実施の形態1に係るイオン注入装置100と同じであるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施の形態に係るイオン注入装置のイオンソースヘッド400では、2本のフィラメント電極406のほぼ全体が絶縁体414により周囲を覆われているため、フィラメント電極406のほぼ全体について、アークチャンバ402外に漏れ出した金属イオンが電気的に引き寄せられなくなる。したがって、実施の形態1に比べて、フィラメント電極406を覆う絶縁体414に金属イオンが付着することがさらに抑制される。これにより、本実施の形態に係るイオンソースヘッド400及びイオン注入装置は、金属材料をイオン注入する場合であっても、寿命がさらに長く、さらに高濃度のイオン注入を行うことができる。
【0039】
なお、上記実施の形態において、フリーマン型のイオン注入装置の例について説明したが、これに限定されない。本発明のイオン注入装置は、バーナス(ベルナス)型等の他の型式のイオン注入装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のイオンソースヘッド及びイオン注入装置は、半導体装置の製造過程において不純物イオンのイオン注入により半導体基板に不純物拡散層を形成する工程、特に化合物半導体基板に金属イオンをイオン注入する工程に有用である。
【符号の説明】
【0041】
100,500 イオン注入装置
102,502 イオンソース部
104,504 質量分析器
106,506 加速器
108,508 イオン注入室
200,400,600 イオンソースヘッド
202,402,602 アークチャンバ
204,604 フィラメント
206,406,606 フィラメント電極
208,608 固体気化器
210,610 フランジ
212,214,414,612,614 絶縁体
216,616 ガス管
300,700 チャンバ本体
302,702 蓋部
304,704 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークチャンバと、
両端部が前記アークチャンバ外に露出するように前記アークチャンバ内に配置されたフィラメントと、
前記フィラメントの端部と電気的に接続するフィラメント電極と、
前記フィラメント電極の少なくとも一部を覆う位置に配置された絶縁体とを備えるイオンソースヘッド。
【請求項2】
前記絶縁体が、前記フィラメント電極のうち、前記フィラメント電極と前記アークチャンバとが近接している部分を覆うように配置されている、請求項1に記載のイオンソースヘッド。
【請求項3】
前記フィラメント電極を固定するフランジをさらに備え、
前記絶縁体が、前記フィラメント電極のうち、前記フィラメント電極と前記アークチャンバとが近接している部分から、前記フランジと固定されている部分までを覆うように配置されている、請求項2に記載のイオンソースヘッド。
【請求項4】
金属を気化させるための固体気化器と、
前記固体気化器と前記アークチャンバとを接続するガス管とをさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載のイオンソースヘッド。
【請求項5】
請求項1記載のイオンソースヘッドを有するイオンソース部と、
前記イオンソース部で発生したイオンを質量別に選別する質量分析器と、
前記質量分析器で選別された前記イオンを加速する加速器と、
前記加速器で加速された前記イオンを半導体基板に照射するイオン注入室とを備えるイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−82013(P2011−82013A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233285(P2009−233285)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】