説明

イオンドーピング装置

【課題】イオンドーピング装置において、一番切れやすいフィラメントを切れ難くすることにより、全体のフィラメントの寿命を延ばすことを目的とする。
【解決手段】材料ガスが供給されるチャンバ1と該チャンバ1に設けられた複数のフィラメント6を有するイオンドーピング装置において、前記フィラメント6の内、切れやすい位置のフィラメント6の直径を他の位置のフィラメント6の直径と異ならせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの製造等に用いられるイオンドーピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンドーピング装置は、特開2006−310161号公報(特許文献1)などに記載されているように広く知られている。このイオンドーピング装置は、例えば、薄膜状のシリコン半導体として結晶性シリコン膜を用いて薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor。以下、TFTという)を製造する際に、基板上の結晶性シリコン膜に対し、N型のソース領域およびドレイン領域となる領域を形成する場合には、リンイオンをN型の不純物イオンとしてドーピングし、P型のソース領域およびドレイン領域となる領域を形成する場合には、ボロンイオンをP型の不純物イオンとしてドーピングするために用いられる。
【0003】
イオンドーピング装置では、例えばリンイオンの場合にはホスフィン(PH)を、また、ボロンイオンの場合にはジボラン(B)などの材料ガスをイオン源のアークチャンバ内に導入する一方、フィラメントに電流を流すことによりアーク放電させ、フィラメントから放出した熱電子を前記材料ガスの分子に衝突させてプラズマを生成する。そして、引出電極および加速電極などによりイオンビームを形成し、そのイオンビームを、被照射体に照射することで、該被照射体にイオンをドーピングするようになされる。
【0004】
イオンドーピング装置を用いてイオン注入を行う際に、イオン源のフィラメントとして、その材料にタングステン又はタングステン合金などの高融点金属が用いられているものの、劣化により切れることは避けられない。
【0005】
したがって、劣化したフィラメントを交換すること自体は必須であるが、その交換周期が短いと製造工程上の稼働ロスが大きくなることになる。
【0006】
前記特許文献1においては、フィラメントの温度を制御することにより、フィラメントの寿命を長くし、劣化したフィラメントの交換に起因する稼働ロスを低減している。
【特許文献1】特開2006−310161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし前記の従来技術において、フィラメントは複数設けられており、全てのフィラメントは同一仕様のものであるが、設置されている位置により切れやすいものとそうでないものがあった。通常複数のフィラメントの内、一本でも切れると他のフィラメントが切れていなくても、全て交換をしており、フィラメントの寿命は一番切れやすいフィラメントの寿命に左右されるものとなっていた。
【0008】
そこで、本発明は、一番切れやすいフィラメントを切れ難くすることにより、全体のフィラメントの寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、次の手段を講じた。即ち、本発明の特徴とするところは、材料ガスが供給されるチャンバと該チャンバに設けられた複数のフィラメントを有するイオンドーピング装置において、前記フィラメントの内、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径と異ならせた点にある。
【0010】
前記材料ガスにより前記フィラメントが細くなって切れる場合は、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径よりも太くした。
【0011】
この場合、前記材料ガスが、ホスフィン(PH)であるのが好ましい。
前記材料ガスにより前記フィラメントが脆化して切れる場合は、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径よりも細くした。
【0012】
この場合は、前記材料ガスが、ジボラン(B)または三フッ化ボロン(BF)であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径と異ならせて、切れなくしているので、当該フィラメントの寿命が延び、全体としてフィラメントの交換時間が長くなり、フィラメント交換による稼働ロスを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1及び図2は、イオンドーピング装置のフィラメント設置部分の模式図である。
【0015】
このイオンドーピング装置は、非質量分離型のものであって、チャンバ1と、このチャンバ1内の気体を外部に排出する排気部と、ボロンイオンなどのイオンを生成するイオン源2と、イオン源2のボロンイオンなどのイオンをイオンビームに形成するビーム形成部と、イオンビームが照射される被照射体としての基板を収容するための処理室と、これら排気部、イオン源2、ビーム形成部などの各作動を制御する制御部3とを備える。
【0016】
前記イオン源2は、例えばジボラン(B)のようにボロン元素を含有する材料ガスをアーク放電により分解し、そのボロンイオンを含むプラズマを生成するようになっている。イオン源2は、チャンバ1内に設けられており、アークチャンバ4と、このアークチャンバ4内に前記材料ガスを導入するためのガス導入口5と、材料ガスに衝突させるための熱電子を放出する複数(図示する例では、6つ)のフィラメント6とを有する。フィラメント6は、アークチャンバ4の側壁部に配置されている。アークチャンバ4の側面部には、フィラメント6との間にアーク放電を発生させるためのアノード電極7が設けられている。アークチャンバ4の周囲には、アークチャンバ4内に生成したプラズマを該アークチャンバ4内に閉じ込めるための環状磁石8が設けられている。尚、図2に示す例では、フィラメント6を6つとして側壁部に配置するようにしているが、アークチャンバ4の形状や必要とされるイオンビームの形状および大きさに応じて、適正な数および配置が選択される。
【0017】
各フィラメント6には、該フィラメント6にフィラメント電流を供給するフィラメント電源9がそれぞれ接続されている。また、フィラメント6の正極側およびアノード電極7には、それぞれ、アーク電源の負極および正極が接続されている。なお、フィラメント6の材質としては、タングステン又はタングステン合金などの高融点金属が用いられている。
【0018】
上記のように構成されたイオンドーピング装置におけるボロンイオンのドーピングを行う際の動作を説明する。
【0019】
チャンバ1内を所定の真空度に達するまで、排気部により排気する。ガス導入口5から、ボロン元素を含有する材料ガスをアークチャンバ4内に導入する。これにより、アークチャンバ4内は前記材料ガスで満たされる。その際の材料ガスとしては、例えば、シリコン半導体に対し、P型ドーパントとしてボロンイオンをドーピングする場合には、ジボラン(B)を用いる。尚、本イオンドーピング装置は、ボロンイオン以外のイオンのドーピングにも用いることができるので、例えば、シリコン半導体に対し、N型ドーパントとしてリンイオンをドーピングする場合には、ホスフィン(PH)などを用いればよい。
【0020】
次いで、フィラメント電源9からフィラメント6に所定のフィラメント電流が供給されるとともとに、アーク電源によりフィラメント6とアノード電極7との間に所定の電圧が印加される。これにより、フィラメント6により加熱された熱電子がフィラメント6からアークチャンバ4内へ放出され、アノード電極7へ到達する。この電子の放出はアーク放電となる。放出された熱電子は、アークチャンバ4内の材料ガスの分子と衝突し、その結果、これらの分子が分解するとともにイオン化され、プラズマが生成する。
【0021】
生成したプラズマ中のボロンイオン(陽イオン)は、引出用電源によってアノード電極7とプラズマ電極との間に印加された電圧により、アークチャンバ4からその開口部を経由して外部空間へ向かう方向に引き出される。引き出されたボロンイオンは、加速用電源によって引出電極と加速電極との間に印加された電圧により加速される。加速されたボロンイオンは、イオンビームとなってアークチャンバ4の開口部から処理室内の基板に照射される。
【0022】
なお、ボロン系ガスとしてジボラン(B)の他に三フッ化ボロン(BF)等も用いられる。
【0023】
上記のイオンドーピング装置において、複数のフィラメントの寿命は均一ではなく、特定の位置のフィラメントが切れやすく、その切れやすい位置は、装置によって決まるものである。従って、当該装置において、どの位置のフィラメントが一番早く切れるかを予め知見する必要がある。
【0024】
一番切れやすいフィラメントの位置を特定したら、その位置のフィラメントの直径を他のフィラメントとは異なるものとする。
【0025】
なお、最も切れやすい位置は、アークチャンバ4の上下端部に近い位置であった。しかし、この特定位置は、各種装置によって異なり、その装置に特有のものである。
【0026】
材料ガスとして、ホスフィン(PH)などのリン系ガスを用いる場合は、当該特定位置のフィラメントの直径を他のものより太くする。一方、ジボラン(B)や三フッ化ボロン(BF)等のボロン系ガスを用いる場合は、当該特定位置のフィラメントの直径を他のものより細くする。
【0027】
材料ガスによりフィラメント径を太くしたり細くするのは次の理由による。
ホスフィン(PH)などのガスでは、フィラメントがガスによってスパッタされて削られてその直径が細くなり、切断するので、フィラメントの元の太さを太くすることにより、その寿命を延ばすのである。
【0028】
ジボラン(B)などのガスでは、フィラメントがガスにより脆化して切れる。この脆化はフィラメントがガスと化学反応を起こすためであり、この化学反応は、フィラメントの温度が低いほど激しくなる。そこで、フィラメントの温度を高温にすることにより化学反応を防止する。フィラメントの温度を高温にするためには、フィラメントの直径を細くする。フィラメントの径を細くすると、フィラメント自身の抵抗値が高くなり、発熱しやすくなり、フィラメント自身が高温になるので、脆化が防止され、その寿命が延びる。
【0029】
ホスフィン(PH)の場合、フィラメントの直径が1.5mmのものを2.0mmに太くした。
【0030】
ジボラン(B)の場合、フィラメントの直径が1.5mmのものを1.0mmに細くすると、寿命350時間のものが400時間に延長された。
【0031】
なお、イオンドーピング装置では、同じ装置で、同じ材料ガスを使用する専用ラインとされており、異なるガス(例えば、ジボランとホスフィン)を同じ装置で使用することは稀である。
【0032】
なお、本発明は、上記実施の形態に示すものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、液晶パネルの製造などに用いられるイオンドーピング装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係るイオンドーピング装置のフィラメント配置部分の拡大摸式図である。
【図2】図1のA−A矢視のフィラメント配置図である。
【符号の説明】
【0035】
1 チャンバ、6 フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料ガスが供給されるチャンバと該チャンバに設けられた複数のフィラメントを有するイオンドーピング装置において、
前記フィラメントの内、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径と異ならせたことを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項2】
前記材料ガスにより前記フィラメントが細くなって切れる場合は、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径よりも太くしたことを特徴とする請求項1記載のイオンドーピング装置。
【請求項3】
前記材料ガスが、ホスフィン(PH)であることを特徴とする請求項2記載のイオンドーピング装置。
【請求項4】
前記材料ガスにより前記フィラメントが脆化して切れる場合は、切れやすい位置のフィラメントの直径を他の位置のフィラメントの直径よりも細くしたことを特徴とする請求項1記載のイオンドーピング装置。
【請求項5】
前記材料ガスが、ジボラン(B)または三フッ化ボロン(BF)であることを特徴とする請求項4記載のイオンドーピング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−266779(P2009−266779A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118513(P2008−118513)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】