説明

イオンビーム照射方法とその装置

【課題】2台のイオンビーム供給装置により基板の上半分と下半分にイオン照射するインライン式のイオン照射装置において、1台のイオンビーム供給装置が停止又は処理途中で異常終了した場合であっても、基板全面に所望のドーズ量が注入できるようにする。
【解決手段】イオンビーム照射処理を1往復行った後、基板回転機構70を制御し、基板2を180度回転させた後、イオンビーム照射装置100に再投入し、イオンビーム照射処理未完了の範囲をイオンビーム照射し、基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としたイオンビーム照射方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板(例えばフラットパネルディスプレイ用のガラス基板等)にイオンビームを照射して、基板に例えばイオン注入、イオンビーム配向処理等の処理を施すイオンビーム照射装置に関し、より具体的には、基板にリボン状(これはシート状または帯状と呼ばれることもある。以下同様)のイオンビームを照射することと、基板をイオンビームの主面と交差する方向に搬送することとを併用する方式のイオンビーム照射装置に関する。このイオンビーム照射装置は、基板にイオン注入を行う場合は、イオン注入装置とも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ等の生産性を高める等のために、基板は大型化する傾向にある。
【0003】
基板が大型化すると、それに応じて、当該基板にイオンビームを照射して処理を施すためにビーム幅の大きいイオンビームが必要になり、それに応えるためには、イオン源等のイオンビーム供給装置が大型化する。分析電磁石を有している場合は、それも大型化する。これらが大型化すると、その製作、輸送、コスト、収納建物等に関して様々な問題を惹き起こす。
【0004】
このようなイオン源等の大型化を抑制する技術の一つとして、特許文献1には、長手方向の寸法が基板の対応する辺の寸法よりも小さいリボン状のイオンビームを用いて、かつ基板をイオンビームの主面と交差する方向に移動させることに加えて、イオンビーム照射の合間に基板の位置を上下方向に変えることおよび基板を180度回転させることの少なくとも一方を用いて、基板に複数回イオンビーム照射を行い、それによって複数のビーム照射領域を連ねて、基板の全面にイオンビーム照射を行うイオンビーム照射装置が記載されている。このイオンビーム照射装置で扱う基板の面内には、所定の処理パターンの繰り返しの単位である複数のセルが分割帯を挟んで形成されており、この分割帯に、上記複数のビーム照射領域を連ねる部分を位置させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−134923号公報(図8−図21)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラットパネルディスプレイ等の生産性を高めるために、基板は大型化する傾向にある。そのため、イオン照射工程の効率化が求められている。その解決策の1つとして、2台のイオンビーム供給装置により基板の上半分と下半分にイオン照射するインライン式のイオン照射装置が提案されている。
【0007】
しかし、イオンビーム供給装置の1台がメンテナンス中等で使用できない場合、基板全面にイオン照射ができない。又2台のイオンビーム供給装置は稼動しているが、いずれかのステップでのイオンビーム供給装置において照射途中で異常終了の場合、基板全面に所望のドーズ量が照射できるようしたいという課題がある。
【0008】
そこでこの発明は、2台のイオンビーム供給装置により基板の上半分と下半分にイオン照射するインライン式のイオン照射装置において、1台のイオンビーム供給装置が停止している場合や2台のイオンビーム供給装置稼動していて処理開始したが、あるステップの照射途中で異常になった場合であっても、基板全面に所望のドーズ量が照射できるような方法及びその装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
基板にイオンビーム照射を行うための処理室に前記基板に前記イオンビームをそれぞれ照射するイオンビーム供給装置2台を備えていて、それぞれの前記イオンビーム供給装置によりイオン照射するそれぞれの範囲は、前記基板の上半分と下半分であり、前記処理室に、前記基板が搬送される方向と交差する方向において、リボン状のイオンビームを、当該イオンビームの主面が処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きにそれぞれ供給して、前記基板の搬送と協働して前記基板全面にイオンビームを照射する装置において、前記一方のイオンビーム供給装置からイオンビーム照射できない状態の準備未完了信号をイオンビーム照射装置の制御装置が受信し、イオンビーム照射処理を1往復行った後、大気側の基板回転機構を制御し、前記基板を180度回転させた後、イオンビーム照射装置に再投入し、イオンビーム照射処理を1往復することにより前記基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としている。
【0010】
また、基板にイオンビーム照射を行うための処理室に前記基板に前記イオンビームをそれぞれ照射するイオンビーム供給装置2台を備えていて、それぞれの前記イオンビーム供給装置によりイオン照射するそれぞれの範囲は、前記基板の上半分と下半分であり、前記処理室に、前記基板が搬送される方向と交差する方向において、リボン状のイオンビームを、当該イオンビームの主面が処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きにそれぞれ供給して、前記基板の搬送と協働して前記基板全面にイオンビームを照射する装置において、前記2台のイオンビーム供給装置が準備完了信号をイオン照射装置の前記制御装置が受信し、イオン照射処理を開始後、いづれかのイオンビーム供給装置において処理途中でビーム照射ができず異常終了した場合、イオンビーム照射装置の制御装置に異常終了信号、照射異常位置情報信号及びビーム電流値の信号を送信し、イオンビーム照射処理を復路にて、未照射領域にイオン照射を行い、既照射領域ではイオンビームをストップさせ、イオン照射工程を1往復行った後、大気側の基板回転機構を制御し、前記基板を180度回転させた後、イオンビーム照射装置に再投入し、基板のどの範囲がイオンビーム照射処理未完であるかをイオン照射装置の制御装置は認識しており、処理未完の範囲をイオンビーム照射後、前記イオンビーム供給装置からイオンビームが照射されないようにビームをストップさせ、前記基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としている。
【0011】
イオンビームをストップさせるのは、当該イオンビーム供給装置のイオン源のアーク電源、または引出電源と加速電源、またはアーク電源と引出電源と加速電源をOFFする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、2台のイオンビーム供給装置により基板の上半分と下半分にイオン照射するインライン式のイオン照射装置において、一方のイオンビーム供給装置が停止中であっても、基板全面に所定のドーズ量照射処理が自動で継続できる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、2台のイオンビーム供給装置が処理準備OKで処理開始したが、いづれかのステップのイオンビーム供給装置で異常終了したとしても、未照射領域にのみイオン照射をし、基板全面に所定のドーズ量照射処理が自動で継続できる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、所望のドーズ量の注入が完了した範囲にイオンビーム供給装置からイオンビームが照射されないようにビームをストップさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態に係るイオン照射装置の模式図である。
【図2】リボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図3】この発明に係るイオン照射中の動作を示す模式図である。
【図4】この発明に係るイオンビーム供給装置のイオン源電源接続図である。
【図5】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)が停止中の場合の基板全面にイオン照射されるフロー図である。
【図6】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)が停止中の場合の基板全面にイオン照射される様子を表す説明図である。
【図7】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)において処理途中で照射失敗した場合の基板全面にイオン照射されるフロー図である。
【図8】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)において処理途中で照射失敗した場合の基板全面にイオン照射される様子を表す説明図である。
【図9】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)において復路の処理途中で照射失敗した場合の基板全面にイオン照射されるフロー図である。
【図10】この発明に係る1台のイオンビーム供給装置50(b)において復路の処理途中で照射失敗した場合の基板全面にイオン照射される様子を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
イオン照射装置100は、図1に示すように真空排気される処理室10内においてフラットパネルディスプレイ等に用いられる大型の基板2に対してイオンビームBを照射し、イオン照射を行うためのものである。ここで、本実施形態における基板2とは、例えば、ガラス基板、配向膜付ガラス基板、半導体基板、その他のイオンビームBが照射される基板を含むものである。また、基板2の形状は長方形状の薄板形状をなしているが、円形であってもよい。
【0018】
前記イオン照射装置100は、真空排気される部屋であってイオンビームBが基板2に照射される処理室10と、前記処理室10に隣接する部屋であり、処理待ちの基板2が待機する待機室8と、前記待機室8と大気との間において基板2を出し入れするための真空予備室6とを備える。各部屋は概略中空直方体形状のものであり、各部屋間の接続部は真空弁G(ゲートバルブ)により仕切られている。
【0019】
より具体的には、前記イオン照射装置100は、前記真空予備室6、前記待機室8、前記処理室10において基板2を2列でそれぞれ逆向きに搬送する搬送機構3と、前記搬送機構3における基板2の位置や、その位置に応じて各種制御を行う制御部と、前記搬送機構3で搬送されている基板2に前記処理室10内において一対のイオンビームBを照射するイオンビーム供給装置50(a)及びイオンビーム供給装置50(b)と大気側で基板を回転させる基板回転機構70とから構成してある。
【0020】
各部について説明する。以下の説明においては水平面をXY平面とし、鉛直上向きをZ軸とする右手系の座標系も用いながら説明を行う。
【0021】
前記搬送機構3は、互いに離間する平行な一対の軌道を有し、それら各軌道に沿って同一形状の基板2を、その面板部が前記軌道と平行になり、かつ各軌道上の基板2同士が平行となる姿勢に維持しながら、互いに逆向きに進行させるように構成してある。
【0022】
より具体的には、前記一対の軌道は、本実施形態では未処理の基板2を水平に寝かせている状態から起立させる基板起立装置4Aから、前記真空予備室6、前記待機室8、前記処理室10の順の進行方向で基板2を進行させる第1軌道31と、第1軌道31とは逆の順で各部屋を通過させたのちに処理された基板2を起立している状態から再び水平に寝かせて格納する基板格納装置4Bまでの反進行方向で基板2を進行させる第2軌道32とからなるものである。図1に示されるように、第1軌道31上及び第2軌道32上において各基板2は、起立した状態で面板部をY軸方向に向けたままX軸方向に搬送される。
【0023】
さらに、前記搬送機構3は、前記処理室10内において一方の軌道から他方の軌道へと基板2を移動させるように構成してある。具体的には、処理室10の最奥部において、第1軌道31から第2軌道32へと基板2を移動させる第3軌道33を更に備えており、処理室10内において基板2がUターンするように構成してある。
【0024】
また、前記処理室10内では前記面板部と垂直な方向であるY軸方向から視て、各軌道上の基板2が、所定の重合位置34に到達したときに、略重なり合うように構成してある。具体的には、図1(b)に示すように処理室10の略中央にある重合位置34では、第1軌道31上の基板2の輪郭と第2軌道32上の基板2の輪郭とが一致するようにしてある。
【0025】
前記制御部は、いわゆるコンピュータであって、例えば各基板2の搬送速度や位置の制御、各基板2の位置に応じて各部屋間にも設けられた真空弁Gの開閉、基板回転機構70、イオンビームBのオンオフ等を制御するものである。
【0026】
前記一対のイオンビーム供給装置50(a)とイオンビーム供給装置50(b)は、リボン状のイオンビームBを、そのビーム進行方向と平行な側面のうち大きいほうの面である主面Baが、前記軌道上を進行する基板2によって横切られる位置に照射するものである。ここで、前記各イオンビーム供給装置について詳述すると、イオン源52から射出されたイオンビームBが、分析磁石56を通過して、運動量分析されたあと、スリット59を通過してリボン状のイオンビームとして射出されるようにしてある。図2に示すようにイオンビームBのリボン状のイオンビームB(帯状等とも言う)は、そのビーム断面において長辺の長さWzが短辺の長さWxに比べて非常に大きいものである。
【0027】
前記各イオンビームBは、前記重合位置34にある基板2を避けてその進行方向側と反進行方向側をそれぞれ通過するように構成してある。ここで、本実施形態では、前記重合位置34の進行方向側(図面視において右側)にあるイオンビーム供給装置50(b)が第1イオンビームBを基板2に照射し、反進行方向側(図面視において左側)にあるイオンビーム供給装置50(a)が第2イオンビームBを基板2に照射する。
【0028】
さらに、図1(b)に示すように面板部に垂直な方向であるY軸方向から視て各イオンビームBが互い違いとなるように照射してあり、各イオンビームBにより基板2の面板部全体にイオンビームBが走査されるようにしてある。言い換えると、前記面板部と平行かつ前記軌道と平行な方向であるX軸方向から視て、各イオンビームBが隣り合って略接するようにしてある。このようにイオンビームBを基板2に照射することにより、進行方向又は反進行方向に一度基板2が搬送されるだけで、面板部の全域にイオンが注入されることになる。
【0029】
このように構成されたイオン照射装置100について、図3の動作図を参照しながら、イオン照射時の動作を説明する。なお、本動作説明では、処理室10内において第1軌道31上、第2軌道32上を搬送されている基板2のことをそれぞれ第1基板、第2基板ともよぶ。第1軌道31上から第2軌道32上へと基板2が移された場合には、第1基板から第2基板へと呼称が変化するが、同じ基板2を指し示すものである。図3(a)〜(f)は時間変化による基板位置を説明している。
【0030】
図3(a)に示すように、まず、処理室10内に搬入された第1基板が第2イオンビームBの左側で待機しており、一度各イオンビームBによりイオン照射をされた基板2が第1軌道31から第2軌道32へと移された第2基板が、第1イオンビームBの右側に待機している。
【0031】
次に、図3(b)に示すように、第1基板は第2イオンビームBが走査される位置へと移動し面板部の下半分の領域にイオンが照射される。同時に第2基板は第1イオンビームB走査される位置へと移動し、面板部の上半分の領域にイオンが照射される。
【0032】
図3(c)に示すように、各基板2がそれぞれの方向に進行して半分の領域についてのイオン照射が終了すると、第1イオンビームBと第2イオンビームBの間にある重合位置34において各基板2は、Y軸方向から視て略重なり合う。従って、図から明らかなように手前側にある第1基板が後ろ側にある第2基板に照射されるはずのイオンビームBを遮ってしまう事はない。
【0033】
次に、図3(d)に示すように、今度は図3(b)とは逆に第1基板は第1イオンビームBが走査される位置へと移動し面板部の上半分の領域にイオンが照射される。同時に第2基板は第2イオンビームBが走査される位置へと移動し、面板部の下半分の領域にイオンが照射される。
【0034】
そして、各基板2がイオンビームBを通過し終えると、図3(e)に示すように第1基板は処理室10の最奥部へと進行し、第2基板は処理室10の搬出入口へと進行する。この時点で各基板2の面板部の全域にイオンが照射されていることになる。
【0035】
最後に、図3(f)に示すように真空弁Gが開放されて第2基板が処理室10から待機室8へ搬出されると同時に新たな第1基板が搬入される。さらに、同じ時、処理室10の最奥部にある第1基板は、第3軌道33上に沿って第2軌道32へと移動する。この後、図3(a)〜(f)までの工程が繰り返されることになる。つまり、基板2は第1軌道31上で進行することによって、一度、面板部全域にイオンが照射されたのち、第2軌道32上を進行することによりもう一度、面板部全域にイオンが注入される。このため、基板2へのイオン照射量をより多くしたり、搬送速度を速くしたとしても処理室10から出る時には所望のイオン濃度で注入が行われているようにしたりすることができる。
【0036】
このようにイオン照射装置100によれば、各基板2を互い逆方向に進行させ、各イオンビームBが処理室10内の重合位置34で重なっている基板2を避けて、その進行方向側と反進行方向側をそれぞれ通過するように構成してあるので、イオンビームBから視て前側にある基板2が後ろ側にある基板2を隠してしまいイオンビームBが照射されなくなるのを防ぐことができる。さらに、重合位置34以外では常に各基板2に2本のイオンビームBを照射することができる。
【0037】
従って、各イオンビームBにおいて略常に同時に2枚の基板2にイオンを照射することができるので、従来からある1本のイオンビームBにより1枚ずつ処理する場合に比べて、単位時間当たりの処理数を大幅に向上させることができる。さらに、本実施形態では、基板2が処理室10内において第1軌道31から第2軌道32に移されて再びのべ4回イオン注入が行われるので、1枚の基板2に対するイオン照射量を大幅に多くすることができる。
【0038】
また、2本のイオンビームBが軌道と平行な方向から視て、各イオンビームBが隣り合って略接するようにしてあるので、Z軸方向にリボン状のイオンビームB2本分の領域を一度の基板2搬送でイオンを照射することができる。従って、基板2が大型のものであったとしても1本のビーム断面における長辺が非常に長いリボン状のイオンビームBを用いなくても、基板2の面板部全域に略均一にイオンを一度に照射することができる。
【0039】
さらに、前記真空予備室6と、前記処理室10との間に待機室8を設けており、さらに各部屋が真空弁Gにより仕切られているので、前記処理室10内の真空度を容易に保ったり、有毒ガス等が外部に漏れてしまったりすることが防ぎやすい。
【0040】
しかして本実施形態のイオン源52は、図4に示すように、イオン源ガスが導入されて内部でプラズマを生成するための容器であって、イオン引き出し口が形成されたプラズマ生成容器78と、プラズマ生成容器78の外部に設けられて当該プラズマ生成容器78の内部にカプス磁場(より厳密に言えばマルチカスプ磁場。多極磁場とも言う。)を形成する複数の磁石と、プラズマ生成容器78内でイオン源ガスを電子衝撃によって電離させてプラズマを生成する電離手段を構成する1以上(本実施形態では複数)のフィラメント70と、プラズマ生成容器78のイオン引き出し口付近に設けられていてプラズマから電界の作用でイオンビームIBを加速して引き出す引き出し電極系77とを備えている。
【0041】
なお、引出し電極系77は、最プラズマ側から下流側に向けて配置されたプラズマ電極771、引出し電極772、抑制電極773および接地電極774を有している。また、プラズマ電極771とプラズマ生成容器78との間には、両者間を電気的に絶縁する絶縁手段として絶縁物775が設けられている。また、各電極771〜774間は、例えば絶縁物776によって、互いに電気的に絶縁されている。
【0042】
イオン源部の6種類の電源は、図4に示すように接続されている。フィラメント70とプラズマ生成容器78間に接続されているアーク電源72は、プラズマを発生させるためにアークを立てる電源である。引出し電極772とプラズマ生成容器78間に接続されている引出電源74はプラズマ生成容器78内で生成されたイオンを引出し、引出電源74と接地電極774間に接続された加速電源75は、引き出されたイオンビームを所望のエネルギーまでイオンを加速するものである。
【0043】
上記の説明では、2台のイオンビーム供給装置50(a)とイオンビーム供給装置50(b)が正常に稼動している状態でのイオンビーム照射であった。しかし、いずれかのイオンビーム供給装置が停止している場合や処理ステップ途中でイオンビーム供給装置が異常になり、途中までしかイオンビーム照射ができなかった場合であっても、基板全面に所望のドーズ量の照射を行いたいとの要求がある。
【0044】
本発明は、このような要求を実現する方法と装置を提示するものである。
【0045】
イオンビーム照射処理開始時に、イオンビーム供給装置50(b)が停止している場合についての実施例について説明する。
図5,図6を参照して、照射処理開始時にどちらのイオンビーム供給装置が準備未完了かの信号を受信後、基板を起立させ真空予備室6を経由し、イオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射する(ステップ1〜ステップ4)。イオンビーム供給装置50(b)が停止しているので、照射処理はしない(ステップ5)。基板2は、第1軌道31から第2軌道32へトラバースされ、イオンビーム供給装置50(b)まで搬送されるが照射処理はしない(ステップ6〜ステップ8)。次にイオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射し、待機室8を経由し、真空予備室6まで搬送される(ステップ9〜ステップ11)。真空予備室6をベントし基板2を大気側に搬出した後、基板を基板回転機構70により180度回転させ、真空予備室6に再投入される(ステップ12〜ステップ14)。イオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を2回照射する(ステップ15〜ステップ23)し、基板2を水平にし収納する(ステップ24)。これらのイオンビーム照射により、イオンビーム供給装置50(b)が停止している場合であっても、基板全面に所望のドーズ量を照射することができる。
【0046】
次に、イオンビーム照射処理開始時には、2台のイオンビーム供給装置は正常に稼動していたが、往路でのイオンビーム供給装置50(b)での照射が処理途中で異常となった場合についての実施例について説明する。
図7,図8を参照して、照射処理開始時にどちらのイオンビーム供給装置も準備OKの信号を受信後、基板を起立させ真空予備室6を経由し、イオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射する(ステップ1〜ステップ4)。次にイオンビーム供給装置50(b)の照射処理途中で異常となった(ステップ5)。基板2は、第1軌道31から第2軌道32へトラバースされ、イオンビーム供給装置50(b)まで搬送されるが照射処理はしない(ステップ6〜ステップ8)。次にイオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射し、待機室8を経由し、真空予備室6まで搬送される(ステップ9〜ステップ11)。真空予備室6をベントし基板2を大気側に搬出した後、基板を基板回転機構70により180度回転させ、真空予備室6に再投入される(ステップ12〜ステップ15)。イオンビーム供給装置50(a)で未照射領域にイオンビームを照射(下側)し、既照射領域ではビームをストップさせる(ステップ16)。次にイオンビーム供給装置50(b)まで基板は搬送されるが、照射処理しない(ステップ17)。基板2は、第1軌道31から第2軌道32へトラバースされ、イオンビーム供給装置50(b)まで搬送されるが照射処理はしない(ステップ18〜ステップ20)。基板2は、イオンビーム供給装置50(a)で基板の下側に照射処理を行った(ステップ21)後、待機室8を経て真空予備室6に搬送され、真空予備室6をベントし、大気側に搬出され、基板2を水平にし収納する(ステップ22〜ステップ24)。これらのイオンビーム照射により、イオンビーム供給装置50(b)のイオンビーム照射処理途中で異常となった場合であっても、基板全面に所望のドーズ量を照射することができる。
【0047】
イオンビームをストップさせるのは、当該イオンビーム供給装置のイオン源のアーク電源72、または引出電源74と加速電源75、またはアーク電源72と引出電源74と加速電源75をOFFする。
【0048】
次に、イオンビーム照射処理開始時には、2台のイオンビーム供給装置は正常に稼動していたが、復路でのイオンビーム供給装置50(b)での照射が処理途中で異常となった場合についての実施例について説明する。図9,図10を参照して、照射処理開始時にどちらのイオンビーム供給装置も準備OKの信号を受信後、基板を起立させ真空予備室6を経由し、イオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射する(ステップ1〜ステップ4)。次にイオンビーム供給装置50(b)で基板の上側の照射する(ステップ5)。基板2は、第1軌道31から第2軌道32へトラバースされ、イオンビーム供給装置50(b)で基板の上側をイオンビーム照射途中異常となった(ステップ6〜ステップ8)。次にイオンビーム供給装置50(a)で基板の下側を照射し、待機室8を経由し、真空予備室6まで搬送される(ステップ9〜ステップ11)。真空予備室6をベントし基板2を大気側に搬出した後、基板を基板回転機構70により180度回転させ、真空予備室6に再投入される(ステップ12〜ステップ15)。基板2は、イオンビーム供給装置50(a)に搬送されるが、ビームをストップさせる。その後、基板2はイオンビーム供給装置50(b)まで搬送されるが、照射処理しない(ステップ17)。基板2は、第1軌道31から第2軌道32へトラバースされ、イオンビーム供給装置50(b)まで搬送されるが照射処理はしない(ステップ18〜ステップ20)。次にイオンビーム供給装置50(a)で未照射領域にイオンビームを照射(下側)し、既照射領域ではビームをストップさせる(ステップ21)。待機室8を経て真空予備室6に搬送され、真空予備室6をベントし、大気側に搬出され、基板2を水平にし収納する(ステップ22〜ステップ24)。これらのイオンビーム照射により、復路でのイオンビーム供給装置50(b)での照射が処理途中で異常となった場合であっても、基板全面に所望のドーズ量を照射することができる。
【符号の説明】
【0049】
100 イオン照射装置
2 基板
4A 基板起立装置
4B 基板格納装置
6 真空予備室
8 待機室
10 処理室
50(a) イオンビーム供給装置
50(b) イオンビーム供給装置
52 イオン源
53 ビームライン
57 真空弁
58 ビームモニタ
59 分析スリット
60 制御装置
70 基板回転機構
72 アーク電源
74 引出電源
75 加速電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にイオンビーム照射を行うための処理室に前記基板に前記イオンビームをそれぞれ照射するイオンビーム供給装置2台を備えていて、
それぞれの前記イオンビーム供給装置によりイオン照射するそれぞれの範囲は、前記基板の上半分と下半分であり、前記処理室に、前記基板が搬送される方向と交差する方向において、リボン状のイオンビームを、当該イオンビームの主面が処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きにそれぞれ供給して、前記基板の搬送と協働して前記基板全面にイオンビームを照射する装置において、前記一方のイオンビーム供給装置からイオンビーム照射できない状態の準備未完了信号をイオンビーム照射装置の制御装置が受信し、イオンビーム照射処理を1往復行った後、基板回転機構を制御し、前記基板を180度回転させた後、イオンビーム照射装置に再投入し、イオンビーム照射処理を1往復することにより前記基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としたイオンビーム照射方法。
【請求項2】
基板にイオンビーム照射を行うための処理室に前記基板に前記イオンビームをそれぞれ照射するイオンビーム供給装置2台を備えていて、
それぞれの前記イオンビーム供給装置によりイオン照射するそれぞれの範囲は、前記基板の上半分と下半分であり、前記処理室に、前記基板が搬送される方向と交差する方向において、リボン状のイオンビームを、当該イオンビームの主面が処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きにそれぞれ供給して、前記基板の搬送と協働して前記基板全面にイオンビームを照射する装置において、前記2台のイオンビーム供給装置が準備完了信号をイオン照射装置の前記制御装置が受信し、イオン照射処理を開始後、いづれかのイオンビーム供給装置においてビーム照射ができず異常終了した場合、イオンビーム照射処理を1往復行った後、基板回転機構を制御し、前記基板を180度回転させた後、イオンビーム照射装置に再投入し、基板のどの範囲がイオンビーム照射処理未完であるかをイオン照射装置の制御装置は認識しており、処理未完の範囲をイオンビーム照射後、前記イオンビーム供給装置からイオンビームが照射されないようにビームをストップさせ、前記基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としたイオンビーム照射方法。
【請求項3】
前記イオンビーム供給装置イオン源のアーク電源、または引出電源と加速電源、またはアーク電源と引出電源と加速電源をOFFにすることにより、前記イオンビーム供給装置からイオンビームが照射されないようにビームをストップさせる請求項2のイオンビーム照射方法。
【請求項4】
基板にイオンビーム照射を行うための処理室に前記基板に前記イオンビームを前記基板の上半分と下半分に照射する2台のそれぞれのイオンビーム供給装置と、
前記処理室に、前記基板が搬送される方向と交差する方向において、リボン状のイオンビームを、当該イオンビームの主面が処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きにそれぞれ供給して、前記基板の搬送と協働して前記基板全面にイオンビームを照射する装置において、前記イオンビーム供給装置からイオンビーム照射できない状態の準備未完了信号を受信するイオンビーム照射装置の制御装置と、イオンビーム照射処理を1往復行った後、大気側の基板回転機構を制御し、前記基板を180度回転させた後、イオンビーム照射装置に再投入し、イオンビーム照射処理を1往復することにより前記基板の全面にイオンビーム照射させることを特徴としたイオンビーム照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−185953(P2012−185953A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47097(P2011−47097)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】