説明

イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法

【課題】生産安定性が高く、緻密でガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供する。より具体的には、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有する原料粉末により、上記課題を解決する。導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、上記の原料粉末を焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法に関し、更に詳しくは、緻密で密着性のよいガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素ガスや水蒸気等に対するバリア性を備えたガスバリア性シートとして、基材上に酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物膜をガスバリア膜として設けたものが提案されている。こうしたガスバリア性シートは、透明性に優れ、環境への影響もほとんどなく、包装用材料等にその需要が大いに期待されている。
【0003】
無機酸化物からなるガスバリア膜の成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法のほか、イオンプレーティング法が採用されている。イオンプレーティング法で成膜されたガスバリア膜は、基材への密着性と緻密さの点で、真空蒸着で成膜された蒸着膜よりも優れ、スパッタリング法で成膜されたスパッタ膜と同程度であるという特徴がある。一方、イオンプレーティング法によるガスバリア膜の成膜は、成膜速度の点で、スパッタリング法の場合よりも大きく、真空蒸着法と同程度であるという特徴がある。
【0004】
こうした特徴を有するイオンプレーティング法で製造されるガスバリア膜としては、例えば特許文献1には、バリア層(ガスバリア膜)が、ホローカソード型イオンプレーティングにより成膜した無機窒化物薄膜及び無機窒化酸化物薄膜のいずれかである透明バリアフィルムが記載されている。そして、具体的なバリア層の例として、Si,C等の窒化物(カーボンシリサイドの窒化物等)であり、Siの窒化物であるSiN(x=1〜2)が特に好ましく、また、P,Si等の酸化物を適度に窒化したセラミックス(Siの酸化物であるSiOを窒化したSiOやPの窒化酸化物であるPON等)を挙げることができる旨が記載されている。
【特許文献1】特開2000−15737号公報(請求項1,第0019段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で用いられている窒化ケイ素や酸窒化ケイ素は一定のガスバリア性を有する有用な材料であるが、その実用性を確保するために本発明者がさらに検討を行ったところ、以下のような課題を有することが判明した。
【0006】
まず、窒化ケイ素は、真空中イオンプレーティング法にて成膜を行おうとすると、成膜の安定性が悪く、固体から気体に状態変化を行う際に、電流量が大きく変化して過電流、電圧降下等が起こり、安定した成膜が難しいという課題がある。
【0007】
また、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素からなるガスバリア膜は、上述のとおり所定のガスバリア性を有するものの、近年、ディスプレイ用途等の分野では以前にも増して高性能化の要求があり、酸素透過率だけでなく水蒸気透過率も抑制してガスバリア性を総合的に高めたいとの課題がある。加えて、ディスプレイ用途に用いられる場合には、酸やアルカリでの画素パターンのエッチングが行われるので、こうした酸やアルカリに対する耐腐食性をより高めたいとのさらなる課題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第一義的な目的は、生産安定性が高く、緻密でガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供することにあり、詳しくは、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第二義的な目的は、耐熱性や耐腐食性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供することにあり、詳しくは、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素をガスバリア膜に用いたガスバリア性シートにおいて、生産性安定性を高めつつ、ガスバリア性を改善するための研究開発を行っている過程で、イオンプレーティング法で用いる蒸発源材料を改良することにより、生産性が改善するとともにガスバリア性が著しく向上することを見出した。さらに、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素と組み合わせる材料によっては、ガスバリア膜の耐腐食性を高めることができることも見出した。
【0011】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を用いているので、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0013】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、導電性材料が、導電性を有する金属酸化物、導電性を有する金属窒化物、及び導電性を有する金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであるので、原料粉末から蒸発源材料を焼結して得る場合において、焼結時に導電性材料が酸化されにくく、導電性を維持したまま酸化ケイ素中に存在しやすくなり、その結果、蒸発源材料の組成の制御が行いやすくなる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法は、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、前記原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、この原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有するので、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0017】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法において、前記所定形状に加工する工程が、前記原料粉末を構成する前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素と前記導電性材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、所定形状に加工する工程が、原料粉末を構成する窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と導電性材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工するので、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られ、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であることを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られ、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であるイオンプレーティング用蒸発源材料とするので、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0021】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、導電性材料が、導電性を有する金属酸化物、導電性を有する金属窒化物、及び導電性を有する金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであるので、原料粉末から蒸発源材料を焼結して得る場合において、焼結時に導電性材料が酸化されにくく、導電性を維持したまま酸化ケイ素中に存在しやすくなり、その結果、蒸発源材料の組成の制御が行いやすくなる。
【0023】
上記課題を解決する本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、前記イオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、そのイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有するが、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0025】
本発明のガスバリア性シートの製造方法において、前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0026】
この発明によれば、導電性材料が、導電性を有する金属酸化物、導電性を有する金属窒化物、及び導電性を有する金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであるので、原料粉末から蒸発源材料を焼結して得る場合において、焼結時に導電性材料が酸化されにくく、導電性を維持したまま酸化ケイ素中に存在しやすくなり、その結果、蒸発源材料の組成の制御が行いやすくなる。
【0027】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性シートは、基材上の少なくとも一方の面にガスバリア膜を備えるガスバリア性シートにおいて、前記ガスバリア膜が、Si:N:X1(ただし、X1はZn又はSn):Oの原子数比で100:50〜120:5〜20:50〜150の範囲にあるSi−N−X1−O膜であることを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、ガスバリア膜が、Si:N:X1(ただし、X1はZn又はSnを表す。):Oの原子数比で100:50〜120:5〜20:50〜150の範囲にあるSi−N−X1−O膜であるので、厚さ方向の膜質が均一なガスバリア膜を有するガスバリア性シートとなり、その結果ガスバリア性に著しく優れるガスバリア性シートを提供できる。なお、本発明で示す原子数比はバルクでの値を指している。
【発明の効果】
【0029】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0030】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法によれば、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0031】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。こうした本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料に対し、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0032】
本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0033】
本発明のガスバリア性シートによれば、厚さ方向の膜質が均一で、高密度かつ緻密で密着性のよいガスバリア膜を有するので、著しくガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0035】
(イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末(本明細書においては、単に「原料粉末」という場合がある。)は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられる蒸発源材料の原料であって、具体的には、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有する。
【0036】
こうした原料粉末から得られる蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料が前記作用効果を奏する理由は、以下のように推測される。
【0037】
本発明者の検討によれば、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素は、プラズマ照射時に固相→液相(少なくとも局所的には液状化している状態)→気相と相変化を起こす性質を有し、その状態変化(固相→液相(少なくとも局所的には液状化している状態)→気相)に伴って導電率が大きく変わるため、過電流・電圧降下等が起こり、安定して成膜しにくいことがわかった。そこで、本発明においては、導電性材料を蒸着源材料に導入することにより、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素の相変化に伴う導電性の変化が小さくなるという作用が奏され、連続した成膜を良好に行いやすくなる。これは、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素に、導電性材料を加えたイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料を得て、この蒸発源材料をイオンプレーティングの蒸発源として用いることにより、絶縁性材料である窒化ケイ素や酸窒化ケイ素とともに導電性材料が蒸発源材料中に導入されているので、プラズマガンから照射されるプラズマが蒸発源材料に集中的に照射されやすくなるためと推測される。
【0038】
すなわち、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素のような絶縁性材料単体にプラズマを照射すると、材料表面でのチャージアップや蒸着チャンバーのフローティング部分以外(アース電位部)へプラズマが放電されてプラズマが不安定になり、連続した成膜が行いにくくなる。これに対し、本発明においては、導電性材料を蒸発源材料に導入するので、プラズマの照射が蒸発源材料に集中しやすくなるという作用が奏され、連続した成膜を良好に行いやすい。
【0039】
さらに、本発明においては、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素や酸窒化ケイ素に、平均粒径が5μm以下の導電性材料を所定量含有させることによって分散均一性の高い原料粉末となるため、この原料粉末から得られたイオンプレーティング用蒸発源材料においても、導電性材料が窒化ケイ素や酸窒化ケイ素中に均一に分散して存在するものと推測される。したがって、蒸発源材料中で均一に分散した導電性材料によってプラズマが蒸発源材料の内部まで浸透しやすくなるという作用が奏される。
【0040】
以上説明した、蒸発源材料へのプラズマの集中的な照射の作用と、プラズマの蒸発源材料内部への浸透の作用と、が相乗的に発揮されて蒸発源材料の励起が効率よく行われると推測される。そして、蒸発源材料の励起が効率良く行われるために、イオン化率が上昇してガスバリア膜の膜質が大きく改善されるものと推測される。
【0041】
原料として用いる、窒化ケイ素は、窒素とケイ素とから構成される化合物であればよく特に制限はない。具体的には、窒化ケイ素は、通常Siで表され、従来公知の材料を用いることができ、本発明の原料粉末として適している。その理由は、Siの持つ種々の特性に基づくものであり、その特性としては、例えばガスバリア性、耐熱性、絶縁性、プラズマ耐性等が挙げられる。
【0042】
原料として用いる酸窒化ケイ素も、酸素、窒素、及びケイ素から構成される化合物であれはよく特に制限はない。具体的には、酸窒化ケイ素は、窒化ケイ素を自然酸化する、窒化ケイ素を焼成して酸化する、酸化ケイ素を窒化する、ケイ素を原料として酸化と窒化とを進行させる等の種々の方法によって得ることができる。こうした酸窒化ケイ素は、従来公知のものを用いることができ、本発明の原料粉末として適している。その理由は、酸窒化ケイ素の持つ種々の特性に基づくものであり、その特性として、例えばガスバリア性、耐熱性、絶縁性、プラズマ耐性等が挙げられる。
【0043】
原料として用いる窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素の性状は、粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここで、本発明において「平均粒径」とは、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。また、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0044】
導電性材料としては、導電性を有する材料であれば特に制限はなく、好ましくは無機材料が用いられる。導電性材料としては、例えば、体積抵抗率が1.4μΩ・cm以上、1kΩ・cm以下の材料を挙げることができる。なお、本発明においては、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率を用いている。こうした導電性材料としては、例えば、金属、合金、及び導電性化合物を挙げることができる。
【0045】
まず、導電性材料として金属や合金を用いる場合について説明する。導電性材料として金属や合金を用いる場合には、材料及び蒸発源材料の製造方法に応じて、以下の事項に留意することが好ましい。すなわち、本発明の蒸発源材料は、後述するように、原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工することによって得ることができるが、導電性材料に金属又は合金を用いて焼結により蒸発源材料を形成する場合に、金属や合金の種類に応じて酸化度合いの制御を行うことが望ましい。より具体的には、金属や合金は、焼結の際に大気中の酸素と反応して酸化される傾向を有する。このため、原料粉末に用いる金属又は合金としては、若干の酸化が起きても導電性を維持できる材料か、酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる材料を用いることが好ましい。
【0046】
若干の酸化が起きても導電性を維持できる金属や合金としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、銅、銀、ニッケル、クロム、金、白金、インジウム、錫、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、及びこれら金属の合金から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。これら金属や合金のうち、アルミニウムを例にとって説明すると、アルミニウムはAlとなるまで酸化が進むと絶縁性となるが、アルミニウムに対する酸素の導入量を少なく制御することによって導電性を維持することができる。したがって、若干の酸化が起きても導電性を維持できる金属や合金を用いる場合には、焼結の際の温度や雰囲気等の各種条件を制御することにより蒸発源材料に含まれる導電性材料の導電性を確保することができる。上記金属や合金のうち、導電性の観点から好ましいのは、金、銀、銅、白金、インジウム、錫、亜鉛、及びこれら金属の合金であり、コストの観点から好ましくのは、アルミニウム、錫、亜鉛である。
【0047】
酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる金属や合金としては、インジウム、亜鉛、錫、セリウム、及びこれら金属の合金を挙げることができる。これら金属や合金のうち亜鉛を例に取って説明すると、亜鉛はそれ自体導電性を有するが酸化物である酸化亜鉛(ZnO)も導電性を有するために、特に酸化の度合いを制御しなくても、焼結によって得られる蒸発源材料に含まれる導電性材料の導電性を確保することができる。したがって、こうした金属や合金を用いる場合には、これら材料の酸化度合いを制御しなくてもよい。上記材料のうち、導電性の観点から好ましいのは、インジウム、亜鉛、錫、及びこれら金属の合金であり、コストの観点から好ましいのは、亜鉛、亜鉛の合金、錫、及び錫の合金である。
【0048】
これに対して、原料粉末を造粒して所定形状に加工して蒸発源材料を得る場合には、金属や合金の酸化を考慮しなくてもよい場合がある。例えば、焼結ではなくプレス等の方法により造粒を行う場合には、上記の酸化の影響を抑制することができる。また、焼結を用いる場合においても、不活性ガス下や真空下で焼結を行えば、上記の酸化の影響を抑制することができる。このため、若干の酸化が起きても導電性を維持できる材料、又は酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる材料といった考慮をすることなく様々な材料を用いることができる。こうした材料としては、具体的には、上記例示した金属及び合金を用いればよい。
【0049】
次に、導電性材料として導電性化合物を用いる場合について説明する。導電性化合物としては、好ましくは、導電性を有する金属酸化物、導電性を有する金属窒化物、及び導電性を有する金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。なお、金属酸化物や金属窒化物には2種以上の金属元素の酸化物や窒化物である複合酸化物や複合窒化物も含まれる。これは金属酸窒化物の金属元素についても同様である。こうした導電性化合物は、酸化及び/又は窒化されて化学的に安定な状態となっている場合がほとんどなので、蒸発源材料の製造時の焼結によって酸化されにくく、導電性を維持したまま窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素中に存在しやすくなるので蒸発源材料の組成の制御も行いやすくなる。導電性化合物としては、導電性の安定性の観点から、好ましくは、インジウム、亜鉛、錫、及びセリウムから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物を用い、より好ましくは、インジウム、亜鉛、及び錫から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物を用い、さらに好ましくは、亜鉛及び錫から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物を用いる。より具体的には、こうした導電性化合物としては、酸化亜鉛、酸化錫、ITOを好ましく挙げることができる。
【0050】
本発明においては、導電性材料として、酸化亜鉛又は酸化錫を用いることが好ましい。これらの材料は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素との相性がよく、プラズマが蒸発源材料に集中的に照射される効果が発揮されやすく、プラズマが導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなる。その結果、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性の向上効果が確保されやすい。加えて、導電性材料として酸化錫を用いると、ガスバリア膜の耐腐食性が大きく改善される。すなわち、ガスバリア性シートをディスプレイ用途に用いる場合には、酸やアルカリでの画素パターンのエッチングが行われる。このため、酸やアルカリに対するガスバリア膜の耐腐食性をより高める必要が出てくる。そこで、導電性材料として酸化錫を用いることにより、ガスバリア膜の耐腐食性を向上させることができるので、ディスプレイ用途に有効に用いることができるガスバリア性シートを提供しやすくなる。
【0051】
以上説明した導電性材料のうち、原料粉末を焼結して蒸発源材料を製造する場合に、酸化の進行度合いを制御しなくてもよく、得られる蒸発源材料の組成制御も行いやすく工業生産に適しているという観点からは、酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる金属や合金、又は導電性化合物を用いることが好ましい。
【0052】
導電性材料の性状は、粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここでの平均粒径も上記同様の測定方法で測定した結果で表される。また、導電性材料は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0053】
本発明の原料粉末においては、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素の平均粒径と導電性材料の平均粒径は、両方とも5μm以下、好ましくは3μm以下である。この範囲内の窒化ケイ素や酸窒化ケイ素及び導電性材料を用いれば、粉末材料同士の混合が容易となり、分散むらのほどんどない原料粉末を得ることができる。こうした原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造すれば、単位体積あたりの小領域に微細な窒化ケイ素や酸窒化ケイ素と、微細な導電性材料とが均一に存在しており、個々の粉末はイオンプレーティング装置内で発生するプラズマに容易に被爆することができる。特に蒸発源材料中において、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素内に導電性材料が存在しているので、その導電性材料の作用により、プラズマガンから照射されるプラズマが蒸発源材料に集中的に照射される。加えて、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素中に導電性材料が均一に混ざるように存在しているので、成膜時に照射されるプラズマが導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上しやすくなる。
【0054】
なお、平均粒径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.2μmである。平均粒径を0.2μm以上とすれば、粉末材料同士を混合する際や焼結・造粒時等に飛散が起こりにくくなり生産性が向上するという利点が発揮されやすくなる。
【0055】
一方、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素及び導電性材料の一方又は両方の平均粒径が5μmを超えると、粉末材料同士を混合しても分散が十分に起こりにくくなる。そのため、得られた原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造した場合であっても、単位体積あたりの小領域に微細な窒化ケイ素や酸窒化ケイ素と、導電性材料とが均一に存在しなくなり、上述した導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射、及び導電性材料を介した蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用を得にくくなり、その平均粒径が大きくなるにしたがって蒸発源材料の励起が不十分となりやすい。
【0056】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、好ましくは、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素を主体(母体)とするものである。これは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は所定のガスバリア性を有し、窒化ケイ素は屈折率が高い材料なので原料粉末、蒸発源材料、及びガスバリア性シートとして好適に用いることができるからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末においては、導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射、及び導電性材料を介した蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用を奏し、ガスバリア膜のガスバリア性を改善するために所定量の導電性材料を用いている。こうした観点から、原料粉末中の導電性材料の含有量は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上、また、100重量部以下、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下とする。この範囲内の導電性材料を含む混合粉末でイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、上述した導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射と、導電性材料を介しての蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用が良好に奏され、蒸発源材料の励起が効率的に行われ、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得やすくなる。特に、導電性材料の含有量を50重量部以下とすれば、ガスバリア膜のガスバリア性を飛躍的に改善できるようになる。
【0057】
窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して導電性材料の含有量を5重量部未満とすると、導電性材料の添加効果(すなわちプラズマの集中的な照射とプラズマの蒸発源材料内部への良好な浸透)が生じにくくなることがあり、また、100重量部を超えると、得られたガスバリア膜が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多いので、ガスバリア膜を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合には上限を100重量部とすればよい。
【0058】
以上説明したように、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料とし、この蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いたとき、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0059】
(イオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法(本明細書においては、単に「蒸発源材料の製造方法」という場合がある。)は、上記で説明した本発明の原料粉末を準備する工程と、その原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程とを有している。これにより、焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0060】
原料粉末を準備する工程は、上記の原料粉末の説明欄で説明したように、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程である。準備される原料粉末は、例えば導電性材料が窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して5重量部以上100重量部以下で含有された原料粉末を、例えばミキサー等の混合手段によって混合されたものである。
【0061】
所定形状に加工する工程は、特に制限はないが、原料粉末を構成する窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と導電性材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。これにより、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
【0062】
焼結手段としては、例えば、原料粉末を所定形状に圧縮成形し、その圧縮成形体を構成粉末の溶融温度よりも低い温度に加熱して粉体同士が結合するようにする、一般的な焼結手段を適用できる。具体的には、金型プレス、CIPプレス(静水圧プレス)、RIPプレス(ラバープレス)等の従来公知の各種の方法を適用できる。
【0063】
焼結温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは300℃以上、また、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは500℃以下の任意の温度とすることができる。この範囲内で焼結することにより、原料粉末中からの脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができる。一方、焼結温度が200℃未満では、十分に焼結されず、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができないことがあり、焼結温度が1500℃を超えると、導電性材料や窒化ケイ素が酸化されてガスバリア性等の効果が消失する場合がある。このため、導電性材料や窒化ケイ素等が酸化されないよう酸素を遮断した雰囲気で焼結するのが好ましい。
【0064】
また、造粒手段としては、撹拌造粒、流動層造粒、押出造粒等の造粒方法を適用できる。具体的には、撹拌造粒とは、原料粉末を容器に入れ撹拌しながら液体の結着剤を添加して粉末を凝集させ、これを乾燥させる操作で、球形に近い塊状粒子を得る方法であり、流動層造粒法とは、原料粉末を入れた容器に下から熱風を送り粉末が空中にやや浮いた状態で結着剤を吹き付け、粉末を凝集乾燥させる操作で、比較的かさ高い塊状粒子を得る方法であり、押出造粒とは、原料粉末の湿塊を小孔から円柱状に押し出したのち乾燥させる操作で、比較的密度の高い塊状粒子を得る方法である。こうした造粒手段は通常結着剤を利用するが、その場合には、造粒後に例えば200℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成して結着剤を除去するのが一般的である。また、結着剤を使用しない場合には、例えば200℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成する。これらの加熱焼成により、脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物を形成しやすくなる。
【0065】
原料粉末を焼結又は造粒する際に、結着剤(バインダー)を利用する場合の代表例としては、デンプン、小麦蛋白、セルロース等を挙げることができるが、それ以外のものであっても構わない。こうした結着剤は、焼結や造粒を行った後に加熱焼成により除去されるのが一般的である。
【0066】
以上、本発明の蒸発源材料の製造方法によれば、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0067】
(イオンプレーティング用蒸発源材料)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられるものであって、上記本発明の原料粉末を焼結又は造粒して得られたものである。具体的には、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られ、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物となるように構成されたものである。これにより、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。導電性材料として、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい等の原料粉末に関する説明、さらには製造方法に関する説明については、上記説明したとおりであるので、説明の重複をさけるため、ここでの説明は省略する。
【0068】
蒸発源材料は、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であればよく、平均粒径が5mm以上であることが好ましい。平均粒径の上限は特に限定されない。したがって、2mm程度の塊状粒子であってもよいし、例えば平均粒径が10m、50mm等の大きな塊状物であってもよい。平均粒径を2mm以上としたのは、2mm未満では粒子が細かくてイオンプレーティング装置内でのプラズマ照射時の衝撃により蒸発源材料が飛散しやすく、また、装置のボート(ハース)内に入れる際の取り扱いにも手間がかかる傾向となることによる。平均粒径の上限は特に限定されないが、強いて例示すれば200mm程度である。平均粒径の上限は、蒸着装置の材料投入部(ハース)に収納される程度の大きさであれば特に制限はない。また、蒸発源材料の粒子の形態も、丸形、楕円形、角形等の形態であってもよい。なお、塊状粒子又は塊状物にするための焼結又は造粒については、各種の方法を適用できる。なお、この蒸発源材料の「平均粒径」も上記原料粉末の平均粒径と同様、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。
【0069】
窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素の構成元素と導電性材料の構成元素は、2次粒子の状態で蒸発源材料内に均一に分布し、その結果、導電性材料の構成元素の作用により、プラズマが集中的に照射され、導電性材料を介して蒸発源材料の内部までプラズマが浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率的に行われることにより成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が高くなりやすくなる。
【0070】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、好ましくは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素を主体(母体)とするものである。これは、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素は所定のガスバリア性を有し、窒化ケイ素は屈折率が高い材料なので原料粉末、蒸発源材料、及びガスバリア性シートとして好適に用いることができるからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料においては、導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射、及び導電性材料を介した蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用を奏し、ガスバリア膜のガスバリア性を改善するために所定量の導電性材料を用いている。こうした観点から、イオンプレーティング用蒸発源材料中の導電性材料の含有量は、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上、また、100重量部以下、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下とする。この範囲内の導電性材料を含む混合粉末でイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、上述した導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射と、導電性材料を介しての蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用が良好に奏され、蒸発源材料の励起が効率的に行われ、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得やすくなる。特に、導電性材料の含有量を50重量部以下とすれば、ガスバリア膜のガスバリア性を飛躍的に改善できるようになる。なお、通常、イオンプレーティング用蒸発源材料中の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、導電性材料と、の含有量の比率は、原料粉末中での含有量の比率を反映したものとなる。
【0071】
導電性材料の質量割合が5重量部未満となると、上記の作用が生じにくくなり、また、100重量部を超えると、得られたガスバリア膜が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多い。このため、ガスバリア膜を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合には、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対する導電性材料の質量割合の上限を100重量部とすればよい。
【0072】
以上、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、イオンプレーティング装置内でプラズマガンからプラズマが集中的に照射されるようになるとともに、導電性材料を介してプラズマが蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0073】
(ガスバリア性シート)
図1は、本発明のガスバリア性シートの一例を示す概略断面図である。本発明のガスバリア性シート1は、図1に示すように、基材2上の少なくとも一方の面にガスバリア膜3を備えたものであり、ガスバリア膜3には、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素と、導電性材料として酸化亜鉛又は酸化錫と、から形成されるものである。酸化亜鉛や酸化錫は、原料粉末の説明欄でも説明したように、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素との相性がよく、プラズマが蒸発源材料に集中的に照射される効果が発揮されやすく、プラズマが導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなる。その結果、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性の向上効果が確保されやすい。加えて、酸化錫においては、ガスバリア膜の耐腐食性が大きく改善され、酸やアルカリでパターニングを行う工程を有するディスプレイ用途に有効に用いることができる。
【0074】
ガスバリア膜3には、より具体的には、Si:N:X1(ただし、X1はZn又はSn):Oの原子数比で100:50〜120:5〜20:50〜150の範囲にあるSi−N−X1−O膜である。これにより、厚さ方向の膜質が均一なガスバリア膜を有するガスバリア性シートとなり、その結果ガスバリア性に著しく優れるガスバリア性シートを提供できる。X1は、Zn又はSnのいずれであってもよいが、酸やアルカリに対する耐腐食性の観点からは、Snとすることが好ましい。Nの原子数比は、X1等の他の元素の原子数比に依存するが、好ましくは55以上、より好ましくは60以上、また、好ましくは118以下、より好ましくは115以下である。X1の原子数比は、ガスバリア性確保の観点から、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。また、酸素の原子数比は、X1等の他の元素の原子数比に依存するが、好ましくは53以上、より好ましくは55以上、また、好ましくは140以下、より好ましくは135以下、さらに好ましくは130以下、特に好ましくは125以下、最も好ましくは120以下である。
【0075】
各元素の原子数比は、ESCA等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明において、ESCAの測定は、ESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)により測定したものである。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:1s、Zn:2p、Sn:3d、O:1s、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、Si=0.865、N=1.77、Zn=18.01、Sn=14.63、O=2.850)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を100とし、他の成分であるN、O、X1(Zn又はSn)の原子数を算出して成分割合とした。
【0076】
ガスバリア膜3は、主として酸素や水蒸気等の気体の透過を遮断する機能をするものであり、本発明におけるガスバリア膜は高いガスバリア性を示す。こうした高いガスバリア性を示す理由は、ガスバリア膜3が、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いて形成され、従来公知のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いた場合よりも蒸発源材料の励起が促進され、高密度で緻密であり密着性がよいからである。
【0077】
ガスバリア性の測定は、各種の測定装置で測定できるが、上記の水蒸気透過率は、Mocon社製のPARMATRAN−W 3/31を用い、40℃で90%Rhの条件で測定した。一方、上記の酸素ガス透過率の測定は、MOCON社製 OX−TRAN 2/20を用い、温度23℃、湿度90%RH、バックグラウンド除去測定を行うインディヴィジュアルゼロ(Individual Zero)測定ありの条件で測定した。
【0078】
ガスバリア膜3の厚さは、通常5nm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、上記した優れた酸素透過率と水蒸気透過率を満たしやすくなる。特に、ガスバリア膜3の厚さを0.05μm以上(50nm以上)とすれば、ガスバリア性をより確保しやすい。また、ガスバリア膜3の厚さは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、膜応力を低くして、基材2がフレキシブルフィルムである場合にガスバリア膜3にクラックが生じにくくなり、ガスバリア性が低下するのを抑制し、さらに成膜に要する時間も低減できるため生産性も向上させやすくなる。
【0079】
本発明のガスバリア性シートに透明性が必要とされる場合には、基材2は高度の透明性を有する材料であることが好ましく、具体的には、400nm〜700nmの光透過度が80%以上のガスバリア性シートは、表示媒体や照明、太陽電池のカバー等のような、光を透過させることが必要な用途のような内容物を見ることが要求される用途などに用いる際に好ましく適用できる。なお、光透過度は全光線透過率と同じ意味で用いている。ただし、全光線透過率は、膜厚と屈折率とから光学的に調整することができるため、この数値は目安となるが、必ずしも厳格に適用されるというわけではない。
【0080】
図1においては、基材2の一方の面にガスバリア膜3が形成されたものであるが、他の形態としては、基材2の両面にガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の一方の面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の両面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、その樹脂層とガスバリア膜とが2回以上繰り返して積層されたものであってもよい。また、ガスバリア膜3の上には、必要に応じて、ハードコート層、耐スクラッチ層、導電層、反射防止層等を適宜形成することができる。また、ガスバリア膜3を多層化させてもよい。
【0081】
基材2は、イオンプレーティング用蒸発源材料を付着させる基材であるが、特に制限なく用いることができる。基材2としては、主にはシート状やフィルム状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
【0082】
基材2の厚さについても特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、通常6μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常400μm以下、好ましくは250μm以下の範囲とする。
【0083】
基材2とガスバリア膜3との間に設けられる樹脂層(図示しない)は、基材2とガスバリア膜3との密着性を向上させ、かつ、ガスバリア性をより向上させるためのものである。また、ガスバリア膜3を被覆する樹脂層(図示しない)は、保護膜として機能し、耐熱性、耐薬品性、耐候性をガスバリア性シートに付与すると共に、ガスバリア膜3に欠損部位があってもそれを埋めることによりガスバリア性を向上させるためのものである。このような樹脂層は、ポリアミック酸、ポリエチレン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリアゾメチン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等の市販の樹脂材料、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類との重合体である高分子量エポキシ重合体を含有する硬化性エポキシ樹脂、及び、上述の基材に使用する樹脂材料等の1種又は2種以上の組み合わせにより形成することができる。樹脂層の厚さは、使用する材料により適宜設定することが好ましいが、例えば、5nm以上、500μm以下の範囲で設定することができる。
【0084】
こうした樹脂層には、平均粒径が0.8μm以上、5μm以下の範囲にある非繊維状の無機充填材を含有させてもよい。使用する非繊維状の無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、アルミナ、マグネシア、シリカ、二酸化チタン、クレイ等を挙げることができ、特に焼成されたクレイが好ましく使用できる。このような無機充填材は、樹脂層の通常10重量%以上、好ましくは25重量%以上、また、通常60重量%以下、好ましくは45重量%以下の範囲で含有させることができる。
【0085】
以上、本発明のガスバリア性シートによれば、厚さ方向の膜質が均一で、高密度かつ緻密で密着性のよいガスバリア膜を有するので、ガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。こうした効果を奏する本発明のガスバリア性シートは、ガスバリア性が要求される各種部材への適用が可能である。例えば、種々の飲食品(食品)、接着剤、粘着剤等の化学品、化粧品、医薬品、ケミカルカイロ等の雑貨品、電子部品等の包装用部材の一部として用いてもよいし、液晶表示装置の構成部材として用いてもよい。
【0086】
(ガスバリア性シートの製造方法)
本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、このイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有している。本発明のガスバリア性シートの製造方法は、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いた場合に、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【0087】
この製造方法において、原料粉末、蒸発源材料、ガスバリア性シートのそれぞれについては既に説明したとおりである。例えば、導電性材料を、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つとすることが好ましい点については、すでに説明したとおりである。したがって、説明の重複を避けるため、ここではその説明は省略する。また、原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料にする方法も、すでに説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
【0088】
図2は、イオンプレーティング装置の一例を示す構成図であり、詳しくは、後述の実施例で使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。図2に示すホローカソード型イオンプレーティング装置101は、真空チャンバー102と、このチャンバー102内に配設された供給ロール103a、巻き取りロール103b、コーティングドラム104と、バルブを介して真空チャンバー102に接続された真空排気ポンプ105と、仕切り板109,109と、その仕切り板109,109で真空チャンバー102と仕切られた成膜チャンバー106と、この成膜チャンバー106内の下部に配設された坩堝107と、アノード磁石108と、成膜チャンバー106の所定位置(図示例では成膜チャンバーの右側壁)に配設された圧力勾配型プラズマガン110、収束用コイル111、シート化磁石112、圧力勾配型プラズマガン110へのアルゴンガスの供給量を調整するためのバルブ113と、成膜チャンバー106にバルブを介して接続された真空排気ポンプ114と、酸素ガスの供給量を調整するためのバルブ116とを備えている。なお、図示のように、供給ロール103aと巻き取りロール103bはリバース機構が装備されており、両方向の巻き出し、巻き取りが可能となっている。
【0089】
このようなイオンプレーティング装置101を用いたガスバリア膜の形成は以下のように行われる。先ず、真空チャンバー102、成膜チャンバー106内を、真空排気ポンプ105,114により所定の真空度まで減圧し、次いで、成膜チャンバー106内に酸素ガスを所定流量導入し、真空排気ポンプ114と成膜チャンバー106との間にあるバルブの開閉度を制御することにより、チャンバー106内を所定圧力に保ち、基材フィルムを走行させ、アルゴンガスを所定流量導入した圧力勾配型プラズマガン110にプラズマ生成のための電力を投入し、アノード磁石108上の坩堝107にプラズマ流を収束させて照射することにより蒸発源材料を蒸発させ、高密度プラズマにより蒸発分子をイオン化させて、基材上に所定のガスバリア膜を形成して、ガスバリア性シートを得る。
【0090】
本発明は、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いた点に特徴がある。その蒸発源材料を用いてイオンプレーティング成膜を行えば、成膜時に照射されるプラズマが、蒸発源材料に集中的に照射されるとともに、導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜されるガスバリア膜のガスバリア性が著しく向上する。
【実施例】
【0091】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
窒化ケイ素粉末であるSi粉末(高純度化学製、平均粒径:1μm)を100重量部に対し、導電性材料である酸化亜鉛(ZnO)粉末(高純度化学製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:0.5μm、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率が10Ω・cm)を30重量部加えて混合して、本発明に係る原料粉末を得た。
【0093】
この原料粉末にバインダーとして、2%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、10mmφの球状体を得た。その後、焼成炉に入れ、400℃で1時間保持し、平均粒径7mmφの塊状物からなる本発明に係るイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。得られた蒸発源材料の質量割合をX線分光分析装置(XPS/ESCA)により測定した結果、二酸化ケイ素100に対して、酸化亜鉛の質量割合は30であり、原料粉末の混合割合とほぼ一致していた。
【0094】
一方、乾燥機で160℃で1時間乾燥させた厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン社製、Q65)からなるプラスチックフィルム基材を透明フィルム基材とし、図2に示す構造の圧力勾配型イオンプレーティング装置の供給ロール103a及び巻き取りロール103b間にセットした。
【0095】
次に、作製した蒸発源材料を、図2に示したホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することと磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、本発明に係る蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は溶融状態を経て昇華することが確認された。イオンプレーティングを5秒間(蒸着レート:360nm/min)行って基板に堆積させることにより、膜厚30nmのSiNZnOのガスバリア膜を得た。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0096】
ガスバリア膜の組成をESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)測定したところ、Si:N:Zn:Oの原子数比で、100:110:15:56のSi−N−Zn−O膜であった。このESCA測定において、X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:1s、Zn:2p、Sn:3d、O:1s、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、Si=0.865、N=1.77、Zn=18.01、Sn=14.63、O=2.850)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を1又は100とし、他の成分であるN、O、Znの原子数を算出して成分割合とした。
【0097】
ガスバリア性として水蒸気透過率を測定したところ、1.4×10−2g/m/dayであった。水蒸気透過率の測定は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 PERMATRAN−W 3/31)を用いて、温度40℃、湿度90%RHで測定した。また、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であった。酸素ガス透過率の測定は、酸素ガス透過率測定装置(MOCON社製 OX−TRAN 2/20)を用いて、温度23℃、湿度90%RH、バックグラウンド除去測定を行うインディヴィジュアルゼロ(Individual Zero)測定ありの条件で測定した。なお、上記酸素ガス透過率測定装置の測定限界は0.01cc/m/day・atmである。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0098】
(実施例2)
導電性材料として、酸化亜鉛の代わりに酸化錫であるSnO粉末(高純度化学製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:1.0μm、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率が0.6Ω・cm)を用いたこと、Si粉末100重量部に対してSnO粉末を10重量部加えて混合したこと、イオンプレーティングを60秒間(蒸着レート:21.7nm/min)としたこと、以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚21.7nmのSiNSnOのガスバリア膜を得た。
【0099】
実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Sn:O=100:63:10:133であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、9.1×10−2g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であった。
【0100】
さらに、ガスバリア性シートの400nm〜700nmの全光線透過率を、須賀試験機製ヘーズメーターを用いて測定したところ、88.1%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0101】
(耐腐食性試験)
以下の方法で耐腐食性試験を行った。すなわち、ガスバリア性シートを、1N−NaOH及び1N−HClのそれぞれに1時間浸積した後、純水でリンスし50℃/1時間オーブンにて乾燥し、その後、外観目視検査、水蒸気透過率測定を行った。水蒸気透過率測定は、上述の方法を用いた。その結果、ガスバリア性シートには外観異常はみられず、水蒸気透過率も変化がなかった。
【0102】
(実施例3)
Si粉末100重量部に対してSnO粉末を20重量部加えて混合したこと、イオンプレーティングを30秒間(蒸着レート:33.9nm/min)としたこと以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚16.9nmのSiNSnOのガスバリア膜を得た。水蒸気透過率を測定したところ、3.9×10−2g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は87.7%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0103】
また、耐腐食性試験を実施例2と同様にして行ったところ、ガスバリア性シートには外観異常はみられず、水蒸気透過率も変化がなかった。
【0104】
(実施例4)
イオンプレーティングを60秒間(蒸着レート:56.1nm/min)としたこと以外は、実施例3と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚56.1nmのSiNSnOのガスバリア膜を得た。実施例3と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Sn:O=100:97:13:69であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、6.4×10−2g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は84.2%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0105】
また、耐腐食性試験を実施例2と同様にして行ったところ、ガスバリア性シートには外観異常はみられず、水蒸気透過率も変化がなかった。
【0106】
(実施例5)
Si粉末100重量部に対してSnO粉末を30重量部加えて混合したこと、イオンプレーティングを60秒間(蒸着レート:38.1nm/min)としたこと以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚38.1nmのSiNSnOのガスバリア膜を得た。実施例2と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Sn:O=100:97:15:72であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、4.8×10−2g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は85.4%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0107】
また、耐腐食性試験を実施例2と同様にして行ったところ、ガスバリア性シートには外観異常はみられず、水蒸気透過率も変化がなかった。
【0108】
(実施例6)
Si粉末100重量部に対してSnO粉末を50重量部加えて混合したこと、イオンプレーティングを60秒間(蒸着レート:67.3nm/min)としたこと以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚67.3nmのSiNSnOのガスバリア膜を得た。実施例2と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Sn:O=100:100:15:61であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、7.1×10−2g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は80.7%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0109】
また、耐腐食性試験を実施例2と同様にして行ったところ、ガスバリア性シートには外観異常はみられず、水蒸気透過率も変化がなかった。
【0110】
(比較例1)
ZnO粉末を用いなかったこと、イオンプレーティングを30秒間(蒸着レート:48.4nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートの形成を試みた。しかしながら、イオンプレーティングの際にシャッターを開けようとしたところ、電圧降下異常が起こり成膜に失敗した。そこで、再度電流の上昇をゆっくりと行ったが、今度は過電流異常警告が発生した。警告を無視して続行したところ、30秒間基板に付着させることで、膜厚24.2nmのSiNOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:O=100:88:67であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、2.4×10−1g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、測定限界以下であり、ガスバリア性シートの全光線透過率は87.8%であった。これら成膜条件、評価結果を表−1に示す。
【0111】
(比較例2)
Si粉末100重量部に対してZnO粉末を3重量部加えて混合したこと、イオンプレーティングを30秒間(蒸着レート:40.2nm/min)としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成し、膜厚20.1nmのSiNZnOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、Si:N:Zn:O=100:44:0.1:130であった。また、水蒸気透過率を測定したところ、1.6×10−1g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、2.7×10−1cc/m/day・atmであった。
【0112】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明のガスバリア性シートの例を示す概略断面図である。
【図2】実施例において使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。
【符号の説明】
【0114】
1 ガスバリア性シート
2 基材
3 ガスバリア膜
101 ホローカソード型イオンプレーティング装置
102 真空チャンバー
103a 供給ロール
103b 巻き取りロール
104 コーティングドラム
105 真空排気ポンプ
106 成膜チャンバー
107 坩堝
108 アノード磁石
109 仕切り板
110 圧力勾配型プラズマガン
111 収束用コイル
112 シート化磁石
113 バルブ
114 真空排気ポンプ
116 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有することを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項2】
前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有することを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法。
【請求項4】
前記所定形状に加工する工程が、前記原料粉末を構成する前記窒化ケイ素又は前記酸窒化ケイ素と前記導電性材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程である、請求項3に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒して得られ、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であることを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項6】
前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項7】
平均粒径が5μm以下の窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素100重量部に対して、平均粒径が5μm以下の導電性材料を5重量部以上100重量部以下含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を焼結又は造粒してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、
前記イオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性シートの製造方法。
【請求項8】
前記導電性材料が、導電性を有する、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つである、請求項7に記載のガスバリア性シートの製造方法。
【請求項9】
基材上の少なくとも一方の面にガスバリア膜を備えるガスバリア性シートにおいて、
前記ガスバリア膜が、Si:N:X1(ただし、X1はZn又はSnを表す。):Oの原子数比で100:50〜120:5〜20:50〜150の範囲にあるSi−N−X1−O膜であることを特徴とするガスバリア性シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−143759(P2009−143759A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322250(P2007−322250)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】