説明

イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法

【課題】生産性が高く、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供する。また、イオンプレーティング法に適した蒸発源材料及びその製造方法、並びにガスバリア性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末により、上記課題を解決する。この原料粉末は、酸化ケイ素の比表面積が600m/g以上であることが好ましい。本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、上記原料粉末を焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法に関し、更に詳しくは、生産性が高く、緻密で密着性のよいガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素ガスや水蒸気等に対するバリア性を備えたガスバリア性シートとして、基材上に酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物膜をガスバリア膜として設けたものが提案されている。こうしたガスバリア性シートは、透明性に優れ、環境への影響もほとんどなく、包装用材料等にその需要が大いに期待されている。
【0003】
無機酸化物からなるガスバリア膜の成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法のほか、イオンプレーティング法が採用されている。イオンプレーティング法で成膜されたガスバリア膜は、基材への密着性と緻密さの点で、真空蒸着で成膜された蒸着膜よりも優れ、スパッタリング法で成膜されたスパッタ膜と同程度であるという特徴がある。一方、イオンプレーティング法によるガスバリア膜の成膜は、成膜速度の点で、スパッタリング法の場合よりも大きく、真空蒸着法と同程度であるという特徴がある。
【0004】
こうした特徴を有するイオンプレーティング法で製造されるガスバリア膜としては、例えば特許文献1には、ガスバリア膜が、蒸発源としてSiO(0≦x≦2)を用いてイオンプレーティング法により成膜された酸化珪素(SiO(1.5≦y≦2))を主体とする薄膜であり、かつこの薄膜の酸素透過率が0.02〜0.5cc/m・dayの範囲である透明バリアフィルムについて記載されている。
【特許文献1】特開2000−272044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化ケイ素系の材料は、二酸化ケイ素系の材料(以下、単に「二酸化ケイ素」という場合がある。)、一酸化ケイ素系の材料(以下、単に「一酸化ケイ素」という場合がある。)、及び両者の中間領域の組成を有する酸化ケイ素系の材料(以下、単に「二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料」という場合がある。)に大きく分類することができる。
【0006】
二酸化ケイ素系の材料は安価な材料である。このため、食品等の包装用材料のようにコスト低減が求められる分野において、二酸化ケイ素系の材料はガスバリア膜に用いるのに適した材料となる。
【0007】
しかしながら、二酸化ケイ素系の材料は、加熱により一旦溶融し、その後気化する性質を有する。このため、二酸化ケイ素系の材料に加えられる熱エネルギーの一部がその相変換のエンタルピーとして消費されてしまい、イオンプレーティング法に適用する場合にエネルギーの変換効率が不十分となりやすい。より具体的には、イオンプレーティング法においては、イオンプレーティング用蒸発源材料にプラズマを照射して一旦蒸発させた後に基材上への成膜が行われるが、二酸化ケイ素系の材料は、固相→液相→気相と相変化し液相を経る必要がある分だけ、プラズマ照射における電気エネルギーがロスすることになる。その結果、成膜速度が低下して生産効率が不十分となりやすい。したがって、イオンプレーティング法を用いて二酸化ケイ素系の材料を主体とするガスバリア膜を製造する場合には、生産性をより高めたいという課題がある。
【0008】
上述した食品分野のように包装用材料の厳しいコスト削減が求められる分野においては、二酸化ケイ素系の材料を用いて材料を低コスト化するとともに生産効率を高めることによりさらなるコスト削減が求められるのが実情である。したがって、イオンプレーティング法を用い、二酸化ケイ素系の材料を主体とするガスバリア膜を製造する場合には、生産性を高くしてさらなるコスト削減を達成したいとの課題もある。
【0009】
これに対して、一酸化ケイ素系の材料は、昇華性の材料であり生産性は高いものの、ガスバリア性に劣るという課題がある。二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料も、同様に、ガスバリア性に劣るという課題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、生産性が高く、コストが抑えられているにも関わらず、緻密で密着性のよいガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供することにある。そして、その第2の目的は、生産性が高く、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末等を提供することにある。より詳しくは、イオンプレーティング法に適したイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末、イオンプレーティング用蒸発源材料及びその製造方法、ガスバリア性シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ガスバリア性シートについて、より生産性を高めるための研究開発を行っている過程で、イオンプレーティング法で用いる蒸発源材料を改良することにより、蒸発速度が著しく大きくなり、その結果、成膜速度がアップして生産性が著しく向上すると共に、膜特性も向上することを見出した。
【0012】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末が、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるので、この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いれば、その蒸発源の蒸発を容易にし、イオン化を容易にする。その結果、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得ることができる。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。
【0014】
この発明の原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料が上記の作用効果を奏する理由は、以下のように推測される。すなわち、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素に、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料を混ぜることによって分散均一性の高い原料粉末となるため、この原料粉末から得られたイオンプレーティング用蒸発源材料においても、高屈折率材料が酸化ケイ素中に均一に分散して存在するものと推測される。そして、均一分散した高屈折率材料が酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)の昇華を助けるために、イオンプレーティング用蒸発源材料が固相→液相→気相の順での相変化を起こさず、固相→気相の昇華現象を起こすようになると推測される。こうした昇華現象による蒸発源材料の相変化により、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化が容易となるので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、上述の通り、高屈折率材料の含有量を調整することにより、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜としての特性を維持することができる。
【0015】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記酸化ケイ素の比表面積が600m/g以上であるように構成することが好ましい。
【0016】
この発明によれば、酸化ケイ素の比表面積が600m/g以上であるので、混合する高屈折率材料を吸着しやすく、Si−Oネットワーク内にSiと高屈折率材料とのネットワークを良好に組み込みやすくなる。
【0017】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記高屈折率材料が絶縁性材料であることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、高屈折率材料が絶縁性材料であるので、原料粉末から得られる蒸発源材料がより昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がより大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をより向上させることができると共に、より緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0019】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末において、前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、高屈折率材料を、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つとするので、原料粉末から得られる蒸発源材料がさらに昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がさらに大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をさらに向上させることができると共に、さらに緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0021】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法は、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、前記原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、その原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程とを有するので、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、固相→液相→気相の順での相変化を起こしにくく、固相→気相の昇華現象を起こしやすくなる。こうした蒸発源材料は、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にするので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。その結果、製造されたイオンプレーティング用蒸発源材料は、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする蒸発源材料として極めて有効なものとなる。また、上述の通り、高屈折率材料の含有量を調整することにより、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜としての特性を維持することができる。
【0023】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法において、前記所定形状に加工する工程が、前記原料粉末を構成する前記酸化ケイ素と前記高屈折率材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、所定形状に加工する工程において、原料粉末を構成する酸化ケイ素と高屈折率材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工するので、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末を焼結又は造粒された、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料であって、該イオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、該蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じることを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末を焼結又は造粒された、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、この蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じるので、僅かなエネルギーでの蒸発を可能とし、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、成膜速度の向上や膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0027】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記高屈折率材料の質量割合が、前記酸化ケイ素を100としたとき、5以上50以下であるように構成することが好ましい。
【0028】
この発明によれば、前記高屈折率材料の質量割合を上記範囲で含有させたので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができる。その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。
【0029】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記高屈折率材料が絶縁性材料であることが好ましい。
【0030】
この発明によれば、高屈折率材料が絶縁性材料であるので、蒸発源材料がより昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がより大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をより向上させることができると共に、より緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0031】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料において、前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0032】
この発明によれば、高屈折率材料を、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つとするので、蒸発源材料がさらに昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がさらに大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をさらに向上させることができると共に、さらに緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0033】
上記課題を解決する本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を造粒又は焼結してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、前記イオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有することを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、上記本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、そのイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有するが、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、その蒸発源材料は固相→気相の昇華現象を起こして僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。
【0035】
本発明のガスバリア性シートの製造方法において、前記高屈折率材料が絶縁性材料であることが好ましい。
【0036】
この発明によれば、高屈折率材料が絶縁性材料であるので、蒸発源材料がより昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がより大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をより向上させることができると共に、より緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0037】
本発明のガスバリア性シートの製造方法において、前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0038】
この発明によれば、高屈折率材料を、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つとするので、蒸発源材料がさらに昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がさらに大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をさらに向上させることができると共に、さらに緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0039】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性シートは、基材上の少なくとも一方の面にガスバリア膜を備えるガスバリア性シートにおいて、前記ガスバリア膜が、Si:O:Nの原子数比で100:100〜200:5〜50の範囲にあるSi−O−N膜であって、前記原子数比が前記ガスバリア膜の厚さ方向に均一であることを特徴とする。
【0040】
この発明によれば、ガスバリア膜が、Si:O:Nの原子数比で100:100〜200:5〜50の範囲にあるSi−O−N膜であって、この原子数比がガスバリア膜の厚さ方向に均一(バラツキが±10%以内)であるので、厚さ方向の膜質が均一なガスバリア膜を有するガスバリア性シートとなり、その結果ガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。なお、本発明で示す原子数比はバルクでの値を指している。
【発明の効果】
【0041】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒し、イオンプレーティング用の蒸発源として用いることにより、その蒸発源の蒸発を容易にし、イオン化を容易にすることができる。その結果、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができると共に、緻密で密着性のよいガスバリア膜を得ることができる。また、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、生産性が高く、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を提供することができる。
【0042】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法によれば、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、固相→液相→気相の順での相変化を起こしにくく、固相→気相の昇華現象を起こしやすくなるので、こうした蒸発源材料は、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、製造されたイオンプレーティング用蒸発源材料は、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができると共に、緻密で密着性のよいガスバリア膜の成膜を可能にする蒸発源材料として極めて有効である。また、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法によれば、生産性が高く、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法を提供することができる。
【0043】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、僅かなエネルギーでの蒸発を可能とし、また、蒸発した原子のイオン化を容易にするので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、生産性が高く、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるイオンプレーティング用蒸発源材料を提供することができる。こうした本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料に対し、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、成膜速度の向上や膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0044】
本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、特に本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、その蒸発源材料は固相→気相の昇華現象を起こして僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができると共に、緻密で密着性のよいガスバリア膜の成膜を可能にする。また、本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、生産性が高く、ガスバリア性の高いガスバリア膜を成膜できるガスバリア性シートの製造方法を提供することができる。
【0045】
本発明のガスバリア性シートによれば、厚さ方向の膜質が均一で、高密度かつ緻密で密着性のよいガスバリア膜を有するので、ガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0047】
(イオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末(本明細書においては、単に「原料粉末」という場合がある。)は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられる蒸発源材料の原料であって、具体的には、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末である。
【0048】
こうした原料粉末から得られる蒸発源材料は、容易に蒸発してイオン化も容易となる。その結果、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得ることができる。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。この原料粉末を焼結又は造粒した蒸発源材料が上記の作用効果を奏する理由は、以下のように推測される。すなわち、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素に、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料を混ぜることによって分散均一性の高い原料粉末となるため、この原料粉末から得られたイオンプレーティング用蒸発源材料においても、高屈折率材料が酸化ケイ素中に均一に分散して存在するものと推測される。そして、均一分散した高屈折率材料が酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)の昇華を助けるために、イオンプレーティング用蒸発源材料が固相→液相→気相の順での相変化を起こさず、固相→気相の昇華現象を起こすようになると推測される。こうした昇華現象による蒸発源材料の相変化により、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化が容易となるので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、上述の通り、高屈折率材料の含有量を調整することにより、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜としての特性を維持することができる。
【0049】
原料として用いる、酸化ケイ素としては、ケイ素と酸素とから構成される化合物であればよく特に制限はない。酸化ケイ素は、上述のとおり、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、及び二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料に大きく分けることができるが、本発明では、いずれの酸化ケイ素であっても使用でき、それぞれ特有の効果を奏することができる。これら材料のうち、本発明の効果を顕著に発揮できる点で好ましいのは、二酸化ケイ素である。
【0050】
一酸化ケイ素は、SiO(ここでのyは0.8〜1.2の範囲内であり、通常SiOで表される)で表すことができる。一酸化ケイ素は、昇華性の材料で生産性を高くすることができる利点があるが、ガスバリア性に劣る。このため、本発明においては、高屈折率材料でも昇華性かつガスバリア性の高いもの(例えば、窒化ケイ素)を併用することにより、生産性を落とすことなく、ガスバリア性を向上させることができる。
【0051】
二酸化ケイ素は、固相→液相→気相の相変化をする傾向が強いので、高屈折率材料を併用する意義が大きくなる。二酸化ケイ素は、SiO(ここでのxは1.8〜2.2の範囲内であり、通常、SiOで表される。)で表すことができる。
【0052】
二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料は、SiO(ここでのzは1.2より大きく、1.8より小さい範囲である)で表すことができる。こうした中間領域の酸化ケイ素はガスバリア性に劣る傾向となる。このため、本発明においては、高屈折率材料でも昇華性かつガスバリア性の高いもの(例えば、窒化ケイ素)を併用することにより、生産性を向上させ、ガスバリア性を向上させることができる。
【0053】
酸化ケイ素の性状は、粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここで、本発明において「平均粒径」とは、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。また、酸化ケイ素は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0054】
屈折率が1.8以上である高屈折率材料(本明細書では、単に「高屈折率材料」という場合がある。)としては、所定の屈折率を有する無機材料を用いるが特に制限はない。高屈折率材料は酸化ケイ素の昇華を助ける役割を有するので、酸化ケイ素と高屈折率材料とから構成される原料粉末から得られる蒸発源材料は、固相→気相と状態変化をするようになる。このため、イオンプレーティング法による成膜時にプラズマのエネルギーが効率よく蒸着に利用されることになり、蒸着速度の向上と成膜の安定性が得られやすい。加えて、高屈折率材料は一般に密度が高い材料なので、成膜されるガスバリア膜においても、Si−Oネットワークの中に高屈折率材料が取り込まれることによって密度が増加して、ガスバリア性も向上しやすくなる。
【0055】
高屈折率材料の屈折率は、1.8以上であるが、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.2以上、また、通常5.0以下とする。例えば、AlO(屈折率:1.64)やMgO(屈折率:1.74)のように屈折率が1.8未満の低屈折率の材料は、成膜されるガスバリア膜が疎になってガスバリア性が不十分となりやすいので、酸化ケイ素と組み合わせて原料粉末及び蒸発源材料としてガスバリア膜を形成する意義がなくなる。高屈折率材料の屈折率の測定は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、エリプソメーターを用いることができる。本発明においては、屈折率をJOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定した。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVとして行った。
【0056】
高屈折率材料の性状は粉末状であり、より具体的には平均粒径5μm以下の粉末である。ここでの平均粒径も上記同様の測定方法で測定した結果で表される。また、高屈折率材料は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0057】
高屈折率材料は、絶縁性材料であることが好ましい。高屈折率材料を絶縁性材料とすることにより、原料粉末から得られる蒸発源材料がより昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がより大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をより向上させることができると共に、より緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。こうした絶縁性材料としては、特に制限はないが、好ましくは、酸化チタン(屈折率:2.35)、酸化ニオブ(屈折率:2.35)、チタン酸ストロンチウム(屈折率:2.41)、窒化ケイ素(屈折率:2.03)、酸窒化ケイ素(屈折率:1.80)、硫化亜鉛(屈折率:2.30)、及び酸化ジルコニウム(屈折率:2.05)から選ばれる少なくとも1つとすることが好ましく、より好ましくは、酸化チタン、酸化ニオブ、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つとすることであり、さらに好ましくは窒化ケイ素とすることである。上記の化合物を用いることにより、原料粉末から得られる蒸発源材料がさらに昇華しやすくなり、基材上への成膜速度(堆積速度)がさらに大きくなって、その結果ガスバリア性シートの生産性をさらに向上させることができると共に、さらに緻密で密着性のよいガスバリア膜を得やすくなる。
【0058】
高屈折率材料に窒化ケイ素を用いる場合、窒化ケイ素はSiN(ここでのyは1.0〜1.5の範囲内であり、通常、SiN1.3で表される。)で表すことができ、本発明の原料粉末として適している。その理由は、窒化ケイ素の持つ種々の特性に基づくものであり、その特性としては、例えば酸化ケイ素との親和性、耐熱性、導電性、プラズマ耐性等が挙げられる。
【0059】
本発明の原料粉末では、酸化ケイ素の平均粒径と高屈折率材料の平均粒径は、両方とも5μm以下、好ましくは3μm以下である。この範囲内の酸化ケイ素及び高屈折率材料を用いれば、粉末材料同士の混合が容易となり、分散むらのない原料粉末を得ることができる。こうした原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造すれば、単位体積あたりの小領域に微細な酸化ケイ素と、微細な高屈折率材料とが均一に存在しており、個々の粉末はイオンプレーティング装置内で発生するプラズマに容易に被爆することができる。特に蒸発源材料中において、酸化ケイ素内に均一に混ざるように高屈折率材料が存在しているので、その高屈折率材料の作用により、蒸発源材料が固相→液相→気相の順での相変化を起こしにくく、固相→気相の昇華現象を起こしやすくなる。こうした昇華現象による蒸発源材料の相変化は、僅かなエネルギーでの蒸発を可能とし、また、蒸発した原子のイオン化を容易にするので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)が大きくなるとともに欠陥の少ないガスバリア膜を得られやすくする。
【0060】
なお、平均粒径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.2μmである。平均粒径を0.2μm以上とすれば、粉末材料同士を混合する際や焼結・造粒時等に飛散が起こりにくくなり生産性が向上するという利点が発揮されやすくなる。
【0061】
一方、酸化ケイ素及び高屈折率材料の一方又は両方が平均粒径5μmを超えると、粉末材料同士を混合しても分散が十分に起こりにくくなる。そのため、得られた原料粉末を焼結又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造した場合であっても、単位体積あたりの小領域に微細な酸化ケイ素と、高屈折率材料とが均一に存在しなくなり、上述した昇華現象を引き起こす高屈折率材料の作用を得にくくなり、その平均粒径が大きくなるにしたがって固相→気相の相変化よりも固相→液相→気相の相変化が起こりやすくなる。こうした蒸発源材料の相変化は、平均粒径が5μm以下のものに比べ、蒸発のためのエネルギーが大きくなるので同じエネルギーを与えた場合には蒸発量が少なくなり、成膜速度(堆積速度)が小さくなる傾向となる。
【0062】
酸化ケイ素は、その比表面積が600m/g以上の粉末とすることが好ましい。酸化ケイ素の比表面積を600m/g以上とすることにより、混合する高屈折率材料を吸着しやすく、Si−Oネットワーク内にSiと高屈折率材料とのネットワークを良好に組み込みやすくなる。例えば同じ体積の酸化ケイ素の粉末であっても、比表面積が600m/g以上の粉末を用いれば、1次粒子の官能基(シラノール基)が多くなっており、吸着サイトが多くなる。酸化ケイ素の比表面積を600m/g未満とすると、高屈折率材料に対する吸着性が不十分となりやすく、Si−Oネットワーク内にSiと高屈折率材料とのネットワークを良好に組み込みにくくなる場合がある。また、酸化ケイ素の比表面積を600m/g未満とすると、焼結や造粒をしても固まりにくく、蒸発源材料を所望の塊状粒子又は塊状物にすることができないことがある。本発明において比表面積は、所定量(例えば1g)の粉末を自動比表面積測定装置(窒素吸着法、BETの式)で求めた値で評価した。
【0063】
このとき、Siと高屈折率材料とのネットワークがSi−Oネットワークに良好に組み込まれたか否かの評価は、イオンプレーティング法によって得られたガスバリア膜の膜質を測定し、高屈折率材料又は高屈折率材料を構成する元素がガスバリア膜内に均一に分布しており、かつそのガスバリア膜が緻密であることから確認できる。なお、酸化ケイ素の好ましい比表面積は800m/g以上であり、その上限は特に限定されないが1000m/g程度のものまで使用可能である。
【0064】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末は、酸化ケイ素を主体とするものである。これは、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)は、安価な材料なので、原料粉末、蒸発源材料、及びガスバリア性シートの低コスト化が可能となり、食品分野のように包装用材料の厳しいコスト削減が求められる分野に好適に用いることができるからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末においては、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)が有する固相→液相→気相の相変化の性質を、固相→気相に変化させて昇華の状態変化を可能とするとともにガスバリア膜の膜質を改善するために所定量の高屈折率材料を用いている。具体的には、原料粉末中の高屈折率材料の含有量は、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下とする。この範囲内の高屈折率材料を含む混合粉末でイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、上述した昇華現象による蒸発とイオン化を容易に行うことができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得やすくなる。
【0065】
酸化ケイ素100重量部に対して高屈折率材料の含有量を5重量部未満とすると、高屈折率材料の添加効果(すなわち昇華現象の発現効果)が生じにくくなることがあり、また、50重量部を超えると、得られたガスバリア膜が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多い。このため、ガスバリア膜を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合に上限を50重量部とする。
【0066】
以上説明したように、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末によれば、この原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料とし、この蒸発源材料をイオンプレーティング用の蒸発源として用いたとき、その蒸発源の蒸発を容易にし、イオン化を容易にする。その結果、イオンプレーティング成膜時において、基材上への成膜速度(堆積速度)が大きくなって、ガスバリア性シートの生産性を向上させることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜を得ることができる。
【0067】
こうした本発明の蒸発源材料に対し、従来、容易に入手可能な真空蒸着用のSiO材料等をイオンプレーティング用蒸発源材料として用いた場合、SiO材料等は加熱により一旦溶融した後に気化するため、熱エネルギーがその相変化のエンタルピーとして使用され、エネルギー効率が悪い。その結果、イオンプレーティング法特有のプラズマ照射による電気エネルギーのロスが起こり、成膜速度の低下、膜の付着力の低下、緻密性の低下等の不具合が生じやすいという難点がある。また、同様に容易に入手可能なスパッタリング用SiOターゲット材料をイオンプレーティング用蒸発源材料として用いた場合も同様である。いずれにしても、上記作用効果を奏する本発明の原料粉末及びその原料粉末から得られた本発明の蒸発源材料は、蒸発速度が著しく大きくなり、成膜速度がアップして生産性が著しく向上すると共に、膜特性も向上するという、従来の蒸発源材料では得られない効果を奏する。
【0068】
イオンプレーティング法においてはプラズマを照射して蒸発源材料を蒸発させるという機構を用いる関係から、従来は、蒸発源材料として導電性の材料が主に用いていた。なぜなら、絶縁性の材料を蒸発源材料として用いようとすると、照射されたプラズマが装置の筐体に逃げてしまい絶縁性材料に十分なプラズマ照射ができなかったからである。
【0069】
この点に関して、イオンプレーティング法において帰還電極を用いるという手法が開発され(特開平11−269636号公報)、絶縁性の材料を蒸発源材料として積極的に用いることが可能となった。しかしながら、上述のとおり、二酸化ケイ素は、溶融性の性質を有するためにプラズマ照射における電気エネルギーがロスすることになるため、成膜速度が低下して生産効率に課題があった。そこで、本発明においては、適量の高屈折率材料を用いて蒸発源材料に昇華性を付与することにより、二酸化ケイ素をイオンプレーティング法により良好に適用できるようにしている。また、一酸化ケイ素や二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料は、絶縁性である上ガスバリア性が劣るが、本発明においては、高屈折率材料を適量用いることにより、こうした材料のガスバリア性を改善することができる。
【0070】
(イオンプレーティング用蒸発源材料)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられるものであって、上記本発明の原料粉末を焼結又は造粒して得られたものである。具体的には、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末を焼結又は造粒された、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料であって、この蒸発源材料を加熱したときに、蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じるように構成されたものである。
【0071】
これにより、僅かなエネルギーでの蒸発を可能とし、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。
【0072】
蒸発源材料は、本発明の原料粉末を焼結又は造粒して得られるものであるが、原料粉末の詳細については上述のとおりである。そこで、説明の重複を避けるため、以下では、蒸発源材料について特記すべき事項を中心に説明する。また、原料粉末の造粒又は焼結の詳細については、後述する蒸発源材料の製造方法の説明において説明する。
【0073】
蒸発源材料は、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であればよく、平均粒径が5mm以上であることが好ましい。平均粒径の上限は特に限定されない。したがって、2mm程度の塊状粒子であってもよいし、例えば平均粒径が10m、50mm等の大きな塊状物であってもよい。平均粒径を2mm以上としたのは、2mm未満では粒子が細かくてイオンプレーティング装置内でのプラズマ照射時の衝撃により蒸発源材料が飛散しやすく、また、装置のボート(ハース)内に入れる際の取り扱いにも手間がかかる傾向となることによる。平均粒径の上限は特に限定されないが、強いて例示すれば200mm程度である。平均粒径の上限は、蒸着装置の材料投入部(ハース)に収納される程度の大きさであれば特に制限はない。また、蒸発源材料の粒子の形態も、丸形、楕円形、角形等の形態であってもよい。なお、塊状粒子又は塊状物にするための焼結又は造粒については、各種の方法を適用できる。なお、この蒸発源材料の「平均粒径」も上記原料粉末の平均粒径と同様、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。
【0074】
酸化ケイ素の構成元素と高屈折率材料の構成元素は、2次粒子の状態で蒸発源材料内に均一に分布し、その結果、高屈折率材料の構成元素の作用により、固相→気相の昇華現象を容易に起こすことができ、僅かなエネルギーでの蒸発と、蒸発した原子のイオン化を容易にすることができる。
【0075】
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料は、酸化ケイ素を主体とするものである。これは、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)は、安価な材料なので、原料粉末、蒸発源材料、及びガスバリア性シートの低コスト化が可能となり、食品分野のように包装用材料の厳しいコスト削減が求められる分野に好適に用いることができるからである。そして、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末においては、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素)が有する固相→液相→気相の相変化の性質を、固相→気相に変化させて昇華の状態変化を可能とするとともにガスバリア膜の膜質を改善するために所定量の高屈折率材料を用いている。具体的には、蒸発源材料中の高屈折率材料の質量割合は、酸化ケイ素を100としたとき5以上50以下とする。この蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、上述した昇華現象による蒸発とイオン化を容易に行うことができると共に、緻密で密着性のよいガスバリア膜を得ることができる。一方、高屈折率材料の質量割合が、酸化ケイ素100に対して5未満では、酸化ケイ素の作用に基づく昇華現象発現効果が生じにくくなる場合があり、また、50を超えると、得られたガスバリア膜が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多い。このため、ガスバリア膜を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合には、酸化ケイ素100に対する高屈折率材料の質量割合の上限を50とする。
【0076】
蒸発源材料における高屈折率材料は、絶縁性材料であることが好ましく、また、高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。こうした点の詳細については、上記の原料粉末の説明欄においてすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0077】
以上、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料によれば、イオンプレーティング装置内で加熱したときに、気化が液相を経ずに生じるので、僅かなエネルギーでの蒸発を可能とし、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。なお、従来のイオンプレーティング用蒸発源材料は蒸着材料メーカーにて検討されているが、その多くは真空蒸着用蒸発源材料やスパッタリング用ターゲット材料をそのまま援用したものであり、成膜速度の向上や膜質の向上を目的としたイオンプレーティング用蒸発源材料は提案されていないのが実情である。
【0078】
なお、原料粉末の説明欄において説明したように、イオンプレーティング法においては、帰還電極を利用した装置の開発により絶縁性の材料を蒸発源材料として積極的に使用できることとなった。その結果、安価であるものの絶縁性の材料である二酸化ケイ素についても、イオンプレーティング法による成膜を良好に行う途が開かれた。しかしながら、二酸化ケイ素は、溶融性の性質を有するためにプラズマ照射における電気エネルギーがロスすることになるため、成膜速度が低下して生産効率に課題があった。そこで、本発明においては、適量の高屈折率材料を用いて蒸発源材料に昇華性を付与することにより、二酸化ケイ素をイオンプレーティング法により良好に適用できるようにしている。また、一酸化ケイ素や二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料は、絶縁性である上ガスバリア性が劣るが、本発明においては、高屈折率材料を適量用いることにより、こうした材料のガスバリア性を改善することができる。
【0079】
(イオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法)
本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法(本明細書においては、単に「蒸発源材料の製造方法」という場合がある。)は、上記で説明した本発明の原料粉末を準備する工程と、その原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程とを有している。これにより、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、固相→液相→気相の順での相変化を起こしにくく、固相→気相の昇華現象を起こしやすくなる。こうした蒸発源材料は、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にするので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。その結果、製造されたイオンプレーティング用蒸発源材料は、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする蒸発源材料として極めて有効なものとなる。また、上述の通り、高屈折率材料の含有量を調整することにより、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜としての特性を維持することができる。
【0080】
原料粉末を準備する工程は、上記の原料粉末の説明欄で説明したように、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末を準備する工程である。準備される原料粉末は、例えば高屈折率材料が酸化ケイ素100重量部に対して所定量含有された原料粉末を、例えばミキサー等の混合手段によって混合されたものである。
【0081】
所定形状に加工する工程は、特に制限はないが、原料粉末を構成する酸化ケイ素と高屈折率材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程であることが好ましい。これにより、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。
【0082】
焼結手段としては、例えば、原料粉末を所定形状に圧縮成形し、その圧縮成形体を構成粉末の溶融温度よりも低い温度に加熱して粉体同士が結合するようにする、一般的な焼結手段を適用できる。具体的には、金型プレス、CIPプレス(静水圧プレス)、RIPプレス(ラバープレス)等の従来公知の各種の方法を適用できる。
【0083】
焼結温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは750℃以上、また、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1200℃以下の任意の温度とすることができる。この範囲内で焼結することにより、原料粉末中からの脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができる。一方、焼結温度が500℃未満では、十分に焼結されず、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができないことがあり、焼結温度が1500℃を超えると、高屈折率材料が酸化される場合がある。
【0084】
焼結の際の雰囲気も、蒸発源材料に所望される組成に応じて適宜選択すればよい。通常は、Arや窒素のような非反応性ガスを用いるが、雰囲気に酸素を加えることで得られる蒸発源材料の酸化度を調整することもできる。一方、焼結の際に、蒸発源材料の原料粉末と雰囲気中の酸素との反応を抑制する場合には、前述の非反応性ガスを用いればよく、焼結温度は任意とすることができる。これに対して、雰囲気中に酸素が含有される場合(例えば大気中で焼結を行う場合)には、焼結温度を低く設定して酸化反応を抑制すればよい。この場合、焼結温度は、好ましくは1000℃以下、より好ましくは500℃以下とする。
【0085】
焼結時間は、特に制限はなく、通常0.5時間以上、48時間以下とする。焼結時間は、得ようとする蒸発源材料の大きさや焼結温度に対応して、適宜調整すればよい。
【0086】
また、造粒手段としては、撹拌造粒、流動層造粒、押出造粒等の造粒方法を適用できる。具体的には、撹拌造粒とは、原料粉末を容器に入れ撹拌しながら液体の結着剤を添加して粉末を凝集させ、これを乾燥させる操作で、球形に近い塊状粒子を得る方法であり、流動層造粒法とは、原料粉末を入れた容器に下から熱風を送り粉末が空中にやや浮いた状態で結着剤を吹き付け、粉末を凝集乾燥させる操作で、比較的かさ高い塊状粒子を得る方法であり、押出し造粒とは、原料粉末の湿塊を小孔から円柱状に押し出したのち乾燥させる操作で、比較的密度の高い塊状粒子を得る方法である。こうした造粒手段は通常結着剤を利用するが、その場合には、造粒後に例えば500℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成して結着剤を除去するのが一般的である。また、結着剤を使用しない場合にも、例えば500℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成する。これらの加熱焼成により、脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物を形成しやすくなる。
【0087】
原料粉末を焼結又は造粒する際に、結着剤(バインダー)を利用する場合の代表例としては、デンプン、小麦蛋白、セルロース等を挙げることができるが、それ以外のものであっても構わない。こうした結着剤は、焼結や造粒を行った後に加熱焼成により除去されるのが一般的である。
【0088】
以上、本発明の蒸発源材料の製造方法によれば、造粒又は焼結された所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料は、固相→液相→気相の順での相変化を起こしにくく、固相→気相の昇華現象を起こしやすくなる。こうした蒸発源材料は、僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にするので、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができる。その結果、製造されたイオンプレーティング用蒸発源材料は、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする蒸発源材料として極めて有効なものとなる。また、上述の通り、高屈折率材料の含有量を調整することにより、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜としての特性を維持することができる。
【0089】
なお、原料粉末の説明欄や蒸発源材料の説明欄において説明したように、イオンプレーティング法においては、帰還電極を利用した装置の開発により絶縁性の材料を蒸発源材料として積極的に使用できることとなった。その結果、安価であるものの絶縁性の材料である二酸化ケイ素についても、イオンプレーティング法による成膜を良好に行う途が開かれた。しかしながら、二酸化ケイ素は、溶融性の性質を有するためにプラズマ照射における電気エネルギーがロスすることになるため、成膜速度が低下して生産効率に課題があった。そこで、本発明においては、適量の高屈折率材料を用いて蒸発源材料に昇華性を付与することにより、二酸化ケイ素をイオンプレーティング法により良好に適用できるようにしている。また、一酸化ケイ素や二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料は、絶縁性である上ガスバリア性が劣るが、本発明においては、高屈折率材料を適量用いることにより、こうした材料のガスバリア性を改善することができる。
【0090】
(ガスバリア性シート)
図1は、本発明のガスバリア性シートの一例を示す概略断面図である。本発明のガスバリア性シート1は、図1に示すように、基材2上の少なくとも一方の面にガスバリア膜3を備えたものであり、ガスバリア膜3には、酸化ケイ素と、高屈折率材料のうちで最も好ましいとされる窒化ケイ素とから形成されるものである。より具体的には、ガスバリア膜3は、Si:O:Nの原子数比で100:100〜200:5〜50の範囲にあるSi−O−N膜であって、その原子数比がガスバリア膜の厚さ方向に均一になっている。こうしたガスバリア性シート1は、厚さ方向の膜質が均一なガスバリア膜3を有するので、ガスバリア性に優れたものとなる。
【0091】
ガスバリア膜3は、主として酸素や水蒸気等の気体の透過を遮断する機能をするものであり、本発明におけるガスバリア膜は、酸素透過率が1cc/m/day・atm以下で、水蒸気透過率が1g/m/day以下の高いガスバリア性を示す。こうした高いガスバリア性を示す理由は、ガスバリア膜3が、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いて形成され、従来公知のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いた場合よりも高い成膜速度で成膜され、高密度で緻密であり密着性がよいからである。
【0092】
ガスバリア膜3の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、上記した優れた酸素透過率と水蒸気透過率を満たしやすくなる。また、ガスバリア膜3の厚さは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、膜応力を低くして、基材がフレキシブルフィルムである場合にガスバリア膜にクラックが生じにくくなり、ガスバリア性が低下するのを抑制し、さらに成膜に要する時間も低減できるため生産性も向上させやすくなる。
【0093】
本発明において、「原子数比が厚さ方向に均一」とは、ガスバリア膜の厚さ方向の原子数比のバラツキが±10%以内、好ましくは±5%以内であることを意味している。こうしたバラツキの範囲は、本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたときに特徴的に得られるものである。すなわち、上記本発明の蒸発源材料は、酸化ケイ素と、高屈折率材料として好ましい窒化ケイ素とを混合した原料粉末を焼結又は造粒してなるものであることから、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティング成膜を行えば、成膜されたガスバリア膜は、上記の原子数比で、厚さ方向にほぼ均一(バラツキが±10%以内、好ましくは±5%以内)に成膜される。なお、本発明で示す原子数比はバルクでの値を指しており、膜表面は自然酸化膜が生じる場合があり、基材との界面は基材からのガス成分による酸化が進行する場合があり、いずれの場合も組成がずれることが考えられる。
【0094】
このときの原子数比は、ESCA等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明において、ESCAの測定は、ESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)により測定したものである。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:1s、C:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、N=1.770、Si=0.865、O=2.850)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を100とし、他の成分であるOとNの原子数を算出して成分割合とした。
【0095】
高屈折率材料を用いることにより、ガスバリア膜3の密度を上げることができる。特に窒化ケイ素を用いることによりガスバリア膜3の密度が高くなるのでガスバリア性の改善が図りやすくなる。ガスバリア膜3のガスバリア性は、Si−O−Si伸縮振動による赤外線吸収の範囲と膜密度とから見積もることができる。具体的には、得られたガスバリア膜3であるSi−O−N膜は、Si−O−Si伸縮振動による赤外線吸収が1005〜1060cm-1の範囲に存在し、膜密度が、好ましくは2.2g/cm3以上、より好ましくは2.5g/cm3以上、また、好ましくは2.7g/cm3以下の範囲である。ガスバリア膜の原子数比、Si−O−Si伸縮振動による赤外線吸収帯域、及び膜密度を上記範囲内とすれば、ガスバリア膜3の緻密性を確保しやすく、高いガスバリア性(酸素透過率が1cc/m/day・atm以下であり、水蒸気透過率が1g/m/day以下程度を指す。)を発現しやすくなり、またガスバリア膜の柔軟性も確保しやすく耐久性も高くなりやすい。
【0096】
本発明において、Si−O−Si伸縮振動による赤外線吸収帯域は、多重反射(ATR)測定装置を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光株式会社製、Herschel FT−IR−610)を使用して測定する。また、上記の膜密度は、X線反射率測定装置(理学電機株式会社製、ATX−E)により測定する。また、ガスバリア性の測定は、各種の測定装置で測定できるが、上記のガスバリア性は、例えば、Mocon社製のPARMATRAN3/31を用い、37.8℃で100%Rhの条件で測定することができる。
【0097】
本発明のガスバリア性シートに透明性が必要とされる場合には、基材2は高度の透明性を有する材料であることが好ましく、具体的には、400nm〜700nmの光透過度が80%以上のガスバリア性シートは、表示媒体や照明、太陽電池のカバー等のような、光を透過させることが必要な用途や、包装体や容器等のような、内容物を見ることが要求される用途などに用いる際に好ましく適用できる。一方、ガスバリア性シートを前記のような透明性を必要としない用途に用いる場合には、光透過度が50%程度のガスバリア性シートであってもよく、一般的なガスバリア性シートとして他の用途に用いることができる。なお、光透過度は全光線透過率と同じ意味で用いている。ただし、全光線透過率は、膜厚と屈折率とから光学的に調整することができるため、この数値は目安となるが、必ずしも厳格に適用されるというわけではない。
【0098】
また、本発明のガスバリア性シートにおいて、ガスバリア膜の柔軟性は、Si:O:N中のNの原子数比にも影響する。具体的には、Si:O:Nの原子数比が100:100〜200(好ましくは100〜150):5〜50の範囲の場合にはガスバリア膜の柔軟性を確保しやすい。一方、Si:O:N中のNの原子数比が50を超える場合にはガスバリア膜の膜質が堅くなる傾向にある。
【0099】
図1においては、基材2の一方の面にガスバリア膜3が形成されたものであるが、他の形態としては、基材2の両面にガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の一方の面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、基材2の両面に樹脂層を介してガスバリア膜が形成されたものであってもよいし、その樹脂層とガスバリア膜とが2回以上繰り返して積層されたものであってもよい。また、ガスバリア膜3の上には、必要に応じて、ハードコート層、耐スクラッチ層、導電層、反射防止層等を適宜形成することができる。また、ガスバリア膜3を多層化させてもよい。
【0100】
基材2は、イオンプレーティング用蒸発源材料を付着させる基材であるが、特に制限なく用いることができる。基材2としては、主にはシート状やフィルム状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
【0101】
基材2の厚さについても特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、通常6μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常400μm以下、好ましくは250μm以下の範囲とする。
【0102】
基材2とガスバリア膜3との間に設けられる樹脂層(図示しない)は、基材2とガスバリア膜3との密着性を向上させ、かつ、ガスバリア性をより向上させるためのものである。また、ガスバリア膜3を被覆する樹脂層(図示しない)は、保護膜として機能し、耐熱性、耐薬品性、耐候性をガスバリア性シートに付与すると共に、ガスバリア膜3に欠損部位があってもそれを埋めることによりガスバリア性を向上させるためのものである。このような樹脂層は、ポリアミック酸、ポリエチレン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリアゾメチン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等の市販の樹脂材料、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類との重合体である高分子量エポキシ重合体を含有する硬化性エポキシ樹脂、及び、上述の基材に使用する樹脂材料等の1種又は2種以上の組み合わせにより形成することができる。樹脂層の厚さは、使用する材料により適宜設定することが好ましいが、例えば、5nm以上、500μm以下の範囲で設定することができる。
【0103】
こうした樹脂層には、平均粒径が0.8μm以上、5μm以下の範囲にある非繊維状の無機充填材を含有させてもよい。使用する非繊維状の無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、アルミナ、マグネシア、シリカ、二酸化チタン、クレイ等を挙げることができ、特に焼成されたクレイが好ましく使用できる。このような無機充填材は、樹脂層の通常10重量%以上、好ましくは25重量%以上、また、通常60重量%以下、好ましくは45重量%以下の範囲で含有させることができる。
【0104】
以上、本発明のガスバリア性シートによれば、原子数比がガスバリア膜の厚さ方向に均一(バラツキが±10%以内)であるので、厚さ方向の膜質が均一なガスバリア膜を有するガスバリア性シートを提供できる。より具体的には、厚さ方向の膜質が均一で、高密度かつ緻密で密着性のよいガスバリア膜を有するので、ガスバリア性に優れたガスバリア性シートを提供できる。こうした効果を奏する本発明のガスバリア性シートは、ガスバリア性が要求される各種部材への適用が可能である。例えば、種々の飲食品(食品)、接着剤、粘着剤等の化学品、化粧品、医薬品、ケミカルカイロ等の雑貨品、電子部品等の包装用部材の一部として用いてもよいし、液晶表示装置の構成部材として用いてもよい。これらのうち、低コストが要求されるという観点からは、食品分野に用いられることが好ましい。
【0105】
(ガスバリア性シートの製造方法)
本発明のガスバリア性シートの製造方法は、平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、高屈折率材料の含有量が、酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を造粒又は焼結してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、このイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有している。本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を用いたことにより、その蒸発源材料は固相→気相の昇華現象を起こして僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にする。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする。また、高屈折率材料の含有量を上記範囲に調整するので、酸化ケイ素を主体とするガスバリア膜の特性を保持した状態で昇華現象を容易にすることができ、その結果、膜質のよいガスバリア膜を効率的に成膜することができる。
【0106】
この製造方法において、原料粉末、蒸発源材料、蒸発源材料の製造方法、ガスバリア性シートのそれぞれについては既に説明したとおりである。例えば、高屈折率材料に絶縁性材料を用いることが好ましい点や、高屈折率材料を、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つとすることが好ましい点については、すでに説明したとおりである。したがって、説明の重複を避けるため、ここではその説明は省略する。また、原料粉末を焼結又は造粒して蒸発源材料にする方法も、上記の蒸発源材料の製造方法の説明欄で説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
【0107】
図2は、イオンプレーティング装置の一例を示す構成図であり、詳しくは、後述の実施例で使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。図2に示すホローカソード型イオンプレーティング装置101は、真空チャンバー102と、このチャンバー102内に配設された供給ロール103a、巻き取りロール103b、コーティングドラム104と、バルブを介して真空チャンバー102に接続された真空排気ポンプ105と、仕切り板109,109と、その仕切り板109,109で真空チャンバー102と仕切られた成膜チャンバー106と、この成膜チャンバー106内の下部に配設された坩堝107と、アノード磁石108と、成膜チャンバー106の所定位置(図示例では成膜チャンバーの右側壁)に配設された圧力勾配型プラズマガン110、収束用コイル111、シート化磁石112、圧力勾配型プラズマガン110へのアルゴンガスの供給量を調整するためのバルブ113と、成膜チャンバー106にバルブを介して接続された真空排気ポンプ114と、酸素ガス等の供給量を調整するためのバルブ116とを備えている。なお、図示のように、供給ロール103aと巻き取りロール103bはリバース機構が装備されており、両方向の巻き出し、巻き取りが可能となっている。
【0108】
このようなイオンプレーティング装置101を用いたガスバリア膜の形成は以下のように行われる。先ず、真空チャンバー102、成膜チャンバー106内を、真空排気ポンプ105,114により所定の真空度まで減圧し、次いで、必要に応じて成膜チャンバー106内に酸素ガス等を所定流量導入し、真空排気ポンプ114と成膜チャンバー106との間にあるバルブの開閉度を制御することにより、チャンバー106内を所定圧力に保ち、基材フィルムを走行させ、アルゴンガスを所定流量導入した圧力勾配型プラズマガン110にプラズマ生成のための電力を投入し、アノード磁石108上の坩堝107にプラズマ流を収束させて照射することにより蒸発源材料を蒸発させ、高密度プラズマにより蒸発分子をイオン化させて、基材上に所定のガスバリア膜を形成して、ガスバリア性シートを得る。
【0109】
図2はイオンプレーティング装置の一例であるが、好ましいイオンプレーティング装置は、上述したとおり、ハースに照射された電流が、プラズマガンに安定的に帰還できるように、帰還電極を備えたものである。こうした装置としては、特開平11−269636号公報に記載されるように、プラズマガンのプラズマビームの照射出口部に、プラズマビームの周囲を取り囲み、電気的に浮遊状態として突出させた絶縁管と、この絶縁管の外周側を取り巻くとともに、出口部よりも高い電位状態とした電子帰還電極と、を設けたイオンプレーティング装置を用いればよい。
【0110】
本発明は、上述した本発明のイオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いた点に特徴がある。その蒸発源材料を用いてイオンプレーティング成膜を行えば、蒸発源材料からの気化が液相を経ない昇華現象、すなわち固相→気相の昇華現象を起こして僅かなエネルギーでの蒸発が可能となり、また、蒸発した原子のイオン化を容易にすることができる。その結果、イオン化率が上昇して成膜速度(堆積速度)を大きくすることができ、緻密で密着性がよく、ガスバリア性の高いガスバリア膜の成膜を可能にする。
【0111】
なお、原料粉末の説明欄、蒸発源材料、蒸発源材料の製造方法の説明欄において説明したように、イオンプレーティング法においては、帰還電極を利用した装置の開発により絶縁性の材料を蒸発源材料として積極的に使用できることとなった。その結果、安価であるものの絶縁性の材料である二酸化ケイ素についても、イオンプレーティング法による成膜を良好に行う途が開かれた。しかしながら、二酸化ケイ素は、溶融性の性質を有するためにプラズマ照射における電気エネルギーがロスすることになるため、成膜速度が低下して生産効率に課題があった。そこで、本発明においては、適量の高屈折率材料を用いて蒸発源材料に昇華性を付与することにより、ニ酸化ケイ素をイオンプレーティング法により良好に適用できるようにしている。また、一酸化ケイ素や二酸化ケイ素と一酸化ケイ素との中間領域の材料は、絶縁性である上ガスバリア性が劣るが、本発明においては、高屈折率材料を適量用いることにより、こうした材料のガスバリア性を改善することができる。
【実施例】
【0112】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0113】
(実施例1)
二酸化ケイ素粉末であるSiO粉末(東ソーシリカ製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:2μm、自動比表面積測定装置で窒素吸着法・BETの式で測定された比表面積:800m/g)を100重量部に対し、窒化ケイ素であるSiN粉末(高純度化学製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:0.5μm、エリプソメーターで測定された屈折率:2.03)を30重量部加えて混合して、本発明に係る原料粉末を得た。
【0114】
この原料粉末にバインダーとして、2%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、10mmφの球状体を得た。その後、焼成炉に入れ、1000℃で1時間保持し、6mmφの塊状物からなる本発明に係るイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。得られた蒸発源材料の質量割合をX線分光分析装置(XPS/ESCA)により測定した結果、二酸化ケイ素100に対して、窒化ケイ素の質量割合は30であり、原料粉末の混合割合とほぼ一致していた。
【0115】
一方、乾燥機で160℃で1時間乾燥させた厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン社製、Q65)からなるプラスチックフィルム基材を透明フィルム基材とし、図2に示す構造の圧力勾配型イオンプレーティング装置の供給ロール103a及び巻き取りロール103b間にセットした。
【0116】
次に、作製した蒸発源材料を、図2に示したホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することと磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、本発明に係る蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は溶融状態(液相状態)を見せずに昇華しているのが確認された。より具体的には、粒子状の蒸発源材料が輝きながら徐々にその大きさを減じていく現象が観察され、昇華が行われていることが確認された。イオンプレーティングを5秒間行って基板に堆積させることにより、膜厚110nmのSiOのガスバリア膜を得た。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0117】
ガスバリア膜の組成をESCA(英国 VG Scientific社製、型式:LAB220i−XL)測定により、SiOのaは1.8、bは0.3であった。このESCA測定において、X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるモノクロAlX線源、及び、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のESCA装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:1s、C:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1に対して、N=1.770、Si=0.865、O=2.850)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を100とし、他の成分であるOとNの原子数を算出して成分割合とした。また、ガスバリア膜の全光線透過率は、89.5%であった。
【0118】
ガスバリア性として水蒸気透過率を測定したところ、1.3×10−1g/m/dayであった。水蒸気透過率の測定は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 PERMATRAN−W 3/31)を用いて、温度37.8℃、湿度100%RHで測定した。また、酸素透過率を測定したところ、1×10−2cc/m/day・atm以下(測定限界)であった。酸素ガス透過率の測定は、酸素ガス透過率測定装置(MOCON社製 OX−TRAN 2/20)を用いて、温度23℃、湿度90%RH、バックグラウンド除去測定を行うインディヴィジュアルゼロ(Individual Zero)測定ありの条件で測定した。
【0119】
(実施例2)
実施例1において、SiN粉末の含有量を5重量部とし、蒸発源材料において、二酸化ケイ素100に対して、窒化ケイ素の質量割合を5としたこと、成膜条件を適宜調整したこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア膜を作製した。その結果、厚さが22.3nmであり、SiOにおけるaが1.91、bが0.06であり、全光線透過率が89.7%となるガスバリア膜が得られた。また、水蒸気透過率は7.5×10−1g/m/dayであり、酸素透過率は、9.1×10−1cc/m/day・atmであった。
【0120】
(実施例3)
実施例1において、SiN粉末の含有量を50重量部とし、蒸発源材料において、二酸化ケイ素100に対して、窒化ケイ素の質量割合を50としたこと、成膜条件を適宜調整したこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア膜を作製した。その結果、厚さが29.3nmであり、SiOにおけるaが1.23、bが0.44であり、全光線透過率が88.4%となるガスバリア膜が得られた。また、水蒸気透過率は1.3×10−1g/m/dayであり、酸素透過率は測定限界であった。
【0121】
(比較例1)
高屈折率材料である窒化ケイ素を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを形成した。その結果、ガスバリア膜の成膜時にプラズマを蒸発源材料に照射したところ、蒸発源材料は、一度溶融状態となったので気化するためにさらなるプラズマの投入を行った。そして、蒸発源材料の昇華が次第に進行したところでシャッターを開けて、イオンプレーティングを10秒間行って基板に堆積させることにより、膜厚110nmのSiOのガスバリア膜を得た。実施例1と同様にして、ESCAの測定をしたところ、cは2.2であり、ガスバリア膜の全光線透過率は、91.7%であった。このガスバリア膜の水蒸気透過率を測定したところ、2.5g/m/dayであり、酸素透過率を測定したところ、2.7cc/m/day・atmであった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明のガスバリア性シートの例を示す概略断面図である。
【図2】実施例において使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。
【符号の説明】
【0123】
1 ガスバリア性シート
2 基材
3 ガスバリア膜
101 ホローカソード型イオンプレーティング装置
102 真空チャンバー
103a 供給ロール
103b 巻き取りロール
104 コーティングドラム
105 真空排気ポンプ
106 成膜チャンバー
107 坩堝
108 アノード磁石
109 仕切り板
110 圧力勾配型プラズマガン
111 収束用コイル
112 シート化磁石
113 バルブ
114 真空排気ポンプ
116 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であることを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項2】
前記酸化ケイ素の比表面積が600m/g以上である、請求項1に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項3】
前記高屈折率材料が絶縁性材料である、請求項1又は2に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項4】
前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を造粒又は焼結して所定形状に加工する工程と、を有することを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法。
【請求項6】
前記所定形状に加工する工程が、前記原料粉末を構成する前記酸化ケイ素と前記高屈折率材料とを焼結又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程である、請求項5に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法。
【請求項7】
平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料とを有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下である原料粉末を焼結又は造粒された、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料であって、
該イオンプレーティング用蒸発源材料を加熱したときに、該蒸発源材料の気化が液相を経ずに生じることを特徴とするイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項8】
前記高屈折率材料の質量割合が、前記酸化ケイ素を100としたとき、5以上50以下である、請求項7に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項9】
前記高屈折率材料が絶縁性材料である、請求項7又は8に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項10】
前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである、請求項7〜9のいずれか1項に記載のイオンプレーティング用蒸発源材料。
【請求項11】
平均粒径が5μm以下の酸化ケイ素と、平均粒径が5μm以下であり屈折率が1.8以上である高屈折率材料と、を有し、該高屈折率材料の含有量が、前記酸化ケイ素100重量部に対して、5重量部以上50重量部以下であるイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末を造粒又は焼結してなる所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備する工程と、
前記イオンプレーティング用蒸発源材料を蒸発源材料として用いて基材上にガスバリア膜をイオンプレーティング成膜する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性シートの製造方法。
【請求項12】
前記高屈折率材料が絶縁性材料である、請求項11に記載のガスバリア性シートの製造方法。
【請求項13】
前記高屈折率材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、硫化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである、請求項11又は12に記載のガスバリア性シートの製造方法。
【請求項14】
基材上の少なくとも一方の面にガスバリア膜を備えるガスバリア性シートにおいて、
前記ガスバリア膜が、Si:O:Nの原子数比で100:100〜200:5〜50の範囲にあるSi−O−N膜であって、前記原子数比が前記ガスバリア膜の厚さ方向に均一であることを特徴とするガスバリア性シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−24253(P2009−24253A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130873(P2008−130873)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】