説明

イオンプレーティング装置

【課題】成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材を自由に選択可能なイオンプレーティング装置を提供すること。
【解決手段】真空チャンバ3と、プラズマビームPを発生するプラズマガン4と、プラズマビームPが照射されるハース5と、ハース5に電気的に接続され、ハース5に近接配置されたタブレット21を支持する導電性のタブレット支持棒25とを備え、ハース5の真空チャンバ3内における露出面にはタブレット21と共に気化されてドーピングされるドーピング材22が支持され、ハース5およびタブレット21に対する通電量を調整可能な構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、成膜時にドーピング材をドーピングするイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、タブレットを昇華させて基板に成膜するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、成膜材の粉末を焼結して形成されたタブレットが、ハースに形成された貫通孔に収容され、下方から絶縁性の突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、チャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した成膜材の気体がプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜している。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置において、タブレットの成膜と同時にドーピング材をドーピングする場合、成膜材の粉末とドーピング材の粉末とを焼結してタブレットを成形することになるが、成膜材およびドーピング材の焼結温度や固溶限界等の違いにより、適切にタブレットを成形するのが困難であった。また、タブレットが成形されたとしても、成膜材およびドーピング材が一体としてプラズマビームに照射されるため、成膜材およびドーピング材の蒸気圧や昇華点等の違いによっては、不均一に成膜されるおそれがあった。したがって、上記したイオンプレーティング装置では、成膜材およびドーピング材の物性の違いを考慮して材料を選択しなければならず、使用可能な材料の選択幅が限定されてしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材を自由に選択可能なイオンプレーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する導電性の成膜材支持部とを備え、前記ハースの前記チャンバ内における露出面には成膜時にドーピングされるドーピング材が支持され、前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整することを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、ハースおよび成膜材がそれぞれプラズマビームに照射され、プラズマビームの照射により発生したドーピング材および成膜材の気体がプラズマビームを通過してワークに付着して被膜が成膜される。よって、焼結温度や固溶限界を考慮して成膜材とドーピング材とを一体に成形することなく、ドーピング材および成膜材を別々に気化させることができる。また、ハースおよび成膜材に対する通電量が調整され、ハースおよび成膜材に対するプラズマビームの照射量が調整されるため、成膜材とドーピング材とを異なる条件で気化させることができ、蒸気圧や昇華点に関わらず均一に成膜することができる。したがって、成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材を自由に選択することができる。
【0007】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記成膜材に流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出結果に基づいて前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整する制御部とを備え、前記成膜材支持部と前記ハースとが可変抵抗を介して電気的に接続され、前記制御部は、前記可変抵抗の抵抗値を制御することにより前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、チャンバ外においてハースと膜材支持部とが可変抵抗を介して電気的に接続されているため、電流計により実際に検出された成膜材に流れる電流値に基づいて可変抵抗の抵抗値が動的に制御され、ハースおよび成膜材に対する通電量を精度よく調整することができる。
【0009】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースの露出面のうちプラズマビームが照射される被照射面の面積により、前記ハースの被照射面における電流密度を変化させることを特徴とすることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ハースおよび成膜材に対する通電量を一定とした場合に、ハースの被照射面の面積に応じてハースに対するプラズマビームの単位面積当たりの照射量を変化させ、ドーピング材の気化量を調整することができる。
【0011】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースの露出面には窪みが形成され、前記窪みに前記ドーピング材が支持されることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、ドーピング材が粉状や顆粒状であっても、ドーピング材を窪みに収容した状態で支持することによりハースから脱落するのを防止することができる。
【0013】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースは、前記チャンバ内において前記成膜材と絶縁されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、チャンバ内におけるハースと成膜材との間の異常放電を抑制して、ハースおよび成膜材に対する通電量をより精度よく調整することができる。
【0015】
本発明の他のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに電気的に接続され、前記ハースに近接配置された成膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する導電性の成膜材支持部とを備え、前記ハースは、前記チャンバ内における露出面を有する少なくとも一部が成膜時にドーピングされる導電性のドーピング材で形成され、前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整する。
【0016】
この構成によれば、ハースの他にドーピング材を設けることなく、導電性材料をドーピングすることができ、部品点数を削減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材を自由に選択してワークに成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、成膜材とドーピング材とに別々にプラズマビームを照射し、成膜材とドーピング材とを異なる温度条件で気化させることにより、成膜材とドーピング材との物性の違いに関わらず同時にワークに成膜するようにしたものである。
【0019】
図1および図2を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。図2は、本発明の実施の形態に係るハースの上面模式図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送部6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口8が形成されている。さらに、イオンプレーティング装置1には、成膜処理等の各種処理を統括制御する制御部9が設けられている。
【0021】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガン4により発生されたプラズマビームPが収束される。
【0022】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0023】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、プラズマビームPが照射されるハース電極26と、ハース電極26の下方に設けられたハース本体27とから構成されている。ハース電極26は、モリブデン等により環状に形成され、ハース本体27も導電性材料によりハース電極26の内周面および外周面と面一となるように環状に形成されている。ハース電極26およびハース本体27の上面視中央部分を貫通する貫通孔28には、円柱状のタブレット21が充填され、タブレット21の上面が真空チャンバ3の内部に露出される。
【0024】
また、ハース電極26の上面には、貫通孔28と同心円状に環状溝26aが形成され、この環状溝26aに顆粒状のドーピング材22が充填されている。なお、環状溝26aの大きさは、ドーピング量がハース電極26上面に対するドーピング材22の割合で調整されるため、ドーピング量を考慮して形成されている。また、ハース本体27は、上端面がハース電極26に導通し、下端面がハース抵抗17および第1の電流計18を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0025】
貫通孔28の周囲には、絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、ハース5とタブレット21との間で異常放電が抑制される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0026】
貫通孔28の同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下方向に移動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、上下方向に延在し、上端においてタブレット21を弾性挟持し、下端において図示しない駆動機構に接続されている。
【0027】
そして、タブレット支持棒25は、タブレット21を弾性挟持した状態で駆動機構によりタブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。また、タブレット支持棒25は、導電性材料で形成され、タブレット21を支持する支持面においてタブレット21と導通し、真空チャンバ3の外部において第1の電流計18および第2の電流計19を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0028】
ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0029】
タブレット21は、成膜用のGZOタブレットであり、酸化亜鉛(ZnO)の粉末と酸化ガリウム(Ga2O3)の粉末とにより円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPにより加熱されて気化し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面に被膜が形成される。
【0030】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが、残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0031】
ドーピング材22は、絶縁性を有する酸化マグネシウム(MgO)であり、顆粒状に成形されている。なお、以下の説明においては、顆粒状に成形したドーピング材22を例示して説明するが、この構成に限定されるものではない。ドーピング材22はどのように成形されていてもよく、例えば、粉状に成形されてもよいし、環状溝26aに収まる環状に焼結成形されていてもよい。また、本実施の形態においては、ドーピング材22として絶縁性材料を例示して説明するが、ドーピング材22として導電性材料を使用してもよい。
【0032】
搬送部6は、真空チャンバ3の内部においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0033】
直流電源16は、可変直流電源であり、直流電源16のマイナス端子に接続された電源ラインはプラズマガン4に直接接続され、直流電源16のプラス端子に接続された電源ラインは第1の電流計18の先の分岐点dにおいて2股に分岐し、一方がハース抵抗17を介してハース5に接続され、他方が第2の電流計19を介してタブレット支持棒25に接続されている。
【0034】
第1の電流計18は、プラズマガン4に流れるガン電流、すなわち、ハース5およびタブレット21に流れるトータル電流の電流値を検出して、その検出結果を制御部9に出力している。第2の電流計19は、ガン電流が分岐点dにおいて分流されてタブレット21側に流れる電流値を検出して、その検出結果を制御部9に出力している。ハース抵抗17は、可変抵抗であり、制御部9により制御されて抵抗値を可変されることでハース5およびタブレット21のそれぞれに対する通電量が調整される。
【0035】
制御部9は、ハース5およびタブレット21のそれぞれに対する通電量を調整して、プラズマ強度やタブレット21およびハース5に対するプラズマビームPの照射量を制御するものである。この場合、制御部9は、タブレット21に流れる電流、ガン電流、ハース抵抗17の抵抗値の関係を示すマップデータを記憶しており、このマップデータを参照してハース抵抗17の抵抗値を可変させてハース5およびタブレット21に対する通電量を調整している。
【0036】
このように構成されたイオンプレーティング装置1において、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加すると、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。
【0037】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21はプラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。また、ドーピング材22を収容したハース電極26は、プラズマビームPの照射により加熱され、このハース電極26の加熱によりドーピング材22が昇華される。
【0038】
タブレット21およびドーピング材22の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化してワークWの表面に付着して被膜を形成する。このとき、プラズマガン4に流れるガン電流およびタブレット21に流れる電流は、ハース抵抗17の抵抗値が動的に制御されることで、ハース5およびタブレット21に対する通電量が適切に制御される。
【0039】
ここで、図3を参照してイオンプレーティング装置による通電量制御処理の一例について説明する。図3は、イオンプレーティング装置による通電量制御処理の一例の説明図である。なお、本実施の形態のタブレットに使用されるGZOの昇華点は約1400[℃]〜1500[℃]であり、ドーピング材に使用されるMgOの昇華点は約2800[℃]である。また、タブレットに対するドーピング量を10[%]として成膜するものとする。
【0040】
図3に示すように、プラズマビームPがハース5側およびタブレット21側に分流されて照射され、負電荷がハース5およびタブレット21内を移動する。このとき、ハース5の貫通孔28の内周面に絶縁パイプ23が設けられているため、真空チャンバ3の内部においては、ハース5およびタブレット21を移動する負電荷は相互に乗り移ることがない。そして、ハース5を移動する負電荷は、ハース抵抗17を介して直流電源16に戻ると共に、タブレット21を移動する負電荷は、タブレット支持棒25を介して直流電源16に戻る。
【0041】
このとき、第1の電流計18によりハース5およびタブレット21に流れるガン電流の電流値が検出され、第2の電流計19によりタブレット21に流れる電流値が検出されて、それぞれ制御部9に出力される。制御部9は、第1の電流計18および第2の電流計19から出力された電流値と、マップデータに基づいて、ハース抵抗17の抵抗値を制御し、ハース5およびタブレット21に対する通電量を適切に調整する。このとき、ハース5に流れる電流については100[A]以上、タブレット21に流れる電流については30[A]〜50[A]になるように調整される。
【0042】
制御部9によりハース抵抗17の抵抗値が調整されると、プラズマビームPがハース抵抗17の抵抗値に応じて分流し、ハース電極26およびタブレット21の上面が照射されて加熱される。このとき、タブレット21の上面およびドーピング材22はそれぞれの昇華点、すなわち、タブレット21は約1400[℃]〜1500[℃]、ドーピング材22は約2800[℃]まで加熱されて気化される。気化されたタブレット21およびドーピング材22の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化してワークWの表面に付着して被膜を形成する。
【0043】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、ハース5およびタブレット21がプラズマビームPに照射され、照射により発生したドーピング材22およびタブレット21の気体がプラズマビームPを通過してワークWに付着して被膜が成膜される。よって、焼結温度や固溶限界を考慮してドーピング材22とタブレット21を一体に成形することなく、ハース5に支持されたドーピング材22およびタブレット支持棒25に支持されたタブレット21を別々に気化することが可能となる。また、ハース5およびタブレット21に対する通電量が調整され、ハース5およびタブレット21に対するプラズマビームPの照射量が調整されるため、タブレット21とドーピング材22とを異なる条件で気化させることができ、蒸気圧や昇華点に関わらず均一に成膜することができる。したがって、成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材22を自由に選択することができる。
【0044】
なお、上記した実施の形態においては、タブレット21としてGZOタブレット、ドーピング材22として酸化マグネシウムを使用したが、この構成に限定されるものではない。ハース5およびタブレット21に対する通電量を調整してタブレット21およびドーピング材22を異なる条件で気化できるため、ワークWに成膜可能な材料であれば、タブレット21およびドーピング材22としてどのような材料を使用してよい。例えば、タブレット21としてGZOタブレット、ドーピング材22としてマグネシウムを使用してもよい。
【0045】
また、上記した実施の形態においては、タブレット21およびドーピング材22を昇華点まで加熱するように通電量を調整する構成としたが、この構成に限定されるものではない。タブレット21およびドーピング材22として使用される材料に適したエネルギー状態で気化させればよく、材料によっては、蒸発、スパッタリング等が発生するように通電量を調整する構成としてもよい。
【0046】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の上面に環状溝26aを形成して、この環状溝26aに顆粒状のドーピング材22を収容する構成としたが、この構成に限定されるものではない。ドーピング材22がハース5に支持されていればよく、ハース5の上面にドーピング材22を収容可能な窪みが形成されていればよい。また、例えば、ドーピング材22が一塊で形成されていれば、環状溝26aを形成することなく、単にハース5の上面に載置する構成としてもよい。
【0047】
また、上記した実施の形態においては、ハース抵抗17として可変抵抗を使用し、この可変抵抗の抵抗値を可変させてハース5およびタブレット21に対する通電量を調整する構成としたが、この構成に限定されるものではない。ハース5およびタブレット21に対する通電量を調整可能な構成であればよく、ハース抵抗17として可変抵抗の代わりに固定抵抗を使用し、タブレット21およびドーピング材22の材料に応じて固定抵抗を交換することで通電量を調整してもよい。
【0048】
また、上記した実施の形態においては、ハース5に対する通電量の調整によりドーピング量を調整する構成としたが、ハース5上面におけるプラズマビームPが照射される被照射面の面積を変えることで、ハース5上面における被照射面の電流密度を調整してドーピング量を調整する構成としてもよい。例えば、ハース5上面における被照射面の面積を小さくすることで、プラズマビームの単位面積当たりの照射量が増加して、ハース5の温度を高くすることができ、ドーピング量を増加させることができる。一方、ハース5上面における被照射面の面積を大きくすることで、プラズマビームの単位面積当たりの照射量が低下して、ハース5の温度を低くすることができ、ドーピング量を低下させることができる。
【0049】
また、上記した実施の形態においては、ハース電極26の環状溝26aに収容されたドーピング材22をドーピングする構成としたが、導電性材料をドーピングする場合には、ハース電極26またはハース電極26を含んだハース5全体をドーピング材としてもよい。これにより、ハース5の他にドーピング材22を設けることなく、導電性材料をドーピングすることができ、部品点数を削減することが可能となる。
【0050】
また、上記した実施の形態においては、ハース5を真空チャンバ3の底壁3bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図4に示すように、複数のハース45を真空チャンバ43の側壁43dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0051】
また、上記した実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。
【0052】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の中央にタブレット21を収容して、ハース5とタブレット21とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21がハース5に近接配置されていれば、ハース5の中央にタブレット21を収容する構成に限定されない。
【0053】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明は、成膜材の物性との違いに関わらずドーピング材を自由に選択できるという効果を有し、特に成膜時にドーピング材をドーピングするイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、ハースの上面模式図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置による通電量制御処理の一例の説明図である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 イオンプレーティング装置
3 真空チャンバ(チャンバ)
4 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5 ハース
9 制御部
16 直流電源
17 ハース抵抗(可変抵抗)
18 第1の電流計
19 第2の電流計
21 タブレット(成膜材)
22 ドーピング材
23 絶縁パイプ
25 タブレット支持棒(成膜材支持部)
26 ハース電極
26a 環状溝(窪み)
28 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する導電性の成膜材支持部とを備え、
前記ハースの前記チャンバ内における露出面には成膜時にドーピングされるドーピング材が支持され、
前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整することを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記成膜材に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部の検出結果に基づいて前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整する制御部とを備え、
前記成膜材支持部と前記ハースとが可変抵抗を介して電気的に接続され、
前記制御部は、前記可変抵抗の抵抗値を制御することにより前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記ハースの露出面のうちプラズマビームが照射される被照射面の面積により、前記ハースの被照射面における電流密度を変化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
前記ハースの露出面には窪みが形成され、前記窪みに前記ドーピング材が支持されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項5】
前記ハースは、前記チャンバ内において前記成膜材と絶縁されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項6】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに電気的に接続され、前記ハースに近接配置された成膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する導電性の成膜材支持部とを備え、
前記ハースは、前記チャンバ内における露出面を有する少なくとも一部が成膜時にドーピングされる導電性のドーピング材で形成され、
前記ハースおよび前記成膜材に対する通電量を調整すること特徴とするイオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−150595(P2010−150595A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329512(P2008−329512)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】