説明

イオン交換体成形物とその製造方法

イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物が、粉末系のラピッドプロトタイピング法により、即ち、粉末状の有機ポリマー出発原料または出発原料混合物を薄層として基材に塗布し、次いでこの層の選択された位置で、バインダーといずれかの必要な助剤と混合して、照射して、あるいはこの粉末をこれらの位置に結合するように処理して、この粉末がその層の内側だけでなく隣接する層に結合させ、この方法を、得られる粉末の床中で成形物の所望の形状が完全に得られるまで繰り返し、次いでこのバインダーで結合した粉末が所望の形状内に保持されるように、結合しない粉末を除去する方法により製造され、その際、出発原料自体がイオン交換体特性または吸着剤特性を持つか、成形物の適当な官能化が成形工程の後に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物の製造方法と、この種の成形物、またこの成形物の不均一触媒化学反応中での利用あるいはイオンまたは化学化合物の吸着用の吸着剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換体は、それに結合しているイオンにより、周辺の溶液中の同量の他のイオンを置換することのできる物質である。この交換に関与しているイオンの電荷は、常に同じ符号を持っている。吸着剤樹脂は、非イオン的な特徴を持つことでイオン交換体樹脂とは異なり、その極性は構造により定まり、アニオンやカチオンや非電荷種を非化学量論的プロセスで吸収する。
【0003】
イオン交換体樹脂と吸着剤樹脂は、通常スチレン系またはアクリル樹脂系のゲル型または高度架橋、球状、多孔質合成樹脂を含んでいる。例えばジビニルベンゼンを併用して三次元的に架橋した材料が通常使用される。したがって、交換体樹脂は熱変形が不可能であり、可塑剤を含まず、実質的に可溶性の成分の放出の可能性がない。
【0004】
最近最も頻繁に用いられるイオン交換体は、ジビニルベンゼン(DVB)で架橋された高度の三次元高分子量構造をもつ、多くの場合球状の形状をもつポリスチレン樹脂である。
【0005】
架橋ポリスチレン樹脂の、例えば発煙硫酸によるスルホン化により、強酸性カチオン交換体が製造される。弱酸性カチオン交換体の製造には、スチレンよりはアクリル酸誘導体が、ジビニルベンゼンで架橋される。アニオン交換体はまた、強塩基性であっても弱塩基性であってもよい。第四級アンモニウム基をもつ交換体樹脂は強塩基性を示し、第三級アミノ基をもつ樹脂は弱塩基性を示す。これらのイオン交換体は、通常固体球状粒子の形で使用され、これらは充填型通過反応器中で固定床の形で使用可能である。
【0006】
したがってイオン交換体樹脂や吸着剤樹脂の幾何構造は、非常に大きな制限を受け、それぞれの要件を満たすには、例えば流動抵抗や表面積などに関する要件を満たすには、狭い範囲があるのみである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、巾広い種類の成形物構造を容易に製造可能であり、いろいろな用途にイオン交換体や吸着剤として適合するイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本目的は、粉末系のラピッドプロトタイピング法による、
即ち、粉末状の有機ポリマー出発原料または出発原料混合物を薄層として基材に塗布し、次いでこの層の選択された位置で、バインダーといずれかの必要な助剤と混合し、或いはこの粉末をこれらの位置に結合するように照射または処理して、この粉末がその層の中だけでなく隣接する層に結合させ、この方法を得られる粉末の床中で成形物の所望の形状が完全に得られるまで繰り返し、次いでこのバインダーで結合した粉末を所望の形状に保持するように未結合の粉末を除去する方法によるイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物の製造方法であって、
出発原料自体がイオン交換体特性または吸着剤特性を持つか、成形物の適当な官能化が成形工程の後に行われる製造方法により達成される。
【0009】
これらのイオン交換体または吸着剤は、酸性または塩基性の不均一触媒を用いる巾広い種類の反応で触媒として利用でき、排水処理などの化学混合物の精製または分離に、分析に、あるいは保護床として利用できる。
【0010】
吸着剤の用途が多岐にわたり、また不均一触媒反応であるため、それぞれの用途で材料や熱の理想的な輸送を可能とするいろいろな構造を用いることができる。床の場合、この触媒/吸着剤は、反応器中にランダムな状態で存在するが、充填材内では、配向した状態であり、反応器内にはランダムでない状態で導入される。触媒は、ペレット、あるいは押出品、タブレット、リング、スプリットの形状で、床の形で反応器に導入されて最も広く使用される。しかし、この使用方法の欠点は、この床が通常反応器中で大きな圧力損失を引き起こすことである。他のよく見られる現象は、流路の形成とガス運動及び/又は液体運動を低下させる領域の発達であり、その結果、触媒の負荷量が非常に不均一となる。例えば多数のチューブを持つチューブ束反応器の場合、成形物の除去と取り付けに対する要求事項が問題をひき引き起こすこともある。
【0011】
特定の用途には、連続流路を持つモノリス状の、あるいは蜂の巣状、リブ状構造の触媒/吸着剤を使用することができる。これは、例えばDE−A−2709003に記載されている。本発明の方法により、いずれか望ましい適当な幾何構造を持つイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物の製造が可能となる。この製造はラピッドプロトタイピング法により行われ、この方法を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は三次元構造を有する交差流路構造を示す図である。
【図2】図2は三次元構造を持つ「交差流路構造」を示す図である。
【0013】
「ラピッドプロトタイピング」製造方法
「ラピッドプロトタイピング」(RP)は、当業界の熟練者には馴染みのある用語であり、試作に用いられ、ほとんど全ての望ましい幾何構造を持つ極めて細かい工作物であっても、入手可能なCADデータより、人手の関与あるいは金型の使用をほとんど用いることなく直接的で迅速な製造を可能とする製造方法に対して、ラピッドプロトタイピングの原理は成分の層/層構造によるものであり、物理的及び/又は化学的な効果を用いる。多数のよく確立された方法があり、その例としては、選択的レーザー焼結(SLS)またはステレオリソグラフィー(SLA)があげられる。実際のプロセスは、層構造用の使用材料(ポリマー、樹脂、紙ウェブ、粉末など)や上記材料を結合させるために用いられる方法(レーザー、加熱、バインダーやバインダー系など)により異なる。これらのプロセスは数多くの刊行物に記載されている。
【0014】
ラピッドプロトタイピング法の一つが、EP−A0431924に記載されており、粉末とバインダーからなる三次元的な成分の層/層構造を含んでいる。結合しない粉末は最終的に除かれ、工作物は所望の幾何構造を持つ。
【0015】
WO2004/112988には一種以上の粉末状の出発原料を使用できることが、またUS2005/0017394にはバインダーの硬化を誘導する活性化剤の使用が開示されている。
【0016】
したがって、本発明によれば、本目的が、反応器または吸着剤床中での流動条件や反応条件に対して最適化された幾何構造を持つ成形物の使用により達成される。求められる反応条件に応じて、反応器内部構造物は用途に適合するように製造可能であり、これは従来の方法では不可能である。ラピッドプロトタイピング技術のこれらの従来の製造技術に対する長所は、複雑な成形物の、例えば空洞や微細流路をもつものの場合であっても、前もって注型用金型中で成形することなく、あるいは切断、粉砕、研削等により材料を除去することなく、原則としてCADデータセットと数値制御を用いていずれか所望の幾何構造を相当する三次元的な成分に変換できることである。本方法により、材料と化学反応の熱の輸送において利点を有する、最適化された幾何構造を持つ反応器内部構造物の製造が可能となる。この方法を積極的に利用することで、高収率、高変換率、高選択性が得られ、反応を確実に実施でき、装置規模の縮小または触媒使用量の減少により化学業界の既存または新規のプロセスのコスト削減をもたらすことが可能となる。
【0017】
本発明によれば、イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物が製造される。これらは、通常ゲル型または高架橋で多孔性の合成樹脂である。粉末状の出発原料は、一般的にはポリ(メタ)アクリル酸系、ポリ(メタ)アクリレート系、あるいはポリスチレン系であり、適度に架橋されたものである。この合成樹脂は、通常スチレン樹脂系またはアクリル樹脂系である。三次元架橋を行うために、通常架橋性モノマーが、特にジビニルベンゼンが用いられる。したがって、これらの交換体樹脂は熱変形が不可能であり、また可塑剤を含まない。実際的には可溶性成分の放出の可能性がない。しかしながら、未架橋ポリマーを用い、次いでこれを最終成形物中で、適当な架橋剤を投入してあるいは電子線などの放射線により架橋してもよい。架橋剤は、そのポリマー自体に添加してもよく、成形後の硬化に用いることもできる。このため、例えば、シランを架橋剤としてポリマー中に導入することができる。
【0018】
好適な分子量やポリマー樹脂の製造方法、特にポリスチレン樹脂またはポリアクリル系樹脂の製造方法は、当業界の熟練者には公知である。本発明で用いるラピッドプロトタイピング法で使用される樹脂は、この点で、典型的なイオン交換体樹脂または典型的な吸着剤樹脂と異なることはない。
【0019】
粉末形状
本発明で用いるラピッドプロトタイピング法では、粉末状の出発原料を使用するが、これはバインダーを含んでいても含んでいなくてもよい。下記の説明は、両方の場合に当てはまる。単分散の粉末を使用しても、多分散の粉末を使用してもよい。微細な粒子は、当然ながら薄い層を形成し、その結果、目的の成形物が、粗い粒子を用いる場合より大きな層数で、したがってより大きな空間的解像度で形成可能である。平均粒度が約0.5μm〜約450μmの範囲の、特に約1μm〜約300μm、極めて好ましくは10〜100μmの範囲の粉末を用いることが好ましい。用いる粉末は、必要なら、特異的な前処理にかけてもよく、例えば、架橋剤などの添加物を投入して一定粒度の画分を与えるための成形、混合、造粒、ふるい分け、凝集、あるいは研磨や、ボンディングプロセス中で、例えばプラズマ処理やコロナ処理、酸処理(HNO、HSO)、オゾン、UVなどによる、処理中の接着を向上させるための表面処理、あるいは赤外線の吸収を向上させるためのカーボンブラックの添加などの工程の少なくとも一工程にかけてもよい。好適なポリマー材料が、例えば2005/010087やWO03/106148、EP−A−0995763、US7,049,363に記載されている。
【0020】
製造
周知のように、本発明で用いるラピッドプロトタイピング法は以下の工程からなり、これらの工程は、それぞれの層から目的の成形物が完全に形成されるまで繰り返される。粉末状の出発原料または出発原料混合物を、基材上に薄層で塗布し、次いでこの層の選択された位置でバインダーといずれかの必要な助剤と混合し、あるいは照射によりまたは他の加工により粉末をこれらの位置で結合させ、粉末を層内ばかりか隣接する層にまで結合させる。粉末の床中に工作物の所望の形状が完全に得られるまでこの方法を繰り返し、次いでバインダーで結合されていない粉末を除去し、結合した粉末は所望の形状中に保持させる。
【0021】
特に使用可能なプロセスは、ソルポア(R)法やポリポア(R)法である。ソルポア(R)法では、純粋に物理的な方法で、目的位置でポリマー粒子が接着剤で結合される。一層ごとに形状を形成した後に、溶媒を除去する。ポリポア(R)法では、ポリマー粒子を目的位置で反応性溶媒により溶解し、次いでこれを、放出される開始剤により重合する。残留モノマーは除かれる。
【0022】
バインダーと助剤
用いるバインダーは、粉末状出発原料の隣接する粒子を確実に結合させるのに適当ないずれかの材料を含んでいる。有機物質、特に架橋可能なまたは他のいずれかの方法で相互に共有結合可能な有機物質が好ましく、その例としては、フェノール樹脂や、ポリイソシアネート、ポリウレタン、オポキシ樹脂、フラン樹脂、尿素−アルデヒド縮合物、フルフリルアルコール、アクリル酸分散物、アクリレート分散物、高分子アルコール、過酸化物、炭水化物、糖、糖アルコール、タンパク質、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、キサンタン、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、あるいはこれらの混合物があげられる。これらのバインダーは、液状で、あるいは溶液または分散液で使用され、有機溶媒(例えば、トルエン)または水を使用することもできる。本発明の一つの実施様態においては、このバインダーが、少なくとも表面的にポリマー出発材料を溶解し粉末粒子間を結合させる溶媒である。溶媒和されたポリマー粒子は相互に結合して、強い結合を形成する。もう一つの実施様態によれば、この粉末状出発原料が、添加される活性化剤化合物と反応してポリマー出発原料を結合させる反応性化合物を含んでいる。この反応性化合物は、例えばポリマー出発原料の構造内に含まれるモノマーである。したがって、このような材料の例として、スチレンや、アクリル酸塩、アクリル酸があげられる。
【0023】
これらのバインダーは、例えばノズルや印刷ヘッドで、あるいは粉末層上に最小径のバインダー液滴を正確に塗布できる他のいずれかの装置で塗布される。粉末の量とバインダーの量との比は、用いる物質により異なり、一般的には約40:60〜約99:1重量部の範囲であり、好ましくは約70:30〜約99:1重量部、特に好ましくは約85:15〜約98:2重量部の範囲である。
【0024】
さらに、適当なら一種以上の助剤が使用可能で、これは、例えばバインダーの架橋に効果を有し、即ち硬化剤となりうる。これらの助剤は個別に添加可能であり、適当なら粉末の床及び/又はバインダーに、あるいはバインダー溶液に添加することができる。この結合プロセスは、放射線処理で、例えば紫外領域またはIR領域の放射線での処理で改善可能である。上記の表面処理の説明を参照されたい。
【0025】
その後で、バインダーの架橋または反応を改善するために、熱処理による成形工程が続いてもよい。本発明によれば、成形工程の前又は後に、この重合性出発原料を、酸性基や塩基性基で、あるいはキレート基で官能化させてもよい。この官能化の方法は、イオン交換体樹脂または吸着剤樹脂の製造用のものと同一である。したがって、官能化後のイオン交換体樹脂粉末または吸着剤樹脂粉末をラピッドプロトタイピング法で用いることができるし、未官能化樹脂を用いて得られる成形物を官能化させることもできる。
【0026】
強酸性イオン交換体は、通常ポリスチレン系であり、硫酸(発煙硫酸)でスルホン化されているため、フェニル基に結合したスルホン酸基が成形物中に存在する。もう一つの可能性は、ペルフルオロスルホン酸での反応である。Applied Catalysis A: General 221(2001) 45〜62を参照。より弱酸性のイオン交換体は、通常ポリアクリレート系であり、遊離のカルボキシ基を有している。これらは、エステル基の塩基的な加水分解で得られる。フェノール−ホルムアルデヒドゲルを用いることも可能である。
【0027】
塩基性イオン交換体は、存在する固相のイオンの種類により、強塩基性イオン交換体樹脂と弱塩基性イオン交換体樹脂に分類される。第四級アンモニウム基を有する交換体樹脂は強塩基性を示し、第三級アミノ基を有する樹脂は弱塩基性をもつ。好適な塩基性基の例としては、−N(CH32(CH2OH)や、−N(CH33、−N(R)2(ただし、R=アルキル)、具体的には−N(CH32や−NH−CH2−CH2−NH2があげられる。塩基性イオン交換体は、例えばポリスチレンから出発し、メチルクロロメチルエーテルと反応させ、得られる−CH2Cl基を第二級または第三級のアルキルアミンと反応させて得ることができる。イオン交換体中に、チオ尿素基、または金属イオンと結合又は配位する基を与えることもできる。活性中心が通常ポリマーの修飾のために用いられ、かくして吸着特性またはイオン交換体特性の調整が行われる。
【0028】
この有機ポリマーの表面積は、好ましくは5〜200m2/gの範囲の範囲であり、特に好ましくは10〜100m2/g、特に20〜70m2/gの範囲である。平均空孔直径は、好ましくは2〜200nmであり、特に10〜100nmである。官能化を行う場合、官能性またはイオン性基の存在量は、好ましくは0.1〜15eq/kgであり、特に好ましくは0.5〜10eq/kg、特に1〜7eq/kg、具体的には2〜6eq/kgである。
【0029】
特に官能化の程度が、イオン交換体樹脂の全体性能を決定する。
【0030】
成形物の幾何構造
粉末によるラピッドプロトタイピング法は柔軟性に富むため、成形物の幾何構造は、応用分野での要求事項に依存し、大幅に変動しうる。例えば、イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物が、成形物を貫通する外部に開放された1本以上の流路を有していてもよい。例えば、イオン交換体媒体がこれらの流路を流れることができる。この種の成形物は、好ましくは2〜100本の、特に好ましくは4〜50本の流路を有している。これらの流路は成形物中を貫通し、入口と出口で開放されている。
【0031】
あるいは、または更に、このイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物は、少なくとも同体積の球の表面積/体積比より2倍大きな、好ましくは少なくとも3倍大きな表面積/体積比を有することができる。従来、有機イオン交換体は、通常球状の形状で使用されている。本発明の成形物は、交換プロセスに利用可能な表面積を増加させることにより、実質的にイオン交換を改善させることができる。
【0032】
イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物はまた、内部を流体が流れるモノリスの形状を取ることができ、その場合、このモノリスは、流れの主方向に対する傾斜角度が0°〜70°の範囲である、好ましくは30°〜60°の範囲である流路をもつ。これらのモノリスは、上述の流路数を持つことができ、また上述の表面積/体積比をもつことができる。
【0033】
好ましい形状の一つは、吸着剤または触媒として不均一系触媒化学反応に用いると、反応器中でのクロスミキシングを最大とし圧力損失を最小とし、また流動方向に対して逆混合を低レベルに抑え、材料と熱(外部への熱輸送も含む)の十分な輸送を可能とするものである。有利な形状として、例えば蒸留技術において知られる充填材の交差流路構造があげられる。これらは当業界の熟練者には公知であり、モンツやスルザー、クーニなどの製造メーカーから供給されている。これらの流路はいずれか望ましい断面形状をとるが、正方形、長方形、あるいは円形の断面形状が好ましい。
【0034】
充填材は、化学反応が好ましくは起こる流路と熱の対流輸送が好ましくは起こる流路とを持つ多流路充填材として設計することが好ましい。熱輸送用の流路は、より大きな傾斜を示し、また触媒の流路の直径に対して2〜10倍大きな水力直径をもつことが好ましい。
【0035】
しかしながら、個々の流路を相互に連結し、クロスミキシングの強度を増加させる空孔及び/又は空隙をもつモノリス構造は、既存の形状に対して明らかな長所を有している。
【0036】
成形物の反応器や吸着床、精製床内への導入
本発明で用いる成形物は、反応器内部構造物として用いられる。モノリスには原則として知られているように、この機能において、成形物は未配向状態で床として存在していてよく、あるいは空間的に配向した状態で、例えばカラム型反応器中の充填材として存在していてもよい。本発明で用いる成形物は、この(カラム型)反応器の端にまで延びていてもよい。構造性触媒を反応器に収めるためのいろいろな方法がある。例えば、円柱状成分を相互に配置して円管形状反応器またはチューブ束反応器に収めることができるが、すべての触媒成分が同じ形状、構造、機能などを持つ必要はない。縦/横に分断された系も可能である。これらは、横分断された形で(例えば、4個の1/4円柱を用いる、あるいは多数の相互に連結した六画形のハニカム部品を用いる成形物部品の形で)収めることができる。
【0037】
各々の充填材エレメントは、複数の縦方向に配向した層からなっていてもよく、その場合、個々の層は緻密に配置された流路を持っており、隣接する層の流路は交差しており、一つの充填材エレメント中の流路は、流体に対して透過性または非透過性である側壁を有している。
【0038】
端部での流動抵抗を増加させるため、充填材は好ましくはa)充填材の全断面を経由して材料中を流れる流れを均一とするため端シールを有していてもよく、あるいはb)好ましくは、端部で多孔性が高くない構造を有していてもよい。
【0039】
本発明はまた、対応する充填材エレメントを提供する。
【0040】
幾何構造の例
本発明で用いる成形物の好適な形状または構造は、例えばモンツ社やスルザー社からの以下の刊行物に記載されている。言及に足る構造としては、例えばWO2006/056419、WO2005/037429、WO2005/037428、EP−A−1362636、WO01/52980、EP−B−1251958、DE−A−3818917、DE−A−3222892、DE−A−2921270、DE−A−2921269、CA−A−1028903、CN−A−1550258、GB−A−1186647、WO97/02880、EP−A−1477224、EP−A−1308204、EP−A−1254705、EP−A−1145761、US6,409,378、EP−A−1029588、EP−A−1022057、WO98/55221に記載のものである。もう一つの好適な成形物は、交差流路充填材の形をとり、この中では充填材が、流動流路を形成する波型またはひだのある金属酸化物の縦型層からなり、隣接する層の流動流路は、開放された交差点を有し、交差流路間の角度は約100°より小さい。この種の交差流路充填材は、例えばEP−A−1477224に記載されている。この文書中の角度の定義を参照されたい。
【0041】
成形物として使用可能な充填材の例としては、スルザーBX網状充填材や、スルザーメラパック板状充填材、メラパックプラスなどの高性能充填材、スルザー(オプチフロー)やモンツ(BSH)、クーニ(ロンボパック)の構造性充填材や、エミテック社の充填材(www.emitect.com)があげられる。
【0042】
成形物は、例えば以下のタイプの充填材形状を取ることができる。モンツ社のA3、B1、BSH、C1、M。これらの充填材は、波状のウェブ(薄板)からなる。波形構造は垂線から傾いた角度で延び、隣接する薄板と交差する流動流路を形成する。
【0043】
モノリスの大きさは、自由に選択可能である。典型的な好ましいモノリスの大きさは、0.5〜20cmの範囲、特に1〜10cmの範囲である。複数のモノリスセグメントからなるより大きなモノリスを製造することも可能である。
【0044】
既知のイオン交換体からなる球状粒子が小さすぎる場合に、あるいは過度の圧力損失またはバイパス現象が起こる場合に、本発明の成形物が特に好ましく使用される。
【0045】
用途
本発明により生産されるイオン交換体または吸着剤は、巾広い用途で使用可能である。これらは先ず、いろいろな種類のイオンや化学化合物用の吸着剤として使用可能である。水系内または有機液体系内に含まれるいずれの金属イオンに結合させることができ、これらの金属イオンの例としては、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、重金属イオン、他の金属イオン、アンモニアイオン、アニオンがあげられる。これらの吸着剤樹脂は、排水の浄化に使用できる。この幾何構造は、材料内を流れる溶液から金属イオンを理想的に吸着され、理想的な流量が与えられるように選択される。この吸着特性は、pHで変化することがある。
【0046】
これらのイオン交換体を、水の硬度の減少に用いることができる。アニオン交換体は、液体系から不要なアニオンを除くのに、例えば硫酸、硝酸、あるいはクロライドやアイオダイドなどのハライドを除くのに用いることができる。
【0047】
キレートイオン交換を微量物の濃縮に用いることができる。溶液中あるいは水中の塩の総量を決めることができ、不要なカチオンまたはアニオンは、カチオン交換体またはアニオン交換体を用いて除去でき、クロマト的な分離を行うことができる。これらの成形物を、難溶性化合物の解離に用いることもできる。
【0048】
イオン交換処理後、他の用途に利用するため、成形物は通常水洗・再生、あるいは溶離させられる。
【0049】
好ましい応用分野は、水処理であり、具体的には、水の軟化装置、部分脱塩または完全脱塩、希土類の分離、アミノ酸の分離、分析用途である。高分子量の有機化合物や染料の除去も好ましい。他の好ましい応用分野は、抗生物質やビタミン、アルカロイドの精製と製造や、酵素の精製、染料の吸着である。他の好ましい応用分野は、酸やアルカリの単離や同定、不要なカチオンやアニオンの除去である
イオン交換体の主な応用分野は触媒である。
【0050】
塩酸や硫酸などの鉱酸、また水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液などのアルカリ溶液が、エステル化反応や、鹸化反応、縮合反応、転移反応、加水分解反応、重合反応、脱水反応、環化反応の触媒に使用できることは長い間知られている。本発明の成形物は、交換可能なカウンターイオンの担体の形で製品を提供する。これらは、触媒的に活性な水素イオンまたは触媒的に活性なヒドロキシイオンを含む限り鉱酸またはアルカリ溶液と同じであり、また直接的な触媒効果を示す。したがって、酸触媒反応において、鉱酸に代えて強酸性カチオン交換体をH+型で用いることができ、塩基触媒反応ではOH-形で強塩基性イオン交換体を用いることができる。
【0051】
成形物の形状の触媒は、均一酸触媒または均一塩基性触媒に対して多くの長所をもつ。成形物の形状をとるため、これらの触媒を反応生成物から容易に分離することができる。多くの場合、これらは再生することなく直ちに再使用が可能である。大分子や小分子に対して選択性を持つことが可能である。これらは反応を連続的に進行させるのに使用できる。これらは、異種イオンの反応生成物中への飛沫同伴を抑える。これらは望まざる第二反応や望まざる副反応を防止し、製品純度を増加させる。
【0052】
本発明の成形物は、特に好ましくは、エステル化反応や、鹸化反応、水離脱反応、水和反応、脱水反応、アルドール縮合反応、重合反応、二量化やオリゴマー化反応、アルキル化反応、脱アルキル化反応、ランスアルキル化反応、シアノヒドリン合成反応、酢酸成形反応、アクリル化反応、ニトロ化反応、エポキシ化反応、糖転移反応、転移反応、異性化反応、エーテル化反応、架橋反応の触媒として使用される。この反応は、好ましくは最高で180℃、特に最高で150℃の温度で行われる。
【0053】
好適な反応は、Applied Catalysis A: General 221 (2001), 45〜62にも記載されている。
【0054】
本発明の成形物は、流体から不要な不純物を除くための保護床として使用することもできる。
【0055】
製造
序のラピッドプロトタイピングで述べたようにして、成形物が製造される。序に記載の文献や、Gebhardt, Rapid Prototyping, Werkzeuge fur die schnelle Produktentstehung [Rapid prototyping, tools for fast production of products], Carl Hansa Verlag, Munich, 2000, J. G. Heinrichを参照されたい。
【0056】
本発明の成形物の製造においては、平均粒度が約0.5μm〜約450μmの範囲の、特に好ましくは約1μm〜約300μm、非常に特に好ましくは10〜100μmの範囲のポリマー粉末を使用する。上述のように、この粉末は一種以上の活性化剤を含む。上述のように、ポリマー粉末粒子間の結合が、溶媒での処理により、照射により、あるいは活性化剤化合物として塗布される反応性化合物の塗布により起こり、ポリマー粒子間を結合させる。
【0057】
得られる樹脂成形物の官能化は、最初の粉末中で行うことができ、あるいは成形物中で行うことができる。上述のように、このプロセスの一例がスルホン化である。従って、成形工程の前または後で、ポリマーが、酸性基、塩基性基あるいはキレート基で官能化される。
【0058】
本発明はまた、上記プロセスで製造されるイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物を提供する。
【0059】
これらの有機成形物は、好ましくは不均一触媒化学反応において反応器内部構造物として使用され、あるいはイオンまたは化学化合物の吸着用の吸着剤として用いられる。
【0060】
以下の実施例は、本発明を更に説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0061】
実施例1:
図1に記載の「三次元構造を有する交差流路構造」を、ポリスチレンビーズから製造する。このポリマー成形物の長さは50mmで、直径は14mmである。成形方法は、プロメタルRCT−S15(プロメタルRCT社、86167アウグスベルグ、ドイツ)上への三次元印刷である。印刷加工の後、未結合のポリスチレンビーズを除くため、得られた製品に空気を吹き付ける。次いで、このポリスチレン成形物を発煙硫酸で処理して強酸性イオン交換体を得る。
【0062】
実施例2
図2に記載の三次元構造を持つ「交差流路構造」をポリスチレンから製造する。このポリマー成形物の長さは100mmであり、直径は80mmである。成形方法は、プロメタルRCT−S15(プロメタルRCT社、86167アウグスベルグ、ドイツ)上へのラピッドプロトタイピングである。製品に空気を吹き付けて緩く結合した材料を除き、このポリスチレン成形物を発煙硫酸で処理して強酸性イオン交換体を得る。
【0063】
実施例3
図1に記載の三次元構造を持つ「交差流路構造」をポリメタクリル酸メチル(PMMA)ビーズから製造する。このポリマー成形物の長さは50mmであり、直径は14mmである。成形方法は、プロメタルRCT−S15(プロメタルRCT社、86167アウグスベルグ、ドイツ)上への三次元印刷である。印刷加工の後、未結合のポリメタクリル酸メチルビーズを除くため、得られた製品に空気を吹き付ける。次いで、このPMMA成形物を水酸化ナトリウム溶液で処理して弱酸性イオン交換体を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末系のラピッドプロトタイピング法により、即ち、粉末状の有機ポリマー出発原料または出発原料混合物を薄層として基材に塗布し、次いでこの層の選択された位置で、バインダーといずれかの必要な助剤と混合し、あるいはこの粉末をこれらの位置に結合するように、照射または処理して、この粉末がその層の中だけでなく隣接する層にも結合させ、この手順を、得られる粉末床中で成形物の所望の形状が完全に得られるまで繰り返し、次いでこのバインダーで結合した粉末を所望の形状で保持するように未結合の粉末を除去する方法により、イオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物の製造方法であって、出発原料自体がイオン交換体特性または吸着剤特性を持っているか、成形物の適当な官能化が成形工程の後に行われることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記バインダーが少なくとも表面的にポリマー出発原料を溶解して、粉末粒子間を結合させる溶媒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマー出発原料が照射により少なくとも表面的に軟化して、粉末粒子間の結合が形成される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー出発原料が、加えられた活性化剤化合物と反応してポリマー出発原料の粉末粒子間を結合させる反応性化合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応性化合物がポリマー出発原料の構造中に含まれるモノマーである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー出発原料が、適当なら成形工程の前又は後で架橋されたポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート、あるいはポリスチレンを基礎とするものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー出発原料が、成形工程の前又は後でキレート基、塩基性基、または酸性基で官能化される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により製造が可能なイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物。
【請求項9】
外側に開放され成形物内部を貫通する一個以上の流路を有するイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物。
【請求項10】
同一体積の球の表面積/体積比に対して少なくとも2倍の表面積/体積比をもつイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物。
【請求項11】
モノリスの形状を有し内部を流体が流れるイオン交換体特性または吸着剤特性を有する有機ポリマー成形物であって、該モノリスが反応媒体が流れる流路を有し、該流路が流れの主方向に対して0°〜70°の範囲、好ましくは30°〜60°の範囲の角度で傾いていることを特徴とする有機ポリマー成形物。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載のイオン交換体特性または吸着剤特性をもつ、あるいは請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で得られる有機成形物の不均一触媒化学反応中での反応器内部としての、あるいはイオンまたは化学化合物の吸着用の吸着剤としての利用。
【請求項13】
前記成形物が内部を反応媒体が流れる流路を有し、該流路が、流れの主方向に対して0°〜70°の範囲、好ましくは30°〜60°の範囲の角度で傾いている請求項12に記載の利用、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法、あるいは請求項8〜11のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項14】
前記成形物を充填材または床の形で含むカラム状反応器内を反応媒体が流れ、該充填材は、縦方向に配置された充填部を形成する一個または複数のエレメントを含み、個々の充填材エレメントまたは床エレメントが複数の縦方向に配向した層を持ち、各層が近接して配置された流路を持ち、隣接する層の流路が交差し、充填材エレメントまたは床エレメント内の流路が該液体に対して非透過性あるいは透過性である側壁を有する請求項12又は13に記載の利用、あるいは請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に定義される充填材エレメント。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−506799(P2012−506799A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533735(P2011−533735)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064350
【国際公開番号】WO2010/049515
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】