説明

イオン交換樹脂焼却処理装置およびイオン交換樹脂焼却処理方法

【課題】易燃焼性の廃棄物との混焼によらず、イオン交換樹脂単独での焼却処理を可能とするイオン交換樹脂の焼却処理方法およびイオン交換樹脂の焼却処理装置を提供すること。
【解決手段】炉体上部に使用済イオン交換樹脂の投入口と排ガス排出口を有し、炉底から焼却灰を排出する炉底ダンパを有する竪型のイオン交換樹脂焼却処理装置であって、炉体下部の側壁には、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃焼を促進する燃焼用バーナ9と、炉底上部に向けて空気を噴射して旋回流を形成する燃焼空気ノズルと、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて空気を噴射して燃え残り灰を噴き上げる残燃空気ノズル8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所等から排出される使用済イオン交換樹脂の単独処理を可能とするイオン交換樹脂焼却処理装置およびイオン交換樹脂焼却処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所では、機器の腐食防止のため、系統水の浄化や系統に注入する水の浄化に大量のイオン交換樹脂が使用されている。これらのイオン交換樹脂は性能が経年劣化するため、所定期間使用した後、廃棄物となる。使用済イオン交換樹脂は、高含水かつ粒粉状であるため焼却速度が遅く従来技術では焼却処理が困難であり、従来、原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂は、放射能レベルにより分別され、それぞれ貯蔵タンクに水とともに貯留されていた。
【0003】
前記のように、高含水かつ粒粉状であるため焼却速度が遅く従来技術では焼却処理が困難であった使用済のイオン交換樹脂を燃焼処理する技術に関し、本願出願人は、熱分解性廃棄物・木炭・活性炭等の易燃焼性の廃棄物と共に焼却処理(以下、混焼という)する技術を開示している(特許文献1)。
【0004】
しかし、原子力発電所において、使用済イオン交換樹脂は貯蔵タンクに水とともに貯留されてきたのに対し、易燃焼性の廃棄物は従来から焼却処理の対象とされてきているため、混焼のために必要十分な易燃焼性の廃棄物を確保できない場合もある。このような場合、従来技術では、使用済イオン交換樹脂単独での焼却処理は困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記の問題を解決し、原子力発電所等で大量に発生する使用済イオン交換樹脂を、易燃焼性の廃棄物との混焼によらず、単独で焼却処理を可能とするイオン交換樹脂焼却処理装置およびイオン交換樹脂焼却処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明のイオン交換樹脂の焼却処理装置は、炉体上部に使用済イオン交換樹脂の投入口と排ガス排出口を有し、炉底から焼却灰を排出する炉底ダンパを有する竪型のイオン交換樹脂焼却処理装置であって、炉体下部の側壁には、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃焼を促進する燃焼用バーナと、炉底上部に向けて空気を噴射して旋回流を形成する燃焼空気ノズルと、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて空気を噴射して燃え残り灰を噴き上げる残燃空気ノズルを備えることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置において、燃焼空気ノズルを、燃焼用バーナと略同一高さ位置で、炉体側壁の接線方向に複数本配置したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置において、残燃空気ノズルを、燃焼空気ノズルよりも下部位置で、複数本配置したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置において、該炉底ダンパの外周に設けられた環状パッキン部分に、炉底ダンパの周囲から炉内に向けて均一に圧縮空気を噴出するシール空気供給手段を設けた炉底シール構造を備えることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置において、炉底ダンパの上面を皿状に凹ませたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置において、炉体の上部には、投入口に使用済イオン交換樹脂を少量ずつ連続的に投入する定量スクリューフィーダが設置されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れかに記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置を用いて使用済イオン交換樹脂を単独で焼却処理する方法であって、炉内を650℃以上まで昇温させる予熱工程と、炉内を650〜1000℃に維持するとともに、燃焼空気ノズルから空気を噴射して炉底上部に旋回流を形成しながら、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて使用済イオン交換樹脂を焼却処理する助燃工程と、助燃工程で炉底に堆積した燃え残り灰に向けて、残燃空気ノズルから空気を噴射して対向流を形成し、該対向流により炉底から噴き上げられた燃え残り灰に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃え残り灰の燃焼を促進する残燃工程からなることを特徴とするものである。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のイオン交換樹脂焼却処理方法であって、バーナ火炎の先端部が、炉底に堆積した燃え残り灰に到達しない位置にあるように、燃焼用バーナを使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、炉体上部に使用済イオン交換樹脂の投入口と排ガス排出口を有し、炉底から焼却灰を排出する炉底ダンパを有する竪型のイオン交換樹脂焼却処理装置において、炉体下部の側壁に、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃焼を促進する燃焼用バーナと、炉底上部に向けて空気を噴射して旋回流を形成する燃焼空気ノズルと、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて空気を噴射して燃え残り灰を噴き上げる残燃空気ノズルを備える構成により、原子力発電所等で大量に発生する使用済イオン交換樹脂を、易燃焼性の廃棄物との混焼によらず、イオン交換樹脂単独で、燃え残ることなく完全に焼却処理を行うことを可能とした。
【0016】
更に炉体の上部に、投入口に使用済イオン交換樹脂を少量ずつ連続的に投入する定量スクリューフィーダを設置した構造とすれば、従来のバッチ投入式に比べて、大幅な燃焼促進を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のイオン交換樹脂の焼却処理装置を示す要部の垂直断面図である。
【図2】本発明のイオン交換樹脂の焼却処理装置を示す炉体下部の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明のイオン交換樹脂の焼却処理装置は、原子力発電所等で大量に発生する使用済イオン交換樹脂を、易燃焼性の廃棄物との混焼によらず、単独で焼却処理するための焼却炉であり、円筒状の炉体からなるものである。
【0019】
図1において、1は円筒状の炉体、2は耐火物からなる炉体下部、3は炉底の中央部に設けられた上面が皿状に凹んでいる底蓋、4は底蓋3の下方に設けられた灰取り出しボックスである。
【0020】
底蓋3は、水平軸5aを中心に回動する支持アーム5に取り付けられており、燃焼処理後に反時計方向へ回動して底蓋上に溜まった灰分を灰取り出しボックス4内へ落下させるダンパ構造となっている。なお、6はシール用空気ラインであり、底蓋3の周囲の隙間からシール用空気を噴出して、燃焼時における底蓋上のイオン交換樹脂が隙間へ入り込み、燃え残りとなることを防いでいる。シール用空気の空気流速は1m/s以上とすることが好ましい。
【0021】
炉体1の上部には、使用済イオン交換樹脂の投入口(図示しない)と、この投入口に使用済イオン交換樹脂を少量ずつ連続的に投入する定量スクリューフィーダ(図示しない)が設置されている。定量スクリューフィーダにより少量ずつ連続的に投入すれば燃焼が促進されるので、短時間で処理が可能となり好ましい。
【0022】
投入された使用済イオン交換樹脂は炉内で焼却されて、排ガスは上部の排ガス排出口(図示しない)より後工程へ導入され、一方、燃焼灰は下部の灰取出コンベヤ上へ搬出される。この点は従来の混焼用焼却炉と基本的に同じである。
【0023】
本実施形態では、底蓋上のイオン交換樹脂が、底蓋3の周囲の隙間へ入り込むことを回避するために、前記のシール用空気を噴出の他、底蓋3の上面を皿状に凹ませる構造も合わせて採用している。
【0024】
炉体下部2の側壁には、炉内にバーナ火炎を直接吹き付けて燃焼を促進する燃焼用バーナ9と、炉底上部に向けて空気を噴射して旋回流を形成し燃焼を促進するて燃焼空気ノズル7と、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて空気を噴射し、燃え残り灰を噴き上げ燃焼を促進する残燃空気ノズル8を備えている。図2に示すように、燃焼空気ノズル7は、120°配向で炉壁の接線方向に3本配置され、残燃空気ノズル8は、ノズル口を底蓋の凹みに向けて、120°配向で3本配置されている。
【0025】
以下、本発明の焼却処理装置により使用済イオン交換樹脂を単独焼却処理する方法について説明する。
【0026】
本発明のイオン交換樹脂焼却処理方法は、炉内を昇温させる予熱工程と、昇温後に、燃焼空気ノズル7から空気を噴射しつつ、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて使用済イオン交換樹脂を焼却処理を行う助燃工程と、助燃工程で炉底に堆積した燃え残り灰に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃え残り灰の燃焼を促進する残燃工程を有するものである。
【0027】
予熱工程では、炉内を650℃以上まで昇温させる。本実施形態では、燃焼用バーナ9を使用して炉内の昇温を行っているが、昇温手段は特に限定されるものではない。炉内が650℃となった時点で、使用済イオン交換樹脂の投入を開始する。
【0028】
助燃工程では、炉内を650〜1000℃に維持しつつ、燃焼空気ノズル7から空気を噴射して炉底上部に旋回流を形成しながら、使用済イオン交換樹脂の焼却処理を行う。本実施形態では、図2に示すように、燃焼空気ノズル7を3本、120°配向で炉壁の接線方向に配置することにより、炉底上部に旋回流を形成し効率のよい燃焼を実現している。本実施形態では、燃焼用バーナ9の燃料調整により炉内温度の維持を図っているが、炉内温度の維持手段は特に限定されるものではない。
【0029】
本発明のイオン交換樹脂焼却処理方法では、空気比(m比)を1.6とすることにより、炉内温度を前記範囲に維持し、燃焼効率の向上を実現している。m比が1.6に満たない場合には、燃え残りが多くなり好ましくない。一方、m比が1.6を超えると、炉内温度が低下してくるため、炉内温度維持のための必要燃料量が増加し、省エネルギーの観点からも好ましくない。
【0030】
使用済イオン交換樹脂は燃焼速度が遅く燃え尽きるのに長時間を要するため、助燃工程で発生する灰中には、燃え残ったイオン交換樹脂が含まれる。残燃工程では、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて、残燃空気ノズル8から空気を噴射して対向流を形成し、該対向流によりバーナ口高さまで噴き上げられた燃え残り灰に高温のバーナ火炎直近の高温の熱風を直接吹き付けて燃焼を促進する。本実施形態では、図2に示すように、残燃空気ノズル8を3本、120°配向で配置することにより対向流を形成し、炉底に堆積した燃え残り灰の効果的な噴き上げを可能としている。更に、噴き上げた燃え残り灰に、高温のバーナ火炎直近の高温の熱風を直接吹き付けることにより、短時間での燃え残り灰完全燃焼を実現可能としている。
【0031】
なお、灰中に含まれるクラッド(酸化鉄)が溶融して炉底に固着することを回避するために、バーナ火炎の先端部は、炉底に堆積した燃え残り灰に到達しない位置にあることが好ましく、灰温度を1500℃以下に維持することが好ましい。
【0032】
このように構成されたものでは、炉体1内に投入された使用済イオン交換樹脂が焼却される際に、底蓋3の上面を皿状に凹ませてあるので、燃え残り灰はこの凹みに溜まり、また、底蓋3の周囲にはシール用空気ライン6から供給されたシール用空気が噴出しているので、底蓋上の燃え残り灰の底蓋3の周囲の隙間への落下を防止することができる。
【0033】
このようにして焼却が完了したら、底蓋3を下方へ回動して焼却灰を灰取出ボックス4へ排出する。排出した焼却灰は下部の灰取出コンベヤにより次工程へ搬出される。一方、燃焼ガスは、セラミックフィルタやHEPAフィルタにより放射性物質を含むダストを完全に除去されたうえ、大気中へ放出されることとなる。
【実施例】
【0034】
図1のイオン交換樹脂の焼却処理装置を使用して模擬試験を行った。当該試験では、使用済イオン交換樹脂を模擬した粉末及び粒状のアニオン樹脂とカチオン樹脂とクラッド(酸化鉄)を混合した試験用焼却物を前記本発明の方法により焼却した。具体的には、6.3dry kg/h(乾燥重量)、水分50wt%(重量基準)以上の試験用焼却物を、図1のイオン交換樹脂の焼却処理装置に投入し、熱工程の後、650〜1000℃の炉内で10時間燃焼処理し、その後、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて、残燃空気ノズルから空気を噴射して燃え残り灰を噴き上げながら、燃焼用バーナ(20万kJ/h)により燃え残り灰を1時間燃焼した。なお、試験用焼却物は焼却炉の上部の投入口より、6.3dry kg/hの割合で定量供給した。この条件下で燃焼を行った結果、試験用焼却物を単独で完全に燃焼することができた。
【符号の説明】
【0035】
1 炉体
2 炉体下部
3 底蓋
4 灰取り出しボックス
5 支持アーム
5a 水平軸
6 シール用空気ライン
7 燃焼空気ノズル
8 残燃空気ノズル
9 燃焼用バーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体上部に使用済イオン交換樹脂の投入口と排ガス排出口を有し、炉底から焼却灰を排出する炉底ダンパを有する竪型のイオン交換樹脂焼却処理装置であって、
炉体下部の側壁には、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃焼を促進する燃焼用バーナと、炉底上部に向けて空気を噴射して旋回流を形成する燃焼空気ノズルと、炉底に堆積した燃え残り灰に向けて空気を噴射して燃え残り灰を噴き上げる残燃空気ノズル
を備えることを特徴とするイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項2】
燃焼空気ノズルを、燃焼用バーナと略同一高さ位置で、炉体側壁の接線方向に複数本配置したことを特徴とする請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項3】
残燃空気ノズルを、燃焼空気ノズルよりも下部位置で、複数本配置したことを特徴とする請求項2記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項4】
該炉底ダンパの外周に設けられた環状パッキン部分に、炉底ダンパの周囲から炉内に向けて均一に圧縮空気を噴出するシール空気供給手段を設けた炉底シール構造を備えることを特徴とする請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項5】
炉底ダンパの上面を皿状に凹ませたことを特徴とする請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項6】
炉体の上部には、投入口に使用済イオン交換樹脂を少量ずつ連続的に投入する定量スクリューフィーダが設置されている請求項1記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のイオン交換樹脂の焼却処理装置を用いて使用済イオン交換樹脂を単独で焼却処理する方法であって、
炉内を650℃以上まで昇温させる予熱工程と、
炉内を650〜1000℃に維持するとともに、燃焼空気ノズルから空気を噴射して炉底上部に旋回流を形成しながら、炉内の使用済イオン交換樹脂に向けてバーナ火炎を吹き付けて使用済イオン交換樹脂を焼却処理する助燃工程と、
助燃工程で炉底に堆積した燃え残り灰に向けて、残燃空気ノズルから空気を噴射して対向流を形成し、該対向流により炉底から噴き上げられた燃え残り灰に向けてバーナ火炎を吹き付けて燃え残り灰の燃焼を促進する残燃工程
からなることを特徴とするイオン交換樹脂焼却処理方法。
【請求項8】
バーナ火炎の先端部が、炉底に堆積した燃え残り灰に到達しない位置にあるように、燃焼用バーナを使用することを特徴とする請求項7記載のイオン交換樹脂焼却処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−61129(P2013−61129A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200801(P2011−200801)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】