説明

イオン性有機化合物及びその製法、並びに該イオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤及びハイドロゲル

【課題】新規なイオン性有機化合物とその簡単な工程による製造方法を提供するとともに、得られたイオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤、及び該ハイドロゲル化剤を用いた水又は酸性水溶液を媒体とするハイドロゲルを提供する。
【解決手段】(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4である)又は1,z-ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2,3又は4である)と、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された化合物との縮合反応により得られる。得られたイオン性有機化合物は、ハイドロゲル化剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性有機化合物とその製造方法、並びに該イオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤及びハイドロゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲルは、その構造・物性などの基礎研究から食料品、医療品、化粧品などへの応用研究など幅広い分野で展開され注目を浴びており、新規なゲル化剤の合成開発が盛んにおこなわれている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、酸性条件ではゲル化が困難であることや、多段階合成が必要などの問題点もあり、その克服が望まれている。
【特許文献1】特開2003−327949号公報
【特許文献2】特開2003−49154号公報
【特許文献3】特開2003−55642号公報
【0003】
この様な背景の中、本発明者らは、アミノピリジン類と活性メチレン基をもつ酸ハライドとの重縮合反応により、一段階で得られる電解質構造をもつ新規なイオン性有機オリゴマーが、水および酸性水溶液に対して、ゲル化剤として機能することを見出し先に提案した(特許文献4)。しかしながら該当化合物の合成法は、反応部位となるピリジル部位と活性メチレン部位が、一分子内に存在する必要があり、多様なイオン性有機化合物の合成を著しく制限している。
【特許文献1】WO 2006/082764 A1
【0004】
本発明は、上記化合物からの合成的拡張をおこなった結果得られた、共重合法によるイオン性有機化合物の合成とそれらイオン性有機化合物のハイドロゲル化剤としての利用に関するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なイオン性有機化合物とその簡単な工程による製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、得られたイオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤、及び該ハイドロゲル化剤を用いた水又は酸性水溶液を媒体とするハイドロゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4である)あるいは1,z−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2、3又は4である)と、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとの縮合反応により、一般式(1)で表されるイオン性有機化合物を合成したもので、つぎの1〜6の構成を採用する。
1.つぎの一般式(1)で表されるイオン性有機化合物。
【化1】

(式中、Aは窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン、又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された窒素原子が4級化されたカチオン性官能基である。Bはアミド基又はウレア基であり、2つのBは互いにベンゼン環のオルト、メタ又はパラ位に位置する。Xは塩素イオン、又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンを示す。nは1〜800の整数を示す。)
2.(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4である)あるいは1,z-ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2、3又は4である)と、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された化合物を、縮合反応させることを特徴とする1に記載のイオン性有機化合物の製造方法。
3.縮合反応をジメチルホルムアミド中で、50〜80℃で行うことを特徴とする2に記載の製造方法。
4.さらに、得られたイオン性化合物のアニオンをアニオン交換反応により他のアニオンに置換することを特徴とする2又は3に記載のイオン性化合物の製造方法。
5.1に記載されたイオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤。
6.5に記載のハイドロゲル化剤を含むハイドロゲル。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン性有機化合物は、水のゲル化剤として好適に用いられる。この化合物をゲル化剤として得られたゲルは、高負荷の歪を与え、それを開放した後の貯蔵弾性率の戻りが速いという特徴をもつ。また、pH=1の塩酸水溶液をゲル化することが可能である。また、本発明は簡単な工程によってゲル化剤等として優れた性状を有する新規なイオン性化合物を効率よく製造することを可能にするものであり、反応試薬の組み合わせによるゲル物性の制御あるいは機能性官能基の導入による機能性ゲル化剤の合成開発に新たな道を拓くものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記した一般式(1)で表される本発明のイオン性有機化合物は、(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4である)あるいは1,z−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2、3又は4である)と、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された化合物、との重縮合反応により得られる。反応溶媒は、ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒を使用することが望ましいが、これに限定されるものではない。また、反応時間は24から48時間が好ましい。反応温度は50〜80℃程度、特に80℃程度とすることが好ましい。イオン性化合物の重合度(n)は1〜800、好ましくは10〜200である。
【0009】
(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4)あるいは1,z−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2,3又は4である)の具体例としては、例えば1,2−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン、1,3−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン、1,4−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン、1,2−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン、1,3−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン、1,4−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼンが挙げられる。
【0010】
また、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された化合物の置換基としては、メチル、エチル、プロピル基等の炭素数1〜6程度のアルキル基や、メトキシ、エトキシ、プロポキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基が挙げられる。
このような化合物の具体例としては、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルブチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサレンジアミン、(R,R)−(−)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン、(S,S)−(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。
【0011】
上記した一般式(1)で表される、好ましいイオン性有機化合物としては、つぎの一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、CはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサレンジアミン、又は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンの窒素原子が4級化されたカチオン性官能基であり、Xは塩素イオン、又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSI)を示す。nは1〜800の整数を示す。)
【0012】
上記方法で得られた一般式(1)、特に一般式(2)で表されるイオン性有機化合物は、ハイドロゲル化剤として優れた性状を有し、該化合物を中性の水もしくは酸性水溶液に加熱溶解させた後、室温で放置することによりハイドロゲルが得られる。
これらの化合物において、イオン性の4級化された窒素原子が、水への溶解性を担い、また、アミド基(水素結合)、芳香環や炭化水素部位(疎水相互作用)、電荷(静電相互作用)が、分子間相互作用を担い、組織体を作ることによってゲル化現象を起こすと考えられる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の実施例において、有機イオン性化合物を製造する原料となる4−クロロメチルベンゾイルクロリド、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル―1,4―ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチル―1,6―ジアミノヘプタン、(R,R)−(−)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン、(S,S)−(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタンは東京化成工業から購入したものをそのまま用いた。脱水塩化メチレン、N,N−ジメチルホルムアミドは関東化学から購入したものをそのまま用いた。トリエチルアミン、パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンは和光純薬工業から購入したものをそのまま用いた。リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)はキシダ化学から購入したものをそのまま用いた。
【0014】
(製造例1)
1,4−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼンの合成
パラ−フェニレンジアミン(331 mg、3.06 mmol)とトリエチルアミン(0.63 g、6.23 mmol)を脱水塩化メチレン(30 mL)に溶かした。そこに、4−クロロメチルベンゾイルクロリド(1.16 g、6.15 mmol)の脱水塩化メチレン(20 mL)溶液を攪拌しながら加えた。生じた沈殿物で攪拌が止まったため、さらに脱水塩化メチレンを70 mL加えた。18時間後、沈殿物をろ別して、下記の式(3)で表される化合物を得た。収量1.26 g、収率99%。1H NMR(300 MHz、DMSO−d)δ 10.3(s、2H)、7.96(dd、J = 8.3 Hz、4H)、7.75(s、4H)、7.59(dd、J = 8.3 Hz、4H)、4.85(s、4H)。
【化3】

【0015】
(実施例1)
窒素ガスの雰囲気下、上記製造例1で得られた1,4−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(1.65 g、4.0 mmol)をジメチルホルムアミド(150 mL)中、80℃で加熱攪拌して溶解させた。その後、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(0.46 g、4.0 mmol)を添加して48時間加熱攪拌した。4級化反応が進行することにより生じた沈殿をろ別することで、下記の式(4)で表される化合物を収率84%で得た。得られた生成物のプロトンNMRスペクトルにおいて、3.22ppm付近に低磁場シフトしたN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンのメチル基のピークが観測されたことから、4級化反応の進行を確認した。H NMR(300 MHz、DO)δ 7.92−7.67(m)、7.65−7.30(m)、4.60(br)、3.88(br)、3.36−3.15(m)、3.09−3.02(m)、2.42−2.36(m)。後述のTFSI誘導体のサイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜116であり、数平均重合度(n)は14、重量平均重合度(n)は31と見積もられた。
【化4】

【0016】
(実施例2)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えてN,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(5)で表される化合物を収率83%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(400 MHz、DO)δ 7.77−7.30(m)、4.43(br s)、3.21−3.00(m)、2.17(br s)。後述のTFSI誘導体のサイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜572であり、数平均重合度(n)は14、重量平均重合度(n)は89と見積もられた。
【化5】

【0017】
(実施例3)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えて1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(6)で表される化合物を収率88%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(300 MHz、DO)δ 8.02(br s)、7.77−7.66(m)、4.88(br s)、4.07−3.94(m)、3.53−3.49(m)、3.23−3.18(m)。後述のTFSI誘導体のサイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜149であり、数平均重合度(n)は11、重量平均重合度(n)は33と見積もられた。
【化6】

【0018】
(実施例4)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えてN,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノブタンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(7)で表される化合物を収率88%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR (400 MHz、DMSO−d/DO = 1/1 (v/v)、TMS) δ 8.05 (s)、7.74-7.68 (m)、3.46 (br s)、3.05 (s、−N(CH−)、1.97 (br s)。
【化7】

【0019】
(実施例5)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えてN,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノヘプタンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(8)で表される化合物を収率93%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR (400 MHz、DMSO−d/DO = 1/1 (v/v)、TMS) δ 8.03 (s)、7.72-7.67 (m)、3.35 (br s)、3.01 (s、−N(CH−)、1.90 (br s)、1.46(br s)。後述のTFSI誘導体のサイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜767であり、数平均重合度(n)は34、重量平均重合度(n)は152と見積もられた。
【化8】

【0020】
(実施例6)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えて(R,R)−(−)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(9)で表される化合物を収率60%で得た。得られた個体は白色で水に溶けにくいものであった。
【化9】

【0021】
(実施例7)
上記実施例1において、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンに代えて(S,S)−(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタンを使用した以外は、実施例1と同様にして下記の式(10)で表される化合物を収率55%で得た。得られた個体は白色で水に溶けにくいものであった。
【化10】

【0022】
(実施例8)
上記実施例1で得られた式(4)で表されるイオン性化合物(0.10g)を80℃で水(100 mL)に溶かし、その溶液にリチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(1g)を水(10 mL)に溶かした水溶液を加えると、下記の式(11)で表される化合物の沈殿物を収率81%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(400 MHz、DMSO−d、TMS)δ 10.4(s、NH)、8.16−8.09(m)、7.79(s)、4.72(br s)、4.07(br s)、3.11(s、−N(CH−)。サイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜116であり、数平均重合度(n)は14、重量平均重合度(n)は31と見積もられた。
【化11】

【0023】
(実施例9)
上記実施例8において、式(4)で表されるイオン性化合物に代えて、実施例2で得られた式(5)で表されるイオン性化合物を使用した以外は、実施例8と同様にして下記の式(12)で表される化合物を収率71%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(400 MHz、DMSO−d、TMS)δ 10.4(s、NH)、8.14−8.08(m)、7.78−7.71(m)4.67(br s)、3.05(s、−N(CH−)。サイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜572であり、数平均重合度(n)は14、重量平均重合度(n)は89と見積もられた。
【化12】

【0024】
(実施例10)
上記実施例8において、式(4)で表されるイオン性化合物に代えて、実施例3で得られた式(6)で表されるイオン性化合物を使用した以外は、実施例8と同様にして下記の式(13)で表される化合物を収率80%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(400 MHz、DMSO−d)δ 10.4(s、NH)、8.14−8.08(m)、7.77(s)、7.68−7.66(br d)、4.82(br s)、4.58(br s)、3.85(s、−N(CH−)。サイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜149であり、数平均重合度(n)は11、重量平均重合度(n)は33と見積もられた。
【化13】

【0025】
(実施例11)
上記実施例8において、式(4)で表されるイオン性化合物に代えて、実施例5で得られた式(8)で表されるイオン性化合物を使用した以外は、実施例8と同様にして下記の式(14)で表される化合物を収率83%で得た。得られた化合物のプロトンNMRスペクトルからその構造を確認した。H NMR(400 MHz、DMSO−d)δ 10.4(s、NH)、8.11(d、J = 7.6 Hz)、7.78(s)、7.75(d、J = 7.8 Hz)、4.60(br s)、2.99(s、−N(CH−)、1.87(br s)、1.39(br s)。サイズ排除クロマトグラフィーの測定から求められた分子量分布において、重合度(n)は1〜767であり、数平均重合度(n)は34、重量平均重合度(n)は152と見積もられた。
【化14】

【0026】
(実施例12)
実施例8〜11で得られた式(11)〜(14)のイオン性有機化合物を、サイズ排除クロマトグラフィーシステム(島津製作所)により、分子量測定を行った。カラムにShodex Asahipak GF−510 HQを使用した。カラムの温度をカラムオーブン(島津製作所)により40℃に保った。溶離液に30mMのリチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含むN,N−ジメチルホルムアミドを使用した。示差屈折計検出器により得られたクロマトグラムを元に、ポリ(メチルメタクリレート)基準で分子量を算出した。算出した分子量を下記の表1に示す。
【表1】

【0027】
(実施例13)
上記の実施例1で得られた式(4)のイオン性有機化合物を、濃度が30g/Lになるように中性の水とともに、内容量2mLのサンプル瓶に入れ、加熱溶解させると透明な溶液になった。これを室温で放置させると、ハイドロゲルが得られた。このハイドロゲルは、図1の写真に見られるように、サンプル瓶を倒立させても内容物が落下しないものであった。
同様にして、上記の実施例で得られた式(5)及び(6)の化合物を使用することにより、ゲル化剤の濃度が50g/Lのハイドロゲルが得られた。また、式(8)の化合物を使用してゲル化剤の濃度が10g/Lのハイドロゲルを得た。
【0028】
(実施例14)
上記の実施例1で得られた式(4)のイオン性有機化合物を、濃度が40g/Lになるように0.1N塩酸水溶液の水とともに、内容量2mLのサンプル瓶に入れ、加熱溶解させると透明な溶液になった。これを室温で放置させると、ハイドロゲルが得られた。このハイドロゲルは、図2の写真に見られるように、サンプル瓶を倒立させても内容物が落下しないものであった。
同様にして、式(8)の化合物を使用することにより、ゲル化剤の濃度が10g/Lの0.1N塩酸水溶液のハイドロゲルを得た。
【0029】
(実施例15)
実施例5で得られた式(8)の化合物をゲル化剤として、純水を媒体とした濃度30g/Lのハイドロゲルを調製した。このゲルを使用して、ARES−RFS(TA Instruments)により粘弾性測定を行った結果を図3に示す。図3は、縦軸に貯蔵弾性率(G’)を横軸に時間をとった場合のグラフである。
はじめに、300秒の静止時間の後に、周波数1Hzで低負荷の歪(0.1%)を600秒与えると貯蔵弾性率(G’)が約4160Paを示した。続いて高負荷の歪(100%)を与えると貯蔵弾性率は、約30Paまで減少した。600秒後、再び低負荷の歪(0.1%)を与えると、貯蔵弾性率(G’)が約3640Paとなり、初期の貯蔵弾性率の87%まで復帰した。このような高速復帰挙動は、3回の繰り返し測定をおこなっても損なわれなかった。
【0030】
上記のとおり、本発明のイオン性有機化合物は、ハイドロゲル化剤として優れた性状を有し、該化合物を中性もしくは酸性水溶液に加熱溶解させた後、室温で放置することによりハイドロゲルが得られる。本発明のイオン性有機化合物をハイドロゲル化剤として使用する際には、ゲル化対象とする水、又は酸性水溶液に対してハイドロゲル化剤を10〜50g/L程度、特に20〜50g/L程度使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例13で得られたハイドロゲルの写真である。
【図2】実施例14で得られたハイドロゲルの写真である。
【図3】実施例15において、ゲルの粘弾性を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの一般式(1)で表されるイオン性有機化合物。
【化1】

(式中、Aは窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン、又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された窒素原子が4級化されたカチオン性官能基である。Bはアミド基又はウレア基であり、2つのBは互いにベンゼン環のオルト、メタ又はパラ位に位置する。Xは塩素イオン、又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンを示す。nは1〜800の整数を示す。)
【請求項2】
(A)1,y−ビス[4−(クロロメチル)ベンズアミド]ベンゼン(yは2、3又は4である)あるいは1,z−ビス{N’−[4−(クロロメチル)フェニル]ウレイド}ベンゼン(zは2、3又は4である)と、(B)窒素原子間の炭素数が1〜6の置換基を有してもよいN,N,N’,N’−テトラメチルアルキレンジアミン又は置換基を有してもよい1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択された化合物を、縮合反応させることを特徴とする請求項1に記載のイオン性有機化合物の製造方法。
【請求項3】
縮合反応をジメチルホルムアミド中で、50〜80℃で行うことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、得られたイオン性化合物のアニオンをアニオン交換反応により他のアニオンに置換することを特徴とする請求項2又は3に記載のイオン性化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載されたイオン性有機化合物からなるハイドロゲル化剤。
【請求項6】
請求項5に記載のハイドロゲル化剤を含むハイドロゲル。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248224(P2008−248224A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324701(P2007−324701)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】