説明

イオン性液体組成物及びそれを用いた電気化学デバイス

【課題】 本発明は、二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの電解質、電解液として有用なイオン性液体を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される化合物(A)、及び、一般式(2)で表される化合物(B)からなるイオン性液体組成物。
【化1】


(式中、カチオンのR、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良く、アニオンのX、Yは各々独立して、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表し、また、X、Yの2つの基により環構造を形成していても良い。)
【化2】


(式中、R、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体組成物及びそれを用いた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、一般に室温付近で液状を呈する塩と定義され、広い温度範囲で蒸気圧が低く、また、難燃性を有し使用時の安全性に優れ、さらに、イオンのみで構成され高いイオン伝導性を示すことから、電気化学デバイスの電解質又は電解液への展開が図られている。
【0003】
イオン性液体のカチオン成分に関しては、これまで、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムをはじめとするイミダゾリウム系カチオン、又は、1−ブチルピリジニウムをはじめとするピリジニウム系カチオンが主に検討され、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメタンスルフェート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等種々のアニオンを組合せたイオン性液体が多数合成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、イミダゾリウム系、ピリジニウム系以外の4級アンモニウム系のイオン性液体に関しては、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム等の鎖状アンモニウムカチオン、又は、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等の環状アンモニウムカチオンとビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドとの組合せからなるイオン性液体(例えば、特許文献2、3参照)が報告されている。
【0005】
さらに、電解質用リチウム塩において、従来のテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロボレートの電解液中での解離性を高め、電気伝導性を向上させたアート錯体化合物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平11−307121号公報
【特許文献2】特開平11−297355号公報
【特許文献3】特開2003−331918号公報
【特許文献4】特開2002−110235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イミダゾリウム系又はピリジニウム系のような環状アミジニウムカチオンは、適切なアニオン種との組合せにより、比較的容易に常温付近で液状の塩が得られ、また、高い電気伝導率を示すという特徴があるものの、耐電圧が低いという欠点がある。例えば、リチウム二次電池の電解質とした場合には、イミダゾリウム塩は、リチウムよりも貴な電位で分解してしまい安定性に劣る、また、電気二重層キャパシタの電解質とした場合には、電気化学的安定性が劣り十分な作動電圧が得られないといった問題がある。
【0007】
また、トリメチルプロピルアンモニウム又はトリメチルブチルアンモニウム等の鎖状アンモニウムカチオン、又は、N−メチル−N−(n−)プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−(n−)プロピルピペリジニウム等の環状アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドとを組合せたイオン性液体は、電気化学的安定性は良いが電気伝導性が不十分であるといった問題がある。
【0008】
さらに、イオン性液体同士、又はイオン性液体に常温固体の塩を混合した組成物の状態では、電気伝導性は改善されるが電気化学的安定性が悪化する、又は、系の粘度が上昇し電気伝導性は低下するといった問題があり、電気化学的安定性と電気伝導性を両立させることは難しい。
【0009】
本発明は上記の問題に対して鑑みられたものであり、室温で液状を呈し、かつ、二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの電解質又は電解液として有用なイオン性液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記したような課題に対し鋭意検討を行った結果、特定のイオン性液体組成物が、室温で液状を呈し、かつ、高い電気化学的安定性と電気伝導性を示し、電気化学デバイスの電解質、電解液として有用であることを見い出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[5]に示すとおりのイオン性液体組成物及びそれを用いた電気化学デバイスである。
【0012】
[1]下記一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(カチオンのR、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良く、アニオンのX、Yは各々独立して、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表し、また、X、Yの2つの基により環構造を形成していても良い。)
で表される化合物(A)、及び下記一般式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良い。)
で表される化合物(B)からなることを特徴とするイオン性液体組成物。
【0017】
[2]上記一般式(1)で表される化合物(A)と、上記一般式(2)で表される化合物(B)が、(A):(B)=99:1〜30:70(重量比)の範囲で含まれることを特徴とする上記[1]に記載のイオン性液体組成物。
【0018】
[3]上記一般式(1)で表される化合物(A)が、N−メチル−N−(n−)プロピルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のイオン性液体組成物。
【0019】
[4]上記一般式(2)で表される化合物(B)が、N−メチル−N−エチルピロリジニウム・ジフルオロ(オキサラト)ボレートであることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のイオン性液体組成物。
【0020】
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のイオン性液体組成物を含んでなることを特徴とする電気化学用デバイス。
【発明の効果】
【0021】
本発明のイオン性液体組成物は、室温付近で液状を呈し、高い電気伝導性を示すことから、二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの電解質、電解液として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のイオン性液体とは、室温付近で液状を呈する塩を意味する。
【0023】
本発明のイオン性液体組成物は、上記一般式(1)で表される化合物(A)及び上記一般式(2)で表される化合物(B)からなることを特徴とする。
【0024】
上記一般式(1)で表される化合物(A)において、カチオン成分は、下記一般式(1a)
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良い。)
で表されるN,N−ジアルキルピロリジニウムカチオンであり、また、アニオン成分は、下記一般式(1b)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、X、Yは各々独立して、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表し、また、X、Yの2つの基により環構造を形成していても良い。)
で表されるイミドアニオンである。
【0029】
また、上記一般式(2)で表される化合物(B)においては、カチオン成分は、下記一般式(2a)
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、R、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良い。)
で表されるN,N−ジアルキルピロリジニウムカチオンであり、また、アニオン成分は、下記式(2b)
【0032】
【化6】

【0033】
で示されるジフルオロ(オキサラト)ボレートである。
【0034】
上記一般式(1a)、一般式(2a)で表されるN,N−ジアルキルピロリジニウムカチオンにおいて、R〜Rとしては、各々独立して炭素数1〜4のアルキル基が選択される。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基を挙げることができる。
【0035】
上記一般式(1a)、一般式(2a)で表されるN,N−ジアルキルピロリジニウムカチオンとしては、具体的には、N,N−ジメチルピロリジニウム、N−メチル−N−エチルピロリジニウム、N−メチル−N−(n−)プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−(n−)ブチルピロリジニウム、N−エチル−(n−)プロピルピロリジニウム等が挙げられる。これらは、上記一般式(1)で表される化合物(A)又は上記一般式(2)で表される化合物(B)、それぞれにおいて単独で用いられる他、2種以上を組合せても良い。
【0036】
上記一般式(1b)で示されるイミドアニオンについては、X、Y、として各々独立して炭素数1〜4のフルオロアルキル基が選択され、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、(トリフルオロメチルスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、等が挙げられ、これらは単独で用いられる他、2種以上を組合せても良い。
【0037】
本発明のイオン性液体組成物に関し、上記一般式(1)で表される化合物(A)と、上記一般式(2)で表される化合物(B)の存在比率については、特に限定するものではないが、(A):(B)=99:1〜30:70(重量比)の範囲であることが好ましく、(A):(B)=90:10〜40:60(重量比)の範囲であることが特に好ましい。(B)が1重量部未満では電気伝導性への効果が見られない場合があり、また、70重量部を超えると溶融、相溶しない場合がある。
【0038】
本発明において、上記一般式(1)で表される化合物(A)としては、特に限定されるものではないが、電気化学的安定性及び電気伝導性の面から、単独で室温液状を呈するN−メチル−N−(n−)プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)が、上記一般式(2)で表される化合物(B)としては、特に限定するものではないが、単独で室温固体であるN−メチル−N−エチルピロリジニウム・ジフルオロ(オキサラト)ボレートが好ましいものとして挙げられる。すなわち、本発明のイオン性液体組成物としては、これらの化合物からなるイオン性液体組成物が特に好ましい。
【0039】
本発明のイオン性液体組成物は、室温領域において液状を示しており、また高い電気伝導性を示すことから、二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの電解質、電解液として使用することができる。また、本発明のイオン性液体を用いて電気化学デバイスを構成する場合、その基本構成要素としては、イオン伝導体、負極、正極、集電体、セパレーター及び容器等からなり、従来公知のものをそのまま使用できる。
【0040】
上記イオン伝導体としては、本発明のイオン性液体組成物そのものでの使用、数種類のイオン性液体を混合しての使用、リチウムのような特定のカチオンを必要とする場合は、特定のカチオンを有する電解質を本発明のイオン性組成物液体に溶解しての使用、さらにはイオン性液体組成物に一般の有機溶媒を混合して使用することも可能である。電解質として使用する際の、本発明のイオン性液体組成物の濃度については特に限定はないが、性能面から好ましくは0.1mol/l以上、より好ましくは0.5mol/l以上として使用する。さらに、該イオン性液体にゲル化剤やポリマーを添加することにより、擬固体化して使用することも可能である。
【0041】
上記イオン伝導体において使用される有機溶媒としては、本発明のイオン性液体組成物と混和し、二次電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスの作動電圧範囲で安定なものであれば特に限定されるものではないが、それらの中でも、誘電率が高く、低粘度であり、高沸点の溶媒が好適である。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用しても良いし、また2種以上混合して使用しても良い。
【0042】
本発明のイオン性液体組成物をリチウム二次電池の電解液として使用する際には、リチウム塩として、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムトリフルオロ硫酸、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、過塩素酸リチウム等が添加される。
【0043】
上記負極材料としては、特に限定するものではないが、リチウム電池の場合、リチウム金属やリチウムと他の金属との合金が使用される。また、リチウムイオン電池の場合、ポリマー、有機物、ピッチ等を焼成して得られたカーボンや天然黒鉛、金属酸化物等のインターカレーターと呼ばれる現象を利用した材料が使用される。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属、導電性ポリマー等が用いられる。
【0044】
上記正極材料としては、特に限定するものではないが、リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウム含有酸化物、TiO、V、MoO等の酸化物、TiS、FeS等の硫化物、又はポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子が使用される。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属酸化物、多孔質金属、導電性ポリマー等が用いられる。
【0045】
また本発明のイオン性組成物は有機合成用の反応溶媒、抽出、分離溶媒として用いてもよい。
【0046】
実施例
以下、本発明のイオン性液体組成物の電気化学デバイスとしての効果を、実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
粘度はEL型粘度計、電気伝導率は2端子交流インピーダンス法にて、いずれも25℃における値を測定した。また、酸化還元電位は、25℃において、飽和カロメル(SCE)電極を参照電極とし、作用電極、対極には白金電極を用いて、掃引速度50mV/sの条件でサイクリックボルタモグラフを測定することで求めた。
【0048】
実施例1
N−メチル−N−プロピルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとN−メチル−N−エチルピロリジニウム・ジフルオロ(オキサラト)ボレートを60:40の重量比で混合しイオン性液体組成物を得た。粘度は52mPa・sであり、電気伝導率は6.5mS/cm、酸化還元電位はそれぞれ、−3.2V、+2.8V(電位窓6.0V)であった。
【0049】
実施例2〜4
表1に示すようなイオン性液体組成物を調製し、粘度、電気伝導率、酸化還元電位を測定した。
【0050】
比較例1
本発明の一般式(1)に属するN−メチル−N−プロピルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド単独からなるイオン性液体の粘度、電気伝導率、酸化還元電位を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1は比較例1に比べ電気伝導率が高くなっていることがわかる。
【0051】
比較例2〜比較例5
表1に示すような溶融/非溶融塩の性状、融点、粘度、電導率、酸化還元電位を測定した。比較例2のように鎖状アンモニウムカチオンとジフルオロ(オキサラト)ボレートアニオンとの塩を用いると粘度が上昇し、良好な電気伝導性が得られない。また、比較例3のようにテトラフルオロボレートアニオンを用いた場合も粘度が上昇し、無添加の場合より電気伝導性は低下する。比較例4には代表的なイオン性液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボレートの性能を示しており、電気伝導性は優れるものの電気化学的安定性は実施例に比べ低いものとなっている。さらに、本発明の一般式(2)に属する比較例5に記載したN−メチル−N−エチルピロリジニウムは単独では室温付近で固体である。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のイオン性液体組成物は、室温付近で液状を呈し、高い電気伝導性を示すことから、二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスの電解質又は電解液として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、カチオンのR、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良く、アニオンのX、Yは各々独立して、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表し、また、X、Yの2つの基により環構造を形成していても良い。)
で表される化合物(A)、及び下記一般式(2)
【化2】

(式中、R、Rは各々独立して炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rの2つの基により環構造を形成しても良い。)
で表される化合物(B)からなることを特徴とするイオン性液体組成物。
【請求項2】
上記一般式(1)で表される化合物(A)と、上記一般式(2)で表される化合物(B)が、(A):(B)=99:1〜30:70(重量比)の範囲で含まれることを特徴とする請求項1記載のイオン性液体組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)で表される化合物(A)が、N−メチル−N−(n−)プロピルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン性液体組成物。
【請求項4】
上記一般式(2)で表される化合物(B)が、N−メチル−N−エチルピロリジニウム・ジフルオロ(オキサラト)ボレートであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のイオン性液体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のイオン性液体組成物を含んでなることを特徴とする電気化学用デバイス。

【公開番号】特開2006−196390(P2006−196390A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8737(P2005−8737)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】