説明

イオン注入装置および半導体装置の製造方法

【課題】 素子特性の劣化を防止できるイオン注入装置を提供すること。
【解決手段】 イオン注入装置は、主面を有する試料21が設置される試料台22と、複数のイオンを生成するためのイオン生成手段11であって、イオン源ガスが導入される容器、および、前記容器内に設けられ、熱電子を放出するフィラメントを含むイオン生成手段11と、前記複数のイオンを含むイオンビームを、試料21の主面中に注入するための注入手段13−19と、前記イオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、試料21の位置を制御するための制御手段23−25とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびイオン注入プロセスを含む半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターや通信機器の重要部分には、多数のトランジスタや抵抗などを電気回路として結び付け、1チップ上に集積化して形成した大規模集積回路(LSI)が多用されている。このため、機器全体の性能は、LSI単体の性能と大きく結びついている。LSI単体の性能向上は、集積度を高めること、すなわち、素子の微細化により実現できる。
【0003】
素子の微細化は、例えば、ソース/ドレイン拡散層などの拡散層の接合深さを浅くすることにより可能となる。接合深さを浅くするには、イオン注入およびその後に行われる熱処理工程(アニール)を最適化することにより可能となる。これにより、例えば、接合深さ0.2μm以下の浅いソース/ドレイン拡散層を有するMOSトランジスタを実現することが可能となる。
【0004】
このような浅い拡散層を不純物ドーピングで形成するためには、イオン注入の際に不純物原子を浅く分布させ、かつ、その後の熱処理で不純物原子が深く拡散しないように少ない熱予算を組むことが必要である。また、MOSトランジスタ等の素子が形成されるウェルや、MOSトランジスタのチャネルが誘起される領域(チャネルドーピング層)を不純物ドーピングで形成するためには、注入量を高精度に制御することが要求される。
【0005】
一方、素子の微細化、例えば、ゲート加工寸法縮小に伴い、ゲート電極のシャドウィング(shadowing)およびイオンビームの入射角のずれに起因して、ソース/ドレイン領域にオフセットが生じやすくなってきている。このようなオフセットにより、トランジスタ特性の非対称性が顕在化している。
【0006】
これまで、バッチ式高電流イオン注入機を用いた場合に生じる、トランジスタ特性の非対称性の原因は、コーン角である考えられている。そのため、α角とβ角を調整することにより、トランジスタ特性の非対称性を解消することが行われている(非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、α角とβ角を調整するだけは、必ずしも、トランジスタ特性の非対称性は解消されないというのが現状である。
【非特許文献1】Extended Abstracts of International Workshop on Junction Technology 2002, S2-3.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、素子特性の劣化を防止できるイオン注入装置および半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0010】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明に係るイオン注入装置は、主面を有する試料が設置される試料台と、複数のイオンを生成するためのイオン生成手段であって、イオン源ガスが導入される容器、および、前記容器内に設けられ、熱電子を放出するフィラメントを含むイオン生成手段と、前記複数のイオンを含むイオンビームを、前記試料の前記主面中に注入するための注入手段と、前記イオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記試料の位置または前記フィラメントから放出される電子の空間分布を制御するための制御手段とを具備してなることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、イオン源ガスが導入される容器、および、前記容器内に設けられ、熱電子を放出するフィラメントを含むイオン生成手段により、前記容器内に複数のイオンを生成する工程と、前記複数のイオンを含むイオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記試料の位置または前記フィラメントから放出される電子の空間分布を制御する工程と、試料台上に設置された試料の主面中に前記イオンビームを注入する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の上記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記載および添付図面によって明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、素子特性の劣化を防止できるイオン注入装置および半導体装置の製造方法を実現できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、縦型MOSトランジスタ1および横型MOSトランジスタ2が形成された半導体ウェハ3を模式的に示す図である。縦型MOSトランジスタ1および横型MOSトランジスタ2は、それぞれ、ゲート電極4およびソース/ドレイン拡散層5を備えている。縦型MOSトランジスタ1および横型MOSトランジスタ2のゲート長(チャネル長)は、65nm以下である。半導体ウェハ3は、例えばSiウェハである。
【0016】
本発明者等の研究によれば、ゲート長(チャネル長)が65nm以下になると、横型MOSトランジスタ2の特性の非対称性は顕著になり、さらに、α角とβ角を調整しても、横型MOSトランジスタ2の特性の非対称性は十分には解消されないことが明らかになった。
【0017】
このようなトランジスタ特性の非対称の原因を調べたところ、イオンビームの重心の偏心によって生じる、イオンビーム入射角のばらつきであることが判明した。さらに、イオンビームの重心の偏心は、イオン源チャンバー内のカソードフィラメントから放出された熱電子の空間分布に起因していると考えられる。
【0018】
本実施形態のイオン注入装置および半導体装置の製造方法は、上記原因を考慮したものである。図2は、本実施形態のイオン注入装置を模式的に示す図である。
【0019】
まず、イオン源チャンバ11で複数のイオンが生成され、これらの複数のイオンが引き出し電極12によって引き出され、ビーム状になる。さらに、上記複数のイオンは分離電磁石13によって質量分離される。上記イオンは、例えば、As+ ,B+ ,BF2+,P+ ,Ge+ ,Sb+ ,In+ ,Ga+ ,F+ ,N+ ,C+ ,BF+ およびこれらのクラスターイオンの中から選択されたものである。
【0020】
イオン源チャンバ11は、イオン源ガスが導入されるチャンバと、該チャンバ内に設けられ、電圧源(電力源)により電圧(電力)が印加されることにより、熱電子を放出するカソードフィラメントとを備えている。
【0021】
続いて、スリット14で完全に分離されたビーム状のイオン(イオンビーム)は、加速器15によって加減速または無負荷により、所定の最終エネルギーを持つように制御される。そして、イオンビームが四極レンズ16によって半導体ウェハ21の表面(主面)に収束点を持つように収束される。
【0022】
続いて、走査電極17,18により半導体ウェハ21の注入面全体で注入量が一様に分布されるようにイオンビームが走査される。残留ガスとの衝突などで生じる中性粒子を除去するために、イオンビームは偏向電極19により曲げられる。偏向電極19に曲げられたイオンビーム20は、ステージ22上の半導体ウェハ21中に注入される。
【0023】
本実施形態では、さらに、イオンビーム20の重心の偏心量を計測するための重心偏心計測機構23と、重心偏心計測機構23にて計測されたイオンビーム20の重心の偏心量に基づいて、イオンビーム20の重心の偏心の方向と半導体ウェハ21の表面に対して垂直な方向とが一致するように、ステージ22の3次元的な姿勢(位置)を変更するためのステージ駆動機構24とを備えている。
【0024】
ステージ駆動機構24は、例えば、XY軸またはXYZ軸方向にステージ22を高精度に駆動できる機構を備えたものである。該機構は各動作軸に対してゴニオを有している。重心偏心計測機構23は、図示しない移動機構により、計測時以外は、イオンビームライン上から外れた装置内に格納されるようになっている。
【0025】
なお、枚葉式のイオン注入装置の場合、ステージ駆動機構24は、通常のものと変わらない。一方、バッチ式のイオン注入装置、一般には、ステージ駆動機構24を備えておらず、備えていたとしても制御範囲が狭いので、専用のステージ駆動機構24を用意する必要がある。
【0026】
重心偏心計測機構23は、図3に示すように、二つのスリット26u,26dと、各スリット26u,26d下に設けられた電流検出機構27とを備えている。スリット26uは、マトリクス状(6×3)に配置された複数の開口部28を備えている。スリット26uにおいて、簡単のために、一つの開口部にしか参照符号28を付していない。同様に、スリット26dは、マトリクス状に配置された複数の開口部29を備えている。
【0027】
図4にスリット26u,26dの平面図、図5に図4の矢視方向から見たスリット26u,26dの断面図を示す。図4,図5に示すように、スリット26u,26dは同じスリットであり、スリット26uの開口部28下にスリット26dの開口部29が位置するように、スリット26u,26dは配置されている。したがって、開口部28内に垂直に入射したイオンは、開口部28下の開口部29内にも垂直に入射する。ここでは、開口部28,29の平面形状は矩形であるが、円形等の他の形状でも構わない。
【0028】
電流検出機構27は、X方向に一列に配列された複数のファラデーカップ27fを備えている。図3では、簡単のために、一つのファラデーカップにしか参照符号27fを付していない。電流検出機構27は図示しない走査機構によりY方向に走査されるようになっている。これにより、一行分の個数のファラデーカップ27fしかなくても、スリット26u,26dを通過したイオンビームの電流を検出することが可能となる。
【0029】
ここでは、X方向に一列に配列された複数のファラデーカップ27fを用いたが、図6に示すように、Y方向に一列に配列された複数のファラデーカップ27fを用いても構わない。この場合、電流検出機構27は図示しない走査機構によりX方向に走査される。あるいは、図7に示すように、1個のファラデーカップ27fを用いても構わない。この場合、電流検出機構27は、図7に示すように、図示しない走査機構によりXおよびY方向に走査される。
【0030】
次に、イオンビーム20の重心の偏心量の求め方について説明する。
【0031】
図8−図15は、本実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図である。
【0032】
図8は、重心の偏心量がゼロのイオンビーム20が、スリット25u,25dを通過する様子を模式的に示す図である。28a−28eおよび29a−29eは開口部を示している。スリット25uの開口部28bを通過したイオンビーム20は、そのまま、スリット25dの開口部29bを通過する。
【0033】
そのため、電流検出機構27にて検出される開口部28b下のイオンビーム20の電流量と開口部29b下のイオンビーム20の電流量とは略同じになる。
【0034】
このような計測結果の場合、イオンビーム20の飛行方向は、図9に示すように、半導体ウェハ21の表面(主面)に対して垂直な線(法線)と平行になると判断されるので、コントローラ25は、ステージ駆動機構24に、ステージ22の姿勢(位置)を調整するための指示を与えない。
【0035】
図10は、重心の偏心量がゼロでないイオンビーム20が、スリット25u,25dを通過する様子を模式的に示す図である。図10の場合、スリット25uの開口部28bを通過したイオンビーム20は、右下方向に飛行し、スリット25dの開口部29cを通過する。
【0036】
そのため、電流検出機構27にて検出される開口部28b下のイオンビーム20の電流量は、開口部29b下のイオンビーム20の電流量(ここでは略ゼロ)よりも大きくなり、かつ、開口部28c下のイオンビーム20の電流量(ここでは略ゼロ)は、開口部29c下のイオンビーム20の電流量よりも小さくなる。
【0037】
このような計測結果の場合、イオンビーム20の飛行方向は、図11に示すように、初期位置(破線位置)の半導体ウェハ21の法線と平行でないと判断される。そこで、ステージ駆動機構24は、図11に示すように、イオンビーム20の飛行方向と半導体ウェハ21の法線とが平行になるように、コントローラ25は、ステージ駆動機構24を制御する。すなわち、ステージ駆動機構24は、ステージ駆動機構24の指示により、イオンビーム20の飛行方向と半導体ウェハ21の法線とが平行になるように、ステージ22の姿勢(位置)を変更する。
【0038】
図8−図11では、簡単のため、イオンビーム20は、単一の重心の偏心量を有する一つのイオンビームを備え、該イオンビームがスリット中の一つの開口部を通る場合について説明した。ここでは、イオンビーム20は、互いに重心の偏心量が異なる二つのイオンビームを備え、これらの二つのイオンビームがそれぞれスリット中の別の開口部を通る場合について説明する。
【0039】
図12は、重心の偏心量がゼロのイオンビーム201 および重心の偏心量がゼロでないイオンビーム202 を含むイオンビーム20が、スリット25u,25dを通過する様子を模式的に示す図である。開口部28b内に入射するイオンビーム201 の電流量と開口部28c内に入射するイオンビーム202 の電流値とは略同じである。
【0040】
図12の場合、開口部28bを通過したイオンビーム201 は、そのまま、開口部29bを通過し、開口部28cを通過したイオンビーム202 は、右下方向に飛行し、開口部29dを通過する。
【0041】
そのため、電流検出機構27にて検出される開口部28b下のイオンビーム201 の電流量と開口部29b下のイオンビーム201 の電流量とは略同じになる。一方、電流検出機構27にて検出される開口部28c下のイオンビーム202 の電流量は、開口部29c下のイオンビーム202 の電流量(ここでは略ゼロ)よりも大きくなり、かつ、開口部28d下のイオンビーム202 の電流量(ここでは略ゼロ)は、開口部29d下のイオンビーム202 の電流量よりも小さくなる。
【0042】
ここで、図13に示すように、スリット25dを通過する前のスリット25uの開口部下におけるイオンビーム201 の電流量および飛行方向をそれぞれベクトルの大きさおよびベクトルの方向とする第1のベクトル201 V、同様に、イオンビーム202 の電流量および飛行方向をそれぞれベクトルの大きさおよびベクトルの方向とする第2のベクトル202 Vとする。第1のベクトルと第2のベクトルとの合成ベクトルの方向Dは、イオンビーム201 とイオンビーム202 とを含むイオンビーム20全体の飛行方向と考えることができる。すなわち、本実施形態では、イオンビーム201 ,202 の飛行方向を電流量で重み付して、イオンビーム20全体の飛行方向を算出している。
【0043】
図13に示すように、合成ベクトルの方向Dは、初期位置(破線位置)の半導体ウェハ21の法線と平行でないと判断される。そこで、ステージ駆動機構24は、図13に示すように、合成ベクトルの飛行方向Dと半導体ウェハ21の法線とが平行になるように、ステージ22の姿勢(位置)を変更する。
【0044】
図14は、重心の偏心量がゼロのイオンビーム201 および重心の偏心量がゼロでないイオンビーム202 が、スリット25u,25dを通過する様子を模式的に示す図である。イオンビーム201 の電流量はイオンビーム202 の電流量よりも大きく、開口部29b下のイオンビーム201 の電流量は、開口部29d下のイオンビーム202 の電流量よりも大きい。
【0045】
この場合、図15に示すように、合成ベクトルの方向Dは、初期位置(破線位置)の半導体ウェハ21の法線と平行でないと判断される。そこで、ステージ駆動機構24は、コントローラ25の指示により、図15に示すように、合成ベクトルの飛行方向Dと半導体ウェハ21の法線とが平行になるように、ステージ22の姿勢(位置)を変更する。
【0046】
以上の説明から、一般には、以下のように、ステージ22の姿勢(位置)を制御すれば良いことが分かる。すなわち、イオンビーム20がスリット25u内にn(≧1)個の開口部に入射する場合、各開口部を通るイオンビームの電流量をベクトルの大きさ、各開口部を通るイオンビームの方向をベクトルの方向とすると、各開口部を通るベクトルの合成ベクトルの方向が、半導体ウェハ21の法線とが平行になるように、ステージ22の姿勢(位置)を制御する。
【0047】
以上のようにしてステージ22の姿勢(位置)を制御してイオン注入を行ったところ、ゲート長(チャネル長)が65nm以下の横型MOSトランジスタ2の特性の非対称性(素子特性の劣化)は、十分に改善されることが確認された。
【0048】
従来技術の場合、上記非対称性は、加速エネルギーが3keV以下の場合、ドーズ量が1×1014cm-2以上の場合、あるいは加速エネルギーが3keV以下かつドーズ量が1×1014cm-2以上の場合の顕著になるが、本実施形態によれば、上記イオン注入条件のいずれの場合でも、上記非対称性は十分に抑制されていることが確認された。
【0049】
上記非対称性が十分に抑制された理由は、本実施形態のイオン注入装置およびイオン注入方法により、イオンビームの重心の偏心によって生じるイオンビーム入射角のばらつきが十分に改善されるからである。例えば、側面が略垂直に加工されたゲート電極の該側面とウェハ表面(主面)の法線とのなす角度のばらつきや、あるいは、絶縁膜中に形成され、側面が略垂直に加工された接続孔の該側面と該接続孔の底面の法線とのなす角度のばらつきよりも小さくできることが確認された。
【0050】
(第2の実施形態)
図16は、本発明の第2の実施形態に係るイオン注入装置を模式的に示す図である。また、図17は、本実施形態のイオン注入装置のイオン源チャンバの構成を模式的に示す図である。なお、図2と対応する部分には図2と同一符号を付してあり、詳細な説明は省略する。
【0051】
前述したように、イオンビームの重心の偏心は、イオン源チャンバー内のカソードフィラメントから放出された熱電子の空間分布に起因していると考えられている。そこで、本実施形態では、イオン源チャンバ11内の熱電子の空間分布37を制御することにより、イオンビーム20の重心の偏心を抑制する。以下、本実施形態についてさらに説明する。
【0052】
図17において、30はチャンバを示しており、チャンバ30の壁にはBF3 やAsF3 などのイオン源ガス31を導入するためのガス導入管32が設けられている。チャンバ30内には、図示しない電圧源(電力源)により電圧(電力)が印加されることにより、熱電子を放出するカソードフィラメント33を備えた放電装置34u,43dが設けられている。放電装置34uはチャンバ30内の上方に設けられ、放電装置34dはチャンバ30内の下方に設けられている。放電装置34uは駆動機構35により上下方向に移動できるようになっている。同様に、放電装置34dは駆動機構36により上下方向に移動できるようになっている。
【0053】
ガス導入管32からチャンバ30内にイオン源ガス31が導入された状態で、放電装置34u,34dにより放電を起こすことにより、BイオンやAsイオンなどのイオンが発生する。該イオンは引き出し電極12によって引き出される。
【0054】
本実施形態によれば、駆動機構35,36により、放電装置34u,34dの位置つまりカソードフィラメント33の位置を制御することにより、熱電子の空間分布37を制御できる。一方、イオンビームの重心の偏心量は、重心偏心計測機構23で計測できる。
【0055】
重心偏心計測機構23にて計測されたイオンビームの重心の偏心量は、コントローラ25に送られる。コントローラ25は、偏心量が所定値以下になるように、駆動機構35,36を制御する。このようなフィードバック制御を行うことにより、イオンビームの重心の偏心が十分に小さくなるように、熱電子の空間分布37を制御できる。
【0056】
以上のようにして熱電子の空間分布37を制御してイオン注入を行ったところ、ゲート長(チャネル長)が65nm以下の横型MOSトランジスタ2の特性の非対称性は、十分に改善されることが確認された。
【0057】
従来技術の場合、上記非対称性は、加速エネルギーが3keV以下の場合、ドーズ量が1×1014cm-2以上の場合、あるいは加速エネルギーが3keV以下かつドーズ量が1×1014cm-2以上の場合の顕著になるが、本実施形態によれば、上記イオン注入条件のいずれの場合でも、上記非対称性は十分に抑制されていることが確認された。
【0058】
上記非対称性が十分に抑制された理由は、本実施形態のイオン注入装置およびイオン注入方法により、イオンビームの重心の偏心によって生じるイオンビーム入射角のばらつきが十分に改善されるからである。例えば、側面が略垂直に加工されたゲート電極の該側面とウェハ表面(主面)の法線とのなす角度のばらつきや、あるいは、絶縁膜中に形成され、側面が略垂直に加工された接続孔の該側面と該接続孔の底面の法線とのなす角度のばらつきよりも小さくできることが確認された。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせても構わない。さらに、本発明は、MOSトランジスタのソース/ドレイン拡散層以外の拡散層にも適用できる。
【0060】
さらに、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0061】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】縦型MOSトランジスタおよび横型MOSトランジスタが形成された半導体ウェハを模式的に示す図。
【図2】実施形態のイオン注入装置を模式的に示す図。
【図3】実施形態のイオン注入装置の重心偏心計測機構を模式的に示す図。
【図4】実施形態のイオン注入装置の重心偏心計測機構のスリットを示す平面図。
【図5】実施形態のイオン注入装置の重心偏心計測機構のスリットを示す断面図。
【図6】実施形態のイオン注入装置の重心偏心計測機構の電流検出機構の変形例を説明するための図。
【図7】実施形態のイオン注入装置の重心偏心計測機構の電流検出機構の他の変形例を説明するための図。
【図8】実施形態のイオン注入装置のステージの調整方法を説明するための図。
【図9】実施形態のイオン注入装置のステージの調整方法を説明するための図。
【図10】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図11】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図12】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図13】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図14】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図15】実施形態のイオン注入装置のステージ22の調整方法を説明するための図。
【図16】実施形態のイオン注入装置を模式的に示す図。
【図17】実施形態のイオン注入装置のイオンチャンバを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0063】
11…イオン源チャンバ、12…引き出し電極、13…分離電磁石、14…スリット、15…加速器、16…四極レンズ、17…走査電極、18,19…走査電極、20,201 …イオンビーム、21…半導体ウェハ、22…ステージ、23…重心偏心計測機構、24…ステージ駆動機構、25…コントローラ、26u,26d…スリット、27…ファラデーカップ、28,28a〜28e,29,29a〜29e…開口部、30…チャンバ、31…イオン源ガス、33…カソードフィラメント、34u,34d…放電装置、35…駆動機構、36…駆動機構、37…熱電子の空間分布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する試料が設置される試料台と、
複数のイオンを生成するためのイオン生成手段であって、イオン源ガスが導入される容器、および、前記容器内に設けられ、熱電子を放出するフィラメントを含むイオン生成手段と、
前記複数のイオンを含むイオンビームを、前記試料の前記主面中に注入するための注入手段と、
前記イオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記試料の位置または前記フィラメントから放出される電子の空間分布を制御するための制御手段と
を具備してなることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記試料の位置を制御するための前記制御手段は、
前記試料台の位置を変更するための変更手段と、
前記試料の前記主面中に前記イオンビームが注入される前に、前記イオンビームの重心の偏心方向を計測するための計測手段と、
前記計測手段にて計測された前記イオンビームの重心の偏心方向に基づいて、前記イオンビームの重心の偏心方向と前記試料の前記主面の法線方向とが一致するように、前記変更手段を制御する制御手段と
を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記試料の位置を制御するための前記制御手段は、
前記試料台の位置を変更するための変更手段と、
前記イオンビームが照射され、複数の開口部を有する第1のスリットと、
前記第1のスリットの下方に設けられ、前記第1のスリットを通過したイオンビームが照射される、複数の開口部を有する第2のスリットと、
前記第1のスリットを通過し、かつ、前記第2のスリットを通過する前の、前記第1のスリットの前記複数の開口部下の前記イオンビームの電流量を計測し、かつ、前記第2のスリットを通過し、前記試料の前記主面中に注入される前の、前記第2のスリットの前記複数の開口部下の前記イオンビームの電流量を計測するための計測手段と、
前記計測手段にて計測された前記第1および第2のスリットの前記複数の開口部下のイオンビームの電流値に基づいて、前記第1のスリットの前記複数の開口部のそれぞれについて、前記開口部を通過したイオンビームの電流値およびビーム方向をそれぞれベクトルの大きさおよび方向とするベクトルを算出し、算出したベクトルの和を前記イオンビームの重心の偏心方向とし、該記イオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記変更手段を制御する制御手段と
を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記フィラメントから放出される電子の空間分布を制御するための前記制御手段は、
前記フィラメントの位置を変更させるための変更手段と、
前記試料の前記主面中に前記イオンビームが注入される前に、前記イオンビームの重心の偏心方向を計測するための計測手段と、
前記計測手段にて計測された前記イオンビームの重心の偏心方向に基づいて、前記イオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記変更手段を制御する制御手段と
を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
イオン源ガスが導入される容器、および、前記容器内に設けられ、熱電子を放出するフィラメントを含むイオン生成手段により、前記容器内に複数のイオンを生成する工程と、
前記複数のイオンを含むイオンビームの重心の偏心方向と前記主面の法線方向とが一致するように、前記試料の位置または前記フィラメントから放出される電子の空間分布を制御する工程と、
試料台上に設置された試料の主面中に前記イオンビームを注入する工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−19048(P2006−19048A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193034(P2004−193034)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】