説明

イオン注入装置用カーボン部材の製造方法

【課題】半導体素子の作成時における粒子の飛散および不純物の混入を安定して抑制することができ、高い曲げ強度を有するイオン注入装置用カーボン部材を、簡便かつ低コストに製造することができる方法を提供する。
【解決手段】モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にすることを特徴とするイオン注入装置用部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置用カーボン部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターに代表される情報機器の発展に伴い、それらの機器の主要構成デバイス(素子)となるIC、LSI等の半導体集積回路には集積度の向上が一層強く要求されるようになってきている。
半導体素子の製造時には、性能確保の面から原料はもとより製造工程段階においても不純物の混入を極度に嫌うため、クリーンルームのような清浄環境下で作業が進められる。製造装置についても不純物の発生がないことが重要であり、その構成部材は半導体素子に対して影響を与える成分を含まない高純度性が要求される。
【0003】
半導体素子を製造する上で重要な工程として、イオン注入工程がある。この工程は、シリコン基板中に目的とする元素を高エネルギーでイオン化し、数十〜数百eVのエネルギーに加速して導入する段階であるが、操作過程で不純物が介在していると、シリコン基板中に目的元素以外の成分がドープされるため所望の性能を確保できなくなる。とくに鉄、銅、バナジウム等の金属元素、硫黄のような陰性元素の混入は避けなければならない。
【0004】
イオン注入装置は、通常、ドープする元素のイオンを生成するためのイオン源、生成したイオンをイオン源から引き出すのに必要なエネルギーを与える引出し部、引き出したイオンから必要なイオンを選別する質量分析部、イオンを加速する加速部、イオンビームを収束する収束部、イオンビームをシリコンウエハー上に均一に走査するための走査部、およびウエハーにイオンを注入する注入室とから構成されている。
そして、イオン注入装置においては、得ようとする半導体素子の高純度性を保持するために、イオン注入装置を構成する各部材の材質や装置構造上、種々の配慮がなされているが、中でもイオン源と注入室は高エネルギーのイオンビームに暴露されるために、イオンビームのスパッタリングによって装置構成部材から不純物が発生し易く、イオン注入装置の他の部位に比べて一層の純度配慮が必要とされる。
【0005】
このため、従来より、イオン源におけるスリット等のイオンビーム通路用部材や、注入室におけるイオンビームあるいはシリコンウエハーと接触するウエハー支持用クランプ材等の部材の構成材料として黒鉛材料が有用されており、この黒鉛材料によれば、イオンビームのスパッタリングによる影響を抑制することができ、高純度な半導体素子を比較的容易に得ることができるとされている。
【0006】
ところが、その後の開発によって、組織的に微細な粒子の集合体である黒鉛材料は、スパッタリングされた際に微細な粒子を飛散する現象を生じ、この現象が発生すると、黒鉛中に僅かに含有される鉄、カルシウム、バナジウム等の不純物がシリコンウエハーに混入して、結果的に得られる半導体素子の性能ならびに歩留りを著しく損ねることが判明した。
【0007】
このような状況下、イオンビームのスパッタリングによる影響を受け難いイオン注入装置用部材として、ガラス状炭素からなるものが検討されたこともあったが、ガラス状炭素からなるイオン注入装置用部材は、製造工程が複雑で製造コストが高いことに加えて、素材そのものが硬いために加工が困難なものであった。
【0008】
一方、特許文献1(特開平8−171833号公報)においては、黒鉛からなる基材の表面に熱分解炭素被膜を形成してなるイオン注入装置用カーボン部材が提案され、また、特許文献2(特開2003−17435号公報)においては、等方性黒鉛からなる基材の表面にガラス状炭素被膜を設けたイオン注入装置用部材が提案されており、これ等のイオン注入装置用カーボン部材においては、粒子の飛散および半導体素子への不純物の混入を防止し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−171833号公報
【特許文献2】特開2003−17435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献1記載のイオン注入装置用カーボン部材は、基材表面に設けられた熱分解炭素被膜がイオンビームによりエッチングされ、消耗する結果、黒鉛基材が露出して粒子が飛散してしまうものであることが判明した。また、特許文献2記載のイオン注入装置用カーボン部材は、その製法上、基材の表面にガラス状カーボンを均一に形成し難いことから、ガラス状カーボンが被覆されない部分から粒子が飛散したり、ガラス状カーボンの被覆が薄い部分がイオンビームによりエッチングされ黒鉛基材が露出する結果、同様に粒子が飛散してしまい、ガラス状カーボンを被覆する効果が得られ難いことが判明した。
【0011】
このような状況下、本発明は、半導体素子の作成時における粒子の飛散および不純物の混入を安定して抑制することができ、高い曲げ強度を有するイオン注入装置用カーボン部材を、簡便かつ低コストに製造することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術課題を解決するために本発明者がさらに検討したところ、モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.5質量%以下であるノボラック型フェノール樹脂の分散液または灰分が0.5質量%以下であるレゾール型フェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にすることによってイオン注入装置用部材を製造することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、
灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、
乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、
該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、
得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にする
ことを特徴とするイオン注入装置用部材の製造方法、
(2)前記粉砕を、粒径0.3mm以下の成形粉が得られるように行う上記(1)に記載のイオン注入装置用部材の製造方法、
(3)前記熱圧成形を、150〜280℃の温度条件下、5〜30MPaの加圧下に行う上記(1)または(2)に記載のイオン注入装置用部材の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原料としてモザイク状コークスを黒鉛化してなる黒鉛粉末とフェノール樹脂との混合材料を用いていることから、得られるイオン注入装置用部材において粒子の脱落を生じ難く、また、上記混合材料からなる成形粉を作製した後、所望の嵩密度を満たす成形体が得られるように熱圧成形し、焼成した後、高純度化処理することによって、灰分(不純物)の含有量を効率的に低減するとともに、イオンビームの侵入を効果的に抑制して、半導体素子作成時における不純物の混入を安定して抑制することができるイオン注入装置用カーボン部材を、高い曲げ強度を付与しつつ簡便かつ低コストに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法は、モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にすることを特徴とするものである。
【0016】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、原料として、モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末が用いられる。
上記炭素材料はモザイク状コークスを65〜100質量%含むものであり、70〜100質量%含むものであることがより好ましく、80〜100質量%含むものであることがさらに好ましく、モザイク状コークスのみからなることがより一層好ましい。
モザイク状コークスとは、組織を構成する光学的異方性組織がニードルコークスのように大きく成長したものではなく、マトリックス中に細かく分散したコークスを意味する。
【0017】
モザイク状コークスを含む炭素材料の黒鉛化は、モザイク状コークスを、必要に応じて、ニードルコークス等の他のコークス類や、タールやピッチ類、樹脂などのバインダー材料と混合した後、不活性雰囲気中、適宜、鉄、ニッケル、ホウ素、ケイ素などの元素やそれらの元素の酸化物、炭化物、窒化物等の触媒存在下において、およそ500〜2000℃で焼成することにより行うことができ、さらに必要に応じて粉砕して粒径を調整してから、およそ2500〜3200℃の温度範囲で焼成することにより行うことができる。粉末中の金属不純物の量を低減し、灰分量を抑制するという観点からは、上記触媒の量は可能な限り抑制することが好ましい。
【0018】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記の方法により得た黒鉛粉末を用いてもよいし、モザイク状コークスを主原料として作製された等方性黒鉛の粉砕品や加工屑等をさらに粉砕したり篩分けしたものを用いてもよい。
【0019】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、モザイク状コークスを含む炭素材料を黒鉛化してなる黒鉛粉末は、灰分含有量が1000質量ppm以下であり、500質量ppm以下であることが好ましく、250質量ppm以下であることがより好ましい。
黒鉛粉末中の灰分含有量が1000質量ppm以下であることにより、後述する高純度化処理によって、金属不純物等の灰分を効果的に除去して、得られるイオン注入装置用部材中における灰分の量を容易に20質量ppm以下に制御することができる。
上記黒鉛粉末の灰分含有量は、JIS K2272に規定される方法により測定することができる。
【0020】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、モザイク状コークスを含む炭素材料を黒鉛化してなる黒鉛粉末は、平均粒子径が5〜100μmであり、10〜80μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。
【0021】
上記黒鉛粉末の平均粒子径が5μm未満であると、後述する熱圧成形時における流動性を向上させるために、以下に詳述するフェノール樹脂の混合割合を増加させる必要があるが、フェノール樹脂の混合量を増加させると、金属不純物等の灰分を比較的多量に含む黒鉛粉末粒子の表面を樹脂が被覆してしまうことから、最終工程である高純度化処理工程において、黒鉛粉末中の灰分を充分に除去できなくなる。
また、上記黒鉛粉末の平均粒子径が100μmを超えると、得られるイオン注入装置用部材の気体透過度が例えば1.0cm/秒以上と大きくなり、半導体素子の作製時にイオンビームがイオン注入装置用部材に侵入し易くなって、部材が消耗し易くなる上に、上記黒鉛粉末の平均粒子径が100μmを超えると、得られるイオン注入装置用部材の表面粗さが、例えばRa3.5μm超と大きくなり、半導体素子の作製時に高エネルギーのイオンビームがカーボン部材表面の凸部に接触又は衝突し易くなって、機械的衝撃による欠け(粒子)を発生し易くなる。加えて、上記黒鉛粉末粒子の平均粒子径が100μmを超えると、最終工程である高純度化処理工程が、ハロゲン含有ガスの固層拡散によって行われることから、ハロゲン含有ガスが黒鉛粉末粒子の内部まで到達する迄に時間を要し、ハロゲン含有ガスの拡散効率が低下してしまう。
【0022】
なお、本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、上記黒鉛粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を意味する。
【0023】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記黒鉛粉末とともに、原料として、灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂の分散液を用いる。
灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂としては、灰分が0.5質量%以下であるノボラック型フェノール樹脂の分散液または灰分が0.5質量%以下であるレゾール型フェノール樹脂の分散液を挙げることができる。
【0024】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを付加縮合反応させてなるものであって、ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒存在下で縮合反応させてなるものであり、レゾール型フェノール樹脂はフェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で縮合反応させてなるものである。
【0025】
上記フェノール類としては、フェノールや、クレゾール等の(アルキル)フェノール類や、レゾルシノール、カテコール等の芳香族ジオールや、ビスフェノールA等のビスフェノール類を挙げることができ、上記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキザール等を挙げることができる。
【0026】
また、上記酸触媒としては、蓚酸、サリチル酸等の有機酸や、塩酸、硫酸などの無機酸や、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、蟻酸亜鉛などの2価金属塩や、上記有機酸と2価金属塩とを組み合わせたもの等を挙げることができ、アルカリ触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等や、アミン類、アンモニア等を挙げることができる。
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、灰分量が抑制されたフェノール樹脂を使用することが好ましいことから、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂としては、灰分である金属系触媒を可能な限り含有しないものが好ましい。
【0027】
ノボラック型フェノール樹脂は、通常常温(20℃)で固形状であり、本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においても、常温で固形状のものを使用することが好ましい。
レゾール型フェノール樹脂は、通常常温(20℃)で液状であることが多いが、本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、高分子量化させた常温で固形状のものを使用することが好ましい。
【0028】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、フェノール樹脂の灰分は、0.5質量%以下であり、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
フェノール樹脂の灰分が0.5質量%以下であることにより、後述する高純度化処理によって、金属不純物等の灰分を効果的に除去して、得られるイオン注入装置用部材中における灰分の量を容易に20質量ppm以下に制御することができる。
上記フェノール樹脂の灰分含有量は、JIS K2272に規定される方法により測定することができる。
【0029】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、フェノール樹脂は、分散液の状態で黒鉛粉末と混合する。
上記分散液を形成する溶媒としては、フェノール樹脂と反応性を有さないものであれば特に制限されず、例えば、アセトン等を用いることができる。
【0030】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、上記分散液中におけるフェノール樹脂の濃度は、40〜70質量%であることが適当である。
【0031】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、フェノール樹脂の分散液は、さらに硬化剤を含んでもよい。
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂である場合、硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類や、レゾール型フェノール樹脂等を挙げることができる。
また、フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂である場合、常温で固形状のものを用いる場合には、後述する熱圧成形時に加熱するだけで硬化することから特に硬化剤を配合する必要はないが、得られるイオン注入装置用部材の灰分を20質量ppm以下に抑制し得る限りにおいて、硬化剤として、必要に応じてp−トルエンスルホン酸等の有機酸やリン酸等の無機酸を配合してもよい。
硬化剤の配合量は、フェノール樹脂の硬化時間が後述する熱圧成形時の成形条件に適したものになるように適宜調整することが好ましい。
【0032】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記黒鉛粉末100質量部に対し、上記フェノール樹脂の分散液を、フェノール樹脂の固形分換算で20〜100質量部混合する。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、フェノール樹脂の分散液を、固形分換算で25〜70質量部混合することが好ましく、30〜50質量部混合することがより好ましい。
【0033】
上記黒鉛粉末100質量部に対する、フェノール樹脂の配合量が固形分換算で20質量部未満であると、後述する熱圧成形時に成形材料の流動性が低下して均質な成形体を得難くなるとともに、得られる成形体に密度差を生じ易くなり(組織不良を生じ易くなり)、また、得られる成形体の強度が低くなるため、得られるイオン注入装置部材の使用時に、密度の低い部分がイオンビームによって選択的にスパッタリングを受けて消耗し、粒子や不純物を発生し易くなる。
【0034】
上記黒鉛粉末100質量部に対する、フェノール樹脂の配合量が固形分換算で100質量部を超えると、後述する熱圧成形時において成形性は向上するが、成形物が緻密になりすぎるため、成形時にガス抜け性が低下して膨れを生じたり、熱圧成形後の焼成工程において割れや膨れを生じ易くなるほか、焼成処理後の高純度化処理工程において、ハロゲン含有ガスが成形体内部まで到達し難いため成形体内部に金属不純物(灰分)が残存し易くなる。内部に金属不純物が残存していると、得られるイオン注入装置用部材の使用時に、該部材がイオンビームにより消耗されたときに内部に残存した金属不純物が露出し、半導体素子に混入し易くなる。
【0035】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、上記黒鉛粉末と上記フェノール樹脂の分散液との混合は、例えば、上記黒鉛粉末に対して上記フェノール樹脂の分散液を添加した後、ニーダー、加圧型ニーダー、2軸スクリュー式混練機等の混練機により十分に混練することにより行うことができる。
【0036】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記混合処理により得られた混合物を、乾燥、粉砕して成形粉を作製する。
上記乾燥する方法は、混合物中に含まれる溶剤を除去し得る限り特に制限されず、風乾であってもよいし、真空乾燥等の強制乾燥であってもよい。
【0037】
また、上記粉砕処理方法も、特に制限されず、粒径0.3mm以下の成形粉が得られるように粉砕することが適当であり、0.1〜0.3mmの成形粉が得られるように粉砕することがより適当である。
粒径0.3mm以下の成形粉が得られるように上記粉砕を行うことにより、後述する熱圧成形時における成形性を向上させることができる。
上記粒径を有する成形粉は、衝撃式粉砕機などにより粉砕処理し、粉砕処理後に分級することにより作製することができる。分級方法は特に制限されないが、所定の目開き篩をセットした振動篩等で篩い分けすることにより分級することができる。
【0038】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記成形粉を、嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形する。
【0039】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、熱圧成形は、得ようとするイオン注入装置用部材の形状に対応する成形面を有する上下一対の成形型中に上記成形粉を充填し、加熱下にモールド成形することにより行うことが好ましい。
【0040】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、所定の成形面を有する金型に直接成形粉を充填して熱圧成形してもよいが、得られる成形体の密度差を低減するために上記成形粉を得ようとするイオン注入装置用部材に対応する形状に予備成形した後、熱圧成形することが好ましい。
上記予備成形は、上記成形粉を所定の金型に装入し、樹脂の融点前後の温度条件下に、1〜3MPaの圧力を加えながら行うことが好ましい。
【0041】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、熱圧成形は、嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ行うものであり、嵩密度が1.3〜1.7g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ行うことが好ましく、嵩密度が1.4〜1.65g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ行うことがさらに好ましい。
【0042】
成形体の嵩密度が1.2g/cm未満となるように熱圧成形した場合、得られるイオン注入装置用部材を装置に取り付ける際に欠けを生じ易くなる。また、得られるイオン注入装置用部材を構成する黒鉛粉末とフェノール樹脂の炭化物との結合力が十分でないことから、粒子の脱落を生じたり、イオン注入装置用部材の気体透過度が大きくなり、半導体素子の作製時にイオンビームがイオン注入装置用部材に侵入し易くなって、部材が消耗し易くなる。その上、得られるイオン注入装置用部材の表面粗さRaが3.5μmを超えてしまい、半導体素子の作製時に高エネルギーのイオンビームがカーボン部材表面の凸部に接触又は衝突し易くなって、機械的衝撃による欠け(粒子)を発生し易くなる。
【0043】
成形体の嵩密度が1.75g/cmを超えるように熱圧成形した場合、後処理である高純度化処理が、ハロゲン含有ガスの固層拡散によって行われることから、成形体内部までハロゲン含有ガスを拡散することができず、金属不純物(灰分)が残存する結果、半導体素子の作製時にイオン注入装置用部材がイオンビームに晒されると不純物を生じ易くなる。
【0044】
上記嵩密度を有する成形体を得る上で、熱圧成形は、フェノール樹脂の硬化温度以上の温度で行うことが好ましく、具体的には、150〜280℃の温度条件下で行うことが適当であり、160〜220℃の温度条件下で行うことがさらに適当であり、170〜200℃の温度条件下で行うことが一層適当である。
また、上記嵩密度を有する成形体を得る上で、熱圧成形は、5〜30MPaの加圧下に行うことが好ましく、10〜25MPaの加圧下に行うことがより好ましく、15〜20MPaの加圧下に行うことがさらに好ましい。
加圧時間は90〜600秒であることが適当であり、120〜420秒であることがより適当であり、150〜300秒であることが適当である。
具体的には、上記温度下に保持された成形型中に上記成形粉または上記予備成形体を装入し、面圧が上記圧力になるように加圧することにより熱圧成形することができる。
【0045】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記熱圧成形によって、得られる成形体の嵩密度を所望範囲に調整するとともに、熱圧成形材料を構成するフェノール樹脂を硬化させ、成形体の形状を得ようとするイオン注入装置用部材に対応した形状にすることができる。
【0046】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記熱圧成形によって得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理する。
熱圧成形処理時に成形材料を構成するフェノール樹脂の硬化が十分に行われていない場合には、予め180〜280℃の温度条件下で硬化処理して充分に樹脂を硬化させた後、焼成処理することが好ましい。
【0047】
不活性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、真空雰囲気、希ガス雰囲気等を挙げることができる。
焼成処理時の温度条件は、熱圧処理して得られた成形体を充分に黒鉛化し得るものであれば特に制限されず、上記不活性ガス雰囲気中で800℃以上に加熱して行うことが好ましく、800〜1500℃に加熱して行うことがより好ましい。また、必要に応じて2000℃以上の高温で黒鉛化処理することが好ましい。
焼成時間は、上記成形体を充分に黒鉛化し得る時間であれば特に制限されないが、2〜10時間であることが適当であり、3〜8時間であることがより適当であり、4〜6時間であることがさらに適当である。
【0048】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法においては、上記焼成処理によって得られた焼成物を、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にする。
【0049】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法において、ハロゲン含有ガスとしては、塩素ガス、塩化水素ガス、フロンガス等を挙げることができ、ハロゲン含有ガスは、純度が99%以上の高純度のものが好ましい。
また、高純度化処理は、1500〜2500℃の加熱下に行うことが好ましく、1800〜2300℃の加熱下に行うことがより好ましく、2000〜2200℃の加熱下に行うことがさらに好ましい。
高純度化処理時間は、3〜48時間が適当であり、4〜30時間がより適当であり、5〜24時間がさらに適当である。
【0050】
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法における高純度化処理は、上記焼成処理により得られた焼成物中の金属不純物等の灰分を加熱し、蒸気圧の高いハロゲン化物に転化して揮散除去することにより行うことが好ましく、この高純度化処理により成形体中の灰分を20質量ppm以下する。
本発明のイオン注入装置用部材の製造方法における高純度化処理により、成形体中の灰分を10質量ppm以下にすることが好ましく、5質量ppm以下にすることがより好ましい。
【0051】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材は、灰分が20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下であることにより、半導体素子の作製に用いたときであっても、不純物の混入を安定して抑制することができる。
なお、上記灰分は、JIS K2272の規定により求めることができる。
【0052】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.2〜1.75g/cmであることが好ましく、1.3〜1.7g/cmであることがより好ましく、嵩密度が1.4〜1.65g/cmであることがさらに好ましい。
上記イオン注入装置用部材の嵩密度は、熱圧成形時における加圧条件を制御することにより調整することができる。
【0053】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材の嵩密度が1.2〜1.75g/cmであることにより、イオン注入装置用部材として十分な強度を発揮して、粒子の脱落を抑制することができ、また、半導体素子の作製時におけるイオンビームの侵入を抑制するとともに、表面粗さRaを低減して、高エネルギーのイオンビームの衝突による欠け(粒子)の発生を抑制することができる。
【0054】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材は、気体透過度が0.01〜1.0cm/秒であることが好ましく、0.1〜0.9cm/秒であることがより好ましく、0.2〜0.7cm/秒であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材の気体透過度が0.01〜1.0cm/秒であることにより、半導体素子の作製時にイオンビームがイオン注入装置用部材に侵入し難くなって、部材の消耗を抑制することができる。
上記イオン注入装置用部材の気体透過度は、原料に用いる上記黒鉛粉末の平均粒子径や熱圧成形時における加圧条件を制御することにより調整することができる。
なお、イオン注入装置用部材の気体透過度は、後述する方法により測定することができる。
【0056】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材は、表面粗さRaが0.5〜3.5μmであることが好ましく、1.0〜3.0μmであることがさらに好ましい。
イオン注入装置用部材の表面粗さRaは、黒鉛粉末の平均粒子径や熱圧成形時における加圧条件を制御することにより調整することができる。
【0057】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材の表面粗さRaが0.5〜3.5μmであることにより、半導体素子の作製の供したときに、高エネルギーのイオンビームがカーボン部材表面の凸部に接触又は衝突し難くなって、機械的衝撃による欠け(粒子)の発生を抑制することができる。
なお、イオン注入装置用部材の表面粗さRaは、JIS B0601の規定により求めることができる。
【0058】
本発明の製造方法で得られるイオン注入装置用部材は、曲げ強度が30MPa以上であることが好ましい。
イオン注入装置用部材の曲げ強度は、黒鉛粉末に対するフェノール樹脂の配合量を制御したり、熱圧成形時における加圧条件を制御することにより、調整することができる。
なお、イオン注入装置用部材の曲げ強度は、JIS K6911の熱硬化性プラスチック一般試験方法に関する規格の曲げ試験方法に準拠して3点曲げ試験を行うことにより測定することができる。
【0059】
本発明の製造方法によれば、半導体素子の作成時における粒子の飛散および不純物の混入を安定して抑制することができ、高い曲げ強度を有するイオン注入装置用カーボン部材を、簡便かつ低コストに製造することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、黒鉛粉末の平均粒子径、灰分、嵩密度、表面粗さRa、気体透過度、曲げ強度は以下の方法により測定したものである。
【0061】
(黒鉛粉末の平均粒子径)
レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD−2100)を用い、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を求め、これを平均粒子径とした。
【0062】
(灰分)
JIS K2272「原油及び石油製品−灰分及び硫酸灰分試験方法」に従って、775±25℃にて試料を完全に灰化し、次式によって灰分を求めた。
灰分(質量%)={(m1−m2)/S }×100
(但し、m1はルツボと灰化後の試料の質量(g)、m2はルツボの質量(g)、Sは灰化前の試料の質量(g)である。)
なお、後述する実施例および比較例においては、上記灰分含有量の単位を質量%から質量ppmに換算して表記している。
【0063】
(嵩密度)
対象物の質量(g)と、その幅(cm)、長さ(cm)、厚さ(cm)から以下の式で算出した。
嵩密度(g/cm)=質量/(幅×長さ×厚さ)
【0064】
(表面粗さRa)
電子式表面粗さ計(ミツトヨ(株)製 サーフテスト タイプ201)を用い、JIS B0601に従って平均粗さRa(μm)を測定した。
【0065】
(気体透過度)
厚さ0.2cmの試片板の透過断面積を差圧400×10−3atm で窒素ガスを透過させた場合における時間当たりのガス透過量を測定し、下式によって気体透過度を算出した。
気体透過度(cm/秒) = V×H /(S×T×P)
但し、Vは窒素ガス流量(cm・atm)、Hは試片板の厚さ(cm)、Sは透過断面積(cm) 、Tは透過時間(秒) 、Pは差圧(atm) である。
【0066】
(曲げ強度)
JIS K6911の熱硬化性プラスチック一般試験方法に関する規格の曲げ試験方法に準拠して3点曲げ試験を行うことにより、曲げ強度Stb(MPa)を測定した。
【0067】
(実施例1)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が147質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.002質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4326)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加え、常温(20℃)下、二軸ニーダー((株)日本製鋼所社製TEX30α)を用いて回転数362rpmで60分間混練した。
得られた混練物は、室温下で16時間風乾してアセトンや揮発性成分を除去した後、粉砕処理し、所定の目開き篩をセットした振動篩で分級することにより粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のキャビティを有する成形金型中に投入し、190℃の温度条件下、20MPaで240秒間熱圧成形することにより、1.55g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体は、温度が常温になるまで所定時間静置した後、窒素雰囲気中で1000℃の温度条件下5時間加熱することにより焼成処理を行った。
上記焼成処理により得られた焼成物は、高純度(純度99%)の塩素ガス雰囲気中で2000℃の温度条件下10時間高純度化処理を行うことにより、灰分が5質量ppm未満で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.58g/cm、表面粗さRaが2.5μm、気体透過度が0.32cm/秒、曲げ強度が33MPaであるものであった。
【0068】
(実施例2)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が870質量ppmで、平均粒子径が6μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.003質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4357)を100質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が60質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で100質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.25g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が14質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.27g/cm、表面粗さRaが0.8μm、気体透過度が0.05cm/秒、曲げ強度が35MPaであるものであった。
【0069】
(実施例3)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が126質量ppmで、平均粒子径が95μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.03質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−2320)を20質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で20質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を25MPaに変更した以外は実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.64g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が5質量ppm未満で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.63g/cm、表面粗さRaが3.4μm、気体透過度が0.88cm/秒、曲げ強度が31MPaであるものであった。
【0070】
(実施例4)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が370質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.33質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PG−2411)を50質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が55質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で50質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を5MPaに変更した以外は実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.35g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が5質量ppm未満で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.39g/cm、表面粗さRaが3.0μm、気体透過度が0.53cm/秒、曲げ強度が32MPaであるものであった。
【0071】
(実施例5)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が268質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.31質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PG−2403)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を30MPaに変更した以外は実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.70g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が7質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.60g/cm、表面粗さRaが3.1μm、気体透過度が0.12cm/秒、曲げ強度が37MPaであるものであった。
【0072】
(実施例6)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が432質量ppmで、平均粒子径が20μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.04質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4357)を50質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が60質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で50質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を10MPaに変更した以外は実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.40g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が5質量ppm未満で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.45g/cm、表面粗さRaが2.5μm、気体透過度が0.23cm/秒、曲げ強度が38MPaであるものであった。
【0073】
(実施例7)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)の含有割合が85質量%、ニードルコークス(三菱化学(株)製)の含有割合が15質量%である炭素材料を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が240質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.002質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4326)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.60g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が8質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.62g/cm、表面粗さRaが2.8μm、気体透過度が0.28cm/秒、曲げ強度が32MPaであるものであった。
【0074】
(実施例8)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)の含有割合が70質量%、ニードルコークス(三菱化学(株)製)の含有割合が30質量%である炭素材料を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が258質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.002質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4326)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.62g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が15質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.63g/cm、表面粗さRaが2.9μm、気体透過度が0.25cm/秒、曲げ強度が31MPaであるものであった。
上記実施例の内容を表1および表2にあわせて記載する。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例1〜8においては、モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.5質量%以下であるノボラック型フェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にすることにより、いずれの例においても成形性がよくイオン注入装置用部材を作製することができた。
また、得られたイオン注入装置用部材は、表1および表2に示すように、灰分が20質量ppm以下に抑制され、表面粗さが0.8〜3.1μmと小さく、気体透過度が0.05〜0.88cm/gと低く、曲げ強度が31〜38MPaと大きいものであり、イオン注入装置用部材として好適に使用し得るものであった。
【0078】
(比較例1)
モザイク状コークスに代えてニードルコークス(三菱化学(株)製)を用い、実施例1と同様に黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が321質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.05質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−2222)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.65g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が47質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.68g/cm、表面粗さRaが3.0μm、気体透過度が0.21cm/秒、曲げ強度が24MPaであるものであった。
【0079】
(比較例2)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が285質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.002質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4326)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を40MPaに変更した以外は実施例1と同様にして熱圧成形処理することにより、1.81g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が150質量ppm以下で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.85g/cm、表面粗さRaが1.2μm、気体透過度が0.01cm/秒未満、曲げ強度が50MPaであるものであった。
【0080】
(比較例3)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が1450質量ppmで、平均粒子径が3μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.003質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4324)を120質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が60質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で120質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.18g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が87質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.12g/cm、表面粗さRaが1.1μm、気体透過度が0.09cm/秒、曲げ強度が29MPaであるものであった。
【0081】
(比較例4)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が155質量ppmで、平均粒子径が120μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.03質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSK−2320)を18質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が45質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で18質量部含む分散液を全量加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を30MPaに変更した以外は実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.75g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が5質量ppm未満で、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.70g/cm、表面粗さRaが3.8μm、気体透過度が1.5cm/秒、曲げ強度が25MPaであるものであった。
【0082】
(比較例5)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が182質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が1.1質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PGA−4528)を50質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で50質量部含む分散液を加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、成形圧力を30MPaに変更した以外は実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.70g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。得られたイオン注入装置用部材は、高純度化処理後に膨れや亀裂を生じ、実用に供し得ないものであった。
【0083】
(比較例6)
モザイク状コークス(三菱化学(株)製)の含有割合が60質量%、ニードルコークス(三菱化学(株)製)の含有割合が40質量%である炭素材料を、アルゴン雰囲気で2500℃で10時間焼成して黒鉛化した後、粉砕、分級することにより、灰分含有量が272質量ppmで、平均粒子径が50μmである黒鉛粉末を得た。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、灰分が0.002質量%であるノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製PSM−4326)を35質量部秤量した。さらに、硬化剤として、上記ノボラック型フェノール樹脂樹脂の10質量%に相当する量のヘキサメチレンテトラミンを秤量し、上記ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤を、樹脂固形分濃度が50質量%になるようにアセトン中に順次加え、60分間撹拌することにより、ノボラック型フェノール樹脂の分散液を調製した。
上記黒鉛粉末100質量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂を固形分換算で35質量部含む分散液を加えた後、実施例1と同様にして混練、風乾、粉砕処理して、粒度が0.3mm以下である成形粉を得た。
次いで、上記成形粉を、実施例1と同様に熱圧成形処理することにより、1.64g/cmの嵩密度を有する縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状の成形体を得た。
得られた成形体を、実施例1と同様に焼成処理し、次いで高純度化処理を行うことにより、灰分が28質量ppmで、縦200mm、横200mm、厚さ2mmの平板状のイオン注入装置用部材を得た。
得られたイオン注入装置用部材は、嵩密度が1.65g/cm、表面粗さRaが3.0μm、気体透過度が0.22cm/秒、曲げ強度が26MPaであるものであった。
【0084】
上記比較例の内容を表3にあわせて記載する。
【0085】
【表3】

【0086】
比較例1においては、表3に示すように、ニードルコークスから得られた黒鉛粉末を用いたことから、高純度化処理を施しても、得られたイオン注入装置用部材において灰分(不純物)が47質量ppmと充分に除去されず、イオンビームの照射時に黒鉛粒子の脱落が認められるものであり、イオン注入装置用部材の曲げ強度も24MPaと低いものであった。
【0087】
また、比較例2においては、表3に示すように、成形粉の熱圧成形時における圧力を高くして嵩密度が1.81g/cmと高い成形体を作製した後、焼成処理と高純度化処理を施したものであるため、高純度化処理時に使用するハロゲンガスが成形体内部まで到達できず、得られたイオン注入装置用部材は、灰分(金属不純物)を150質量ppmと多量含有するものであった。得られたイオン注入装置用部材は、イオンビームの照射によって消耗される結果、内部に残存する灰分(金属不純物)が露出し、イオンビームに不純物が混入してしまうものであった。
【0088】
比較例3においては、表3に示すように、黒鉛粉末の灰分量が1450質量ppmと高く、高純度化処理しても、得られるイオン注入装置用部材に灰分(金属不純物)が87質量ppmと多量残存するものであった。また、該黒鉛粉末の平均粒子径が3μmと小さいことから熱圧成形する上でフェノール樹脂の配合量を黒鉛粉末100質量部に対し120質量部と高くせざるを得ず、熱圧成形したときに、成形体の嵩密度が1.18g/cmと小さくなって、黒鉛粒子の脱落を生じ易いものであった。
そして、この得られたイオン注入装置用部材は、イオンビームの照射によって消耗される結果、内部に残存する灰分(金属不純物)が露出して、イオンビームに不純物が混入してしまうものであった。また、得られたイオン注入装置用部材は、曲げ強度が29MPaと低いものであった。
【0089】
比較例4においては、表3に示すように、使用した黒鉛粉末の平均粒子径が120μmと大きく、また、フェノール樹脂の配合量が少ないものであることから、得られたイオン注入装置用部材は、表面粗さが3.8μmと大きいものであり、イオンビームの照射時にイオンビームが衝突、接触して表面の凸部分が欠けてしまい、かつ黒鉛粒子の脱落を生じてしまうものであった。また、得られたイオン注入装置用部材は、曲げ強度が25MPaと低いものであった。
【0090】
比較例5においては、表3に示すように、使用したフェノール樹脂の灰分が1.1質量%と多いことから、焼成物中に含まれる灰分(金属不純物)量も多くなり、この灰分(金属不純物)が高純度化処理時に外部に抜けようとして、膨れや亀裂を生じてしまったため、得られたイオン注入装置用部材は、実用に供することができないものであった。
【0091】
比較例6においては、表3に示すように、黒鉛粉末の原料として用いた炭素材料中のモザイク状コークス量が60質量%と少なく、高純度化処理を施しても、得られたイオン注入装置用部材において灰分(不純物)が28質量ppmと充分に除去されず、イオンビームの照射時に黒鉛粒子の脱落が認められるものであり、イオン注入装置用部材の曲げ強度も26MPaと低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、半導体素子の作成時における粒子の飛散および不純物の混入を安定して抑制することができ、高い曲げ強度を有するイオン注入装置用カーボン部材を、簡便かつ低コストに製造することができる方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モザイク状コークスを65〜100質量%含む炭素材料を黒鉛化してなる、灰分含有量が1000質量ppm以下で平均粒子径が5〜100μmである黒鉛粉末100質量部に対し、
灰分が0.5質量%以下であるフェノール樹脂の分散液を、固形分換算で20〜100質量部混合し、
乾燥、粉砕して成形粉を作製した後、
該成形粉を嵩密度が1.2〜1.75g/cmである成形体が得られように圧力を調節しつつ熱圧成形し、次いで、
得られた成形体を不活性雰囲気中で焼成して黒鉛化処理し、ハロゲン含有ガス中で高純度化処理して灰分を20質量ppm以下にする
ことを特徴とするイオン注入装置用部材の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕を、粒径0.3mm以下の成形粉が得られるように行う請求項1に記載のイオン注入装置用部材の製造方法。
【請求項3】
前記熱圧成形を、150〜280℃の温度条件下、5〜30MPaの加圧下に行う請求項1または請求項2に記載のイオン注入装置用部材の製造方法。

【公開番号】特開2012−156300(P2012−156300A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13906(P2011−13906)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】