説明

イオン照射効果評価方法、プロセスシミュレータ及びデバイスシミュレータ

【課題】 イオン照射効果評価方法、プロセスシミュレータ及びデバイスシミュレータに関し、イオン照射にともなって基板を構成する原子が受ける影響を精度良く評価する。
【解決手段】 少なくとも一種類の層が同位体層3からなる複数の薄膜層を交互に周期的に積層した試料1に対してイオン5を照射して、照射したイオン5による前記試料1を構成する原子に対する影響を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン照射効果評価方法、プロセスシミュレータ及びデバイスシミュレータに関するものであり、特に、イオン注入或いはイオンエッチングにおけるイオン照射の効果を精度良く評価するための構成に特徴のあるイオン照射効果評価方法、プロセスシミュレータ及びデバイスシミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン注入技術は、MOSFETのソース・ドレイン領域の形成工程等の半導体デバイスにおける不純物領域の形成方法として用いられており、このようなイオン注入による不純物分布を予め精度良く予測するために各種のシミュレーション方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなシミュレーションを行う場合の各種のパラメータは、実測した数値を用いる必要があり、例えば、イオン注入後の実際の不純物濃度分布はSIMS(二次イオン質量分析)法等を用いて実測している。
【0004】
なお、SIMSを用いて薄膜の組成分析等を行う場合には、深さ方向の分解能を校正するために異種物質を交互に多層に積層させた標準試料を用い、この標準試料のイオン強度分布により校正を行っている。
【0005】
しかし、このような標準試料の中には複数の異種物質の層が存在しているために、これらの異種物質の層間の界面近傍で所謂界面効果が生じ、イオン強度分布が異常に大きくなったり或いは小さくなったりするという問題がある。
【0006】
そこで、同じ元素の異なった同位体からなる原子層を交互に積層させた標準試料を用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
このような同位体標準試料においては、同位体は質量数は若干異なるものの、化学的性質が全く同一であるので界面効果及びマトリクス効果が消失し、深さ方向の分解能の精度を高めることができることが報告されている。
【0007】
一方、このようなイオン注入にともなってシリコン基板にダメージが発生するが、このようなダメージの評価は、ラザフォード後方散乱のチャネリング法や透過型電子顕微鏡を用いて行われていた(例えば、非特許文献1参照)。
なお、この様なダメージの発生は、FIB(収束イオンビーム)法によるイオンビームナノ加工の場合も同様である。
【特許文献1】特開2004−079656号公報
【特許文献2】特開平06−273289号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Physics,V ol.88,p.3993,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のダメージ評価方法においては、イオン照射によりダメージを受けたSi原子がどの範囲まで弾き出されているのかを定量的に知ることはできないという問題がある。
【0009】
また、SIMSにより分析を行う場合、イオンエッチングしながら分析していることになるが、イオンエッチングによる物理的力の作用、例えば、イオンビーム誘起拡散が、組成分布やSi格子にどのような影響を与えているかを評価することができないという問題もある。
【0010】
したがって、本発明は、イオン照射にともなって基板を構成する原子が受ける影響を精度良く評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
なお、図における符号2は、単結晶Si基板等の基板である。
図1参照
(1)上記課題を解決するために、本発明は、イオン照射効果評価方法において、少なくとも一種類の層が同位体層3からなる複数の薄膜層を交互に周期的に積層した試料1に対してイオン5を照射して、照射したイオン5による前記試料1を構成する原子に対する影響を評価することを特徴とする。
【0012】
このように、同位体層3を周期的に含む試料1を用いることによって、照射したイオン5による前記試料1を構成する原子に対する影響を同位体の分布によって精度良く評価することが可能になる。
なお、上記の特許文献2は、SIMSにおける深さ方向の分解能を高めるための標準試料1にすぎず、標準試料1に対して何らかの処理を施して、処理にともなう構成原子の移動を同位体の分布変動により評価するものではない。
【0013】
(2) また、本発明は、上記(1)において、試料1が、二種類の同位体層3,4からなることを特徴とする。
【0014】
このように、二種類の同位体層3,4からなる試料1を用いることによって、イオン照射による試料1を構成する原子に対する影響を精度良く評価することができる。
なお、この場合の二種類の同位体層3としては、28Si層と30Si層との組合せが典型的なものである。
【0015】
(3)また、本発明は、上記(1)において、試料1が、一種類が天然組成層からなり、他が同位体層3からなる二種類の薄膜層を交互に周期的に積層した試料1であることを特徴とする。
【0016】
このように、一方の種類が同位体層3である場合には、他方の種類は天然組成層でも良く、それによって、試料1を製造する際のコストを低減することができる。
なお、この場合の組合せとしては、天然組成Si層と28Si層との組合せが典型的なものである。
【0017】
(4)また、本発明は、上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、イオン照射工程が、イオン注入工程或いはイオンエッチング工程のいずれかであり、且つ、照射したイオン5による試料1を構成する原子に対する影響を二次イオン質量分析法によって評価することを特徴とする。
【0018】
このように、評価の対象となるイオン照射工程としては、イオン注入工程或いはイオンエッチング工程が典型的なものであり、また、その影響を二次イオン質量分析法によって評価することによって、比較的容易な測定手段で評価することが可能になる。
なお、二次イオン質量分析法自体がイオンエッチングをともなっているので、この影響も考慮することによって、より精度の高い評価が可能になる。
【0019】
(5)また、本発明は、プロセスシミュレータにおいて、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することを特徴とする。
【0020】
このように、プロセスシミュレータに上述のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することによって、従来評価のできなかったイオンダメージによる原子の移動を取り込んだ精度高いプロセスシミュレーションが可能になる。
【0021】
(6)また、本発明は、デバイスシミュレータにおいて、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することを特徴とする。
【0022】
このように、デバイスシミュレータに上述のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することによって、従来評価のできなかったイオンダメージによる基板構成原子の移動を取り込んだ精度高いデバイスシミュレーションが可能になり、特に、ヘテロ界面を有するデバイスにおける基板構成原子のミキシングに起因するキャリア移動度の変化等を精度良く評価することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、同位体原子を規則正しく配置した試料を用いて同位体原子の分布変動を測定することによって、従来評価のできなかった原子の移動を含めたイオンダメージを高精度でシミュレーションすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、少なくとも一種類の層が同位体層からなる複数の薄膜層を交互に周期的に積層した試料、典型的には、28Sin 30Sin (nは各層における原子層数を表す)に対してイオンを照射、典型的には、イオン注入或いはイオンエッチングを行い、照射したイオンによる試料を構成する原子に対する影響を、例えば、二次イオン質量分析法によって評価するものである。
【0025】
また、プロセスシミュレータとしては、上述のイオン照射効果評価方法で評価した特性値、例えば、イオン照射によるSi原子の反跳の標準偏差を評価してパラメータとすることによって、イオン照射やその後の熱処理によるSi原子のミキシングを定量的に評価することが可能になる。
【0026】
また、デバイスシミュレータとしては、上述のイオン照射効果評価方法で評価した特性値、例えば、イオン照射によるヘテロ界面近傍におけるGa原子、Al原子、In原子の反跳の標準偏差を評価してパラメータとすることによって、イオン照射やその後の熱処理による基板構成原子のミキシングに起因するキャリア移動度の変化等を定量的に評価することが可能になる。
【実施例1】
【0027】
ここで、図2乃至図11を参照して、本発明の実施例1のイオン注入時のミキシングの評価方法を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1のイオン注入時のミキシングの評価方法に用いる試料の概略的断面図であり、(001)面を主面とする天然組成の単結晶Si基板11上に分子線エピタキシーを用いて天然組成のSiバッファ層12を介して20原子層の30Si20層13と20原子層の28Si20層14を交互に、例えば、15周期分積層する。
【0028】
この場合、各1原子層の厚さは約0.136nmとなるので、一周期分の28Si2030Si20の厚さは約5.4nmとなる。
なお、Siの同位体の存在比は、
28Si 92.2%
29Si 4.7%
30Si 3.1%
であり、ここでは質量比を大きくするために同位体として28Siと30Siを選択した。
【0029】
図3参照
図3は、試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、30Siと28Siとが約5.4nmの周期で交互に分布していることが分かる。 なお、SIMS分析においては、Cs+ を1keVの加速エネルギーで45°の入射角で照射しながら二次イオンの分析を行ったものであり、各存在比は天然組成のSiバッファ層12を基準として規格化しており、以下同様である。
【0030】
図4参照
図4は、イオン注入後のAs濃度分布の説明図であり、この試料10に対してAsイオン(75As)15を例えば25keVの加速エネルギーで1013〜1015cm-2の範囲でドーズ量を系統的に変えてイオン注入した。
この場合、注入されたAsイオン15の分布は、表面から約20nmの位置がピークとなる。
【0031】
図5参照
図5は、Asイオン(1013cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、表面において若干の乱れが発生しているが、表面から5.4nmより深い位置では30Siと28Siとが規則正しく交互に分布しており、1013cm-2程度のドーズ量ではミキシングは殆ど起こっていないことが分かる。
なお、SIMS分析においては、アニール前の試料を用いており、以下同様である。
【0032】
図6参照
図6は、Asイオン(1014cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、表面において若干の乱れが発生しているほか、表面から約40nmの深さまで30Siと28Siの存在比が互いに小さくなっており、ミキシングが発生していることが分かる。
【0033】
図7参照
図7は、Asイオン(1015cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、表面から約20nmの深さまで30Siと28Siの周期性が完全に失われていることが分かる。
【0034】
図8参照
図8は、Asイオンの注入前後の28Siと30Siの濃度分布の比較図であり、ここでは、図3と図7のデータを表面から4〜46nmの範囲で比較している。
【0035】
図9参照
図9は、Asイオンの注入後の28Siと30Siの濃度分布の実験結果とシミュレーション結果の比較図であり、シミュレーション結果を図3に重ねて下図に示している。
【0036】
この場合のシミュレーション結果を導くための式は下記の式(1)で表され、イオン注入後の各同位体の濃度分布Cas-impla(x)をイオン注入前の濃度分布Cas-grown(x)を畳み込み積分を用いて再現することによって、イオン注入によりダメージを受けた原子の移動を評価するものである。
なお、xは表面からの深さ方向を表す。
【0037】
as-impla(x)=INT{Cas-grown(x′)×〔1/((2π)1/2 ×σ)〕×
exp〔−(x−x′)2 /2σ2 〕dx′}〔x′=−∞→+∞〕 ・・・(1)
但し、σ(x)=k/〔(2π)1/2 ×c〕×exp〔−(x−d)2 /2c2
・・・(2)
なお、明細書の作成の都合上、INT{A(x′)dx′}〔x′=−∞→+∞〕は、{}内の関数A(x′)を−∞→+∞まで積分することを意味する。
また、k,c,dは夫々フィッティングパラメータであり、ここでは、上段の実験結果に合わせるために、k=80,C=13,d=14とした。
【0038】
図10参照
図10は、実験結果における標準偏差σ(x)とTRIMで計算した反跳Si原子の深さ方向の分布を比較したものである。実験結果は純粋にイオン注入のみの熱処理(アニール)がない状態で得られたため、この場合はイオン照射による基板Si原子が格子位置からはずれることを示す標準的シミュレータ〔TRIM〕の結果と一致するべきで、実際に綺麗な相関関係を示している。
【0039】
この様に、同位体SiのSIMS強度変化からSi原子のミキシングを定量的に評価することができる。
さらに、この構造に熱処理を加えてk,c,dをフィッティングによって得ることからTRIMでは得られない熱処理後のSiの移動分布が得られる。
【0040】
また、図9はドーズ量が1015cm-2の場合を示しているが、各種のドーズ量におけるミキシングの度合いをシミュレーションして、フィッティングパラメータk,c,dを実験結果を忠実に再現できる値にフィッティングすることによってミキシングの度合いのドーズ量依存性を定量的に把握することができる。
【0041】
図11参照
図11は、Bイオン(1015cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、Asイオンの注入と比べてミキシングがあまり起こっていないことが分かる。
なお、この場合の各周期構造における28Siの存在比が30Siの存在比より大きくなっている理由はミキシングによるものではなく、天然組成のSiバッファ層12を基準とした規格化の工程で発生したと推測される。
【0042】
図12参照
図12は、Bイオン(1016cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図であり、表面から40nmの深さまでミキシングが起こっていることが分かる。
この場合も、上述のようにシミュレーションを行うことによって、実験結果をより正確に再現できるようにフィッティングパラメータk,c,dを決定することによって、Bイオンに関してもイオンの注入による基板のダメージを精度良くシミュレーションすることができる。
【0043】
以上の結果、例えば、各種のイオンについて各ドーズ量におけるフィッティングパラメータk,c,dの値をプロセスシミュレータに格納することによって、イオンの注入による基板のダメージを精度良くシミュレーションすることができる。
【0044】
また、イオン注入後に実行する様々な熱処理過程におけるミキシングの変化も、28Siと30Siなどの分布の変化から定量的に評価することができる。
【実施例2】
【0045】
次に、図13を参照して、本発明の実施例2のイオン注入時のミキシングの評価方法を説明するが、基本的な構成は上記の実施例1と全く同様であるので要点のみ説明する。
図13参照
図13は、SIMSによる試料評価とRaman散乱法による試料評価の比較図であり、この場合も28Si2030Si20の同位体超格子試料を測定したものである。
【0046】
下図のRaman散乱法による同位体分布においては上図のSIMSによる同位体分布に比べてかなりシャープな界面を示しており、28Si20層と30Si20層との界面で28Siと30Siとのミキシングがあまり起こっていないことを示している。
【0047】
このRaman散乱法による同位体分布は精度が高いことが知られている(必要ならば、Thin Solid Films,Vol.508,p.160,2006参照)ので、SIMSによる同位体分布における状態は、SIMS工程におけるCs+ イオンの照射によるSi原子の押し込み効果を反映しているものと考えられる。
【0048】
したがって、このイオン注入前のRaman散乱法による同位体分布が再現できるように、SIMSによる同位体分布を修正することによって、SIMS工程におけるCs+ イオンの照射による影響を排除することができ、それによって、より精度の高いイオンの注入による基板のダメージに関するシミュレーションを行うことができる。
【実施例3】
【0049】
次に、図14を参照して、本発明の実施例3のイオン注入時のミキシングの評価方法を説明するが、基本的な構成は上記の実施例1と全く同様であるので要点のみ説明する。
図14参照
図14は、本発明の実施例3のイオン注入時のミキシングの評価方法に用いる試料の概略的断面図であり、(001)面を主面とする天然組成の単結晶Si基板21上に分子線エピタキシーを用いて天然組成のSiバッファ層22を介して20原子層の28Si20層23と20原子層の天然組成のSi20層24を交互に、例えば、15周期分積層したものである。
【0050】
この場合、各層における30Siの存在比は、28Si20層23においては約0%、Si20層24においては3.1%となるので、この30Siの分布の変化をSIMSにより測定し、シミュレーションによってその結果を精度良く再現できるようにフィッティングパラメータk,c,dを決定すれば良い。
【0051】
このように、本発明の実施例3においては試料として28Si20/Si20の超格子試料を用いているので、精製した30Si原料ガスを必要としないので、試料の製造コストを大幅に低減することができ、それによって、プロセスシミュレータに格納するデータの収集工程の低コスト化が可能になり、ひいては、プロセスシミュレータを安価に供給することができる。
【実施例4】
【0052】
次に、図15を参照して、本発明の実施例4のイオン加工時のミキシングの評価方法を説明する。
図15参照
図15は、基板のダメージの照射イオン種依存性の説明図であり、上図は、実施例1と全く同様の28Si2030Si20の同位体超格子試料を5keVの加速エネルギーのO2 + イオンでエッチングした場合のミキシング効果を示しており、下図は5keVの加速エネルギーのCs+ イオンでエッチングした場合のミキシング効果を示している。
【0053】
図の振幅の違いから明らかなように、O2 + イオンによるミキシング効果はCs+ イオンによるミキシング効果より大きくなっており、この場合も上述のシミュレーションを行って、SIMSによる測定結果を精度良く再現できるようにフィッティングパラメータk,c,dを決定すれば良い。
なお、この場合も各周期構造における28Siの存在比が30Siの存在比より大きくなっている理由はミキシングによるものではなく、天然組成のSiバッファ層を基準とした規格化の工程で発生したと推測される。
【0054】
この様なイオン加工に伴う基板のダメージのイオン種依存性をフィッティングパラメータk,c,dとしてプロセスシミュレータに取り込むことによって、イオン加工による基板のダメージを精度良くシミュレーションすることができる。
【0055】
また、図3の1keVの加速エネルギーのCs+ イオンによるミキシング効果と図15の下図の5keVの加速エネルギーのCs+ イオンによるミキシング効果とを比較することによって、イオン加工に伴う基板のダメージの加速エネルギー依存性のデータも取得することができる。
【0056】
したがって、イオン加工に伴う基板のダメージの加速エネルギー依存性のデータ、即ち、各加速エネルギーにおけるフィッティングパラメータk,c,dやその他のイオンミキシングのモデルなどをプロセスシミュレータに格納することによって、より精度の高いプロセスシミュレーションが可能になる。
【0057】
以上、本発明の各実施例を説明したが、本発明は各実施例に記載した構成及び条件に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、上記の各実施例においては、各層を構成する原子層数を20としているが、20原子層に限られるものでなく、任意の総数nによる同位体超格子試料28Sin 30Sin 或いはSin 30Sin を用いても良いものである。
【0058】
例えば、低加速エネルギーによるダメージをより精度良く評価するためには、n<20の条件で試料を構成すれば良く、より高エネルギーによるダメージをより精度良く評価するためには、n>20の条件で試料を構成すれば良い。
【0059】
また、上記の各実施例においては同位体として28Siと30Siに着目しているが、28Siと29Si或いは29Siと30Siとの組合せを用いても良いものである。
【0060】
また、上記の実施例1においては、イオン注入後且つアニール前の試料についての測定結果を示しているが、アニール後についても同様であり、アニール後のミキシング状態及びAs分布を測定し、この測定結果を出来る限り忠実に再現できるように各フィッティングパラメータを決定することによって、より精度の高いプロセスシミュレーションを行うことができる。
【0061】
また、上記の各実施例においてはSiプロセスとして説明しているが、SiGe層を用いたデバイスにも適用できるものであり、その場合には、SiGe層を構成するSiのみを同位体超格子構造としても良いし、各層を構成するGeも同位体を用いた超格子構造としても良い。
【0062】
因に、Geの同位体の存在比は
70Ge 20.5%
72Ge 27.4%
73Ge 7.8%
74Ge 36.5%
76Ge 7.8%
であるので、SIMSによる分析精度を高めるためには、70Geと76Geを用いることが望ましい。
【0063】
さらには、GaAs等のIII-V族化合物半導体プロセスにも適用されるものであり、Ga及びAsの存在比は
69Ga 60.1%
71Ga 39.9%
75As 100%
であるので、(69Ga75As)n /(71Ga75As)n からなる同位体超格子試料を用いれば良い。
【0064】
例えば、InGaAs系電界効果型半導体装置において、上述のイオン照射効果評価方法で評価した特性値、例えば、イオン照射によるヘテロ界面近傍におけるGa原子、Al原子、In原子の反跳の標準偏差を評価して決定したフィッティングパラメータをデバイスシミュレータに取り込むことにより、イオンエッチング、イオン注入やその後の熱処理による基板構成原子のミキシングに起因するキャリア移動度の変化やバリアハイトの変化等を定量的に評価することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例としては、半導体プロセスにおけるプロセスシミュレーションが典型的なものであるが、半導体デバイス以外に超電導デバイスにおけるイオンミリングダメージのシミュレーション等の他の電子デバイスにおけるイオンダメージのプロセスシミュレーションへの応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1のイオン注入時のミキシングの評価方法に用いる試料の概略的断面図である。
【図3】試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図4】イオン注入後のAs濃度分布の説明図である。
【図5】Asイオン(1013cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図6】Asイオン(1014cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図7】Asイオン(1015cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図8】Asイオンの注入前後の28Siと30Siの濃度分布の比較図である。
【図9】Asイオンの注入後の28Siと30Siの濃度分布の実験結果とシミュレーション結果の比較図である。
【図10】実験結果における標準偏差σ(x)とTRIMで計算した反跳Si原子分布の比較図である。
【図11】Bイオン(1015cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図12】Bイオン(1016cm-2)注入後の試料のSIMS評価によるSi同位体分布図である。
【図13】SIMSによる試料評価とRaman散乱法による試料評価の比較図である。
【図14】本発明の実施例3のイオン注入時のミキシングの評価方法に用いる試料の概略的断面図である。
【図15】基板のダメージの照射イオン種依存性の説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 試料
2 基板
3 同位体層
4 同位体層
5 イオン
10 試料
11 単結晶Si基板
12 Siバッファ層
13 30Si20
14 28Si20
15 Asイオン
21 単結晶Si基板
22 Siバッファ層
23 28Si20
24 Si20

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類の層が同位体層からなる複数の薄膜層を交互に周期的に積層した試料に対してイオンを照射して、照射したイオンによる前記試料を構成する原子に対する影響を評価することを特徴とするイオン照射効果評価方法。
【請求項2】
上記試料が、二種類の同位体層からなることを特徴とする請求項1記載のイオン照射効果評価方法。
【請求項3】
上記試料が、一種類が天然組成層からなり、他が同位体層からなる二種類の薄膜層を交互に周期的に積層した試料であることを特徴とする請求項1記載のイオン照射効果評価方法。
【請求項4】
上記イオン照射工程が、イオン注入工程或いはイオンエッチング工程のいずれかであり、且つ、照射したイオンによる前記試料を構成する原子に対する影響を二次イオン質量分析法によって評価することを特徴とする請求項1記載のイオン照射効果評価方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することを特徴とするプロセスシミュレータ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のイオン照射効果評価方法で評価した特性値をパラメータとして格納することを特徴とするデバイスシミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−311444(P2007−311444A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137251(P2006−137251)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季 第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】