説明

イオン発生・放出用放電電極対及びそれを用いたイオン発生器、並びにイオン発生装置

【課題】 ガスイオンを効率よく長時間生成することができる装置を提供する。
【解決手段】 イオン発生器1は筐体にガス導入部3及びイオン放出口5を備え、筐体内に放電電極11及び接地電極13を備えている。イオン発生装置7はイオン発生器1のイオン放出口5にチャンバー9を接続したものである。放電電極11はガス導入部3から導入されたガスに高電圧を放電するものであり、一端は筐体内の上部に支持され、他端は垂直下方向に向けられている。接地電極13は筐体内で放電電極11に対向してイオン放出口5に配置されている。接地電極13は、接地側の面15に銅が形成されているステンレス製の円盤状電極であり、中心にはイオン放出口となるオリフィス19が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスイオンを発生させるイオン発生器、そこで用いるイオン発生・放出用放電電極対、及びそのイオン発生器からのガスイオンによりエアロゾルなどを帯電するためのイオン発生装置に関する。そのようなイオン発生装置は、例えば、DMA(Differential mobility analyzer, 微分型電気移動度測定器)に帯電したエアロゾルを供給する装置として利用できるほか、質量分析装置のイオン源としても利用することができる。
【背景技術】
【0002】
住居におけるマイナスイオンや、各種分析装置に供するための帯電エアロゾルを供給するためには、ガスイオンを効率よく生成する装置が必要である。
ガスイオンを生成する方法には、コロナ放電法やエレクトロスプレイイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)があるが、エアロゾルを帯電させるには、コロナ放電法がよく使用されている。
【0003】
エアロゾルとは分散媒体がガスで、分散質が液体または固体であるコロイドを示す。分
散質が液体の場合には、エアロゾルは、霧、もや、雲等となり、分散質が固体の場合には
ちり、煙等となる。このエアロゾルの微粒子の構成成分の測定は、環境状態の評価や健
康影響などの研究分野において重要な意味を持つ(特許文献1参照。)。
【0004】
DMAは、微粒子とその分散媒体のガスとからなるエアロゾルを帯電させてDMA内に導入し、DMAの上部からシースガスを流すと共に装置内に電界を与えることによって、エアロゾルの粒径と電気移動度を利用することにより、空気環境中などの微粒子の粒径を効率的かつ広範囲にわたって分級し、測定する測定装置である(特許文献2参照。)。
DMAに供するエアロゾルを帯電させるには、コロナ放電法によるクラスターイオン発生器(特許文献3参照。)や241Amなどの放射線源、軟X線(特許文献4参照。)といった手法が使用されている。
【0005】
【特許文献1】特開平09−184808号公報
【特許文献2】特開2000−46720号公報
【特許文献3】特開2003−326192号公報
【特許文献4】特開2004−53298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のクラスターイオン発生器は、放電電極にタングステン、接地電極にステンレス(ステンレス)を用いた筐体内において、両電極間に交流コロナ放電を発生させることにより筐体内を流れる圧縮ガスをイオン化し、その圧縮されたイオン化ガスをチャンバー内で荷電対象物と接触させることで、対象物を荷電させるものである。
【0007】
しかし、イオンの発生を続けていると、突然、対象物(例えば、銀粒子を含んだガス)を荷電できなくなるという現象が発生した。
このような状態になると、放電のオン、オフを繰り返しても装置は復旧せず、銀粒子を荷電することがもはや不可能になった。接地電極はチャンバーを介して接地しているので、接地電極とチャンバー間の接触不良を改善したり、接地電極をアルコールで洗浄して導電性を改善したりしたが、装置が復旧することはなかった。
そこで本発明は、ガスイオンを効率よく長時間生成することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイオン発生・放出用放電電極対は、高電圧が印加される放電電極と、上記放電電極に対向して配置され、中心にイオン放出口が形成された金属材料からなる接地電極とから構成され、上記接地電極は上記放電電極に対向する側が耐エッチング性の金属材料からなり、その対抗面とは反対側の面が対向面側よりも導電性に優れた金属材料により形成されている。
ここで耐エッチング性が高いものとしてはステンレスが挙げられ、耐エッチング性が低いものにはアルミニウムが挙げられる。
【0009】
耐エッチング性が良い金属材料としてはステンレスのほか、Ti、Ti合金又はNi/Cr合金などを利用することができる。実施例では、エッチングに強く、経済的なステンレスを用いた。
【0010】
上記接地電極の接地側の金属材料は上記対向面側の金属材料にメッキ、蒸着、スパッタリング又は貼り合わせによって形成することができる。
【0011】
本発明のイオン発生器はイオン発生・放出用放電電極対と、ガス導入部とが筐体内に配置され、上記イオン発生・放出用放電電極対間で放電を発生させることにより上記ガス導入部から導入されたガスをイオン化して上記イオン放出口から放出するものである。そして、上記イオン発生・放出用放電電極対は本発明のものであり、かつ、上記イオン発生・放出用放電電極対のイオン放出口によりオリフィスが形成されている。
【0012】
本発明のイオン発生装置は、本発明のイオン発生器と、上記イオン発生器のイオン放出口から放出されたガスイオンを導入するガスイオン導入部、粒子状の荷電対象物を導入する対象物導入部、及び内部で荷電対象物がガスイオンによりイオン化されて生成した粒子イオンを外部に排出する排出部を備えたチャンバーと、を備えている。
【0013】
また、上記チャンバーが導電性金属からなる場合、イオン発生器の接地電極の接地側をチャンバーに接触させて一体化することにより、接地電極をチャンバーを介して接地電位とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
接地側の面はその反対側の対向側の面よりも導電性に優れた材料により形成され、中心にはイオン放出口となるオリフィスが形成された金属材料からなる接地電極を用いることにより、時間経過後も放電能力が低下することなく、イオンを安定して発生することができるようになる。
【0015】
本発明のイオン発生器とチャンバーによりイオン発生装置を備えるようにすれば、例えば銀粒子を含むガスを安定して帯電し続けることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の一実施例を詳細に説明する。
図1はイオン発生装置の概略断面図であり、その一部としてイオン発生器及びイオン発生・放出用放電電極対を含んでいる。
イオン発生器1は筐体にガス導入部3及びイオン放出口5を備え、筐体内にイオン発生・放出用放電電極対としての放電電極11及び接地電極13を備えている。イオン発生装置7はイオン発生器1のイオン放出口5に導電性金属からなるチャンバー9を接続して一体化したものである。
【0017】
ガス導入部3は筐体内の上部側面に、イオン放出口5は筐体内の底面にそれぞれ備えられている。
放電電極11はガス導入部3から導入されたガスに電荷を放電して帯電させるものであり、一端は筐体内の上部に支持され、他端は垂直下方向に向けられている。放電電極11は針状電極であることが好ましく、金属材料としてインコネルやチタン合金を用いることができるが、特にタングステンを用いるのが好ましい。接地電極13は筐体内で放電電極11に対向してイオン放出口5がある筐体の底面に配置されている。
【0018】
図2は接地電極13の概略斜視図である。
接地電極13はステンレス製の円盤状電極であり、放電電極11に対向する対向面側17が耐エッチング性で対酸化性の導電性の金属材料からなっており、ここではステンレスを用いる。
その対向面側17とは反対側の接地側の面15は、対向面側17よりも導電性に優れた金属材料からなっているものであり、例えば銅が貼り付けられている。銅の他に金やアルミニウムを用いることもでき、メッキすることで形成してもよい。
接地電極13の中心にはイオン放出口となるオリフィス19が形成されている。
【0019】
接地電極13の寸法は特に限定されないが、例えば、外径が2.1cm、厚さが2mmであり、中心に設けられているオリフィス19の内径が0.1〜0.3mmである。銅の厚さは0.036〜0.11mm程度に形成した。
また、接地側の面15の厚さは接地電極13の厚さの1.8〜5.5%程度あれば充分である。
【0020】
イオン発生装置7は、図1に示したとおりイオン発生器1とチャンバー9からなる。チャンバー9は、イオン発生器1の接地電極13の接地側と接触して一体化され、イオン発生器1の内部空間でイオン化されたガスイオンを導入するガスイオン導入部21と、粒子状の荷電対象物を導入する対象物導入部23と、両導入部21,23から導入されて内部で反応した反応物を外部に排出する排出部25とを備えている。
【0021】
対象物導入部23には荷電対象物を導入するための荷電対象物供給装置27が接続されており、排出部25は試料の分級を行なうDMA等に接続されている。
また、イオン発生器1及びチャンバー9は共通のアースに接続されており、イオン発生器1とチャンバー9が一体化されることにより、装置は小型化されている。
【0022】
次に同実施例の動作を説明する。
圧縮空気をガス導入部3から導入し、放電電極11と接地電極13の間に高圧電源によって5000〜10000Vの直流又は交流電界を印加した。
この圧縮空気は、放電電極11と接地電極13との間の領域で発生したコロナ放電によりイオン化された後、高速ジェットになってイオン放出口5(ガスイオン導入部21)から噴射される。このときの接地電極出口の圧縮空気の放出流量は0.14〜3.0L/分とした。イオン発生器1への圧縮空気の導入は、レギュレーターで0.05MPa〜0.30MPaとした。
【0023】
イオン放出口5(ガスイオン導入部21)から噴射された高速ジェットの分子イオンは、荷電対象物供給装置27から供給された銀粒子を含むガスとチャンバー9内で混合されて銀粒子の表面に電荷が付着し、銀粒子に電荷を与える。銀粒子は平均粒径が10nm以下のものを用いたが、それ以上の粒子径でもよい。また、銀粒子を含むガスの流量は1.0〜2.0L/分とした。
以上の条件において銀粒子を継続的に荷電したところ、800時間経過後も荷電能力が低下することはなかった。
【0024】
排出部25を電気移動度などを測定するDMAに接続すれば、荷電された対象物は、帯電した電界の強度を利用して分級や分析などを行なうことができる。
そのため、本発明のイオン発生装置をエアロゾル帯電装置として用いれば、長時間測定する場合においても、エアロゾルの微粒子の構成成分の測定や環境状態の評価を安定して行なうことができる。
【0025】
上記の実施例では放電電極に針状放電電極を、接地電極には円盤状電極を用いたが、電極の形状はこれらに限定されるものではない。
【0026】
次に本発明の他の実施例を説明する。
図3はイオン発生器1とチャンバー9を一体化せずに、イオン放出口5とガスイオン導入部21をフランジ配管(ステンレスなどの金属製)を用いて接続したものであり、イオン発生器1は筐体にガス導入部3及びイオン放出口5を備え、筐体内に放電電極11及び接地電極13を備えている。イオン発生装置7はイオン発生器1の下部にチャンバー9を接続したものである。
【0027】
チャンバー9は横長型であり、上部にガスイオン導入部21、下部に対象物導入部23、側面には排出部25が備えられている。
この実施例ではガスイオン導入部21と対象物導入部23は対向して配置されており、チャンバー9内で対象物を効率よく荷電することが可能になる。また、イオン発生器1及びチャンバー9はそれぞれアースに接続されている。
【0028】
また、針状放電電極11と接地電極13の間でLCRメーターを用いてインピーダンス測定を行なった場合、接地電極13にステンレスそのものを用いたときとステンレスの接地側の面15に銅を貼り付けたときに差は見られなかった。
これは、インピーダンス測定に用いる電流はイオンのように寿命が短いものではないため、ステンレス(接地電極13)に電流が流れれば、その値がインピーダンス測定に使用されるためである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明はDMAに供するエアロゾルを帯電させる装置として利用できるほか、質量分析装置のイオン源としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施例のイオン発生器及びイオン発生装置の概略断面図を示す。
【図2】接地電極の概略斜視図を示す。
【図3】他の実施例のイオン発生器及びイオン発生装置の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0031】
1 イオン発生器
3 ガス導入部
5 イオン放出口
7 イオン発生装置
9,9a チャンバー
11 放電電極
13 接地電極
15 接地側の面
17 放電側の面
19 オリフィス
21 ガスイオン導入部
23 対象物導入部
25 排出部
27 荷電対象物供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧が印加される放電電極と、前記放電電極に対向して配置され、中心にイオン放出口が形成された金属材料からなる接地電極とから構成され、
前記接地電極は前記放電電極に対向する側が耐エッチング性の金属材料からなり、その対抗面とは反対側の面が対向面側よりも導電性に優れた金属材料により形成されていることを特徴とするイオン発生・放出用放電電極対。
【請求項2】
前記接地電極の対向面側の金属材料はステンレス、Ti、Ti合金又はNi/Cr合金のいずれかである請求項1に記載のイオン発生・放出用放電電極対。
【請求項3】
前記接地電極の接地側の金属材料は前記対向面側の金属材料にメッキ、蒸着、スパッタリング又は貼り合わせによって形成されたものである請求項1又は2に記載のイオン発生・放出用放電電極対。
【請求項4】
イオン発生・放出用放電電極対と、ガス導入部とが筐体内に配置され、前記イオン発生・放出用放電電極対間で放電を発生させることにより前記ガス導入部から導入されたガスをイオン化して前記イオン放出口から放出するイオン発生器において、
前記イオン発生・放出用放電電極対は請求項1から3のいずれかに記載のものであり、かつ、前記イオン発生・放出用放電電極対のイオン放出口によりオリフィスが形成されていることを特徴とするイオン発生器。
【請求項5】
請求項4に記載のイオン発生器と、
前記イオン発生器のイオン放出口から放出されたガスイオンを導入するガスイオン導入部、粒子状の荷電対象物を導入する対象物導入部、及び内部で荷電対象物がガスイオンによりイオン化されて生成した粒子イオンを外部に排出する排出部を備えたチャンバーと、
を備えたことを特徴とするイオン発生装置。
【請求項6】
前記チャンバーが導電性金属からなり、前記イオン発生器の接地電極の接地側を前記チャンバーに接触させて一体化していることにより、接地電極をチャンバーを介して接地電位としている請求項5に記載のイオン発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−305498(P2007−305498A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134598(P2006−134598)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】