イオン置換されたリン酸カルシウムコーティング
本発明は、基体上にイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを形成する方法、前記コーティング自体および前記コーティングの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上における、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティング、とりわけ結晶性表面コーティングの形成のための方法に関する。本発明はまた、この方法により製造されたイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
骨におけるリン酸カルシウムは、微量のCO32−、F−、Cl−、Mg2+、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+等を含む多置換されたリン酸カルシウムである[1−3]。これらのイオンの置換は、骨形成において並びに材料の溶解度および界面化学といった通常の機能において重要な役割を有する。
【0003】
炭酸イオン(CO32−)は最も豊富な(2−8wt%)陰イオン置換であり、リン酸カルシウム構造のPO43−サイトおよびOH−サイトの両方において部分的に置換している。若い骨の高い反応性は、古い骨と比較して炭酸イオンがより多く存在することと関連がある可能性がある。炭素置換リン酸カルシウム(carbonated calcium phosphate)は、化学量論的なリン酸カルシウムと比較して、溶解度、インビトロにおけるコラーゲンの堆積およびインビボにおける再吸収の改善を示した。
【0004】
フッ化物は、脊椎動物の体の骨および歯に存在する。OHサイトのフッ化物による置換およびフッ化物置換されたヒドロキシアパタイトの形成は、ヒドロキシアパタイトバイオセラミクスの耐酸性および機械的性質を増強し[4]、より良い生物学的反応を誘導すること[5]が報告されている。フッ化物置換されたヒドロキシアパタイトは、耐酸性および機械的性質に優れているため、人工歯根上の有益なコーティングである。
【0005】
ケイ素は、通常の骨および軟骨の成長および発達にとって不可欠であることが分かっている。その構造に微量なレベルのSiを含む合成ヒドロキシアパタイトは、化学量論的なヒドロキシアパタイトと比較して、生物学的性能の著しい増大を示す[6]。生物学的性能の改善は、Siが誘導した材料特性の変化に起因している可能性があり、また、骨および結合組織系の生理的プロセスにおけるSiの直接的効果のためである可能性がある。Si置換は、材料の溶解度を増大し、より負に帯電した表面を生成し、およびより細かい微細構造を形成する結果、材料表面を生物学的に等価なヒドロキシアパタイトに形質転換させることで、生物学的活性を促進する。細胞外の培地へのSi複合体の放出および材料表面におけるSiの存在は、骨および軟骨組織系の細胞における用量依存的な付加的な刺激効果を誘導する可能性がある[6]。
【0006】
ストロンチウムは、化学的および物理的にカルシウムと密接に関係するため、カルシウムの自然な置換として容易にヒドロキシアパタイトに導入される。ストロンチウムは、骨形成を増加させ、骨吸収を減少させる効果を有し、通常の動物およびヒトにおいて、骨量の増加および骨の機械的性質の改善をもたらすことが証明されている。Sr置換されたヒドロキシアパタイトセラミックスは、純粋なヒドロキシアパタイトよりも優れた機械的性質を示し、インビトロ研究において骨芽細胞の増殖および分化を増強する[7]。
【0007】
マグネシウムは、骨形成の初期段階の際に、骨および軟骨組織に高濃度に存在し、ヒドロキシアパタイトの核形成速度を加速させ、その結晶化プロセスを阻害することが見出されている。Landiらは、Mg置換されたヒドロキシアパタイトが、化学量論的なヒドロキシアパタイトと比較して、付着、増殖および代謝活性に関して細胞の挙動を改善することを確認している[8]。
【0008】
亜鉛は骨における主要な微量元素であり、ヒト組織発生に主要な役割を果たすとことが分かっている。インビトロ実験により、亜鉛が骨吸収を阻害し、骨形成に刺激的効果があることが示された。亜鉛置換されたヒドロキシアパタイトは、場合によっては、同一の効果を示すことができる材料である。置換によって亜鉛をヒドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウム(TCP)結晶格子中へと導入した場合、インビトロで破骨細胞を阻害し、インビボで骨成長を促進することが分かっている。
【0009】
有益な結果にもかかわらず、イオン置換されたセラミックスおよびセメントの臨床応用は、機械的強度が低いために限定的である。イオン置換されたヒドロキシアパタイトによるインプラントのコーティングによって、例えば金属のより高い機械的強度を、イオン置換されたヒドロキシアパタイトの特性と組み合わせることができる。したがって、インプラント上のコーティングとしてのイオン置換されたヒドロキシアパタイトは、追求すべき興味の対象である。これまで生産されたそのようなコーティングは、プラズマ溶射[9]、ゾル−ゲル[10]、マグネトロン共スパッタリング[11]、パルス−レーザー堆積[12]およびマイクロ−アーク酸化技術[13]を使用して製造された。これらのコーティング技術は、いくつかの欠点を有する。例えば、そのコーティングは相対的に厚く脆く、さらに化学的欠陥を有する。それらは、必ずしも基体に十分に付着するとは限らない。さらに、そのようなコーティングは、多孔性の表面や、アンダーカットした表面のように複雑な形状を有する表面に対して均一且つ一様に施すことはできなかった。その上、これらのコーティングを生産するためには、高温処理が不可欠であり、このことは使用できる基体材料を制限する。これらの欠点のいくつかを克服するために、低温プロセスが適用されて、溶液から得る方法によりヒドロキシアパタイトセラミックコーティングが製造された。Bunkerらは、塩化カルシウムを含む溶液における基体のインキュベートによって、リン酸八カルシウムコーティングを製造する技術を発見した[14]。その他の例は、米国特許第6,905,723号[15]および第6,569,489号[16]に開示されており、それらによると、ヒドロキシアパタイトコーティングは、Ca2+、PO43−、Sr、Na+、K+、HCO3−、Cl−およびMg2+を含む溶液を使用して製造される。
【0010】
生体内鉱質形成は、水性溶液における生体内鉱質形成の自然な自己形成プロセスである。人体において、全ての通常の最も病理学的な石灰化は、リン酸カルシウム化合物から成る。しかしながら、骨のヒドロキシアパタイト部分は、化学量論的なリン酸カルシウムではなく、生体内鉱質形成によって形成された、カルシウム欠陥を有した多置換型のヒドロキシアパタイトである。
【0011】
米国特許第6,569,481号および国際公開第1997/041273号には、生体内鉱質形成プロセスによって、ヒドロキシアパタイト(ヒドロキシアパタイト)コーティングにより生物医学的インプラントをコートする方法が記載されている。得られるコーティングは、さらに任意にシリケートまたはスルフェートを含むことができる。これら文献の明細書は、ヒドロキシアパタイトコーティングを形成するために、イオン溶液をどのように作製し、どのような材料を使用してイオン溶液を作製するのかを記載しておらず、また、コーティング堆積を促進するためのインプラント表面の具体的な条件も記載していない。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0241314号(US’314)は、ストロンチウム置換されたアパタイトコーティングを有する生物活性インプラントを提供する方法を示している。この方法は、カルシウム含有化合物によってコーティングされていない表面を、ストロンチウム、カルシウムおよびリン酸イオン並びに液体キャリアーを含む組成物中でインキュベートすることを含む。この組成物は、生物学的薬剤、ナトリウム、マグネシウム、炭酸、水酸化、フッ化物イオンまたはこれらの混合物をさらに含んでいてもよい。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、制御されたモフォロジーにて、イオン置換されたリン酸カルシウムでインプラントをコーティングする方法に関する。
【0014】
本発明の第1の側面は、
a.前記基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d.前記水溶液中にて、前記コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法である。
【0015】
本発明の一実施形態において、制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法は、
a.基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d.前記第1水溶液中にて、第1コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること;
e.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、前記溶液は6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f.前記第2水溶液中にて、コーティングの第2層が形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む。
【0016】
本発明の別の実施形態において、別のコーティングのケミストリーおよびモフォロジーを任意に含む更なる層を作るために、工程c)からf)が繰り返される。
【0017】
本発明の別の実施形態において、前記前処理はリン酸カルシウム層の形成を含む。
【0018】
本発明の別の実施形態において、前記前処理は、熱処理、加水分解、酸化、酸もしくは塩基処理、陽極酸化、UV照射、CVD、ゾル−ゲルまたはPVDを含む。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態において、前記基体は前記表面上に荷電した基を有する。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記荷電した基は、前記基体表面の前処理の結果である。
【0021】
本発明の別の実施形態において、各々の溶液における浸漬時間は、最長で2週間、好ましくは1週間未満およびより好ましくは3日未満である。
【0022】
本発明の別の実施形態において、
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である。
【0023】
本発明の別の側面は、カルシウム、マグネシウム、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよびスルフェートの1以上とを含む、イオン置換されたコーティングである。
【0024】
別の実施形態において、カルシウムの陽イオン性の置換は、最大で80%であり、好ましくは25−60%である。
【0025】
別の実施形態において、リン酸の陰イオン性の置換は、最大で30%であり、好ましくは10−25%である。
【0026】
一実施形態において、前記コーティングは、0−5%の、好ましくは1.5−3%のフッ化物、もしくは0−10%の、好ましくは3−8%のストロンチウム、もしくは0−5%の、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはこれらの組み合わせを含む。
【0027】
別の実施形態において、前記コーティングのモフォロジーは、シート、フレーク、球、多孔質構造、スパイクもしくはロッドまたはそれらの組み合わせの形状である。
【0028】
別の実施形態において、前記コーティングは複数の層を含む。
【0029】
別の実施形態において、前記コーティングは生体再吸収性(bioresorbable)である。
【0030】
本発明の別の側面は、薬剤および/またはイオン送達システムとしての前記イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図1B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図2A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図2B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図3A】熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)10000×。
【図3B】熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)10000×。
【図4A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図4B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図5A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図5B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図6A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図6B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図7A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図7B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図8A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)45000×。
【図8B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)45000×。
【図9A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)50000×。
【図9B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)50000×。
【図10A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図10B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図11A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン (*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図11B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン (*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図12A】PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図12B】PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図13A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図13B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図14A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図14B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図15A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図15B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図16A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図16B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図17】ケイ素PBSにてインキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像。
【図18】SiおよびSr PBSにて37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像。
【図19】TOF−SIMSによる、生体内鉱質形成された表面におけるSiおよびSrイオンシグナルを示す図。
【図20A】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20B】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20C】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20D】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図21A】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図21B】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図21C】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22A】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22B】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22C】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23A】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23B】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23C】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図24】0.6mMのSrイオンを含むPBSに、(A)12時間、第1層(薄く、高密度);(B)2週間、第2層(多孔性)浸漬した後のTiO2/Ti基体の表面モフォロジーを示すSEM。
【図25】0.6および0.06mmol/lのSr−PBS溶液に、37℃および60℃で、それぞれ1週間および2週間浸漬した、酸化された基体のXRDパターン(A:アパタイト、T:チタン)。
【図26】チタンプレート上におけるストロンチウム置換されたアパタイト/二酸化チタンコーティングについてのXPSスペクトル(熱的な酸化、0.6mMのSrを含むPBS、60℃で1週間)。
【発明の詳細な説明】
【0032】
本出願において、用語「生体内鉱質形成」は、自己形成による鉱質物質の形成を意味する。本出願において、生体内鉱質形成は、必ずしも生きた生物に関与する必要な無く、インビトロおよびインビボの両方において行うことができる。
【0033】
本出願において、用語「リン酸カルシウム」は、カルシウムおよびリン酸を含む鉱質物質を意味し、ヒドロキシアパタイトもしくはブルッシャイトもしくはモネタイトもしくはアモルファスのリン酸カルシウムコーティングまたはそれらの組み合わせを含む。
【0034】
本出願において、「イオン置換」という表現は、物質内のイオンが、同一の(すなわち正または負の)電荷を有した他のイオンと交換されるプロセスを意味する。
【0035】
本発明は、生体内鉱質形成された層は、宿主組織に対するインプラントの固着および骨の再生に有益な効果があるだろうという理解に基づく。イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングは生体内鉱質形成プロセスによって得られる骨の天然のミネラルと高い類似性を有するため、イオン置換と組み合わせられた生体内鉱質形成は利点がある。その上、生体内鉱質形成プロセスは本発明による水溶液にて生じるため、それは任意の開放的な表面に適用可能であり、インプラントの任意の複雑な形状による制限を受けない。また、本発明に係る方法は低温技術であり、エネルギー効率的であり、温度に敏感な基体材料に適用できる。本発明は、とりわけ、コーティングケミストリーと、本発明に記載される方法および材料を適用することにより得られるモフォロジーとの組み合わせに関する。
【0036】
上述のUS’314と異なり、本発明は、コーティングのモフォロジーを制御するための戦略を提供する。モフォロジーは、以下で議論されるように、インビボでの組織応答の際に重要な因子であり、モフォロジーの制御は、薬剤および/またはイオン送達システムとしてのコーティングの使用を促進する。本発明は、US’314と異なり、イオン置換との組み合わせにおいて前処理工程を開示する。これは新しい技術であり、制御されたモフォロジーのコーティングのための方法を提供する。
【0037】
前処理の目的は、表面を活性化すること、すなわち、リン酸カルシウムコーティングに最適な成長条件を達成することである。好ましくは、表面は、インキュベート溶液において負の表面電荷を有するべきである。Tiインプラントに関して、小さな粒子サイズを有する結晶性二酸化チタンコーティングを形成することを主な目的として、例えば、これは、熱処理、加水分解、陽極酸化、酸もしくは塩基処理、UV放射、またはCVD、ゾル−ゲル堆積またはPVDを含む(例えば、国際公開公報第2005/055860号、米国特許第6,183,255号、J Biomed Mater Res 82A: 965-974 (2007), Applied Surface Science Vol 255 Issue 17 (2009) Pages 7723-772参照)。同じまたは同様の処理をその他の基体材料に適用することができ、前処理は1を超える処理を含むことができる。−OH、−COOH、−NH2のような基を任意に含む水溶液における表面の前処理は、先行技術に記載されるように行われる。本発明の前処理は、より速いコーティングプロセスを生じさせ、より均一な(例えば厚さ)コーティングをもたらす。任意の理論に結び付けられることなく、前処理は、コーティングが開始される核形成点を作ると考えられる。前処理されていない表面は、基体表面上の局所的変化に対して、より依存的である可能性があり、そのような変化は操作の結果でありうる。
【0038】
さらに、前処理はリン酸カルシウム層を形成することを含んでよい。この層は、当業者に既知の任意の技術に従って形成することができる。例えば、リン酸カルシウム層は、2−10のpHおよび20−100℃の温度で、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびリン酸イオンのみを含む溶液にて基体をインキュベートすることにより形成してよい。前記リン酸カルシウム層は、好ましくは、電荷を含む表面にて形成される。
【0039】
この発明は、F−、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+、Mg2+、Cl−およびCO32−といった置換イオンを使用して、イオン置換されたリン酸カルシウムをインプラント上に製造する新規の技術を提供する。当業者であれば、どのような置換イオンを使用できるかがわかる。本発明によれば、モフォロジーは、イオン置換工程において使用されるイオンまたは複数のイオンに依存する。例えば、F−イオンで置換する場合、モフォロジーは、スパイクまたはロッドを有すると評することができ(図20)、一方、ケイ素は、シートまたはフレークと評することができるモフォロジーを生成し(図17)、ストロンチウムは球状の粒子および孔を有する構造をもたらす(例えば、図14および15参照)。さらに、種々のイオンは、コーティングのための種々の溶解度係数をもたらす。例えばフッ化物置換は溶解度係数の低下をもたらし、一方、ストロンチウムまたはケイ素の添加は、ヒドロキシアパタイトと比較して溶解度係数を増大させることが以前に示された。
【0040】
孔サイズは、また、置換するイオン、温度および浸漬時間を変えることにより制御できる。
【0041】
この新規の技術は、改変された擬似的な体液並びにリン酸カルシウムコーティングにおける陽イオン性および陰イオン性の置換イオンを含むリン酸緩衝液溶液を使用した生体内鉱質形成プロセスに基づく。陽イオン性の置換イオンは、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+またはMg2+であり;陰イオン性の置換イオンはF−またはCO32−である。イオン置換のための供給源は、置換されるイオンを含む可溶性塩およびわずかに可溶性の塩、例えばSrCl2、SrCO3、Sr(NO3)2、Na2SiO3、ケイ酸カルシウム(CaOSiO2、CaO(SiO2)2、CaO(SiO2)3、ZnCl2、ZnSO4、BaCl2、FeCl3、Fe(NO3)3、NaCO3、NaF、Na2FPO4とすることができる。
【0042】
生体内鉱質形成方法によるイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの形成は、例えば、生物活性インプラント標本を、改変された擬似体液(SBF)および/または種々の陽イオンおよび/または陰イオンを含むリン酸緩衝液溶液(PBS)(表1)といった鉱質形成溶液中でインキュベートすることを含む。鉱質形成溶液は、人体に存在する主要な無機イオン、すなわちNa+、K+、Ca2+、HCO3−、HPO42−、SO42+を含んでよい。
【表1】
【0043】
上述のように、本発明は、制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法であって:
a)前記基体を提供すること;
b)活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d)前記基体の少なくとも一部を前記水溶液中で前記コーティングが形成されるのに十分な期間インキュベートすること
を含む方法を提供する。
【0044】
生体内鉱質形成プロセスは、複数の工程に分離することができ、各々工程は、種々のイオンおよびイオン濃度の溶液を含んでよい。手順は、例えば1−7日間、好ましくは1−3日間の鉱質形成溶液における基体のインキュベートおよび例えば1−7日間、好ましくは1−3日間、置換イオンを含む水溶液にそれを移すことを含む。この手順は、新規のコーティングにおける厚さおよび/またはイオン含有量が狙った値に達するまで繰り返される。
【0045】
上述のように、本発明は、また、制御されたモフォロジーを有したイオン置換されたリン酸カルシウムのコーティングを基体上に形成するために;
a)基体を提供すること;
b)活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d)前記基体の少なくとも一部を前記第1水溶液中で第1コーティングが形成されるのに十分な期間インキュベートすること;
e)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f)前記基体の少なくとも一部を前記第2水溶液中でコーティングの第2層が形成されるのに十分な期間インキュベートすること
を含む複数の工程において行ってよい。
【0046】
任意に、工程c)からf)は、別のコーティングのケミストリーおよびモフォロジーを含む更なる層を作るために任意の回数繰り返すことができる。
【0047】
本発明によって表面にコーティングを形成する場合の好ましい戦略は、インキュベーティングに先立ち表面を活性化することである。その活性化は、荷電基、負の基または正の基を作ることを含みうる。好ましくは、表面は、約40℃以下で浸漬される場合、負に帯電し、より高い温度では正に帯電すべきである。この活性化は、表面のイオンの誘引を高め、均一なコーティングをもたらす。
【0048】
工程b)に先立ち、例えば金属インプラント上における結晶性二酸化チタンコーティングの形成といったコーティングの成長および付着に最適な表面を達成するために、基体の表面を基体材料に最も適した様式で洗浄してよい。さらに、工程c)およびf)のそれぞれの後に、表面に対して、例えば脱イオン水またはその他の任意の適した溶媒を用いて、洗浄およびその後のすすぎを行い、または単にすすぎを行い、乾燥してよい。
【0049】
上述のように、
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である。
【0050】
置換する陽イオン、すなわちSr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3の濃度は0.01−0.1×10−3Mの範囲であり、置換する陰イオン、すなわちF−の濃度は1−100×10−3Mの範囲である。
【0051】
置換溶液中の陽イオンおよび/または陰イオンの量は、求められる置換量に応じて最適化してよい。カルシウムの陽イオン性置換は80%以内とすることができ、リン酸および水酸化物の陰イオン性置換は30%以内とすることができる。
【0052】
本発明に係る方法は、チタン、チタン合金、その他の金属および合金、バイオセラミクス、生体活性ガラスおよびポリマーを含む様々な基体に適用できる。
【0053】
本発明に係る方法は、好ましくは、優れた臨床的な機能を得るために、増強され且つ永続的な骨の治癒が望ましい、インプラントを固定する骨に適用することができる。そのような適用の例は、歯科インプラント、頭蓋顔面のインプラントまたは整形外科インプラントである。
【0054】
本発明によって製造されるイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの厚さは、浸漬時間、温度およびプロセス溶液のイオン濃度によって、10nmから100μmの範囲に制御することができる。浸漬時間、温度およびイオン濃度の増加は、コーティングの厚さの増大をもたらすだろう。コーティングの厚さが厚すぎる場合、コーティングの機械的特性は減少し、コーティングはより脆くなる。それゆえ、浸漬時間は、適切な厚さおよび機械的特性を得るために最適化すべきである。機械的強度および固着性に関して、コーティングの好ましい厚さは10μm未満であり、より好ましくは5μm未満である。
【0055】
本発明に係る方法は、20℃から100℃、好ましくは37℃から60℃の温度で行われる。浸漬時間、すなわち基体が生体内鉱質形成およびイオン置換溶液中に存在する時間は、1日から2週間、好ましくは1日から7日およびより好ましくは1から3日である。
【0056】
本発明に係る方法は、多孔性材料およびアンダーカットといった複雑な形状を有する表面をコーティングするのに適している。本発明は、基体表面の形状に依存せず、コーティングの均一な厚さを促進する。
【0057】
本発明に係る方法は、単一イオンの置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造に適用できるだけでなく、2つ、3つおよび4つのイオンで置換されたリン酸カルシウムコーティングにも適用できる。さらに、本方法は、様々なイオン置換および/または厚さによるコーティングによって、インプラントの一部のみのコーティング並びにインプラントの異なる部分のコーティングを可能とする。このことは、インプラントの様々な部分が種々の組織に接する場合があるため、インプラントの特性を調整することを可能とする。したがって、コーティングの種々の部分の化学的、形態的および機械的性質を、インプラントの機能を最適化するために適応させることができる。
【0058】
本発明は、さらに、本発明に係る方法によって製造され、カルシウムと、マグネシウムと、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよび/またはスルフェーオを含む、結晶性のイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングを提供する。好ましくは、コーティングは、さらに、0−5%、好ましくは1.5−3%のフッ化物、または0−10%、好ましくは3−8%のストロンチウム、または0−5%、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはそれらの組み合わせを含む。
【0059】
本発明は、さらに、以下によって決定される特異的な特性を有する結晶性のイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングを提供する:
a)X線回折(XRD);
b)走査型電子顕微鏡(SEM);
c)X線電子分光法(XPS);および/または
d)飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)。
【0060】
[応用]
本発明で生産できる幅広い表面コーティングに基づいて、いくつかの応用を意図することができる。
【0061】
<インプラントのための機械的エンハンサーとして>
有益な生物学的効果を有する生物活性コーティングの使用は、生物医学的インプラントへの適用に適している。これは、前記コーティングが組織へのインプラントの結合を向上させる一時的および永続的な材料を含む。特定の場合としては、迅速で永続的なインプラント周辺の骨の治癒および迅速なインプラントの固着、例えば歯のインプラント、頭蓋顔面のインプラントおよび整形外科のインプラントといった臨床的要求である。後者の例は、脊柱インプラントによる適用、関節形成、骨接合術の適用および定着装置、軟骨および軟骨下骨の欠陥、骨空隙充填剤、並びにインプラントが、骨の部分を固定し、骨を増大し、欠陥を補しおよび機能的負荷の適用を可能にすべきその他の状況を含む。疾病(例えば骨粗鬆症、糖尿病)、外傷、老化および治療(例えば放射線療法)の後の後遺症のために、いくつかの方法において損なわれる骨組織におけるインプラントは特に関心がある。
【0062】
さらに、可能性が高い状況とは、最適なインプラント表面が小さいため、成功したインプラント治療の予後がより小さい場合である。患者の解剖が、成功した予後の低下をもたらすような、例えば、初期のインプラント安定性を提供することができる少量の骨に領域をもたらすような状況にもおいても、本発明の使用は利益があるだろう。
【0063】
本発明によって提供される、インプラントの一部のコーティングまたはインプラントの種々の部分における様々なタイプのコーティングの生産の可能性は、特異的なタイプの組織に関しておよび各々の患者のために最適な生物学的性能のために、インプラントの表面特性を目的に合わせて作製する可能性を開く。皮膚または粘膜に浸透する骨固着インプラントについて、本発明は、もっぱら、骨に接しているインプラントの部分へのコーティングを適用するために使用することができる。インプラントの種々の部分における種々のコーティングの使用は、インプラントの種々の部分が接している骨組織のタイプに応じて最適な応答を提供できるコーティングを製造するために使用することもできる。皮質骨および骨髄の両方と接触する骨固着インプラントについて、インプラントの種々の部分を、これらのタイプの組織におけるパフォーマンスを最適化するよう設計された種々のコーティングで、提供することができる。
【0064】
<薬剤およびイオンの運搬システムとして>
コーティングの制御可能なモフォロジーにより、コーティング自体もまた、制御可能な様式における薬剤およびイオンの両方の送達のための沈着物として機能しうる。
【0065】
イオン置換されたコーティングは、インビボに置かれた場合、周囲の組織に必要なイオンを提供することができる。したがって、コーティング機能は、骨形成のために必須なイオンの蓄積が好ましく、これは、骨形成の特異的な制御に適し得る。これらのイオンは、Ca、F、Zn、ホスフェート、塩素、スルフェート、Ba、Fe、K、Mg、Na、カーボネート、ストロンチウムまたはシリコンでありえる。前記イオンの提供は骨再生を増強し、骨を強化してよく、骨の化学的安定性を制御し、およびおそらく、周囲の骨に対してよりよく固着するインプラントを提供し得る。
【0066】
さらに、例えば多孔性の構造には、薬剤を充填できる。その後、これらの薬剤は、モフォロジーに依存して連続的または不連続的に拡散するだろう。リン酸カルシウムコーティングは、さらに、生体再吸収性でありえ、したがって、薬剤の持続的且つ制御可能な放出を可能にするだろう。薬剤の例は、ビスホスホネート、スタチン、抗生物質、炎症抑制剤、骨成長タンパク質およびそれらの組み合わせを含む。コーティングは、予め充填されていてよく、または手術室において、インプラント留置の時に充填されてよい。
【0067】
コーティングの多層構造は、薬剤/イオン放出システムの調整を可能にする。様々な層は、モフォロジー、密度、厚さ、ケミストリーおよび当然イオン/薬剤含量において異なってよい。
【実施例】
【0068】
例1
熱処理したチタン表面に対するストロンチウム置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
10mm×10mmのチタンプレートを熱処理(800℃で2時間)し、二酸化チタン表面を得た。処理したプレートを、まずアセトン中で、続いてエタノール中で超音波により洗浄し、最後に脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。2種の鉱質形成溶液を改変リン酸緩衝食塩水(PBS)(表2参照)から得た。低濃度のSr PBSは0.06mmol/lとした。高濃度のものは0.6mmol/lとした。低濃度のものの初期pHは、37℃および60℃において、それぞれ7.20および7.21とした。高濃度のものの初期pHは、37℃および60℃において、それぞれ7.19および7.15とした。2つの試料ごとに、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、その後、それぞれ37℃および60℃のオーブンに入れた。プレートは、1週間から2週間の間の種々の時間、インキュベートした。その後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、風乾した。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【表2】
【0069】
結果を図1−9に示す。鉱質形成溶液に1および2週間浸漬された後、生体内鉱質形成されたストロンチウム置換されたリン酸カルシウムのコーティングは2層で形成された。下層は、薄く、高密度なコーティングであり、上層は、ゆるく、多孔性のコーティングであった(図8および9)。
【0070】
例2
PVD処理したチタン表面に対するストロンチウム置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
コーティングプロセスは例1と同様に行ったが、基体はPVD処理したチタンプレートとした。
【0071】
PVD処理は次の通りに行った:
チタンプレートをPVDチャンバー(Baltzer 640R)に入れた。コーティングステップ中のマグネトロン効果および酸素分圧は、それぞれ1.5kWおよび1.5×10−30mbarとした。装置の構成は、TiO2膜におけるルーティル型構造の形成が最大となるように最適化した。
【0072】
結果を図10−16に示す。
【0073】
例3
PVD処理したチタン表面に対するケイ素置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
10mm×10mmのチタンプレートに例2に記載されるようにPVD処理を行い、二酸化チタン表面を得た。処理したプレートを、まずアセトン中で、続いてエタノール中で超音波により洗浄し、最後に脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。ケイ酸塩を含む鉱質形成溶液を改変リン酸緩衝食塩水(PBS)から得た。改変PBSは次のように作製した:
(1)3mgのケイ酸三カルシウムを40mlのPBS溶液に添加し、一晩撹拌した。
【0074】
(2)次に、混濁した溶液を遠心分離し、上清溶液を鉱質形成培地として使用した。
【0075】
(3)溶液のpH値および組成は、それぞれpHメーターおよびICP−AESにて分析した。
【0076】
2つの試料ごとに、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、次に、60℃のオーブンに1週間入れた。その後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【0077】
結果を図17に示す。
【0078】
例4
イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造
その他の好ましいイオン(Mg2+、Zn2+、Ba2+、Fe3+、CO32−、F−、Cl−等)により置換されたリン酸カルシウムコーティングを、例1−3と同様のプロセスによって得ることが出来る方法により製造した。種々のイオンを含む溶液は、改変SBFおよびPBSに可溶性の塩を溶解することにより作製できる。
【0079】
これらのイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングは、生理活性セラミクス(ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、ケイ酸カルシウム、ジルコニア)、生理活性ガラス(45S5 bioglass(登録商標)、AW glass−ceramics、bioactive 58S glass)、金属(チタン、チタン合金、ステンレススチール、CoCrMo合金)、炭素およびポリマー(コラーゲン、グルテン、PLGA、PGA)といった基体上に製造する。
【0080】
例5
SiおよびSrの共置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造
基体の処理プロセスは、例1に記載されるように行った。
【0081】
ケイ酸塩およびストロンチウムを含む溶液は改変リン酸緩衝食塩水(PBS)から得た。この例において、ケイ酸塩の供給源は、ケイ酸ナトリウム溶液とし、ストロンチウムの供給源は硝酸ストロンチウムとした。Siイオン濃度は0.075−0.15mMに調整し、Srイオン濃度は0.06−0.6mMに調整した。
【0082】
試料を、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、その後、37℃のオーブンに1週間入れた。インキュベーションの後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【0083】
結果を図18−19に示す。分析により、共置換されたアパタイトコーティングが基体上に形成されたことが示された(SEM画像を参照)。TOF−SIMSの結果は、表面にSiおよびSrイオンのシグナルが存在したことを示す。ΣCa/ΣSrは約0.83であり、ΣSiOx/ΣPOxは約0.08であった。これらの結果は、SiおよびSr共置換されたアパタイトコーティングが熱処理されたTi基体上に形成されたことを示す。
【0084】
例6
骨の鉱物質は多置換型リン酸カルシウムである。これらのイオン置換の1つであるストロンチウムは、骨の強度を増大させ、骨吸収を提言させることが証明されている。バイオミメティクスは、好ましい骨組織応答を提供し、それにより骨とインプラントとの間における固定を増強する表面を製造するための潜在的な方法である。ここで、我々は、骨鉱質形成を模すことで、二層のストロンチウム置換されたアパタイトおよび二酸化チタンコーティングをチタン基体上に製造した。結晶性酸化チタン基体上におけるバイオミメティックコーティング沈殿によって形成されたSr−置換コーティングのモフォロジー、結晶化度、表面化学および組成を、種々のSrイオン濃度のリン酸緩衝食塩水におけるインキュベートの温度および時間の関数として調べた。バイオミメティックアパタイトのモフォロジーは、純粋なヒドロキシアパタイトの場合の平板状から、Srイオン置換によって球状に変化した。表面の分析から、アパタイトにおいて10%−33%のCaイオンがSrイオンに置換され、Srイオンは、アパタイトに化学的に結合し、アパタイトの構造中にうまく取り込まれたことが示された。
【0085】
結果を図24から26に示す。
【0086】
例7
酸化チタン上におけるフッ化物イオン置換
フッ化ナトリウムおよびダルベッコのリン酸緩衝食塩水(PBS)(D8662、Sigma−Aldrich、USA)をインキュベートの媒質として使用した。PBSのイオン組成は、Na+(145mM)、K+(4.3mM)、Mg2+(0.49mM)、Ca2+(0.91mM)、Cl−(143mM)、H2PO4−(1.6mM)およびHPO42−(8.1mM)とした。全ての化学物質は分析用等級の試薬とし、更に精製を行うことなく受け取った状態で使用した。得られたリン酸緩衝食塩水を、種々のNaFの添加により改変した。チタン(2等級、純度99.4%)をEdstraco AB (Sweden)から購入した。Tiプレートは、5℃/minのランピング速度で、800℃で1時間処理した。
【0087】
この方法により、ルーティル型構造を有する結晶性TiO2表面が製造されることが示された。熱処理後、プレートを、改変リン酸緩衝食塩水におけるインキュベートの前に、超音波バスに別々に含まれるアルカリ溶液(1M NaOH)、エタノールおよび脱イオン水の別々の超音波バスにて処理した。
【0088】
フッ化リン酸カルシウムのバイオミメティック成長
バイオミメティックコーティングを、予め処理したTiプレートをCa2+、H2PO4−、HPO42−およびF−を含むリン酸緩衝液にてインキュベートすることで製造した。Fイオンの濃度は、0、0.04mMおよび0.2mMであった。Ca/Pの比率は、溶液中でほぼ1/10とした。pH値は、初期段階において7.4に調整した。チタンプレート(10mm×10mm×1mm)ごとに、密封したプラスチックボトル中の20mlのイオン添加リン酸緩衝液に浸漬し、撹拌することなく、1日から2週間の期間、37℃または60℃に保持した。より長いインキュベーティングの時間について、溶液を3日ごとに交換し、カルシウム、リン酸およびフッ化物イオンの枯渇を回避した。浸漬後、溶液からサンプルを取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させた。
【0089】
特徴づけ
試料のモフォロジーは、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM、LEO 1550)を使用して画像化した。コーティングの断面画像は、コーティングを基体から剥がした領域から得た。試料の結晶化度をX線回折法(Siemens Diffractometer 5000)を用いて、Cu Kα 放射 (λ=1.5418オングストローム)により分析した。回折計は、45kV、40mA、2°の固定入射角および10°−80°の2θレンジで操作した。試料の組成およびケミストリーは、X線電子分光法(XPS、Physical Electronics Quantum 2000、Al Kα X−ray source)スペクトルによって分析した。F1sピークについてのXPSサーベイスペクトルおよび高分解能スペクトルを取得した。
【0090】
得られたコーティングのモフォロジーは針状であり、ルーティルTiO2表面上に容易に蓄積した。ヒドロキシアパタイト針の直径は約10−20nmであり、歯のエナメル質における鉱物質に非常に近かった。
【0091】
例8
フッ化ナトリウムおよびダルベッコのリン酸緩衝食塩水(PBS)(D8662、Sigma−Aldrich、USA)を浸漬の媒質として使用した。PBSのイオン組成は、Na+(145mM)、K+(4.3mM)、Mg2+(0.49mM)、Ca2+(0.91mM)、Cl−(143mM)、H2PO4−(1.6mM)およびHPO42−(8.1mM)とした。全ての化学物質は分析用等級の試薬とし、更に精製を行うことなく受け取った状態で使用した。
【0092】
得られたコーティングのモフォロジーは針状であり、ルーティルTiO2表面上に容易に蓄積した。熱処理後に得られるTi表面上におけるルーティルコーティングは粗く、マイクロメータサイズの粒子を含んだ。基体を0.2mMのFイオンを含む溶液に60℃で12時間浸漬した後、針状粒子の分離した束が表面において成長した。1日の浸漬の後、基体から成長するFHA針の量は増大した。フッ化物置換されたヒドロキシアパタイト(FHA)針の直径は約10−20nmであり、歯のエナメル質における鉱物質に非常に近かった。浸漬時間が1週間に増大したとき、FHA針アレイの連続的且つ均質なコーティングが形成された。非改変リン酸緩衝食塩水を使用する同様の方法によって形成される通常のフレーク状HA結晶と異なり、FHA粒子のモフォロジーは針状であり、よく配列している様子を見ることが出来る。
【0093】
例9
表面イオン放出
実験
(1)PBSおよびTris−HClの初期pH値は7.40である。
(2)イオン(Sr、Si、FおよびMg)が添加されたリン酸カルシウムを有する2つの基体を、密封されたボトル内の10ml溶液に入れ、37℃のオーブンに入れる。
(3)分析のために2mlの溶液を取り出し、2mlの新鮮な溶液を、各々の時点においてボトルに添加した。
(4)イオン濃度をICP−OES(誘導結合プラズマ光学的分光法)により分析した。
【0094】
イオンの持続的な放出が見られ、放出速度はイオンおよびpHによって制御できた。単一のイオンの放出だけでなく、2つのイオンの放出も可能であることが示された。
【0095】
イオン放出の結果を図21から23に示す。
【0096】
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【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上における、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティング、とりわけ結晶性表面コーティングの形成のための方法に関する。本発明はまた、この方法により製造されたイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
骨におけるリン酸カルシウムは、微量のCO32−、F−、Cl−、Mg2+、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+等を含む多置換されたリン酸カルシウムである[1−3]。これらのイオンの置換は、骨形成において並びに材料の溶解度および界面化学といった通常の機能において重要な役割を有する。
【0003】
炭酸イオン(CO32−)は最も豊富な(2−8wt%)陰イオン置換であり、リン酸カルシウム構造のPO43−サイトおよびOH−サイトの両方において部分的に置換している。若い骨の高い反応性は、古い骨と比較して炭酸イオンがより多く存在することと関連がある可能性がある。炭素置換リン酸カルシウム(carbonated calcium phosphate)は、化学量論的なリン酸カルシウムと比較して、溶解度、インビトロにおけるコラーゲンの堆積およびインビボにおける再吸収の改善を示した。
【0004】
フッ化物は、脊椎動物の体の骨および歯に存在する。OHサイトのフッ化物による置換およびフッ化物置換されたヒドロキシアパタイトの形成は、ヒドロキシアパタイトバイオセラミクスの耐酸性および機械的性質を増強し[4]、より良い生物学的反応を誘導すること[5]が報告されている。フッ化物置換されたヒドロキシアパタイトは、耐酸性および機械的性質に優れているため、人工歯根上の有益なコーティングである。
【0005】
ケイ素は、通常の骨および軟骨の成長および発達にとって不可欠であることが分かっている。その構造に微量なレベルのSiを含む合成ヒドロキシアパタイトは、化学量論的なヒドロキシアパタイトと比較して、生物学的性能の著しい増大を示す[6]。生物学的性能の改善は、Siが誘導した材料特性の変化に起因している可能性があり、また、骨および結合組織系の生理的プロセスにおけるSiの直接的効果のためである可能性がある。Si置換は、材料の溶解度を増大し、より負に帯電した表面を生成し、およびより細かい微細構造を形成する結果、材料表面を生物学的に等価なヒドロキシアパタイトに形質転換させることで、生物学的活性を促進する。細胞外の培地へのSi複合体の放出および材料表面におけるSiの存在は、骨および軟骨組織系の細胞における用量依存的な付加的な刺激効果を誘導する可能性がある[6]。
【0006】
ストロンチウムは、化学的および物理的にカルシウムと密接に関係するため、カルシウムの自然な置換として容易にヒドロキシアパタイトに導入される。ストロンチウムは、骨形成を増加させ、骨吸収を減少させる効果を有し、通常の動物およびヒトにおいて、骨量の増加および骨の機械的性質の改善をもたらすことが証明されている。Sr置換されたヒドロキシアパタイトセラミックスは、純粋なヒドロキシアパタイトよりも優れた機械的性質を示し、インビトロ研究において骨芽細胞の増殖および分化を増強する[7]。
【0007】
マグネシウムは、骨形成の初期段階の際に、骨および軟骨組織に高濃度に存在し、ヒドロキシアパタイトの核形成速度を加速させ、その結晶化プロセスを阻害することが見出されている。Landiらは、Mg置換されたヒドロキシアパタイトが、化学量論的なヒドロキシアパタイトと比較して、付着、増殖および代謝活性に関して細胞の挙動を改善することを確認している[8]。
【0008】
亜鉛は骨における主要な微量元素であり、ヒト組織発生に主要な役割を果たすとことが分かっている。インビトロ実験により、亜鉛が骨吸収を阻害し、骨形成に刺激的効果があることが示された。亜鉛置換されたヒドロキシアパタイトは、場合によっては、同一の効果を示すことができる材料である。置換によって亜鉛をヒドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウム(TCP)結晶格子中へと導入した場合、インビトロで破骨細胞を阻害し、インビボで骨成長を促進することが分かっている。
【0009】
有益な結果にもかかわらず、イオン置換されたセラミックスおよびセメントの臨床応用は、機械的強度が低いために限定的である。イオン置換されたヒドロキシアパタイトによるインプラントのコーティングによって、例えば金属のより高い機械的強度を、イオン置換されたヒドロキシアパタイトの特性と組み合わせることができる。したがって、インプラント上のコーティングとしてのイオン置換されたヒドロキシアパタイトは、追求すべき興味の対象である。これまで生産されたそのようなコーティングは、プラズマ溶射[9]、ゾル−ゲル[10]、マグネトロン共スパッタリング[11]、パルス−レーザー堆積[12]およびマイクロ−アーク酸化技術[13]を使用して製造された。これらのコーティング技術は、いくつかの欠点を有する。例えば、そのコーティングは相対的に厚く脆く、さらに化学的欠陥を有する。それらは、必ずしも基体に十分に付着するとは限らない。さらに、そのようなコーティングは、多孔性の表面や、アンダーカットした表面のように複雑な形状を有する表面に対して均一且つ一様に施すことはできなかった。その上、これらのコーティングを生産するためには、高温処理が不可欠であり、このことは使用できる基体材料を制限する。これらの欠点のいくつかを克服するために、低温プロセスが適用されて、溶液から得る方法によりヒドロキシアパタイトセラミックコーティングが製造された。Bunkerらは、塩化カルシウムを含む溶液における基体のインキュベートによって、リン酸八カルシウムコーティングを製造する技術を発見した[14]。その他の例は、米国特許第6,905,723号[15]および第6,569,489号[16]に開示されており、それらによると、ヒドロキシアパタイトコーティングは、Ca2+、PO43−、Sr、Na+、K+、HCO3−、Cl−およびMg2+を含む溶液を使用して製造される。
【0010】
生体内鉱質形成は、水性溶液における生体内鉱質形成の自然な自己形成プロセスである。人体において、全ての通常の最も病理学的な石灰化は、リン酸カルシウム化合物から成る。しかしながら、骨のヒドロキシアパタイト部分は、化学量論的なリン酸カルシウムではなく、生体内鉱質形成によって形成された、カルシウム欠陥を有した多置換型のヒドロキシアパタイトである。
【0011】
米国特許第6,569,481号および国際公開第1997/041273号には、生体内鉱質形成プロセスによって、ヒドロキシアパタイト(ヒドロキシアパタイト)コーティングにより生物医学的インプラントをコートする方法が記載されている。得られるコーティングは、さらに任意にシリケートまたはスルフェートを含むことができる。これら文献の明細書は、ヒドロキシアパタイトコーティングを形成するために、イオン溶液をどのように作製し、どのような材料を使用してイオン溶液を作製するのかを記載しておらず、また、コーティング堆積を促進するためのインプラント表面の具体的な条件も記載していない。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0241314号(US’314)は、ストロンチウム置換されたアパタイトコーティングを有する生物活性インプラントを提供する方法を示している。この方法は、カルシウム含有化合物によってコーティングされていない表面を、ストロンチウム、カルシウムおよびリン酸イオン並びに液体キャリアーを含む組成物中でインキュベートすることを含む。この組成物は、生物学的薬剤、ナトリウム、マグネシウム、炭酸、水酸化、フッ化物イオンまたはこれらの混合物をさらに含んでいてもよい。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、制御されたモフォロジーにて、イオン置換されたリン酸カルシウムでインプラントをコーティングする方法に関する。
【0014】
本発明の第1の側面は、
a.前記基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d.前記水溶液中にて、前記コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法である。
【0015】
本発明の一実施形態において、制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法は、
a.基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d.前記第1水溶液中にて、第1コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること;
e.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、前記溶液は6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f.前記第2水溶液中にて、コーティングの第2層が形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む。
【0016】
本発明の別の実施形態において、別のコーティングのケミストリーおよびモフォロジーを任意に含む更なる層を作るために、工程c)からf)が繰り返される。
【0017】
本発明の別の実施形態において、前記前処理はリン酸カルシウム層の形成を含む。
【0018】
本発明の別の実施形態において、前記前処理は、熱処理、加水分解、酸化、酸もしくは塩基処理、陽極酸化、UV照射、CVD、ゾル−ゲルまたはPVDを含む。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態において、前記基体は前記表面上に荷電した基を有する。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記荷電した基は、前記基体表面の前処理の結果である。
【0021】
本発明の別の実施形態において、各々の溶液における浸漬時間は、最長で2週間、好ましくは1週間未満およびより好ましくは3日未満である。
【0022】
本発明の別の実施形態において、
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である。
【0023】
本発明の別の側面は、カルシウム、マグネシウム、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよびスルフェートの1以上とを含む、イオン置換されたコーティングである。
【0024】
別の実施形態において、カルシウムの陽イオン性の置換は、最大で80%であり、好ましくは25−60%である。
【0025】
別の実施形態において、リン酸の陰イオン性の置換は、最大で30%であり、好ましくは10−25%である。
【0026】
一実施形態において、前記コーティングは、0−5%の、好ましくは1.5−3%のフッ化物、もしくは0−10%の、好ましくは3−8%のストロンチウム、もしくは0−5%の、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはこれらの組み合わせを含む。
【0027】
別の実施形態において、前記コーティングのモフォロジーは、シート、フレーク、球、多孔質構造、スパイクもしくはロッドまたはそれらの組み合わせの形状である。
【0028】
別の実施形態において、前記コーティングは複数の層を含む。
【0029】
別の実施形態において、前記コーティングは生体再吸収性(bioresorbable)である。
【0030】
本発明の別の側面は、薬剤および/またはイオン送達システムとしての前記イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図1B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図2A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図2B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、熱処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図3A】熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)10000×。
【図3B】熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)10000×。
【図4A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図4B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図5A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図5B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、37℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率10000×。
【図6A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図6B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図7A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図7B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図8A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)45000×。
【図8B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)45000×。
【図9A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)50000×。
【図9B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)10000×、(B)50000×。
【図10A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図10B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で1週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン(*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図11A】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン (*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図11B】0.06mmol/lおよび0.6mmol/lのSr PBS溶液にて、それぞれ37℃(A)および60℃(B)で2週間インキュベートした、PVD処理したチタンプレートのXRDパターン (*:リン酸カルシウムの特異的ピーク)。
【図12A】PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図12B】PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図13A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図13B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図14A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図14B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で1週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)3000×、(B)30000×。
【図15A】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図15B】0.06mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図16A】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図16B】0.6mMのストロンチウムPBSにて、60℃で2週間インキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像、拡大率(A)1000×、(B)30000×。
【図17】ケイ素PBSにてインキュベートした後における、PVD処理したチタン表面のSEM像。
【図18】SiおよびSr PBSにて37℃で1週間インキュベートした後における、熱処理したチタン表面のSEM像。
【図19】TOF−SIMSによる、生体内鉱質形成された表面におけるSiおよびSrイオンシグナルを示す図。
【図20A】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20B】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20C】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図20D】熱処理したチタン表面におけるフッ素リン灰石の成長のSEM像。熱処理したチタン表面(A)。0.2mMのF−を含むリン酸緩衝液に、60℃で、12時間(B)、1日(C)、1週間(D)浸したTiプレート。
【図21A】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図21B】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図21C】ストロンチウムイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22A】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22B】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図22C】ケイ素イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23A】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23B】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図23C】フッ化物イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングからのイオン放出曲線。
【図24】0.6mMのSrイオンを含むPBSに、(A)12時間、第1層(薄く、高密度);(B)2週間、第2層(多孔性)浸漬した後のTiO2/Ti基体の表面モフォロジーを示すSEM。
【図25】0.6および0.06mmol/lのSr−PBS溶液に、37℃および60℃で、それぞれ1週間および2週間浸漬した、酸化された基体のXRDパターン(A:アパタイト、T:チタン)。
【図26】チタンプレート上におけるストロンチウム置換されたアパタイト/二酸化チタンコーティングについてのXPSスペクトル(熱的な酸化、0.6mMのSrを含むPBS、60℃で1週間)。
【発明の詳細な説明】
【0032】
本出願において、用語「生体内鉱質形成」は、自己形成による鉱質物質の形成を意味する。本出願において、生体内鉱質形成は、必ずしも生きた生物に関与する必要な無く、インビトロおよびインビボの両方において行うことができる。
【0033】
本出願において、用語「リン酸カルシウム」は、カルシウムおよびリン酸を含む鉱質物質を意味し、ヒドロキシアパタイトもしくはブルッシャイトもしくはモネタイトもしくはアモルファスのリン酸カルシウムコーティングまたはそれらの組み合わせを含む。
【0034】
本出願において、「イオン置換」という表現は、物質内のイオンが、同一の(すなわち正または負の)電荷を有した他のイオンと交換されるプロセスを意味する。
【0035】
本発明は、生体内鉱質形成された層は、宿主組織に対するインプラントの固着および骨の再生に有益な効果があるだろうという理解に基づく。イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングは生体内鉱質形成プロセスによって得られる骨の天然のミネラルと高い類似性を有するため、イオン置換と組み合わせられた生体内鉱質形成は利点がある。その上、生体内鉱質形成プロセスは本発明による水溶液にて生じるため、それは任意の開放的な表面に適用可能であり、インプラントの任意の複雑な形状による制限を受けない。また、本発明に係る方法は低温技術であり、エネルギー効率的であり、温度に敏感な基体材料に適用できる。本発明は、とりわけ、コーティングケミストリーと、本発明に記載される方法および材料を適用することにより得られるモフォロジーとの組み合わせに関する。
【0036】
上述のUS’314と異なり、本発明は、コーティングのモフォロジーを制御するための戦略を提供する。モフォロジーは、以下で議論されるように、インビボでの組織応答の際に重要な因子であり、モフォロジーの制御は、薬剤および/またはイオン送達システムとしてのコーティングの使用を促進する。本発明は、US’314と異なり、イオン置換との組み合わせにおいて前処理工程を開示する。これは新しい技術であり、制御されたモフォロジーのコーティングのための方法を提供する。
【0037】
前処理の目的は、表面を活性化すること、すなわち、リン酸カルシウムコーティングに最適な成長条件を達成することである。好ましくは、表面は、インキュベート溶液において負の表面電荷を有するべきである。Tiインプラントに関して、小さな粒子サイズを有する結晶性二酸化チタンコーティングを形成することを主な目的として、例えば、これは、熱処理、加水分解、陽極酸化、酸もしくは塩基処理、UV放射、またはCVD、ゾル−ゲル堆積またはPVDを含む(例えば、国際公開公報第2005/055860号、米国特許第6,183,255号、J Biomed Mater Res 82A: 965-974 (2007), Applied Surface Science Vol 255 Issue 17 (2009) Pages 7723-772参照)。同じまたは同様の処理をその他の基体材料に適用することができ、前処理は1を超える処理を含むことができる。−OH、−COOH、−NH2のような基を任意に含む水溶液における表面の前処理は、先行技術に記載されるように行われる。本発明の前処理は、より速いコーティングプロセスを生じさせ、より均一な(例えば厚さ)コーティングをもたらす。任意の理論に結び付けられることなく、前処理は、コーティングが開始される核形成点を作ると考えられる。前処理されていない表面は、基体表面上の局所的変化に対して、より依存的である可能性があり、そのような変化は操作の結果でありうる。
【0038】
さらに、前処理はリン酸カルシウム層を形成することを含んでよい。この層は、当業者に既知の任意の技術に従って形成することができる。例えば、リン酸カルシウム層は、2−10のpHおよび20−100℃の温度で、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびリン酸イオンのみを含む溶液にて基体をインキュベートすることにより形成してよい。前記リン酸カルシウム層は、好ましくは、電荷を含む表面にて形成される。
【0039】
この発明は、F−、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+、Mg2+、Cl−およびCO32−といった置換イオンを使用して、イオン置換されたリン酸カルシウムをインプラント上に製造する新規の技術を提供する。当業者であれば、どのような置換イオンを使用できるかがわかる。本発明によれば、モフォロジーは、イオン置換工程において使用されるイオンまたは複数のイオンに依存する。例えば、F−イオンで置換する場合、モフォロジーは、スパイクまたはロッドを有すると評することができ(図20)、一方、ケイ素は、シートまたはフレークと評することができるモフォロジーを生成し(図17)、ストロンチウムは球状の粒子および孔を有する構造をもたらす(例えば、図14および15参照)。さらに、種々のイオンは、コーティングのための種々の溶解度係数をもたらす。例えばフッ化物置換は溶解度係数の低下をもたらし、一方、ストロンチウムまたはケイ素の添加は、ヒドロキシアパタイトと比較して溶解度係数を増大させることが以前に示された。
【0040】
孔サイズは、また、置換するイオン、温度および浸漬時間を変えることにより制御できる。
【0041】
この新規の技術は、改変された擬似的な体液並びにリン酸カルシウムコーティングにおける陽イオン性および陰イオン性の置換イオンを含むリン酸緩衝液溶液を使用した生体内鉱質形成プロセスに基づく。陽イオン性の置換イオンは、Sr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3+またはMg2+であり;陰イオン性の置換イオンはF−またはCO32−である。イオン置換のための供給源は、置換されるイオンを含む可溶性塩およびわずかに可溶性の塩、例えばSrCl2、SrCO3、Sr(NO3)2、Na2SiO3、ケイ酸カルシウム(CaOSiO2、CaO(SiO2)2、CaO(SiO2)3、ZnCl2、ZnSO4、BaCl2、FeCl3、Fe(NO3)3、NaCO3、NaF、Na2FPO4とすることができる。
【0042】
生体内鉱質形成方法によるイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの形成は、例えば、生物活性インプラント標本を、改変された擬似体液(SBF)および/または種々の陽イオンおよび/または陰イオンを含むリン酸緩衝液溶液(PBS)(表1)といった鉱質形成溶液中でインキュベートすることを含む。鉱質形成溶液は、人体に存在する主要な無機イオン、すなわちNa+、K+、Ca2+、HCO3−、HPO42−、SO42+を含んでよい。
【表1】
【0043】
上述のように、本発明は、制御されたモフォロジーを有するイオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法であって:
a)前記基体を提供すること;
b)活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d)前記基体の少なくとも一部を前記水溶液中で前記コーティングが形成されるのに十分な期間インキュベートすること
を含む方法を提供する。
【0044】
生体内鉱質形成プロセスは、複数の工程に分離することができ、各々工程は、種々のイオンおよびイオン濃度の溶液を含んでよい。手順は、例えば1−7日間、好ましくは1−3日間の鉱質形成溶液における基体のインキュベートおよび例えば1−7日間、好ましくは1−3日間、置換イオンを含む水溶液にそれを移すことを含む。この手順は、新規のコーティングにおける厚さおよび/またはイオン含有量が狙った値に達するまで繰り返される。
【0045】
上述のように、本発明は、また、制御されたモフォロジーを有したイオン置換されたリン酸カルシウムのコーティングを基体上に形成するために;
a)基体を提供すること;
b)活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d)前記基体の少なくとも一部を前記第1水溶液中で第1コーティングが形成されるのに十分な期間インキュベートすること;
e)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f)前記基体の少なくとも一部を前記第2水溶液中でコーティングの第2層が形成されるのに十分な期間インキュベートすること
を含む複数の工程において行ってよい。
【0046】
任意に、工程c)からf)は、別のコーティングのケミストリーおよびモフォロジーを含む更なる層を作るために任意の回数繰り返すことができる。
【0047】
本発明によって表面にコーティングを形成する場合の好ましい戦略は、インキュベーティングに先立ち表面を活性化することである。その活性化は、荷電基、負の基または正の基を作ることを含みうる。好ましくは、表面は、約40℃以下で浸漬される場合、負に帯電し、より高い温度では正に帯電すべきである。この活性化は、表面のイオンの誘引を高め、均一なコーティングをもたらす。
【0048】
工程b)に先立ち、例えば金属インプラント上における結晶性二酸化チタンコーティングの形成といったコーティングの成長および付着に最適な表面を達成するために、基体の表面を基体材料に最も適した様式で洗浄してよい。さらに、工程c)およびf)のそれぞれの後に、表面に対して、例えば脱イオン水またはその他の任意の適した溶媒を用いて、洗浄およびその後のすすぎを行い、または単にすすぎを行い、乾燥してよい。
【0049】
上述のように、
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である。
【0050】
置換する陽イオン、すなわちSr2+、Si4+、Zn2+、Ba2+、Fe3の濃度は0.01−0.1×10−3Mの範囲であり、置換する陰イオン、すなわちF−の濃度は1−100×10−3Mの範囲である。
【0051】
置換溶液中の陽イオンおよび/または陰イオンの量は、求められる置換量に応じて最適化してよい。カルシウムの陽イオン性置換は80%以内とすることができ、リン酸および水酸化物の陰イオン性置換は30%以内とすることができる。
【0052】
本発明に係る方法は、チタン、チタン合金、その他の金属および合金、バイオセラミクス、生体活性ガラスおよびポリマーを含む様々な基体に適用できる。
【0053】
本発明に係る方法は、好ましくは、優れた臨床的な機能を得るために、増強され且つ永続的な骨の治癒が望ましい、インプラントを固定する骨に適用することができる。そのような適用の例は、歯科インプラント、頭蓋顔面のインプラントまたは整形外科インプラントである。
【0054】
本発明によって製造されるイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの厚さは、浸漬時間、温度およびプロセス溶液のイオン濃度によって、10nmから100μmの範囲に制御することができる。浸漬時間、温度およびイオン濃度の増加は、コーティングの厚さの増大をもたらすだろう。コーティングの厚さが厚すぎる場合、コーティングの機械的特性は減少し、コーティングはより脆くなる。それゆえ、浸漬時間は、適切な厚さおよび機械的特性を得るために最適化すべきである。機械的強度および固着性に関して、コーティングの好ましい厚さは10μm未満であり、より好ましくは5μm未満である。
【0055】
本発明に係る方法は、20℃から100℃、好ましくは37℃から60℃の温度で行われる。浸漬時間、すなわち基体が生体内鉱質形成およびイオン置換溶液中に存在する時間は、1日から2週間、好ましくは1日から7日およびより好ましくは1から3日である。
【0056】
本発明に係る方法は、多孔性材料およびアンダーカットといった複雑な形状を有する表面をコーティングするのに適している。本発明は、基体表面の形状に依存せず、コーティングの均一な厚さを促進する。
【0057】
本発明に係る方法は、単一イオンの置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造に適用できるだけでなく、2つ、3つおよび4つのイオンで置換されたリン酸カルシウムコーティングにも適用できる。さらに、本方法は、様々なイオン置換および/または厚さによるコーティングによって、インプラントの一部のみのコーティング並びにインプラントの異なる部分のコーティングを可能とする。このことは、インプラントの様々な部分が種々の組織に接する場合があるため、インプラントの特性を調整することを可能とする。したがって、コーティングの種々の部分の化学的、形態的および機械的性質を、インプラントの機能を最適化するために適応させることができる。
【0058】
本発明は、さらに、本発明に係る方法によって製造され、カルシウムと、マグネシウムと、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよび/またはスルフェーオを含む、結晶性のイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングを提供する。好ましくは、コーティングは、さらに、0−5%、好ましくは1.5−3%のフッ化物、または0−10%、好ましくは3−8%のストロンチウム、または0−5%、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはそれらの組み合わせを含む。
【0059】
本発明は、さらに、以下によって決定される特異的な特性を有する結晶性のイオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティングを提供する:
a)X線回折(XRD);
b)走査型電子顕微鏡(SEM);
c)X線電子分光法(XPS);および/または
d)飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)。
【0060】
[応用]
本発明で生産できる幅広い表面コーティングに基づいて、いくつかの応用を意図することができる。
【0061】
<インプラントのための機械的エンハンサーとして>
有益な生物学的効果を有する生物活性コーティングの使用は、生物医学的インプラントへの適用に適している。これは、前記コーティングが組織へのインプラントの結合を向上させる一時的および永続的な材料を含む。特定の場合としては、迅速で永続的なインプラント周辺の骨の治癒および迅速なインプラントの固着、例えば歯のインプラント、頭蓋顔面のインプラントおよび整形外科のインプラントといった臨床的要求である。後者の例は、脊柱インプラントによる適用、関節形成、骨接合術の適用および定着装置、軟骨および軟骨下骨の欠陥、骨空隙充填剤、並びにインプラントが、骨の部分を固定し、骨を増大し、欠陥を補しおよび機能的負荷の適用を可能にすべきその他の状況を含む。疾病(例えば骨粗鬆症、糖尿病)、外傷、老化および治療(例えば放射線療法)の後の後遺症のために、いくつかの方法において損なわれる骨組織におけるインプラントは特に関心がある。
【0062】
さらに、可能性が高い状況とは、最適なインプラント表面が小さいため、成功したインプラント治療の予後がより小さい場合である。患者の解剖が、成功した予後の低下をもたらすような、例えば、初期のインプラント安定性を提供することができる少量の骨に領域をもたらすような状況にもおいても、本発明の使用は利益があるだろう。
【0063】
本発明によって提供される、インプラントの一部のコーティングまたはインプラントの種々の部分における様々なタイプのコーティングの生産の可能性は、特異的なタイプの組織に関しておよび各々の患者のために最適な生物学的性能のために、インプラントの表面特性を目的に合わせて作製する可能性を開く。皮膚または粘膜に浸透する骨固着インプラントについて、本発明は、もっぱら、骨に接しているインプラントの部分へのコーティングを適用するために使用することができる。インプラントの種々の部分における種々のコーティングの使用は、インプラントの種々の部分が接している骨組織のタイプに応じて最適な応答を提供できるコーティングを製造するために使用することもできる。皮質骨および骨髄の両方と接触する骨固着インプラントについて、インプラントの種々の部分を、これらのタイプの組織におけるパフォーマンスを最適化するよう設計された種々のコーティングで、提供することができる。
【0064】
<薬剤およびイオンの運搬システムとして>
コーティングの制御可能なモフォロジーにより、コーティング自体もまた、制御可能な様式における薬剤およびイオンの両方の送達のための沈着物として機能しうる。
【0065】
イオン置換されたコーティングは、インビボに置かれた場合、周囲の組織に必要なイオンを提供することができる。したがって、コーティング機能は、骨形成のために必須なイオンの蓄積が好ましく、これは、骨形成の特異的な制御に適し得る。これらのイオンは、Ca、F、Zn、ホスフェート、塩素、スルフェート、Ba、Fe、K、Mg、Na、カーボネート、ストロンチウムまたはシリコンでありえる。前記イオンの提供は骨再生を増強し、骨を強化してよく、骨の化学的安定性を制御し、およびおそらく、周囲の骨に対してよりよく固着するインプラントを提供し得る。
【0066】
さらに、例えば多孔性の構造には、薬剤を充填できる。その後、これらの薬剤は、モフォロジーに依存して連続的または不連続的に拡散するだろう。リン酸カルシウムコーティングは、さらに、生体再吸収性でありえ、したがって、薬剤の持続的且つ制御可能な放出を可能にするだろう。薬剤の例は、ビスホスホネート、スタチン、抗生物質、炎症抑制剤、骨成長タンパク質およびそれらの組み合わせを含む。コーティングは、予め充填されていてよく、または手術室において、インプラント留置の時に充填されてよい。
【0067】
コーティングの多層構造は、薬剤/イオン放出システムの調整を可能にする。様々な層は、モフォロジー、密度、厚さ、ケミストリーおよび当然イオン/薬剤含量において異なってよい。
【実施例】
【0068】
例1
熱処理したチタン表面に対するストロンチウム置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
10mm×10mmのチタンプレートを熱処理(800℃で2時間)し、二酸化チタン表面を得た。処理したプレートを、まずアセトン中で、続いてエタノール中で超音波により洗浄し、最後に脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。2種の鉱質形成溶液を改変リン酸緩衝食塩水(PBS)(表2参照)から得た。低濃度のSr PBSは0.06mmol/lとした。高濃度のものは0.6mmol/lとした。低濃度のものの初期pHは、37℃および60℃において、それぞれ7.20および7.21とした。高濃度のものの初期pHは、37℃および60℃において、それぞれ7.19および7.15とした。2つの試料ごとに、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、その後、それぞれ37℃および60℃のオーブンに入れた。プレートは、1週間から2週間の間の種々の時間、インキュベートした。その後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、風乾した。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【表2】
【0069】
結果を図1−9に示す。鉱質形成溶液に1および2週間浸漬された後、生体内鉱質形成されたストロンチウム置換されたリン酸カルシウムのコーティングは2層で形成された。下層は、薄く、高密度なコーティングであり、上層は、ゆるく、多孔性のコーティングであった(図8および9)。
【0070】
例2
PVD処理したチタン表面に対するストロンチウム置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
コーティングプロセスは例1と同様に行ったが、基体はPVD処理したチタンプレートとした。
【0071】
PVD処理は次の通りに行った:
チタンプレートをPVDチャンバー(Baltzer 640R)に入れた。コーティングステップ中のマグネトロン効果および酸素分圧は、それぞれ1.5kWおよび1.5×10−30mbarとした。装置の構成は、TiO2膜におけるルーティル型構造の形成が最大となるように最適化した。
【0072】
結果を図10−16に示す。
【0073】
例3
PVD処理したチタン表面に対するケイ素置換されたリン酸カルシウムコーティングの堆積
10mm×10mmのチタンプレートに例2に記載されるようにPVD処理を行い、二酸化チタン表面を得た。処理したプレートを、まずアセトン中で、続いてエタノール中で超音波により洗浄し、最後に脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。ケイ酸塩を含む鉱質形成溶液を改変リン酸緩衝食塩水(PBS)から得た。改変PBSは次のように作製した:
(1)3mgのケイ酸三カルシウムを40mlのPBS溶液に添加し、一晩撹拌した。
【0074】
(2)次に、混濁した溶液を遠心分離し、上清溶液を鉱質形成培地として使用した。
【0075】
(3)溶液のpH値および組成は、それぞれpHメーターおよびICP−AESにて分析した。
【0076】
2つの試料ごとに、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、次に、60℃のオーブンに1週間入れた。その後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【0077】
結果を図17に示す。
【0078】
例4
イオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造
その他の好ましいイオン(Mg2+、Zn2+、Ba2+、Fe3+、CO32−、F−、Cl−等)により置換されたリン酸カルシウムコーティングを、例1−3と同様のプロセスによって得ることが出来る方法により製造した。種々のイオンを含む溶液は、改変SBFおよびPBSに可溶性の塩を溶解することにより作製できる。
【0079】
これらのイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングは、生理活性セラミクス(ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、ケイ酸カルシウム、ジルコニア)、生理活性ガラス(45S5 bioglass(登録商標)、AW glass−ceramics、bioactive 58S glass)、金属(チタン、チタン合金、ステンレススチール、CoCrMo合金)、炭素およびポリマー(コラーゲン、グルテン、PLGA、PGA)といった基体上に製造する。
【0080】
例5
SiおよびSrの共置換されたリン酸カルシウムコーティングの製造
基体の処理プロセスは、例1に記載されるように行った。
【0081】
ケイ酸塩およびストロンチウムを含む溶液は改変リン酸緩衝食塩水(PBS)から得た。この例において、ケイ酸塩の供給源は、ケイ酸ナトリウム溶液とし、ストロンチウムの供給源は硝酸ストロンチウムとした。Siイオン濃度は0.075−0.15mMに調整し、Srイオン濃度は0.06−0.6mMに調整した。
【0082】
試料を、密封したプラスチックボトルに入った40mlの予熱した溶液に浸漬し、その後、37℃のオーブンに1週間入れた。インキュベーションの後、全ての試料を脱イオン水ですすぎ、37℃で乾燥させた。試料は、その後、薄膜X線回折法(TF−XRD)、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)、X線電子分光法(XPS)スペクトルおよび飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)を使用して分析した。
【0083】
結果を図18−19に示す。分析により、共置換されたアパタイトコーティングが基体上に形成されたことが示された(SEM画像を参照)。TOF−SIMSの結果は、表面にSiおよびSrイオンのシグナルが存在したことを示す。ΣCa/ΣSrは約0.83であり、ΣSiOx/ΣPOxは約0.08であった。これらの結果は、SiおよびSr共置換されたアパタイトコーティングが熱処理されたTi基体上に形成されたことを示す。
【0084】
例6
骨の鉱物質は多置換型リン酸カルシウムである。これらのイオン置換の1つであるストロンチウムは、骨の強度を増大させ、骨吸収を提言させることが証明されている。バイオミメティクスは、好ましい骨組織応答を提供し、それにより骨とインプラントとの間における固定を増強する表面を製造するための潜在的な方法である。ここで、我々は、骨鉱質形成を模すことで、二層のストロンチウム置換されたアパタイトおよび二酸化チタンコーティングをチタン基体上に製造した。結晶性酸化チタン基体上におけるバイオミメティックコーティング沈殿によって形成されたSr−置換コーティングのモフォロジー、結晶化度、表面化学および組成を、種々のSrイオン濃度のリン酸緩衝食塩水におけるインキュベートの温度および時間の関数として調べた。バイオミメティックアパタイトのモフォロジーは、純粋なヒドロキシアパタイトの場合の平板状から、Srイオン置換によって球状に変化した。表面の分析から、アパタイトにおいて10%−33%のCaイオンがSrイオンに置換され、Srイオンは、アパタイトに化学的に結合し、アパタイトの構造中にうまく取り込まれたことが示された。
【0085】
結果を図24から26に示す。
【0086】
例7
酸化チタン上におけるフッ化物イオン置換
フッ化ナトリウムおよびダルベッコのリン酸緩衝食塩水(PBS)(D8662、Sigma−Aldrich、USA)をインキュベートの媒質として使用した。PBSのイオン組成は、Na+(145mM)、K+(4.3mM)、Mg2+(0.49mM)、Ca2+(0.91mM)、Cl−(143mM)、H2PO4−(1.6mM)およびHPO42−(8.1mM)とした。全ての化学物質は分析用等級の試薬とし、更に精製を行うことなく受け取った状態で使用した。得られたリン酸緩衝食塩水を、種々のNaFの添加により改変した。チタン(2等級、純度99.4%)をEdstraco AB (Sweden)から購入した。Tiプレートは、5℃/minのランピング速度で、800℃で1時間処理した。
【0087】
この方法により、ルーティル型構造を有する結晶性TiO2表面が製造されることが示された。熱処理後、プレートを、改変リン酸緩衝食塩水におけるインキュベートの前に、超音波バスに別々に含まれるアルカリ溶液(1M NaOH)、エタノールおよび脱イオン水の別々の超音波バスにて処理した。
【0088】
フッ化リン酸カルシウムのバイオミメティック成長
バイオミメティックコーティングを、予め処理したTiプレートをCa2+、H2PO4−、HPO42−およびF−を含むリン酸緩衝液にてインキュベートすることで製造した。Fイオンの濃度は、0、0.04mMおよび0.2mMであった。Ca/Pの比率は、溶液中でほぼ1/10とした。pH値は、初期段階において7.4に調整した。チタンプレート(10mm×10mm×1mm)ごとに、密封したプラスチックボトル中の20mlのイオン添加リン酸緩衝液に浸漬し、撹拌することなく、1日から2週間の期間、37℃または60℃に保持した。より長いインキュベーティングの時間について、溶液を3日ごとに交換し、カルシウム、リン酸およびフッ化物イオンの枯渇を回避した。浸漬後、溶液からサンプルを取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させた。
【0089】
特徴づけ
試料のモフォロジーは、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM、LEO 1550)を使用して画像化した。コーティングの断面画像は、コーティングを基体から剥がした領域から得た。試料の結晶化度をX線回折法(Siemens Diffractometer 5000)を用いて、Cu Kα 放射 (λ=1.5418オングストローム)により分析した。回折計は、45kV、40mA、2°の固定入射角および10°−80°の2θレンジで操作した。試料の組成およびケミストリーは、X線電子分光法(XPS、Physical Electronics Quantum 2000、Al Kα X−ray source)スペクトルによって分析した。F1sピークについてのXPSサーベイスペクトルおよび高分解能スペクトルを取得した。
【0090】
得られたコーティングのモフォロジーは針状であり、ルーティルTiO2表面上に容易に蓄積した。ヒドロキシアパタイト針の直径は約10−20nmであり、歯のエナメル質における鉱物質に非常に近かった。
【0091】
例8
フッ化ナトリウムおよびダルベッコのリン酸緩衝食塩水(PBS)(D8662、Sigma−Aldrich、USA)を浸漬の媒質として使用した。PBSのイオン組成は、Na+(145mM)、K+(4.3mM)、Mg2+(0.49mM)、Ca2+(0.91mM)、Cl−(143mM)、H2PO4−(1.6mM)およびHPO42−(8.1mM)とした。全ての化学物質は分析用等級の試薬とし、更に精製を行うことなく受け取った状態で使用した。
【0092】
得られたコーティングのモフォロジーは針状であり、ルーティルTiO2表面上に容易に蓄積した。熱処理後に得られるTi表面上におけるルーティルコーティングは粗く、マイクロメータサイズの粒子を含んだ。基体を0.2mMのFイオンを含む溶液に60℃で12時間浸漬した後、針状粒子の分離した束が表面において成長した。1日の浸漬の後、基体から成長するFHA針の量は増大した。フッ化物置換されたヒドロキシアパタイト(FHA)針の直径は約10−20nmであり、歯のエナメル質における鉱物質に非常に近かった。浸漬時間が1週間に増大したとき、FHA針アレイの連続的且つ均質なコーティングが形成された。非改変リン酸緩衝食塩水を使用する同様の方法によって形成される通常のフレーク状HA結晶と異なり、FHA粒子のモフォロジーは針状であり、よく配列している様子を見ることが出来る。
【0093】
例9
表面イオン放出
実験
(1)PBSおよびTris−HClの初期pH値は7.40である。
(2)イオン(Sr、Si、FおよびMg)が添加されたリン酸カルシウムを有する2つの基体を、密封されたボトル内の10ml溶液に入れ、37℃のオーブンに入れる。
(3)分析のために2mlの溶液を取り出し、2mlの新鮮な溶液を、各々の時点においてボトルに添加した。
(4)イオン濃度をICP−OES(誘導結合プラズマ光学的分光法)により分析した。
【0094】
イオンの持続的な放出が見られ、放出速度はイオンおよびpHによって制御できた。単一のイオンの放出だけでなく、2つのイオンの放出も可能であることが示された。
【0095】
イオン放出の結果を図21から23に示す。
【0096】
[参考文献]
1. M. Vallet-Regi, J.M.G. Calbet, Calcium phosphate as substitution of bone tissues. Progress in Solid State Chemistry 2004;32:1-31.
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15. Li P. Patent: Strontium substituted apatite coating. US 6,905,723 B2 2005.
16. Li P. Patent: Bioactive ceramic coating and method. US 6,569,489 B1 2003.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御されたモフォロジーを有する、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法であって:
a.前記基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d.前記水溶液中にて、前記コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む方法。
【請求項2】
制御されたモフォロジーを有する、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための前記方法が:
a.基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d.前記第1水溶液中にて、第1コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること;
e.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、前記溶液は6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f.前記第2水溶液中にて、コーティングの第2層が形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
別のコーティングケミストリーおよびモフォロジーを任意に含む更なる層を作るために、工程c)からf)が繰り返される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理はリン酸カルシウム層の形成を含む請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理は、熱処理、加水分解、酸化、酸もしくは塩基処理、陽極酸化、UV照射、CVD、ゾル−ゲルまたはPVDを含む請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理は、前記基体表面上に荷電した基の形成をもたらす請求項4に記載の方法。
【請求項7】
各々の溶液における浸漬時間は、最長で2週間、好ましくは1週間未満およびより好ましくは3日未満である請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である
請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
カルシウムと、マグネシウムと、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよびスルフェートの1以上とを含む、イオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティング。
【請求項10】
前記カルシウムの陽イオン性の置換は、最大で80%であり、好ましくは25−60%である請求項9に記載の表面コーティング。
【請求項11】
前記ホスフェートの陰イオン性の置換は、最大で30%であり、好ましくは10−25%である請求項9または10に記載の表面コーティング。
【請求項12】
前記コーティングは、0−5%の、好ましくは1.5−3%のフッ化物、もしくは0−10%の、好ましくは3−8%のストロンチウム、もしくは0−5%の、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはこれらの組み合わせを含む請求項9から11の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項13】
前記コーティングのモフォロジーは、シート、フレーク、球、多孔質構造、スパイクもしくはロッドまたはそれらの組み合わせの形状である請求項9から12の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項14】
前記コーティングは複数の層を含む請求項9から13の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項15】
前記コーティングは生体再吸収性である請求項9から14の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項16】
請求項7から13の何れか1項に記載のイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの薬剤および/またはイオン送達システムとしての使用。
【請求項1】
制御されたモフォロジーを有する、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための方法であって:
a.前記基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、2.0から10.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;および
d.前記水溶液中にて、前記コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む方法。
【請求項2】
制御されたモフォロジーを有する、イオン置換されたリン酸カルシウムの表面コーティングを基体上に形成するための前記方法が:
a.基体を提供すること;
b.活性化した表面を作るために前記基体を前処理すること;
c.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含み、6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する水溶液を提供すること;
d.前記第1水溶液中にて、第1コーティングが形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること;
e.カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン並びにSr2+、Si4+、F−、Ba2+、Fe3およびZn2+から選択される1以上の置換イオンを含み、任意にナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンおよび硫酸イオンから選択される1以上のイオンを更に含む第2水溶液であって、前記溶液は6.0から8.0の範囲の初期pHおよび20℃から100℃の温度を有する第2水溶液を提供すること;および
f.前記第2水溶液中にて、コーティングの第2層が形成されるのに十分な期間、前記基体の少なくとも一部をインキュベートすること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
別のコーティングケミストリーおよびモフォロジーを任意に含む更なる層を作るために、工程c)からf)が繰り返される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理はリン酸カルシウム層の形成を含む請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理は、熱処理、加水分解、酸化、酸もしくは塩基処理、陽極酸化、UV照射、CVD、ゾル−ゲルまたはPVDを含む請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理は、前記基体表面上に荷電した基の形成をもたらす請求項4に記載の方法。
【請求項7】
各々の溶液における浸漬時間は、最長で2週間、好ましくは1週間未満およびより好ましくは3日未満である請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
カルシウムイオンの濃度は、0.01−25×10−3M、好ましくは0.5−2.5×10−3Mの範囲であり;
マグネシウムイオンの濃度は、0.01−15×10−3M、好ましくは0.2−1.5×10−3Mの範囲であり;
ナトリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
カリウムイオンの濃度は、0.01−1420×10−3M、好ましくは1.0−5.0×10−3Mの範囲であり;
塩化物イオンの濃度は、0.01−1030×10−3M、好ましくは100−150×10−3Mの範囲であり;
リン酸イオンの濃度は、0.01−10×10−3M、好ましくは1.0−10×10−3Mの範囲であり;
炭酸イオンの濃度は、0.01−270×10−3M、好ましくは1.0−50×10−3Mの範囲であり;
硫酸イオンの濃度は、0.01−5×10−3M、好ましくは0.1−1.0×10−3Mの範囲である
請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
カルシウムと、マグネシウムと、ホスフェートと、ストロンチウム、ケイ素、フッ化物、バリウム、鉄および亜鉛の1以上と、任意にナトリウム、カリウム、塩化物、カーボネートおよびスルフェートの1以上とを含む、イオン置換されたリン酸カルシウム表面コーティング。
【請求項10】
前記カルシウムの陽イオン性の置換は、最大で80%であり、好ましくは25−60%である請求項9に記載の表面コーティング。
【請求項11】
前記ホスフェートの陰イオン性の置換は、最大で30%であり、好ましくは10−25%である請求項9または10に記載の表面コーティング。
【請求項12】
前記コーティングは、0−5%の、好ましくは1.5−3%のフッ化物、もしくは0−10%の、好ましくは3−8%のストロンチウム、もしくは0−5%の、好ましくは0.5−2%のケイ素、またはこれらの組み合わせを含む請求項9から11の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項13】
前記コーティングのモフォロジーは、シート、フレーク、球、多孔質構造、スパイクもしくはロッドまたはそれらの組み合わせの形状である請求項9から12の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項14】
前記コーティングは複数の層を含む請求項9から13の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項15】
前記コーティングは生体再吸収性である請求項9から14の何れか1項に記載の表面コーティング。
【請求項16】
請求項7から13の何れか1項に記載のイオン置換されたリン酸カルシウムコーティングの薬剤および/またはイオン送達システムとしての使用。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図24】
【図25】
【図26】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図24】
【図25】
【図26】
【公表番号】特表2012−525201(P2012−525201A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508432(P2012−508432)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050461
【国際公開番号】WO2010/126436
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511260861)バイオマトセル・エービー (2)
【氏名又は名称原語表記】Biomatcell AB
【住所又は居所原語表記】Erik Dahlbergsgatan 11A, SE−411 26 Goeteborg, Sweden
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050461
【国際公開番号】WO2010/126436
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511260861)バイオマトセル・エービー (2)
【氏名又は名称原語表記】Biomatcell AB
【住所又は居所原語表記】Erik Dahlbergsgatan 11A, SE−411 26 Goeteborg, Sweden
【Fターム(参考)】
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