説明

イソシアネート系化合物の分解回収方法

【課題】イソシアネート化合物は、蒸留による精製の化学プロセス時、イソシアネート化合物の蒸留残渣が生成し、イソシアネート、尿素、イソシアネートのタール状オリゴマーなど、イソシアネート系化合物の混合物となる。これまで、このようなイソシアネート系化合物の混合物には利用価値がなく、焼却などによって廃棄処分が行われてきた。よって、処理方法として、イソシアネート系化合物の分解方法および分解物の回収方法を提供することが課題である。【解決手段】 イソシアネート系化合物の混合物を、アルコール化合物またはフェノール化合物によって高温状態で分解する。温度範囲は、アルコール化合物を用いた場合では180℃から250℃、フェノール化合物では120℃から210℃であり、分解によって生成したカルバメートを純品または混合物の一部として回収する。カルバメートのさらなる熱分解によって、イソシアネートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソシアネート系化合物の化学処理に関するものである。より詳細には、本発明は、蒸留による精製の化学プロセス時に生成するイソシアネート重合体などのイソシアネート系化合物の混合物を、高温状態の、ヒドロキシル基を有する有機物(以下、略して「ヒドロキシル化合物」)、すなわちアルコール化合物またはフェノール化合物を用いることによって化学的に分解して固定化し、再利用可能な誘導体として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート化合物は、主にポリウレタン合成の原料として広範に用いられており、製造するポリウレタンの用途に合わせて、さまざまな種類のイソシアネートが合成され使用されている。イソシアネート化合物で代表的なものには、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)とトリレンジイソシアネート(TDI)があり、2つを合わせると、イソシアネート化合物生産量の大部分を占めている。
【0003】
イソシアネート化合物の合成方法として、これまで、 (1)ホスゲン化法、(2)ニトロ+一酸化炭素法、(3)カルバメート熱分解法の3種類が有望な方法として考案されているが、現行法では、上記(1)のホスゲン化法によるジイソシアネートの合成がほぼ100%を占めており、上記MDIとTDIの合成法もそうである。例えばTDIの場合、トルエンのニトロ化によってジニトロトルエンを合成し、それに続く水素化でトリレンジアミン(TDA)を得る。このTDAのホスゲン化によって粗TDIを得、蒸留工程で精製してTDIの製品となる。
【0004】
このように現行法では、イソシアネート合成法として、ほぼ上記(1)のホスゲン化法のみが用いられているが、(2),(3)のいずれの方法を用いた場合においても、製造の最終段階として、副生成物を除くために粗イソシアネート化合物の蒸留による精製過程が不可欠である。
【0005】
しかるに、粗イソシアネート化合物の蒸留による精製では、大量の蒸留残渣が生成する。この残渣には、イソシアネート、尿素、イソシアネートのタール状オリゴマー、ウレタン、イソシアヌレート、アロファネート、ビュレット、ウレタジオン、カルボジイミド、ウレタンイミンや他の副生物が含まれており、利用が難しいことから、現在はそのほとんどが焼却または廃棄によって処分されている。
【0006】
特に、このような残渣は、分子中に窒素原子を含むため、焼却を行うとシアンや窒素酸化物などの有害ガスが発生する。TDIを例にとると、生産量は日本国内だけで13万トン/年に及んでおり、蒸留残渣の処理方法は、開発が望まれているものの一つである。それ故、蒸留残渣を資源として有効活用することは、経済効果のみならず、地球環境を保護する立場からみても、非常に重要である。
【0007】
イソシアネート蒸留残渣の混合物を、高温高圧水を用いて加水分解する方法が提案されている(特開平10−279539号、特表2002−518369号、海外においては、米国特許3225094、同4137266、英国公報991387、同1047101など)。これらの方法によれば、イソシアネート、尿素、イソシアネートのタール状オリゴマーなどのイソシアネート系化合物を分解し、それぞれに対応するアミンにまで分解・回収することができるので、再度精製処理を施した後にホスゲン化法を用いれば、当該イソシアネート化合物を得ることができる。
【0008】
しかし、上記方法では高温高圧水を用いているため、イソシアネート蒸留残渣の分解条件が厳しく、装置が腐食して頻繁な装置部品の交換等、技術的困難さを伴うと考えられる。また、イソシアネート系分解対象化合物をジアミンにまで分解してしまうため、猛毒のホスゲンを使用したハロゲン化プロセスを用いてイソシアネートを再生しなければならない。また、副生成物として大量の塩酸が生成するなど、マテリアルバランスが悪く、コスト的にも不利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、イソシアネート化合物は、蒸留による精製の化学プロセス時、イソシアネート化合物の蒸留残渣が生成し、イソシアネート、尿素、イソシアネートのタール状オリゴマーなど、イソシアネート系化合物の混合物となる。これまで、このようなイソシアネート重合体混合物には利用価値がなく、焼却などによって廃棄処分が行われてきた。また、高温高圧水による処理方法でも、種々の困難を伴うと考えられる。そこで本発明では、従来技術に比してより穏和な条件で、かつコストイフェクティブにイソシアネート蒸留残渣を分解する方法とその分解物の利用法を確立することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、イソシアネート蒸留残渣を分解対象とし、高温のアルコール化合物またはフェノール化合物を用いて分解・回収する方法に関する。蒸留残渣には、主にイソシアネートやイソシアネートのタール状オリゴマーなどが含まれているが、高温のアルコールまたはフェノールにより、イソシアネートはアルコールまたはフェノールのブロック化物であるカルバメートに化学的に変換され、イソシアネート重合物はアルコールまたはフェノールによって低分子量に分解された後、カルバメートとなる。
【0011】
得られた分解混合物は、分解溶媒とカルバメート、および副生成物からなるが、蒸留操作によって分解溶媒のアルコールまたはフェノールを取り除き、カルバメートを得る。カルバメートは、保存性に適するため、フィラーなどの用途に用いることもできるが、公知の方法であるカルバメートの熱分解によって、イソシアネートを高効率に得ることができる。カルバメートの熱分解温度は、アルコールによるカルバメートでは約210℃、フェノールによるものでは約170℃であるので、それ以上の温度でカルバメートの熱分解を行うことによりイソシアネートを容易に得ることができる。
【0012】
イソシアネート蒸留残渣分解の温度範囲は、アルコール化合物を分解溶媒として使用した場合では180℃から250℃、フェノール化合物では120℃から210℃で行う。分解を液相か高密度流体で行うために、アルコールの場合は沸点を超えた温度範囲であるので、バッチ式の圧力容器を用いるか、連続式の高温高圧反応装置を用いる。フェノールの場合は沸点が200℃前後であるので、通常の反応装置を用いることができる。高温における分解反応であり、反応基質および生成物の酸化分解を防ぐため、反応は窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス中で行うか、密閉系で行う。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明のイソシアネート残渣分解回収方法を用いれば、容易にイソシアネート蒸留残渣を分解し、分解生成物としてイソシアネートブロック化物であるカルバメートを回収することができる。カルバメートは室温で安定な化合物であるため、保存に適するが、加熱分解することによって、容易にイソシアネートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法において、分解の対象とされるイソシアネート蒸留残渣は、イソシアネート化合物の蒸留精製時に発生するものを主目的としているが、必ずしも「蒸留後」の残渣である必要はなく、イソシアネート化合物、イソシアネート化合物のオリゴマー、尿素化合物など、アルコール化合物やフェノール化合物によって分解・回収が可能なイソシアネート系化合物またはその混合物であればよい。また、その形状は、特に制限はなく、固体、液体、あめ状の粘性液体、ガラス状態でもよい。
【0015】
上記のイソシアネート化合物としては、例えば、4,4'−メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)などの芳香族ジイソソシアネート、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)などの脂環族ジイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、および、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)などがあり、この中から一種類または数種類からなる混合物由来の蒸留残渣が挙げられる。
【0016】
本発明の方法では、高温状態のアルコール化合物またはフェノール化合物によって、イソシアネート残渣の分解を行い、分解生成物としてカルバメートをイソシアネート再生の原料またはフィラーなどの用途のために回収する。
【0017】
イソシアネート蒸留残渣分解の温度範囲は、分解溶媒、分解速度、分解率、プロセスパラメータなど、種々の条件を勘案して最適化されるべきであるが、例えばアルコール化合物を用いる場合、180℃から250℃の温度範囲が望ましい。分解は液相か高密度流体で行うのが好ましいが、アルコールの場合は沸点を超えた温度範囲であるので、バッチ式の圧力容器を用いるか、連続式の高温高圧反応装置を用いる。
【0018】
フェノール化合物を使用した場合では、120℃から210℃の温度範囲が望ましい。フェノール化合物は、一般的に沸点が200℃前後であるので、通常の反応装置を用いることができる。例えばフェノール化合物の一つであるp−クレゾールは、常圧下における融点が34.7℃、沸点が201.9℃であり、200℃でイソシアネート蒸留残渣を分解する場合には、加圧の必要がない。また、沸点以上の温度、たとえば210℃で分解する場合にも、若干の加圧をすることにより、液体状態を維持することができる。このように、フェノール化合物を用いた場合には、分解時の溶媒の分圧を低く抑えることができ、反応系の圧力を低くすることができる。
【0019】
反応は高温における分解反応であるため、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス中で行うか、密閉系で行うことが望ましい。そうしないと、酸化分解反応が起こる可能性があるからである。反応条件として、反応温度、反応時間を適宜決めることができるが、アルコールの場合250℃、フェノールの場合210℃を超えた温度で長時間反応させると、生成したカルバメートが脱炭酸反応を起こすなど、都合の悪い反応を起こす場合がある。また、反応温度がアルコールの場合180℃、フェノールの場合120℃よりも低い場合、カルバメートを十分な収率で得られない場合がある。
【0020】
分解溶媒として用いる物質は、一般的なアルコール化合物、フェノール化合物なら何でもよいが、コストや扱いやすさ、毒性などを考慮すると、アルコール化合物であるならメタノール、エタノール、プロパノールなどが望ましく、フェノール化合物なら、フェノール、クレゾールの使用が望ましいが、イソシアネート蒸留残渣との反応性、生成したブロック化物であるカルバメートの物性、特に、熱分解挙動などを勘案して決定されるべきである。
【0021】
このように、イソシアネート蒸留残渣を、高温状態のアルコール化合物またはフェノール化合物によって分解することができるが、分解温度が低い場合には、分解反応時間が長くかかる場合がある。その場合には、有機スズ化合物や三級アミン類などの触媒を用いて分解することにより、分解にかかる反応時間を短くすることができる。分解反応の性質上、ポリウレタン合成に使用される触媒などを、分解反応の触媒として用いることができると考えられる。触媒として、例えば、ジラウリン酸ジブチルスズ(DBTDL)、オクチル酸鉛、スタナスオクトエートなどの有機金属触媒、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N,N
−ジメチルシクロヘキシルアミンなどのアミン類が使用に適し、そのうちのいずれか一種、ないしは二種かそれ以上の混合物を触媒として選択することができる。また、触媒を使用した反応では、分解反応や重合反応など、カルバメートを回収する上で好ましくない反応が起こる場合があるので、できるだけ低い温度で分解反応を行うことが望ましい。
【0022】
本発明の方法で得られる分解生成物は、イソシアネートのアルコール化合物またはフェノール化合物によるブロック化生成物であるカルバメートである。カルバメートは、熱分解によって容易にジイソシアネートとアルコール化合物またはフェノール化合物に分解される。このため、イソシアネート蒸留残渣からイソシアネート化合物を高効率に回収でき、得られたイソシアネート化合物をポリウレタン合成などの各種原料として使用することができる。
【0023】
イソシアネート蒸留残渣とアルコール化合物またはフェノール化合物との混合割合は、イソシアネート蒸留残渣の種類や形状などによって適宜選択されるが、蒸留残渣とアルコールまたはフェノール化合物とを直接接触させる場合の、アルコールまたはフェノール化合物の使用量が、蒸留残渣1重量部に対して、0.5重量部以上が目安となる。蒸留残渣は一般的に粘性が高いため、流動性を確保するに十分な量の溶媒を必要とし、アルコールまたはフェノールの重量を1重量部以上とするのが望ましい。流動性を確保するために、別の溶媒を用いた場合には、アミド結合(−NHCO−)と等モル量かそれ以上のヒドロキシル基(−OH)が含まれるようにアルコールまたはフェノール化合物の重量を決定する。
【0024】
高温状態のヒドロキシル化合物、望ましくは180℃以上250℃未満のアルコール、または120℃以上210℃未満のフェノール化合物を用いて反応を行うことにより、イソシアネート残渣中の各成分がヒドロキシル化合物とそれぞれの反応をする。例えば、イソシアネート化合物は(化1)のように、イソシアネート化合物にヒドロキシル化合物が付加(ブロック化)してカルバメート(ヒドロキシル化合物によるブロック化物)を生成する。また、イソシアネート化合物のオリゴマーは(化2)のように反応して、より低分子量のカルバメートを与える。尿素化合物の場合は(化3)のように分解してカルバメートとアミン化合物が生成する。このようにして得られたカルバメートは、加熱分解操作を行うことにより、(化4)のように分解して、イソシアネート化合物とヒドロキシル化合物に分離する。ここで、(化1)〜(化4)中、R1,R2,R3,Rはアルキル基またはアリール基である。
【0025】
(化1)R1-NCO + R2OH → R1-NH-CO-OR2(化2)(-NR1-CO-)n + nR2OH → nR1-NH-CO-OR2(化3)R3-NH-CO-NH-R + nR2OH → R3-NH-CO-OR2 + R-NH2または、R3-NH-CO-NH-R + nR2OH → R-NH-CO-OR2 + R3-NH2(化4)R1-NH-CO-OR2 → R1-NCO + R2-OH
【0026】
このような分解反応は、耐圧容器中においてバッチ方式で直接加熱分解してもよく、また、イソシアネート蒸留残渣を、導入が容易なように流動化もしくは液状化した後、これを分解管に連続フィードすることによって、連続式で加熱分解してもよい。流動化または液状化の方法は、分解反応に先だって、分解に使用する溶媒と混ぜ合わせるか、または分解反応に対して不活性な溶媒に溶解させるなどが考えられる。
【0027】
分解反応に不活性な溶媒としては、例えばトルエン、メチルペンタノン、N−メチルピロリドン、DMF、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、アセトン等、多くの溶媒を挙げることができるが、残渣をこれらの溶液として導入した場合のプロセスは適宜、設計することができる。すなわち、低沸点の溶媒を用いた場合、反応系内の圧力が高くなることを防ぐために、全ての反応試剤を導入後、先に低沸点溶媒を蒸留操作によって除去することなどである。
【0028】
分解後の主生成物は、上記したように、イソシアネート系化合物とヒドロキシル化合物が反応してできたカルバメートである。カルバメートを溶媒および副生物から分離・回収する方法は、何ら制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、用いたヒドロキシル化合物がアルコールである場合には、アルコールを蒸留することで除くことができる。ヒドロキシル化合物として、フェノール化合物を用いた場合には、分解混合物からフェノール化合物を蒸留する方法や、フェノール化合物をアルカリによって中和して生成した塩を、水で抽出して取り除くことができる。副生物として、アミン化合物が存在する場合、アミン化合物を極性溶媒に溶解させて取り除くといったことも考えられる。
【0029】
得られたカルバメートは、室温で安定な物質であり、保存する上で安定性に優れているが、熱分解をすることにより、容易にもとのヒドロキシル化合物とイソシアネート化合物に分離するので、カルバメートをイソシアネートの原料とすることができる。必要であれば、触媒類、例えばジラウリン酸ジブチルスズや三級アミン化合物を用いることにより、このカルバメートをより低い温度で分解することができる。
【0030】
このように、本発明のイソシアネート残渣分解回収方法を用いれば、カルバメートを、イソシアネート化合物の原料またはフィラー用途として容易に回収することができる。
【実施例】
【0031】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
合成例1.イソシアネート蒸留残渣(TDI残渣)の調製 還流管を取り付けたナス型フラスコにTDI(2,4−トリレンジイソシアネート)を14.15g仕込み、窒素雰囲気下、254℃でTDIを還流させて5時間反応させた。得られた反応混合物からTDI残渣を取り出すため、100℃,0.3mbarで真空蒸留した。その結果、あめ色の蒸留残渣を6.09g(収率43%)、無色透明の液体留出分を7.04g得た。蒸留残渣について、LC測定(GPCカラム)によって分析したところ、重量平均分子量が約1,000であることがわかった。蒸留残渣のFT−IR測定結果から、蒸留残渣はほぼTDIとそのオリゴマーからなると考えられた。
【0033】
実施例1.TDI蒸留残渣のメタノールによる分解(反応温度200℃) TDI蒸留残渣を、SUS−316製のチューブとのプラグで構成したチューブ型容器に3g仕込み、メタノールを10g加えた後、中の空気を窒素ガスで置換して封じた。この容器を、200℃に熱した電気炉に入れて加熱することにより、反応を行った。22時間後、分解溶液のFT−IR測定を行ったところ、分解が完了していることがわかった。
【0034】
分解溶液のLC−MS測定とGC−MS測定の結果、高分子量の残渣は完全に分解され、生成物はカルバメートが主であったが、他に脱炭酸生成物と考えられる副生物が何種類か生成していた。分解溶液から揮発分を蒸留によって除き、TG−DTAを測定した。TG−DTA測定の結果、メタノール分解によるカルバメートの分解点が210℃であることがわかった。
【0035】
実施例2.TDI蒸留残渣のメタノールによる分解(反応温度250℃) 反応温度250℃で、実施例1と同様にTDI蒸留残渣の分解実験を行った。反応4時間後、分解混合物を回収し、LC−MS測定、GC−MS測定、TG−DTA測定を行ったところ、実施例1と同じ分解率、測定結果が得られた。反応8時間後、分解混合物にカルバメートはほとんど含まれておらず、カルバメートの脱炭酸生成物やその他の副生成物が生成した。
【0036】
実施例3.TDI蒸留残渣のエタノールによる分解(反応温度200℃) 実施例1のメタノールの場合と同様に、TDI蒸留残渣をエタノールで分解した。SUS−316製のチューブとのプラグで構成したチューブ型容器にTDI蒸留残渣を3g仕込み、エタノールを10g加えた後、中の空気を窒素ガスで置換して封じた。この容器を、200℃に熱した電気炉に入れて加熱することにより、反応を行った。22時間後、分解溶液のFT−IR測定を行ったところ、分解が完了していることがわかった。
【0037】
分解溶液のLC−MS測定とGC−MS測定の結果、高分子量の残渣は完全に分解され、カルバメートがほぼ100%の純度で生成したことがわかった。分解溶液から揮発分を蒸留によって除き、TG−DTAを測定した。TG−DTA測定の結果、エタノールによるカルバメートの分解点が200℃であることがわかった。
【0038】
実施例4.TDI蒸留残渣のエタノールによる分解(反応温度250℃) 反応温度250℃で、実施例3と同様に分解実験を行った。反応4時間後、分解混合物を回収し、LC−MS測定、GC−MS測定、TG−DTA測定を行ったところ、生成物はカルバメートが主であったが、他に脱炭酸生成物と考えられる副生物が何種類か生成していた。反応8時間後の分析でも反応4時間後の結果と同様、カルバメートが主生成物であるが副生成物も含まれていた。
【0039】
実施例5.TDI蒸留残渣の1−プロパノールによる分解(反応温度200℃) 実施例1,3の場合と同様の手順で、1−プロパノールを用いてTDI蒸留残渣を分解した。反応時間22時間後、分解溶液のFT−IR測定を行ったところ、分解が完了していることがわかった。分解溶液のLC−MS測定とGC−MS測定の結果、高分子量の残渣は完全に分解され、カルバメートがほぼ100%の純度で生成したことがわかった。分解溶液から揮発分を蒸留によって除き、TG−DTAを測定した。TG−DTA測定の結果、1−プロパノールによるカルバメートの分解点が215℃であることがわかった。
【0040】
実施例6.TDI蒸留残渣の2−プロパノールによる分解(反応温度200℃) 実施例1,3,5の場合と同様の手順で、2−プロパノールを用いてTDI蒸留残渣を分解した。反応時間22時間後、分解溶液のFT−IR測定を行ったところ、分解が完了していることがわかった。分解溶液のLC−MS測定とGC−MS測定の結果、高分子量の残渣は完全に分解され、カルバメートがほぼ100%の純度で生成したことがわかった。分解溶液から揮発分を蒸留によって除き、TG−DTAを測定した。TG−DTA測定の結果、2−プロパノールによるカルバメートの分解点が210℃であることがわかった。
【0041】
実施例7.TDI蒸留残渣のp−クレゾールによる分解(反応温度150℃)TDI蒸留残渣のp−クレゾールによる分解を150℃で行った。3つ口フラスコに2.0gのTDI蒸留残渣を量り取り、31.2gのp−クレゾールを加え、窒素気流下で19時間反応させた。真空蒸留によって分解混合物からp−クレゾールを除去し、LC−MS(GPCカラム使用)、GC(FID)、TG−DTA測定を行った。これらの分析から、分解混合物はほぼ100%カルバメートであることがわかった。カルバメートの分解点は、170℃であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
イソシアネート化合物は、ポリウレタン合成の原料として大量に生産されている。例えばイソシアネート化合物の一つであるTDIは日本国内だけで13万トン/年にも達するが、原料精製時に大量に発生する残渣は焼却などによって処分されているのが実情である。以上述べてきたように、本発明のイソシアネート残渣分解回収方法を用いれば、容易にイソシアネート蒸留残渣を分解し、分解生成物としてイソシアネートブロック化物であるカルバメ
ートを回収することができる。カルバメートは室温で安定な化合物であるため、保存に適し、フィラー用途に用いることもできるし、加熱分解することによって、容易にイソシアネート原料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留による精製の化学プロセス時に生成するイソシアネート重合体などのイソシアネート系化合物の混合物を、アルコール化合物またはフェノール化合物を分解溶媒として用いて分解し、分解生成物の少なくとも一部分をカルバメートとして回収することを特徴とする、イソシアネート系混合物の分解・回収方法。
【請求項2】
イソシアネート系化合物の混合物を、180℃〜250℃のアルコール化合物を用いて分解することを特徴とする、請求項1記載の分解・回収方法。
【請求項3】
イソシアネート系化合物の混合物を、120℃〜210℃のフェノール化合物を用いて分解することを特徴とする、請求項1記載の分解・回収方法。
【請求項4】
分解溶媒として、低級アルコール(C1〜C4)を用いる請求項2に記載の分解回収方法
【請求項5】
分解溶媒として、フェノールまたはクレゾールを用いる請求項3に記載の分解回収方法
【請求項6】
分解生成物であるカルバメートを回収後、さらに熱分解してイソシアネート化合物を回収する請求項4または5記載の分解回収方法
【請求項7】
イソシアネート系化合物の混合物がトリレンジイソシアネート(TDI)とその重合体混合物からなる請求項4または5記載の分解回収方法

【公開番号】特開2006−69941(P2006−69941A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254000(P2004−254000)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】