説明

イソフラボン溶液およびその製造法

【課題】
構造変換などの複雑な方法に寄らず、汎用性の高い方法で従来にない高濃度でイソフラボンが溶解安定化されたイソフラボン溶液を提供する。
【解決手段】
水性溶媒中にイソフラボン組成物と共に単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上溶解させることにより、イソフラボンの水に対する溶解性が著しく向上することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソフラボン溶液およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソフラボンは、大豆等の植物中に存在する3−フェニルクロモン骨格を有する化合物群であり、具体的には配糖体であるダイジン、ゲニスチン、グリシチン、及びそれらのマロニル配糖体、アセチル配糖体、及び、アグリコンであるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン等が存在する。これらのイソフラボンにはエストロゲン様作用、抗酸化作用等が認められており、癌、骨粗鬆症の予防や更年期障害の症状を緩和させる食品成分として注目されている。
しかしながら、イソフラボンは水に極めて難溶性であり、食品、特に飲料やデザートなどにおいては、白濁や沈殿などの問題が生じ利用が制限され、溶解性の改善が望まれていた。
このため、イソフラボンの溶解性を改善する方法として、イソフラボンにα−グルコシル糖転移酵素を作用させてα−グリコシルイソフラボノイドに変換する方法(特許文献1〜3)、イソフラボンをサイクロデキストリンで包接する方法(特許文献4、特許文献5)、イソフラボンと無水又は含水プロピレングリコール及び/又はオクテニルコハク酸澱粉からなる可溶化剤とを水と加熱して溶解させる方法(特許文献6)、などが知られている。
しかし、構造変換により溶解性を高める方法では、汎用性の面で問題があり、プロピレングリコールやオクテニルコハク酸澱粉等の食品添加物は、最近、利用しない方が好まれる傾向にあるなど使用しにくい。また、サイクロデキストリンで包括する方法では、それ自身の溶解度があまり高くないため、添加量が制限され、また、添加量が多いと、フレーバーなども包括してしまい、食品の風味付けなどの商品設計に支障をきたす場合があった。
また上記の方法ではイソフラボンが高濃度になると溶解しなかったり、溶解しても長期保存中に白濁や沈殿が生じたりする問題があった。
以上のように従来の技術ではイソフラボンを高濃度に溶解させ、長期保存にも耐えうる安定性を付与することができなかった。
【0003】
(参考文献)
【特許文献1】特公平4−27823号公報
【特許文献2】特開平3−27293号公報
【特許文献3】特許第3060227号公報
【特許文献4】特開平9−309902号公報
【特許文献5】特開平10−298175号公報
【特許文献6】特開2000−325043号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、構造変換などの複雑な方法に寄らず、汎用性の高い方法で従来にない高濃度でイソフラボンが溶解安定化されたイソフラボン溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、水性溶媒中にイソフラボン組成物と共に単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上溶解させることにより、イソフラボンの水に対する溶解性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上含むことを特徴とするイソフラボン溶液。
(2)イソフラボン含量が25mg/100ml以上である前記1記載のイソフラボン溶液。
(3)イソフラボン組成物ならびに単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を水性溶媒中に溶解することを特徴とするイソフラボン溶液の製造法。
(4)イソフラボン組成物として、マロニル配糖体含量が総イソフラボン中30重量%以上含まれるイソフラボン組成物を使用することを特徴とする、前記3記載のイソフラボン溶液の製造法。
を開示するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、容易な操作でかつイソフラボンの化学構造や効果を変化させることなく、水に難溶性のイソフラボンの溶解性を改善することができるようになった。そして本発明で得られるイソフラボン溶液は長期間保存してもイソフラボンが不溶化し、沈殿や白濁を生ずることがないため、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などの分野で幅広く応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(イソフラボン溶液)
本発明のイソフラボン溶液は上記イソフラボンを水に溶解させたものである。そして、本発明のイソフラボン溶液には単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上含むことが特徴である。
【0009】
(イソフラボンとその組成物)
本発明におけるイソフラボンは、大豆、アカツメクサ、クローバー等の植物中に存在する3−フェニルクロモン骨格を有する化合物群であり、具体的には配糖体であるダイジン、ゲニスチン、グリシチン、及びそれらのマロニル配糖体、アセチル配糖体、サクシニル配糖体、及び、アグリコンであるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン等やそれらの代謝産物であるエクオール、その他クローバー類などに含まれるビオカニンA、フォルモノネチン、クメストロール等を指す。
溶液中のイソフラボン含量は特に限定はされないが、イソフラボン含量が高いほどイソフラボンが完全に溶解しなかったり、白濁や沈殿が生じやすくなるため、本発明の効果を有効に発揮される。特に好ましくは従来のイソフラボン組成物では安定化できない濃度以上含まれる。その組成物の溶解性にもよるが、詳しくは水に対する溶解度が25mg/100ml以上、より好ましくは50mg/100ml以上、さらに好ましくは100mg/100ml以上、最も好ましくは150mg/100mlの高濃度で溶解安定化されたものである。
【0010】
(糖類)
本発明のイソフラボン溶液に含まれる糖類は単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類であり、飲食品、医薬品、化粧品等に使用可能な種類であれば特に限定されない。単糖の例としては、果糖、ブドウ糖、マンノース、キシロース、ラクトース、ガラクトースなどが挙げられる。またオリゴ糖は一般的には単糖が2〜10個程度結合したものであり、例えば砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、パラチノース、セロビオース、マンノビオースなどの二糖類、マルトトリオース、ラフィノース等の三糖類、二〜十糖類の混合物である大豆オリゴ糖、ラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトシルトレハロース等が挙げられる。また糖アルコールはエリスリトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトールなどが挙げられる。特に溶解度の高いものが好ましい。糖類の形態は、固形状、シロップ状いずれのも使用できる。
糖類の使用量は、イソフラボンを含有する溶液中5重量%以上、好ましくは15〜70重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらに好ましくは40〜70重量%用いる事が適当である。添加量が少なすぎると可溶化能が不十分であり、添加量が多すぎると不経済である。
【0011】
(溶液のpH)
本発明のイソフラボン溶液のpHは酸性域〜アルカリ性域のいずれの領域にあってもよいが、酸性域である場合はpH3〜5.5、より好ましくはpH3〜4.5、さらに好ましくはpH3以上4未満である方がイソフラボンの長期保存中の溶解安定性を高めることができる。
【0012】
本発明のイソフラボン溶液中には、上記原料以外の他の原料が含まれていても良い。例えば水溶性多糖類等の増粘安定剤、調味料、酸味料、甘味料、果汁、野菜汁、植物抽出物、pH調整剤、乳化剤、ビタミン類、ミネラル類、色素類、フレーバー類等を適宜含むことができる。
【0013】
上記のイソフラボン溶液は製造時はもちろん長期保存中においてもイソフラボンが高度に溶解安定化されたものであり、様々な製品形態をとることが可能である。例えばイソフラボンエキスとして一般的な飲食品、薬品、化粧品等に加工することができ、さらに高濃度のイソフラボンを含有させることが可能であることから、希釈して使用することを想定した濃厚エキスタイプの飲料等にも使用できる。
【0014】
(製造法)
次に本発明のイソフラボン溶液の製造法について説明する。本発明に含まれるイソフラボンの原料としては、イソフラボンを1種以上含有するイソフラボン組成物を使用できる。例えばイソフラボンを含有する大豆等の植物から水やアルコール等の溶媒で抽出し、必要により精製したものなどを使用できる。それらの製造方法、組成には限定されないが、イソフラボンが高含有のイソフラボン組成物の方が水に溶解すると、溶解時や保存中に白濁や沈殿が生じやすいため、本発明の効果をより有効に発揮できる。特にイソフラボンが乾燥固形分中5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上の組成物を利用するのが適当である。
【0015】
また本発明に使用するイソフラボン組成物自体は水に対する溶解度が低くても構わず、本発明の方法によれば組成物中のイソフラボンを高度に溶解安定化することができる。ただしより高濃度に安定化したい場合は組成物自体の溶解度も高いものである方が好ましく、特に30mg/100ml以上、より好ましくは70mg/100ml以上溶解するものが適当である。例えば本出願人が開示した国際公開WO2004/57893号パンフレットに開示された組成物等を使用することができる。すなわち、組成物中に含まれる総イソフラボン中のマロニルイソフラボン配糖体の割合が30重量%以上、より好ましくは40重量%以上であることが適当である。
マロニルイソフラボン配糖体は比較的溶解度が高いが、これを含むイソフラボン溶液は不安定であり、長期保存中にマロニル基が加水分解され、難溶性の遊離型配糖体に変化して白濁や沈殿が生じやすくなる。
しかし、本発明ではイソフラボン溶液中に単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上含有させることにより、マロニル基が加水分解されても遊離配糖体を溶解させた状態を保ち、白濁や沈殿の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
イソフラボンと糖類の溶解方法は特に限定されず、いずれの順番で溶解しても良く、何れか一方を水性溶媒に溶解させたものに、他方を添加してもよく、各々を添加した溶液を混合してもよく、水性溶媒に両方を同時に添加してもよい。溶解させる際の温度は限定されないが、溶解性をより高めるために加熱処理を施すことが好ましい。加熱方法としては間接加熱方式、直接加熱方式のいずれの方式もとることができ、加熱温度は通常30〜150℃、より好ましくは50〜100℃が適当である。
加熱溶解させた場合には冷却し、一定時間(通常0.5〜120時間)イソフラボンの溶解状態を平衡化させ、その後不溶物を固液分離により除去することが好ましい。
この際のイソフラボンの使用量は目的に応じて適宜調整することができるが、イソフラボンを最大限に溶かしたい場合には、イソフラボンを過剰量加えて飽和させ、溶解しなかったイソフラボンを除けばよい。
このようにして得られたイソフラボン溶液は透明で白濁や沈殿がなく、長期保存中にも優れた溶解安定性を有し、種々の用途に利用しやすいものである。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、以下特に断りがない限り、「%」は「重量%」を示す。
【0018】
<実施例1>
市販イソフラボン組成物「豊年イソフラボン-80」(ホーネンコーポレーション社製、イソフラボン含量80%、総イソフラボン中の遊離配糖体含量100%)及び砂糖、水を下記表の組成で混合、80℃にて1時間撹拌溶解した。次いで、10℃にて48時間平衡化させた後、遠心分離(3000G×10分)にて上清を回収し、本発明のイソフラボン溶液を得た。上清中のOD254を測定し、次式よりイソフラボン溶解量を算出した。
・溶解量(mg/100ml)=試料上清中OD254÷イソフラボン比吸光度×1000
【0019】
(表1)
────────────────────────────────────
イソフラボン組成物 0.10(%) 0.10(%) 0.10(%) 0.10(%) 0.10(%)
砂糖 − 0.10 1.0 10.0 50.0
水 99.9 99.8 98.9 89.9 49.9
────────────────────────────────────
溶解量(mg/100ml) 20.8 20.8 20.4 23.8 71.2
────────────────────────────────────
【0020】
以上の結果から、溶液中に砂糖は10%以上の添加により、大豆イソフラボンに対して高い可溶化能を示した。また、その可溶化量は、砂糖の濃度により増加した。砂糖が50%含まれる場合、大豆イソフラボンは通常の3.5倍の溶解量を示した。また砂糖50%溶液を5℃、20℃、40℃でそれぞれ4ヶ月間保存し、溶解安定性を見たところ、全く白濁や沈殿は生じていなかった。
【0021】
<実施例2>
市販イソフラボン組成物「ソヤフラボンHG」(不二製油株式会社製、イソフラボン含量55%、総イソフラボン中のマロニル配糖体含量47%)及び砂糖、水を下記表の組成で混合し、80℃にて30分間撹拌溶解し、本発明のイソフラボン溶液を得た。かかる溶液を試験管に分注し、pH3、pH4およびpH5.5にそれぞれ調整し、95℃で15分間加熱殺菌後、70℃で10日間保存した。保存後各試料を遠心分離(3000G×10分)にて上清を回収、HPLCを用いてイソフラボン溶解量を測定し、目視にて保存後の溶解状態を評価した。
【0022】
(表2)
─────────────────────────────────────
イソフラボン組成物 0.50(%) 1.0(%) 0.50(%) 1.0(%)
砂糖 0.0 0.0 50.0 50.0
水 99.5 99.0 49.5 49.0
─────────────────────────────────────
(pH5.5)
保存後の溶解状態 ++ ++ − ±
溶解量(mg/100ml) 110 147 260 375
─────────────────────────────────────
(pH4)
保存後の溶解状態 ++ ++ − ±
溶解量(mg/100ml) − 141 − 471
─────────────────────────────────────
(pH3)
保存後の溶解状態 ++ ++ − ±
溶解量(mg/100ml) − 129 − 503
─────────────────────────────────────
※(++)非常に沈殿多い、(+)沈殿多い
(±)僅かに沈殿有り、(−)沈殿なし
【0023】
以上の結果より、砂糖を溶液中に50%添加することにより、イソフラボンに対して、高い不溶化防止効果が示され、イソフラボン溶液の溶解安定性が向上した。
なお、製造直後における総イソフラボン中のマロニル配糖体含量は47%、遊離配糖体含量は49%であったが、70℃で10日間保存後はマロニル配糖体含量が2.5%にまで減少し、遊離配糖体含量が92%にまで増加していた。これはマロニル配糖体が溶液中では不安定であるため保存中に加水分解され、遊離配糖体に変化したためと考えれられる。そのため砂糖無添加の溶液では保存後に難溶性である遊離配糖体の沈殿が発生したものの、本発明の砂糖を50%含有するイソフラボン溶液においてはかかる沈殿の発生が抑制されていた。
また、本発明の砂糖を含むイソフラボン溶液は酸性下においてはpH3→pH4→pH5.5の順に溶解安定性が高かった。これはイソフラボンを含む酸性飲料に非常に適した結果である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、難溶性のイソフラボンが高度に含有し、かつ溶解安定性の高いイソフラボン溶液を得られる。よって、食品分野、医薬分野、化粧品分野等の各分野においてイソフラボンの溶液状態での利用が極めて容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を5重量%以上含むことを特徴とするイソフラボン溶液。
【請求項2】
イソフラボン含量が25mg/100ml以上である請求項1記載のイソフラボン溶液。
【請求項3】
イソフラボン組成物ならびに単糖、オリゴ糖および糖アルコールより選択される1以上の糖類を水性溶媒中に溶解することを特徴とするイソフラボン溶液の製造法。
【請求項4】
イソフラボン組成物として、マロニル配糖体含量が総イソフラボン中30重量%以上含まれるイソフラボン組成物を使用することを特徴とする、請求項3記載のイソフラボン溶液の製造法。

【公開番号】特開2006−121940(P2006−121940A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312480(P2004−312480)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】