説明

イチョウ葉抽出物のコレステロールを降下するための使用

イチョウ葉抽出物(GBE)の降コレステロールを組成物の調製のための使用を提供する。さらに、イチョウ葉抽出物の体内でコレステロール代謝に関与する要素酵素遺伝子の発現を調節する組成物の調製のための使用を提供する。また、1組の遺伝子レベル或いは蛋白質レベルで変化する遺伝子の発現変化の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイチョウ葉抽出物(「イチョウ葉組成物」とも称されている)のコレステロールを降下する薬物の調製のための使用に関する。具体的に、本発明はイチョウ葉抽出物(GBE, Ginkgo biloba Extract)による肝臓における胆汁合成の要素酵素遺伝子の発現の変化に関し、本発明のGBEは、体内でコレステロール代謝に関与する要素酵素遺伝子であるコレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)、ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)、レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)に対して発現を抑制或いは促進する作用を有する。
【背景技術】
【0002】
イチョウ(Ginkgo biloba L.) は、イチョウ科イチョウ種の植物である。その葉は漢方薬として常用されており、肺機能を回復し、鎮咳効果があり、滲出物を浄化する作用を持っており、肺機能障害による喘息、冠状心疾患、狭心症などの疾病に利用できる。研究によると、イチョウ葉の主要活性成分はフラボン類とラクトン類の化合物であることが明らかになった。現在、ドイツ特許DE-B 1767098、DE-B 2117429、米国特許5399348及び中国特許CN 1145230などに示されている方法のように、所定の抽出手段により活性成分含有量の高いイチョウ葉抽出物を調製することができる。
【0003】
イチョウ葉抽出物(GBE)は、現在世界中で売れているサプリメントと医薬品のひとつである。60年代中期、ドイツの科学者は既にGBEが心臓・脳血管疾患と末梢循環障害に優れた防止と治療の効果を持っていることを発見した。国内外のGBEに対する多年の研究結果によると、GBEの承認された作用は以下の通りである。(1)血管を拡張させ、血液供給を増加する作用、(2)血液の粘度を下げ、血液の流れを改善する作用、(3)抗PAF作用を有し、血小板凝集と血栓の形成を抑制する作用、(4)ミトコンドリアの機能を改善し、神経細胞へのエネルギーの供給を増加する作用、(5)酸素ラジカルを抑制し、虚血再灌流障害を軽減する作用、(6)神経伝達物質とその受容体の作用を調節し、神経細胞を保護する作用、(7)抗神経免疫炎症反応及び抗水腫と神経髄鞘を保護する作用などがある。現在、GBEの糖代謝に対する効果についての文献が多いが、それらは個体と細胞のレベルに留まっており、GBEが作用した後、標的細胞或いは標的細胞の遺伝子発現レベルの変化の規律及びその影響しかねない代謝経路を分子レベルで説明することができない。
【0004】
また、イチョウ葉抽出物は脂質代謝(例えばトリグリセリド)に影響を与えかねないと考えられるが、本発明の前に、GBEのコレステロールを降下する明確な作用とその機構はまだ掲示されていない。
【0005】
コレステロールは心臓血管疾患の主要な元凶のひとつと思われ、血中全コレステロールの上昇は冠状心疾患の独立した危険因子で、且つ冠動脈病変の程度と正相関が見られた。
高コレステロールに関する疾患を予防・治療するため、この分野では、明確な降コレステロール作用の機構を持ち、且つコレステロールレベルを有効に降下できる組成物、特に天然物質由来の組成物の開発が切望されている。
【特許文献1】DE-B 1767098
【特許文献2】DE-B 2117429
【特許文献3】US 5399348
【特許文献4】CN 1145230
【発明の開示】
【0006】
本発明は、天然物質由来で、明確なコレステロール代謝に関与する遺伝子の発現を調節する作用を有し、且つコレステロールレベルを有効に降下できる組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、薬物のスクリーニングのマーカーになれる、コレステロールレベルを調節する薬物の作用標的として用いられる組合せを提供することを目的とする。
本発明の第一は、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物の降コレステロール組成物を調製するための使用を提供する。
【0008】
他の好ましい例において、前述のイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は5−50%のイチョウ葉フラボン類物質、1−10%のイチョウ葉ラクトン類物質を含有する。
他の好ましい例において、前述のイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物はフィンガープリントスペクトルにおいて、フラボノール配糖体、ルチン、シキミ酸、ケーナイン・オルニチン(canine ornithine)、カテキン類、フラバン類化合物、の特徴ピークを有する。
【0009】
他の好ましい例において、前述の抽出物はGBE50、GBE78、もしくはその組合せである。
他の好ましい例において、前述の組成物の剤形は錠剤、カプセル剤、液体カプセル剤、顆粒剤、丸剤、経口液、注射用粉剤、凍結乾燥粉剤、注射液である。
【0010】
他の好ましい例において、前述の組成物はスタチン類薬物及びインヒビン類薬物からなる群から選ばれた物質を含有する。
他の好ましい例において、前述のスタチン類薬物或いはインヒビン類薬物はそれぞれアトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン及びリピトールからなる群から選ばれる。
【0011】
他の好ましい例において、前述の組成物は、さらに、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現を抑制すること、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制すること、
(c)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)の発現を促進すること、または
(d)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現を促進することに用いられる。
【0012】
好ましくは、前記組成物は医薬品組成物または保健品組成物である。
本発明の第二は、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物の
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現を抑制する組成物、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制する組成物、
(c)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)の発現を促進する組成物、
(d)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現を促進する組成物、または
(e)前記遺伝子の2つ以上の組合せの発現を調整する組成物、
の調製のための使用を提供する。
【0013】
本発明の第三は、1組の遺伝子レベル及び蛋白質レベルで変化する、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子((Cyp7a1)の発現変化、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現変化、
(c)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現変化、
(d)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の発現変化、及び
(e)前記遺伝子の発現変化の2つ以上の組合せ
からなる群から選ばれる、遺伝子発現の変化のコレステロールレベルの調節の指示指標として用いられる使用を提供する。
【0014】
好ましくは、前記遺伝子の発現変化は、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現の低下、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現の低下、
(c)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現の上昇、及び
(d)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の発現の上昇、
からなる群から選ばれる。
【0015】
本発明の実験は、これらの遺伝子の発現レベルの変化及びその組合せは、体内のコレステロールレベルを影響することができることを示している。
好ましくは、これらの遺伝子の発現レベルの変化及びその組合せは、医薬品、製剤、化学薬品または保健品の使用後のコレステロールレベルに対する調節の指示指標とされる。
【0016】
本発明者は鋭意検討をしたところ、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は顕著な降コレステロール作用を有し、且つ遺伝子チップを用いた測定により、イチョウ葉抽出物は肝臓における胆汁合成の要素酵素遺伝子の発現に影響を与えることを見出した。具体的に、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、生体内でコレステロール代謝に関与する酵素遺伝子であるコレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)、ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制する作用を有し、且つペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)、レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現を促進する作用を有する。したがって、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物はコレステロールを降下する医薬品と保健品の開発に特に適合する。これに基づき、本発明が完成された。
【0017】
(活性成分)
本発明において、活性成分はイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物或いはイチョウ葉組成物のことを示す。
【0018】
ここで用いられるように、用語の「イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物」、「イチョウ葉組成物」、「イチョウ葉抽出物」或は「イチョウ葉フラボン類抽出物」は交換して用いてもいいが、すべてイチョウ葉から抽出されるフラボン類物質の含有量が20重量%より多い(好ましくは30重量%、より好ましくは50重量%より多く、且つ多くとも80重量%以下である)抽出物のことを示す。本発明において、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、フラボン類物質の他、ラクトン類物質を含有してもよい。通常、イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物において、ラクトン類物質の含有量は4−10重量%である。
【0019】
また、前述のイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物において、銀杏酸の含有量は20ppm、好ましくは10ppm、より好ましくは5ppmより少ないことが望ましい。
好ましいイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、中国特許ZL99803683.8に示されているイチョウ葉組成物である。
【0020】
特に好ましいイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、44−78%のフラボン類化合物、2.5−10%のギンコライド(ギンコライドA、B、CとJ或いはその混合物)、2.5−10%のビロバライド及び0.1−5ppmの銀杏酸を含むイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物である。
【0021】
好ましくは、前述のフラボン類化合物はフラボノール、フラバノール、フラボン配糖体を含む。より好ましくは、前述のフラボン配糖体の含有量は20−75%である。
特に好ましいイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、44−78%のフラボン類化合物(フラボノール、フラバノール、フラボン配糖体を含む)、2.5−10%のギンコライド(ギンコライドA、B、CとJ或いはその組成物)、2.5−10%のビロバライド及び0.1−5ppmの銀杏酸を含むイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物である。
【0022】
より特に好ましいイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物は、44−78%のフラボノイド類化合物(その中で、フラボン配糖体の含有量は20−75%である)、2.5−10%のギンコライド(ギンコライドA、B、CとJ或いはその組成物)、2.5−10%のビロバライド及び0.1−5ppmの銀杏酸を含むイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物である。
【0023】
より好ましくは、好ましいイチョウ葉組成物のフィンガープリントスペクトルは、フラボノール配糖体、ルチン、シキミ酸、アントシアニジン類、カテキン類、フラバン類化合物などの特徴ピークを含む約17の特徴ピークを有するが、これらに限定されていない。
【0024】
イチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物の調製方法はこの分野で知られている。例えばドイツ特許DE-B 1767 098、DE-B 2117 429、米国特許5399348及び中国特許CN 1145230などに示されている方法である。
【0025】
(組成物と投薬)
本発明はイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物を含有する組成物も提供する。
本発明において、通常の方法でイチョウ葉フラボン・ラクトン類抽出物を薬学的に許容される担体、賦形剤或いは希釈剤と混合させ、本発明の医薬品組成物或いは保健品組成物を形成する。このような担体は食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール及びその組合せを含むが、これらに限定されていない。
【0026】
本発明の医薬品組成物或いは保健品組成物は固体(例えば顆粒剤、錠剤、凍結乾燥粉末、坐剤、カプセル剤、舌下錠)或いは液体(例えば経口液)でも、他の適合の形態でも良い。本発明の核酸活性成分の含有量は通常組成物の重量の1−99%、好ましくは2−95%、更に好ましくは5−90%、最も好ましくは10−80%である。
【0027】
本発明の医薬品組成物或いは保健品組成物は単回投与或いは反復投与の形式でも良い。投与薬剤量で計算すると、通常は1−1000mg/回、好ましくは2−500mg/回、更に好ましくは5−100mg/回である。
【0028】
本発明の薬剤組成物は経口投与、筋肉注射、皮下注射などを含む通常の様態で投与することができるが、これらに限定されていない。好ましくは経口投与である。薬物製剤は投与の様態に合わせるべきである。本発明の薬物の投与量は、活性成分で計算すると、通常は1日に0.01−500mg/kg体重、好ましくは0.1−50mg/kg体重である。また、本発明の降コレステロール製剤は、例えばスタチン類薬物(アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン及びフルバスタチン)、インヒビン類薬物(リピトール)及びその混合物のような他の治療剤と併用することができる。
【0029】
本発明の主な利点は、以下の通りである。
(a)天然物質由来で、有効にコレステロールレベルを降下できる組成物を提供し、GBEはコレステロール代謝に関与する4つの遺伝子の発現を調節することによりコレステロールレベルを降下すること、GBEの降コレステロールの有効性とその配合原則が判明された。
【0030】
(b)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)、ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制する作用を有し、且つペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)、レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現の促進に対して、単独または組合せで、体内のコレステロールの代謝レベルを示すことができ、これらの遺伝子の発現変化のレベルは、関連薬物効果の同定と選別、食品添加剤の保健機能の測定に用いることができるが、これらに限定されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いるもので、発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例に特に具体的な条件を説明しない実験方法は通常の条件、例えばSambrookら、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)で述べた条件で、或いはメーカーの薦めの条件で行われる。
【0032】
(通常手段と材料)
1)モデル動物の確立
(1)動物源
Wistarラット、雌雄各半数、3週齢、クリーンレベル、中国科学院上海生命科学院の実験動物センターから購入された。
【0033】
(2)飼料
基本飼料は中国科学院上海生命科学院の実験動物センターから購入された実験用ラット顆粒状飼料で、高脂肪飼料と高脂肪飼料+GBE50の飼料は中国科学院上海生命科学院の実験動物センター飼料加工工場によって加工された。
【0034】
【表1】

【0035】
(3)動物の組分けと処理
ラットを1週間適応させて観察した後、表2の通り組み分けて実験を行った。ラットの飼養温度は(22±2)℃に、湿度は60−80%に保持し、自由に摂食・飲水させ、自然照明下で約12時間の明暗周期で行った。
【0036】
【表2】

【0037】
(4)投薬試験
予防投薬試験:高脂肪飼料とGBEを均一に混合加工した飼料でラットを30週間飼養し、同時に正常飼料組、高脂肪飼料組及び正常飼料+GBE組を対照として、GBEの予防的な経口投薬の治療効果を観察した。
【0038】
治療投薬試験:ラットを高脂肪飼料で26週間飼養した後、60万単位のビタミンDを1回で腹膜内注射し、粥状動脈硬化の病巣を誘導し(温進坤ら、中国老年学雑誌、2001(21)、50-52;Julia B.,J.ら、Atherosclerosis、1996(122)、141-152)、それから4週間胃かん流で投薬し、剤量は50mg/kg/dで、同時に正常飼料組、高脂肪飼料+ビタミンD非投薬組を対照として、GBEの治療効果を観察した。
【0039】
(5)病理検査と分析
通常のHE染色によって、高脂肪飼料組、高脂肪飼料+ビタミンD組ではいずれも脂肪肝の病巣が出現したことは、高脂肪飼料と、高脂肪飼料+1回での大量のビタミンDの注射が、いずれもラットに脂肪肝の病巣を誘導することができることを示した。ビタミンDを投与する組では心臓冠状動脈血管壁の増生、胸大動脈血管壁の壁厚増加とカルシウム塩の沈着、及び総頸動脈の狭窄が出現したことは、ビタミンDがラットの胸大動脈血管、総頸動脈及び心臓などの器官に病巣を更に誘導できることを示し、病理診断によっては、粥状動脈硬化の中期と診断された。
【0040】
2)細胞培養と処理
(1)細胞源:HepG2 ATCC
(2)培養条件
培養培地:MEM(Minimum essential medium)+10%FBS
インキュベ―ター:37℃、 5%CO2含有
細胞の継代と収集: 0.05%トリプシン+0.02%EDTA
(3)細胞の処理:
細胞を直径10cmの培養ディッシュ(falcon)において必要な数まで増殖させた後、消化し、6ウェルプレート(falcon)に接種し、壁に接着し適当な密度(細胞融合は約60%−70%)に増殖させた後、表3の通り組み分けて処理した。
【0041】
処理時、血清中のサイトカインと脂質による干渉を減少し、また細胞の正常増殖に影響を与えないように、培養培地はMEM+10%FBSに替えた。
各組の細胞に対して、処理手段毎に6回重複した。異なる時点の処理は、異なる時刻に投薬し、同時に細胞を収集するという手段で行った。
【0042】
【表3】

【実施例1】
【0043】
(GBE50の調製)
GBE50は上海シーンリン科薬業株式会社から購入された(バッチ番号20030608)。その調製方法は中国特許ZL99803683.8を参照して行われ、国家薬品監督管理局の「国家薬品標準WS3-227(Z-028)-2002(Z)」に適合した。
【0044】
測定によれば、GBE50の成分組成と比率は、イチョウフラボノール配糖体≧24%、全イチョウフラボノイド≧44%、全イチョウラクトン≧6%、明確な有効成分は50%に達し、銀杏酸≦5ppmであった。
【実施例2】
【0045】
(GBE50の作用の血液中及びHepG2細胞中のコレステロール含有量に対する影響)
測定は上海シェメン生物技術協力会社から提供するコレステロール測定キットの取扱説明書に従って行った。ラットとHepG2細胞において測定したコレステロール含有量の統計分析の結果はそれぞれ表4と表5に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
ラットの血液中コレステロール含有量の測定データを分析した結果は、高脂肪飼料組のラット及び高脂肪飼料+ビタミンD組のラットの血液中コレステロールレベルは正常対照組と投薬組より有意に高いことを示している。高脂肪飼料+GBE50組のラット及び高脂肪飼料+ビタミンD+GBE50組のラットの血液中コレステロールレベルは、それぞれの投薬する前の組のラットの血液中コレステロールレベルより有意に低下した(P<0.01)ことは、GBE50は高血脂ラットの血液中コレステロール含有量を降下することができることを示している。
【0049】
また、GBE78を用いても、類似の高血脂ラットの血液中コレステロール含有量を降下する作用が見られた。
HepG2細胞におけるコレステロール含有量の測定も、GBE50で処理した後、細胞内コレステロールレベルが有意に低下し(P<0.01)、且つある程度の時間依存性を示していることが表明した。
【実施例3】
【0050】
(チップ測定法によるGBEのモデルラットの肝臓遺伝子発現プロファイルに対する影響の測定)
(チップ測定)
1)RNAの品質
(1)アガロースゲル電気泳動の結果画像において、28Sと18Sの蛍光強度の比例は2:1であった。これで、全RNAの品質が良いことが初歩的に判明した。
【0051】
(2)Agilent 2100バイオアナライザにより各実験組のラットの肝臓全RNAの品質を分析したところ、その28Sと18Sの2つのピークの面積の比率は2或いはそれ以上であれば、RNAの品質は以後の実験の要求にかなったことである。
【0052】
2)cDNAプローブの作製と精製
上海バイオチップ株式会社から提供するSBC Rat cDNA V1.3に添付するプロトコルに従って操作した。
【0053】
3)チップのハイブリダイゼーション
(1)チップの測定手段:各組の雄のラットの肝臓RNAを抽出し、表6の実験手段に従ってチップ測定を行った。
【0054】
(2)SBC Rat cDNA V1.3を用いて測定し、チップのメーカーが添付したプロトコルに従ってハイブリダイゼーションとスキャニングを行った。
【0055】
【表6】

【0056】
(データ分析)
Agilentスキャナでチップをスキャンした。得られた画像は2種類の蛍光の複合画像で、TiffSplitというソフトウェアにより単色蛍光画像に分けられた。この画像を画像分析ソフトウェアのImagene 5.0に導入し、自動及び人工アラインメントにより、ハイブリダイゼーション範囲を確定し、背景ノイズを取り除き、遺伝子発現の蛍光信号強度を獲得し、リスト形式で出力することにより、スキャンして得られた画像を定量的に数値化した。出力したデータを分析ソフトウェアのGenespringに導入し、LOWESSで標準化し、割合を計算する(2種類の蛍光の割合cy3/cy5)。SAM (Significance Analysis of Microarrays)というソフトウェアで各組のマイクロアレイデータを分析した。個体差異組のチップデータの分析により、異なる正常ラットの肝臓においてRNAの発現量が変化する遺伝子(割合<0.5または割合>2)、即ち個体差異遺伝子、を取り除き、さらに他の遺伝子に発現差のスクリーニングとクラスター分析を行ったところ、肝臓における胆汁酸合成に関与する酵素遺伝子Cyp7a1はGBE50処理組での割合はそれぞれ0.254と0.345で、即ちGBE50はこの遺伝子の発現レベルを抑制したのに対して、高脂肪飼料組と高脂肪飼料+VD組では発現レベルが変化しなかったことを発見した(表7に示す)。
【0057】
【表7】

【実施例4】
【0058】
(蛍光定量PCRによるGBEのモデルラットの肝臓遺伝子発現プロファイルに対する影響の検証)
コレステロールの合成、代謝及び輸送に関与する遺伝子の異なる処理組でのmRNAレベルを定量PCRで検証し、ラットのグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素遺伝子(Gapd)を対照として、異なる処理組を対照組と比較し、検証された遺伝子の情報(表8に示す)及び異なる処理組と対照組の比の結果(表9に示す)は以下の通りである。
【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
表9においては、定量PCRにより一連の遺伝子の各処理組のラットの肝臓でのmRNAレベルを検証した統計結果を分析したところ、以下のことが明らかになった。
(1)高脂肪飼料+GBE50組及び高脂肪飼料+VD+GBE50組は正常組に比べて、そのCyp7a1、Hmgcr遺伝子の発現量が有意に低下した(P<0.01)のに対して、高脂肪飼料組及び高脂肪飼料+VD組は正常対照組に比べて、そのCyp7a1、Hmgcr遺伝子の発現量に有意差が見られなかった。
【0062】
(2)4種類の異なる処理組は正常組に比べて、そのレチノイドX受容体(RXR)のα、βとγの3つの亜型のなかでRXR-β亜型のRxrb遺伝子の発現量が有意に増加し、高脂肪飼料+VD+GBE50組においては高脂肪飼料+VD組より有意に高かったのに対して、高脂肪組においては高脂肪飼料+GBE50組より有意に低かった。それはRXR受容体の転写は同時に例えば、9−シスレチノイン酸と薬物(R. Fraydoon et al., Current Opinion in Structure Biology, 2001(11), 33-38)のような外来の及び体内代謝による刺激物に調節されるためである。
【0063】
(3)肝臓X受容体(LXR)のα型とβ型遺伝子のNr1h2とNr1h3はいずれの組においても発現され、且つ有意差が見られなかった。ファルネソールX受容体(FXR)遺伝子Nr1h4はいずれの組においても発現し、且つ有意差が見られなかった。
【0064】
(4)低密度リポタンパク受容体遺伝子Ldlrの高脂肪飼料+VD+GBE50組においての相対発現量は高脂肪飼料+VD組より有意に低かった。
(5)レシチン-コレステロール アシル基転移酵素遺伝子Lcat、アセチルコエンザイムA−コレステロール アシル基転移酵素Acat1、Acat2とAcatnの発現はいずれの組においても有意差が見られなかったことは、GBE50はこれらの遺伝子の転写レベルを影響しないことを示している。
【0065】
(6)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)中のPpard遺伝子の発現量は、高脂肪飼料+GBE50組及び高脂肪飼料+VD+GBE50組においていずれも極有意な増加が見られた。
【実施例5】
【0066】
(蛍光定量PCRによるGBE50の培養ヒト肝細胞系のHepG2細胞の遺伝子発現に対する影響の測定)
本実施例においては、一部のコレステロール代謝の各ステージに関与する遺伝子、及びモデルラットの肝臓で発現の変化が有意にある遺伝子を研究対象として、蛍光定量PCRによりそれらのGBE50で処理したヒト肝細胞系のHepG2におけるmRNAレベルの変化を研究した。
【0067】
ヒトβ-actinは対照として用いられた。表3に示した通り細胞を処理し、GBE50で2、6,12,24,48時間処理する組をDMSOで48時間処理する組と比較した。測定された遺伝子の情報(表10に示す)及び比較の結果(表11に示す)は以下の通りである。
【0068】
【表10】

【0069】
【表11】

【0070】
蛍光定量PCRにより、GBE50の異なる処理時点におけるHepG2のコレステロール代謝に関与する一連の遺伝子の発現変化を測定した統計結果を分析したところ、以下のことが明らかになった。
【0071】
GBE50で細胞を2時間、6時間処理した後、コレステロール合成に関与する要素酵素のHMGCRの発現は有意に低下し、48時間処理した後ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体PPARDの発現量も中程度に増加した。低密度リポタンパク受容体LDLR、PPARAは有意変化が見られなかった。この結果はラットの肝臓における遺伝子発現変化の結果と一致した。
【0072】
以上の結果は、GBE50はHMGCR、Cyp7a1、PPARDによってコレステロールレベルを調節することを示している。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本発明で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチョウ葉抽出物の降コレステロール組成物を調製するための使用。
【請求項2】
前記イチョウ葉抽出物は5−50%のイチョウ葉フラボン類物質及び1−10%のイチョウ葉ラクトン類物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記イチョウ葉抽出物は、フラボノール配糖体、ルチン、シキミ酸、アントシアニジン類、カテキン類、またはフラバン類化合物のフィンガープリントスペクトルの特徴ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記イチョウ葉抽出物はイチョウフラボン・ラクトン類、イチョウ葉標準抽出物、またはその組合せであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物はカプセル剤、液体カプセル剤、顆粒剤、丸剤、経口液、注射用粉剤、凍結乾燥粉剤及び注射液からなる群から選ばれた剤形であり、
好ましくは、前記組成物はスタチン類薬物及びインヒビン類薬物からなる群から選ばれた物質を含有し、
好ましくは、前記スタチン類薬物またはインヒビン類薬物はそれぞれアトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン及びリピトールからなる群から選ばれること
を特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物は、さらに、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現を抑制すること、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制すること、
(c)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)の発現を促進すること、または
(d)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現を促進することに用いられること
を特徴とし、
さらに好ましくは、前記組成物は医薬品組成物または保健品の組成物であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項7】
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現を抑制する組成物、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現を抑制する組成物、
(c)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体遺伝子(Ppar)の発現を促進する組成物、
(d)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現を促進する組成物、または
(e)前記遺伝子の2つ以上の組合せの発現を調整する組成物
の調製に用いられることを特徴とするイチョウ葉抽出物の使用。
【請求項8】
コレステロールレベルの調節の指示指標として用いられ、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現変化、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現変化、
(c)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現変化、
(d)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の発現変化、及び
(e)前記遺伝子の発現変化の2つ以上の組合せ
からなる群から選ばれることを特徴とする1組の遺伝子レベル及び蛋白質レベルで変化する遺伝子の発現変化の使用。
【請求項9】
前記遺伝子の発現変化は、
(a)コレステロール7αヒドロキシラーゼ遺伝子(Cyp7a1)の発現の低下、
(b)ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイム遺伝子(Hmgcr)の発現の低下、
(c)レチノイドX受容体遺伝子(Rxr)の発現の上昇、及び
(d)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の発現の上昇、
からなる群から選ばれ、これらの遺伝子の発現レベルの変化及びその組合せは、体内のコレステロールレベルを影響することができることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
これらの遺伝子の発現レベルの変化及びその組合せは、医薬品、製剤、化学薬品、または保健品の使用後のコレステロールレベルに対する調節の指示指標として用いられることを特徴とする請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2009−519896(P2009−519896A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536911(P2008−536911)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【国際出願番号】PCT/CN2006/002830
【国際公開番号】WO2007/048333
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508129919)シャンハイ バイオチップ カンパニー リミテッド (1)
【出願人】(508129908)シャンハイ シーンリーン エスシーアイ アンド テクニック ファーマスーチカル カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】