説明

インクジェットプリンタおよび該プリンタを用いるプリントシステム

【課題】 インクジェットプリンタにおけるプリントヘッドの回復処理に伴って排出されるインクを回収・再利用する構成にあって、プリントヘッドに供給されるインクの粘度が増加してしまうことにより生じるプリントヘッドの吐出性能(インク吐出量や吐出速度)の変化を抑制する。
【解決手段】 インクの粘度を検知する手段(電極331,333)を設け、予め定められたインクの粘度より粘度が高くなったことが検知された場合、これを報知して粘度調整剤の注入を促すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタおよび該プリンタを用いるプリントシステムに関し、特にインクジェットプリントヘッドから排出されるインクを回収・再利用する構成を具えたインクジェットプリンタおよびプリントシステムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
複写装置や、ワードプロセッサ、コンピュータ等の情報処理機器、さらには通信機器の普及に伴い、それらの機器の画像記録(プリント)のための出力装置の一つとして、インクジェット方式によりデジタル画像のプリントを行うインクジェットプリンタが広く普及している。このようなプリンタにおいては、プリント速度の向上のため、多数のインク吐出プリント素子(ノズル)を集積配列(ノズル列)して構成されるプリントヘッドを用いている。また、カラープリントへの対応として、プリントヘッドを色数に応じて複数個備えたものも提供されている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタでは、一般に、安定したインク吐出性能を維持または回復するために回復処理を行う装置が付加されることが多い。この回復処理には、プリントヘッドに対して加圧力や吸引力を作用させることでプリントヘッド内の増粘したインクや気泡を強制排出して新鮮なインクと置換させる加圧または吸引回復、記録動作中に使用されなかった液路から増粘したインクを吐出させてしまうことで新鮮なインクと置換する予備吐出などが含まれる。
【0004】
特許文献1においては、これらの回復処理によって発生したインクを廃棄するのではなく、適切に回収して再使用を行うようにすることで、廃インクを生じさせずにインクの有効使用を可能とした構成が開示されている。同文献では、回復処理に伴ってプリントヘッドから強制排出ないし吐出されたインクをキャップ機能を有する回収桶で受け、これをプリントヘッドに供給すべきインクを貯留したインク貯留部材にそのまま戻して再使用するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−105303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、インクジェットプリンタでは、インク貯留手段からインク供給路を介してプリントヘッドに供給されるインクが外気と接することがないようにインク供給系が構成されている。そのため、インク供給系においてはインクの溶剤が蒸発することはほとんどない。しかし、インクジェットプリンタでは、プリント媒体に対向してインクを吐出するためのプリントヘッドの吐出口および回収桶は、プリントヘッドの吐出口形成面が回収桶によってキャッピングされるとき以外は大気に開放されており、これらの部分では外気とインクが接するので、インク中の溶剤が蒸発して色材濃度が高くなり、インクの粘度が増加してしまう。従って、プリントヘッドから排出された増粘インク、また回収桶において溶剤の蒸発ないし増粘がさらに進んだインクがインク貯留手段にそのまま戻されると、プリントヘッドに供給されるインク自体の粘度が次第に増加してしまうことになる。
【0007】
インクジェットプリンタのプリントヘッドは、使用するインクの粘度が変化すると、吐出性能(インク吐出量や吐出速度)が変化してしまうので、プリント媒体上のインクの着弾位置がずれることがある。また色調を異にする複数種類のインクが使用される場合には、複数の色調のインク間で形成画像濃度のばらつきが生じ、プリント結果に色むらが発生するなどして画像品位が低下してしまう。
【0008】
これは、インクジェットプリンタがパーソナルユースのものであるか、オフィスや産業目的のものであるかを問わず問題となるが、特に後者の場合において顕著である。産業用のプリンタは、パーソナルユースのものと比べて扱うインク量が多く、一律の品質のプリント物が大量に求められることがあるからである。また後者の場合、一律な品質を維持すべく頻繁にインクを交換することはランニングコストの増大にもつながる。
【0009】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明は、インクを吐出するプリントヘッドを用いてプリントを行うインクジェットプリンタであって、
前記プリントヘッドに供給するインクを保持するためのインク保持手段と、
前記プリントヘッドからインクを排出させることで前記プリントヘッドのインク吐出性能を維持するための回復処理を行う回復手段と、
当該排出されるインクを受容して前記インク保持手段に回収する回収手段と、
前記プリントヘッドに供給されるインクの粘度を調整するために、前記インクの粘度を検知する粘度検知手段と、
を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回復処理に伴って排出されるインクを回収・再利用する構成にあって、インクの粘度を検知することで、プリントヘッドに供給されるインクの粘度を調整するための処理を適切に行うことが可能となる。例えば、予め定められたインクの粘度より粘度が高くなった場合、これを報知してインク薄め液(粘度調整剤)の注入を促すようにすることができる。これにより、インクの吐出速度や吐出量を安定させ、品質の高いプリントが可能なインクジェットプリンタを実現できる。また、回復処理に伴って排出されるインクを有効利用できるので、インクの補充間隔を長くしてランニングコストを低廉化し、かつ環境に対しても資すること大である。さらに、廃インク保持手段を不要もしくは著しく小型化でき、ひいてはプリンタ全体を小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係るインクジェットプリンタの外観斜視図、図2(a)および(b)はプリント媒体の搬送方向に沿った図1のプリンタの断面図である。
本実施形態のインクジェットプリンタ100は、給紙装置200を具備している。給紙装置200は、プリント媒体のロールを駆動してプリンタ本体内に連続的に送出するための駆動装置210、当該送出されるプリント媒体のシートSの弛みを検出して良好な状態で搬送されるようにするための弛みセンサ220、シートSの幅方向における搬送基準をなして本体内のプリント位置に導くための用紙ガイド230および用紙ガイド231を有する。これらにより、プリント媒体に所定量の弛みを保持しつつ、インクジェットプリンタ100のプリント部110にシートSが送給される。
【0013】
400は装置状態や所要のメッセージをユーザに通知するための表示部である。410は操作部であり、プリンタの電源スイッチ、画像データの供給源をなすホスト装置とのオンラインスイッチ、回復処理の起動スイッチ等を有する。
【0014】
図2(a)および(b)において、符号120は、当該送給されたシートSに対してプリントを行うべく、シートSの全幅以上の範囲にわたって吐出口を配列してなるラインヘッド形態のインクジェットヘッドを複数設けたヘッドユニットを示している。図示の例では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの4色のインクを吐出するためのインクジェットプリントヘッド(以下、単にヘッドとも言う)121、122、123および124がプリント媒体搬送方向の上流側から並置された状態でヘッドユニット120に取り付けられている。なお、ヘッド5としては、例えばインクを吐出するために利用されるエネルギとしてインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する素子を有したものを用いることができる。また、ヘッド121〜124に対しては、それぞれのインクを貯留したインクタンク350から後述のインク系を介して各色インクが供給される。
【0015】
プリント媒体のシートSは、これらのヘッド121〜124による被プリント位置に関して、搬送ベルトを有した搬送部110により搬送され、その過程で各ヘッドから吐出される各色のインクによってプリントされ、その後インクジェットプリンタ100の外に排出される。
【0016】
図2(a)および(b)において、符号130は回復手段の構成要素をなす桶部を示している。桶部130はヘッド121〜124に対応して複数設けられ、シートSの搬送方向と平行に往復移動可能である。それぞれの桶部130は、ヘッド121〜124のそれぞれの吐出口形成面に接合して吐出口周辺を包囲可能な縁部が形成されたゴム等の弾性体でなるキャップを有する。
【0017】
図2(a)に示すプリント時には、桶部130はヘッド121〜124それぞれの側方の位置に設定される。一方、プリント時以外では、図2(b)に示すように、ヘッドユニット120を上方にリフトし、桶部130をヘッド121〜124それぞれとの対向位置に水平移動させてからヘッドユニット120を下降させることにより、ヘッド121〜124の吐出口形成面のキャッピングを行う。すなわちプリント時以外は、ヘッド121〜124の吐出口は桶部130のキャップによって外気と遮断され、各ヘッドの吐出口内方のインクが乾燥しないように保湿される。
【0018】
図3(a)および(b)は以上の構成に対するインク系の全体を示す模式図である。なお、これらの図では、簡略化のため1色のインクについての供給系を示している。
【0019】
符号330で示すものはヘッド121(または122,123,124。以下ではブラックインク用のヘッド121で代表して説明する。)に直接供給するインクを所定量保持・貯留するインク保持部であり、プリンタ本体に固定的に設けられている。このインク保持部330は、プリンタ本体に着脱可能に設けられたインクタンク350から適時インクが供給される。
【0020】
インク保持部330には、電気の導通の有無によってインクの量を検知するインク量検知手段の端子(A)331、端子(B)332および端子(C)333が取り付けられており、本実施形態では端子(A)331はインクの最下限レベル検知用、端子(B)332はインク供給タイミングのレベル検知用、端子(C)333はアース用としている。また、本例では端子(A)331および端子(C)333間の電気伝導率ないし電気抵抗値を判定することで、インク中の溶剤の蒸発に伴う濃度変化ひいてはインクの粘度変化が検出されるようにしている。つまり本例では、インク量検知手段をインク粘度検知手段に兼用している。
【0021】
320はインク保持部330からヘッド121へとインクを移送すべく、それらを連通するインク流路381に設けたポンプである。340は桶部130からの流路383とインクタンク350からの流路385とを切り替え、インク保持部330に至る流路387に接続させるための切り替え弁である。310はインク流路387に設けたポンプである。また、389はヘッド121からインク保持部330にインクを戻すための流路である。
【0022】
図3(a)はインクタンク350からインク保持部330にインクの供給を行う際の状態であり、このとき切り替え弁340はインクタンク350とインク保持部330とを連通させる位置に設定される。この状態でポンプ310を駆動することにより、インクタンク350からのインクは矢印で示すようにインク保持部330に供給可能となる。
【0023】
図3(b)はヘッド121の加圧による回復動作を行うときの状態であり、ヘッドの吐出口形成面と桶部130のキャップとが対向位置に設定されるとともに、切り替え弁340は桶部130とインク保持部330とを連通させる位置に設定される。この状態でポンプ320を駆動することにより、インク保持部330内のインクが矢印で示すようにヘッド121に圧送されてヘッド内を加圧し、吐出口からインクが強制排出されて桶部130に受容される。また、このときヘッド121内のインクは流路389を介してインク保持部330に還流するものもある。さらに、ポンプ310を駆動することにより、桶部130に受容されたインクがインク保持部330に回収され、再利用される。
【0024】
なお、この回復動作に際し、ヘッド内の加圧力が有効に作用して吐出口からインクが適切に排出されるようにするために、流路389の途中に開閉弁を設け、この弁を閉じるようにしてもよい。また、吐出口からインクを排出させる回復動作とは別に、ポンプ381によりインク保持部330のインクをヘッド121に送出する一方、ヘッド121から流路389を介してインク保持部330にインクを還流させることでヘッド121内のインクをリフレッシュする動作が行われるようにしてもよい。
【0025】
図4は本実施形態の制御系の全体的構成例を示す。本例のインクジェットプリンタ100で印刷される画像データはホスト装置であるコンピュータ1151で作成または編集された後、データ送受信部1152に送出される。データ送受信部1152で受信されたデータはRAM1156に設けた作業用領域に一旦記憶され、CPU1153で読み出され、ヘッド121〜124のインク吐出データに展開されてプリントバッファ1158に書込まれる。プリントバッファ1158はヘッド121〜124に対応してブラック,シアン,マゼンタ,イエロー等の4色について所定量のデータを独立に保持する。そして、ヘッド制御回路1157は、プリントの進捗に応じてプリントバッファ1158からデータを読み出しながらヘッド121〜124を駆動する。
【0026】
ROM1155は図5〜図7について後述する処理手順に対応した制御プログラムその他の固定データを保持する。そして、制御プログラムの制御下で、メインCPU1153は、プリント時においてヘッド制御回路1157を介しヘッド121〜124を制御するほか、I/Oポート1159,駆動回路1164を介して駆動モータ類1165の駆動制御を行う。
【0027】
駆動モータ類1165には、プリント媒体を送給する駆動装置210のためのモータ、プリント媒体を搬送する搬送部110のためのモータ、ヘッドユニット210を昇降させるためのモータ、桶部130を水平移動させるためのモータ、ポンプ310および320を駆動するためのモータ、および切り替え弁340を作動させるための駆動部等が含まれる。なお、モータはいくつかの機能に対して兼用されていてもよい。センサ回路1167には、プリントの基準位置や、ヘッドユニット,桶部の基準位置等を検出するための各種センサのほか、インク保持部330に設けられて各色のインクの残量状態等を監視するセンサ(端子331〜333を含む)などが含まれる。
【0028】
図5および図3(b)を参照して回復処理について説明する。回復処理は、ホストコンピュータ1151よりプリント命令がインクジェットプリンタ100に入力された場合において、前回のプリントから所定時間以上プリント動作を行っていなかった場合等に実行することができ、その後、ホストコンピュータ1151から供給される画像データのプリントを行うようにすることができる。また、回復処理は、インクジェットプリンタ100の操作部410からの操作入力またはホストコンピュータ1151からの指示に応じて、あるいは所定時間毎に自動的に、CPU1153がROM1155に記憶されている所定のプログラムを実行して処理を行う。また、回復処理は適宜のタイミングにて起動することができる。
【0029】
ここで、本実施形態の回復動作とは、ポンプ320により各ヘッド121〜124に各色のインクを圧送することで各ヘッド内のインクと共に気泡等の排出を行う処理(加圧回復)や、桶部130のキャップ内に所定量のインクを吐出(予備吐出)することで各ヘッドの吐出口近傍のインクを排出を行う処理が含まれる。これらの場合、必ずしもヘッドの吐出口形成面を密閉する位置になくてもよく、キャップは排出インクを受容可能な位置(例えば所定間隔をおいて対向する位置)に設定されていればよい。
【0030】
本手順が起動されると、まずかかる位置関係となるようにヘッドおよび桶部の設定を行う(ステップS1)。次に桶部130とインク保持部330とを連通させる位置に切り替え弁340を設定するとともに、ポンプ310をオンとする(ステップS3)。この状態で回復動作(ポンプ320の駆動による強制排出またはヘッドの駆動による予備吐出)を行うと(ステップS5)、排出されたインクは桶部130のキャップに受け止められ、さらにポンプ310によりインク保持部330に戻される。そして所要時間この動作を継続した後、ポンプ停止等の終了処理(ステップS7)を行って本手順を終了する。
【0031】
図6および図3(a)を参照してインク供給処理について説明する。本実施形態のインク供給処理には、インク保持部330にインク補充を行ってそのインクレベルを維持するための動作や、インクタンク350の交換を促す動作が含まれる。
【0032】
CPUによりROMのプログラムの本手順が起動されると、まずインク量検知手段の端子(A)331および端子(C)333間、並びに端子(B)332および端子(C)333間の電気抵抗値を判定する(ステップS11、S13)。これらの電気抵抗値がともに無限大でないと判断された場合は、インクレベルがインク保持部330内に端子(B)332の位置以上ある場合であり、この場合は直ちに本手順を終了する。
【0033】
一方、プリンタの設置直後等でインク保持部330にインクがない場合や、インク保持部330のインクレベルが端子(B)332の位置より低下した場合は、それぞれ、端子(A)331−端子(C)333間および端子(B)332−端子(C)333間の電気抵抗値が無限大となるので、インク保持部330へのインク補充のタイミングであると判断し、インクタンク350とインク保持部330とを連通させる位置に切り替え弁340を設定するとともに、ポンプ310をオンとする(ステップS15)。これにより、インクタンク350よりインクがインク保持部330へ圧送される。
【0034】
続いて、所定時間の計時を行うためのタイマ(ソフトウェアによるものでもハードウェアによるものでもよい)をスタートし(ステップS17)、さらに端子(A)331および端子(C)333間、並びに端子(B)332および端子(C)333間の抵抗値を判定する(ステップS19、S21)。そして、所定時間経過しても端子(A)331−端子(C)333間および端子(B)332−端子(C)333間の電気抵抗値が予め定められた数値以下にならない場合は(ステップS25)、インクの供給源であるインクタンク350内にインクがないと判断し、ユーザにインクタンクの交換を促すための報知を行う(ステップS27)。そしてポンプ停止等の所要の終了処理(ステップS23)を行って、本手順を終了する。なお、報知の態様としては、例えば表示部400に表示を行うもののほか、これに代えて、あるいはこれとともに、データ送受信部1152を介してホストコンピュータ1151に通知し、ホストコンピュータ1151が実行するプログラム(プリンタドライバ等)に従って表示装置の画面上に表示を行わせるものとすることができる。
【0035】
一方、所定時間内に端子(A)331−端子(C)333間および端子(B)332−端子(C)333間の電気抵抗値が予め決められた数値以下になった場合(無限大でなくなった場合)は、インク保持部330のインクレベルが端子(B)332の位置に到達した場合である。この場合は、例えば端子(B)332−端子(C)333間の電気抵抗値が予め決められた数値以下になった時点から予め定められた時間だけポンプ310の駆動を継続した後にポンプを停止させ、さらに切り替え弁340を桶部130のキャップとインク保持部330とが連通する元の位置に設定するなどの終了処理を行い(ステップS23)、本手順を終了する。
【0036】
なお、本手順は上記回復処理と同様、適宜のタイミングで起動することができる。また、端子間の電気抵抗値の変化(例えばインクが存在しなくなって電気抵抗値が無限大となったこと)により割り込み処理されるものとすることもできる。
【0037】
図7を参照してインク粘度判定処理について説明する。
本処理では、端子(A)331−端子(C)333間の電気抵抗値が予め定められた数値以下で、所定の電気抵抗値の範囲以外にある場合、インクの色材濃度が高くなったためにインクの粘度が高くなっていると判断し(ステップS31)、ユーザにインク粘度調整剤の投入(例えばインク保持部330内への注入)を促すための報知を行う(ステップS33)。この報知の態様としては、例えば表示部400に表示を行うもののほか、これに代えて、あるいはこれとともに、データ送受信部1152を介してホストコンピュータ1151に通知し、ホストコンピュータ1151が実行するプログラム(プリンタドライバ等)に従って表示装置上に表示を行わせるものとすることができる。
【0038】
なお、本手順も上記回復処理と同様、適宜のタイミングで起動することができる。また、回復処理動作に連続して行われるようにしてもよい。また、端子(A)331−端子(C)333間の電気抵抗値の変化(例えば上記所定範囲から外れたこと)により割り込み処理されるものとすることもできる。さらに、インク保持部330へのインク供給処理の過程で、すなわち端子間の電気抵抗値の判定に応じて実行されるようにしてもよい。また、上述のようにソフトウェアにより報知を行う構成とするほか、抵抗値の変化に応動してランプを点灯させる回路などをハードウェアで構成することも可能である。
【0039】
いずれにしても、インク粘度検知手段を備えることにより、低コストで、インクタンク内のインクがなくなるまで良好なプリント品質を維持することができる。すなわち、インクの粘度が高くなった場合でも、ユーザがこれを認識でき、インク粘度調整剤を投入するタイミングが明確になるので、安定したプリント品位を確保することが容易になる。また、プリンタの大きな仕様変更を伴うことなく比較的低廉に付加することができる。
【0040】
さらに、プリント媒体への定着速度を向上するため、揮発性の溶剤を含む速乾性のインクが用いられるような場合にも有効である。
加えて、プリント品位の一層の向上を目的として微細なノズルを高密度に実装したヘッドを用いる場合には、特に有効となる。
【0041】
また、回復処理に伴って排出されるインクを無駄なく有効利用できるので、インクの補充間隔を長くしてランニングコストを低廉化し、かつ環境に対しても資すること大である。さらに、廃インク保持手段を不要もしくは著しく小型化でき、ひいてはプリンタ全体を小型化できる。
【0042】
なお、注入される粘度調整剤としては、インク溶剤の蒸発に起因してインクの増粘が生じることから、例えばその溶剤と同じ成分のものを薄め液として用いることができる。
【0043】
また、必要十分な量の粘度調整剤が注入されるよう、注入時に粘度判定を行い、その結果をユーザに報知するようにしてもよい。また、粘度が均一となるよう、適宜の部位に攪拌手段が設けられていてもよい。さらに、粘度調整剤をユーザが注入するものとするほか、別途設けた粘度調整材用のタンク等から必要十分な量の粘度調整剤が自動的に注入されるようにすることもできる。
【0044】
また、本実施形態の特徴として、インク量検知手段を粘度検知手段に兼用したが、インクレベル検知と粘度検知とに兼用が可能なものであれば、上述のように電気抵抗値によるものでなくてもよい。
【0045】
(第2の実施形態)
図8は本発明の第2の実施形態に係るインクジェットプリンタのインク系の構成を示す模式図であり、図3(a)および(b)に示したものと同様に構成できる各部については対応箇所に同一符号を付してある。ここで、本実施形態では、インク量検知手段を粘度検知に兼用するのではなく、インク流路381にインク流量計500を追加し、流量と粘度との相関を利用してインク増粘の検知を行うようにしている。本実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の機械的構成、電気的構成およびシーケンスを採用することができるが、安定した流量が得られる状態、すなわちポンプ320の作動によってインク流路381にインクの流れが生じている状態(例えば回復処理中)で粘度検知が行われるようにする。そして、当該検出流量が、予め定められた流量以下となった場合にインクの粘度が高くなっていると判断し、上述と同様の報知を行うことができる。
【0046】
なお、流量計はインク保持部330からヘッド251に至るインク供給用流路に限らず、他の部位に配設することもできる。例えば、インク流路383の途中に設け、回復動作に関連して排出されて桶部130のキャップに受容されたインクをインク保持部330に戻す際に、ポンプ310の作動によるインク流路383内のインクの流量を検出するようにしてもよい。
【0047】
なお、流路の途中に設けられてインクの増粘を検知するための手段としては、流量計に限らずその他のものでもよい。例えば、一対の電極であってもよい。
【0048】
(その他)
以上では本発明をロール紙形態のプリント媒体にプリントを行うインクジェットプリンタの実施形態について説明したが、本発明はその他ファンフォールド紙などの連続紙や、あるいはカットシート状のプリント媒体に対してプリントを行うプリンタにも広く適用できるものであり、また産業ないし商業目的のものであるかパーソナルユースのものであるかを問わず、種々の形態を採り得るのは勿論である。
【0049】
また、上述の実施形態においては、プリント媒体の全幅以上の範囲にわたって吐出口を配列してなるラインヘッド形態のインクジェットヘッドを固定配置し、これに対してプリント媒体を搬送しながらプリントを行うラインプリンタ形態のインクジェットプリンタに本発明を適用した場合について例示した。しかし本発明は、プリント媒体の搬送方向に直交する方向にヘッドを移動可能に保持し、ヘッドの移動(主走査)とプリント媒体の搬送(副走査)と交互に繰り返しながらプリントを行ってゆくシリアルプリンタ形態のものにも適用できることは言うまでもない。
【0050】
さらに、上述の実施形態ではヘッドへのインク供給用流路にポンプを設け、ヘッドの加圧を行って吐出口からインクを強制排出させる回復動作(加圧回復)を行うインクジェットプリンタについて説明した。しかし本発明は、キャップをヘッドのインク吐出口形成面に接合させ、その状態でキャップ内を負圧状態として吐出口からインクを吸引することでインクを強制排出させる回復動作(吸引回復)を行うものにも適用できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットプリンタの外観斜視図である。
【図2】図1のプリンタのプリント媒体の搬送方向に沿った模式的断面図であり、(a)はプリント時の状態、(b)はプリントヘッドのキャッピング時の状態を示している。
【図3】第1の実施形態に係るインク系の全体を示す模式図であり、(a)はインク供給処理時の状態、(b)は回復処理時の状態を示している。
【図4】第1の実施形態の制御系の全体的構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施形態における回復処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】第1の実施形態におけるインク供給処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】第1の実施形態におけるインク粘度判定処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るインク系の全体を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
100 インクジェットプリンタ
110 プリント部
120 ヘッドユニット
121〜124 インクジェットプリントヘッド
130 桶部
200 給紙装置
220 弛みセンサ
230、231 用紙ガイド
310,320 ポンプ
330 インク保持部
331〜333 端子
340 切り替え弁
350 インクタンク
381、383、385、387、389 インク流路
400 表示部
410 操作部
500 インク流量計
1151 ホストコンピュータ
1152 データ送受信部
1153 CPU
1167 センサ回路
S シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するプリントヘッドを用いてプリントを行うインクジェットプリンタであって、
前記プリントヘッドに供給するインクを保持するためのインク保持手段と、
前記プリントヘッドからインクを排出させることで前記プリントヘッドのインク吐出性能を維持するための回復処理を行う回復手段と、
当該排出されるインクを受容して前記インク保持手段に回収する回収手段と、
前記プリントヘッドに供給されるインクの粘度を調整するために、前記インクの粘度を検知する粘度検知手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記粘度検知手段によって検知されたインクの粘度が所定の範囲を超えた場合、インク粘度調整剤の注入を促すための報知を行う報知手段をさらに具えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記報知手段は、前記インクジェットプリンタの本体に設けられた表示部への表示を行わせることで前記報知を行うことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記報知手段は、前記インクジェットプリンタに対してプリントに係る画像データを供給するホスト装置に通知を行うことを特徴とする請求項2または3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記インク保持手段に保持されるインク量を検知するインク量検知手段を具え、該インク量検知手段を前記粘度検知手段に兼用してなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インク量検知手段は少なくとも一対の電極を有し、該電極間の電気抵抗値に基づいて前記インクの量および前記粘度の検知が行われることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記粘度検知手段は、前記インクジェットプリンタのインク流路に設けられてインク流量を検知する手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インク流量を検知する手段は、前記インク保持手段から前記プリントヘッドに至るインク流路に設けられていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項4に記載のインクジェットプリンタと、
表示部を有し、該表示部に前記インクジェットプリンタからの前記通知に応じて前記報知を行うための表示を行わせるホスト装置と、
を具えたことを特徴とするプリントシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−88398(P2006−88398A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274032(P2004−274032)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】