説明

インクジェットプリンター

【課題】 インクジェットプリンターにおいて、吐出ノズルの目詰まりによりインクが吐出しない場合、2値化処置によってその部分を目立たなく印字する方法を提供する。
【解決手段】 不吐出ノズルを検知後、不吐出ラインを補間する際に印字シーケンスを変えることなく、誤差拡散処理を用いた2値化処理で対処する。
(1) 吐出ノズルが印字するライン及びその前後のライン情報、2値化誤差の正負情報に基づいて、複数の誤差拡散係数マトリクスを切り替える。
(2) 不吐出ノズルが印字するラインにおける画素位置情報及びその前後のライン情報に基づいて、複数の2値化閾値を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンターにおいて、公知の技術により不吐出ノズルを検知後、不吐出ラインを目立たなくさせる2値化処理手法、および2値化処理を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンターにおいては、各ノズルのインク吐出液滴量のバラツキやインクの不吐出によるヘッドムラを軽減するために、同一ラインを複数のノズルを使用して複数回の走査により印字を行っている(マルチパス記録方式)。同一ラインを1回の走査で印字するものを1パス、2回の走査で印字するものを2パス、4回の走査で印字するものを4パス、8回の走査で印字するものを8パスと呼んでいる。つまり、あるラインに注目したとき、1パスの場合は1つのノズルで、2パスの場合は2つのノズルで、4パスの場合は4つのノズルで、8パスの場合は8つのノズルで印字される。このとき、各パスにて印字するドットはマルチパスマスクにより割り振られる。
【0003】
従来は不吐出ノズルがあっても、その不足分を補う手法が十分に確立されておらず、前記マルチパス記録方式を用いることで、不吐出ノズルによるスジやムラを軽減させる程度のものであった。
【0004】
そのため、1パスや2パス等、パス数の少ない印字モードにおいては、マルチパス効果が不十分であり(1パスの場合にはマルチパスにならない)、印字されるプリント物は不吐出ラインが非常に目立つものとなってしまっていた。
【0005】
又、別の従来例としては、特許文献1及び特許文献2をあげることが出来る。
【特許文献1】特開2002−067297号公報
【特許文献2】特開2003−136702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記で説明したように、従来は不吐出ノズルがあっても、マルチパス印字を行うことにより、ヘッドのスジ、ムラが目立たないようにしていたが、1パスや2パス等、パス数の少ない印字モードにおいては、マルチパス効果が不十分であり、印字されるプリント物は非常に不吐出ラインが目立つものとなってしまい、印字品位の低下という問題を抱えていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためのものであり、インク吐出ノズルの目詰まりによるインクの不吐出を検知する手段を有するインクジェットプリンター装置において、誤差拡散法を用いて2値化処理を行う2値化処理手段と、前記誤差拡散法において、発生した誤差値を周辺画素へ拡散させる際の重み付けマトリクス(以降、「誤差拡散係数マトリクス」と呼ぶ)を複数セット記憶させる記憶手段と、不吐出検知手段によって検出されたノズルが実際に印字するライン位置情報を提供する手段と、前記ライン位置情報提供手段から取得したライン位置情報および誤差拡散処理にて発生した誤差値の正負情報に基づき、前記不吐出ノズルで印字するライン近傍の誤差拡散処理時に、前記誤差拡散係数マトリクス記憶手段から任意の誤差拡散係数マトリクスを選択する手段とを有することを特徴とする不吐出補間処理方法及び該装置を提供する。
【0008】
また、もう一つの手段として、誤差拡散法を用いて2値化処理を行う2値化処理手段と、前記誤差拡散法において、2値化閾値を複数記憶させる記憶手段と、不吐出検知手段によって検出されたノズルが実際に印字する画素位置情報を提供する手段と、前記画素位置情報提供手段から取得した画素位置情報に基づき、前記不吐出ノズルで印字するライン近傍の誤差拡散処理の時に、前記誤差拡散閾値記憶手段から任意の誤差拡散閾値を選択する手段とを有することを特徴とする不吐出補間処理方法及び該装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
以上、これまで述べてきたように、不吐出ノズルの位置情報を取得し、不吐出ノズルで印字すべき濃度分を周辺の画素に拡散して、不吐出ライン周辺全体で濃度を保存することにより、吐出しないノズルがあるにもかかわらず、不吐出ラインが目立たない画像形成が可能である。
【0010】
また、不吐出ノズルが発生し、ヘッドを交換しなければいけないのに対して、不吐出ラインが目立たない効果があるため、ヘッド交換を行わなくても済み、ヘッドの実質寿命を延ばすことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図3は従来の(通常の)誤差拡散処理の流れを示すフロー図である。まず、従来の(通常の)2値誤差拡散処理について図3を用いて簡単に説明する。画像濃度値(In)と周辺画素からの拡散誤差値(dIn)とを加算して補正濃度値(In+dIn)を得る。そして、比較器にて、求めた補正濃度値(In+dIn)と閾値(thleshold)とを比較し、補正濃度値が閾値より大きければ出力値(Out)を「1」とし、補正濃度値が閾値より小さければ出力値(Out)を「0」とする。次に、補正濃度値(In+dIn)から誤差拡散評価値(Evaluation)を引いた2値化誤差(Error=In+dIn−Evaluation)を算出し、2値化誤差を周辺画素へ拡散させるために、重み付け演算を行って誤差バッファに加算する。ここで、出力値(Out)が「1」であれば、誤差拡散評価値(Evaluation)は「255」となり、出力値(Out)が「0」であれば、誤差拡散評価値(Evaluation)は「0」となる。最後に、注目画素位置に拡散された誤差値を誤差バッファから取り出し、重み係数の総和で正規化し、次の画素の拡散誤差値(dIn)とする。以上のことを全画素に対して繰り返し実行する。これが従来の(通常の)誤差拡散処理の流れである。
【0014】
一方、図1は本発明の請求項1に記載の誤差拡散処理の流れを示す図である。画像濃度値(In)と周辺画素からの拡散誤差値(dIn)とを加算して補正濃度値(In+dIn)を得る。そして、比較器にて、補正濃度値(In+dIn)と閾値(thleshold)とを比較し、補正濃度値が閾値より大きければ出力値(Out)を「1」とし、補正濃度値が閾値より小さければ出力値(Out)を「0」とする。そして、補正濃度値(In+dIn)から誤差拡散評価値(Evaluation)を引いた2値化誤差(Error=In+dIn−Evaluation)を算出し、算出された2値化誤差は後述する誤差拡散係数マトリクスにより重み付けされて周辺画素へ拡散される。誤差拡散評価値(Evaluation)は、誤差拡散出力値(Out)が「1」であれば、誤差拡散評価値は「255」であり、誤差拡散出力値(Out)が「0」であれば、誤差拡散評価値は「0」となる。このとき、不吐出ノズルが印字するライン位置情報をライン位置情報提供手段から取得し、
(1)不吐出ノズルが印字するラインでは、
a.2値化誤差値が正の値の場合には、図4(c)のように下ラインへの重みが大きく、同一ラインへの重みが小さな誤差拡散係数マトリクスを選択する。
【0015】
b.2値化誤差値が負の値の場合には、図4(b)のように同一ラインへの重みが大きく、下ラインへの重みが小さな誤差拡散係数マトリクスを選択する。
【0016】
(2)不吐出ノズルの上下ノズルが印字するラインでは、
a.2値化誤差値が正の値の場合には、図4(b)のように同一ラインへの重みが大きく、下ラインへの重みが小さな誤差拡散係数マトリクスを選択する。
【0017】
b.2値化誤差が負の値の場合には、図4(c)のように下ラインへの重みが大きく、同一ラインへの重みが小さな誤差拡散係数マトリクスを選択する。
【0018】
(3)吐出ノズル近傍以外が印字するラインでは、2値化誤差の正負に関わらず、図4(a)のように、下ライン、同一ラインへの重みのバランスがとれた誤差拡散係数マトリクスを選択する。
【0019】
上記選択された誤差拡散係数マトリクスにより重み付け演算を行って誤差バッファに加算する。最後に、注目画素位置に拡散された誤差値を誤差バッファから取り出し、重み係数の総和で正規化し、次の画素の拡散誤差値(dIn)とする。以上のことを全画素に対して繰り返し実行する。上記が本発明の請求項1に記載した誤差拡散処理の流れである。
【0020】
従来の通常の誤差拡散法で処理した場合、不吐出ノズルにより印字されないドットがあったら、その部分が白く抜けて見え、スジの目立つ画像になってしまう。
【0021】
一方、本発明の実施例1に記載の誤差拡散法で処理した場合、不吐出ノズルが印字するラインにてドットがONになりずらいような誤差拡散係数マトリクスを選択し、不吐出ノズルが印字する上下ラインにてドットがONになりやすいような誤差拡散係数マトリクスを選択することで、白抜けしてしまうラインを上下のラインでカバーする役割を果たす。そのため、吐出するラインがあるにも関わらず、不吐出ラインが目立たない画像形成が可能である。
【実施例2】
【0022】
図2は本発明の請求項2に記載の誤差拡散処理の流れを示す図である。画像濃度値(In)と周辺画素からの拡散誤差値(dIn)とを加算して補正濃度値(In+dIn)を得る。そして比較器にて、補正濃度値(In+dIn)と閾値(thleshold)とを比較して2値化を行う際に、不吐出ノズルが印字する画素位置情報を画素位置情報提供手段から取得し、
(1)不吐出ノズルが印字するラインでは、
a.不吐出ノズルが印字する画素では、2値化閾値として大きい値(例えば、「192」)を2値化閾値として選択する。
【0023】
b.不吐出ノズル以外が印字する画素では、2値化閾値として小さい値(例えば、「64」)を2値化閾値として選択する。
【0024】
(2)不吐出ノズルの上下ノズルが印字するラインでは、2値化閾値として小さい値(例えば、「64」)を2値化閾値として選択する。
【0025】
(3)不吐出ノズル近傍以外が印字するラインでは、2値化の中心値「128」を2値化閾値として選択する。
【0026】
上記選択した閾値(thleshold)と補正濃度値(In+dIn)とを比較器にて比較し、補正濃度値が閾値より大きければ出力値(Out)を「1」とし、補正濃度値が閾値より小さければ出力値(Out)を「0」とする。
【0027】
そして、補正濃度値(In+dIn)から上記処理にて選択された誤差拡散評価値(Evaluation)を引いた2値化誤差(Error=In+dIn−Evaluation)を算出し、2値化誤差を周辺画素へ拡散させるために、重み付け演算を行って誤差バッファに加算する。最後に、注目画素位置に拡散された誤差値を誤差バッファから取り出し、重み係数の総和で正規化し、次の画素の拡散誤差値(dIn)とする。以上のことを全画素に対して繰り返し実行する。上記が本発明の請求項2に記載した誤差拡散処理の流れである。
【0028】
従来の通常の誤差拡散法で処理した場合、不吐出ノズルにより印字されないドットがあったら、その部分が白く抜けて見え、スジの目立つ画像になってしまう。
【0029】
一方、本発明の実施例2に記載の誤差拡散法で処理した場合、不吐出ノズルが印字する画素では2値化閾値を高くしてドットを打たれにくくし、不吐出ノズル周辺画素では2値化閾値を低くしてドットを打たれ易くする。つまり、予め、不吐出ノズルで印字するドット数を少なくしておき、その減少分を周辺画素に拡散しておき、不吐出ノズルで印字できない分を不吐出ノズル近傍画素でカバーすることにより、吐出しないノズルがあるにもかかわらず、不吐出ラインが目立たない画像形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の請求項1に記載の誤差拡散処理フローを示す図である。
【図2】本発明の請求項2に記載の誤差拡散処理フローを示す図である。
【図3】従来の(通常の)誤差拡散処理フローを示す図である。
【図4】請求項1に記載の誤差拡散係数マトリクスの選択例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出ノズルの目詰まりによるインクの不吐出を検知する手段を有するインクジェットプリンターにおいて、
誤差拡散法を用いて2値化処理を行う2値化処理手段と、
前記誤差拡散法において、発生した誤差値を周辺画素へ拡散させる際の重み付けマトリクスを複数セット記憶させる記憶手段と、
不吐出検知手段によって検出されたノズルが実際に印字するライン位置情報を提供する手段と、
前記ライン位置情報提供手段から取得したライン位置情報及び、誤差拡散処理にて発生した誤差値の正負情報に基づき、前記不吐出ノズルで印字するライン近傍の誤差拡散処理時に、前記記憶手段から任意の重み付けマトリクスを選択する手段と
を有することを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項2】
インク吐出ノズルの目詰まりによるインクの不吐出を検知する手段を有するインクジェットプリンターにおいて、
誤差拡散法を用いて2値化処理を行う2値化処理手段と、
前記誤差拡散法において、2値化閾値を複数記憶させる記憶手段と、
不吐出検知手段によって検出されたノズルが実際に印字する画素位置情報を提供する手段と、
前記画素位置情報提供手段から取得した画素位置情報に基づき、前記不吐出ノズルで印字する画素近傍の誤差拡散処理の時に、前記2値化閾値記憶手段から任意の2値化閾値を選択する手段と
を有することを特徴とするインクジェットプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−240002(P2006−240002A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57513(P2005−57513)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】