説明

インクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法

【課題】 インクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法において、その空吸引を効率的に行って排気キャップ内にインクが残留するのを良好に抑制すること。
【解決手段】 排気キャップ40の空吸引工程では、(B)に示すように排気キャップ40を傾斜させ、キャリッジ3と排気キャップ40との間に隙間を形成する。この状態で吸引口47からインクを吸引すると、(C)に矢印で示すように、上記隙間から吸引口47に向かって気流が形成され、その気流によってインクを吸引口47の方向に搬送することができる。このため、排気キャップ40の空吸引を効率的に行って、排気キャップ40内にインクが残留するのを良好に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインクを噴射するインク噴射部と、そのインク噴射部にインクを供給するインク流路で発生した気泡を除去するための排気キャップと、を備えたインクジェットプリンタに対し、上記排気キャップ内に排出されたインクを吸引するインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、本体フレームに移動可能に設けられ、ノズルからインクを噴射するインク噴射部を複数搭載したキャリッジと、上記各インク噴射部にそれぞれ供給されるインクを蓄える複数のインクタンクと、該各インクタンクから上記各インク噴射部にそれぞれインクを供給する複数のインク流路とを備えたインクジェットプリンタが考えられている。この種のインクジェットプリンタでは、上記複数のインクタンクにそれぞれ異なる色のインクを蓄えておき、各インク流路を介して各インク噴射部にそれぞれ供給して噴射することにより、カラー画像を記録することができる。
【0003】
また、本願出願人は、この種のインクジェットプリンタにおいて、上記キャリッジに設けられ、上記各インク流路で発生する気泡をそれぞれ貯留する複数の気泡貯留室と、上記キャリッジに設けられ、上記各気泡貯留室にそれぞれ連通する複数の排出路と、該各排出路にそれぞれ設けられた複数の常閉式の開閉弁と、上記本体フレームに設けられ、上記各開閉弁をそれぞれ開閉する複数の棒状の開閉部材と、上記本体フレームに設けられ、上記各開閉部材が摺動可能に挿通され、上記キャリッジに対し上記排出路の排出口を塞ぐように密着可能とされ、密着状態では上記排出口に連なる気密空間を形成する排気キャップと、を設けることを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような構成を採用することで、各インク流路で発生した気泡は各気泡貯留室に一旦貯留され、開閉部材によって開閉弁が開かれると、排気キャップ内の気密空間に上記気泡が排出される。このため、インク流路で発生した気泡を良好に除去して、インクジェットプリンタの記録品質を良好に維持することができる。また、各気泡貯留室に貯留された気泡は、外気へ直接排出されるのではなく、排気キャップによって形成された気密空間に排出されるため、気泡貯留室への大気の侵入を防止して、インク流路内の気泡を一層良好に除去することができる。
【0005】
更に、上記のように気泡を除去する際、排気キャップ内には、気泡と共にインク流路内のインクも排出される。そこで、本願出願人は、上記特許文献1において、気泡の除去後に排気キャップを空吸引して、排気キャップ内に排出されたインクを吸引除去することを提案している。
【特許文献1】特開2005−246928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、インクはある程度の粘性を有するため、単純に空吸引を行っても排気キャップ内に付着したインクが除去できない場合がある。そこで、本発明は、インクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法において、その空吸引を効率的に行って排気キャップ内にインクが残留するのを良好に抑制することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するためになされた本発明は、本体フレームに移動可能に設けられ、ノズルからインクを噴射するインク噴射部を複数搭載したキャリッジと、上記各インク噴射部にそれぞれ供給されるインクを蓄える複数のインクタンクと、該各インクタンクから上記各インク噴射部にそれぞれインクを供給する複数のインク流路と、上記キャリッジに設けられ、上記各インク流路で発生する気泡をそれぞれ貯留する複数の気泡貯留室と、上記キャリッジに設けられ、上記各気泡貯留室にそれぞれ連通する複数の排出路と、該各排出路にそれぞれ設けられた複数の常閉式の開閉弁と、上記本体フレームに設けられ、上記各開閉弁をそれぞれ開閉する複数の棒状の開閉部材と、上記本体フレームに設けられ、上記各開閉部材が摺動可能に挿通され、上記キャリッジに対し上記排出路の排出口を塞ぐように密着可能とされ、密着状態では上記排出口に連なる気密空間を形成する排気キャップと、を備えたインクジェットプリンタに対し、上記開閉弁の開弁時に上記排気キャップ内に排出されたインクを吸引するインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法であって、上記気密空間が形成された状態から上記排気キャップを傾斜させることにより上記キャリッジと上記排気キャップとの間に隙間を形成し、その隙間とは反対側から上記排気キャップ内のインクを吸引することを特徴としている。
【0008】
本発明では、排気キャップをキャリッジに密着させて気密空間が形成された状態から、排気キャップを傾斜させることにより、キャリッジと排気キャップとの間に隙間を形成し、その隙間とは反対側から上記排気キャップ内のインクを吸引している。このため、キャリッジと排気キャップとの隙間から上記インクの吸引部に向かって気流が形成され、その気流によってインクを上記吸引部方向に搬送することができる。このため、本発明では、排気キャップの空吸引を効率的に行って、その排気キャップ内にインクが残留するのを良好に抑制することができる。
【0009】
なお、本発明は、インクジェットプリンタの上記開閉弁,開閉部材,排気キャップ等の構成を特に限定するものではないが、上記各開閉弁及び上記各開閉部材がそれぞれ一方向に列設され、上記排気キャップを上記開閉部材の配列方向に傾斜させることにより上記隙間を形成し、その隙間とは反対側から上記排気キャップ内のインクを吸引してもよい。この場合、排気キャップは開閉部材の列設方向に長い形状を有し、その排気キャップの長手方向に沿って上記気流が形成される。このため、空吸引を一層効率的に行って、インクが残留するのを一層良好に抑制することができる。
【0010】
また、上記インクジェットプリンタが、上記排気キャップを上記キャリッジ方向に付勢する付勢手段と、上記排気キャップを上記付勢手段の付勢力に抗して上記キャリッジから引き離す隔離手段と、を備えている場合、上記付勢手段と上記隔離手段とから作用する力を利用して上記排気キャップを傾斜させてもよい。
【0011】
すなわち、上記のような排気キャップを備えたインクジェットプリンタは、排気キャップをキャリッジに圧接・離間するために、排気キャップをキャリッジ方向に付勢する付勢手段と、排気キャップを付勢手段の付勢力に抗してキャリッジから引き離す隔離手段と、を備える場合も多い。そこで、上記のように、付勢手段と隔離手段とから作用する力、すなわち排気キャップをキャリッジに圧接・離間するための機構を利用して排気キャップを傾斜させれば、排気キャップを傾斜させるための特別なアクチュエータを設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。本実施の形態のインクジェットプリンタは、プリンタ機能と、コピー機能と、スキャナ機能を備えたものであって、図1及び図2に示すように、本体フレーム1の上面にコピー機能とスキャナ機能のための原稿読取り装置2が設けられ、原稿読取り装置2の下方には、記録用のキャリッジ3と、後述する記録ヘッド10の目詰まりを回復させるためのメンテナンスユニット4と、記録ヘッド10にインクを供給するインクタンク5が設けられている。また、本体フレーム1の前面には排紙トレイ6と給紙トレイ7が設けられている。キャリッジ3は、左右方向に往復移動するようになっている。キャリッジ3の移動経路の左端から右端に近い位置に至る長い領域は記録領域8となっており、移動経路の右端部はメンテナンス位置(原点位置、ホームポジション)となっていて、ここにメンテナンスユニット4が設けられている。また、メンテナンス位置の前方(手前)には、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色のインクタンク5(インクカートリッジ)が並んで配置されている。
【0013】
<キャリッジ3、及びキャリッジ3へのインクの供給手段>
キャリッジ3は、図3及び図4に示すように、下面に多数のノズルを設けたブラック、シアン、マゼンダ、イエロー用の4つの記録ヘッド10(インク噴射部の一例に相当)を有し、キャリッジ3が記録領域8を走行する間に、各記録ヘッド10のノズルからは下向きにインクが噴射され、被記録媒体(印刷用紙)への記録(印字)が行われるようになっている。
【0014】
各記録ヘッド10の上面には、それぞれ、バッファタンク11が設けられている。バッファタンク11は、上部に気泡貯留室12を有し、下部に記録ヘッド10に連なるインク流室13を有する。気泡貯留室12には、可撓性を有するチューブ14(図2を参照)を通してインクタンク5からインクが供給されるようになっている。気泡貯留室12内に供給されたインクは、フィルタ15を通過してインク流室13に流れ込み、記録ヘッド10に至る。インクがフィルタ15を通過する際に、インク内に含まれている気泡が分離され、気泡貯留室12の上方に貯留されていく。
【0015】
キャリッジ3には、記録ヘッド10よりも右方に位置するようにバブルケース16が設けられている。バブルケース16の下面には、各気泡貯留室12の天井壁から延出された排出路17が排出口18として開口され、これら4つの排出口18は前後方向に列設されている。バブルケース16の内部では4つの排出路17が上下方向に延びており、この上下方向に延びた部分には、それぞれ、常閉式の開閉弁19が収容されている。開閉弁19は、常には、上下方向に細長い弁体20がバネ21により弁口22を塞ぐ閉弁状態に保持されているが、弁体20がバネ21の付勢に抗して上方へ移動すると、開閉弁19が開弁されるようになっている。また、気泡貯留室12から排出路17の排出口18に至る排気経路(詳しくは後述する)の排気抵抗については、カラー用すなわちシアン用の排気経路とイエロー用の排気経路とマゼンダ用の排気経路とが互いに同じ程度となっている。一方、ブラック用の排気経路の排気抵抗は、カラー用の各排気抵抗よりも小さい。
【0016】
かかるキャリッジ3は、その往復移動経路中、最も右端の原点位置と、この原点位置よりも僅かに左側(記録領域8側)であってワイパ90(図7を参照)よりも右側の空吸引位置と、ワイパ90よりも僅かに左側のワイピング終了位置とに停止し得るようになっている。
【0017】
<メンテナンスユニット4の駆動力伝達機構>
図5及び図6に示すように、メンテナンスユニット4は、給紙用のローラ(図示せず)を回転させるためのモータ(図示せず)からギヤ31を介して駆動力が伝達される太陽ギヤ32を備えている。太陽ギヤ32の軸33には旋回アーム34の一端が相対回転自由に取り付けられ、旋回アーム34の他端には遊星ギヤ35が相対回転可能に取り付けられ、遊星ギヤ35は太陽ギヤ32に係合されている。遊星ギヤ35の前方には、軸線を太陽ギヤ32及び遊星ギヤ35と平行、すなわち上下方向に向けた円盤状のカム55がメンテナンスフレーム111に回転自由に支持され、カム55には、遊星ギヤ35と同じ高さの従動ギヤ36が一体に形成されている。なお、カム55については、後に詳しく説明する。
【0018】
一方、遊星ギヤ35の後方には、ポンプギヤ37が、遊星ギヤ35と同じ高さでメンテナンスフレーム111に回転自由に支持されている。ポンプギヤ37が回転すると、ロータリー式のポンプ38が駆動して吸引動作を行うようになっている。
【0019】
太陽ギヤ32が、下から見た図6における反時計回り方向に回転すると、遊星ギヤ35が太陽ギヤ32を中心に反時計回り方向へ公転してカム55の従動ギヤ36に係合し、カム55が反時計回り方向(上から見ると時計回り方向)に回転駆動される。これに対し、太陽ギヤ32が時計回り方向に回転すると、遊星ギヤ35が太陽ギヤ32を中心に時計回り方向へ公転してポンプギヤ37に係合し、ポンプ38が回転駆動して吸引動作を行う。従って、カム55の回転方向は、常に、図6における反時計回り方向(後述の図16においては時計回り方向)となる。
【0020】
<メンテナンスユニット4の排気キャップ40>
メンテナンスフレーム111には、図7に示すように、移動手段の一例としてのキャップリフトホルダ41が移動可能に設けられている。キャップリフトホルダ41は、図8、図9に示すように、左右一対ずつの平行な等長リンク42からなる4節リンク機構により、待機位置と密着位置との間で左右方向へ円弧状に平行移動し得るようになっている。待機位置は図8に示すように左側の低い位置に設定され、密着位置は図9に示すように右側の高い位置に設定されており、キャップリフトホルダ41は、図示しない復帰バネにより待機位置側(すなわち右側)へ付勢されている。
【0021】
また、キャップリフトホルダ41の右端の前後端縁には上方へ延出した一対の延出部43が一体成形されており、各延出部43の左端に、記録ヘッド10の右側端縁10a(図4参照)に係合する平面視L字状の受け板44が形成されている。このため、キャリッジ3が記録領域8から原点位置(メンテナンス位置)へ移動する過程では、原点位置に至る直前で記録ヘッド10が受け板44に対して左側から当接し、その後、キャリッジ3が原点位置に到達する間、キャリッジ3が、受け板44を押しつつ、キャップリフトホルダ41を上記復帰バネの付勢に抗して待機位置から密着位置へ移動させる。
【0022】
キャップリフトホルダ41の右端位置には排気キャップ40が押上バネ45(図11参照)を介して上下方向への相対移動可能に支持されている。図10に示す平面図及びそのA−A線断面図としての図11に示すように、排気キャップ40は、シリコンゴム製であって、前後方向に細長い略方形をなし、上面側に開放された凹部を有する。
【0023】
排気キャップ40を支持する排気キャップホルダ48の前後側面には、上面が水平で下面が傾斜したのこぎり歯状の凸部48aが一体成形されている。一方、キャップリフトホルダ41には、図12及び図13の分解斜視図に示すように、延出部43をくり抜くことによって形成された可撓性のフック部49が設けられており、そのフック部49には、凸部48aに嵌合する穴49aが形成されている。なお、後述の図14に示すように、穴49aの上側(すなわちキャリッジ3側)の端部は、高さを異ならせて形成されている。
【0024】
図12,図13に戻って、また、排気キャップホルダ48の左右側面には、一対の軸48bが突出され、キャップリフトホルダ41には、この軸48bを受ける一対の軸受部41bが形成されている。更に、軸48bの基底部48cは略半円形の台座状になっており、軸受部41bの内壁面には、この基底部48cに当接する上下方向のリブ41cが軸48bを挟んだ両側に形成されている。また、排気キャップホルダ48の下面の前後両端と、キャップリフトホルダ41の上面との間には、前述の押上バネ45が圧縮して挿入されている。かかる排気キャップ40は、キャップリフトホルダ41が待機位置にある状態では、図14(A)に示すように、キャリッジ3のバブルケース16よりも低い高さで待機する。また、この時点では、一対の凸部48aが穴49aの上側の端部にそれぞれ係合するため、排気キャップ40は前後方向に傾斜して配設される。
【0025】
キャリッジ3に押されてキャップリフトホルダ41が密着位置に向かって斜め右上方へ円弧状に変位する過程では、排気キャップ40の上端縁のリップ部がキャリッジ3の下面に対して気密状に密着すると共に押上バネ45の付勢により密着度を高めていく。そして、この密着により、図14(B)に示すように、排気キャップ40は水平に変位し、排気キャップ40の凹部とキャリッジ3の下面とによって4つの排出口18(図3参照)に連通する気密空間46が形成される。排気キャップ40の底壁の後端部には、吸引口47が凹部に連通するように開口されており、この吸引口47は、チューブを介して切換手段70の排気ポート78(図6参照)に接続されている。
【0026】
<メンテナンスユニット4の開閉部材50>
排気キャップ40の底壁には、前後方向に並ぶ4本の棒状をなす開閉部材50が、気密を保った状態で上下方向へ摺動し得るように貫通されている。4本の開閉部材50のうち最も前方に位置するブラック用開閉部材50は、単独で排気キャップ40に対して相対的に上下動し得るようになっており、このブラック用開閉部材50の下端部には横向きに突出するカムフォロア51が形成されている。4本の開閉部材50のうち後側に並ぶ3本のカラー用開閉部材50は、排気キャップ40の下方で互いに連結されていて一体的に上下動するようになっている。このカラー用開閉部材50の下端部にも横向きに突出するカムフォロア51が形成されている。この2つのカムフォロア51は、カム55によって左右方向へ往復駆動される前後2つのスライダ52のフリーガイド54aまたはカムガイド54b(図8,図9参照)に別々に係合されている。なお、スライダ52については後で詳しく説明する。
【0027】
また、排気キャップ40はキャップリフトホルダ41と一体に移動するが、開閉部材50は、排気キャップ40に対して左右方向へは一体的に変位するものの、上下方向に関しては排気キャップ40に対して相対的に変位するようになっている。このように上下方向への相対変位を許容されていることにより、開閉部材50は、キャップリフトホルダ41の位置に関わりなく常にスライダ52と係合する状態に保たれる。なお、図15には、排気キャップ40、排気キャップホルダ48、押上バネ45、及び、開閉部材50の分解図を示したので、参照されたい。
【0028】
<開閉部材50の駆動機構>
カム55の上面には、カム溝56が形成されている。このカム溝56は、図16に示すように、カム55と同心の円弧形をなす非駆動領域56aと、この非駆動領域56aに連なり且つ非駆動領域56aよりも径方向中心側へ湾曲した形態の駆動領域56bとから構成される。また、メンテナンスフレーム111には、前後2つのスライダ52が、カム55の上方において左右方向(すなわち、キャリッジ3の移動方向と平行な方向)へ個別に平行移動し得るように支持されている。各スライダ52から下方へ突出した図示しないカムフォロアが、カム55の中心よりも右方の位置においてカム溝56に係合されている。上記カムフォロアが非駆動領域56aに係合している状態では、スライダ52は右側の位置(図8,図9参照)で待機しており、上記カムフォロアが駆動領域56bに係合すると、図17に示すように、スライダ52が左側へスライドするようになっている。なお、後側(図16における上側)のスライダ52はカラーインク用の開閉部材50を駆動するためのものであり、前側のスライダ52はブラックインク用の開閉部材50を駆動するためのものである。
【0029】
各スライダ52には、それぞれ、開閉部材50のカムフォロア51を係合させるためのフリーガイド54aとカムガイド54bが形成されている。図17に示すように、フリーガイド54aは、左右方向(すなわち、スライダ52の移動方向と平行)に直線状に延びていると共に右端部において右上がりに傾斜した経路を有しており、カムガイド54bは、フリーガイド54aの右端に連なると共に、右側に向かって上り勾配となる傾斜部を有している。
【0030】
キャップリフトホルダ41が待機位置にある状態では、スライダ52がカム55の非駆動領域56aと駆動領域56bのいずれに係合していても、開閉部材50のカムフォロア51は常にフリーガイド54aに係合する状態を保ち、カムガイド54bに係合することはない。キャリッジ3によってキャップリフトホルダ41が密着位置へ移動すると、キャップリフトホルダ41と一体に右方へ変位した開閉部材50のスライダ52が、フリーガイド54aからカムガイド54bに係合する状態となる。このとき、スライダ52のカムフォロアが非駆動領域56aに係合していれば、開閉部材50のカムフォロア51はカムガイド54bの最も低い左端(フリーガイド54aの右端と同じ高さ)に係合し、開閉部材50は最も低い閉弁位置で待機することになる。この閉弁位置では、開閉部材50の上端は開閉弁19の弁体20(図3,図4参照)の下端よりも更に下方に位置するため、開閉弁19は閉弁状態に保たれる。
【0031】
この状態から、スライダ52のカムフォロアが駆動領域56bと係合する状態に移行して左方へスライドすると、図17に示すように、開閉部材50のカムフォロア51はカムガイド54bを相対的に右方へ移動しつつ傾斜部を上ることになる。このため、開閉部材50は閉弁位置から上昇して開弁位置へ移動する。開閉部材50が開弁位置に移動すると、開閉部材50の上端が弁体20の下端に当接してその弁体20を押し上げるため、開閉弁19は開弁状態となる。また、カム55の上面には、ワイパ90を上下動させるためのカム溝57も形成されている。
【0032】
<メンテナンスユニット4のノズルキャップ60>
さて、キャップリフトホルダ41における排気キャップ40よりも左側の領域には、ノズルキャップ60が図示しない押上バネを介して上下方向への相対移動可能に支持されている。ノズルキャップ60は、シリコンゴム製であって、前後方向に長い略方形をなし、上面側に開放された左右2つの凹部を有し、各凹部内には上面が盛り上がった蒲鉾形断面のスペーサ62(図3参照)が収容されている。かかるノズルキャップ60は、キャップリフトホルダ41が待機位置にある状態では、キャリッジ3の下面よりも低い高さで待機する。キャリッジ3に押されてキャップリフトホルダ41が密着位置に向かって斜め右上方へ円弧状に変位する過程では、ノズルキャップ60の上端縁のリップ部がキャリッジ3の下面に対して気密状に密着すると共に押上バネの付勢により密着度を高めていく。そして、この密着により、ノズルキャップ60のスペーサ62の上面とキャリッジ3の下面とによって記録ヘッド10のノズルに連通する左右2つの独立した密閉空間が同時に構成されるようになっている。この2つの密閉空間のうち、一方はブラック用のノズルと対応し、もう一方はカラー用の3色のノズルと対応するようになっている。
【0033】
ノズルキャップ60の各凹部の底壁には、排気キャップ40と同様に、その後端部(長手方向における一方の端部)に位置するように吸気口64(図3参照)が開口されており、ブラック用の凹部の吸気口64は、チューブを介して切換手段70のブラックインク用ポート79(以下、Bkポートという)に接続され、カラー用の凹部の吸気口64は、チューブを介して切換手段70のカラー用ポート80(以下、Coポートという)に接続されている。
【0034】
<メンテナンスユニット4の切換手段70>
図5,図6に示すように、切換手段70は、排気キャップ40によって形成された気密空間46を、ポンプ38に連通させる状態と、ポンプ38から遮断する状態とに切換える機能と、ノズルキャップ60によって形成された密閉空間を、ポンプ38に連通させる状態と、ポンプ38から遮断する状態とに切換える機能とを兼ね備えている。切換手段70は、カム55の下面に形成された取付部71と、切換部材73と、カバー76とを備えて構成されている。
【0035】
取付部71は、図5に示すように、カム55及び従動ギヤ36と同心の円形をなし、取付部71の外周には位置決め突起72が形成されている。切換部材73は、ゴム製であって、円盤状をなし、外面には切換流路74が形成されている。切換流路74は、切換部材73の下面の中心から放射状に(径方向に)延びる4本の分岐溝74aと、切換部材73の外周に各分岐溝74aの外周端に連なるように形成された連通溝74bとからなる。かかる切換部材73は、その上面の位置決め溝(図示省略)を位置決め突起72に嵌合させつつ取付部71に嵌合され、これにより、切換部材73がカム55及び従動ギヤ36に対して同心にかつ一体回転するように取り付けられている。
【0036】
カバー76は、合成樹脂製であって、有底の円筒状をなす。カバー76の底壁の中心には吸気ポート77が形成され、この吸気ポート77はチューブを介してポンプ38に接続されている。カバー76の円形の周壁には、周方向に所定の角度間隔を空けて5つのポート78〜82が形成されている。5つのうち1つ目は、排気キャップ40によって形成される気密空間46に連通する排気ポート78であり、2つ目は、ノズルキャップ60によって形成されたブラック用の密閉空間に連通するBkポート79(ブラックインク用ポート)であり、3つ目は、ノズルキャップ60によって形成されたカラー用の密閉空間に連通するCoポート80(カラーインク用ポート)であり、残りの2つは大気に開放された大気ポート81,82である。
【0037】
かかるカバー76は、カム55の下面に形成された3つの係止爪83によってカム55に取り付けられている。すなわち、カバー76の外周にはフランジ84が全周に亘って連続して形成されており、3つの係止爪83は、カム55と同心の円周上に所定角度間隔を空けて配置され、径方向への弾性撓みが可能となっている。カバー76をカム55の下面に組み付けると、3つの係止爪83がフランジ84の下面に対して外周側から係止され、これにより、カバー76が、カム55及び切換部材73に対して相対的に回転し得るように、かつ上下方向(カム55の回転中心軸方向)への相対変位は規制された状態で支持される。カバー76をカム55に組み付けた状態では、カバー76の内部に切換部材73が収容され、切換部材73の外周のリップ部がカバー76の内周に対して密着しており、カバー76と切換部材73とが相対的に回転すると、切換部材73の外周のリップ部とカバー76の内周との間に摺動抵抗(摩擦抵抗)が発生するようになっている。
【0038】
また、カバー76の外周には、径方向へ延出するアーム部85が一体に形成されており、このアーム部85の延出端が、太陽ギヤ32の軸33に対して相対回転可能に嵌合されている。このアーム部85と軸33との嵌合により、カバー76は、メンテナンスフレーム111に対して回転規制された状態に保持され、カバー76のポート78〜82の位置も固定された配置となる。なお、アーム部85は、軸33の抜止め突起33aにより下方への抜止めがなされており、このアーム部85とその上方に位置する太陽ギヤ32との間では、前述の旋回アーム34が、軸33に対する相対回転を許容された状態で挟まれた状態となっている。
【0039】
カバー76内で切換部材73が回転する過程では、切換流路74の4つの連通溝74bの全てがいずれのポート78〜82にも連通しない状態と、4つの連通溝74bのうちいずれか1つないし3つの連通溝74bがいずれかのポート78〜82に連通する状態とに切り換わる。全ての連通溝74bがいずれのポート78〜82にも対応しない状態では、全てのポート78〜82がポンプ38から遮断される。連通溝74bがポート78〜82に連通する状態では、連通溝74bと対応するポート78〜82が切換流路74を介してポンプ38に連通されるか、もしくは、連通溝74bと対応する複数のポート78〜82が切換流路74を介して互いに連通すると共にポンプ38にも連通する状態となる。なお、具体的に切り換え形態については、後に詳しく説明する。
【0040】
<メンテナンスユニット4のキャリッジロック100>
カム55の外周には、下面がカム面102とされた円形のフランジ部101が形成されている。カム面102には、部分的に上方へ凹んだ形態、すなわち部分的に高くなった領域が形成され、この領域がロック領域となっている。また、カム面102のうち、ロック領域よりも低い部分はロック解除領域となっている。キャリッジロック100(図7参照)は、メンテナンスフレーム111に対して上下移動可能に、かつ図示しないバネにより上方へ付勢された状態で支持されており、キャリッジロック100の下端部に形成したカムフォロア103がカム面102に対して下から当接されている。従って、キャリッジロック100の大部分はカム55よりも上方に位置している。カムフォロア103がロック解除領域に当接している状態では、キャリッジロック100が下方のロック解除位置に保持され、カムフォロア103がロック領域に当接する状態では、キャリッジロック100が上動し、キャリッジ3の移動経路に進出する。このとき、キャリッジ3が原点位置(メンテナンス位置)に位置していれば、キャリッジロック100の上端部がキャリッジ3の左側面の前端部に係止し、この係止によってキャリッジ3の左方、すなわち記録領域8への移動が規制されるようになっている。
【0041】
<カム55の回転位置の制御手段>
カム55の外周のフランジ部101には被検出部105が一体回転するように設けられていると共に、メンテナンスフレーム111には、カム55の回転に伴なって被検出部105によりON・OFFされるリーフスイッチ106が設けられている。リーフスイッチ106がON又はOFF状態(図18におけるポジション「A(M)」「N」「O」「P」「Q」「R」「S」「K」)になると、カム55を駆動するためのモータの回転数のカウントが開始され、これにより、カム55の停止位置が正確に制御されるようになっている。なお、以下のメンテナンス等の工程の説明においては、リーフスイッチ106のON・OFF動作及びそれに基づくカム55の回転位置の制御については、説明を省略する。
【0042】
<キャリッジ3の移動に伴なうキャップリフトホルダ41の動作>
キャップリフトホルダ41が前述の復帰バネの付勢により退避位置に保持されている状態で、キャリッジ3が記録位置側から原点位置側へ移動する際、キャリッジ3はキャップリフトホルダ41の受け板44に当接する。このとき、排気キャップ40とノズルキャップ60の双方共に、キャリッジ3の下面よりも下方に位置する。つまり、キャリッジ3の下面に対して非接触の(離間した)状態である。
【0043】
この状態から、キャリッジ3が原点位置側へ移動すると、キャップリフトホルダ41が斜め右上方へ円弧状に変位することにより、ノズルキャップ60がその下方位置において記録ヘッド10のノズル面に接触する。更にキャリッジ3が右方へ移動すると、上動するキャップリフトホルダ41とキャリッジ3の下面に当接しているノズルキャップ60との間の押上バネが弾縮され、この押上バネの弾性復元力によりノズルキャップ60は記録ヘッド10に強く押し付けられ、ノズル面とノズルキャップ60との間に確実に気密状態にシールされた密閉空間が構成される。
【0044】
この状態から更にキャリッジ3が右方へ移動して原点位置に到達すると、図9に示すように、排気キャップ40がキャリッジ3の下面に密着すると共に、排気キャップ40とキャップリフトホルダ41との間に設けた押上バネ45の弾力により排気キャップ40がキャリッジ3の下面に強く押し付けられ、これにより、キャリッジ3の下面と排気キャップ40との間に確実に気密状態にシールされた気密空間46が構成される。
【0045】
<メンテナンスにおける排気工程及び空吸引工程>
気泡貯留室12内に貯留されている気泡を排出する工程の初期には、キャリッジ3が原点位置にあり、キャリッジロック100に係止により原点位置にロックされている。また、キャリッジ3が原点位置にロックされている状態では、図14(B)に示すように、排気キャップ40がキャリッジ3の下面に密着して気密空間46が構成されている。また、カム55と切換部材73は、図18におけるポジション「A(M)」に位置し、このとき、気密空間46は外気とポンプ38のいずれとも非連通の遮断状態となる。また、ノズルキャップ60のブラック用密閉空間とカラー用密閉空間は、共に、切換部材73の切換流路74を介して大気に開放されると同時に、ポンプ38に連通する。
【0046】
この状態からカム55と切換部材73が図18のポジション「H」まで回転して停止し、気密空間46が切換部材73を介してポンプ38のみに連通する状態となる。このとき、ノズルキャップ60の各密閉空間は、共に、大気及びポンプ38と非連通の遮断状態となる。この状態で、遊星ギヤ35が公転してポンプ38が駆動し、気密空間46内の空気が排出され、気密空間46内が負圧状態となる。
【0047】
このようにしてプレ排気が行われた後、カム55と切換部材73がポジション「I」へ移動する。移動の過程では、カラー用のスライダ52がカム55との係合により左方へ移動し、カラー用の開閉部材50が閉弁位置から開弁位置へと押し上げられ、この開閉部材50の押し上げによりカラー用の排出路17に設けられている3つの開閉弁19が開弁状態となる。また、気密空間46はポンプ38にのみ連通する状態となり、ノズルキャップ60の各密閉空間は大気及びポンプ38とは非連通の遮断状態となる。そして、ポジション「I」の状態でポンプ38が駆動し、カラー用の3つの気泡貯留室12内に貯留されていた気泡が、排出路17、気密空間46、切換流路74及びポンプ38を通って外気へ排出される。この排気工程では、ノズルキャップ60の各密閉空間は遮断状態に保たれる。
【0048】
ポンプ38によるカラー用の気泡貯留室12の排気が完了すると、カム55と切換部材73がポジション「J」に移動する。この移動の過程では、カラー用のスライダ52が右方へ復動して開閉部材50が閉弁位置へ復帰し、カラー用の開閉弁19が閉弁されると共に、ブラック用のスライダ52が左方へ移動してブラック用開閉部材50が閉弁位置から開弁位置へ押し上げられ、ブラック用の排出路17に設けられている開閉弁19が開弁される。また、ポジション「I」と同様に、気密空間46はポンプ38にのみ連通する状態となり、ブラック用密閉空間とカラー用密閉空間は大気及びポンプ38とは非連通の遮断状態となる。そして、ポジション「J」の状態で、ポンプ38が駆動し、ブラック用の気泡貯留室12内に貯留されていた気泡が、排出路17、気密空間46、切換流路74及びポンプ38を通って外気へ排出される。この排気工程でも、ノズルキャップ60の各密閉空間は遮断状態に保たれる。この後、カム55と切換部材73がポジション「A」へ移動する。この移動の過程では、開弁状態となっていたブラック用のスライダ52が右方へ復動して、図19(A)に示すように開閉部材50が閉弁位置へ復帰し、ブラック用の開閉弁19が閉弁される。以上により、気泡貯留室12内の気泡の排出工程が完了する。また、排気工程の間、キャリッジ3は原点位置に保持されたままである。
【0049】
この後、カム55と切換部材73がポジション「B」まで回転し、キャリッジロック100が下降してキャリッジ3の移動規制状態(ロック状態)が解除される。このポジション「B」においても、気密空間46と密閉空間の連通、遮断状態はポジション「A」と同じである。キャリッジロック100によるロックが解除されると、キャリッジ3は原点位置から図20に示す空吸引位置まで移動し、キャップリフトホルダ41が下降する。すると、前側の凸部48aが後側の凸部48aよりも先に穴49aに係合するため、図19(B)に示すように、排気キャップ40は前側に傾斜し、キャリッジ3と排気キャップ40との間に隙間が形成される。次に、カム55と切換部材73がポジション「H」まで回転する。すると、排気キャップ40の凹部がポンプ38に連通する状態となる。そして、ポンプ38が駆動すると、空吸引が行われ、排気工程において気泡貯留室12から気泡(空気)と共に排気キャップ40内に吸引されていたインクが、ポンプ38側へ吸引されて排出される。
【0050】
しかも、この工程では、吸引口47とは排気キャップ40の長手方向に反対側に、キャリッジ3と排気キャップ40との間に隙間が形成されている。この状態で吸引口47からインクを吸引すると、図19(C)に矢印で示すように、上記隙間から吸引口47に向かって気流が形成され、その気流によってインクを吸引口47の方向に搬送することができる。このため、排気キャップ40の空吸引を効率的に行って、排気キャップ40内にインクが残留するのを良好に抑制することができる。
【0051】
この後、切換部材73がポジション「L」まで回転する。すると、ブラック用ノズルキャップ60とカラー用ノズルキャップ60の凹部が、共に、大気に開放されると共にポンプ38に連通された状態となる。また、排気キャップ40の凹部はポンプ38とは非連通の状態となる。この状態で、キャリッジ3が空吸引位置から原点位置へ復帰する。すると、排気キャップ40がキャリッジ3に密着して気密空間46(大気から遮断されている)が構成されると共に、ノズルキャップ60がキャリッジ3に密着して密閉空間が構成される。この後、カム55と切換部材73がポジション「A(M)」に復帰する。以上により、排気工程と空吸引工程が完了する。
【0052】
<メンテナンスにおけるインクパージ工程>
記録ヘッド10のノズル内で目詰まりしているインクとそのインク内に含まれている気泡を吸引して排出するインクパージ工程の初期には、キャリッジ3は原点位置にロックされ、気密空間46とノズルキャップ60の各密閉空間が構成されている。また、カム55と切換部材73は、図18におけるポジション「A」に位置し、上記ブラック用密閉空間とカラー用密閉空間が、共に、切換部材73を介して大気に開放されると同時に、ポンプ38に連通した状態となっている。また、気密空間46は外気とポンプ38のいずれとも非連通の遮断状態となる。
【0053】
この状態からカム55と切換部材73がポジション「F」まで回転する。すると、ブラック用密閉空間とカラー用密閉空間の双方共に、大気から遮断されると同時に、ポンプ38とは非連通の状態となる。気密空間46も大気及びポンプ38から遮断された状態となる。この状態で、ポンプ38が駆動し、ポンプ38内と切換流路74内に負圧がチャージ(ポンプ38内と切換流路74内が大気圧以下に減圧)される。
【0054】
この後、カム55と切換部材73がポジション「G」まで回転する。すると、ブラック用密閉区間が切換部材73を介してポンプ38に連通され、ブラック用密閉空間内(ノズルキャップ60内)に貯留されていたブラックインクが一気にポンプ38側へ吸引される。なお、このとき、気密空間46とカラー用密閉空間は、ポンプ38と大気のいずれからも遮断された状態となっている。
【0055】
ブラック用密閉空間内のインクパージが済むと、カム55と切換部材73がポジション「H」まで回転し、気密空間46のみがポンプ38に連通し、ブラック用密閉空間とカラー用密閉空間は、いずれもポンプ38とは連通せず、かつ大気からも遮断された状態となる。
【0056】
この後、キャリッジ3は、原点位置から、一旦、空吸引位置へ移動し、更に記録領域8側へ移動した後、空吸引位置まで戻る。続いて、カム55と切換部材73がポジション「H」からポジション「G」まで回転し、ブラック用のノズルキャップ60の凹部のみがポンプ38に連通する状態となる。そして、この状態で、ポンプ38が駆動し、ブラック用密閉空間内に残留しているブラックインクがポンプ38側へ吸引されて除去される。以上により、ブラック用インクのパージ工程が完了する。
【0057】
この後、カム55と切換部材73がポジション「L」まで回転し、ブラック用密閉空間の凹部とカラー用密閉空間の凹部が、大気に開放されると共にポンプ38に連通した状態となる。なお、排気キャップ40の凹部とポンプ38とは非連通状態である。この状態でポンプ38が駆動し、もう一度空吸引が行われ、これにより、切換流路74のうち大気ポート82に連通する流路に残留しているインクがポンプ38側へ吸引されて除去される。
【0058】
この後、空吸引位置のキャリッジ3が原点位置へ復帰し、気密空間46とブラック用及びカラー用の密閉空間が形成される。次に、カム55と切換部材73がポジション「A(M)」まで回転する。以上により、ブラックインクのパージ工程が完了する。
【0059】
なお、カラーインクのパージ工程についても、上記と同様にして行われる。このカラー用パージ工程では、ブラック用のパージ工程における負圧チャージからインク吸引完了に至るポジション「F」、「G」、「H」を、それぞれ、ポジション「C」、「D」、「E」に変更し、空吸引のポジション「G」をポジション「D」に変更すればよい。
【0060】
また、上記工程では、インクパージの前に負圧チャージを行って、インクを一気に吸引するようにしたが、負圧チャージを行わずにインクパージすることも可能である。この場合は、ポジション「F」(カラー用の場合は、ポジション「C」)で停止してポンプ38吸引する工程を省けばよい。
【0061】
<実施の形態の効果>
(1)気泡貯留室12内に溜まった気泡(空気)を排出する際には、排気キャップ40をキャリッジ3に密着させて気密空間46を形成すると共に、開閉部材50により開閉弁19を開弁状態にして気泡貯留室12を気密空間46内に連通させ、気密空間46内の空気をポンプ38によって吸引して大気へ放出するようになっている。従って、気泡を排出するときの空気の流れは、気泡貯留室12側から気密空間46とポンプ38を経由して外気に至る一方通行形態となる。これにより、外気が気泡貯留室12やインク流路(チューブ14,バブルケース16,及びインク流室13)へ浸入する虞がなく、インク内への空気の混入を確実に防止することができる。
【0062】
また、記録ヘッド10のノズル側から負圧をかけてインクを吸引し、その吸引に伴なってインクに混入する気泡を排出する方法に比べると、インクの無駄な浪費を回避してコスト低減を図ることができると共に、排出に要する時間も短かくて済む。
【0063】
(2)開閉部材50による開閉弁19の開弁動作が、排気キャップ40をキャリッジ3に取り付けて気密空間46を形成した状態で行われるようにしたので、気泡の排出路17が大気から遮断され、気泡貯留室12内への大気の侵入が防止される。これにより、気泡貯留室12内の圧力が上昇することに起因してインクが記録ヘッド10から溢れ出してしまうことが防止される。
【0064】
(3)気泡貯留室12内が大気圧よりも低圧に設定されると共に、記録ヘッド10とインクタンク5との間で水頭差が設けられている場合において、もし気密空間46内が大気圧のままで開弁されると、気密空間46内の空気が気泡貯留室12へ流れ込んで気泡貯留室12内の圧力が上昇し、インクが記録ヘッド10側からインクタンク5側へ逆流してしまう。しかし本実施の形態では、予め、気密空間46内を負圧にした状態で開閉弁19を開弁るすようにしたので、気泡貯留室12内が負圧に保たれ、インクがインクタンク5側へ逆流することが防止される。
【0065】
(4)開閉部材50を排気キャップ40を貫通する棒状の形態とした上で、排気キャップ40をシリコンゴム製としたので、気密空間46内の気密を確保しつつ、排気キャップ40と開閉部材50との間の摺動抵抗を低減することができる。
【0066】
(5)記録ヘッド10が大気に開放された状態のままで気泡の排出が行われた場合、気泡貯留室12内の圧力低下に伴ってメニスカスが破壊されることが懸念されるが、本実施の形態では、気泡の排出がノズルキャップ60の密着により記録ヘッド10が大気から遮断された状態で行われるようになっているので、メニスカスが破壊されるのを防止することができる。
【0067】
(6)本実施の形態では、記録ヘッド10がブラック用とカラー用の2種類設けられているが、このように複数の記録ヘッド10が設けられているものでは、ノズルの数、ノズルの径、インク流路の径、インク流路間長さの違い等のために、気泡貯留室12内の気泡を排出する際の気泡貯留室12から排出口18に至る排気抵抗が記録ヘッド10相互間で異なっていることがある。この場合、排気抵抗が互いに異なる2種類の記録ヘッド10に対して同時に気泡の排出を行うと、記録ヘッド10間で気泡の排出量にバラツキが生じることが懸念される。しかし、本実施の形態では、ポンプ38による気泡の排出をブラック用の記録ヘッド10とカラー用の記録ヘッド10とで別々に行うようにしたので、記録ヘッド10間で気泡の排出量にバラツキが発生するのを回避することができる。
【0068】
(7)カラー用の3つの記録ヘッド10は、ノズルの数、ノズルの径、インク流路の径、インク流路間長さが共通であるため、気泡貯留室12内の気泡を排出する際の気泡貯留室12から排出口18に至る排気抵抗は互いに同じである。そこで、本実施の形態では、この排気抵抗が同じである3つのカラー用の記録ヘッド10に対して同時に気泡の排出を行うようにしたので、記録ヘッド10間で気泡の排出量を均一に保ちつつ、効率良く排気を行うことができる。
【0069】
(8)気密空間46をポンプ38に連通させる状態とポンプ38から遮断する状態とに切換え可能な切換部材73と、開閉部材50を開閉弁19を開弁させる開弁状態と開閉弁19を閉弁させる閉弁状態との間で変位させるカム55とが、一体に変位するようになっている。これにより、カム55の変位により開閉部材50によって開閉弁19を開閉する動作と、切換部材73によりポンプ38によって気泡を吸引する動作とを正確なタイミングで実行させることができる。すなわち、開閉部材50の動作と気泡の吸引動作のタイミングを同調させるための機構が不要なので、構造の簡素化を図ることができる。
【0070】
(9)排気キャップ40の空吸引工程で、吸引口47とは排気キャップ40の長手方向に反対側に、キャリッジ3と排気キャップ40との間に隙間を形成し、その隙間から吸引口47に向かって気流を形成している。これにより、排出口18から気泡と共に排気キャップ40内に排出されたインクを極めて良好に吸引除去することができる。従って、本実施の形態では、排気キャップ40の空吸引を効率的に行って、排気キャップ40内にインクが残留するのを良好に抑制することができる。
【0071】
(10)排気キャップ40を上記のように傾斜可能に支持するための構成として、本実施の形態では、排気キャップホルダ48における開閉部材50の配列方向両端に凸部48aを突設し、キャップリフトホルダ41側にはその凸部48aに係合する穴49aを有するフック部49を設けている。このため、排気キャップ40近傍の構成を良好にコンパクト化することができる。
【0072】
しかも、軸48bを中心としない排気キャップホルダ48の回動(特に鉛直軸回りの回動)は、リブ41cと基底部48cとの当接によって阻止される(図12,図13参照)。従って、排気キャップ40の上記傾斜動作が一層円滑になる。本実施の形態では、このように、排気キャップ40をキャリッジ3に圧接・離間するための機構を利用して排気キャップ40を傾斜させているので、排気キャップ40を傾斜させるための特別なアクチュエータを設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
【0073】
(11)開閉部材50は、開閉弁19を閉弁状態とする閉弁位置からキャリッジ3の移動方向と交差する左右方向にかつ排出路17内に挿入されつつ開弁位置へ進出することで開閉弁19を開弁させるようになっているため、開閉部材50が開弁位置へ進出している状態のままでキャリッジ3が原点位置(メンテナンス位置)へ移動すると開閉部材50と干渉してしまう。しかし、本実施の形態では、キャリッジ3が被記録媒体への記録を行う記録領域8にあるときには開閉部材50が閉弁位置に保持され、キャリッジ3が気泡の排出を行う原点位置(メンテナンス位置)へ移動したときには、開閉部材50の開弁位置への進出動作が許容される構成としている。これにより、開弁位置へ進出している開閉部材50に対してキャリッジ3が干渉することが防止される。
【0074】
(12)キャリッジ3が記録領域8から原点位置(メンテナンス位置)へ到達する過程で、キャリッジ3が、待機位置の排気キャップ40を密着位置へ押し動かすようにしたので、キャリッジ3の動きと排気キャップ40の動きを同期させる手段を設けなくても、キャリッジ3がメンテナンス位置へ移動すれば、それに合わせてタイミング良く排気キャップ40をキャリッジ3に対して密着させることができる。また、キャリッジ3が排気キャップ40を押し動かすようにしたので、排気キャップ40を変位させるための専用の駆動源が不要である。
【0075】
(13)キャリッジ3が記録領域8から原点位置(メンテナンス位置)へ到達する過程で、キャリッジ3が、待機位置のノズルキャップ60を密着位置へ押し動かす構成としたので、キャリッジ3の動きとノズルキャップ60の動きを同期させる手段を設けなくても、キャリッジ3がメンテナンス位置へ移動すれば、それに合わせてタイミング良くノズルキャップ60をキャリッジ3に対して密着させることができる。また、キャリッジ3がノズルキャップ60を押し動かすようにしたので、ノズルキャップ60を変位させるための専用の駆動源が不要となっている。
【0076】
(14)カム55が、給紙用の回転駆動機構に係合されたギヤ機構によって回転駆動されるようになっている。つまり、カム55の駆動源が給紙用の回転駆動機構の駆動源と共通なので、構造の簡素化を図ることができる。
【0077】
<他の実施の形態>
なお、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、上記実施の形態では、穴49aの位置を上下に異ならせることで排気キャップ40を傾斜させているが、凸部48aの位置を上下に異ならせることで排気キャップ40を傾斜させてもよい。また、排気キャップ40を傾斜させるためにアクチュエータを別途設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明を適用したインクジェットプリンタを表す外観斜視図である。
【図2】そのプリンタの内部機構の全体構成を表す平面図である。
【図3】そのプリンタのキャリッジを表す概略断面図である。
【図4】そのキャリッジの上下反転させた状態の斜視図である。
【図5】上記プリンタのメンテナンス機構を底面側から視た斜視図である。
【図6】そのメンテナンス機構の構成を表す底面図である。
【図7】そのメンテナンス機構を上から視た斜視図である。
【図8】そのメンテナンス機構の、キャップが待機位置、開閉部材が閉弁位置、ワイパが退避位置にある状態を表す概略正面図である。
【図9】上記キャリッジが原点位置にあり、開閉部材が閉弁位置にある状態を表す概略正面図である。
【図10】上記メンテナンス機構の構成を表す平面図である。
【図11】上記メンテナンス機構の構成を表すA−A線断面図である。
【図12】排気キャップの支持機構を表す分解斜視図である。
【図13】排気キャップの支持機構を表す分解斜視図である。
【図14】その支持機構の動作を表す説明図である。
【図15】排気キャップ及び開閉部材の構成を表す分解図である。
【図16】カム及びスライダの構成を表す平面図である。
【図17】上記キャリッジが原点位置にあり、開閉部材が開弁位置にある状態を表す概略正面図である。
【図18】カムと切換部材のポジション、開閉部材の変位状態、キャリッジロックの変位状態を表すチャート図である。
【図19】排気キャップの支持機構の更なる動作を表す説明図である。
【図20】上記キャリッジが空吸引位置にある状態を表す概略正面図である。
【符号の説明】
【0079】
1…本体フレーム 3…キャリッジ 4…メンテナンスユニット
5…インクタンク 10…記録ヘッド 11…バッファタンク 12…気泡貯留室
13…インク流室 14…チューブ 15…フィルタ 16…バブルケース
17…排出路 18…排出口 19…開閉弁 20…弁体 21…バネ
22…弁口 38…ポンプ 40…排気キャップ 41…キャップリフトホルダ
41b…軸受部 41c…リブ 42…等長リンク 44…受け板
45…押上バネ 46…気密空間 47…吸引口 48…排気キャップホルダ
48a…凸部 48b…軸 48c…基底部 49…フック部 49a…穴
50…開閉部材 52…スライダ 55…カム 56…カム溝
60…ノズルキャップ 70…切換手段 71…取付部 73…切換部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体フレームに移動可能に設けられ、ノズルからインクを噴射するインク噴射部を複数搭載したキャリッジと、
上記各インク噴射部にそれぞれ供給されるインクを蓄える複数のインクタンクと、
該各インクタンクから上記各インク噴射部にそれぞれインクを供給する複数のインク流路と、
上記キャリッジに設けられ、上記各インク流路で発生する気泡をそれぞれ貯留する複数の気泡貯留室と、
上記キャリッジに設けられ、上記各気泡貯留室にそれぞれ連通する複数の排出路と、
該各排出路にそれぞれ設けられた複数の常閉式の開閉弁と、
上記本体フレームに設けられ、上記各開閉弁をそれぞれ開閉する複数の棒状の開閉部材と、
上記本体フレームに設けられ、上記各開閉部材が摺動可能に挿通され、上記キャリッジに対し上記排出路の排出口を塞ぐように密着可能とされ、密着状態では上記排出口に連なる気密空間を形成する排気キャップと、
を備えたインクジェットプリンタに対し、上記開閉弁の開弁時に上記排気キャップ内に排出されたインクを吸引するインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法であって、
上記気密空間が形成された状態から上記排気キャップを傾斜させることにより上記キャリッジと上記排気キャップとの間に隙間を形成し、その隙間とは反対側から上記排気キャップ内のインクを吸引することを特徴とするインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法。
【請求項2】
上記各開閉弁及び上記各開閉部材がそれぞれ一方向に列設され、
上記排気キャップを上記開閉部材の配列方向に傾斜させることにより上記隙間を形成し、その隙間とは反対側から上記排気キャップ内のインクを吸引することを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法。
【請求項3】
上記インクジェットプリンタが、
上記排気キャップを上記キャリッジ方向に付勢する付勢手段と、
上記排気キャップを上記付勢手段の付勢力に抗して上記キャリッジから引き離す隔離手段と、
を備え、
上記付勢手段と上記隔離手段とから作用する力を利用して上記排気キャップを傾斜させることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェットプリンタ用排気キャップの空吸引方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−331269(P2007−331269A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166420(P2006−166420)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】