説明

インクジェットプリンタ

【課題】 プリンタに搭載された顔料インクの沈降後の攪拌を確実に行う。
【解決手段】 インクタンクの液体収納部に直接、耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体を入れ、プリンタ内部のキャリッジ移動範囲内に、複数個の永久磁石を配置することで、キャリッジの移動によってタンク内の耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体が、プリンタ内部の永久磁石により影響を受け移動することで沈降インクの攪拌を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノンインパクトプリンタの中で、顔料粒子を含む微少なインク液滴を吐出する方式の液体噴射記録ヘッドを有するインクジェットプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、小型高画質で、急速に普及している。中でも微細な顔料粒子を分散させた顔料系インクは、反射濃度も高く、普通紙での画質に優れることから多く利用されている。しかし、顔料インクは、長時間静的に保管されると、顔料粒子のみが溶液中に沈降し、インクタンク下層の顔料濃度が高くなる現象が発生する。顔料粒子の沈降は、インクを多孔質吸収体に収納した形態のタンクにおいても発生するが、インクを液体状態で収納するタンクにおいて顕著である。従来、沈降した顔料の攪拌は、キャリッジ上のタンクがキャリッジと共に動く際の揺動によってのみ行われていた。
【0003】
又、別の従来例としては、特許文献1ないし特許文献3をあげることが出来る。
【特許文献1】特開2002−273867号公報
【特許文献2】特開2002−292902号公報
【特許文献3】特開2002−337360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際は、多色のために複数個、薄く並べられたタンク内に於いては、揺動による攪拌は大きな作用を期待できない。更に、顔料インクの沈降により、タンク最下層に最も高濃度の顔料が溜まるため、印字開始直後に最も影響が大きく、この場合、キャリッジの移動による揺動での攪拌は期待できない。よって、印字開始直後に、高濃度の顔料粒子を有するインクが記録ヘッドに導入されることになり、結果として、印字開始直後とそれ以後で、不均一な反射濃度をもつ印字を行うことになる。また、プリンタが長期に使用されなかった場合は、顔料粒子が高濃度に沈降したインクにより、記録ヘッドがインクの吐出不良を起こし印字不良などの事故を生じさせていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インクタンクの液体収納部に直接、耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体を入れ、プリンタ内部のキャリッジ移動範囲内に、複数個の永久磁石を配置することで、キャリッジの移動によってタンク内の耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体が、プリンタ内部の永久磁石により影響を受け移動し、積極的に沈降インクの攪拌を行うものである。
【0006】
本構成によるプリンタでは、液体収納部の耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体が、キャリッジの移動によって、動き顔料粒子を攪拌するため、キャリッジの揺動で期待される攪拌より大きい効果が一回のキャリッジの移動で得られる。そのため、印字開始前の印字補助手段、すなわち、しばらく使用していない吐出口内部のインクを外部に排出するための予備吐出動作、もしくは、ヘッド表面の余分なインクを拭き取るためのワイピング手段などで印字前にキャリッジが移動することで攪拌が行われるため、通常の使用状態であれば、特に専用の攪拌時間を設けることなく、印字開始直後から、正常な印字が可能となる。
【0007】
ここでの通常使用状態とは、プリンタを少なくとも1週間に2回から3回使用するような状態を想定しており、当然、使用しない時間が長くなればなるほど、顔料粒子のインク中の沈降は進み、顔料粒子の濃度分布が大きくなる。
【0008】
請求項2の構成によれば、プリンタを使用しない状態が長く続くこのような特殊な使用状態であっても、プリンタに搭載されたタイマー手段によって、使用されない期間を算出し、予め設定されている、未使用時間と沈降状況の対応表から最適な攪拌動作、すなわちキャリッジの走査回数及び走査範囲を導き、印字前に実施することで印字開始直後から、高品位な正常印字を得られるものである。
【0009】
3は、前記タイマー手段をプリンタ内部ではなく、プリンタを駆動するためにプリンタと接続されたホストコンピュータに持たせるものである。プリンタはホストコンピュータに接続され、ホストコンピュータ内にインストールされたプリンタ駆動用ソフトウエアであるプリンタドライバーによって制御される。プリンタドライバーがホストコンピュータ内の時計を利用することで、安価にタイマー手段を実現でき、プリンタはホストコンピュータ経由でプリンタドライバーからの指示であるコマンドを受け取り、最適な攪拌動作を実施するものである。
【0010】
請求項4は、請求項1によるプリンタのインクタンク構成を示すものであり、液体収納部を含むインクタンクは、記録ヘッド部から分離でき、インクを消費した後は、インクタンク単体で交換可能であり、液体収納部に入れられた耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体と共に、記録ヘッド部から分離され、新たなタンクと交換されるものである。
【0011】
請求項5は、請求項1によるプリンタの他の方式のインクタンク構成を示すものであり、液体収納部を含むインクタンクは、記録ヘッド部と一体で構成されており、インクを消費した後は、インクタンクは液体収納部に入れられた耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体と共に、記録ヘッドと共に交換されるものである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、顔料粒子を分散させた記録液(インク)を単独または複数個配列された吐出口より吐出させる手段を有するインクジェット記録ヘッドとその記録ヘッドにインクを供給するためのインク保管部であるインクタンクを有し、そのインクタンクは、全てのインクもしくは一部が多孔質吸収体に保持されるのではなく液体で保管可能な液体収納部を保有し、記録ヘッドとインクタンクを搭載でき且つ移動可能なキャリッジと、そのキャリッジが被記録媒体上を、被記録媒体の進行方向に直行する方向で移動しながら、インクを吐出して記録を行う、タンク搭載キャリッジ方式のシリアルインクジェットプリンタにおいて、前記インクタンクの液体収納部に耐溶剤性樹脂を被覆した磁性体を入れ、前記キャリッジ上のインクタンク搭載部下方のプリンタ内部に永久磁石を設置することで、印字動作によるキャリッジの移動によって、液体収納部インク中を前記磁性体が移動し、インクタンク中に沈降した顔料粒子を攪拌する事が可能となり、印字の開始直後から、濃度の均一な顔料インクによる高品位な印字が得られる効果がもたらされる。さらに、プリンタ内部もしくは、ホストコンピュータにプリンタの使用状況を計測するタイマー手段、具体的にはプリンタが使用されずに静的に置かれている時間を測定する手段を併せ持つことで、インク中の顔料粒子の沈降状態を推定し、印字前により最適な攪拌を設定する事が可能となり、未使用期間の長短に係わらず印字の開始直後から正常な印字を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施例1]
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明によるインクジェットプリンタ内部の模式図である。記録ヘッド1が、インクタンク負圧発生部2及び液体収容部3と一体となっているインクタンク一体型記録ヘッドの構成をなしている。液体収容部3の中に耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4が挿入され、キャリッジ5上に搭載される。前記インクタンク一体型記録ヘッドが、被記録媒体9上を移動することにより印字を行う。液体収容部3の下方に、一定量の間隔をあけて永久磁石である磁石7が本実施例では4個、磁石支持版6に設置されている。磁石7は、キャリッジの移動範囲内に、液体収納部の長手方向に収まる範囲で設置されている。
【0015】
本実施例では、液体収容部3の長手方向に対して先端及び後端とその間に等間隔で4個の磁石が配置されている。キャリッジ移動方向に関しても、記録ヘッド移動範囲に対して等間隔に配置されている。記録ヘッドを載せたキャリッジ5が、被記録媒体上を移動することで、磁石の影響を受けた、耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4が液体収容部4中を移動し、顔料インクの攪拌を行う。
【0016】
図2は、図1のプリンタを上部から見た模式図である。負圧発生室2及び液体収容部3を載せたキャリッジ5は、印字動作をしていないときホームポジションに戻りキャップ10により記録ヘッドフェイス面を覆い吐出口の乾燥を防ぐ。印字信号を受け取ると、記録ヘッドはホームポジションを離れ、印字動作を行う。その際、しばらく使用していない吐出口内部のインクを外部に排出するための予備吐出動作を行うが、予備吐出で吐出されるインクを受け止めるためにプリンタ側にインク収納部を設ける必要があり、本発明では、ホームポジション側の予備吐出受口11及び、ホームポジション反対側の予備吐出受口12が設けられている。予備吐出受口が被記録媒体の両側に配置されている構成は、印字中に必要な予備吐出を、どちらか最短距離で行うことで、印字の速度を落とすことなく予備吐出を行う効果があることは既に公知であるが、本発明では、各予備吐出受口の近傍に磁石を配置することで、印字信号を受け取った際の最初の予備吐出動作を、ホームポジションと反対側の予備吐出受口で行うことで、印字前に耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4の移動により積極的に顔料粒子攪拌を行っている。1週間に2回から3回使われるような標準的な使用状態であれば、印字前の予備吐出動作のみで顔料粒子攪拌は完了することから、特に攪拌のための時間を設ける必要がなく、使用者に攪拌動作を認識させることなく正常な印字が行える。また、数ヶ月間1度も使用されない特殊な使用状況であっても、プリンタ側に搭載されたタイマー手段によって、印字を行っていない時間を算出し、得られた時間に応じて、すなわち顔料粒子の沈降状態に応じて、印字前のキャリッジの走査回数と捜査範囲を設定することで、顔料粒子沈降状態に応じた攪拌動作を行うことができるため、印字の開始直後から正常な印字を行うことが可能である。本実施例では、顔料インクを単色で搭載したプリンタについて説明を行ったが、当然、インクタンクを複数個搭載した多色プリンタでも同様の効果が得られることは説明するまでもない。また、磁石7の配置及び数は本実施例の配置及び数に限定されるものではない。
【0017】
[実施例2]
図2は本発明による第2の実施形態のインクジェットプリンタ内部の模式図である。記録ヘッド1が、インクタンク負圧発生部2及び液体収容部3と一体となっているインクタンク一体型記録ヘッドの構成をなしている。液体収容部3の中に耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4が挿入され、キャリッジ5上に搭載された、前記インクタンク一体型記録ヘッドが、被記録媒体9上を移動することにより印字を行う。液体収容部3の下方に、棒状の永久磁石である磁石7が磁石支持版6に設置されている。磁石7は、キャリッジの移動範囲内の長さで、液体収納部の長手方向に収まる範囲で斜めに設置されている。本実施例では、液体収容部3の長手方向に対してホームション側に後端がホームポジションの反対側に先端が近づくように配置されている。記録ヘッドを載せたキャリッジ5が、被記録媒体上を移動することで、磁石の影響を受けた、耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4が液体収容部4中を移動し、顔料インクの攪拌を行う。
【0018】
図4は、図3のプリンタを上部から見た模式図である。
【0019】
負圧発生室2及び液体収容部3を載せたキャリッジ5は、印字動作をしていないときホームポジションに戻りキャップ10により記録ヘッドフェイス面を覆い吐出口の乾燥を防ぐ。印字信号を受け取ると、記録ヘッドはホームポジションを離れ、印字動作を行う。その際、しばらく使用していない吐出口内部のインクを外部に排出するための予備吐出動作を行うが、予備吐出で吐出されるインクを受け止めるためにプリンタ側にインク収納部を設ける必要があり、本発明では、ホームポジション側の予備吐出受口11及び、ホームポジション反対側の予備吐出受口12が設けられている。予備吐出受口が被記録媒体の両側に配置されている構成は、印字中に必要な予備吐出を、どちらか最短距離で行うことで、印字の速度を落とすことなく予備吐出を行う効果があることは既に公知であるが、本発明では、各々の予備吐出受口を記録ヘッドが移動すること耐溶剤性樹脂を被覆した磁性体の移動量が最大になるように磁石を配置することで、印字信号を受け取った際の最初の予備吐出動作を、ホームポジションと反対側の予備吐出受口で行うことで、印字前に耐溶剤性樹脂で被覆された磁性体4の移動により積極的に顔料粒子攪拌を行っている。1週間に2回から3回使われるような標準的な使用状態であれば、印字前の予備吐出動作のみで顔料粒子攪拌は完了することから、特に攪拌のための時間を設ける必要がなく、使用者に攪拌動作を認識させることなく正常な印字が行える。また、数ヶ月間1度も使用されない特殊な使用状況であっても、図には記載していないが、プリンタを駆動するためにプリンタに接続されているホストコンピュータに設けてあるタイマー手段(本実施例では、プリンタを駆動するためにホストコンピュータにインストールされ使用されるプリンタドライバーが、ホストコンピュータの内部時計を利用し、未使用期間を算出する。)によって得られた未使用期間により、その値での最適攪拌条件をプリンタ側に送信して、プリンタが印字開始前に最適な攪拌条件で攪拌動作を行うことで、印字の開始直後から正常な印字を行うことが可能である。本実施例では、顔料インクを単色で搭載したプリンタについて説明を行ったが、当然、インクタンクを複数個搭載した多色プリンタでも同様の効果が得られることは説明するまでもない。また、磁石7の形状及び配置場所は本実施例のものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による第1の実施例であるインクジェットプリンタ内部の模式図である。
【図2】図1のインクジェットプリンタを上部より見た模式図である。
【図3】本発明による第2の実施例であるインクジェットプリンタ内部の模式図である。
【図4】図3のインクジェットプリンタを上部より見た模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1 記録ヘッド部
2 インクタンク負圧発生部
3 インクタンク液体収容部
4 耐溶剤性樹脂被服磁性体
5 キャリッジ
6 磁石支持版
7 磁石
8 キャリッジシャフト
9 被記録媒体
10 キャップ
11 予備吐出受口(1)
12 予備吐出受口(2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子を分散させた記録液(インク)を単独または複数個配列された吐出口より吐出させる手段を有するインクジェット記録ヘッドとその記録ヘッドにインクを供給するためのインク保管部であるインクタンクを有し、そのインクタンクは、全てのインクもしくは一部が多孔質吸収体に保持されるのではなく液体で保管可能な液体収納部を保有し、記録ヘッドとインクタンクを搭載でき且つ移動可能なキャリッジと、そのキャリッジが被記録媒体上を、被記録媒体の進行方向に直行する方向(以後、主走査方向)で移動しながら、インクを吐出して記録を行う、タンク搭載キャリッジ方式のシリアルインクジェットプリンタにおいて、前記インクタンクの液体収納部に耐溶剤性樹脂を被覆した磁性体を入れ、前記キャリッジ上のインクタンク搭載部下方のプリンタ内部に永久磁石を設置し、印字動作によるキャリッジの移動によって、液体収納部インク中を前記磁性体が永久磁石からの磁力の影響によって移動することでインクタンク中の顔料粒子を攪拌する事を特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1記載のプリンタであって、プリンタ内部にプリンタを前回使用した時間から、次に印字を行うまでの経過時間を測定するタイマー手段を有し、そのタイマー手段によって算出された未使用期間に応じて印字前にキャリッジの主走査方向の往復移動回数(以後、走査回数)及びキャリッジの主走査方向の移動距離(以後、走査範囲)を可変させ、プリンタ使用状況に最適なインク顔料粒子攪拌を行うことを特徴としたインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項1記載のプリンタであって、プリンタを前回使用した時間から、次に印字を行うまでの経過時間を測定するタイマー手段をプリンタ内部ではなく、プリンタと接続されプリンタを駆動するために用いられるホストコンピュータに持つことを特徴としたインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1記載のプリンタであって、全てのインクもしくは一部が多孔質吸収体に保持されるのではなく液体で保管可能な液体収納部を保有しているインクタンクは、インク使用後の交換の際に、プリントヘッド部から分離され、独立で交換可能な事を特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
請求項1記載のプリンタであって、全てのインクもしくは一部が多孔質吸収体に保持されるのではなく液体で保管可能な液体収納部を保有しているインクタンクは、プリントヘッド部と一体で構成され、インク使用後の交換の際に記録ヘッド部と共に交換する事を特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−187943(P2006−187943A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1456(P2005−1456)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】