インクジェットプリンタ
【課題】インクの性質に応じた効果的な印字前メンテナンスを行なうインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】インクを吐出させて印刷を行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置された印字ヘッドと、インク循環経路と、インク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成する手段と、インク循環を制御する循環制御手段とを備え、循環制御手段は、印刷に先立ちインク循環を開始し、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、インク循環の開始後、第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2微振動時間印加する。
【解決手段】インクを吐出させて印刷を行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置された印字ヘッドと、インク循環経路と、インク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成する手段と、インク循環を制御する循環制御手段とを備え、循環制御手段は、印刷に先立ちインク循環を開始し、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、インク循環の開始後、第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2微振動時間印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク循環型のインクジェットプリンタにおいて印字前に行なわれるメンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出して印刷を行なうインクジェットプリンタでは、長時間インクの吐出が行なわれないと、主としてインクジェットヘッド付近のインクから溶媒が蒸発・揮発し、インクが増粘してしまい、本来の印字性能が発揮できない場合がある。このため、必要に応じてインク吸引、ノズル清掃等のメンテナンス処理が行なわれる。しかしながら、インク吸引、ノズル清掃等のメンテナンスはインクを消費してしまうという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1等に記載されているように、印字前のメンテナンスとして、インクジェットヘッドのノズルからインクが吐出しない程度の微振動をインクジェットヘッド内のインク室に発生させ、インクを撹拌することで、インクの増粘を回復させることが行なわれている。このような微振動を発生させる動作は、一般にプリカーサと呼ばれている。
【0004】
また、近年では特許文献2に記載されているように、印字の信頼性を上げるため筐体内にインク循環経路を設け、インクを循環可能なインクジェットプリンタが開発されている。このようなインク循環型のインクジェットプリンタでは、気泡やゴミ混入によるノズルからのインク不吐出が発生した場合でも回復が早く、また、インクジェットヘッドのインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路に押し流すことができる。
【特許文献1】特開平2005−41050公報
【特許文献2】特開平11−342634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリカーサを行なう際には、プリカーサの強度と駆動時間とを定めることができ、実験等によってインクの増粘に対して効果的なプリカーサ強度と時間とが設定される。ところが、インクは種類毎に組成、特性等が異なっており、インクの増粘に対して効果的なプリカーサを行なうと、インクの性質によっては印字品質に悪影響を受ける場合がある。例えば、プリカーサの微小振動によってインク中に気泡ができやすい性質を有しているインクでは、プリカーサによって生じた気泡によりインク吐出の不均一が起こるおそれがある。
【0006】
このため、プリカーサによる印字品質への悪影響を受けやすいインクに対しては、他のインクよりも弱いプリカーサを短い時間与えることが考えられる。しかしながら、このようにすることでプリカーサによる印字品質への悪影響は避けることができるが、プリカーサのインク増粘回復に対する効果が十分でなくなるおそれがある。
【0007】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、インク増粘に対して、インクの性質に応じた効果的な印字前メンテナンスを行なうインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とする。
【0009】
インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0010】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。
【0011】
ここで、第1循環時間は、実施例の延長時間C2に相当し、第1周期は、実施例の弱強度に相当し、第1インク撹拌動作時間は、実施例の短縮時間W2に相当する。また、第2周期は、実施例の標準強度に相当し、第2インク撹拌動作時間は実施例の短縮時間に相当する。
【0012】
また、特定の性質を有するインクを用いていない場合には、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第1循環時間よりも短い第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間よりも長い第3インク撹拌動作時間印加することができる。
【0013】
すなわち、特定の性質を有するインクを用いている場合には、循環時間を長めにしてインク増粘回復の効果を高めるようにしている。ただし、循環時間を長くすると、その他のインクに対しては過剰なインク撹拌となるため、その他のインクを吐出するインク吐出機構に対しては印加時間を短くしている。ここで、第2循環時間は、実施例の標準時間に相当し、第3インク撹拌動作時間は、実施例の標準時間に相当する。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加することを、間隔を空けて複数回行ない、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第2循環時経過後に、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とする。
【0015】
第2の態様においても、インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0016】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。そして、この印加を複数回行なうことにより、インク増粘回復の効果も高めている。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の第3の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、所定の第1インク速度でインク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第2循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とする
第3態様においても、インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0018】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。ここで、第1インク速度は、実施例の高速度に相当する。
【0019】
また、特定の性質を有するインクを用いていない場合には、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、第1インク速度より遅い第2インク速度でインク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することができる。
【0020】
すなわち、特定の性質を有するインクを用いている場合には、循環速度を速めにしてインク増粘回復の効果を高めるようにしている。ただし、循環時間を速くすると、その他のインクに対しては過剰なインク撹拌となるため、その他のインクを吐出するインク吐出機構に対しては印加時間を短くしている。ここで、第2インク速度は、実施例の標準速度に相当する。
【0021】
いずれの場合も、インク温度を計測するインク温度計測手段をさらに備え、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定温度を超えている場合には、特定の性質を有するインク以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長するようにしてもよい。
【0022】
一般にインクは高温になると粘度が増すため、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長することにより、インク撹拌の時間を長くするようにしている。ただし、特定の性質を有するインクは、インク撹拌の時間を長くすると不都合が生じるおそれがあるため、印加時間の延長は行なわないようにする。
【0023】
具体的には、前記特定の性質を有するインクは、第2周期のインク撹拌動作駆動信号をインク吐出機構群に与え続けることによって、吐出不良が発生するインクとすることができる。
【0024】
なお、前記インク吐出機構群は、圧電素子、例えば、ピエゾ素子の振動によりインクを吐出する構成とすることができ、この場合、前記インク撹拌動作は、圧電素子の微振動とすることができる。ただし、前記インク吐出機構群を、気泡の発生によりインクを吐出する構成としてもよく、この場合、前記インク撹拌動作は、小気泡の発生とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インク増粘に対して、インクの性質に応じた効果的な印字前メンテナンスを行なうインクジェットプリンタが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の概要を示す図である。本図では特に印刷用紙搬送経路を示している。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、印刷用紙の供給を行なう給紙機構として、筐体側面の外部に露出したサイド給紙台320と、筐体内部に設けられた複数の給紙トレイ(330a、330b、330c、330d)とを備えている。また、印刷済の印刷用紙を排出する排紙機構として排紙口340を備えている。
【0028】
インクジェットプリンタ100は、インクジェット方式のラインカラープリンタである。インクジェット方式のラインカラープリンタは、印字機構として、用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズルが形成されたインクジェットヘッドを複数本備え、それぞれのインクジェットヘッドから黒またはカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行なう。ただし、インクジェットプリンタ100は、ライン方向に走査して画像形成を行なうシリアルカラープリンタとしてもよい。
【0029】
サイド給紙台320および給紙トレイ330のいずれかの給紙機構から1枚ずつ給紙された印刷用紙は、ローラ等の駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路(図中の黒太線)に沿って搬送され、レジスト部Rgに導かれる。ここでレジスト部Rgは、印刷用紙の先端の位置あわせと斜行修正を行なうために設けられており、1対のレジストローラを備えて構成される。給紙された印刷用紙はレジスト部Rgで一時停止し、所定のタイミングで印字機構方向に搬送される。
【0030】
レジスト部Rgのさらに搬送方向側には、複数本のインクジェットヘッド130が設けられている。印刷用紙は、インクジェットヘッド130の対向面に設けられた環状の搬送ベルト360によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各インクジェットヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0031】
印刷済の印刷用紙は、さらに、ローラ等の駆動機構によって筐体内を搬送される。印刷用紙の片側の面のみに印刷を行なう片面印刷の場合は、そのまま排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に印刷面を下にして積載されていく。排紙台350は、筐体から突出したトレイ形状をしており、ある程度の厚みを有している。排紙台350は傾斜しており、傾斜の下位置に形成された壁により、排紙口340から排紙され、傾斜に沿って滑落する印刷用紙が自然に整えられて重なっていくようになっている。
【0032】
印刷用紙の両面に印刷を行なう両面印刷の場合は、表面(最初に印刷される面を「表面」、次に印刷される面を「裏面」とする)印刷終了時には排紙口340に導かれずに、さらに筐体内を搬送される。このため、インクジェットプリンタ100は、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構370を備えている。切替機構370によって排出されなかった印刷用紙は、スイッチバック経路SRに引き込まれ、スイッチバックを行ない、搬送路に対して表裏が反転する。そして、ローラ等の駆動機構によって、切替機構372を経由して再度レジスト部Rgに導かれ、一時停止する。その後、所定のタイミングで印字機構方向に搬送され、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行なわれる。裏面の印刷が行なわれ、両面に画像が形成された印刷用紙は、排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に積載されていく。
【0033】
インクジェットプリンタ100では、両面印刷時におけるスイッチバックを、排紙台350内に設けられた空間を利用して行なうようにしている。排紙台350内に設けられた空間は、スイッチバック時に印刷用紙が外部から取り出せないように覆われた構成となっている。これにより、利用者が誤ってスイッチバック動作中の印刷用紙を引き抜いてしまうことを防ぐことができる。また、排紙台350は、本来インクジェットプリンタ100に備えられているものであり、排紙台150内の空間を利用してスイッチバックを行なうことにより、インクジェットプリンタ100内に、別途スイッチバック用の空間を設ける必要がなくなる。したがって、筐体のサイズが増大してしまうことを防ぐことができる。さらには、排紙口とスイッチバック経路とを共用しないため、スイッチバック処理と他の用紙の排紙とを並行して行なうことができる。
【0034】
図2は、インクジェットプリンタ100のインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、CMYK4色のインクを用いて印刷を行なうカラープリンタとしている。各インクは着脱可能なインクボトルから供給され、シアンのインクを供給するインクボトル110C、マゼンタのインクを供給するインクボトル110M、イエローのインクを供給するインクボトル110Y、黒のインクを供給するインクボトル110Kが備えられている。
【0035】
また、インクジェットプリンタ100は制御部200を備えている。制御部200は、インクジェットプリンタ100における印刷処理、インク温度制御、インク循環、プリカーサその他の処理を制御する機能部であり、ハードウェア的にはCPU、画像処理装置、メモリ等により構成される。本実施形態において制御部200は、印刷対象の印刷データに基づいてドット毎のインク吐出量を算出して画像データとして出力する画像処理部210と、操作パネル等を介してユーザとの情報のやり取りを行なうユーザインタフェース部220と、インクの温度を管理制御するインク温度調整部230と、インク循環の制御を行なうインク循環制御部240と、プリカーサの制御を行なうプリカーサ制御部250とを備えている。ここで、プリカーサ制御部250は、後述する駆動波形生成回路132aとともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成する微振動駆動信号生成手段として機能し、インク循環制御部240は、インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段として機能する。
【0036】
インクボトル110から供給されたインクは、樹脂、金属等のパイプにより形成された流路を通って、インクジェットヘッド130の下流側に設けられた下流タンクに一旦溜められる。このため、インクジェットプリンタ100には、シアンのインクを溜める下流タンク122C、マゼンタのインクを溜める下流タンク122M、イエローのインクを溜める下流タンク122Y、黒のインクを溜める下流タンク122Kが備えられている。
【0037】
下流タンク122に溜められたインクは、ポンプ170によりインクジェットヘッド130の上流側に設けられた上流タンクに送られる。このため、インクジェットプリンタ100には、ポンプ170C、ポンプ170M、ポンプ170Y、ポンプ170Kおよび上流タンク120C、上流タンク120M、上流タンク120Y、上流タンク120Kが備えられている。上流タンク120に送られたインクは、インクを吐出する多数のノズルが設けられているインクジェットヘッドに送られて印刷に用いられる。本図に示すようにインクジェットプリンタ100には、シアンのインクを吐出するインクジェットヘッド130C、マゼンタのインクを吐出するインクジェットヘッド130M、イエローのインクを吐出するインクジェットヘッド130Y、黒のインクを吐出するインクジェットヘッド130Kが備えられている。本実施形態では、ピエゾ素子を用いてインクを噴射させる方式のインクジェットヘッドが用いられているものとする。すなわち、ピエゾ素子は、インクを吐出させるための素子として機能する。ただし、発熱素子を用いてインクに熱を加えて気泡を発生させることでインクを噴射させる方式のインクジェットヘッドを用いるようにしてもよい。この場合は、以下に説明するピエゾ素子の微振動を、発熱素子による微小気泡発生に読み替えるものとする。
【0038】
各インクジェットヘッド130には、制御部200から送られる画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するドライバ132(132C、132M、132Y、132K)が備えられている。なお、インクジェットプリンタ100は、インクを循環させる循環方式を採用しており、インクジェットヘッド130で印刷の際に消費されなかったインクは下流タンク122に戻される。上流タンク120からインクジェットヘッド130を経由して下流タンク122へのインク帰還は、上流タンク120と下流タンク122との水頭差を利用している。インクを循環させることにより、気泡やゴミ混入によるノズルからのインク不吐出が発生した場合でも回復が早く、また、インクジェットヘッド130のインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路にある程度押し流すことができる。
【0039】
インクは印刷品質が保証される温度範囲が定められており、インク温度が低く、保証温度範囲を下回っているとインクを加熱する必要がある。このため、インク流路中にヒータ140が設けられている。ヒータ140の制御はインク温度調整部220により行なわれる。一方、ドライバ132やピエゾ素子は動作することにより発熱する。これらの発熱やインク振動のジュール熱により、高温時におけるインク温度上昇の影響等を抑制するために、インクを冷やすための冷却器160が設けられている。そして、ヒータ140、冷却器160を通ったインクは上流タンク120に送られる。
【0040】
また、各インクジェットヘッド130には、インク温度を直接的あるいは間接的に測定する温度計134(134C、134M、134Y、134K)が備えられている。
【0041】
図3は、インクジェットヘッド130のドライバ132の構成を示すブロック図である。本図に示すように、ドライバ132は、駆動波形生成回路132aと、駆動トランジスタ群132bとを備えている。駆動波形生成回路132aは、画像処理部210が出力した画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。駆動トランジスタ群132bは、駆動波形生成回路132aが出力した駆動波形に基づいてピエゾ素子に印加する電圧を制御する。すなわち、駆動トランジスタ群132bは、ピエゾ素子とともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群として機能する。
【0042】
また、駆動波形生成回路132aは、プリカーサ制御部250が出力したプリカーサ制御信号に基づいて、インク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。すなわち、駆動波形生成回路132aは、上述のプリカーサ制御部250とともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段として機能する。
【0043】
図4は、インク吐出のための信号波形とプリカーサ信号波形とを示している。本図に示すように、インク吐出のための信号波形はインク室を拡大させる負電圧パルスとインク室を収縮させる正電圧パルスを1セットとして、この波形をドロップ数分繰り返す。これに対して、プリカーサ信号波形は、インク吐出のための動作ではなく、インクを撹拌する目的でインク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動させるものである。このため、正電圧パルスあるいは負電圧パルスの一方のみを印加する波形である。
【0044】
本実施形態において、プリカーサ信号波形は標準強度と弱強度との2種類の強度があるものとする。ここで、プリカーサの強弱はパルスの周期(周波数)により制御され、図5に示すように、標準強度の周期をT1、弱強度の周期をT2とすると、T1<T2の関係を満たす。すなわち、標準強度のプリカーサ信号パルスは、弱強度のプリカーサ信号パルスよりも周波数が高い。例えば、2倍程度の周波数とすることができる。弱強度のプリカーサではインク室に与える微小振動の周期が長くなるため、標準強度のプリカーサよりもインク撹拌の効果が弱くなる。
【0045】
このように、標準強度と弱強度のプリカーサを用意している理由は、通常強度のプリカーサを行なった場合に印字品質に悪影響与えるインクがあるからである。すなわち、インクは色ごとに組成、特性等が異なっており、ある種のインク、例えば、ある色のインクは、プリカーサの微小振動によって印字品質への悪影響を受けやすい性質を有している。以下では、プリカーサによる印字品質への悪影響を受けやすい性質を有するインクを特定インクと称し、それ以外のインクを通常インクと称する。
【0046】
特定インクに対して、通常インクの撹拌に効果的な通常強度のプリカーサを行なうと、印字品質に悪影響を与えるおそれがある。そこで、本実施形態では、特定インク向けにプリカーサによる悪影響を与えにくい程度の弱強度のプリカーサを用意している。
【0047】
さらに、プリカーサによる特定インクの印字品質への悪影響を避けるために、図6に示すように、プリカーサ時間も短くなるようにしている。すなわち、通常インクに対しては、印字開始前に標準強度のプリカーサを標準時間W1与えることにより、インク撹拌が十分行なわれるようにしているが、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサをW1より短い短縮時間W2与えるようにして、プリカーサによる印字品質への悪影響を避けるようにしている。
【0048】
この結果、特定インクに対するプリカーサの効果が弱くなり、インク増粘回復のためのインク撹拌が十分でなくなるおそれがある。そこで本実施形態では、インク循環制御と組み合わせて、以下の実施例に示すようなインク撹拌制御を行なうものとする。
<第1実施例>
図7は、第1実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本フローチャートは、印刷データを受信してから印字を開始するまでの制御を示している。本処理では、印刷データを受信すると、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S101)。なお、特定インクの種類はあらかじめ定められており、制御部200のプリカーサ制御部250内に判別情報が記録されているものとする。この判別情報はファームウェアの書き換え等により必要に応じて更新することができる。
【0049】
その結果、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれていない場合(S101:No)には、標準速度のインク循環を開始する(S102)。インク循環の効果を得るために、インク循環を行なってから、あらかじめ定めた標準時間経過後にプリカーサを開始するようにする。インク循環を行なうことにより、インクジェットヘッド130のインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路にある程度押し流すことができる。したがって、インク循環とプリカーサとを印字前に行なうことで、インクジェットヘッド130のインク室内におけるインク増粘による吐出不良を効果的に防止することができる。
【0050】
ここで、インク循環速度(単位時間当りの循環量)は、ポンプ170の吸引力等を調整することにより制御することができる。ポンプ170の吸引力等をインク色ごとに調整可能とする構成としてもよいが、その分コストアップにつながるため、本実施形態では各インク色に対して一律にインク循環速度を調整する構成であるとする。
【0051】
また、印字開始までの循環時間は長いほどインク増粘に対する効果は高い。しかしながらその分印字開始が遅れることになる。そこで、処理(S102)で行なうインク循環速度と、印刷開始までの循環時間は、使用勝手と、通常インクに対するインク循環の効果を考慮して、適切な循環速度と循環時間とを定めるものとする。この適切な循環速度を標準速度と称し、印字開始までの時間を標準時間と称してあらかじめ定めておくようにする。
【0052】
そして、インク循環を開始してから標準時間経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S103)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。なお、インク循環は、プリカーサを行なっている間も、印字を行なっている間も継続する。
【0053】
図8は、特定インクが含まれていない場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、標準速度でのインクの循環を開始し、標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサ(微振動)を開始する。そして、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なった後、印字を開始する。ここで、微振動はインク撹拌を行なうための動作である。
【0054】
図7に戻って、特定インクが含まれている場合(S101:Yes)には、標準速度のインク循環を開始する。ただし、印刷開始まで、インク循環の時間は標準時間よりも長い延長時間C2行なうようにする(S104)。すなわち、特定インクに対しては、印字品質への影響を避けるため、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なうことになるが、その分インク撹拌の効果が十分でなくなる。そこで、印刷開始前のインク循環時間を標準時間C1よりも長くすることで、特定インクのインク増粘の回復を図るようにしている。
【0055】
しかしながら、インク循環を標準時間C1よりも長くすることで、通常インクに対しては必要以上のインク撹拌が行なわれることになる。そこで、通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1よりも短い時間行なうこととする(S105)。この短縮時間は任意に設定することができるが、ここでは、簡単のため特定インクにプリカーサを行なう短縮時間W2と同じ時間とする。これにより、特定インクの増粘回復を図りつつ、通常インクに対する過剰なインク撹拌を避けることができる。
【0056】
図9は、第1実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、通常インク、特定インクとも標準速度でのインクの循環を開始し、延長時間C2経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ただし、通常インクに対しては標準強度のプリカーサを行ない、特定インクに対しては弱強度のプリカーサを行なう。そして、プリカーサを短縮時間W2行なった後、印字を開始する。
<第2実施例>
図10は、第2実施例のインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本処理では、印刷データを受信すると、標準速度のインク循環を開始する(S201)。インク循環を行なってから標準時間経過後にプリカーサが開始するようにする。すなわち、第1実施例では、インク循環開始から延長時間経過後にプリカーサを開始するようにしていたため、印字開始時間が遅れることになる。そこで、第2実施例では、インク循環を行なってから標準時間経過後にプリカーサを開始するようにして、印字開始までの時間を早めるようにしている。
【0057】
そして、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S202)。その結果、特定インクが含まれていない場合(S201:No)には、第1実施例と同様にインク循環を開始してから標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S203)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。
【0058】
特定インクが含まれている場合(S202:Yes)には、通常インクに対しては、標準時間C1経過後に、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう。通常インクに対して、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。
【0059】
一方、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なう。ただし、短縮時間W2の弱強度のプリカーサを1回行なっただけでは、インク撹拌が十分でないため、本実施例では複数回、間を空けて行なうようにする(S204)。短縮時間のプリカーサを複数回行なうことにより、インク撹拌を十分に行なうことができ、インク増粘の回復を図ることができる。また間を空けてプリカーサを行なうことで特定インクの印字品質に対するプリカーサの悪影響を防ぐことができる。
【0060】
図11は、第2実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、標準速度でのインクの循環を開始し、通常インクに対しては標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサ(微振動)を開始する。そして、プリカーサを標準時間W1行なった後、印字を開始する。この間に、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサを短縮時間与える処理を複数回、間を空けて行なう。本図の例では4回行なっている。
<第3実施例>
図12は、第3実施例のインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本処理では、印刷データを受信すると、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S301)。その結果、特定インクが含まれていない場合(S301:No)には、第1実施例と同様に、標準速度のインク循環を開始する(S302)。そして、インク循環を開始してから標準時間経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S303)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。
【0061】
特定インクが含まれている場合(S301:Yes)には、標準時間のインク循環を開始する。このとき通常速度よりも循環速度の速い高速度でインク循環を行なう(S304)。すなわち、特定インクに対しては、印字品質への影響を避けるため、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なうことになるが、その分インク撹拌の効果が十分でなくなる。そこで、印刷開始前のインク循環の速度を速くすることで単位時間当りのインク流量を増やし、インク増粘の回復を図るようにしている。
【0062】
しかしながら、インク循環速度を標準速度よりも速くすることで、通常インクに対しては必要以上のインク撹拌が行なわれることになる。そこで、通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1よりも短い時間行なうこととする(S305)。この短縮時間は任意に設定することができるが、ここでは、簡単のため特定インクにプリカーサを行なう短縮時間W2と同じ時間とする。これにより、特定インクの増粘回復を図りつつ、通常インクに対する過剰なインク撹拌を避けることができる。
【0063】
図13は、第3実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、高速度でのインクの循環を開始し、標準時間C1経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ただし、通常インクに対しては標準強度のプリカーサを行ない、特定インクに対しては弱強度のプリカーサを行なう。そして、通常インク、特定インクともプリカーサを短縮時間W2行なった後、印字を開始する。
<変形例>
次に、変形例について説明する。一般に、インクは温度が高くなると増粘しやすくなるという性質を有している。そこで上述の第1実施例〜第2実施例に対して、図14のフローチャートに示すようなインク温度に基づくプリカーサ制御を付加的に行なうようにしてもよい。
【0064】
すなわち、印刷データを受信すると、温度計134を用いてインクの温度を検出して、インク温度が高温になっているかどうかを判断する(S401)。例えば、インク温度が35℃を超えている場合に、インク温度が高温になっていると判断することができる。
【0065】
その結果、インク温度が高温になっていない場合(S401:No)、すなわち常温の場合は、通常インク、特定インクとも上述の第1実施例〜第3実施例で設定された時間のプリカーサを行なう。
【0066】
一方、インク温度が高温になっている場合(S401:Yes)には、通常インクに対しては、第1実施例〜第3実施例で設定された時間よりも長い時間をプリカーサ時間として設定する。これにより、インクの撹拌時間が長くなり、高温で増粘した通常インクの回復を図ることができる。一方、特定インクに対してはプリカーサ時間を設定時間より長くすると、プリカーサによる印字品質への影響が生じるおそれがあるため、上述の第1実施例〜第3実施例で設定されたプリカーサ時間を行なうようにする。
【0067】
図15は、変形例における通常インクに対する処理を時系列に示した図である。本図に示すように、常温時、高温時とも、印刷データを受信すると、インクの循環を開始する。ここでは、標準速度が設定されているものとする。そして、標準時間C1経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ここでは、標準強度で標準時間W1が設定されているものとする。
【0068】
このため、常温時には設定通りの標準時間W1経過後に印字を開始するが、高温時には、標準時間W1より長い延長時間W3経過後に印字を開始するようにしている。これにより、高温で増粘した通常インクの回復を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を実施例毎に説明したが、さらに補足すると、通常インクに対しては、標準強度でプリカーサを行うことを前提とし、標準強度は、通常インクにより決められた値である。この値は、通常インクによって多少変動することもある。
【0070】
特定インクに対しては、弱強度でプリカーサを行うことを前提とし、弱強度は、特定インクにより決められた値である。この値は、特定インクによっては多少変動することもある。
【0071】
通常インクに対しては、標準強度で標準時間W1にしている理由は、以下の通りである。すなわち、弱強度で長い時間実施しても効果はあるが、印字前に付与するものなので基本的には短い時間で行いたいという理由からである。また、あまり弱強度(低周波)で行うと、いくら長時間付与しても効果は得られないからである。
【0072】
上記の実施形態で用いた、標準時間W1、短縮時間W2、延長時間W3は、各図のケースで、通常インク及び特定インクを用いて印字したときに、一定印字品質になるように実験的に決められる値であればよい。実験条件を満たすならば、実施例ごと(例えば、図9と図13)に、標準時間W1、短縮時間W2が同じであってもよいし、違っていても良い。つまり、実験的に所定の印字品質を満たす範囲であれば、標準強度、弱強度、標準時間W1、短縮時間W2、延長時間W3は、1つの値に限られず、幅を持った値でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概要を示す図である。
【図2】インクジェットプリンタのインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】インクジェットヘッドのドライバの構成を示すブロック図である。
【図4】インク吐出のための信号波形とプリカーサ信号波形とを示す図である。
【図5】標準強度のプリカーサ信号波形と弱強度のプリカーサ信号波形とを示す図である。
【図6】通常インクおよび特定インクに対するプリカーサ時間を示す図である。
【図7】第1実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図8】特定インクが含まれていない場合の処理を時系列に示した図である。
【図9】第1実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図10】第2実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図11】第2実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図12】第3実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図13】第3実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図14】変形例における通常インクに対するインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図15】変形例における通常インクに対する処理を時系列に示した図である。
【符号の説明】
【0074】
100…インクジェットプリンタ、110…インクボトル、120…上流タンク、122…下流タンク、130…インクジェットヘッド、132…ドライバ、132a…駆動波形生成回路、132b…駆動トランジスタ群、134…温度計、140…ヒータ、150…排紙台、160…冷却器、170…ポンプ、200…制御部、210…画像処理部、220…インク温度調整部、220…ユーザインタフェース部、230…インク温度調整部、240…インク循環制御部、250…プリカーサ制御部、320…サイド給紙台、330…給紙トレイ、340…排紙口、350…排紙台、360…搬送ベルト、370…切替機構、372…切替機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク循環型のインクジェットプリンタにおいて印字前に行なわれるメンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出して印刷を行なうインクジェットプリンタでは、長時間インクの吐出が行なわれないと、主としてインクジェットヘッド付近のインクから溶媒が蒸発・揮発し、インクが増粘してしまい、本来の印字性能が発揮できない場合がある。このため、必要に応じてインク吸引、ノズル清掃等のメンテナンス処理が行なわれる。しかしながら、インク吸引、ノズル清掃等のメンテナンスはインクを消費してしまうという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1等に記載されているように、印字前のメンテナンスとして、インクジェットヘッドのノズルからインクが吐出しない程度の微振動をインクジェットヘッド内のインク室に発生させ、インクを撹拌することで、インクの増粘を回復させることが行なわれている。このような微振動を発生させる動作は、一般にプリカーサと呼ばれている。
【0004】
また、近年では特許文献2に記載されているように、印字の信頼性を上げるため筐体内にインク循環経路を設け、インクを循環可能なインクジェットプリンタが開発されている。このようなインク循環型のインクジェットプリンタでは、気泡やゴミ混入によるノズルからのインク不吐出が発生した場合でも回復が早く、また、インクジェットヘッドのインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路に押し流すことができる。
【特許文献1】特開平2005−41050公報
【特許文献2】特開平11−342634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリカーサを行なう際には、プリカーサの強度と駆動時間とを定めることができ、実験等によってインクの増粘に対して効果的なプリカーサ強度と時間とが設定される。ところが、インクは種類毎に組成、特性等が異なっており、インクの増粘に対して効果的なプリカーサを行なうと、インクの性質によっては印字品質に悪影響を受ける場合がある。例えば、プリカーサの微小振動によってインク中に気泡ができやすい性質を有しているインクでは、プリカーサによって生じた気泡によりインク吐出の不均一が起こるおそれがある。
【0006】
このため、プリカーサによる印字品質への悪影響を受けやすいインクに対しては、他のインクよりも弱いプリカーサを短い時間与えることが考えられる。しかしながら、このようにすることでプリカーサによる印字品質への悪影響は避けることができるが、プリカーサのインク増粘回復に対する効果が十分でなくなるおそれがある。
【0007】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、インク増粘に対して、インクの性質に応じた効果的な印字前メンテナンスを行なうインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とする。
【0009】
インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0010】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。
【0011】
ここで、第1循環時間は、実施例の延長時間C2に相当し、第1周期は、実施例の弱強度に相当し、第1インク撹拌動作時間は、実施例の短縮時間W2に相当する。また、第2周期は、実施例の標準強度に相当し、第2インク撹拌動作時間は実施例の短縮時間に相当する。
【0012】
また、特定の性質を有するインクを用いていない場合には、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第1循環時間よりも短い第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間よりも長い第3インク撹拌動作時間印加することができる。
【0013】
すなわち、特定の性質を有するインクを用いている場合には、循環時間を長めにしてインク増粘回復の効果を高めるようにしている。ただし、循環時間を長くすると、その他のインクに対しては過剰なインク撹拌となるため、その他のインクを吐出するインク吐出機構に対しては印加時間を短くしている。ここで、第2循環時間は、実施例の標準時間に相当し、第3インク撹拌動作時間は、実施例の標準時間に相当する。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加することを、間隔を空けて複数回行ない、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第2循環時経過後に、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とする。
【0015】
第2の態様においても、インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0016】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。そして、この印加を複数回行なうことにより、インク増粘回復の効果も高めている。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の第3の態様であるインクジェットプリンタは、インクを吐出させるための素子の振動に基づいて、インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、所定の第1インク速度でインク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第2循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とする
第3態様においても、インクを吐出させるための素子は、例えば、ピエゾ素子を用いることができ、インク吐出機構群は、ピエゾ素子群とこれらのピエゾ素子群を駆動する駆動トランジスタ群とで構成することができる。また、インク撹拌動作駆動信号生成手段は、例えば、実施例におけるプリカーサ制御部と駆動波形生成回路とを用いて構成することができる。循環制御手段は、例えば、実施例におけるインク循環制御部を用いて構成することができる。
【0018】
インク撹拌動作による吐出不良を防ぐため、インク循環を行なうとともに、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構よりも周期の長い信号を短時間印加するようにしている。ここで、第1インク速度は、実施例の高速度に相当する。
【0019】
また、特定の性質を有するインクを用いていない場合には、前記循環制御手段は、印刷に先立ち、第1インク速度より遅い第2インク速度でインク循環を開始し、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することができる。
【0020】
すなわち、特定の性質を有するインクを用いている場合には、循環速度を速めにしてインク増粘回復の効果を高めるようにしている。ただし、循環時間を速くすると、その他のインクに対しては過剰なインク撹拌となるため、その他のインクを吐出するインク吐出機構に対しては印加時間を短くしている。ここで、第2インク速度は、実施例の標準速度に相当する。
【0021】
いずれの場合も、インク温度を計測するインク温度計測手段をさらに備え、前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定温度を超えている場合には、特定の性質を有するインク以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長するようにしてもよい。
【0022】
一般にインクは高温になると粘度が増すため、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長することにより、インク撹拌の時間を長くするようにしている。ただし、特定の性質を有するインクは、インク撹拌の時間を長くすると不都合が生じるおそれがあるため、印加時間の延長は行なわないようにする。
【0023】
具体的には、前記特定の性質を有するインクは、第2周期のインク撹拌動作駆動信号をインク吐出機構群に与え続けることによって、吐出不良が発生するインクとすることができる。
【0024】
なお、前記インク吐出機構群は、圧電素子、例えば、ピエゾ素子の振動によりインクを吐出する構成とすることができ、この場合、前記インク撹拌動作は、圧電素子の微振動とすることができる。ただし、前記インク吐出機構群を、気泡の発生によりインクを吐出する構成としてもよく、この場合、前記インク撹拌動作は、小気泡の発生とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インク増粘に対して、インクの性質に応じた効果的な印字前メンテナンスを行なうインクジェットプリンタが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の概要を示す図である。本図では特に印刷用紙搬送経路を示している。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、印刷用紙の供給を行なう給紙機構として、筐体側面の外部に露出したサイド給紙台320と、筐体内部に設けられた複数の給紙トレイ(330a、330b、330c、330d)とを備えている。また、印刷済の印刷用紙を排出する排紙機構として排紙口340を備えている。
【0028】
インクジェットプリンタ100は、インクジェット方式のラインカラープリンタである。インクジェット方式のラインカラープリンタは、印字機構として、用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズルが形成されたインクジェットヘッドを複数本備え、それぞれのインクジェットヘッドから黒またはカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行なう。ただし、インクジェットプリンタ100は、ライン方向に走査して画像形成を行なうシリアルカラープリンタとしてもよい。
【0029】
サイド給紙台320および給紙トレイ330のいずれかの給紙機構から1枚ずつ給紙された印刷用紙は、ローラ等の駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路(図中の黒太線)に沿って搬送され、レジスト部Rgに導かれる。ここでレジスト部Rgは、印刷用紙の先端の位置あわせと斜行修正を行なうために設けられており、1対のレジストローラを備えて構成される。給紙された印刷用紙はレジスト部Rgで一時停止し、所定のタイミングで印字機構方向に搬送される。
【0030】
レジスト部Rgのさらに搬送方向側には、複数本のインクジェットヘッド130が設けられている。印刷用紙は、インクジェットヘッド130の対向面に設けられた環状の搬送ベルト360によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各インクジェットヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0031】
印刷済の印刷用紙は、さらに、ローラ等の駆動機構によって筐体内を搬送される。印刷用紙の片側の面のみに印刷を行なう片面印刷の場合は、そのまま排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に印刷面を下にして積載されていく。排紙台350は、筐体から突出したトレイ形状をしており、ある程度の厚みを有している。排紙台350は傾斜しており、傾斜の下位置に形成された壁により、排紙口340から排紙され、傾斜に沿って滑落する印刷用紙が自然に整えられて重なっていくようになっている。
【0032】
印刷用紙の両面に印刷を行なう両面印刷の場合は、表面(最初に印刷される面を「表面」、次に印刷される面を「裏面」とする)印刷終了時には排紙口340に導かれずに、さらに筐体内を搬送される。このため、インクジェットプリンタ100は、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構370を備えている。切替機構370によって排出されなかった印刷用紙は、スイッチバック経路SRに引き込まれ、スイッチバックを行ない、搬送路に対して表裏が反転する。そして、ローラ等の駆動機構によって、切替機構372を経由して再度レジスト部Rgに導かれ、一時停止する。その後、所定のタイミングで印字機構方向に搬送され、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行なわれる。裏面の印刷が行なわれ、両面に画像が形成された印刷用紙は、排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に積載されていく。
【0033】
インクジェットプリンタ100では、両面印刷時におけるスイッチバックを、排紙台350内に設けられた空間を利用して行なうようにしている。排紙台350内に設けられた空間は、スイッチバック時に印刷用紙が外部から取り出せないように覆われた構成となっている。これにより、利用者が誤ってスイッチバック動作中の印刷用紙を引き抜いてしまうことを防ぐことができる。また、排紙台350は、本来インクジェットプリンタ100に備えられているものであり、排紙台150内の空間を利用してスイッチバックを行なうことにより、インクジェットプリンタ100内に、別途スイッチバック用の空間を設ける必要がなくなる。したがって、筐体のサイズが増大してしまうことを防ぐことができる。さらには、排紙口とスイッチバック経路とを共用しないため、スイッチバック処理と他の用紙の排紙とを並行して行なうことができる。
【0034】
図2は、インクジェットプリンタ100のインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、CMYK4色のインクを用いて印刷を行なうカラープリンタとしている。各インクは着脱可能なインクボトルから供給され、シアンのインクを供給するインクボトル110C、マゼンタのインクを供給するインクボトル110M、イエローのインクを供給するインクボトル110Y、黒のインクを供給するインクボトル110Kが備えられている。
【0035】
また、インクジェットプリンタ100は制御部200を備えている。制御部200は、インクジェットプリンタ100における印刷処理、インク温度制御、インク循環、プリカーサその他の処理を制御する機能部であり、ハードウェア的にはCPU、画像処理装置、メモリ等により構成される。本実施形態において制御部200は、印刷対象の印刷データに基づいてドット毎のインク吐出量を算出して画像データとして出力する画像処理部210と、操作パネル等を介してユーザとの情報のやり取りを行なうユーザインタフェース部220と、インクの温度を管理制御するインク温度調整部230と、インク循環の制御を行なうインク循環制御部240と、プリカーサの制御を行なうプリカーサ制御部250とを備えている。ここで、プリカーサ制御部250は、後述する駆動波形生成回路132aとともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成する微振動駆動信号生成手段として機能し、インク循環制御部240は、インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段として機能する。
【0036】
インクボトル110から供給されたインクは、樹脂、金属等のパイプにより形成された流路を通って、インクジェットヘッド130の下流側に設けられた下流タンクに一旦溜められる。このため、インクジェットプリンタ100には、シアンのインクを溜める下流タンク122C、マゼンタのインクを溜める下流タンク122M、イエローのインクを溜める下流タンク122Y、黒のインクを溜める下流タンク122Kが備えられている。
【0037】
下流タンク122に溜められたインクは、ポンプ170によりインクジェットヘッド130の上流側に設けられた上流タンクに送られる。このため、インクジェットプリンタ100には、ポンプ170C、ポンプ170M、ポンプ170Y、ポンプ170Kおよび上流タンク120C、上流タンク120M、上流タンク120Y、上流タンク120Kが備えられている。上流タンク120に送られたインクは、インクを吐出する多数のノズルが設けられているインクジェットヘッドに送られて印刷に用いられる。本図に示すようにインクジェットプリンタ100には、シアンのインクを吐出するインクジェットヘッド130C、マゼンタのインクを吐出するインクジェットヘッド130M、イエローのインクを吐出するインクジェットヘッド130Y、黒のインクを吐出するインクジェットヘッド130Kが備えられている。本実施形態では、ピエゾ素子を用いてインクを噴射させる方式のインクジェットヘッドが用いられているものとする。すなわち、ピエゾ素子は、インクを吐出させるための素子として機能する。ただし、発熱素子を用いてインクに熱を加えて気泡を発生させることでインクを噴射させる方式のインクジェットヘッドを用いるようにしてもよい。この場合は、以下に説明するピエゾ素子の微振動を、発熱素子による微小気泡発生に読み替えるものとする。
【0038】
各インクジェットヘッド130には、制御部200から送られる画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するドライバ132(132C、132M、132Y、132K)が備えられている。なお、インクジェットプリンタ100は、インクを循環させる循環方式を採用しており、インクジェットヘッド130で印刷の際に消費されなかったインクは下流タンク122に戻される。上流タンク120からインクジェットヘッド130を経由して下流タンク122へのインク帰還は、上流タンク120と下流タンク122との水頭差を利用している。インクを循環させることにより、気泡やゴミ混入によるノズルからのインク不吐出が発生した場合でも回復が早く、また、インクジェットヘッド130のインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路にある程度押し流すことができる。
【0039】
インクは印刷品質が保証される温度範囲が定められており、インク温度が低く、保証温度範囲を下回っているとインクを加熱する必要がある。このため、インク流路中にヒータ140が設けられている。ヒータ140の制御はインク温度調整部220により行なわれる。一方、ドライバ132やピエゾ素子は動作することにより発熱する。これらの発熱やインク振動のジュール熱により、高温時におけるインク温度上昇の影響等を抑制するために、インクを冷やすための冷却器160が設けられている。そして、ヒータ140、冷却器160を通ったインクは上流タンク120に送られる。
【0040】
また、各インクジェットヘッド130には、インク温度を直接的あるいは間接的に測定する温度計134(134C、134M、134Y、134K)が備えられている。
【0041】
図3は、インクジェットヘッド130のドライバ132の構成を示すブロック図である。本図に示すように、ドライバ132は、駆動波形生成回路132aと、駆動トランジスタ群132bとを備えている。駆動波形生成回路132aは、画像処理部210が出力した画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。駆動トランジスタ群132bは、駆動波形生成回路132aが出力した駆動波形に基づいてピエゾ素子に印加する電圧を制御する。すなわち、駆動トランジスタ群132bは、ピエゾ素子とともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群として機能する。
【0042】
また、駆動波形生成回路132aは、プリカーサ制御部250が出力したプリカーサ制御信号に基づいて、インク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。すなわち、駆動波形生成回路132aは、上述のプリカーサ制御部250とともに、インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段として機能する。
【0043】
図4は、インク吐出のための信号波形とプリカーサ信号波形とを示している。本図に示すように、インク吐出のための信号波形はインク室を拡大させる負電圧パルスとインク室を収縮させる正電圧パルスを1セットとして、この波形をドロップ数分繰り返す。これに対して、プリカーサ信号波形は、インク吐出のための動作ではなく、インクを撹拌する目的でインク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動させるものである。このため、正電圧パルスあるいは負電圧パルスの一方のみを印加する波形である。
【0044】
本実施形態において、プリカーサ信号波形は標準強度と弱強度との2種類の強度があるものとする。ここで、プリカーサの強弱はパルスの周期(周波数)により制御され、図5に示すように、標準強度の周期をT1、弱強度の周期をT2とすると、T1<T2の関係を満たす。すなわち、標準強度のプリカーサ信号パルスは、弱強度のプリカーサ信号パルスよりも周波数が高い。例えば、2倍程度の周波数とすることができる。弱強度のプリカーサではインク室に与える微小振動の周期が長くなるため、標準強度のプリカーサよりもインク撹拌の効果が弱くなる。
【0045】
このように、標準強度と弱強度のプリカーサを用意している理由は、通常強度のプリカーサを行なった場合に印字品質に悪影響与えるインクがあるからである。すなわち、インクは色ごとに組成、特性等が異なっており、ある種のインク、例えば、ある色のインクは、プリカーサの微小振動によって印字品質への悪影響を受けやすい性質を有している。以下では、プリカーサによる印字品質への悪影響を受けやすい性質を有するインクを特定インクと称し、それ以外のインクを通常インクと称する。
【0046】
特定インクに対して、通常インクの撹拌に効果的な通常強度のプリカーサを行なうと、印字品質に悪影響を与えるおそれがある。そこで、本実施形態では、特定インク向けにプリカーサによる悪影響を与えにくい程度の弱強度のプリカーサを用意している。
【0047】
さらに、プリカーサによる特定インクの印字品質への悪影響を避けるために、図6に示すように、プリカーサ時間も短くなるようにしている。すなわち、通常インクに対しては、印字開始前に標準強度のプリカーサを標準時間W1与えることにより、インク撹拌が十分行なわれるようにしているが、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサをW1より短い短縮時間W2与えるようにして、プリカーサによる印字品質への悪影響を避けるようにしている。
【0048】
この結果、特定インクに対するプリカーサの効果が弱くなり、インク増粘回復のためのインク撹拌が十分でなくなるおそれがある。そこで本実施形態では、インク循環制御と組み合わせて、以下の実施例に示すようなインク撹拌制御を行なうものとする。
<第1実施例>
図7は、第1実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本フローチャートは、印刷データを受信してから印字を開始するまでの制御を示している。本処理では、印刷データを受信すると、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S101)。なお、特定インクの種類はあらかじめ定められており、制御部200のプリカーサ制御部250内に判別情報が記録されているものとする。この判別情報はファームウェアの書き換え等により必要に応じて更新することができる。
【0049】
その結果、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれていない場合(S101:No)には、標準速度のインク循環を開始する(S102)。インク循環の効果を得るために、インク循環を行なってから、あらかじめ定めた標準時間経過後にプリカーサを開始するようにする。インク循環を行なうことにより、インクジェットヘッド130のインク室内もインクが循環するため、増粘したインクを循環経路にある程度押し流すことができる。したがって、インク循環とプリカーサとを印字前に行なうことで、インクジェットヘッド130のインク室内におけるインク増粘による吐出不良を効果的に防止することができる。
【0050】
ここで、インク循環速度(単位時間当りの循環量)は、ポンプ170の吸引力等を調整することにより制御することができる。ポンプ170の吸引力等をインク色ごとに調整可能とする構成としてもよいが、その分コストアップにつながるため、本実施形態では各インク色に対して一律にインク循環速度を調整する構成であるとする。
【0051】
また、印字開始までの循環時間は長いほどインク増粘に対する効果は高い。しかしながらその分印字開始が遅れることになる。そこで、処理(S102)で行なうインク循環速度と、印刷開始までの循環時間は、使用勝手と、通常インクに対するインク循環の効果を考慮して、適切な循環速度と循環時間とを定めるものとする。この適切な循環速度を標準速度と称し、印字開始までの時間を標準時間と称してあらかじめ定めておくようにする。
【0052】
そして、インク循環を開始してから標準時間経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S103)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。なお、インク循環は、プリカーサを行なっている間も、印字を行なっている間も継続する。
【0053】
図8は、特定インクが含まれていない場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、標準速度でのインクの循環を開始し、標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサ(微振動)を開始する。そして、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なった後、印字を開始する。ここで、微振動はインク撹拌を行なうための動作である。
【0054】
図7に戻って、特定インクが含まれている場合(S101:Yes)には、標準速度のインク循環を開始する。ただし、印刷開始まで、インク循環の時間は標準時間よりも長い延長時間C2行なうようにする(S104)。すなわち、特定インクに対しては、印字品質への影響を避けるため、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なうことになるが、その分インク撹拌の効果が十分でなくなる。そこで、印刷開始前のインク循環時間を標準時間C1よりも長くすることで、特定インクのインク増粘の回復を図るようにしている。
【0055】
しかしながら、インク循環を標準時間C1よりも長くすることで、通常インクに対しては必要以上のインク撹拌が行なわれることになる。そこで、通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1よりも短い時間行なうこととする(S105)。この短縮時間は任意に設定することができるが、ここでは、簡単のため特定インクにプリカーサを行なう短縮時間W2と同じ時間とする。これにより、特定インクの増粘回復を図りつつ、通常インクに対する過剰なインク撹拌を避けることができる。
【0056】
図9は、第1実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、通常インク、特定インクとも標準速度でのインクの循環を開始し、延長時間C2経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ただし、通常インクに対しては標準強度のプリカーサを行ない、特定インクに対しては弱強度のプリカーサを行なう。そして、プリカーサを短縮時間W2行なった後、印字を開始する。
<第2実施例>
図10は、第2実施例のインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本処理では、印刷データを受信すると、標準速度のインク循環を開始する(S201)。インク循環を行なってから標準時間経過後にプリカーサが開始するようにする。すなわち、第1実施例では、インク循環開始から延長時間経過後にプリカーサを開始するようにしていたため、印字開始時間が遅れることになる。そこで、第2実施例では、インク循環を行なってから標準時間経過後にプリカーサを開始するようにして、印字開始までの時間を早めるようにしている。
【0057】
そして、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S202)。その結果、特定インクが含まれていない場合(S201:No)には、第1実施例と同様にインク循環を開始してから標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S203)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。
【0058】
特定インクが含まれている場合(S202:Yes)には、通常インクに対しては、標準時間C1経過後に、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう。通常インクに対して、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。
【0059】
一方、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なう。ただし、短縮時間W2の弱強度のプリカーサを1回行なっただけでは、インク撹拌が十分でないため、本実施例では複数回、間を空けて行なうようにする(S204)。短縮時間のプリカーサを複数回行なうことにより、インク撹拌を十分に行なうことができ、インク増粘の回復を図ることができる。また間を空けてプリカーサを行なうことで特定インクの印字品質に対するプリカーサの悪影響を防ぐことができる。
【0060】
図11は、第2実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、標準速度でのインクの循環を開始し、通常インクに対しては標準時間C1経過後に標準強度のプリカーサ(微振動)を開始する。そして、プリカーサを標準時間W1行なった後、印字を開始する。この間に、特定インクに対しては、弱強度のプリカーサを短縮時間与える処理を複数回、間を空けて行なう。本図の例では4回行なっている。
<第3実施例>
図12は、第3実施例のインク撹拌制御を説明するフローチャートである。本処理では、印刷データを受信すると、インクジェットプリンタ100で使用しているインクに特定インクが含まれているかどうかを判断する(S301)。その結果、特定インクが含まれていない場合(S301:No)には、第1実施例と同様に、標準速度のインク循環を開始する(S302)。そして、インク循環を開始してから標準時間経過後に標準強度のプリカーサを標準時間W1行なう(S303)。通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1行なうことで、インク撹拌を効果的に行なうことができる。そして、プリカーサを標準時間W1行なうと、印字を開始する。
【0061】
特定インクが含まれている場合(S301:Yes)には、標準時間のインク循環を開始する。このとき通常速度よりも循環速度の速い高速度でインク循環を行なう(S304)。すなわち、特定インクに対しては、印字品質への影響を避けるため、弱強度のプリカーサを短縮時間W2行なうことになるが、その分インク撹拌の効果が十分でなくなる。そこで、印刷開始前のインク循環の速度を速くすることで単位時間当りのインク流量を増やし、インク増粘の回復を図るようにしている。
【0062】
しかしながら、インク循環速度を標準速度よりも速くすることで、通常インクに対しては必要以上のインク撹拌が行なわれることになる。そこで、通常インクに対しては、標準強度のプリカーサを標準時間W1よりも短い時間行なうこととする(S305)。この短縮時間は任意に設定することができるが、ここでは、簡単のため特定インクにプリカーサを行なう短縮時間W2と同じ時間とする。これにより、特定インクの増粘回復を図りつつ、通常インクに対する過剰なインク撹拌を避けることができる。
【0063】
図13は、第3実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。本図に示すように、印刷データを受信すると、高速度でのインクの循環を開始し、標準時間C1経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ただし、通常インクに対しては標準強度のプリカーサを行ない、特定インクに対しては弱強度のプリカーサを行なう。そして、通常インク、特定インクともプリカーサを短縮時間W2行なった後、印字を開始する。
<変形例>
次に、変形例について説明する。一般に、インクは温度が高くなると増粘しやすくなるという性質を有している。そこで上述の第1実施例〜第2実施例に対して、図14のフローチャートに示すようなインク温度に基づくプリカーサ制御を付加的に行なうようにしてもよい。
【0064】
すなわち、印刷データを受信すると、温度計134を用いてインクの温度を検出して、インク温度が高温になっているかどうかを判断する(S401)。例えば、インク温度が35℃を超えている場合に、インク温度が高温になっていると判断することができる。
【0065】
その結果、インク温度が高温になっていない場合(S401:No)、すなわち常温の場合は、通常インク、特定インクとも上述の第1実施例〜第3実施例で設定された時間のプリカーサを行なう。
【0066】
一方、インク温度が高温になっている場合(S401:Yes)には、通常インクに対しては、第1実施例〜第3実施例で設定された時間よりも長い時間をプリカーサ時間として設定する。これにより、インクの撹拌時間が長くなり、高温で増粘した通常インクの回復を図ることができる。一方、特定インクに対してはプリカーサ時間を設定時間より長くすると、プリカーサによる印字品質への影響が生じるおそれがあるため、上述の第1実施例〜第3実施例で設定されたプリカーサ時間を行なうようにする。
【0067】
図15は、変形例における通常インクに対する処理を時系列に示した図である。本図に示すように、常温時、高温時とも、印刷データを受信すると、インクの循環を開始する。ここでは、標準速度が設定されているものとする。そして、標準時間C1経過後にプリカーサ(微振動)を開始する。ここでは、標準強度で標準時間W1が設定されているものとする。
【0068】
このため、常温時には設定通りの標準時間W1経過後に印字を開始するが、高温時には、標準時間W1より長い延長時間W3経過後に印字を開始するようにしている。これにより、高温で増粘した通常インクの回復を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を実施例毎に説明したが、さらに補足すると、通常インクに対しては、標準強度でプリカーサを行うことを前提とし、標準強度は、通常インクにより決められた値である。この値は、通常インクによって多少変動することもある。
【0070】
特定インクに対しては、弱強度でプリカーサを行うことを前提とし、弱強度は、特定インクにより決められた値である。この値は、特定インクによっては多少変動することもある。
【0071】
通常インクに対しては、標準強度で標準時間W1にしている理由は、以下の通りである。すなわち、弱強度で長い時間実施しても効果はあるが、印字前に付与するものなので基本的には短い時間で行いたいという理由からである。また、あまり弱強度(低周波)で行うと、いくら長時間付与しても効果は得られないからである。
【0072】
上記の実施形態で用いた、標準時間W1、短縮時間W2、延長時間W3は、各図のケースで、通常インク及び特定インクを用いて印字したときに、一定印字品質になるように実験的に決められる値であればよい。実験条件を満たすならば、実施例ごと(例えば、図9と図13)に、標準時間W1、短縮時間W2が同じであってもよいし、違っていても良い。つまり、実験的に所定の印字品質を満たす範囲であれば、標準強度、弱強度、標準時間W1、短縮時間W2、延長時間W3は、1つの値に限られず、幅を持った値でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概要を示す図である。
【図2】インクジェットプリンタのインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】インクジェットヘッドのドライバの構成を示すブロック図である。
【図4】インク吐出のための信号波形とプリカーサ信号波形とを示す図である。
【図5】標準強度のプリカーサ信号波形と弱強度のプリカーサ信号波形とを示す図である。
【図6】通常インクおよび特定インクに対するプリカーサ時間を示す図である。
【図7】第1実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図8】特定インクが含まれていない場合の処理を時系列に示した図である。
【図9】第1実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図10】第2実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図11】第2実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図12】第3実施例におけるインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図13】第3実施例における特定インクが含まれている場合の処理を時系列に示した図である。
【図14】変形例における通常インクに対するインク撹拌制御を説明するフローチャートである。
【図15】変形例における通常インクに対する処理を時系列に示した図である。
【符号の説明】
【0074】
100…インクジェットプリンタ、110…インクボトル、120…上流タンク、122…下流タンク、130…インクジェットヘッド、132…ドライバ、132a…駆動波形生成回路、132b…駆動トランジスタ群、134…温度計、140…ヒータ、150…排紙台、160…冷却器、170…ポンプ、200…制御部、210…画像処理部、220…インク温度調整部、220…ユーザインタフェース部、230…インク温度調整部、240…インク循環制御部、250…プリカーサ制御部、320…サイド給紙台、330…給紙トレイ、340…排紙口、350…排紙台、360…搬送ベルト、370…切替機構、372…切替機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第1循環時間よりも短い第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間よりも長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加することを、間隔を空けて複数回行ない、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第2循環時経過後に、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、所定の第1インク速度でインク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第2循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、第1インク速度より遅い第2インク速度でインク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
請求項1または5に記載のインクジェットプリンタであって、
第1インク撹拌動作時間と第2インク撹拌動作時間とは同じ時間であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
インク温度を計測するインク温度計測手段をさらに備え、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定温度を超えている場合には、特定の性質を有するインク以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
前記特定の性質を有するインクは、第2周期のインク撹拌動作駆動信号をインク吐出機構群に与え続けることによって、吐出不良が発生するインクであることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
前記インク吐出機構群は、圧電素子の振動によりインクを吐出するものであり、
前記インク撹拌動作は、前記圧電素子の微振動であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項1】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第1循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第1循環時間よりも短い第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間よりも長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、インク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加することを、間隔を空けて複数回行ない、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第2循環時経過後に、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第1インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
インクを吐出させることにより、インクを用いた印刷を、各インク色毎に行なうインクジェットプリンタであって、
インク吐出機構群が配置され、インク色毎に設けられたインクジェットヘッドと、
インクが循環する経路であって、前記インクジェットヘッドを前記経路中に含んだインク色毎のインク循環経路と、
前記インクジェットヘッドのインク吐出機構群に、インクを吐出しない程度のインク撹拌動作を起こさせるために、印刷に先立ち印加するインク撹拌動作駆動信号を生成するインク撹拌動作駆動信号生成手段と、
前記インク循環経路におけるインク循環を制御する循環制御手段とを備え、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、所定の第1インク速度でインク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、所定の第2循環時間経過後に、特定の性質を有するインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、所定の第1周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第1インク撹拌動作時間印加し、それ以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、第1周期よりも周期の短い第2周期のインク撹拌動作駆動信号を所定の第2インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェットプリンタであって、
特定の性質を有するインクを用いていない場合には、
前記循環制御手段は、印刷に先立ち、第1インク速度より遅い第2インク速度でインク循環を開始し、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、前記インク循環の開始後、第2循環時間経過後に、インク吐出機構群に対して、第2周期のインク撹拌動作駆動信号を第2インク撹拌動作時間より長い第3インク撹拌動作時間印加することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
請求項1または5に記載のインクジェットプリンタであって、
第1インク撹拌動作時間と第2インク撹拌動作時間とは同じ時間であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
インク温度を計測するインク温度計測手段をさらに備え、
前記インク撹拌動作駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定温度を超えている場合には、特定の性質を有するインク以外のインクを吐出するインク吐出機構群に対しては、インク撹拌動作駆動信号を印加する時間を延長することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
前記特定の性質を有するインクは、第2周期のインク撹拌動作駆動信号をインク吐出機構群に与え続けることによって、吐出不良が発生するインクであることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタであって、
前記インク吐出機構群は、圧電素子の振動によりインクを吐出するものであり、
前記インク撹拌動作は、前記圧電素子の微振動であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−279816(P2009−279816A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133427(P2008−133427)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】
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