説明

インクジェットヘッド、インクジェットヘッドを備えた塗布装置及びインクジェットヘッドの駆動方法

【課題】単純な駆動回路を用いているにもかかわらず、クロストークに起因するヘッド単体の端部のインクチャネルからのインク適量の低下を改善し、印刷物品質を改善する。
【解決手段】少なくとも一部が圧電材料で構成された側壁により隔てられた複数のインクチャネルが配列され、前記側壁のせん断変形によりインクチャネル内の圧力を変化させて、インクチャネル内のインクをノズルから吐出せしめるインクジェットヘッドであって、
前記インクチャネルにおける圧力波の音響的共振周期の1/2をALとしたとき、インクを吐出する前記複数のインクチャネルの配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルと、中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていることを特徴とするインクジェットヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド、インクジェットヘッドを備えた塗布装置及びインクジェットヘッドの駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドには種々の方式が提案されているが、その一つにせん断モードタイプのインクジェットヘッドがある(特許文献1〜5参照)。
【0003】
このせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、隣接するインクチャネルのクロストークが原因となって、連続駆動する場合の端部のインクチャネルに対応するノズルから吐出されるインク液滴の液滴量あるいは液滴速度が低下するという問題がある。
【0004】
従来、このようなクロストークの問題を解決するための技術として、駆動波形を変更する技術(特許文献1)、個々のインクチャネルの駆動電圧またはパルス幅を調整する技術(特許文献2)、印字しているインクチャネルに隣接しているインクチャネルにダミーパルスを与える技術(特許文献3)、同相で駆動される隣接チャネルの駆動位相が重ならないようにする技術(特許文献4)、全インクチャネルを4つのグループに分けて4サイクルで分割駆動し、同一サイクルの駆動位相をずらす技術(特許文献5)等が知られている。
【特許文献1】特開平10−16212号公報
【特許文献2】特開2000−79684号公報
【特許文献3】特開2000−255055号公報
【特許文献4】特開2000−255054号公報
【特許文献5】特開2001−239665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット方式による印刷や塗布を高速で行うシステムとして、複数のせん断モードタイプのインクジェットヘッドをライン状に並べて固定し、被印刷物や被塗布物に対して1パスで印刷あるいは塗布するシステムが考えられ、例えば、ロール状の被印刷物や被塗布物を連続的に処理することができる。
【0006】
このとき問題になるのがヘッドの端部に発生するクロストークによる印刷濃度むらである。ヘッドの端部は構造的にクロストークが避けられないことから、ヘッドの繋ぎ目部分の濃度異常は筋状に固定した塗布欠陥となり、印刷物の品質を著しく損ねる。
【0007】
図26は、深さが互いに等しい32個のインクチャネルを有するせん断モードタイプのインクジェットヘッドについて、共通の電圧パルスを印加して全インクチャネルを時分割で3周期(インクチャネル2本おきに)駆動させた場合の液適量分布の一例であり、一方の端部3チャネルと他方の端部3チャネルで液適量が著しく低下しているのが判る。
【0008】
クロストーク対策として上記の従来技術が知られているが、駆動方法が複雑であるため、駆動回路が複雑化し、コストが上がる問題がある。一方で、ヘッドの端部に位置するインクチャネルでは、その外側に隣接部がほとんど存在しないために十分なクロストーク対策がとれない問題がある。
【0009】
本発明は、単純な駆動回路を用いているにもかかわらず、クロストークに起因するヘッド単体の端部のインクチャネルからのインク滴の液滴量の低下を改善し、印刷物品質を改善できるインクジェットヘッド、インクジェットヘッドを備えた塗布装置及びインクジェットヘッドの駆動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、以下のような構成により達成される。
1.
少なくとも一部が圧電材料で構成された側壁により隔てられた複数のインクチャネルが配列され、前記側壁のせん断変形によりインクチャネル内の圧力を変化させて、インクチャネル内のインクをノズルから吐出せしめるインクジェットヘッドであって、
前記インクチャネルにおける圧力波の音響的共振周期の1/2をALとしたとき、インクを吐出する前記複数のインクチャネルの配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルと、中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていることを特徴とするインクジェットヘッド。
2.
前記両端に位置する2つのインクチャネルは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする1に記載のインクジェットヘッド。
3.
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、前記両端に位置する2つのインクチャネルと前記中央に位置するインクチャネルとを除いた他のインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする1または2に記載のインクジェットヘッド。
4.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの深さが、前記中央に位置するインクチャネル
の深さよりも小さいことを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
5.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていることを特徴とする1に記載のインクジェットヘッド。
6.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする5に記載のインクジェットヘッド。
7.
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルと前記中央に位置するインクチャネルとを除いた他のインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする5または6に記載のインクジェットヘッド。
8.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さが、前記中央に位置するインクチャネルの深さよりも小さいことを特徴とする5乃至7の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
9.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの外側にインクを吐出しないダミーチャネルを有することを特徴とする1乃至8の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
10.
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルのALと、中央に位置するインクチャネルのALとの差の絶対値が0.1μs以上5μs以下であることを特徴とする1乃至9の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
11.
1乃至10の何れか1項に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする塗布装置。
12.
前記側壁は、側壁の少なくとも一部に形成された電極に印加される電圧パルスによりせん断変形され、前記電圧パルスは、前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有し、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅と、前記中央に位置するインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅とは互いに等しいことを特徴とする11に記載の塗布装置。
13.
前記インクを吐出する複数のインクチャネルの全てのインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅が互いに等しいことを特徴とする12に記載の塗布装置。
14.
前記中央に位置するインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量及び前記一方のインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量のうちの大きい方の液滴量に対する小さい方の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内の値になるように前記膨張パルスのパルス幅が設定されていることを特徴とする12または13に記載の塗布装置。
15.
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、間に2本のインクチャネルを挟んで離れているインクチャネルをまとめて1つの組として、全インクチャネルを3つの組に分割し、各組毎に順次電圧パルスが印加されることを特徴とする12乃至14の何れか1項に記載の塗布装置。
16.
前記インクを吐出する複数のインクチャネルの全てのインクチャネルの側壁の電極に共通の電圧パルスが印加されることを特徴とする12乃至15の何れか1項に記載の塗布装置。
17.
前記電圧パルスは矩形波の電圧パルスであることを特徴とする12乃至16の何れか1項に記載の塗布装置。
18.
連続搬送される長尺状の支持体上に、支持体の幅方向に塗布幅に対応して配置された複数の前記インクジェットヘッドのノズルから塗布液の液滴を吐出させて塗膜を形成させることを特徴とする11乃至16の何れか1項に記載の塗布装置。
19.
1乃至10の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの駆動方法であって、前記インクジェットヘッドの各インクチャネルにインクを供給し、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルの側壁の少なくとも一部に形成された電極に前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有する電圧パルスを印加してノズルからインク液滴を吐出させ、前記膨張パルスのパルス幅の変化に対するインク液滴の液滴量の変化の関係を示す液滴量のパルス幅依存性を測定する工程と、
前記中央に位置するインクチャネルの側壁の少なくとも一部に形成された電極に前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有する電圧パルスを印加してノズルからインク液滴を吐出させ、前記膨張パルスのパルス幅の変化に対するインク液滴の液滴量の変化の関係を示す液滴量のパルス幅依存性を測定する工程と、
前記一方のインクチャネルの側壁の電極に印加する膨張パルスのパルス幅と、前記中央に位置するインクチャネルの側壁の電極に印加する膨張パルスのパルス幅とは互いに等しく、かつ前記中央に位置するインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量と前記一方のインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量のうちの大きい方の液滴量に対する小さい方の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内の値になるように前記膨張パルスのパルス幅を設定する工程と、
を有することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単純な駆動回路を用いているにもかかわらず、クロストークに起因するヘッド単体の端部のインクチャネルからのインク滴の液滴量の低下を改善し、印刷物品質を改善できるインクジェットヘッド、インクジェットヘッドを備えた塗布装置及びインクジェットヘッドの駆動方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明に関する実施の形態の例を示すが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0013】
図1は、ライン型の塗布装置1の構成を示す模式図である。
【0014】
ロール状に巻かれた長尺状の支持体10は、図示しない駆動手段により巻き出しロール10Aから矢印X方向に繰り出され搬送される。
【0015】
長尺状の支持体10はバックロール20に巻回され支持されながら搬送される。インクジェットヘッドユニット30より塗布液であるインクが支持体10に向け吐出され、インクが支持体10に塗布される。インクジェットユニット30は、支持体幅方向に塗布幅に対応した複数のインクジェットヘッド31を有する。また、各インクジェットヘッド31毎に設けられた電圧パルス発生手段101(図5参照)を備え、制御部(図示せず)は、電圧パルス発生手段101を制御して、各インクジェットヘッド31毎に共通の所定のパルス幅の膨張パルスを有する電圧パルスをインクジェットヘッド31に出力させ、ノズルからインク液滴を吐出させる。
【0016】
図2は、インクジェトヘッドユニット30のインクジェットヘッド31の配置例である。また、全てのインクジェットヘッド31が、インクを一時的に貯留する中間タンク40に対して同じ高さに配置されている例である。前述のように、1つのインクジェットヘッドで吐出できる塗布幅(吐出幅)はインクジェットヘッドの外形寸法よりも狭いことから、隙間なく塗布するために複数のインクジェットヘッドを支持体搬送方向に対して千鳥配置している。図2に示す例では、支持体幅方向に塗布幅に対応した複数のインクジェットヘッドを2列の千鳥配置としている。図3に、インクジェットヘッド31の外形、吐出幅及び千鳥配置の関係を示す。インクジェットヘッド31の数及び千鳥配置の列数は、インクジェットヘッド31の吐出幅、塗布幅等により適宜設定されるものであり、図2の例に限定されるものではない。
【0017】
インクは、インクジェットヘッド31のインクの背圧を調整する中間タンク40から複数の送液配管43を介してインクジェットヘッド31毎に供給される。なお、本説明において、図中の送液配管43は、複数の配管である。
【0018】
中間タンク40へのインク供給は、インクを貯留する貯留タンク50から供給管51の途中に配設された送液ポンプPで行われる。
【0019】
塗膜が形成された支持体は、乾燥部100で塗膜の乾燥が行われ、巻き取りロール10Bに巻き取られる。
【0020】
次に、せん断モードタイプのインクジェットヘッド31について説明する。
【0021】
各インクジェットヘッド31は、ノズル面側が支持体10の塗布面と対向するように配置されており、フレキシケーブル6を介して、電圧パルスを生成するための回路が設けられる電圧パルス発生手段101(図5参照)に電気的に接続されている。
【0022】
図4は、せん断モードタイプのインクジェットヘッド31の一例の概略構成を示す図であり、(a)は一部断面で示す斜視図、(b)はインク供給部を備えた状態の断面図である。図9は、インクチャネル列の断面図であり、わかりやすいように各インクチャネルに対応して設けられたノズルの位置を示してある。
【0023】
図5(a)〜(c)はその動作を示す図である。
【0024】
図4及び図5において101は電圧パルス発生手段、31はインクジェットヘッド、22はノズル形成部材、23はノズル、24はカバープレート、25はインク供給口、26は基板、27は側壁、Lはインクチャネルの長さ、Dはインクチャネルの深さ、Wはインクチャネルの幅である。そして、インクチャネル28が側壁27、カバープレート24及び基板26によって形成されている。
【0025】
ここで、図からも明らかなように、インクチャネルにおけるインクチャネルの配列方向の長さをインクチャネルの幅、配列方向に垂直な2方向のうち、長手方向の長さをインクチャネルの長さ、もう一方の長さをインクチャネルの深さと定義している。
【0026】
インクジェットヘッド31は、図5、図9に示すように、カバープレート24と基板26の間に、電気・機械変換手段であるPZT等の圧電材料からなる複数の側壁27で隔てられたインクチャネル28が17個配列されたせん断モードタイプのヘッドである。図5では17個のインクチャネル28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されている。インクチャネル28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)はインク供給口25を経て、送液配管43に接続されている。そして、各インクチャネル28内の側壁27表面には両側壁27の上方から基板26の底面に亘って繋がる電極29A、29B、29Cが密着形成され、各電極29A、29B、29Cは電圧パルス発生手段101に接続している。
【0027】
インクを吐出する17個のインクチャネル28の両外側には、ノズル23が形成されておらず、インクの吐出を行わない2つのダミーチャネル128が設けられている。本実施形態では、このダミーチャネルにインクが供給されるように構成されている。
【0028】
インクを吐出する17個のインクチャネル28の配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルの深さD2は、中央に位置するインクチャネルの深さD1より相対的に小さくしている。また、その他のインクチャネルの深さは、D1に等しくしてある。なお、図9では、電極29を省略してある。
【0029】
インクジェットヘッド31のインクチャネル数は、インクジェットヘッド31の吐出幅により適宜、10個〜1000個程度に設定されるものであり、図9の例に限定されるものではない。なお、例えば、インクチャネル数が偶数の場合のように、中央にインクチャネルが存在しない場合の中央に位置するインクチャネルとは、中央近傍に位置する2つのインクチャネルのうちの何れか一方のインクチャネルを指す。
【0030】
また、図9では両端に位置する2つのインクチャネルの深さD2を、中央部に位置するインクチャネルの深さD1より相対的に小さくしているが、インクチャネルにおける圧力波の音響的共振周期の1/2をALとしたとき、両端に位置する2つのインクチャネルと、中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていればよく、様々な実施形態をとりうる。
【0031】
図10は、インクを吐出する17個のインクチャネル28の配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルの深さD2は、中央部に位置するインクチャネルの深さD1より相対的に大きくしている例である。また、その他のインクチャネルの深さは、D1に等しくしてある。
【0032】
図11は、インクの吐出を行わない4つのダミーチャネルが設けられている例である。端部のインクチャネルに隣接して設けられたダミーチャネルは、端部に位置するインクチャネルと隣接するダミーチャネルを仕切る側壁の金属電極に電圧パルスを印加し、この側壁も駆動して両端のインクチャネルからより安定的にインクを吐出させるためのものであるが、さらにその外側にダミーチャネルを設けることにより、端部に位置するインクチャネルのクロストークの影響を低減できるため好ましい。
【0033】
図12は、両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さD2を、中央部に位置するインクチャネルの深さD1より相対的に小さくしている。また、その他のインクチャネルの深さは、D1に等しくしてある。複数のインクチャネルのうち間に2本のインクチャネルを挟んで離れているインクチャネルをまとめて1つの組として、全インクチャネルを3つの組に分割し、各組毎にインク吐出動作を時分割で順次行う場合に特に有効であり、本発明の効果がより一層顕著に発揮される。これは、前述の図26に示すように3つの組に分割して駆動すると、各駆動において両端に位置することになる各端部の3チャネルにおいて液滴量が低下するからである。
【0034】
次に、インクジェットヘッド31の製造方法と構成材料について説明する。
【0035】
基板26上に互いに分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bを接着剤を介して上下に貼り合わせ、その上側の圧電材料27aからダイヤモンドブレード等により、インクチャネル28となる複数の溝が全て同じ幅、同じ長さで平行に切削加工される。溝の深さは、図9〜図12に示すように中央と両端で異なる所定のインクチャネル深さになるように加工する。隣接するインクチャネル28は、矢印の方向に分極された側壁27によって区画される。また、インクチャネル28は、インクチャネル28の出口側(図4における左側)の深溝部28aと、該深溝部28aからインクチャネル28の入口側(図4における右側)に行くに従って徐々に浅くなる浅溝部28bとを有している。
【0036】
各側壁27は、ここでは図5の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は例えば符号27aの部分のみであってもよく、側壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0037】
圧電材料27a,27bに使用される圧電材料としては、電圧を加えることにより変形を生じるものであれば特に限定されず、公知のものが用いられ、有機材料からなる基板であっても良いが、圧電性非金属材料からなる基板が好ましく、この圧電性非金属材料からなる基板として、例えば成形、焼成等の工程を経て形成されるセラミックス基板、又は塗布や積層の工程を経て形成される基板等がある。有機材料としては、有機ポリマー、有機ポリマーと無機物とのハイブリッド材料が挙げられる。
【0038】
セラミックス基板としては、PZT(PbZrO3−PbTiO3)、第三成分添加PZTがあり、第三成分としてはPb(Mg1/3Nb2/3)O3、Pb(Mn1/3Sb2/3)O3、Pb(Co1/3Nb2/3)O3等があり、さらにBaTiO3、ZnO、LiNbO3、LiTaO3等を用いて形成することができる。
【0039】
また、塗布や積層の工程を経て形成される基板として、例えば、ゾル−ゲル法、積層基板コーティング等で形成することができる。
【0040】
圧電材料27aの上面には、全インクチャネル28に亘って深溝部28a上を覆うようにカバープレート24が接着剤を介して接着されると共に、各インクチャネル28の浅溝部28b上に、インクチャネル28内へのインク流入口77が形成されている。
【0041】
カバープレート24の接着後、ノズル23が開設された1枚のノズル形成部材22が接着剤を介して接着される。
【0042】
カバープレート24及び基板26の材料は、特に限定されず、有機材料からなる基板であっても良いが、非圧電性非金属材料からなる基板が好ましく、この非圧電性非金属材料からなる基板として、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、分極されていないPZTの少なくとも1つから選ばれることが好ましい。有機材料としては、有機ポリマー、有機ポリマーと有機物とのハイブリッド材料が挙げられる。
【0043】
また、ノズル形成部材23の材料としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリマー、アロマティックポリアミド樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリサルフォン樹脂等の合成樹脂のほか、ステンレス等の金属材料を用いることもできる。
【0044】
各インクチャネル28及びダミーチャネル128内には、その両側面から底面にかけて金属電極29が形成されており、この金属電極29は、浅溝部28bを通って圧電材料27aの後部側表面まで延びている。各金属電極29には、この後部側表面において異方導電性フィルム78を介してフレキシブルケーブル6が接着されており、電圧パルス発生手段101から各金属電極29に電圧パルスを印加することにより側壁27をせん断変形させ、その変形時の圧力によりインクチャネル28内のインクをノズルプレート22に形成されたノズル23から吐出するようになっている。また、両端に位置するインクチャネルと隣接するダミーチャネルを仕切る側壁の金属電極にも電圧パルスが印加され、この側壁も駆動して両端のインクチャネルからインクを吐出させる。
【0045】
金属電極29に用いられる金属としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、タンタル、チタンを用いることができ、特に、電気的特性、加工性の点から、金、アルミニウム、銅、ニッケルが好ましく、めっき、蒸着、スパッタで形成される。
【0046】
せん断モードタイプのインクジェットヘッド31は、以上のように圧電材料27a,27bにインクチャネル28を形成して、その側壁27に金属電極29を形成するだけで、ヘッドの主要部分を構成できるので、製造が簡単で、多数のインクチャネル28を高密度に配置できるために、高精細な画像記録を行う上で好ましい態様である。
【0047】
次に、吐出動作について説明する。
【0048】
各側壁27表面に密着形成された電極29A、29B、29Cに電圧パルス発生手段101から電圧パルスが印加されると、以下に例示する動作によってインク滴をノズル23から吐出する。なお、図5ではノズルは省略してある。
【0049】
なお、かかるインクジェットヘッド31では、以上のように、側壁27の変形によってインクチャネル28内のインクに正負の圧力が付与されるものであり、この側壁27は圧力付与手段を構成している。
【0050】
図6は、本発明に係る実施の形態の液滴吐出方法における電圧パルスを示している。図6において、横軸は時間、縦軸は駆動電圧を表す。
【0051】
(1)かかるインクジェットヘッド31は、図5(a)に示す状態において、電極29A及び29Cをアースに接続すると共に電極29Bに、パルス幅がPWの矩形波からなる膨張パルス(正電圧)を印加すると、まず、パルスの最初の立ち上がり(P1)によって、側壁27B、27Cを構成する圧電材料27a、27bの分極方向に直角な方向の電界が生じ、27a、27bともに側壁の接合面にズリ変形を生じ、図5(b)に示すように側壁27B及び側壁27Cは互いに外側に向けて変形し、インクチャネル28Bの容積が膨張する。これによりインクチャネル28B内のインクに負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0052】
(2)この最初のP1の印加からPW時間経過後に電位を0に戻す(P2)と、側壁27B,27Cは膨張位置から図5(a)に示す中立位置に戻り、インクチャネル28B内のインクに高い圧力が掛かる。
【0053】
引き続いて、矩形波からなるパルス幅が2PWの収縮パルス(負電圧)を印加する。まず収縮パルスの立ち下がり(P3)によって、図5(c)に示すように、側壁27B及び27Cは互いに逆方向に変形し、インクチャネル28Bの容積が収縮する。この収縮によりインクチャネル28B内のインクに更に高い圧力を掛かる(Reinforce)。これによりノズル内のインクメニスカスがノズル23から押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから吐出させるほど大きくなるとインク滴はノズルから吐出する。
【0054】
(3)更に、2PW時間経過すると、電位を0に戻し(P4)、側壁27B、27Cを収縮位置から中立位置に戻す。
【0055】
これらの一連の動作によりインクチャネル28B内のインクの一部がインク滴としてノズル23から飛翔する。
【0056】
このような液滴吐出方法は、いわゆるDRR(Draw−Release−Reinforce)方式による液滴吐出方法であり、膨張パルスのパルス幅PWはインク滴の吐出力に大きく影響し、1AL近傍にこのパルス幅が一致したときにインク滴吐出力(吐出速度)は最大となる。
【0057】
なお、AL(Acoustic Length)とは、上述したように、インクチャネルの音響的共振周期の1/2である。このALは、電気・機械変換手段である側壁27に矩形波のパルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。このALの値は、ヘッドの構造やインクの密度等に依存して決まるものである。
【0058】
また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの電圧の立ち上がり始め又は立ち下がり始めの10%から波高値電圧からの立ち下がり始め又は立ち上がり始めの10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0059】
電圧パルスとして矩形波を用いることは、吐出効率が向上するとともにパルス幅の設定が容易になるため好ましい。
【0060】
また、図6の電圧パルスでは、膨張パルスの駆動電圧Von(V)と収縮パルスの駆動電圧Voff(V)の比を|Von|>|Voff|とすることが好ましい。このように|Von|>|Voff|の関係とすると、インクチャネル内へのインクの供給を促進する効果があり、特に、高粘度インクで高周波駆動を行う場合に好ましい。なお、この電圧Vonと電圧Voffの基準電圧は0とは限らない。この電圧Vonと電圧Voffは、それぞれ基準電圧からの差分の電圧である。また、|Von|/|Voff|=2とすることがより好ましい。
【0061】
かかるせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、側壁27の変形は壁の両側に設けられる電極に掛かる電圧差で起こるので、インク吐出を行うインクチャネルの電極に負電圧を掛ける代わりに、インク吐出を行うインクチャネルの電極を接地して、その両隣のインクチャネルの電極に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば、正電圧だけで駆動できるため、電源コストの点で好ましい態様である。
【0062】
このように少なくとも一部が圧電材料で構成された側壁27によって隔てられた複数のインクチャネル28を有するインクジェットヘッドを駆動する場合、一つのインクチャネルの側壁が吐出の動作をすると、隣のインクチャネルが影響を受けるため、通常、複数のインクチャネル28のうち、互いに1本以上のインクチャネル28を挟んで離れているインクチャネル28をまとめて1つの組となすようにして、2つ以上の組に分割し、各組毎にインク吐出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全インクチャネル28を駆動してベタ画像を出力する場合には、インクチャネル28を2チャネルおきに選んで3相に分けて吐出する、いわゆる3サイクル吐出法が行われる。
【0063】
本実施形態では、17個のインクチャネルについて、一方の端部のインクチャネルから他方の端部のインクチャネルに向かって順次チャネル番号1、2,3・・・・・17としたとき、全インクチャネルを、チャネル番号1,4,7,10、13、16をA組、チャネル番号2,5,8,11、14、17をB組、チャネル番号3,6,9,12、15をC組として3組に分けて分割駆動する。
【0064】
かかる3サイクル吐出動作について図6の電圧パルスで駆動する場合について図7を用いて説明する。図7には、17個のインクチャネルのうち中央近傍の各組3個づつ計9固のインクチャネル28が図示されている。また、このときのA、B、Cの各組のインクチャネル28に印加される電圧パルスのタイミングチャートを図8に示す。
【0065】
インク吐出時には、まずA組の各チャネルの電極に図6の電圧パルスを印加し、その両隣のチャネルの電極を接地して、A組の各チャネルのノズルからインク滴を吐出させる。
【0066】
続いてB組の各チャネル28、更に続いてC組の各チャネル28へと上記同様に動作する。
【0067】
次に、本実施形態のインクジェットヘッドの作用について説明する。
【0068】
図13は、各インクチャネルの深さが互いに等しい従来のインクジェットヘッドのインクチャネル列の断面図である。このヘッドにおいて、インクチャネルの密度は180dpi(141μmピッチ)とし、各インクチャネルの深さD1は325μm、幅Wは85μm、長さLは6.5mm、各ノズルは25μmφとし、インクには水系インクを使用した場合について説明する。
【0069】
インクチャネルの深さ325μmに対するALが11.0μs.インク滴の液滴速度6m/sにおける液滴量が47.6ngであった。
【0070】
ヘッドの評価は、図6に示す電圧パルスを基本とし矩形波の膨張パルスの駆動電圧Vonと矩形波の収縮パルスの駆動電圧Voffの比(|Von|/|Voff|)を2とし、膨張パルスの駆動電圧Vonが14.5Vになる電圧で、膨張パルスのパルス幅PWを変更しながら、電圧パルスを印加してヘッドを図8に示すように全インクチャネルを時分割で3周期(インクチャネル2本おきに)駆動させることにより、一方の端部と中央部のインクチャネルのノズルから吐出される1つのインク滴の液滴量と液滴速度を測定した。なお、図6の電圧パルスでは、収縮パルスのパルス幅を2PWとしているため、膨張パルスのパルス幅PWを変更すると、同時に収縮パルスのパルス幅も変更される事になる。収縮パルスのパルス幅を、PWに依存しない全インクチャネルに共通に所定のパルス幅に設定しても良い。
【0071】
図14にパルス幅PWとインク滴の液滴速度の測定結果のグラフを、図15にパルス幅PWと液滴量のグラフを、それぞれ示す。
【0072】
図14,15より、中央のインクチャネル、端部のインクチャネルともパルス幅PWがインクチャネルのALである11.0μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になることがわかる。
【0073】
従来、圧力室の容積を膨張させた後、収縮させることで圧力室の圧力を高めノズルからインク滴を吐出させる場合に、圧力室の容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスのパルス幅PWは、ALに一致したときに最も効率良く吐出できると考えられ、用いられてきた。
【0074】
図15より、パルス幅PWがALである11.0μsにおける、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.90であり、端部のノズルの液滴量が大きく低下していることが判る。また、パルス幅PWを変更しても中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.90程度で変化がないことが判る。また、後述するように、インクチャネルの深さを310μm、295μmに変更したヘッドについても同様の結果が得られ、パルス幅PWがALにおける、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.90程度であり、端部のノズルの液滴量が大きく低下していた。
【0075】
従来のヘッドで、中央部と端部の液滴量を均一にするには、各チャネル毎に駆動電圧や電圧パルス幅を最適化する方法があるが、各チャネル毎に駆動回路を用意する必要があり、コストがかかる問題がある。
【0076】
次に、この従来のヘッドについて、インクチャネルの深さを変更した複数のヘッドを作製し、各ヘッドについてALおよびインク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量、駆動電圧を測定した。測定の結果、AL、液滴量および駆動電圧は、インクチャネルの深さと関係していることが解った。
【0077】
図16〜18にインクチャネルの深さとAL、液滴量、駆動電圧の測定結果のグラフをそれぞれ示す。
【0078】
図16、17から明らかなように、インクチャネルの深さが大きくなるにつれてALおよび液滴量が大きくなる傾向にある。また、図18から明らかなように、インクチャネルの深さが大きくになるにつれて駆動電圧が上昇する傾向にある。従って、これらの関係性を用いることにより、中央におけるインクチャネルの深さに対して両端におけるインクチャネルの深さをどのように設定するかの目安とすることができる。
【0079】
このように図15に示す液滴量分布と図16,17,18に示す測定結果に基づいて該液滴量分布が均一となるように、チャネル深さの変更度合いを調整すればよい。
(実施の形態1)
次に、図12に示すインクジェットヘッドを、両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さD2を310μm、中央に位置するインクチャネルとその他のインクチャネルの深さD1は325μmとした以外は、従来のヘッドと同様にして作製し、同様の評価を行った場合について説明する。
【0080】
インクチャネルの深さ310μmに対するALが10.36μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が44.0ngであった。インクチャネルの深さ325μmに対するALが11.0μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が47.6ngであった。
【0081】
図19にパルス幅PWとインク滴の液滴速度の測定結果のグラフを、図20にパルス幅PWと液滴量のグラフを、それぞれ示す。
【0082】
図19,20より、中央のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである11.0μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になり、端部のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである10.36μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になることがわかる。
【0083】
ここで、図20から明らかなように、端部のインクチャネルのパルス幅PWと中央部のインクチャネルのパルス幅PWを等しくした場合においても、最適なパルス幅を選択することにより、端部と中央部の液滴量の差を小さくすることができる。特に、中央部の液滴量分布曲線と端部の液滴量分布曲線が交差する位置である9.0μsにパルス幅PWを設定すれば、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は1.00となり、中央部と端部の液滴量を同じにすることができる。
【0084】
また、従来のヘッドと同じパルス幅PWが11.0μsにおける、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.92であり、分布が改善されている。このパルス幅PWを8.4μs〜10.0μsの範囲内のいずれか1つに選定した上で、各インクチャネルにこのパルス幅PWの共通の電圧パルスを印加し、全インクチャネルの各ノズルから吐出される液滴量を測定したところ、最大の液滴量に対する最小の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内に収まっていることが確認できた。
(実施の形態2)
次に、図12に示すインクジェットヘッドを、両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さD2を295μm、中央に位置するインクチャネルとその他のインクチャネルの深さD1は325μmとした以外は、従来のヘッドと同様にして作製し、同様の評価を行った場合について説明する。
【0085】
インクチャネルの深さ295μmに対するALが9.8μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が40.5ngであった。インクチャネルの深さ325μmに対するALが11.0μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が47.6ngであった。
【0086】
図21にパルス幅PWとインク滴の液滴速度の測定結果のグラフを、図22にパルス幅PWと液滴量のグラフを、それぞれ示す。
【0087】
図21,22より、中央のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである11.0μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になり、端部のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである9.8μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になることがわかる。
【0088】
ここで、図22から明らかなように、端部のインクチャネルのパルス幅PWと中央部のインクチャネルのパルス幅PWを等しくした場合においても、最適なパルス幅を選択することにより、端部と中央部の液滴量の差を小さくすることができる。特に、中央部の液滴量分布曲線と端部の液滴量分布曲線が交差する位置である9.5μsにパルス幅PWを設定すれば、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は1.00となり、中央部と端部の液滴量を同じにすることができる。
【0089】
また、従来のヘッドと同じパルス幅PWが11.0μsにおける、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.92であり、分布が改善されている。このパルス幅PWを9.0μs〜10.3μsの範囲内のいずれか1つに選定した上で、各インクチャネルにこのパルス幅PWの共通の電圧パルスを印加し、全インクチャネルの各ノズルから吐出される液滴量を測定したところ、最大の液滴量に対する最小の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内に収まっていることが確認できた。
(実施の形態3)
次に、図12に示すインクジェットヘッドを、両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さD2を295μm、中央に位置するインクチャネルとその他のインクチャネルの深さD1は310μmとした以外は、従来のヘッドと同様にして作製し、同様の評価を行った場合について説明する。
【0090】
インクチャネルの深さ295μmに対するALが9.8μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が40.5ngであった。インクチャネルの深さ310μmに対するALが10.36μs.インク滴の吐出速度6m/sにおける液滴量が44.0ngであった。
【0091】
図23にパルス幅PWとインク滴の液滴速度の測定結果のグラフを、図24にパルス幅PWと液滴量のグラフを、それぞれ示す。
【0092】
図23,24より、中央のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである10.36μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になり、端部のインクチャネルはパルス幅PWがインクチャネルのALである9.8μsに一致したときに液滴速度、液滴量が最大になることがわかる。
【0093】
ここで、図24から明らかなように、端部のインクチャネルのパルス幅PWと中央部のインクチャネルのパルス幅PWを等しくした場合においても、最適なパルス幅を選択することにより、端部と中央部の液滴量の差を小さくすることができる。特に、中央部の液滴量分布曲線と端部の液滴量分布曲線が交差する位置である8.3μsにパルス幅PWを設定すれば、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は1.00となり、中央部と端部の液滴量を同じにすることができる。
【0094】
また、従来のヘッドと同じパルス幅PWが10.36μsにおける、中央部のノズルの液滴量に対する端部のノズルの液滴量の比は0.93であり、分布が改善されている。このパルス幅PWを7.5μs〜9.6μsの範囲内のいずれか1つに選定した上で、各インクチャネルにこのパルス幅PWの共通の電圧パルスを印加し、全インクチャネルの各ノズルから吐出される液滴量を測定したところ、最大の液滴量に対する最小の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内に収まっていることが確認できた。
【0095】
以上のように、本実施の形態では、インクを吐出する前記複数のインクチャネルの配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルと、中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっているので、最適な膨張パルスのパルス幅PWを選択することにより、端部ノズルより吐出されるインク滴量の低下を補うことができ、高品質の印字を行うことができる。これにより、各インクチャネルに共通の電圧パルスを印加する単純な駆動回路を用いることが可能になる。
【0096】
また、図20、22,24に示す端部ノズルと中央部ノズルの液滴量分布曲線において、交差する位置の近傍の適正パルス幅範囲内にパルス幅PWを設定することにより、中央に位置するインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量及び前記一方のインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量のうちの大きい方の液滴量に対する小さい方の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内の値になるように膨張パルスのパルス幅PWを設定することが可能になる。
【0097】
また、中央のインクチャネルのALに対する端部のインクチャネルのALのシフト量は、前述の図20、22,24に示す端部ノズルと中央部ノズルの液滴量分布曲線が交差するように設定されることが好ましく、端部のインクチャネルのALと、中央のインクチャネルのALとの差の絶対値が0.1μs以上5μs以下であることが好ましい。この範囲を外れると、端部の液滴量低下を十分に補うことができない場合があり、また、5μsより大きいとインク滴の吐出効率が低下し、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0098】
さらに、本発明は、図25に示すような、1チャネルおきにインクを供給してインクチャネル28とし、その間のチャネルにはインク供給せずに空気チャネルとし、インクチャネル28と空気チャネル28’が交互に形成された独立チャネルヘッドにも適用できる。インクチャネルに対応してノズル23を設けることにより、ノズル23からインクが吐出される。また、入口と出口を有するインクチャネルの略中央部分に設けたノズルからインクを吐出するサイドシューターと呼ばれるタイプのヘッドにも適用できる。例えば、図4に示すインクジェットヘッドにおいて、ノズル形成部材側をインク出口側として、カバープレート24あるいは基板26におけるインクチャネル長手方向の略中央の位置に各ノズルを設け、インクチャネルの入口から出口に向かって連続的にインクを流しながら、インクチャネルの略中央に設けたノズルからインクを吐出させる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ライン型の塗布装置の構成を示す模式図である。
【図2】インクジェットヘッドの配置例を示す図である。
【図3】インクジェットヘッドの千鳥配置の位置関係を示す図である。
【図4】実施の形態に係るせん断モード(シェアモード)タイプのインクジェットヘッドの概略構成を示す図であり、(a)は一部断面で示す斜視図、(b)はインク供給部を備えた状態の断面図である。
【図5】(a)〜(c)はヘッドの動作を示す図である。
【図6】電圧パルスの波形を示す図である。
【図7】(a)〜(c)はヘッドの時分割駆動の説明図である。
【図8】A、B、Cの各組のインクチャネルの電極に印加される電圧パルスのタイミングチャートである。
【図9】実施の形態に係るインクチャネル列の断面図である。
【図10】他の実施の形態に係るインクチャネル列の断面図である。
【図11】他の実施の形態に係るインクチャネル列の断面図である。
【図12】他の実施の形態に係るインクチャネル列の断面図である。
【図13】従来のインクジェットヘッドのインクチャネル列の断面図である。
【図14】従来のインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴速度の関係を示す図である。
【図15】従来のインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴量の関係を示す図である。
【図16】インクジェットヘッドのインクチャネルの深さとALの関係の一例を示す図である。
【図17】インクジェットヘッドのインクチャネルの深さと液滴量の関係の一例を示す図である。
【図18】インクジェットヘッドのインクチャネルの深さと駆動電圧の関係の一例を示す図である。
【図19】実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴速度の関係を示す図である。
【図20】実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴量の関係を示す図である。
【図21】他の実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴速度の関係を示す図である。
【図22】他の実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴量の関係を示す図である。
【図23】他の実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴速度の関係を示す図である。
【図24】他の実施の形態に係るインクジェットヘッドの膨張パルスのパルス幅PWと液滴量の関係を示す図である。
【図25】他の実施の形態に係るインクチャネル列の断面図である。
【図26】従来のインクジェットヘッドの液適量分布の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1 塗布装置
10 支持体
10A 捲き出しロール
10B 巻き取りロール
20 バックロール
30 インクジェットユニット
31 インクジェットヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が圧電材料で構成された側壁により隔てられた複数のインクチャネルが配列され、前記側壁のせん断変形によりインクチャネル内の圧力を変化させて、インクチャネル内のインクをノズルから吐出せしめるインクジェットヘッドであって、
前記インクチャネルにおける圧力波の音響的共振周期の1/2をALとしたとき、インクを吐出する前記複数のインクチャネルの配列方向の両端に位置する2つのインクチャネルと、中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記両端に位置する2つのインクチャネルは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、前記両端に位置する2つのインクチャネルと前記中央に位置するインクチャネルとを除いた他のインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの深さが、前記中央に位置するインクチャネル
の深さよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとで、ALが異なる値となるようにインクチャネルの深さが異なっていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルと前記中央に位置するインクチャネルとを除いた他のインクチャネルと、前記中央に位置するインクチャネルとは、インクチャネルの深さが互いに等しいことを特徴とする請求項5または6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルおよび他方のインクチャネルから中央に位置するインクチャネルに向かって連続する3つのインクチャネルの深さが、前記中央に位置するインクチャネルの深さよりも小さいことを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの外側にインクを吐出しないダミーチャネルを有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルのALと、中央に位置するインクチャネルのALとの差の絶対値が0.1μs以上5μs以下であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする塗布装置。
【請求項12】
前記側壁は、側壁の少なくとも一部に形成された電極に印加される電圧パルスによりせん断変形され、前記電圧パルスは、前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有し、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅と、前記中央に位置するインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅とは互いに等しいことを特徴とする請求項11に記載の塗布装置。
【請求項13】
前記インクを吐出する複数のインクチャネルの全てのインクチャネルの側壁の電極に印加される膨張パルスのパルス幅が互いに等しいことを特徴とする請求項12に記載の塗布装置。
【請求項14】
前記中央に位置するインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量及び前記一方のインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量のうちの大きい方の液滴量に対する小さい方の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内の値になるように前記膨張パルスのパルス幅が設定されていることを特徴とする請求項12または13に記載の塗布装置。
【請求項15】
前記インクを吐出する複数のインクチャネルのうち、間に2本のインクチャネルを挟んで離れているインクチャネルをまとめて1つの組として、全インクチャネルを3つの組に分割し、各組毎に順次電圧パルスが印加されることを特徴とする請求項12乃至14の何れか1項に記載の塗布装置。
【請求項16】
前記インクを吐出する複数のインクチャネルの全てのインクチャネルの側壁の電極に共通の電圧パルスが印加されることを特徴とする請求項12乃至15の何れか1項に記載の塗布装置。
【請求項17】
前記電圧パルスは矩形波の電圧パルスであることを特徴とする請求項12乃至16の何れか1項に記載の塗布装置。
【請求項18】
連続搬送される長尺状の支持体上に、支持体の幅方向に塗布幅に対応して配置された複数の前記インクジェットヘッドのノズルから塗布液の液滴を吐出させて塗膜を形成させることを特徴とする請求項11乃至16の何れか1項に記載の塗布装置。
【請求項19】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のインクジェットヘッドの駆動方法であって、前記インクジェットヘッドの各インクチャネルにインクを供給し、前記両端に位置する2つのインクチャネルの一方のインクチャネルの側壁の少なくとも一部に形成された電極に前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有する電圧パルスを印加してノズルからインク液滴を吐出させ、前記膨張パルスのパルス幅の変化に対するインク液滴の液滴量の変化の関係を示す液滴量のパルス幅依存性を測定する工程と、
前記中央に位置するインクチャネルの側壁の少なくとも一部に形成された電極に前記インクチャネルの容積を膨張させた後、収縮させる膨張パルスを有する電圧パルスを印加してノズルからインク液滴を吐出させ、前記膨張パルスのパルス幅の変化に対するインク液滴の液滴量の変化の関係を示す液滴量のパルス幅依存性を測定する工程と、
前記一方のインクチャネルの側壁の電極に印加する膨張パルスのパルス幅と、前記中央に位置するインクチャネルの側壁の電極に印加する膨張パルスのパルス幅とは互いに等しく、かつ前記中央に位置するインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量と前記一方のインクチャネルのノズルから吐出されるインク液滴の液滴量のうちの大きい方の液滴量に対する小さい方の液滴量の比率が、0.95以上1.0以下の範囲内の値になるように前記膨張パルスのパルス幅を設定する工程と、
を有することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−190306(P2009−190306A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34495(P2008−34495)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】