説明

インクジェットヘッドおよびその製造方法

【課題】連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピードで、高デューティで、記録を実行する場合においても、発生するインクミストを親水部に留めておき、インク滴の吐出口への引き込みを防止するインクジェットヘッド及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口および前記吐出口と連通する液体流路のパターンを形成し表面に撥水処理が施された流路形成部材とを含むインクジェットヘッドであって、前記インクジェットヘッドの吐出口を有する面に、撥水処理が施されている撥水領域と、前記流路形成部材内部に底を有し表面に撥水処理が施されていない窪みとを複数有することを特徴とするインクジェットヘッド。およびインクジェットヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を被記録媒体に吐出することにより記録を行うインクジェットヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式に適用されるインクジェットヘッドにおいては、高画質化、高速化等の性能向上のための様々な提案がなされている。ノズル表面の撥水処理に関しては、特許文献1において、吐出口表面に撥水領域と非撥水領域とを設けることで印字品位を改良する方法が提案されている。吐出口表面全域を撥水性とした場合、連続印刷時等にインクミストが集積してインク滴となり、吐出口に引き込まれることで不吐出となることがある。特許文献1では、吐出口表面に部分的に親水部を設けることで、インクミストが親水部に集まり、インク滴の吐出口への引き込みを防止できることが示されている。特許文献2では、撥水層としてフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とからつくられる硬化縮合生成物を用いている。マスクパターンおよび露光条件を適切に設定することによって、吐出口を形成する部分を除いて、撥水層のみを部分的に除去することができる。すなわち、マスクパターンが限界分解能未満のとき、撥水層だけが部分的に除去されることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−300323号公報
【特許文献2】特表2007−518587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピード、高デューティで、記録を実行する場合には、発生するインクミストは多量となる。従って、撥水層のみを部分的に除去した親水部を有する従来のインクジェットヘッドを用いた場合は、多量のインクミストがその親水部に集まり、親水部で保持出来なくなる程インク滴が大きくなると、吐出口へ引き込まれて不吐出となる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、詳しくは以下の通りである。連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピード、高デューティで、記録を実行する場合においても、発生するインクミストを親水部に留めておき、インク滴の吐出口への引き込みを防止するインクジェットヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、つぎの(1)、(2)に示すインクジェットヘッド及びその製造方法を提供するものである。
【0007】
(1)液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口、および前記吐出口と連通する液体流路のパターンを形成し、表面に撥水層を有する流路形成部材とを含むインクジェットヘッドを製造する方法であって、
前記インクジェットヘッドは、前記流路形成部材内部に底を有し表面に前記撥水層を有さない窪みである親水部を含み、
カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物から成り前記流路形成部材を形成するための感光材料層を前記基板上に設ける工程と、
前記感光材料層上に、撥水層形成用材料層を設ける工程と、
前記感光材料層および前記撥水層形成用材料層のうちの、少なくとも、前記吐出口および前記親水部に対応する領域をそれぞれ除いた領域を露光して、その露光した領域の感光材料層および撥水層形成用材料層を硬化させる第1の露光工程と、
前記感光材料層および前記撥水層形成用材料層のうちの、少なくとも前記吐出口に対応する領域を除き、前記親水部に対応する領域を含む領域を露光する第2の露光工程とを含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【0008】
(2)液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口、および前記吐出口と連通する液体流路のパターンを形成し、表面に撥水処理が施された流路形成部材とを含むインクジェットヘッドであって、
前記吐出口を有する面に、撥水処理が施されている撥水領域と、前記流路形成部材内部に底を有し表面に撥水処理が施されていない窪みとを複数有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピード、高デューティで、記録を実行する場合においても、発生するインクミストを親水部に留めておき、インク滴の吐出口への引き込みを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェットヘッドの模式図である。
【図2】本発明のインクジェットヘッドの製造方法の例を説明するための図である。
【図3】従来のインクジェットヘッドの製造方法の例を説明するための図である。
【図4】本発明のインクジェットヘッドの一例を示す模式図である。
【図5】本発明のインクジェットヘッドの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態においては、上記構成を適応することにより、以下のことが可能となる。即ち、インクジェットヘッドの吐出口を有する面(図2の符号18)に、撥水処理が施されている撥水領域と、凹形状に窪み、表面に撥水処理が施されていない親水部を、正確な位置精度で形成することができ、印字品位の向上を図ることが可能となる。
【0012】
また、本発明のインクジェットヘッドは、ノズルの表面における撥液加工に特徴があり、上記撥水領域と親水部とを複数有することができる。なお、撥水とは、水滴やインク滴などの液滴が部材に接する際に、その接する部材上で濡れ広がらないことを意味し、部材が撥水性を有するか否かは、その部材表面の水滴の接触角を測定することにより特定することができる。少なくとも水の接触角が70度以上である場合は、撥水性を有すると言うことができる。
【0013】
以下に、図を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、基板1上に液体としてインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2、インク流路3を覆う流路形成部材4、吐出口5が配置され、基板1内にインク供給口6が配置されたインクジェットヘッドの模式図である。以下に、図1のA−B断面において、本発明のインクジェットヘッドの製造方法の実施形態における各工程について説明する。
【0014】
まずインクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を配置した基板1(図2A)に、吐出口5と連通する液体流路であるインク流路3の型となる型レジスト7を形成する(図2B)。
【0015】
次に前記型レジスト7上に、流路形成部材4を形成するための感光材料層として、カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物からなる感光材料層11を形成し、更にその感光材料層上に撥水層8を形成するための撥水層形成用材料層12を形成する(図2C)。なお、感光材料層11は、基板1表面に直接形成しても良いし、上述したように基板1と感光材料層11との間に他の層(例えば、型レジスト7)を有していても良い。
【0016】
なお、カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物は、二官能以上のエポキシ基、もしくはオキセタン基を有するカチオン重合性樹脂と、光を吸収して酸を発生する光酸発生剤とを少なくとも含むことが好ましい。二官能以上のエポキシ基を有するカチオン重合性樹脂としては、例えば、多官能脂環型エポキシ樹脂、多官能フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、多官能オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能トリフェニル型ノボラック型エポキシ樹脂、多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。また、上記光酸発生剤としては、例えば、スルホン酸化合物、ジアゾメタン化合物、スルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、ジスルホン系化合物を挙げることができる。さらに、カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物には、この他にもアミン類などの塩基性物質、アントラセン誘導体などの光増感物質、シランカップリング剤などを含むことができる。
【0017】
次いで第1の露光工程を行う。即ち、第一のマスク13を介してフォトリソグラフィー技術により親水部10に対応する領域19及び吐出口5に対応する領域20を除く領域を、感光材料層11及び撥水層形成用材料層12が十分硬化する露光量でレーザー光14等を用いて露光する(図2D)。なお、その際の露光量は、硬化後の撥水層形成材料層である撥水層8表面の純水による接触角が70度以上となる露光量、即ち撥水層表面に撥水性を有することができる露光量であれば、使用する感光材料層および撥水層形成用材料層に応じて設定することができる。第1の露光工程では、領域19および20以外の領域も必要に応じて未露光部とすることができる。また、この未露光部は第2の露光工程においても未露光部とすることができ、現像の際に除去することができる。
【0018】
この第1の露光工程後、後述する第2の露光工程前に、第1の露光工程において露光されていない領域の感光材料層11の軟化点以上の温度で熱処理(Post Exposure Bake)をすることで、露光部の感光材料層の硬化が進行して樹脂が収縮する。さらに軟化点以上で加熱されている未露光部は、露光部の収縮によって生じる空間に応じて窪むため、親水部に対応する領域19に、表面に撥水層形成用材料層を有する窪み9を設けることが可能である(図2E)。なお、軟化点は、熱機械分析装置(TMA)により測定することができる。窪みの形状及び配置については、使用するヘッド形態に応じて適宜マスクパターンを選択することで選択可能であるため、任意の箇所に窪み9を設けることができる。窪みの深さは露光量、熱処理(Post Exposure Bake)の温度、感光材料層の厚さによって制御することが可能である。なお、パターン形状の維持の観点から、第1の露光工程後かつ第2の露光工程前に行う熱処理の温度は、130℃未満であることが好ましい。
【0019】
次に、第2の露光工程を行う。即ち、第1の露光工程において露光されていない領域の撥水層形成用材料層が十分硬化する露光量の1/10〜1/3の露光量で、第二のマスク15を介して窪み9、即ち親水部10に対応する領域19を含み吐出口5に対応する領域20を含まない領域を露光する。これにより、親水部に対応する領域19にある窪み9の撥水層形成用材料層は硬化させず、感光材料層のみを硬化させる(図2F)。
【0020】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法では、この第2の露光工程後に現像工程を有することができる。具体的には、この第2の露光後、再び熱処理(Post Exposure Bake)をし、現像することで、親水部10に対応する領域の撥水層形成用材料層12を現像液に溶解し除去する(図2G)。なお、第1および第2の露光工程を通して露光されていない吐出口5に対応する領域20は、上記現像工程により除去され、図2Gに示すような吐出口が形成される。
【0021】
ついで、図2Hに示すようにインク供給口6を適宜形成し、型レジスト7を適宜除去し、必要に応じて、感光材料層11および撥水層形成用材料層12をより硬化させるために更に熱処理をする。これにより、流路形成部材4と、窪み形状の親水部10とを含むインクジェットヘッドを作製することができる。なお、流路形成部材4は、表面に撥水層8を有し、吐出口5およびインク流路3のパターンを形成する。本発明に用いる親水部10は、流路形成部材内部に底を有し表面に撥水層を有さない窪みである。また、親水部の深さは、第1の露光工程後の熱処理温度にも依存するため、その熱処理温度におけるパターン形状維持の観点から、この窪みの流路形成部材内部の深さ10h(撥水層8の基板1側の面から親水部の底までの距離)は、0.5μm以上10μm以下が好ましい。
【0022】
なお、エネルギー発生素子2としては、発熱抵抗材料を用いることができ、基板1としては、シリコーン基板を用いることができる。型レジスト7としては、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)を用いることができる。また、露光装置としては、I線露光ステッパー(キヤノン社製)、KrFステッパー(キヤノン社製)、およびマスクアライナーMPA−600Super(商品名、キヤノン製)を用いることができる。
【0023】
本発明で用いられる流路形成部材4は、高い機械的強度、耐インク性、基板との密着性等が要求されるため、その材料(感光材料層11)として、カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物からなる感光材料層を用いる。また、感光材料層としては、ネガ型レジストが好適に用いられ、特にエポキシ樹脂のカチオン重合物が好適に用いられる。この他にもオキセタン樹脂のカチオン重合物を用いることが出来る。
【0024】
撥水層8はインクに対する撥水性と、ワイパー等による接触を伴う拭き取りに対する高い機械的強度が求められるため、その材料(撥水層形成用材料層12)として、フッ素、ケイ素等の撥水性を有する官能基を含有するネガ型レジストが好適に用いられる。また、撥水層形成用材料層としては、特許文献2に示される、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とから縮合合成される硬化縮合生成物も好適に用いられる。その硬化縮合生成物としては、例えば、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランからなる硬化縮合生成物を挙げることができる。
【0025】
なお、本発明に用いる撥水層形成用材料層12は感光性を有する。また、第2の露光工程における露光量は、第1の露光工程において露光されていない領域の撥水層形成用材料層12が硬化する露光量の1/10〜1/3の露光量であることが好ましい。これにより、第1の露光工程において露光されていない領域の感光材料層が容易に硬化可能となり、その領域の撥水層形成用材料層が現像工程において容易に除去可能となる。
【0026】
また、均一な膜を形成する観点から、撥水層8の厚みは、0.2μm以上3μm以下が好ましい。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
以下に、本発明の実施例について説明する。図2A〜Hの工程によりインクジェットヘッドを作製した。エネルギー発生素子2を設けた基板1上に、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)を14μmの厚さで塗布した。次いで、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)によってインク流路のパターン(型レジスト7)を形成した(図2B)。
【0028】
次に、感光材料層11として表1にその組成を示すカチオン重合性の光重合性樹脂組成物をインク流路パターン上に基板1表面から25μmの膜厚で塗布し、60℃で9分間熱処理した。更に撥水層形成用材料層12として、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランからなる硬化縮合生成物を2−ブタノール及びエタノールで希釈して前記感光材料層11上に塗布し、70℃で3分間熱処理して前記希釈溶剤を揮発させた(図2C)。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、第1の露光工程を行った。具体的にはI線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて、吐出口5及び親水部10のパターン、即ち感光材料層11および撥水層形成用材料層12のうちの、吐出口5及び親水部10に対応する領域をそれぞれ除いた領域を4000J/m2で露光した(図2D)。ついで、それを100℃で4分間熱処理して、表面に撥水層形成用材料層を有する窪み9を形成した(図2E)。なお、露光に用いた第一のマスク13上の吐出口に対応する部分の寸法はΦ(直径)22μmであった。また、マスク13上には、親水部に対応する部分として、幅40μmのラインが吐出口列と平行に形成されていた。図4に、この吐出口5と親水部10とを有するインクジェットの模式図を示す。
【0031】
次いで、第2の露光工程を行った。吐出口5に対応する領域20を除き親水部10に対応する領域19を含む領域として、具体的には、親水部10に対応する領域19を、I線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて1000J/m2で露光した(図2F)。次いで、それを90℃で4分間熱処理した後、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)で現像し、親水部10に対応する領域の撥水層形成用材料層12ならびに吐出口5に対応する領域の層11および12を除去した(図2G)。
【0032】
次に、基板の背面(感光材料層等を設けた面に対向する面)にインク供給口6を作製するためのマスク(不図示)を適切に配置し、基板の表面をゴム膜(不図示)によって保護した後、シリコーン基板の異方性エッチングによってインク供給口6を作製した。異方性エッチングの完了後、ゴム膜を取り去り、再びUX3000(商品名、ウシオ電機製)を用いて表面全体に紫外線を照射することによって、インク流路パターンを形成する型レジスト7を分解し、乳酸メチルを用いて型レジスト7を溶解除去した(図2H)。
【0033】
その後、感光材料層11及び撥水層形成用材料層12を200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給の手段を適宜配置した。これにより、窪み形状の親水部10と、吐出口5及びインク流路3のパターンを形成し表面に撥水層8を有する流路形成部材4とを含むインクジェットヘッドを得た。なお、撥水層8の厚みは、0.4μmであった。
【0034】
なお、親水部10の形状は、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、商品名:VK9700)を用いて測定した。その結果、下側(基板1側)にインク流路3を有する領域では、幅が44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ(図2の符号10hで表される深さ)5μmの窪みが形成されていた。また、下側にインク流路3を有さない領域では幅44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ7μmの窪みが形成されていた。後述する評価方法でこのインクジェットヘッドを評価した。結果を表2に示す。
【0035】
〔実施例2〕
本発明の実施例2においては、親水部10のパターンを変更したのみで、後は実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。実施例2で使用したマスクには、親水部10に対応する部分として、内径30μm、外経40μmのドーナツ型の形状が、吐出口5の周囲に配置されていた。図5に、この吐出口と親水部とを有するインクジェットヘッドの模式図を示す。実施例2のインクジェットヘッドを、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。なお、このインクジェットヘッドの親水部10は、内径30μm、外径40μmのドーナツ型形状であり、撥水層8の基板1側の面からの深さ10hは6μmであった。
【0036】
〔実施例3〕
本発明の実施例3においては、第1の露光工程後の熱処理(Post Exposure Bake)の温度を、100℃から120℃に変更したのみで、後は実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。親水部10の形状は、下側(基板1側)にインク流路を有する領域では、幅が44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ7μmの窪みが形成されていた。また、下側にインク流路を有さない領域では幅44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ10μmの窪みが形成されていた。実施例3のインクジェットヘッドを、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0037】
〔実施例4〕
本発明の実施例3においては、第1の露光工程後の熱処理(Post Exposure Bake)の温度を、100℃から80℃に変更したのみで、後は実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。親水部10の形状は、下側(基板1側)にインク流路を有する領域では、幅が44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ3μmの窪みが形成されていた。また、下側にインク流路を有さない領域では幅44μm、最深部が撥水層8の基板1側の面より深さ4μmの窪みが形成されていた。実施例4のインクジェットヘッドを、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0038】
〔比較例1〕
さらに比較のために、流路形成部材内部に底を有する窪みではなく、撥水層のみを部分的に除去することにより形成した親水部17を設けたインクジェットヘッドを作製した。以下に図を用いて、親水部17を設けたインクジェットヘッドについて説明する。なお、エネルギー発生素子、型レジスト、感光材料層および撥水層形成用材料層は、実施例1と同様のものを用いた。
【0039】
実施例1と同様に、エネルギー発生素子2を設けた基板1上に、ポリメチルイソプロペニルケトンを塗布、パターニングしてインク流路のパターン(型レジスト7)を形成し、さらにその上に感光材料層11、撥水層形成用材料層12を製膜した(図3A)。次いで、I線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて、吐出口5及び親水部11のパターンを4000J/m2で露光した(図3B)。この際、感光材料層11および撥水層形成用材料層12のうちの親水部17に対応する領域は、感光材料層11の限界分解能未満のマスクパターンを用いることで、現像後に撥水部8のみ部分的に除去させた(図3C)。このマスクとして、親水部に対応する領域が、実施例1と同様に幅40μmのライン状であるものを用いた。ここで感光材料層の限界分解能未満のマスクパターンとは、感光材料層11が基板まで現像されず、場合によってはある深さまでは現像されるパターンサイズを意味する。その後、実施例1と同様に、インク供給口6を形成し、インク流路パターンを形成する型レジスト7を分解除去した後に加熱プロセスを実施してノズルを完成させた。
【0040】
〔比較例2〕
さらに比較として親水部を設けないインクジェットヘッドも作製した。比較例1と同様に、エネルギー発生素子2を設けた基板上に、ポリメチルイソプロペニルケトンを塗布、パターニングしてインク流路のパターン(型レジスト7)を形成し、さらにその上に感光材料層11、撥水層形成用材料層12を製膜した。次いで、I線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて、吐出口のパターンを4000J/m2で露光した(図3B)。この際、比較例1で親水部17となる領域においても、マスクパターンを用いずに全面を露光することで親水部を設けないインクジェットヘッドを作製した。
【0041】
〔評価〕
作製したそれぞれのインクジェットヘッドに黒インクを充填し、A4サイズの記録紙11枚に対して、それぞれ全吐出口からインクを吐出させるベタ印字を連続で行い、インクミストから生成したインク滴がノズルに引き込まれる事で不吐出が発生するか観察した。不吐出の観察は、ベタ印字の白スジ(不吐出)を目視確認することで行った。評価の基準は以下の通りである。
○:白スジがゼロ本ないし1本しか認識できない、
△:2〜4本の白スジが認識される、
×:5本以上の白スジが認識される。
【0042】
結果を表2に示す。なお、表2中の部分親水領域とは、窪み形状の親水部、もしくは解像限界以下のマスクを用いて形成した親水領域を示し、窪み(親水部)領域とは、部分親水領域を窪み形状の親水部にて達成しているものを示す。
【0043】
【表2】

【0044】
上記結果より明らかなように、本発明により、吐出口面18に撥水部と凹形状に窪んだ親水部10を正確な位置精度で形成することで、連続印字での印字品位を向上することができた。より具体的には、連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピードで、高デューティで、記録を実行する場合においても、発生するインクミストを親水部に留めておき、インク滴の吐出口への引き込みを防止することができた。上記評価では、黒インクを用いて評価を行ったが、複数の色を同時に駆動させた場合でも同様のことが言える。なお、凹形状に窪んだ新水部の形状及び配置については、使用する形態に応じて適宜選択することが出来る。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 インク流路
4 流路形成部材
5 吐出口
6 インク供給口
7 型レジスト
8 撥水層
9 表面に撥水層形成用材料層を有する窪み
10 窪み形状の親水部
10h 窪み(親水部)の流路形成部材内部の深さ
11 感光材料層
12 撥水層形成用材料層
13 第一のマスク
14 レーザー光
15 第二のマスク
16 感光材料層の限界分解能未満のマスクパターン
17 流路形成部材表面に底を有する親水部
18 吐出口を有する面
19 親水部に対応する領域
20 吐出口に対応する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口、および前記吐出口と連通する液体流路のパターンを形成し、表面に撥水層を有する流路形成部材とを含むインクジェットヘッドを製造する方法であって、
前記インクジェットヘッドは、前記流路形成部材内部に底を有し表面に前記撥水層を有さない窪みである親水部を含み、
カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物から成り前記流路形成部材を形成するための感光材料層を前記基板上に設ける工程と、
前記感光材料層上に、撥水層形成用材料層を設ける工程と、
前記感光材料層および前記撥水層形成用材料層のうちの、少なくとも、前記吐出口および前記親水部に対応する領域をそれぞれ除いた領域を露光して、その露光した領域の感光材料層および撥水層形成用材料層を硬化させる第1の露光工程と、
前記感光材料層および前記撥水層形成用材料層のうちの、少なくとも前記吐出口に対応する領域を除き、前記親水部に対応する領域を含む領域を露光する第2の露光工程と
を含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記カチオン重合性の光硬化性樹脂組成物が、二官能以上のエポキシ基、もしくはオキセタン基を有するカチオン重合性樹脂と、光を吸収して酸を発生する光酸発生剤とを少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記撥水層形成用材料層が、少なくとも、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とから縮合合成される硬化縮合生成物であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記第1の露光工程後かつ前記第2の露光工程前に、前記第1の露光工程において露光されていない領域の感光材料層の軟化点以上の温度で熱処理をすることで、前記親水部に対応する領域に、表面に前記撥水層形成用材料層を有する窪みを形成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第2の露光工程後に現像工程を有し、
前記第2の露光工程における露光量が、前記第1の露光工程において露光されていない領域の感光材料層が硬化可能であって、前記第1の露光工程において露光されていない領域の撥水層形成用材料層が前記現像工程において除去可能な露光量であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口、および前記吐出口と連通する液体流路のパターンを形成し、表面に撥水処理が施された流路形成部材とを含むインクジェットヘッドであって、
前記吐出口を有する面に、撥水処理が施されている撥水領域と、前記流路形成部材内部に底を有し表面に撥水処理が施されていない窪みとを複数有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記窪みの流路形成部材内部の深さが、0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91405(P2012−91405A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240811(P2010−240811)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】