説明

インクジェット用液体廃棄処理方法およびインクジェット記録装置

【課題】混合した際に凝集・増粘する性質を持つ2種類の印字用液体からなるインクセットを用い、滲み等の少ない高画質の画像が形成できるインクジェット記録において、メンテナンス時に発生する混合廃液の凝集・増粘を抑制でき、混合廃液の凝集・増粘によるメンテナンス部の種々のトラブルを抑制することができるインクジェット用液体廃棄処理方法を提供すること。
【解決手段】アニオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以上である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが6.5以下である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物を含むことを特徴とするインクジェット用液体廃棄処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合した際に凝集・増粘する性質を有する2種類の印字用液体を用いたインクジェット記録に適したインクジェット用液体廃棄処理方法およびインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズル、スリット、多孔質フィルム等から液体あるいは溶融固体インクを吐出し、紙、布巾、フィルム等に記録するインクジェット記録方法は、小型、安価、静粛という特徴をもち、多くのプリンターに用いられている。中でも、圧電素子の変形を利用しノズルから液体インクを吐出させるピエゾインクジェット方式、熱沸騰現象を利用した熱インクジェット方式は、高解像度、高速印字性の観点から多く利用されている。
このようなインクジェット記録には、高画質化および高速化の両方が求められている。
【0003】
高画質化や高速化を目指す上で、解決すべき課題のひとつは、紙上に付与されたインク同士が接触した際にインク間で発生する滲みである。
このような問題を解決する方法としては、異なるpHを有する第1のインクと第2のインク(または第2の処理液)を用いて、インクが紙上で接触した際にインク構成成分を凝集させてインク間の滲みを防止する方法が知られている。
例えば、pH感応性分散剤を配合し、顔料が分散されている第1のインクでプリント媒体上にプリントし、次に、前記第1のインクの分散された顔料を前記プリント媒体上で析出させるのに適切なpHの第2のインクでプリントする方法などが提案されている(特許文献1参照)
【0004】
また、長期に渡って安定したインクジェット記録を行う上では、記録ヘッドからのインクの吐出不良が問題となる。吐出不良の原因については様々あるが、ノズル内のインクの乾燥、増粘や気泡、ごみなどによる目詰まりが挙げられる。これらを解消するために、非印字時にキャップでノズルを覆う技術、増粘したインク、気泡、ごみを排出するため吸引装置を設けたり、空吐出、いわゆるダミージェットを吐出する技術が開発されている。
また、このような技術を利用したインクジェット記録装置は、ダミージェットやキャップを介して回収した廃液を貯蔵する廃液貯蔵タンクを有しており、これに加えて必要に応じて廃液貯蔵タンクに廃液を送付するためのチューブやポンプ等からなる廃液処理システム(メンテナンス部)を備えている。
【特許文献1】特開平7−001837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、滲みを防止するために、凝集を狙った材料をインクや処理液(色材を含まず、主にインクの凝集促進を目的として使用される液体)に使用した場合、インクや処理液(以下、インクおよび処理液の双方を「印字用液体」と称す場合がある)を廃棄処理する際に、混合すると凝集や増粘が起こるインクや処理液間で分類して廃棄処理することが必要となる。
【0006】
このような分類廃棄処理を行わない場合には、記録ヘッドのメンテナンス時に発生する廃液が、メンテナンス部の廃液処理に関する各部で混合すると凝集/増粘する。このため、例えば、以下のような問題を引き起し、メンテナンス部の各部の機能が十分に発揮されなくなってしまい、故障の原因となる。
(1)インクや処理液を吸引するためのポンプを設けた場合、ポンプ内で凝集物による詰まりが生じる。
(2)廃液貯蔵タンクへの廃液通路としてチューブを設けた場合、チューブ入り口や内部で凝集物による詰まりが生じる。
(3)廃液貯蔵タンク内に、廃液を吸収する吸収体を設けた場合、吸収体の上部や局部で廃液の凝集が起こってしまい、インクや処理液の吸収を阻害し吸収体及び廃液貯蔵タンク中に予想していた容量よりも少量しか廃液を貯蔵できない。
【0007】
このため、滲み防止のために、凝集を狙った材料をインクや処理液に使用した場合、高画質化を達成することは出来ても、メンテナンス部の廃液貯蔵タンク等が分類廃棄できない構成の場合には、早期に廃棄処理能力が低下してしまいメンテナンス部の寿命が尽きてしまう。
このため、廃液貯蔵タンク等は、混合すると凝集や増粘が起こるインクや処理液間で分類して収納できるように複数設ける必要があり、結果としてインクジェト記録装置の大型化やコストの増大を招いていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明は、混合した際に凝集・増粘する性質を持つ2種類の印字用液体からなるインクセットを用い、滲み等の少ない高画質の画像が形成できるインクジェット記録において、メンテナンス時に発生する混合廃液の凝集・増粘を抑制でき、混合廃液の凝集・増粘によるメンテナンス部の種々のトラブルを抑制することができるインクジェット用液体廃棄処理方法およびインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発者は、上記課題を達成するために、まず、印字用液体同士を混合した際に、凝集・増粘が起こる反応メカニズムについて鋭意検討した。
このような反応メカニズムの代表的なものとしては、印字用液体同士を混合した場合に、一方の印字用液体に含まれるアニオン性化合物を、他方の印字用液体に含まれる凝集剤(例えば、2価以上の金属イオン)と反応させて凝集・増粘を引き起こす場合や、互いに異なるpHを持つ印字用液体同士を混合した際のpH変化を利用して凝集・増粘を引き起こす場合が挙げられる。
【0010】
ここで、本発明者らは、後者の反応においては、印字用液体同士が混合された際に、双方の構成成分が反応することにより凝集・増粘するためには、適度なpH領域が存在することに着目した。
従って、本発明者は、印字用液体同士を混合した場合に、凝集や増粘を招く反応を抑制するpH領域に保つことができれば、混合廃液の凝集・増粘を防止できると考えた。本発明者は以上のような知見に基づいて以下の本発明を見出した。すなわち、本発明は、
【0011】
<1>
アニオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以上である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが6.5以下である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、
前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物を含むことを特徴とするインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0012】
<2>
前記第1の印字用液体が、カルボキシル基を有する化合物を含むことを特徴とする<1>に記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0013】
<3>
前記カルボキシル基を有する化合物が、カルボキシル基を有する高分子分散剤、および/または、カルボキシル基を有する自己分散性顔料からなるアニオン性色材であることを特徴とする<2>に記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0014】
<4>
前記第2の印字用液体が、20℃におけるpKaが6.0以下の化合物を含むことを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0015】
<5>
カチオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以下である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが8.5以上である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、
前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが6.0以下の化合物を含むことを特徴とするインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0016】
<6>
前記第2の印字用液体が、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物を含むことを特徴とする<5>に記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0017】
<7>
前記第1の印字用液体および前記第2の印字用液体のみを質量比で1:1の割合で混合した混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数が100,000個/μLを超え、かつ、平均粒子径5μm以上の粒子数が1,000個/μLを超えることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1つに記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0018】
<8>
前記凝集・増粘防止剤と前記第1の印字用液体と前記第2の印字用液体とを質量比で0.2:1:1の割合で混合した混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数が100,000個/μL以下であり、かつ、平均粒子径5μm以上の粒子数が1,000個/μL以下であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1つに記載のインクジェット用液体廃棄処理方法である。
【0019】
<9>
印字用液体として、1種以上の第1の印字用液体と、1種以上の第2の印字用液体とを用い、
1種類以上の液体を吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、非印字時に前記記録ヘッドから排出される前記印字用液体を回収し、これを貯蔵する廃液貯蔵部を有する廃液処理手段と、を少なくとも備え、
非印字時に前記記録ヘッドから排出された、前記第1の印字用液体の少なくとも1種および前記第2の印字用液体の少なくとも1種を含む混合廃液が、凝集・増粘防止剤を含んだ状態で前記廃液貯蔵部に貯蔵されるインクジェット記録装置において、
前記廃液処理手段が、<1>〜<8>のいずれか1つに記載のインクジェット用液体廃棄処理方法を利用して、前記印字用液体を廃棄処理することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0020】
<10>
前記凝集・増粘防止剤が、前記混合廃液と混合可能な状態で、前記廃液貯蔵部に予め収納されていることを特徴とする<9>に記載のインクジェット記録装置である。
【0021】
<11>
前記廃液貯蔵部が、前記凝集・増粘防止剤を含浸させた液体吸収体を含むことを特徴とする<9>または<10>に記載のインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0022】
以上に説明したように本発明によれば、混合した際に凝集・増粘する性質を持つ2種類の印字用液体からなるインクセットを用い、滲み等の少ない高画質の画像が形成できるインクジェット記録において、メンテナンス時に発生する混合廃液の凝集・増粘を抑制でき、混合廃液の凝集・増粘によるメンテナンス部の種々のトラブルを抑制することができるインクジェット用液体廃棄処理方法およびインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法は、インクジェット記録に際してセットで利用する印字用液体の組み合わせに応じて、以下の2つの方法のいずれかを利用することができる。
すなわち、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法(第1の発明)は、アニオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以上である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが6.5以下である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物を含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法(第2の発明)は、カチオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以下である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが8.5以上である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが6.0以下の化合物を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法に用いられる第1の印字用液体(色材を含むインク)と第2の印字用液体(色材を含むインクあるいは色材を含まない処理液)とは、両者のみを混合した場合に、凝集・増粘する性質を有するものであり、インクジェット記録に際してはセットで利用される。このような2種類の印字用液体を用いてインクジェット記録を行った場合には、互いに紙上で接触した際に構成成分が速やかに凝集するために滲みを防止し、高画質な画像を得ることができる。
【0026】
一方、第1の印字用液体と第2の印字用液体とを混合して廃棄処理しようとした場合には、凝集・増粘するために、インクジェット記録装置内の廃液貯蔵部等の廃液処理系(メンテナンス部)で、上述したような詰まりや、廃液の廃棄貯蔵量が設計値よりも小さくなるなどの問題が発生する。
【0027】
しかし、本発明においては、第1の印字用液体と第2の印字用液体とを含む混合廃液が、凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるため、混合廃液の凝集や増粘を抑制することができる。このような混合廃液の凝集・増粘の抑制は、混合廃液に凝集・増粘防止剤が含まれることにより、凝集・増粘を引き起こす成分同士の反応を抑制するpH領域に混合廃液のpHが保たれるためである。
このため、印字用液体同士の凝集を利用した滲み等の少ない高画質のインクジェット記録を行う場合において、従来、発生が避けられなかった詰まり等の廃液処理に関する問題は、本発明のインクジェット廃液処理方法を利用することにより容易に解決することができる。
【0028】
一方、インクジェット記録においては、異なる材料(色材のアニオン性/カチオン性等)や物性(インクや処理液等の印字用液体のpH等)からなる種々の印字用液体を2種類以上組み合わせて用いるのが一般的である。
しかし、本発明においては、セットで使用する印字用液体の組み合わせに応じて、第1の本発明あるいは第2の本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を利用することができるため、通常、インクジェット記録においてセットで利用される種々の印字用液体の組み合わせに幅広く対応することが可能である。
【0029】
また、インクジェット記録時にセットで用いられる第1の印字用液体および第2の印字用液体は、記録ヘッドのノズルから紙上に付与された際に印字用液体間の滲みを防止して高い画質を得るために、両者を混合した際の凝集能力が高ければ高い程好ましい。
このような凝集能力は両者を混合した混合液中に発生する粒子数の数として定量的に把握でき、例えば、個数カウント式粒度分布測定器(Accusizer TM770 Optical Particle Sizer、Particle Sizing Systems社製)を利用して測定することにより定量的に評価できる。
【0030】
従って、本発明に用いられる第1の印字用液体および第2の印字用液体のみを質量比で1:1の割合で混合した場合に、この混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数は100,000個/μLを超え、かつ、平均粒子径5μm以上の粒子数が1000個/μLを超えることが好ましい。
【0031】
このような条件を満たさない第1の印字用液体および第2の印字用液体を用いてインクジェット記録を行った場合、滲みが発生し高画質の画像が得られなくなる場合がある。また、これら2種類の印字用液体は、混合廃液の凝集・増粘の原因となる凝集能力も低いために、これらの印字用液体を廃棄処理するために本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を適用するメリットも小さくなる。
【0032】
なお、この混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数は、500,000個/μL以上であることがより好ましく、1,000,000個/μL以上であることが更に好ましく、また、平均粒子径5μm以上の粒子数は5,000個/μL以上であることがより好ましく、10,000個/μL以上であることが更に好ましい。
【0033】
一方、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を利用して処理された混合廃液は凝集や増粘が抑制・防止されるが、これは、第1の印字用液体と第2の印字用液体との混合により本来発揮されるべき凝集能力が、混合廃液中に含まれる凝集・増粘防止剤の働きによって抑制されるためである。従って、このような凝集・増粘防止効果は、混合廃液中に発生した粒子数の数を、上述した場合と同様に定量的に評価することができる。
【0034】
この場合、凝集・増粘防止剤と第1の印字用液体と第2の印字用液体とを質量比で0.2:1:1の割合で混合した場合に、この混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数は100,000個/μL以下であり、かつ、平均粒子径5μm以上の粒子数は1000個/μL以下であることが好ましい。
【0035】
このような条件を満たさない場合には、実際に廃棄処理される混合廃液の凝集や増粘が顕著となり、廃液処理系の目詰まり等のトラブルが発生してしまう場合がある。なお、本発明においては、インクジェット記録時にセットで使用する第1の印字用液体および第2の印字用液体のpHや組成に応じて、使用する凝集・増粘防止剤の種類を適宜選択することにより容易に上記条件を満たすことができる。
【0036】
なお、廃液処理系のトラブルをより確実に防止するためには、この混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数は、50,000個/μL以下であることがより好ましく、10,000個/μL以下であることが更に好ましく、また、平均粒子径5μm以上の粒子数は500個/μL以下であることがより好ましく、100個/μL以下であることが更に好ましい。
【0037】
このような本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法は、上記の第1の印字用液体および第2の印字用液体を組み合わせて用いるインクジェット記録装置に適用することが特に好ましい。
この場合、混合廃液の凝集・増粘によるメンテナンス部の種々のトラブルを抑制することができる。
なお、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法をインクジェット記録装置に適用する場合には、以下のような構成を有するインクジェト装置を利用することが好ましい。
【0038】
すなわち、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を適用するのに好ましいインクジェット記録装置としては、印字用液体として、1種以上の第1の印字用液体と、1種以上の第2の印字用液体とを用い、1種類以上の液体を吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、非印字時に前記記録ヘッドから排出される前記印字用液体を回収し、これを貯蔵する廃液貯蔵部を有する廃液処理手段と、を少なくとも備え、非印字時に前記記録ヘッドから排出された、前記第1の印字用液体の少なくとも1種と、前記第2の印字用液体の少なくとも1種とが、混合した状態の混合廃液として前記廃液貯蔵部に貯蔵することができる構成を有するものであることが好ましい。
この場合、廃液処理手段は、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を利用して、印字用液体を廃棄処理することができる。
【0039】
このインクジェット記録装置においては、混合廃液が、凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃液貯蔵部に貯蔵される。但し、廃液貯蔵部に貯蔵された混合廃液に含まれる凝集・増粘防止剤は、第1の印字用液体および第2の印字用液体が、メンテナンス等の非印字時に記録ヘッドから排出された後から、両液が混合され最終的に廃液貯蔵部に貯蔵される状態までのいずれかの時点で添加することができる。
なお、このような凝集・増粘防止剤の添加方法の詳細については、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法を適用したインクジェット記録装置の具体的な構成も含めて後述する。
【0040】
上記のようなインクジェット記録装置では、非印字時に記録ヘッドから排出される第1の印字用液体および第2の印字用液体を混合して廃棄処理しても、印字用液体を廃棄処理する装置内各部での詰まり等の発生を防ぐことができる。また、印字用液体の廃棄処理に関係する部材や装置を、従来のように、凝集や増粘が発生する印字用液体間で分離して設ける必要が無いため、これら部材や装置の構成を簡略化・小型化でき、低コストで作製することもできる。
【0041】
なお、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法は、上記に説明したようなインクジェット記録装置に適用することが特に好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、使用期限が切れて小売店から回収されり、未使用のまま廃棄されたり、劣悪な環境に放置されて使用できなくなったようなインクカートリッジや、補充用インクボトル内の印字用液体を一括して廃棄処理する場合等、インクジェット装置外の印字用液体を廃棄処理する場合にも必要に応じて勿論適用することができる。
【0042】
<<印字用液体および凝集・増粘防止剤>>
次に、本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法に用いられる印字用液体および凝集・増粘防止剤について第1の発明と第2の発明とに分けて以下により詳細に説明する。
【0043】
<第1の発明>
第1の本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法に用いられる第1の印字用液体は、アニオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以上であり、且つ、20℃における第2の印字用液体は、pHが6.5以下であることが必要である。
双方の印字用液体が上述したような条件を満たさない場合には、インクジェット記録に際して印字用液体同士の滲みが防止できず、高画質の画像を得ることができなくなる。
【0044】
なお、滲み防止の観点からは、第1の印字用液体の20℃におけるpHは7.0以上であることが必要であるが、8.0以上であることが好ましい。また、pHの上限値は特に限定されないが、実用上は12.0以下であることが好ましい。同様の観点から、第2の印字用液体の20℃におけるpHは6.5以下であることが必要であるが、5.5以下であることが好ましい。また、pHの下限値は特に限定されないが、実用上は2.5以上であることが好ましい。
【0045】
一方、滲み防止の観点からは、第1の印字用液体および第2の印字用液体のpHのバランスも重要であり、両者を質量比で1:1で混合した場合の混合液の20℃におけるpHが7.0未満、より好ましくは5.5以下となるように、第1の印字用液体および第2の印字用液体のpHを選択することが好ましい。このような条件が満たされない場合には、インクジェット記録に際して印字用液体同士の滲みが防止できず、高画質の画像を得ることができなくなる場合がある。
【0046】
−第1の印字用液体−
次に、第1の印字用液体の構成成分について説明する。第1の印字用液体は、少なくともアニオン性色材を含むものであれば特に限定されないが、通常は、この他に水溶性溶媒および水が少なくとも含まれる。
また、必要に応じて、公知のインクに添加される成分;すなわち、分散剤や、界面活性剤、その他の各種添加剤を添加することもできる。なお、このような添加成分の中でもアニオン性色材の分散性を向上させるために、カルボキシル基を有する化合物(例えば、高分子分散剤等)が添加されていることが好ましい。また、このカルボキシル基を有する化合物が、カルボキシル基を有する自己分散性顔料からなるアニオン性色材であってもよい。
なお、これらの構成成分は、第1の印字用液体のpHが上述した範囲内に収まるように、その材料種や配合割合が選択される。
以下に、第1の本発明に用いられる第1の印字用液体を構成する各成分についてより詳細に説明する。
【0047】
アニオン性色材としては、pH7.0以上の溶液中で安定して分散できるものであれば公知のアニオン性色材を用いることができる。アニオン性色材とは、液体中で色材分子が対イオンと色材分子本体とのイオンに解離した際、色材分子本体が陰イオンとなる色材のことである。色材が顔料からなり、分散剤によって分散されている場合は、顔料の分散に寄与している分散剤が対イオンと分散剤分子本体のイオンとに解離した際に、分散剤分子本体が陰イオンとなる。また、色材が染料または自己分散性顔料からなる場合は、染料または自己分散顔料が対イオンと染料分子本体または自己分散顔料分子本体のイオンとに解離した際に、染料分子本体または自己分散顔料本体が陰イオンとなる。
このような色材が顔料である場合には、以下に列挙するような材料を例示することができる。
【0048】
黒色顔料の具体例としては、Raven 7000,Raven 5750,Raven 5250,Raven 5000 ULTRAII,Raven 3500,Raven 2000,Raven 1500,Raven 1250,Raven 1200,Raven 1190 ULTRAII,Raven 1170,Raven 1255,Raven 1080,Raven 1060(以上コロンビアン・カーボン社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6 ,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black 4(以上デグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.47,No.52,No.900,No.2300,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
シアン色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Blue −1,−2,−3,−15,−15:1,−15:2,−15:3,−15:4,−16,−22,−60等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
マゼンタ色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Red −5,−7,−12,−48,−48:1,−57,−112,−122,−123,−146,−168,−184,−202等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
黄色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Yellow −1,−2,−3,−12,−13,−14,−16,−17,−73,−74,−75,−83,−93,−95,−97,−98,−114,−128,−129,−138,−151,−154,−180等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
顔料の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、特に、2質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。顔料の含有量が0.5質量%未満となると、光学濃度が低くなる場合がある。また、20質量%を超えると、画像定着性が悪化する場合がある。
【0051】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。なお、「自己分散性顔料」とは、広義には、顔料が高分子分散剤と併用されなくともそれ自身で溶媒中に分散可能な顔料を意味し、このような自己分散可能な顔料は、表面に親水性官能基(ノニオン性、アニオン性、カチオン性のいずれの親水性官能基)を有するものを意味する。このような自己分散性顔料は、通常のいわゆる顔料に対して、酸・塩基処理、カップリング剤処理、ポリマーグラフト処理、プラズマ処理、酸化/還元処理等の表面改質処理等を施すことにより得ることができる。
また、水に自己分散可能な顔料としては、上記顔料に対して表面改質処理を施した顔料の他、キャボット社製のCab−o−jet−200、Cab−o−jet−250、Cab−o−jet−260、Cab−o−jet−270、Cab−o−jet−300、IJX−444、IJX−56、オリエント化学社製のMicrojet Black CW−1、CW−2、CW−3等の市販の自己分散顔料等も使用できる。
顔料として水に自己分散可能な顔料を使用する場合には、液体中に高分子物質を含有することもできる。
更に、色材として樹脂により被覆された顔料等を使用することもできる。これは、マイクロカプセル顔料と呼ばれ、市販品としては、大日本インキ化学工業社製、東洋インキ社製などからマイクロカプセル顔料として入手可能であるが、これに限定されず、本発明のために試作されたマイクロカプセル顔料等をも使用することもできる。
【0052】
ここで、第1の印字用液体に用いられる顔料が自己分散性顔料である場合には、表面にカルボキシル基を有していることが好ましい。
顔料が自己分散性顔料である場合の第1の印字用液体中の含有量は、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは2〜10質量%の範囲である。顔料の含有量が多くなるとノズル先端で目詰まりし易く、また画像の耐擦過性も悪化する場合がある。一方、0.5質量%以下では有効な光学濃度を得ることが困難となる場合がある。
【0053】
また、アニオン性色材が染料系色材である場合には、以下に列挙するような材料を例示することができる。
水溶性染料の具体例としては、C.I.Direct Black −2,−4,−9,−11,−17,−19,−22,−32,−80,−151,−154,−168,−171,−194,−195、C.I.Direct Blue −1,−2,−6,−8,−22,−34,−70,−71,−76,−78,−86,−112,−142,−165,−199,−200,−201,−202,−203,−207,−218,−236,−287,−307,C.I.Direct Red −1,−2,−4,−8,−9,−11,−13,−15,−20,−28,−31,−33,−37,−39,−51,−59,−62,−63,−73,−75,−80,−81,−83,−87,−90,−94,−95,−99,−101,−110,−189,−227、C.I.Direct Yellow −1,−2,−4,−8,−11,−12,−26,−27,−28,−33,−34,−41,−44,−48,−58,−86,−87,−88,−132,−135,−142,−144,−173、C.I.Food Black −1,−2、C.I.Acid Black −1,−2,−7,−16,−24,−26,−28,−31,−48,−52,−63,−107,−112,−118,−119,−121,−156,−172,−194,−208、C.I.Acid Blue −1,−7,−9,−15,−22,−23,−27,−29,−40,−43,−55,−59,−62,−78,−80,−81,−83,−90,−102,−104,−111,−185,−249,−254、C.I.Acid Red −1,−4,−8,−13,−14,−15,−18,−21,−26,−35,−37,−52,−110,−144,−180,−249,−257,−289、C.I.Acid Yellow −1,−3,−4,−7,−11,−12,−13,−14,−18,−19,−23,−25,−34,−38,−41,−42,−44,−53,−55,−61,−71,−76,−78,−79,−122などが挙げられる。
【0054】
また、分散染料の具体例としては、C.I.Disperse Yellow −3、‐5、‐7、‐8、‐42、‐54、‐64、‐79、‐82、‐83、‐93、‐100、‐119、‐122、‐126、‐160、‐184:1、‐186、‐198、‐204、‐224、C.I.Disperse Orange ‐13、‐29、‐31:1、‐33、‐49、‐54、‐66、‐73、‐119、‐163、C.I.Disperse Red ‐1、‐4、‐11、‐17、‐19、‐54、‐60、‐72、‐73、‐86、‐92、‐93、‐126、‐127、‐135、‐145、‐154、‐164、‐167:1、‐177、‐181、‐207、‐239、‐240、‐258、‐278、‐283、‐311、‐343、‐348、‐356、‐362、C.I.Disperse Violet‐ 33、C.I.Disperse Blue ‐14、‐26、‐56、‐60、‐73、‐87、‐128、‐143、‐154、‐165、‐165:1、‐176、‐183、‐185、‐201、‐214、‐224、‐257、‐287、‐354、‐365、‐368、C.I.Disperse Green ‐6:1、‐9などが挙げられる。
【0055】
染料の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上8質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上6質量%以下である。染料の含有量が10質量%を超えると、プリントヘッド先端での目詰まりが発生しやすく、また、0.1質量%未満では、十分な画像濃度を得ることができない場合がある。
【0056】
水溶性溶媒は、インクや処理液の保湿性及びインク中の色材の溶解性をさらに向上させ、目詰まりを防止したり、記録ヘッドから印字用液体を吐出する際の吐出安定性を維持したり、さらに、印字用液体の長期の保存に対しても色材、処理液に含まれる処理剤の凝集・析出を防いだりすること等を目的として適量使用することができる。
【0057】
このような水溶性溶媒としては、具体的には多価アルコール類や、含窒素溶媒、含硫黄溶媒等が利用でき、以下にその具体例を例示する。
多価アルコール類では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等が挙げられる。
【0058】
グリコールエーテルでは、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリンのエチレンオキサイド付加物等など多価アルコール誘導体が挙げられる。
【0059】
含窒素溶媒としては、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
含硫黄溶媒としてはチオジエタノール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その他、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を併せて用いることも出来る。エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類も使用することができる。水溶性溶媒の含有量としては、1〜60質量質量部、好ましくは、5〜40質量質量部で使用される。
【0060】
分散剤は、色材が自己分散性または水溶性を有さない場合に特に好適に用いられ、具体的には高分子分散剤や、後述する各種の界面活性剤等が利用できる。
高分子分散剤としては、親水性構造部と疎水性構造部を有する重合体であれば有効に使用することができる。親水性構造部と疎水性構造部とを有する重合体の例としては、縮合系重合体と付加重合体が挙げられる。縮合系重合体の例としては、公知のポリエステル系分散剤が挙げられる。付加重合体の例としては、α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの付加重合体が挙げられる。親水基を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーと、疎水基を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーを適宜組み合わせて共重合することにより、目的の高分子分散剤を得ることができる。また、親水基を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独重合体を用いることもできる。
【0061】
親水基を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基等を有するモノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン、酢酸ビニル(ポリビニルアルコールの原料)、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート、ビスメタクリロキシエチルホスフェート、メタクリロオキシエチルフェニルアシドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
一方、疎水基を有するα,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステルが挙げられる。
【0062】
これらのモノマーから得られる好ましい共重合体の例としては、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−メタクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸シクロヘキシルエステル−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。
また、これらの共重合体は、更に、ポリオキシエチレン基、水酸基を有するモノマーを、適宜、共重合成分として含むこともできる。
【0063】
これらの共重合体は、ランダム、ブロック、及びグラフト共重合体等のいずれの構造のものでもよい。また、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアルギン酸、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマー、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミン類、ポリアミド類、ポリビニルイミダゾリン、アミノアルキルアクリレートDアクリルアミド共重合体、キトサン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、多糖類とその誘導体等も使用することができる。
【0064】
なお、分散剤に含まれる親水基は、少なくとも1つカルボキシル基を有することが好ましい。
分散剤の中和量としては、共重合体の酸価に対して50%以上、特に80%以上中和されていることが好ましい。分散剤の分子量は、重量平均分子量(Mw)で、2000以上15000以下、特に3500以上10000以下のものが好ましい。また、疎水性部分と親水性部分の構造及び組成率は、顔料及び溶媒との組み合わせの中から好ましいものを用いることができる。
【0065】
これら分散剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
分散剤の添加量は、特に限定されないが、アニオン性顔料に対して、一般的には0.1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上70質量%以下であり、更に好ましくは3以上50質量%以下である。
【0066】
界面活性剤としては、その分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等を使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等のいずれを使用しても構わないが、印字用液体の保存安定性の点からアニオン性界面活性剤、両面界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0067】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩およびスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、高級アルキルリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩等が使用でき、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ケリルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等も有効に使用される。
【0068】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、脂肪族アルカノールアミド、グリセリンエステル、ソルビタンエステル等が挙げられる。
【0069】
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
【0070】
その他、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤、スピクリスポール酸やラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタント等も使用できる。
【0071】
界面活性剤の添加量は、10質量部未満であることが好ましい。添加量が10質量部以上の場合には、光学濃度、及び、印字用液体の保存安定性が悪化する場合がある。
【0072】
さらに、その他、第1の印字用液体の吐出性改善等の特性制御を目的として、ポリエチレンイミン、ポリアミン類、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、多糖類及びその誘導体、その他水溶性ポリマー、アクリル系ポリマーエマルション、ポリウレタン系エマルション等のポリマーエマルション、シクロデキストリン、大環状アミン類、デンドリマー、クラウンエーテル類、尿素及びその誘導体、アセトアミド等を用いることができる。
【0073】
また、第1の印字用液体のpHを調整するため、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属類の化合物、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の含窒素化合物をpH調整剤として使用することが出来る。
その他、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤も、必要に応じて第1の印字用液体に添加することができる。
【0074】
−第2の印字用液体−
次に、第2の印字用液体の構成成分について説明する。第2の印字用液体は、既述したように20℃におけるpHが6.5以下であれば特に限定されないが、色材を含む場合(すなわちインクである場合)には、色材の他に、水溶性溶媒および水を少なくとも含むものであることが好ましく、また、色材を含まない場合(すなわち処理液である場合)には、水溶性溶媒、および、水を少なくとも含むものであることが好ましい。
【0075】
また、これらの成分に加えて、必要に応じて、公知のインクに添加される成分;すなわち、分散剤や、界面活性剤、その他の各種添加剤を添加することもできる。さらに、第2の印字用液体には、20℃におけるpKaが6.0以下の化合物が配合されていることが好ましい。
なお、これらの構成成分は、第2の印字用液体のpHが上述した範囲内に収まるように、その材料種や配合割合が選択される。
以下に、第1の本発明に用いられる第2の印字用液体を構成する各成分についてより詳細に説明する。
【0076】
第2の印字用液体に用いられる色材としては、pHが6.5以下の溶液中で安定して分散できるものであれば、公知の色材を用いることができる。また、また、第2の印字用液体に用いられる色材が顔料である場合には自己分散性顔料であってもよい。これら色材の第2の印字用液体中の好ましい含有量は、上述した第1の印字用液体の場合と同様である。
【0077】
なお、第2の印字用液体に用いられる色材が顔料である場合には、黒色顔料の具体例としては、Raven 7000,Raven 5750,Raven 5250,Raven 5000 ULTRA II,Raven 3500,Raven 2000,Raven 1500,Raven 1250,Raven 1200,Raven 1190 ULTRA II,Raven 1170,Raven 1255,Raven 1080,Raven 1060(以上コロンビアン・カーボン社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6 ,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black 4(以上デグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.47,No.52,No.900,No.2300,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
シアン色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Blue −1,−2,−3,−15,−15:1,−15:2,−15:3,−15:4,−16,−22,−60等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
マゼンタ色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Red −5,−7,−12,−48,−48:1,−57,−112,−122,−123,−146,−168,−184,−202等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
黄色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Yellow −1,−2,−3,−12,−13,−14,−16,−17,−73,−74,−75,−83,−93,−95,−97,−98,−114,−128,−129,−138,−151,−154,−180等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、顔料が自己分散性顔料である場合には、表面にカチオン性基が第4級アンモニウム或いは第3級アミンの塩を有していることが好ましい。
【0079】
また、第2の印字用液体に用いられる色材が染料である場合には、C.I.Direct Black −2,−4,−9,−11,−17,−19,−22,−32,−35,−80,−151,−168、C.I.Direct Blue −1,−2,−6,−8,−36,−64,−71,−78,−86,−177,C.I.Direct Red −2,−4,−8,−9,−13,−15,−16,−17−20,−28,−31,−37,−39,−51,−62,−73,−74−75,−80,−81,−83,−90,−101,−110,−189、C.I.Direct Yellow −4,−12,−13,−27,−28,−34,−50,−51,−86,、C.I.Food Black −1,−2、C.I.Acid Black −1,−2,−7,−16,−24,−26,−28,−31,−48,−52,−63,−107,−112,−118,−119,−121,−156,−172,−194,−208、C.I.Acid Blue −1,−7,−9,−15,−22,−23,−27,−29,−40,−43,−55,−59,−62,−78,−80,−81,−83,−90,−102,−104,−111,−185,−249,−254、C.I.Acid Red −1,−4,−8,−13,−14,−15,−18,−21,−26,−35,−37,−52,−110,−144,−180,−249,−257,−289、C.I.Acid Yellow −1,−3,−4,−7,−11,−12,−13,−14,−18,−19,−23,−25,−34,−38,−41,−42,−44,−53,−55,−61,−71,−76,−78,−79,−122などが挙げられる。
【0080】
分散染料の具体例としては、C.I.Disperse Yellow −3、‐5、‐7、‐8、‐42、‐54、‐64、‐79、‐82、‐83、‐93、‐100、‐119、‐122、‐126、‐160、‐184:1、‐186、‐198、‐204、‐224、C.I.Disperse Orange ‐13、‐29、‐31:1、‐33、‐49、‐54、‐66、‐73、‐119、‐163、C.I.Disperse Red ‐1、‐4、‐11、‐17、‐19、‐54、‐60、‐72、‐73、‐86、‐92、‐93、‐126、‐127、‐135、‐145、‐154、‐164、‐167:1、‐177、‐181、‐207、‐239、‐240、‐258、‐278、‐283、‐311、‐343、‐348、‐356、‐362、C.I.Disperse Violet ‐33、C.I.Disperse Blue ‐14、‐26、‐56、‐60、‐73、‐87、‐128、‐143、‐154、‐165、‐165:1、‐176、‐183、‐185、‐201、‐214、‐224、‐257、‐287、‐354、‐365、‐368、C.I.Disperse Green ‐6:1、‐9などが挙げられる。
【0081】
第2の印字用液体に用いられる分散剤としては、3級アミンモノマー、及びこれらを4級化したものと疎水性モノマーとの共重合物等が用いられる。3級アミンモノマーとしては、例えばN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド等が用いられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン等が用いられる。また、3級アミンの場合において、塩を形成するための化合物としては、硫酸、酢酸、硝酸等が用いられる。また、塩化メチル、ジメチル硫酸等で4級化したものも用いることができる。
水溶性溶媒、界面活性剤やその他の添加剤についても、基本的には第1の印字用液体と同様のものを同程度の含有量で用いることができる。
但し、第2の印字用液体のpHに大きく影響を及ぼす材料については、pHが第2の印字用液体よりも高い第1の印字用液体で用いる材料よりも酸性度の高い材料を適宜用いたり、使用量を減らすことができる。
【0082】
また、第1の印字用液体と第2の印字用液体とが紙上で接触した際の凝集を促進するために、第2の印字用液体には、20℃におけるpKaが6.0以下、より好ましくは5.0以下の化合物(以下、「低pKa化合物」と略す場合がある)が配合されていることが好ましい。
低pKa化合物の20℃におけるpKaが6.0を超える場合には、形成された画像に滲みが発生し、画質が低下してしまう場合がある。なお、低pKa化合物の20℃におけるpKaは小さい方が好ましいが、実用上は2.0以上であることが好ましい。
【0083】
このような低pKa化合物としては、例えば、安息香酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、2−フランカルボン酸などを挙げることができる。また、その含有量は0.01〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜3.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0084】
なお、本発明において、20℃におけるpKa値は、酸−塩基滴定曲線より求めた。即ち、添加量が判明している有機酸溶液、水酸化ナトリウム溶液を作製し、有機酸溶液中に水酸化ナトリウム溶液を添加する。この際、添加した水酸化ナトリウム量と、その際の有機酸溶液のpHを測定する。このようにして得られた実測値と理論曲線から得られる理論値との最適化を行い、酸解離定数を求めた。最適化の詳細な方法は、Journal of Chemical Software,Vol.7,No4 P191−196(2001)に記載されている方法を用いた。
なお、理論曲線は、例えば、3価の酸を用いた場合には下式(1)により表される。
【0085】
【数1】

【0086】
上記式(1)中、VAは酸水溶液量、VBは、アルカリ水溶液の滴定量、CAは酸水溶液の濃度、CBはアルカリ水溶液の濃度、K1、K2、及び、K3はそれぞれ第1段、第2段、第3段の酸解離定数、[H+]は水溶液中の水素イオン濃度、[OH-]は水溶液中の水酸化物イオン濃度を示す。
更に、本発明において、複数の酸性基を有する化合物においては、これら複数の酸性基各々のpKaの中で値が最も小さい値を用いることとした。
【0087】
−凝集・増粘防止剤−
第1の本発明に用いられる凝集・増粘防止剤には、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物が必ず用いられ、この化合物は不揮発性の水溶性化合物(以下、「不揮発性高pKa化合物」と略す場合がある)であることが必要である。
不揮発性高pKa化合物の20℃におけるpKaが8.0未満の場合には、混合廃液の凝集や増粘を抑制することができない。なお、不揮発性高pKa化合物の20℃におけるpKaは8.5以上であることが好ましく、また、上限は特に限定されるものではないが、実用上は12.0以下であることが好ましい。
【0088】
なお、廃液処理により、混合廃液中に一旦添加された不揮発性高pKa化合物は、通常想定される混合廃液の保管環境および保管期間において、混合廃液中から実質的に揮発し、その添加量が大幅に減少するようなものであってはならない。
不揮発性高pKa化合物が、短期間に混合廃液から顕著に揮発するような場合には、混合廃液のpHが徐々に変化し、凝集や増粘が後発的に発生してしまうためである。
従って、不揮発性高pKa化合物は、1気圧での沸点が150℃以上であることが必要である。
【0089】
不揮発性高pKa化合物の具体例としては、例えば、アミノエタンスルホン酸、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸等を挙げることができ、必要に応じてNa塩として用いることもできる。
これらの中でも、特にアミノエタンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸が好ましい。
【0090】
第1の本発明に用いられる凝集・増粘防止剤は、不揮発性高pKa化合物のみから構成されていてもよいが、水溶性溶媒やpH調整剤、水を加えた水溶液(凝集・増粘防止液)として用いることが好ましい。
ここで、水溶性溶媒としては、上述した印字用液体に用いられる水溶性溶媒を用いることができ、その含有量は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。またpH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ化合物を用いることができる。
さらに、凝集・増粘防止液には、必要に応じて界面活性剤を添加することもできる。この場合用いることができる界面活性剤としては、印字用液体に用いることができる界面活性剤と同様のものを用いることができる。また、凝集・増粘防止液には、必要に応じてさらに防腐剤、防かび剤、殺菌剤を添加することができる。
【0091】
凝集・増粘防止液のpHは8.0以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましい。凝集・増粘防止液のpHが8.0未満の場合には、混合廃液のpHが低くなり過ぎるために凝集・増粘を抑制することができなくなる。
また、凝集・増粘防止液と第2の印字用液体とを質量比で0.2:1で混合した場合、この混合液のpHは7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましい。この混合液のpHが7.0未満の場合には混合廃液のpHが低くなり過ぎるために凝集・増粘を抑制することができなくなる。
【0092】
<第2の発明>
第2の本発明のインクジェット用液体廃棄処理方法に用いられる第1の印字用液体は、カチオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以下であり、且つ、第2の印字用液体は、20℃におけるpHが8.5以上であることが必要である。
双方の印字用液体が上述したような条件を満たさない場合には、インクジェット記録に際して印字用液体同士の滲みが防止できず、高画質の画像を得ることができなくなる。
【0093】
なお、滲み防止の観点からは、第1の印字用液体の20℃におけるpHは7.0以下であることが必要であるが、6.0以下であることが好ましい。また、pHの下限値は特に限定されないが、実用上は2.5以上であることが好ましい。同様の観点から、第2の印字用液体の20℃におけるpHは8.5以上であることが必要であるが、9.0以上であることが好ましい。また、pHの上限値は特に限定されないが、実用上は12.0以下であることが好ましい。
【0094】
一方、滲み防止の観点からは、第1の印字用液体および第2の印字用液体のpHのバランスも重要であり、両者を質量比で1:1で混合した場合の混合液の20℃におけるpHが7.0を超え、より好ましくは8.0以上となるように、第1の印字用液体および第2の印字用液体のpHを選択することが好ましい。このような条件が満たされない場合には、インクジェット記録に際して印字用液体同士の滲みが防止できず、高画質の画像を得ることができなくなる場合がある。
【0095】
−第1の印字用液体−
次に、第1の印字用液体の構成成分について説明する。第1の印字用液体は、少なくともカチオン性色材を含むものであれば特に限定されないが、通常は、この他に水溶性溶媒および水が少なくとも含まれる。
また、必要に応じて、公知のインクに添加される成分;すなわち、分散剤や、界面活性剤、その他の各種添加剤を添加することもできる。なお、カチオン性色材の分散性を向上させるために、自己分散性顔料からなるカチオン性色材を用いてもよい。
なお、これらの構成成分は、第1の印字用液体の20℃におけるpHが上述した範囲内に収まるように、その材料種や配合割合が選択される。
以下に、第2の本発明に用いられる第1の印字用液体を構成する各成分についてより詳細に説明する。
【0096】
カチオン性色材としては、pH7.0以下の溶液中で安定して分散できるものであれば公知のカチオン性の色材を用いることができる。
カチオン性色材とは、液体中で色材分子が対イオンと色材分子本体のイオンとに解離した際、色材分子本体が陽イオンとなる色材のことである。色材が顔料で分散剤によって分散されている場合は、顔料の分散に寄与している分散剤が対イオンと分散剤分子本体のイオンとに解離した際に、分散剤分子本体が陽イオンとなる。また、色材が染料または自己分散性顔料の場合は、染料または自己分散顔料が対イオンと染料分子本体または自己分散顔料分子本体のイオンとに解離した際に、染料分子本体または自己分散顔料本体が陽イオンとなる。
このような色材が顔料系色材である場合には、第1の発明の第1の印字用液体に用いられる顔料と同様のもの(但し、自己分散性顔料を除く)が利用できる(なお、この場合のカチオン性/アニオン性は併用する分散剤によって決定される)。
【0097】
カチオン性顔料の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、特に、2質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。顔料の含有量が0.5質量%未満となると、光学濃度が低くなる場合がある。また、20質量%を超えると、画像定着性が悪化する場合がある。
【0098】
また、カチオン性色材は、自己分散性顔料であってもよく、その場合には、表面にカチオン性の基として第4級アンモニウム或いは第3級アミンの塩を有していることが好ましい。カチオン性色材が自己分散性顔料である場合の第1の印字用液体中の含有量は、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは2〜10質量%の範囲である。顔料の含有量が多くなるとノズル先端で目詰まりし易く、また画像の耐擦過性も悪化する場合がある。一方、0.5質量%以下では有効な光学濃度を得ることが困難となる場合がある。
【0099】
また、カチオン性色材が染料系色材(カチオン性染料)である場合には、例えば、C.I.ベーシックブラック −1,−2,−3,−5,−7,−8,−10,−11、C.I.ベーシックブルー −1,−3,−5,−9,−19,−24,−25,−26,−28、C.I.ベーシックレッド −1,−2,−9,−12,−13,−38,−39,−92、C.I.ベーシックイエロー −1,−11,−13,−19,−25,−33,−36等を挙げることができる。
【0100】
カチオン性染料の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上8質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上6質量%以下である。染料の含有量が10質量%を超えると、プリントヘッド先端での目詰まりが発生しやすく、また、0.1質量%未満では、十分な画像濃度を得ることができない場合がある。
【0101】
分散剤としては、3級アミンモノマー、及びこれらを4級化したものと疎水性モノマーとの共重合物等が用いられる。3級アミンモノマーとしては、例えばN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド等が用いられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン等が用いられる。また、3級アミンの場合において、塩を形成するための化合物としては、硫酸、酢酸、硝酸等が用いられる。また、塩化メチル、ジメチル硫酸等で4級化したものも用いることができる。
水溶性溶媒、界面活性剤やその他の添加剤についても、基本的には第1の本発明に用いられる第1の印字用液体と同様のものをpHが7.0以下となるような範囲で適量を利用することができる。
【0102】
−第2の印字用液体−
次に、第2の印字用液体の構成成分について説明する。第2の印字用液体は、20℃におけるpHが8.5以上であれば特に限定されないが、色材を含む場合(すなわちインクである場合)には、色材の他に、水溶性溶媒および水を少なくとも含むものであることが好ましく、また、色材を含まない場合(すなわち処理液である場合)には、水溶性溶媒、および、水を少なくとも含むものであることが好ましい。
【0103】
また、これらの成分に加えて、必要に応じて、公知のインクに添加される成分;すなわち、分散剤や、界面活性剤、その他の各種添加剤を添加することもできる。さらに、第2の印字用液体には、pKaが8.0以上の化合物が配合されていることが好ましい。
なお、これらの構成成分は、第2の印字用液体の20℃におけるpHが上述した範囲内に収まるように、その材料種や配合割合が選択される。
以下に、第2の本発明に用いられる第2の印字用液体を構成する各成分についてより詳細に説明する。
【0104】
第2の印字用液体に用いられる色材としては、pHが8.5以上の溶液中で安定して分散できるものであれば、公知の色材を用いることができる。また、また、第2の印字用液体に用いられる色材が顔料である場合には自己分散性顔料であってもよい。これら色材の第2の印字用液体中の好ましい含有量は、上述した第1の本発明に用いられる第2の印字用液体の場合と同様である。
【0105】
なお、第2の印字用液体に用いられる色材が顔料である場合には、第2の発明の第1の印字用液体に用いるものと同様のものが利用できる。
また、第2の印字用液体に用いられる色材が染料である場合には、第1の発明の第2の印字用液体に用いるものと同様のものが利用できる。
【0106】
分散剤は、これに含まれる親水基が少なくとも1つカルボキシル基を有することが好ましい。
水溶性溶媒、界面活性剤、凝集剤やその他の添加剤についても、基本的には第1の印字用液体と同様のものを同程度の含有量で用いることができる。
但し、第2の印字用液体のpHに大きく影響を及ぼす材料については、pHが第2の印字用液体よりも高い第1の印字用液体で用いる材料よりも酸性度の高い材料を適宜用いたり、使用量を減らすことができる。
【0107】
また、第1の印字用液体と第2の印字用液体とが紙上で接触した際の凝集を促進するために、第2の印字用液体には、20℃におけるpKaが8.0以上、より好ましくは9.0以上の化合物(以下、「高pKa化合物」と略す場合がある)が配合されていることが好ましい。
高pKa化合物のpKaが8.0未満の場合には、形成された画像に滲みが発生し、画質が低下してしまう場合がある。なお、高pKa化合物のpKaは大きい方が好ましいが、実用上は12.0以下であることが好ましい。
【0108】
このような高pKa化合物としては、アンモニア、アミノエタンスルホン酸、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸などを挙げることができる。また、その含有量は0.01〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜3.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0109】
−凝集・増粘防止剤−
第2の本発明に用いられる凝集・増粘防止剤には、pKaが6.0以下の化合物が必ず用いられ、この化合物は不揮発性の水溶性化合物(以下、「不揮発性低pKa化合物」と略す場合がある)であることが必要である。
不揮発性低pKa化合物のpKaが6.0を超える場合には、混合廃液の凝集や増粘を抑制することができない。なお、不揮発性低pKa化合物のpKaは5.0以下であることが好ましくまた、上限は特に限定されるものではないが、実用上は2.0以上であることが好ましい。
【0110】
なお、混合廃液の後発的な凝集や増粘を防ぐために、第2の本発明に用いられる不揮発性低pKa化合物も、既述した第1の本発明に用いられる不揮発性低pKa化合物と同等の不揮発性を有していることが必要である。
【0111】
不揮発性低pKa化合物の具体例としては、例えば、クエン酸、グリコール酸、酒石酸等を挙げることができる。
【0112】
第2の本発明に用いられる凝集・増粘防止剤は、不揮発性低pKa化合物のみから構成されていてもよいが、水溶性溶媒やpH調整剤、水を加えた水溶液(凝集・増粘防止液)として用いることが好ましい。
ここで、水溶性溶媒としては、上述した印字用液体に用いられる水溶性溶媒を用いることができ、その含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。またpH調整剤としては、塩酸や、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ化合物を用いることができる。
さらに、凝集・増粘防止液には、界面活性剤を添加することもできる。この場合用いることができる界面活性剤としては、印字用液体に用いることができる界面活性剤と同様のものを用いることができる。また、凝集・増粘防止液には、必要に応じてさらに防腐剤、防かび剤、殺菌剤を添加することができる。
【0113】
凝集・増粘防止液の20℃におけるpHは6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。凝集・増粘防止液の20℃におけるpHが6.0を超える場合には、混合廃液のpHが高くなり過ぎるために凝集・増粘を抑制することができなくなる。
また、凝集・増粘防止液と第2の印字用液体とを質量比で0.2:1で混合した場合、この混合液の20℃におけるpHは7.0以下であることが好ましく、6.0以上であることがより好ましい。この混合液の20℃におけるpHが7.0を超える場合には混合廃液のpHが高くなり過ぎるために凝集・増粘を抑制することができなくなる。
【0114】
−インクジェット記録装置−
次に、既述した本発明のインクジェット記録装置のより詳細な構成や動作等について以下に説明する。
本発明のインクジェット記録装置においては、混合廃液が、凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃液貯蔵部に貯蔵されるものであるが、廃液貯蔵部に貯蔵される混合廃液に含まれる凝集・増粘防止剤の混合廃液への添加のタイミングについては、第1の印字用液体と第2の印字用液体とが反応し、凝集・増粘する以前の段階であれば特に限定されるものではない。
この場合、混合廃液として混合される第1の印字用液体および第2の印字用液体が、非印字時に記録ヘッドから排出された後から、両液が混合され最終的に廃液貯蔵部に貯蔵されるまでの少なくともいずれかの時点で、第1の印字用液体、第2の印字用液体、あるいは、両液体が混合された混合廃液から選択される少なくともいずれかの廃液に、凝集・増粘防止剤を添加することができる。
【0115】
具体的には、廃液貯蔵部に、混合廃液と混合可能なように予め凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)が収納されていてもよい。この場合、混合廃液(あるいは、混合前の状態の第1の印字用液体および第2の印字用液体)がチューブ等を通して廃液貯蔵部に回収され、廃液貯蔵部に貯蔵された時点で凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)と混合されるため、混合廃液の凝集・増粘を防止することができる。
【0116】
なお、廃液貯蔵部に貯蔵される混合廃液が、混合廃液としてチューブ等を通じて回収され、且つ、廃液貯蔵部に到達するまでに凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)が添加されない場合には、廃液貯蔵部の廃液入口(当該廃液入口とは、混合廃液を廃液貯蔵部まで移送するチューブやパイプ等と接続された部分を意味する)の近傍に、混合廃液と混合可能なように凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を収納しておくことが好ましい。廃液入口付近に増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を収納しておかない場合には、廃液入口付近で凝集・増粘が発生して、新たに廃液貯蔵部に移送される混合廃液の廃液貯蔵部への流入を阻害してしまう場合がある。
【0117】
本発明のインクジェト記録装置に用いられる廃液貯蔵部の形態は、非印字時に記録ヘッドから排出された印字用液体がインクジェット記録装置内に飛散しないように貯蔵できる機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、密閉型の容器状の廃液貯蔵タンクであってもよく、また、自重の数倍から数十倍以上の液体を吸収・保持できる公知の高分子ゲルや繊維等の吸水性の物質からなる液体吸収体(廃インク吸収体)であってもよい。なお、液体吸収体を用いる場合には、廃液貯蔵タンク内に設置して用いることが好ましい。
【0118】
また、廃液貯蔵部はインクジェット装置内に2つ以上設けてもよいが、本発明のインクジェット記録装置においては、廃液貯蔵部は1つであることが好ましく、また、廃液貯蔵部の内部には、非印字時に記録ヘッドから排出された全種類の印字用液体を分別・分離して貯蔵するための仕切り等の一切ない(すなわち、全種類の印字用液体を全て混合した状態で貯蔵する)1室型の廃液貯蔵部であることがより好ましい。
【0119】
本発明のインクジェット記録装置は、印字に用いる全種類の印字用液体を混合した状態で貯蔵しても廃液貯蔵部内での凝集や増粘を抑制することができるため、1室型の廃液貯蔵部を1つのみ設けても、従来のように凝集や増粘に起因する目詰まり等によって、実際に貯蔵可能な廃液の量が、設計上の廃液貯蔵部の貯蔵容量よりも少なくなることがない。また、このような理由から廃液貯蔵部の大きさを従来よりも小さくすることができる。
【0120】
さらに、廃液処理手段として1室型の廃液貯蔵部を1つのみ用いる場合には、記録ヘッドから排出された印字用液体を回収し、廃液貯蔵部まで導くチューブ等の回収パイプを1本のみにすることも可能である。特に、非印字時に記録ヘッドから印字用液体が排出されるとほぼ同時に、増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を添加する場合には、回収パイプ内での混合廃液の凝集や増粘による目詰まりを確実に防止できるため、廃液貯蔵部に接続される回収パイプを1本のみとすることができる。
【0121】
一方、使用するいずれかの印字用液体同士を混合すると凝集や増粘が発生するような印字用液体を用いた従来のインクジェット記録装置内に設けられる廃液処理手段は、廃液貯蔵部や回収パイプにおける目詰まり等を防止するために複数の廃液貯蔵部を有していたり、内部が2室以上に区切られた廃液貯蔵部を用いていたりしていた。また、これら廃液貯蔵部に接続される回収パイプは、複数設けられているのが一般的であった。このため、廃液処理手段が複雑化、大型化しやすく、また、廃液処理手段を構成する部品数も多くなるため、作製コストも高くなる傾向にあった。
しかしながら本発明のインクジェト記録装置は、本発明のインクジェット液体廃棄処理方法を利用しているため、上述したようにインクジェト記録装置内に設置される廃液処理手段を簡素化・小型化することができ、また、低コストで作製することが可能である。
【0122】
上述したように凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)は、混合廃液として混合される第1の印字用液体および第2の印字用液体が、メンテナンス時に記録ヘッドから排出された後から、両液が混合され最終的に廃液貯蔵部に貯蔵されるまでの少なくともいずれかの時点で、第1の印字用液体、第2の印字用液体、あるいは、両液体が混合された混合廃液から選択される少なくともいずれかの廃液に添加することができる。
【0123】
しかしながら、混合廃液の凝集・増粘を確実に抑制・防止するためには、少なくとも、第1の印字用液体と第2の印字用液体とが混合された時点あるいはその直後(凝集・増粘反応が十分に進行しない時点)で凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を添加することが好ましい。
さらに、第1の印字用液体と第2の印字用液体とが混合される以前の時点で、いずれか一方の印字用液体と凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)とを混合し、その後、この混合液に、もう一方の印字用液体を混合して廃棄処理することが特に好ましい。
このようなタイミングで、凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を、第1の印字用液体と第2の印字用液体が混合された時点あるいはその直後に添加するか、あるいは、記録ヘッドから排出された直後から混合されるまでの段階のいずれか一方の印字用液体に予め添加することにより、混合廃液の凝集・増粘を確実に防止することができる。
【0124】
凝集・増粘防止剤(あるいは凝集・増粘防止液)を、混合廃液として混合される第1の印字用液体および第2の印字用液体が、非印字時に記録ヘッドから排出された後から、両液が混合され最終的に廃液貯蔵部に貯蔵されるまでの少なくともいずれかの時点で、第1の印字用液体、第2の印字用液体、あるいは、両液体が混合された混合廃液から選択される少なくともいずれかの廃液に添加するための凝集・増粘防止剤添加手段としては特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
この凝集・増粘防止剤添加手段の具体例としては、例えば、回収パイプの途中や廃液貯蔵部に接続された凝集・増粘防止液供給装置を設けることができる。
【0125】
しかしながら、本発明のインクジェット記録装置においては、凝集・増粘防止剤添加手段として、凝集・増粘防止液を吐出するノズルを備えた液体吐出装置でを用いることが好ましい。
このような液体吐出装置は、記録ヘッドが印字やメンテナンス(非印字時)に際して移動する走査線上に移動可能なように配置することが好適である。また、液体吐出装置の構成は、印字に用いられる記録ヘッドと同様のものを利用することができるため、走査線上に印字用の記録ヘッドと凝集・増粘防止液を添加するための凝集・増粘防止液付与用ヘッド(液体吐出装置)とを設けることができる。
【0126】
また、記録ヘッドは、通常、2種類以上の液体をそれぞれ収納する液体収納用カートリッジを備え、各々の液体を別々のノズルから吐出できるように構成されているものが一般的に用いられる。このような場合、液体収納用カートリッジに収納される少なくとも1種を印字用液体とし、他の1種を凝集・増粘防止液とすることができる。具体例を挙げれば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックインクを各々収納した液体収納用カートリッジの他に、凝集・増粘防止液を収納した液体収納用カートリッジも搭載した記録ヘッドを利用することができる。この場合、記録ヘッドが、凝集・増粘防止液付与用ヘッドの機能も兼有することとなり、インクジェット記録装置の構成をより簡素化できる。
【0127】
なお、記録ヘッドのメンテナンスは、従来と同様、非印字時に公知の方法を利用して行なうことができる。例えば、非印字時にダミージェットを利用して記録ヘッドのノズル内の印字用液体を排出する場合には、メンテナンス部の廃液処理手段の廃液貯蔵部に、排出される印字用液体が回収可能な位置にまで記録ヘッドを移動させてから印字用液体を吐出(ダミージェット)させることができる。
【0128】
あるいは、非印字時に吸引を利用して記録ヘッドのノズル内の印字用液体を排出する場合には、廃液処理手段の廃液貯蔵部に吸引ポンプおよびチューブを介して接続されたキャップ部材を介して、記録ヘッドのノズル内の印字用液体を吸引することができる。なお、このキャップ部材は、メンテナンス時にメンテナンス部に移動してきた記録ヘッドの、ノズル面に略密着するように配置されるものである。
【0129】
なお、上述したような記録ヘッドと凝集・増粘防止液を添加するためのメンテナンス用ヘッドとを用いる場合には、例えば、記録ヘッドをメンテナンス部の印字用液体が排出可能な位置にまで移動させてから、ダミージェットや吸引等により印字用液体を排出させ、次に、凝集・増粘防止液付与用ヘッドを同様の位置に移動させて凝集・増粘防止液を排出させることができる。
【0130】
勿論、この場合、まず、記録ヘッドをメンテナンス部に移動させて第1の印字用液体のみを排出させ、次に、凝集・増粘防止液付与用ヘッドをメンテナンス部に移動させて凝集・増粘防止液を排出させ、その後、再び記録ヘッドをメンテナンス部に移動させて第2の印字用液体のみを排出させることも可能である。この場合、実質的に第1の印字用液体に凝集・増粘防止液が添加されてから、さらに第2の印字用液体が混合されるため、混合廃液の凝集・増粘をより確実に抑制することができる。
なお、上述したように記録ヘッドが凝集・増粘防止液付与用ヘッドの機能も兼有する場合には、記録ヘッドから排出される液体を回収する廃液回収口に対して、記録ヘッドから排出される各液体(第1の印字用液体、第2の印字用液体、および、凝集・増粘防止液)のノズル面を移動させて、上記のように第1の印字用液体、凝集・増粘防止液、および、第2の印字用液体の順に順次排出させることができる。
【0131】
また、上述したようなダミージェットや吸引等によるノズル内の印字用液体の排出以外にも、ノズル面の汚れを清掃するために、メンテナンス時にメンテナンス部に移動してきた記録ヘッドのノズル面をワイピングするワイパーを設けることもできる。さらに、メンテナンスに際しては、上述したようなダミージェット、吸引、ワイピング等、公知の記録ヘッドメンテナンス方法を複数組み合わせてメンテナンスを実施することも可能である。
【0132】
−インクジェット記録装置の具体例−
次に、本発明のインクジェット記録装置の具体例を図面を用いて説明する。
以下、図面を参照しながら本発明のインクジェット記録装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、機能および/または構成が実質的に同一の部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は本発明のインクジェット記録装置の好適な一実施形態の外観の構成を示す斜視図である。図2は、図1のインクジェット記録装置における内部の基本構成を示す斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置100は、前述の本発明のインクジェット記録方法に基づいて作動し画像を形成する構成を有している。すなわち、図1及び図2に示すように、インクジェット記録装置100は、主として、外部カバー6と、普通紙などの記録媒体1を所定量載置可能なトレイ7と、記録媒体1をインクジェット記録装置100内部に1枚毎に搬送するための搬送ローラ(搬送手段)2と、記録媒体1の面にインク及び液体組成物を吐出して画像を形成する画像形成部8(画像形成手段)とから構成されている。
【0133】
搬送ローラ2はインクジェット記録装置100内に回転可能に配設された一対のローラであり、トレイ7にセットされた記録媒体1を挟持するとともに、所定量の記録媒体1を所定のタイミングで1枚毎に装置100内部に搬送する。
画像形成部8は記録媒体1の面上にインクによる画像を形成する。画像形成部8は、主として記録ヘッド3と、インクタンク(液体収納用カートリッジ)5と、給電信号ケーブル9と、キャリッジ10と、ガイドロッド11と、タイミングベルト12と、駆動プーリ13と、メンテナンスユニット14とから構成されている。
インクタンク5はそれぞれ異なる色のインク又は液体組成物が吐出可能に格納された4つのインクタンク52,54,56,58から構成されている。これらインクタンクに、第1の印字用液体、第2の印字用液体が納められている。
【0134】
さらに、図2に示すように、記録ヘッド3には給電信号ケーブル9とインクタンク5が接続されており、給電信号ケーブル9から外部の画像記録情報が記録ヘッド3に入力されると、記録ヘッド3はこの画像記録情報に基づき各インクタンクから所定量のインクを吸引して記録媒体の面上に吐出する。なお、給電信号ケーブル9は画像記録情報の他に記録ヘッド3を駆動するために必要な電力を記録ヘッド3に供給する役割も担っている。
また、この記録ヘッド3はキャリッジ10上に配置されて保持されており、キャリッジ10はガイドロッド11、駆動プーリ13に接続されたタイミングベルト12が接続されている。このような構成により、記録ヘッド3はガイドロッド11に沿うようにして、記録媒体1の面と平行でありかつ記録媒体1の搬送方向X(副走査方向)に対して垂直な方向Y(主走査方向)にも移動可能となる。
【0135】
インクジェット記録装置100には、画像記録情報に基づいて記録ヘッド3の駆動タイミングとキャリッジ10の駆動タイミングとを調製する制御手段(図示せず)が備えられている。これにより、搬送方向Xにそって、所定の速度で搬送される記録媒体1の面の所定領域に画像記録情報に基づく画像を連続的に形成することができる。
メンテナンスユニット14は、記録ヘッド3の印字用液体を回収するインク受け口部(キャップ部材)16と、減圧装置(図示せず)と、両者を接続するチューブ15とを少なくとも備えたものである。更にこのメンテナンスユニット14は、メンテナンス時にメンテナンスユニット14に移動してきた記録ヘッド3のノズル部分と接続され、記録ヘッド3のノズル内を減圧状態にすることにより、記録ヘッド3のノズルからインクを吸引する機能を有している。
このメンテナンスユニット14を設けておくことにより、必要に応じてインクジェット記録装置100が作動中にノズルに付着した余分なインクを除去したり、作動停止状態のときにノズルからのインクの蒸発を抑制することができる。
【0136】
次に、メンテナンスユニット14の詳細な構成や機能について説明する。
図3は、本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの一態様の概観を示す概略斜視図である。
図3に示すメンテナンスユニット14は、インクタンク5を構成する4つのタンク各々に対応した個々の記録ヘッド(記録ヘッド3’)のノズル面に対応する4つのインク受け口部16およびこれらインク受け口部16と接続された4本のチューブ15とを有しており、各々のチューブ15のもう一端は、液体吸収体(不図示)を内部に有する1つの廃インクタンク(廃液貯蔵部)22に接続されている。また、各々のチューブ15には、吸引ポンプ等の減圧装置20(但し、符号20は減圧装置の吸気口の部分のみを示したものであり、以下図4,5も同様である)が接続されている。なお、図2中に示されたインクタンク5および記録ヘッド3は、図3中においては分割された状態で示されており、図2中に示されたものと異なるが、これは説明を容易とするためである(後述する図5も同様)。
メンテナンス時には、記録ヘッド3’に対応したインク受け口部16を、ノズル面に密着させた状態で、減圧装置20により記録ヘッド3’のノズル内を減圧状態にすることに印字用液体を吸引し、チューブ15を介して1つの廃インクタンク22に回収する。
【0137】
図3に示すメンテナンスユニット14においては、廃インクタンク22の内部の液体吸収体に予め凝集・増粘防止液を仕込むことで、各々の記録ヘッド3’に対応したインク受け口部16、チューブ15を介して回収された第1の印字用液体と第2の印字用液体とが、廃インクタンク22内で混合しても色材の凝集の発生が抑制されるためメンテナンスユニット14の信頼性を確保できる。従って、図3に示すように、メンテナンスユニット14を構成する廃インクタンクは1つのみでよい。
このため、図3に示した本発明のインクジェット記録装置においては、メンテナンスユニットの体積を従来のものよりも小さくすることができる。
【0138】
図4は、本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの他の態様の概観を示す概略斜視図である。
図4に示すメンテナンスユニット14は、1つのインク受け口部16およびこのインク受け口部16と接続された1本のチューブ15とを有しており、チューブ15のもう一端は、液体吸収体(不図示)を内部に有する1つの廃インクタンク22に接続されている。また、チューブ15には、減圧装置20が接続されており、また、インク受け口部16は、凝集・増粘防止液を充填した凝集・増粘防止液タンク17とチューブ18を介して接続されている。
ここで、図4に示すインク受け口部16は、2つの隣接する記録ヘッド3’のノズル面ノズル面を十分に覆うことができるサイズを有するものである。
【0139】
メンテナンス時には、インク受け口部16を、ノズル面に密着させた状態で、減圧装置20により記録ヘッド3’のノズル内を減圧状態にすることに印字用液体を吸引し、チューブ15を介して廃インクタンク22に回収する。この際、第1の印字用液体と第2の印字用液体とがインク受け口部16内や、その下流側のチューブ15、廃インクタンク22で混合される前に、凝集・増粘防止液タンク17よりインク受け口部16に凝集・増粘防止液を予め供給することで色材の凝集の発生を抑制することができメンテナンスユニット14の信頼性を確保できる。従って、図4に示すように、メンテナンスユニット14を構成する廃インクタンクは1つのみでよい。
このため、図4に示した本発明のインクジェット記録装置においては、メンテナンスユニットの体積を従来のものよりも小さくすることができる。
【0140】
図5は、本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの他の態様の概観を示す概略斜視図である。
図5に示すメンテナンスユニット14は、4つの記録ヘッド3’のノズル面それぞれに対して設けられた4つのインク受け口部16と、液体吸収体(不図示)を内部に有する1つの廃インクタンク22とを備えている。また、4つのインク受け口部16と、廃インクタンク22とは、インク受け口部16に接続される側が4本に分岐したチューブ15によって接続されており、チューブ15の分岐部分が1本化して廃インクタンク22に接続されるまでの部分には、減圧装置20が接続されている。さらに、4つのインク受け口部16のひとつは、凝集・増粘防止液を充填した凝集・増粘防止液タンク17とチューブ18を介して接続されている。
メンテナンス時には、記録ヘッド3’に対応したインク受け口部16を、ノズル面に密着させた状態で、減圧装置20により記録ヘッド3のノズル内を減圧状態にすることに印字用液体を吸引し、チューブ15を介して1つの廃インクタンク22に回収する。
【0141】
ここで、例えば、凝集・増粘防止液タンク17と接続されたインク受け口部16によって、4つの記録ヘッド3’のうち第1の印字用液体を吐出する記録ヘッド3’のノズル面を密着させるようにメンテナンスユニット14を構成すれば、チューブ15の分岐点よりも下流側で第1の印字用液体と、第2の印字用液体とが混合される前に凝集・増粘防止液を供給することができるため色材の凝集の発生が抑制され、メンテナンスユニット14の信頼性を確保できる。従って、図5に示すように、メンテナンスユニット14を構成する廃インクタンクは1つのみでよい。
このため、図5に示した本発明のインクジェット記録装置においては、メンテナンスユニットの体積を従来のものよりも小さくすることができる。
【実施例】
【0142】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
<印字用液体等の作製方法>
以下に説明するインクや凝集・増粘防止液は、所定の組成となるように色材溶液、水溶性有機溶媒、界面活性剤、イオン交換水等を適量加え、混合液を、混合、攪拌して得られた液体を、目開き5μmフィルターで濾過することにより作製した。
【0143】
(実施例1)
実施例1で用いた印字用液体および凝集・増粘防止液は以下の第1のインク(インク1)、第2のインク(インク2)、および、凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液1)からなる組み合わせを用いた。
インク1、インク2、凝集・増粘防止液1の20℃におけるpHは、それぞれ、7.9、3.7、9.0であった。
なお、20℃におけるpHは、温度20±0.5℃、湿度55±5%R.H環境下において、pH/導電率計(メトラー・トレド社製、MPC227)により測定した値を用いた。
【0144】
−第1のインク(インク1)−
・黒色顔料(商品名:Cabojet−300、キャボット社製(表面処理顔料/アニオン性):4.5質量%
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸ナトリウム共重合体(アニオン性):0.5質量%
・ジエチレングリコール:25質量%
・ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル:0.75質量%
・イオン交換水:残部
なお、Cabojet−300は、顔料表面に親水性官能基としてカルボキシル基を有しており、アニオン性を示すものである。
【0145】
−第2のインク(インク2)−
・シアン顔料(商品名:Cabojet−250、キャボット社製(表面処理顔料/アニオン性):3質量%
・クエン酸:1.5質量%
・ジエチレングリコール:15質量%
・グリセリン:5質量%
・ブチルカルビトール:5質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:1質量%
・水酸化ナトリウム:0.05質量%
・イオン交換水:残部
なお、Cabojet−250は、顔料表面に親水性官能基としてスルホン酸基を有しており、アニオン性を示すものである。
【0146】
−凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液1)−
・ジエチレングリコール:5質量%
・アミノエタンスルホン酸(pKa=8.95(25℃)):14.0質量%
・水酸化ナトリウム:2.3質量%
・イオン交換水:残部
【0147】
(実施例2)
実施例2で用いた印字用液体および凝集・増粘防止液は以下の第1のインク(インク3)、第2のインク(インク4)、および、凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液2)からなる組み合わせを用いた。
インク3、インク4、凝集・増粘防止液2のpHはそれぞれ、4.3,9.1,3.1であった。
【0148】
−第1のインク(インク3)−
・Regal 330(顔料/キャボット社製):4.5質量%
・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体(カチオン性):0.5質量%
・ジエチレングリコール:20質量%
・N−メチルピロリドン:5質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:0.35質量%
・イオン交換水:残部
なお、Regal 330自体は水不溶性であるが、高分子分散剤であるN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体が顔料表面に吸着し親水性官能基として、ジメチルアミノエチルメタクリレート部がカチオン性を示す。
【0149】
−第2のインク(インク4)−
・マゼンタ顔料(Cabojet−260、キャボット社製(表面処理顔料/アニオン性):4質量%
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸ナトリウム共重合体:0.5質量%
・ジエチレングリコール:25質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:1質量%
・アミノエタンスルホン酸:1.4質量%
・水酸化ナトリウム:0.24質量%
・イオン交換水:残部
なお、Cabojet−260は、顔料表面に親水性官能基としてカルボキシル基を有しており、アニオン性を示す。
【0150】
−凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液2)−
・ジエチレングリコール:5質量%
・クエン酸(pKa=2.9(25℃)):15質量%
・水酸化ナトリウム:1.5質量%
・イオン交換水:残部
【0151】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の印字用液体の組み合わせ;すなわち第1のインク(インク1)、および、第2のインク(インク2)からなる組み合わせを用いたが、凝集・増粘防止液は利用しなかった。
【0152】
(比較例2)
比較例2では、実施例2と同様の印字用液体の組み合わせ;すなわち第1のインク(インク3)、および、第2のインク(インク4)からなる組み合わせを用いたが、凝集・増粘防止液は利用しなかった。
【0153】
(実施例3)
実施例3で用いた印字用液体および凝集・増粘防止液は以下の第1のインク(インク5)、第2のインク(インク6)、および、凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液3)からなる組み合わせを用いた。
インク5、インク6、凝集・増粘防止液3の20℃におけるpHは、それぞれ、8.1、4.1、9.8であった。
【0154】
−第1のインク(インク5)−
・Black Pearls L(顔料/アニオン性):5質量%
・スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ナトリウム共重合体(アニオン性):0.5質量%
・ジエチレングリコール:20質量%
・トリエチレングリコール:5質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:0.3質量%
・イオン交換水:残部
なお、Black Peals L自体は水不溶性であるが、高分子分散剤であるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ナトリウム共重合体が顔料表面に吸着し親水性官能基として、メタクリル酸部がアニオン性を示す。
【0155】
−第2のインク(インク6)−
・シアン顔料(商品名:Cabojet−250、キャボット社製(表面処理顔料/アニオン性)):3質量%
・2−フランカルボン酸:0.75質量%
・ジエチレングリコール:15質量%
・スルホラン:5質量%
・ブチルカルビトール:5質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:1質量%
・水酸化ナトリウム:0.19質量%
・イオン交換水:残部
なお、Cabojet−250は、顔料表面に親水性官能基としてスルホン酸基を有しており、アニオン性を示す。
【0156】
−凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液3)−
・ジエチレングリコール:3質量%
・N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(pKa=9.5(20℃)):15質量%
・水酸化ナトリウム:1.5質量%
・イオン交換水:残部
【0157】
(実施例4)
実施例4で用いた印字用液体および凝集・増粘防止液は以下の第1のインク(インク7)、第2のインク(インク8)、および、凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液4)からなる組み合わせを用いた。
インク7、インク8、凝集・増粘防止液4の20℃におけるpHは、それぞれ、4.6、9.8、3.0であった。
【0158】
−第1のインク(インク7)−
・カチオン性表面処理黒色顔料(顔料/キャボット社製):4.5質量%
・N−オレイル−1,3−ジアミノプロパン(カチオン性):0.5質量%
・ジエチレングリコール:20質量%
・N−メチルピロリドン:5質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:0.35質量%
・イオン交換水:残部
なお、上記カチオン性表面処理黒色顔料は、顔料表面の親水性官能基に第4級アンモニウム塩を有しており、カチオン性を示す。
【0159】
−第2のインク(インク8)−
・マゼンタ顔料(商品名:Cabojet−260、キャボット社製(表面処理顔料/アニオン性))0.5質量%
・ジエチレングリコール:15質量%
・プロピレングリコール:10質量%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物:1質量%
・N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸:1.5質量%
・水酸化ナトリウム:0.14質量%
・イオン交換水:残部
なお、Cabojet−260は、顔料表面に親水性官能基としてカルボキシル基を有しており、アニオン性を示す。
【0160】
−凝集・増粘防止液(凝集・増粘防止液4)−
・ジエチレングリコール:5質量%
・d−酒石酸(pKa=2.82(25℃)):15質量%
・水酸化ナトリウム:2質量%
・イオン交換水:残部
【0161】
(比較例3)
比較例3では、実施例3と同様の印字用液体の組み合わせ;すなわち第1のインク(インク5)、および、第2のインク(インク6)からなる組み合わせを用いたが、凝集・増粘防止液は利用しなかった。
【0162】
(比較例4)
比較例4では、実施例4と同様の印字用液体の組み合わせ;すなわち第1のインク(インク7)、および、第2のインク(インク8)からなる組み合わせを用いたが、凝集・増粘防止液は利用しなかった。
【0163】
<評価方法>
−インクジェット記録装置−
上記の比較例1〜4に示すインクセットのみの組み合わせ、および、実施例1〜4に示すインクセットと凝集・増粘防止剤とを組み合わせを用いて、以下に説明するインクジェット記録装置により印字および記録ヘッドのメンテナンスを行ない、メンテナンス部の廃液処理系統の異常の有無および印字された画像の画質について評価した。
【0164】
用いたインクジェット記録装置は、フルカラーの印字が可能な熱インクジェット方式を利用したものであり、ブラックインクである第1のインクおよび凝集・増粘防止液を吐出する400dpi、256ノズルの試作記録ヘッドと、カラーインクである第2のインクのみを吐出する800dpi、512ノズルの試作記録ヘッドとを搭載したものである。
【0165】
また、このインクジェット記録装置内には、ダミージェットおよび吸引により記録ヘッドのノズル内の印字用液体および凝集・増粘防止液を回収する複数のキャップと、このキャップに吸引ポンプを介して1本のチューブにより接続された廃液貯蔵部と、記録ヘッドのノズル面をワイピングするワイパーとを備えた廃液処理手段を含むメンテナンス装置が設けられている。
なお、吸引やダミージェット時に排出され、キャップ部分から回収された印字用液体および凝集・増粘防止液は全て1本のチューブを伝わって、ポリエステル繊維から成る液体吸収体が入った1つの廃液貯蔵タンクへと回収される。また、液体吸収体は最大で600mlの液体を吸収できる能力をもっており、実施例1〜4では、予め、凝集・増粘防止液を60ml付与した状態で廃液貯蔵タンク内にセットした。
【0166】
また、記録ヘッドからの印字用液体および凝集・増粘防止液の吸引は、非印字時にメンテナンス部に移動した各記録ヘッドの各液体を吐出するノズル面に対応して配置されたキャップを、ノズル面と対向させた状態で一定量の液体を吸引するように吸引ポンプを駆動させて実施した。一方、記録ヘッドからの印字用液体および凝集・増粘防止液のダミージェットは、非印字時に、上述のキャップ内にノズル面から印字用液体および凝集・増粘防止液を吐出して行なった。
【0167】
また、ダミージェットの動作は、画像の印字に際して、記録ヘッドが非印字状態となってメンテナンス部に移動して適宜実施するようにプログラミングし、また、これら吸引、ダミージェットの動作後にはノズル面のワイピングが行なわれるように記録ヘッドおよびメンテナンス部の動作をプログラミングした。
【0168】
画像の印字は、記録用紙としてロール紙を用い、23℃、55%RH環境で画像の印字を行なった。この際、記録ヘッドからの印字用液体および凝集・増粘防止剤の吐出はこれらの液体に複数パルスを印加することにより1ドロップを形成して行った。なお1ドロップあたりの量はブラックインクおよび凝集・増粘防止液では約18pl、各カラーインクでは約6plであった。
【0169】
−廃液処理系統の異常の有無および画像の画質評価−
ブラック画像部にカラーインクをブラック100%カバレッジパッチに対して16.7%ずつのカバレッジで下印字を一括双方向でキャリッジ10往復分、ブラックとカラーインクとを交互に隣接するよう100%カバレッジパッチ印字を一括双方向でキャリッジ10往復分連続印字した。用紙はFX−P紙をロール状に加工したものを使用した。
【0170】
その後各キャップ内に、ブラックインク及び凝集・増粘防止液を全ノズルから各1000発、カラーインクを3000発ずつ打ちこむダミージェット操作を行った。
この印字−ダミージェットを交互に1000回繰り返したところで記録ヘッドのノズル面がキャップで覆われた状態で48h放置し、放置後に吸引ポンプにより全てのヘッドの各液に対応したノズル面から印字用液体および凝集・増粘防止液を各0.5mlずつ吸引し、再び印字−ダミージェット−吸引操作を200回繰り返し、吸引ポンプ、チューブの詰まりがないかどうか、また、廃液貯蔵タンクからの逆流及び溢れ出しがないかを吸引1回ごとに観察した。
なお、凝集・増粘防止液を用いずに評価した場合には、ダミージェットおよび吸引はインクのみを記録ヘッドから排出することにより実施した。
【0171】
また、得られた印字パターンについて、カラーインクによる下印字ありのブラック画像濃度、ブラックと、シアン、マゼンタ、イエロー100%カバレッジパッチの隣接部分との色間にじみを観察した。
【0172】
<評価結果>
廃液処理系統の異常の有無および画像の画質の結果は以下の通りである。すなわち、2種類のインクに、凝集・増粘防止液を併用した実施例1〜4では、最後まで、吸引ポンプ、チューブに詰まりは発生せず、また、廃液貯蔵タンクからの逆流及び溢れ出しは見られなかった。
一方、2種類のインクのみを用いた比較例1〜4では、10回目のポンプ吸引時に動作が正常に行われず、分解した結果、チューブ内部に局所的に凝集物の付着がみられ、廃液貯蔵タンク内に設置された液体吸収体の、廃液貯蔵タンクにチューブの一端が接続された入り口付近で凝集物の堆積がみられた。
なお、実施例1〜4および比較例1〜4共に、混合すると色材の凝集が促進される組み合わせからなる2種類のインクを用いていたため、得られた画像は、画像濃度が高く、また、色間にじみもみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の好適な一実施形態の外観の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置における内部の基本構成を示す斜視図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの一態様の概観を示す概略斜視図である。
【図4】本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの他の態様の概観を示す概略斜視図である。
【図5】本発明のインクジェット記録装置に設けられるメンテナンスユニットの他の態様の概観を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0174】
1 記録媒体
2 搬送ローラ
3,3’ 記録ヘッド
5 インクタンク
6 外部カバー
7 トレイ
8 画像形成部
9 給電信号ケーブル
10 キャリッジ
11 ガイドロッド
12 タイミングベルト
13 駆動プーリ
14 メンテナンスユニット
15 チューブ
16 インク受け口部
17 凝集・増粘防止液タンク
18 チューブ
20 減圧装置
22 廃インクタンク
52,54,56,58 インクタンク
100 インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以上である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが6.5以下である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、
前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが8.0以上の化合物を含むことを特徴とするインクジェット用液体廃棄処理方法。
【請求項2】
カチオン性色材を少なくとも含み、20℃におけるpHが7.0以下である第1の印字用液体と、20℃におけるpHが8.5以上である第2の印字用液体とを混合した状態の混合廃液として廃棄処理する際に、前記混合廃液が凝集・増粘防止剤を含んだ状態で廃棄処理されるインクジェット用液体廃棄処理方法であって、
前記凝集・増粘防止剤が、20℃におけるpKaが6.0以下の化合物を含むことを特徴とするインクジェット用液体廃棄処理方法。
【請求項3】
前記凝集・増粘防止剤と前記第1の印字用液体と前記第2の印字用液体とを質量比で0.2:1:1の割合で混合した混合液に含まれる平均粒子径0.5μm以上の粒子数が100,000個/μL以下であり、かつ、平均粒子径5μm以上の粒子数が1,000個/μL以下であることを特徴とする1または2に記載のインクジェット用液体廃棄処理方法。
【請求項4】
印字用液体として、1種以上の第1の印字用液体と、1種以上の第2の印字用液体とを用い、
1種類以上の液体を吐出する複数のノズルを備えた記録ヘッドと、非印字時に前記記録ヘッドから排出される前記印字用液体を回収し、これを貯蔵する廃液貯蔵部を有する廃液処理手段と、を少なくとも備え、
非印字時に前記記録ヘッドから排出された、前記第1の印字用液体の少なくとも1種および前記第2の印字用液体の少なくとも1種を含む混合廃液が、凝集・増粘防止剤を含んだ状態で前記廃液貯蔵部に貯蔵されるインクジェット記録装置において、
前記廃液処理手段が、請求項1〜3のいずれか1つに記載のインクジェット用液体廃棄処理方法を利用して、前記印字用液体を廃棄処理することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−51776(P2006−51776A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236709(P2004−236709)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】