インクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録ヘッドの製造方法
【課題】発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減りを抑制した信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドH1001は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子H1103、電気熱変換素子H1103の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板H1101と、インクが保持されているインク供給保持部材H1501とを有し、使用前の状態では、インク供給保持部材H1501内には記録用インクが保持されており、記録素子基板H1101内には保存用インクが充填されており、保存用インクは、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とする。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドH1001は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子H1103、電気熱変換素子H1103の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板H1101と、インクが保持されているインク供給保持部材H1501とを有し、使用前の状態では、インク供給保持部材H1501内には記録用インクが保持されており、記録素子基板H1101内には保存用インクが充填されており、保存用インクは、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録動作を行うインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドは、インクタンク分離タイプと、インクタンク一体タイプの2つに大別される。
【0003】
インクタンク分離タイプは、記録ヘッド部と、記録ヘッドに対して供給するインクを保持したインクタンク部とが接離可能に構成されている。使用時には両者を一体化するが、インクを使い切った時点でインクタンク部を独立に交換可能なため、ランニングコストが安いという利点がある。しかしながら、記録ヘッドの吐出口へのゴミ詰まりや、電気熱変換素子の経年劣化による故障を皆無にすることは難しく、性能維持のためには特別なメンテナンスサービスを必要とする場合がある。
【0004】
一方、インクタンク一体タイプは、記録ヘッド部と、記録ヘッドに対して供給するインクを保持したインクタンク部とが一体で構成されているため、記録ヘッドが所定の間隔で定期的に交換され、信頼性が高いという利点がある。しかしながら、記録ヘッドの使用頻度によってはランニングコストが高くなる場合がある。
【0005】
両者においては、記録ヘッド長期保存時や物流時における信頼性確保のための梱包形態も異なる。
【0006】
インクタンク分離タイプは、記録ヘッド長期保存時や物流時に記録用インクが充填されていない状態で放置されると、記録ヘッドの電気熱変換素子表面の膜汚染等に起因する記録品位の悪化が起こってしまう。しかしながら、記録用インクが充填された状態で放置されると、汚染防止には効果的であるが、放置条件によっては、インクの固着に起因するインク吐出不良が起こる場合がある。そこで、特許文献1には、記録ヘッド長期保存時や物流時に、記録ヘッド部に記録用インクとは異なる保存用インクを充填する手段が開示されている。この場合、保存用インクを記録用インクから着色剤成分を所定量あるいは全量除いた成分とすれば、汚染防止とともにインクの固着に起因するインク吐出不良の発生も防止することが可能となる。
【0007】
一方、インクタンク一体タイプにおいては、記録ヘッド部に記録用インクを充填するとともに、インクの固着やインクが吐出する吐出口へのゴミ詰まりを回避する手段を施した梱包形態が一般的である。例えば、特許文献2および3には、粘着性のフィルムで吐出口を保護、封止する方法が提案されている。これらの方法を用いると、インクの固着やゴミ詰まりを防止できることに加えて、物流中の振動によってインクが吐出口から飛散することも防止可能である。
【特許文献1】特開平5−169676号公報
【特許文献2】特開平3−234659号公報
【特許文献3】特開平3−248849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発熱抵抗体を有する電気熱変換素子をインク室内に設けたインク吐出方式のインク吐出方法は以下のとおりである。記録信号となる電気パルスを供給して発熱させることによりインクに熱エネルギーを与える。そのときのインクの相変化により生じるインクの発泡時(沸騰時)の気泡圧力を利用して、吐出口からインク滴を吐出させる。
【0009】
電気熱変換素子は、発熱抵抗体を保護するための保護膜層が設けられており、保護膜層としてはSiN等の無機化合物が一般的である。これは、キャビテーションによる機械的衝撃、また0.1〜10マイクロ秒という極めて短時間における1000℃前後の温度の上昇と下降の繰り返しによる熱的衝撃を受ける厳しい環境におかれるためである。さらに、保護膜層上に、より耐キャビテーション性の高いTa等の膜層を形成することもある。
【0010】
インクタンク一体タイプにおいては、インクを吐出するための電気熱変換素子およびノズル部が形成された記録素子基板を、樹脂で形成されたインク供給保持部材に貼りあわせた構成が一般的である。樹脂は熱伝導性が悪いため、インクの吐出時に発生する熱が記録素子基板に溜まりやすい。そのため、多量のインク滴の打込みを要する画像の形成時には、記録素子基板の蓄熱に起因して不安定なインク吐出になることがある。
【0011】
この場合、電気熱変換素子を構成する膜層数を減らす、あるいは膜厚を減らすことができれば、記録素子基板への蓄熱抑制に効果的である。例えば、発熱抵抗体の保護膜層上に設けられた、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層をなくせば、蓄熱抑制に加えて、コストダウン効果も期待できる。
【0012】
しかしながら、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層をなくし、保護膜層が膜層の最上層となった場合、インクと保護膜層が触れた状態で長期保存や物流が行われると、保護膜層がインクにより溶解して膜減りしてしまうことがある。保護膜層の膜厚はインク吐出時の駆動設計に大きく関与しており、保存期間や物流期間の違いによって膜減り量が変わってしまうと、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の駆動性能を確保可能な駆動設計は非常に困難である。
【0013】
我々は、様々な検討の結果、保護膜層がSiNの場合、インクに含有するクエン酸や色材の濃度が、SiNの膜減り量に大きく関係していることを突きとめた。具体的には、クエン酸や色材の濃度が低いほど、SiNの膜減り量を抑えられることが明らかとなった。
【0014】
一方、インクに含有するクエン酸は、金属の腐食を抑制する役目も有している。インクタンク部の部材に、例えば、アルミニウム、鉄、あるいは銅等が使用されており、かつ、その部材がインクに触れた状態で長期保存や物流が行われる場合、クエン酸濃度はある程度高い必要がある。また、インクに含有する色材を減らすことは画像の発色性の低下等の弊害を引き起こす。上述したような課題を克服可能なクエン酸あるいは色材の濃度設定は非常に困難であり、また、記録画像の発色性や堅牢性等の向上を目的として新規インク開発を行う際の開発自由度を制限するものとなりうる。
【0015】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減りを抑制した信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するため本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドにおいて、使用前の状態では、インク供給保持部材内には記録用インクが保持されており、記録素子基板内には保存用インクが充填されており、保存用インクは、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、インク供給保持部材内に記録用インクを注入した後、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低い保存用インクをノズル部表面から注入する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、記録素子基板内に保存用インクを注入した後、インク供給保持部材内に保存用インクよりも保護膜を溶解する成分の濃度が高い記録用インクを注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減りを抑制した信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1から図6は、本発明が実施または適用される好適なインクジェット記録ヘッドを説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
(1)インクジェット記録ヘッド
本実施例におけるインクジェット記録ヘッドH1001は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギを生成する電気熱変換素子を用いた記録ヘッドである。このインクジェット記録ヘッドH1001は、電気熱変換素子とインク滴が吐出する吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドである。
【0022】
インクジェット記録ヘッドH1001はイエロー、シアン、マゼンタ等のカラーインクを吐出させるためのものである。インクジェット記録ヘッドH1001は、図1の分解斜視図に示すように、記録素子基板(記録素子基板)H1101、電気配線テープH1301、インク供給保持部材H1501を有する。また、記録ヘッドH1001は、図2の側断面図に示すように、フィルタH1701、H1702、H1703、インク吸収体H1601、H1602、H1603、蓋部材H1901、およびシール部材H1801を有する。
【0023】
なお、ここでは3種類のインクを吐出させるための構成を記載するが、本発明の思想に沿うものであれば、これに限定されるものではない。
(1−1)記録素子基板
図3は記録素子基板H1101の構成を説明するために一部破断して示す斜視図である。記録素子基板H1101は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板H1110に長溝状の貫通口のインク供給口H1102がSiの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの方法で、3個並列して形成されている。
【0024】
それぞれのインク供給口H1102を挟んでその両側には、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子H1103が配置されており、さらに電気熱変換素子H1103に電力を供給するAlなどからなる不図示の電気配線が形成されている。これら電気熱変換素子H1103と電気配線とは成膜技術により形成されている。さらに、この電気配線に電力を供給したり、電気熱変換素子H1103を駆動するための電気信号を供給したりするための電極部H1104が形成されている。電極部H1104は電気熱変換素子H1103の両外側の側辺に沿って配列して形成されており、電極部H1104上にはAuなどからなるバンプH1105が形成されている。
【0025】
Si基板H1110上には、電気熱変換素子H1103に対応した流路を形成する流路壁H1106とその上方を覆う天上部とを有する。天井部には吐出口H1107が開口された、樹脂材料からなる構造体がフォトリソグラフィ技術によって形成されている。吐出口H1107は、電気熱変換素子H1103に対向して設けられており、吐出口列H1108を形成している。
【0026】
電気熱変換素子H1103は、発熱抵抗体を保護するための保護膜層が設けられている。保護膜層はSiN等の無機化合物を含む。
【0027】
この記録素子基板H1101において、インク供給口H1102から供給されたインクは各電気熱変換素子H1103の発熱によって発生した気泡の圧力によって、各電気熱変換素子H1103に対向する吐出口H1107から吐出される。
(1−2)電気配線テープ
電気配線テープH1301は、記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成する。この電気配線テープH1301は、記録素子基板を組み込むための開口部H1303が形成されており、この開口部の縁付近には、記録素子基板の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。また、電気配線テープH1301には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0028】
電気配線テープH1301と記録素子基板H1101の電気的接続は、例えば、バンプH1105と電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされている。
(1−3)インク供給保持部材
インク供給保持部材H1501は、例えば、樹脂成形により形成されている。樹脂材料には、形状的剛性を向上させるためにガラスフィラーを5〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。インク供給保持部材H1501は、インクタンクの機能と、インク供給機能とを備えている。インク供給保持部材H1501は、インクタンクの機能として、内部に3色のインクを保持し負圧を発生するための吸収体H1601、H1602,H1603をそれぞれ独立して保持するための空間を有する。また、インク供給保持部材H1501は、インク供給機能として、記録素子基板H1101の各インク供給口H1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を有する。
【0029】
インク吸収体H1601、H1602、H1603は、PP繊維を圧縮したものが使われているが、ウレタン繊維を圧縮したものでも良い。各インク流路の上流部のインク吸収体H1601、H1602、H1603との境界部には、記録素子基板H1101内部にゴミの進入を防ぐためのフィルタH1701,H1702,H1703がそれぞれ溶着により接合されている。各フィルタH1701、H1702、H1703は、SUS金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプのほうが好ましい。
【0030】
インク流路の下流部には、記録素子基板H1101に各インクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。記録素子基板H1101の各インク供給口H1102は、インク供給保持部材H1501の各インク供給口H1201に連通するよう、記録素子基板H1101がインク供給保持部材H1501に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、第1の接着剤としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられ、その際の接着層の厚みは50μm程度が望ましい。
【0031】
また、インク供給口H1201付近周囲の平面には、電気配線テープH1301の一部の裏面が第2の接着剤により接着固定される。記録素子基板H1101と電気配線テープH1301との電気接続部分は、第1の封止剤H1307および第2の封止剤H1308(図4参照)により封止され、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤H1307は主に電気配線テープH1301の電極端子H1304と記録素子基板のバンプH1105との接続部の裏面側と記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤H1308は、上述の接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープH1301の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材H1501のインク供給口H1201を有する面にほぼ直交した側面に熱カシメもしくは接着等で固定される。
(1−4)蓋部材
蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材H1501内部の独立した空間をそれぞれ閉塞するものである。但し、蓋部材H1901にはインク供給保持部材H1501内部の各部屋の圧力変動を逃がすための微細口H1911、H1912、H1913と、それぞれに連通した微細溝H1921、H1922、H1923を有している。微細溝H1921およびH1922の他端は微細溝H1923の途中に合流している。さらに、微細口H1911、H1912、H1913と微細溝H1921、H1922、および微細溝H1923のほとんどをシール部材H1801で覆い、微細溝H1923の他端部を開口することで大気連通口を形成している。また、インクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部H1930を有している。
【0032】
上述したようなカートリッジタイプのインクジェット記録ヘッドは、その記録素子基板に設けられている吐出口列を塞ぐように、表面に保護テープ(不図示)を貼った状態で物流される。
(2)インクジェット記録ヘッドのインクジェット記録装置への装着
図5に示すように、インクジェット記録ヘッドH1001は、記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイドH1560、ヘッドセットレバーによりキャリッジに固定するための係合部H1930を有する。
【0033】
また、インクジェット記録ヘッドH1001は、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのX方向の突き当て部H1570、Y方向の突き当て部H1580、Z方向の突き当て部H1590を備えている。ここで、X方向はキャリッジスキャン方向であり、Y方向は被記録体搬送方向であり、Z方向はインク吐出方向である。上述した突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープH1301上の外部信号入力端子H1302がキャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的接触を行う。
(3)インクジェット記録装置
次に、上述したようなカートリッジタイプのインクジェット記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。図6は、本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0034】
図6に示す記録装置において、図5に示したインクジェット記録ヘッドH1001はキャリッジ102に位置決めして交換可能に搭載されている。キャリッジ102には、インクジェット記録ヘッドH1001上の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0035】
キャリッジ102は、主走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフト103に沿って往復移動可能に案内支持されている。そして、キャリッジ102は主走査モータ104によりモータプーリ105、従動プーリ106およびタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動されるとともにその位置および移動が制御される。また、ホームポジションセンサ130がキャリッジ102に設けられている。これにより遮蔽板136の位置をキャリッジ102上のホームポジションセンサ130が通過した際に位置を知ることが可能となる。
【0036】
印刷用紙やプラスチック薄板等の記録媒体108は給紙モータ135からギアを介してピックアップローラ131を回転させることによりオートシートフィーダ(ASF)132から一枚ずつ分離給紙される。さらに搬送ローラ109の回転により、インクジェット記録ヘッドH1001の吐出口面と対向する位置(プリント部)を通って搬送(副走査)される。搬送ローラ109はラインフィード(LF)モータ134の回転によりギアを介して行われる。その際、給紙されたかどうかの判定と給紙時の頭出し位置の確定は、ペーパエンドセンサ133を記録媒体108が通過した時点で行われる。さらに、記録媒体108の後端が実際にどこに有り、実際の後端から現在の記録位置を最終的に割り出すためにもペーパエンドセンサ133は使用されている。
【0037】
なお、記録媒体108は、プリント部において平坦なプリント面を形成するように、その裏面をプラテン(不図示)により支持されている。この場合、キャリッジ102に搭載されたインクジェット記録ヘッドH1001は、それらの吐出口面がキャリッジ102から下方へ突出して前記2組の搬送ローラ対の間で記録媒体108と平行になるように保持されている。
【0038】
インクジェット記録ヘッドH1001は、吐出口の並び方向がキャリッジ102の走査方向に対して交差するようにキャリッジ102に搭載され、これらの吐出口からインクを吐出して記録を行う。
[実施例1]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内および記録素子基板H1101内に保持するインクの最適クエン酸濃度を求めた。
【0039】
また、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認した。
(クエン酸濃度とSiNの膜減り量との関係)
まず、インクに含有するクエン酸の濃度と、SiNの膜減り量の関係を調べた。
【0040】
記録素子基板H1101としては、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層がなく、SiN膜層が電気熱変換素子H1103を構成する膜層の最上層となっており、同一寸法の記録素子基板H1101状に切断されたものを使用した。そして、この記録素子基板H1101を30mlのインクとともに密封性の高いテフロン製の容器に入れて、60℃に保たれた環境下で1週間保存する加速試験を行った。なお、クエン酸濃度のみ、0ppm、8ppm、20ppm、50ppmの4種類に変えて作製したイエロー、シアン、マゼンタの3色のインクについて試験を実施した。
【0041】
シアンインクにおける、クエン酸濃度とSiNの膜減り量の相関を図7に示す。クエン酸濃度の増加に伴い、SiNの膜減り量は直線的に増加しており、SiNの膜減り抑制のためには、インクに含有するクエン酸の濃度が限りなく低い、理想的には0ppm、すなわちクエン酸が全く含まれていないことが好ましいと判明した。シアン以外の2色についても同様の結果であった。
(ノズル内へのインク充填手順による記録特性への影響)
続いて、上記インクを使用してノズル内へのインク充填手順による記録特性への影響を調べた。
【0042】
第1の充填手順は以下のとおりである。
【0043】
各色インクは、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも下流、すなわち記録素子基板H1101に近い側の領域にのみ注入した。ノズル部内へのインクの充填は記録素子基板H1101側からインクを吸引することで行った。
【0044】
インク充填後、記録素子基板H1101の表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いたテープ基材の一面にアクリル系の粘着材が塗布されたものである。
【0045】
この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。図8に示すように、クエン酸濃度が0ppmおよび8ppmの場合は良好な記録であったが、クエン酸濃度が20ppmおよび50ppmの場合は、かすれた記録となったり、あるいは全く記録されなかった。これは、インクを発泡させないで予備加熱するための予備加熱パルスと、インクを吐出させるためのメインパルスの2つ以上のパルスを電気熱変換素子H1103に印加する駆動設計がなされた場合に特に問題となる。つまり、SiNの膜減り量がある値以上大きくなると、予備加熱パルスを印加した時点でインクが発泡してしまい、続いてメインパルスを印加してもインク吐出が正常に行われていないことが原因と考えられる。
【0046】
以上の結果より、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の駆動性能を確保するためには、記録素子基板H1101内に保持するインクのクエン酸濃度は多くても8ppm程度である必要があることが明らかとなった。
【0047】
第1の手順と比較するための第2の手順は以下のとおりである。
【0048】
各色インクは、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも上流、すなわちインク吸収体に近い側の領域にのみ注入し、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは上記と同様のものを使用した。この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がし、記録素子基板H1101側からインクを吸引してノズル部内にインクを充填して記録を行った。図9に示すように、クエン酸濃度が8ppm、20ppmおよび50ppmの場合は良好な記録であったが、クエン酸濃度が0ppmの場合は、ヨレの大きな記録となった。これは、インクタンク部の金属部材、例えばインク吸収体に含まれるアルミニウムがインクにより腐食された後、ノズル部の吐出口付近に析出したことによりインク吐出が正常に行われていないことが原因と考えられる。
【0049】
以上の結果より、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の信頼性を確保するためには、インク供給保持部材H1501内に保持するインクのクエン酸濃度は少なくとも8ppm程度が必要であることが明らかとなった。
【0050】
以上、ノズル内に予めインクを充填しておいたヘッドと、使用直前にノズル内にインクを充填したヘッドとを用いてインクのクエン酸濃度の影響を調べた。その結果、インクのクエン酸濃度が8ppm程度であれば、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、および、インクタンク部の金属部材のインクによる腐食を抑制することが可能であることが明らかとなった。ただし、より多くのマージンを確保するためには、本発明の形態、すなわちインク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態が不可欠である。
(インクの拡散状態)
続いて、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内のインクの拡散状態を、インクジェット記録ヘッドを作製して確認した。クエン酸濃度が20ppmのインクを使用し、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも上流にインクを充填した。すなわちインク吸収体に近い側の領域に各色インクを注入した後、記録素子基板H1101側からインクを吸引してノズル部内にインクを充填し、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは上記と同様のものを使用した。
【0051】
この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で1ヶ月、2ヶ月および3ヶ月間の各期間保存する加速試験を行った。その後、記録素子基板H1101のみをインク供給保持部材H1501から分離し、ノズル部を発煙硝酸で溶解して、SiNの膜減り量を測定した。シアンインクにおける、加速試験期間とSiNの膜減り量の相関を図10に示す。初期的には、試験期間に応じてSiNの膜減り量も変化するが、試験期間が2ヶ月を越えると、SiNの膜減り量はほとんど変化しなかった。シアン以外の2色についても同様の結果であった。
【0052】
インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内のインクが互いに拡散し合うならば、両者のインクへのSiNの溶解が何れも飽和状態になるまで、SiNの膜減りは継続されると考えられる。
【0053】
両者のインクへのSiNの溶解が飽和状態になるには多量のSiNの溶解が必要である。図10に加速試験期間とSiN膜減り量の相関を示すグラフを示す。これによると試験期間が2ヶ月を越えるとSiNの膜減り量はほとんど変化しなくなる。これは、記録素子基板H1101内のインクにおけるSiNの溶解は試験期間2ヶ月ほどで飽和状態になり、インク供給保持部材H1501内のインクとの拡散が起こらなくなったためと推定される。
【0054】
すなわち、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とで成分濃度の異なるインクを保持しても、互いのインクは拡散し合わないことが確認された。
(インクジェット記録ヘッドの作製)
続いて、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態のインクジェット記録ヘッドを作製した。
【0055】
図11に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。図11は、インクジェット記録ヘッドのノズル部H1130におけるシアンインクのインク供給口での断面を示す。なお、吐出口はインク供給口を挟んで対向する位置に設けられているため、インク供給口での断面では図示されないが、電気熱変換素子近傍におけるインクの状態を示すために図示している。また、インク供給保持部材H1501の断面は、シアンおよびマゼンタインク部が図示してあり、イエローインク部は図示されていない。フィルタH1702、H1703からインク供給口に連通する各インク流路部は複雑な形状をしているため、破線で模式的に図示している。
【0056】
まず、図11(a)に示すように、インク供給保持部材H1501内に挿入されたインク吸収体H1601、H1602、H1603にそれぞれイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを注入した。シアンインクAは図中H2002で、マゼンタインクAは図中H2003で示している。インク注入後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に溶着した。イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAは、何れもクエン酸濃度が20ppmである。
【0057】
続いて、図11(b)に示すように、ノズル部H1130側から各色インクを吸引して、ノズル部H1130内、具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを充填した。吸入によるノズル部内へのインク充填後、記録検査を行った。
【0058】
さらに、図11(c)に示すように、ノズル部H1130側からインクC(図中H2020で示す)を専用治具を使用して注入した。インクCは、イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAよりもクエン酸濃度が低く、具体的にはクエン酸濃度が0ppmで、かつ、色材成分を含有していないインクである。
【0059】
ノズル部H1130側からインク注入には、インク吸収体H1601、H1602、H1603で発生している負圧を用いた。すなわち、ノズル部H1130、具体的には吐出口部にインク溜まりがあれば、上記負圧により吐出口からノズル部H1130内部にインクが引き込まれるので、これを用いてインクを注入した。注入量は上記専用治具でノズル部H1130、具体的には吐出口部にインク溜まりを発生させ、吐出口部がインクに触れている時間で管理した。最後に、記録素子基板H1101の表面を覆うように保護テープH1951を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。記録結果は良好であった。
【0060】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
[実施例2]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された、実施例1とは別の形態および製造方法のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認した。
【0061】
図12に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。なお、図12は、図11と同様、インクジェット記録ヘッドのノズル部H1130におけるシアンインクのインク供給口での断面を示す。
【0062】
まず、図12(a)に示すように、インク供給保持部材H1501内に溶着されているフィルタH1701、H1702、H1703からそれぞれイエローインクB、シアンインクB、マゼンタインクB(図中H2012)を注入した。その後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に装着した。
【0063】
イエローインクB、シアンインクBおよびマゼンタインクBは、何れもクエン酸濃度が0ppmである。このとき、インク供給保持部材H1501内に挿入されたインク吸収体H1601、H1602、H1603には一切インクは注入されていない。また、蓋部材H1901は簡易的に装着されており、容易に取り外し可能な状態としている。
【0064】
続いて、図12(b)に示すように、ノズル部H1130側から各色インクを吸引して、ノズル部H1130内に充填した。具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にイエローインクB、シアンインクB、マゼンタインクBを充填した。
【0065】
さらに、蓋部材H1901を取り外し、図12(c)に示すように、インク吸収体H1602、H1603にそれぞれイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを注入した。なお、イエローインクAを保持するインク吸収体は図示されておらず、シアンインクAは図中H2002で、マゼンタインクAは図中H2003で示されている。インク注入後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に溶着した。イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAは、何れもクエン酸濃度が20ppmである。
【0066】
最後に、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープH1951を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。記録結果は良好であった。
【0067】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
[実施例3]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とで色材濃度の異なるインクが保持された、実施例1および実施例2とは別の形態のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認する。
【0068】
まず、インクに含有する色材、具体的にはカーボンブラック顔料の濃度と、SiNの膜減り量の関係を調査した。
【0069】
実施例1と同様の、記録素子基板H1101状に切断された記録素子基板H1101を使用し、これらを8mlのインクとともに密封性の高いテフロン製の容器に入れて、60℃に保たれた環境下で2週間保存する加速試験を行った。ブラック顔料の濃度のみ、0%および4%の2種類に変えて作製したブラックインクについて試験を実施した。
【0070】
試験結果を図13に示す。顔料濃度が0%のインクでは、SiNの膜減り量は100Å以下であったのに対して、顔料濃度が4%のインクでは、SiNの膜減り量が2000Å以上と桁違いに大きくなった。すなわち、SiNの膜減りには顔料の濃度が大きく関係しており、SiNの膜減り抑制のためには、インクに含有する顔料の濃度が限りなく低い、理想的には0%、すなわち顔料が全く含まれていないことが好ましいと判明した。
【0071】
しかしながら、色材の濃度を低くすると、SiNの膜減りは抑制可能であるが、記録品位が著しく低下してしまう。上述した課題を克服可能な顔料の濃度設定は非常に困難であり、課題解決のためには、本発明の形態、すなわちインク供給保持部材内と記録素子基板内とで顔料濃度の異なるインクが保持された形態が不可欠である。
【0072】
図14に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。本実施例のインクジェット記録ヘッドは、インク供給保持部材H1501および記録素子基板H1101ともに顔料を使用したブラックインク1色を吐出する形態に対応している。なお、図14は、インクジェット記録ヘッドのノズル部におけるブラックインクのインク供給口での断面図を示す。
【0073】
まず、図14(a)に示すように、インク供給保持部材H1502内に挿入されたインク吸収体H1604にブラックインクA(図14(b)中のH2004)を注入する。その後、蓋部材H1902をインク供給保持部材H1502に溶着した。ブラックインクAの顔料濃度は4%である。
【0074】
続いて、図14(b)に示すように、ノズル部H1131内に、ノズル部H1131側からインクを吸引充填した。具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にブラックインクA(図14(b)中のH2004)を充填した。インク充填後、記録検査を行った。
【0075】
さらに、図14(c)に示すように、ノズル部H1131側からインクD(図14(c)中のH2030)を専用治具を使用して注入した。インクDは、ブラックインクAよりも顔料濃度が低く、具体的には顔料濃度が0%のインクである。インク供給保持部材H1502内のインク吸収体H1604には負圧が発生しているため、実施例1と同様の現象により、ノズル部H1131側からインクを注入可能である。注入量は上述した専用治具でノズル部H1131、具体的には吐出口部にインク溜まりを発生させ、吐出口部がインクに触れている時間で管理した。最後に、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープH1952を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行ったところ、記録結果は良好であった。
【0076】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
【0077】
上述した各実施例における図2、図11、図12および図14に示したインクジェット記録ヘッドの断面模式図においては、フィルタからインク供給口に連通するインク流路部は破線で模式的に図示してある。前述したように、インク供給保持部材内と記録素子基板内とで成分濃度の異なるインクを保持しても、互いのインクは拡散し合わない。よって、インク流路部におけるインク状態については、特に制限を設ける必要はなく、場合によっては、気泡により両インクが分断されている形態でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】インクジェット記録ヘッドの一例の分解図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図3】記録素子基板の一部破断がなされた斜視図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドの一部断面図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドの外観斜視図である。
【図6】インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図7】クエン酸濃度とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図8】記録素子基板に近い側の領域にのみ色インクを注入してクエン酸濃度を変化させた場合の記録判定結果である。
【図9】インク吸収体に近い側の領域にのみ色インクを注入してクエン酸濃度を変化させた場合の記録判定結果である。
【図10】加速試験期間とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例1におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【図12】本発明の実施例2におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【図13】顔料濃度とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例3におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0079】
H1001 インクジェット記録ヘッド
H1101 記録素子基板
H1103 電気熱変換素子
H1130 ノズル部
H1501 インク供給保持部材
H2002 シアンインクA
H2003 マゼンタインクA
H2004 ブラックインクA
H2012 シアンインクB
H2020 インクC
H2030 インクD
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録動作を行うインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドは、インクタンク分離タイプと、インクタンク一体タイプの2つに大別される。
【0003】
インクタンク分離タイプは、記録ヘッド部と、記録ヘッドに対して供給するインクを保持したインクタンク部とが接離可能に構成されている。使用時には両者を一体化するが、インクを使い切った時点でインクタンク部を独立に交換可能なため、ランニングコストが安いという利点がある。しかしながら、記録ヘッドの吐出口へのゴミ詰まりや、電気熱変換素子の経年劣化による故障を皆無にすることは難しく、性能維持のためには特別なメンテナンスサービスを必要とする場合がある。
【0004】
一方、インクタンク一体タイプは、記録ヘッド部と、記録ヘッドに対して供給するインクを保持したインクタンク部とが一体で構成されているため、記録ヘッドが所定の間隔で定期的に交換され、信頼性が高いという利点がある。しかしながら、記録ヘッドの使用頻度によってはランニングコストが高くなる場合がある。
【0005】
両者においては、記録ヘッド長期保存時や物流時における信頼性確保のための梱包形態も異なる。
【0006】
インクタンク分離タイプは、記録ヘッド長期保存時や物流時に記録用インクが充填されていない状態で放置されると、記録ヘッドの電気熱変換素子表面の膜汚染等に起因する記録品位の悪化が起こってしまう。しかしながら、記録用インクが充填された状態で放置されると、汚染防止には効果的であるが、放置条件によっては、インクの固着に起因するインク吐出不良が起こる場合がある。そこで、特許文献1には、記録ヘッド長期保存時や物流時に、記録ヘッド部に記録用インクとは異なる保存用インクを充填する手段が開示されている。この場合、保存用インクを記録用インクから着色剤成分を所定量あるいは全量除いた成分とすれば、汚染防止とともにインクの固着に起因するインク吐出不良の発生も防止することが可能となる。
【0007】
一方、インクタンク一体タイプにおいては、記録ヘッド部に記録用インクを充填するとともに、インクの固着やインクが吐出する吐出口へのゴミ詰まりを回避する手段を施した梱包形態が一般的である。例えば、特許文献2および3には、粘着性のフィルムで吐出口を保護、封止する方法が提案されている。これらの方法を用いると、インクの固着やゴミ詰まりを防止できることに加えて、物流中の振動によってインクが吐出口から飛散することも防止可能である。
【特許文献1】特開平5−169676号公報
【特許文献2】特開平3−234659号公報
【特許文献3】特開平3−248849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発熱抵抗体を有する電気熱変換素子をインク室内に設けたインク吐出方式のインク吐出方法は以下のとおりである。記録信号となる電気パルスを供給して発熱させることによりインクに熱エネルギーを与える。そのときのインクの相変化により生じるインクの発泡時(沸騰時)の気泡圧力を利用して、吐出口からインク滴を吐出させる。
【0009】
電気熱変換素子は、発熱抵抗体を保護するための保護膜層が設けられており、保護膜層としてはSiN等の無機化合物が一般的である。これは、キャビテーションによる機械的衝撃、また0.1〜10マイクロ秒という極めて短時間における1000℃前後の温度の上昇と下降の繰り返しによる熱的衝撃を受ける厳しい環境におかれるためである。さらに、保護膜層上に、より耐キャビテーション性の高いTa等の膜層を形成することもある。
【0010】
インクタンク一体タイプにおいては、インクを吐出するための電気熱変換素子およびノズル部が形成された記録素子基板を、樹脂で形成されたインク供給保持部材に貼りあわせた構成が一般的である。樹脂は熱伝導性が悪いため、インクの吐出時に発生する熱が記録素子基板に溜まりやすい。そのため、多量のインク滴の打込みを要する画像の形成時には、記録素子基板の蓄熱に起因して不安定なインク吐出になることがある。
【0011】
この場合、電気熱変換素子を構成する膜層数を減らす、あるいは膜厚を減らすことができれば、記録素子基板への蓄熱抑制に効果的である。例えば、発熱抵抗体の保護膜層上に設けられた、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層をなくせば、蓄熱抑制に加えて、コストダウン効果も期待できる。
【0012】
しかしながら、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層をなくし、保護膜層が膜層の最上層となった場合、インクと保護膜層が触れた状態で長期保存や物流が行われると、保護膜層がインクにより溶解して膜減りしてしまうことがある。保護膜層の膜厚はインク吐出時の駆動設計に大きく関与しており、保存期間や物流期間の違いによって膜減り量が変わってしまうと、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の駆動性能を確保可能な駆動設計は非常に困難である。
【0013】
我々は、様々な検討の結果、保護膜層がSiNの場合、インクに含有するクエン酸や色材の濃度が、SiNの膜減り量に大きく関係していることを突きとめた。具体的には、クエン酸や色材の濃度が低いほど、SiNの膜減り量を抑えられることが明らかとなった。
【0014】
一方、インクに含有するクエン酸は、金属の腐食を抑制する役目も有している。インクタンク部の部材に、例えば、アルミニウム、鉄、あるいは銅等が使用されており、かつ、その部材がインクに触れた状態で長期保存や物流が行われる場合、クエン酸濃度はある程度高い必要がある。また、インクに含有する色材を減らすことは画像の発色性の低下等の弊害を引き起こす。上述したような課題を克服可能なクエン酸あるいは色材の濃度設定は非常に困難であり、また、記録画像の発色性や堅牢性等の向上を目的として新規インク開発を行う際の開発自由度を制限するものとなりうる。
【0015】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減りを抑制した信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するため本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドにおいて、使用前の状態では、インク供給保持部材内には記録用インクが保持されており、記録素子基板内には保存用インクが充填されており、保存用インクは、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、インク供給保持部材内に記録用インクを注入した後、記録用インクよりも保護膜層を溶解する成分の濃度が低い保存用インクをノズル部表面から注入する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、電気熱変換素子の発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、記録素子基板内に保存用インクを注入した後、インク供給保持部材内に保存用インクよりも保護膜を溶解する成分の濃度が高い記録用インクを注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減りを抑制した信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1から図6は、本発明が実施または適用される好適なインクジェット記録ヘッドを説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
(1)インクジェット記録ヘッド
本実施例におけるインクジェット記録ヘッドH1001は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギを生成する電気熱変換素子を用いた記録ヘッドである。このインクジェット記録ヘッドH1001は、電気熱変換素子とインク滴が吐出する吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドである。
【0022】
インクジェット記録ヘッドH1001はイエロー、シアン、マゼンタ等のカラーインクを吐出させるためのものである。インクジェット記録ヘッドH1001は、図1の分解斜視図に示すように、記録素子基板(記録素子基板)H1101、電気配線テープH1301、インク供給保持部材H1501を有する。また、記録ヘッドH1001は、図2の側断面図に示すように、フィルタH1701、H1702、H1703、インク吸収体H1601、H1602、H1603、蓋部材H1901、およびシール部材H1801を有する。
【0023】
なお、ここでは3種類のインクを吐出させるための構成を記載するが、本発明の思想に沿うものであれば、これに限定されるものではない。
(1−1)記録素子基板
図3は記録素子基板H1101の構成を説明するために一部破断して示す斜視図である。記録素子基板H1101は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板H1110に長溝状の貫通口のインク供給口H1102がSiの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの方法で、3個並列して形成されている。
【0024】
それぞれのインク供給口H1102を挟んでその両側には、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子H1103が配置されており、さらに電気熱変換素子H1103に電力を供給するAlなどからなる不図示の電気配線が形成されている。これら電気熱変換素子H1103と電気配線とは成膜技術により形成されている。さらに、この電気配線に電力を供給したり、電気熱変換素子H1103を駆動するための電気信号を供給したりするための電極部H1104が形成されている。電極部H1104は電気熱変換素子H1103の両外側の側辺に沿って配列して形成されており、電極部H1104上にはAuなどからなるバンプH1105が形成されている。
【0025】
Si基板H1110上には、電気熱変換素子H1103に対応した流路を形成する流路壁H1106とその上方を覆う天上部とを有する。天井部には吐出口H1107が開口された、樹脂材料からなる構造体がフォトリソグラフィ技術によって形成されている。吐出口H1107は、電気熱変換素子H1103に対向して設けられており、吐出口列H1108を形成している。
【0026】
電気熱変換素子H1103は、発熱抵抗体を保護するための保護膜層が設けられている。保護膜層はSiN等の無機化合物を含む。
【0027】
この記録素子基板H1101において、インク供給口H1102から供給されたインクは各電気熱変換素子H1103の発熱によって発生した気泡の圧力によって、各電気熱変換素子H1103に対向する吐出口H1107から吐出される。
(1−2)電気配線テープ
電気配線テープH1301は、記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成する。この電気配線テープH1301は、記録素子基板を組み込むための開口部H1303が形成されており、この開口部の縁付近には、記録素子基板の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。また、電気配線テープH1301には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0028】
電気配線テープH1301と記録素子基板H1101の電気的接続は、例えば、バンプH1105と電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされている。
(1−3)インク供給保持部材
インク供給保持部材H1501は、例えば、樹脂成形により形成されている。樹脂材料には、形状的剛性を向上させるためにガラスフィラーを5〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。インク供給保持部材H1501は、インクタンクの機能と、インク供給機能とを備えている。インク供給保持部材H1501は、インクタンクの機能として、内部に3色のインクを保持し負圧を発生するための吸収体H1601、H1602,H1603をそれぞれ独立して保持するための空間を有する。また、インク供給保持部材H1501は、インク供給機能として、記録素子基板H1101の各インク供給口H1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を有する。
【0029】
インク吸収体H1601、H1602、H1603は、PP繊維を圧縮したものが使われているが、ウレタン繊維を圧縮したものでも良い。各インク流路の上流部のインク吸収体H1601、H1602、H1603との境界部には、記録素子基板H1101内部にゴミの進入を防ぐためのフィルタH1701,H1702,H1703がそれぞれ溶着により接合されている。各フィルタH1701、H1702、H1703は、SUS金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプのほうが好ましい。
【0030】
インク流路の下流部には、記録素子基板H1101に各インクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。記録素子基板H1101の各インク供給口H1102は、インク供給保持部材H1501の各インク供給口H1201に連通するよう、記録素子基板H1101がインク供給保持部材H1501に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、第1の接着剤としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられ、その際の接着層の厚みは50μm程度が望ましい。
【0031】
また、インク供給口H1201付近周囲の平面には、電気配線テープH1301の一部の裏面が第2の接着剤により接着固定される。記録素子基板H1101と電気配線テープH1301との電気接続部分は、第1の封止剤H1307および第2の封止剤H1308(図4参照)により封止され、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤H1307は主に電気配線テープH1301の電極端子H1304と記録素子基板のバンプH1105との接続部の裏面側と記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤H1308は、上述の接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープH1301の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材H1501のインク供給口H1201を有する面にほぼ直交した側面に熱カシメもしくは接着等で固定される。
(1−4)蓋部材
蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材H1501内部の独立した空間をそれぞれ閉塞するものである。但し、蓋部材H1901にはインク供給保持部材H1501内部の各部屋の圧力変動を逃がすための微細口H1911、H1912、H1913と、それぞれに連通した微細溝H1921、H1922、H1923を有している。微細溝H1921およびH1922の他端は微細溝H1923の途中に合流している。さらに、微細口H1911、H1912、H1913と微細溝H1921、H1922、および微細溝H1923のほとんどをシール部材H1801で覆い、微細溝H1923の他端部を開口することで大気連通口を形成している。また、インクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部H1930を有している。
【0032】
上述したようなカートリッジタイプのインクジェット記録ヘッドは、その記録素子基板に設けられている吐出口列を塞ぐように、表面に保護テープ(不図示)を貼った状態で物流される。
(2)インクジェット記録ヘッドのインクジェット記録装置への装着
図5に示すように、インクジェット記録ヘッドH1001は、記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイドH1560、ヘッドセットレバーによりキャリッジに固定するための係合部H1930を有する。
【0033】
また、インクジェット記録ヘッドH1001は、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのX方向の突き当て部H1570、Y方向の突き当て部H1580、Z方向の突き当て部H1590を備えている。ここで、X方向はキャリッジスキャン方向であり、Y方向は被記録体搬送方向であり、Z方向はインク吐出方向である。上述した突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープH1301上の外部信号入力端子H1302がキャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的接触を行う。
(3)インクジェット記録装置
次に、上述したようなカートリッジタイプのインクジェット記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。図6は、本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0034】
図6に示す記録装置において、図5に示したインクジェット記録ヘッドH1001はキャリッジ102に位置決めして交換可能に搭載されている。キャリッジ102には、インクジェット記録ヘッドH1001上の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0035】
キャリッジ102は、主走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフト103に沿って往復移動可能に案内支持されている。そして、キャリッジ102は主走査モータ104によりモータプーリ105、従動プーリ106およびタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動されるとともにその位置および移動が制御される。また、ホームポジションセンサ130がキャリッジ102に設けられている。これにより遮蔽板136の位置をキャリッジ102上のホームポジションセンサ130が通過した際に位置を知ることが可能となる。
【0036】
印刷用紙やプラスチック薄板等の記録媒体108は給紙モータ135からギアを介してピックアップローラ131を回転させることによりオートシートフィーダ(ASF)132から一枚ずつ分離給紙される。さらに搬送ローラ109の回転により、インクジェット記録ヘッドH1001の吐出口面と対向する位置(プリント部)を通って搬送(副走査)される。搬送ローラ109はラインフィード(LF)モータ134の回転によりギアを介して行われる。その際、給紙されたかどうかの判定と給紙時の頭出し位置の確定は、ペーパエンドセンサ133を記録媒体108が通過した時点で行われる。さらに、記録媒体108の後端が実際にどこに有り、実際の後端から現在の記録位置を最終的に割り出すためにもペーパエンドセンサ133は使用されている。
【0037】
なお、記録媒体108は、プリント部において平坦なプリント面を形成するように、その裏面をプラテン(不図示)により支持されている。この場合、キャリッジ102に搭載されたインクジェット記録ヘッドH1001は、それらの吐出口面がキャリッジ102から下方へ突出して前記2組の搬送ローラ対の間で記録媒体108と平行になるように保持されている。
【0038】
インクジェット記録ヘッドH1001は、吐出口の並び方向がキャリッジ102の走査方向に対して交差するようにキャリッジ102に搭載され、これらの吐出口からインクを吐出して記録を行う。
[実施例1]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内および記録素子基板H1101内に保持するインクの最適クエン酸濃度を求めた。
【0039】
また、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認した。
(クエン酸濃度とSiNの膜減り量との関係)
まず、インクに含有するクエン酸の濃度と、SiNの膜減り量の関係を調べた。
【0040】
記録素子基板H1101としては、耐キャビテーション性の高いTa等の膜層がなく、SiN膜層が電気熱変換素子H1103を構成する膜層の最上層となっており、同一寸法の記録素子基板H1101状に切断されたものを使用した。そして、この記録素子基板H1101を30mlのインクとともに密封性の高いテフロン製の容器に入れて、60℃に保たれた環境下で1週間保存する加速試験を行った。なお、クエン酸濃度のみ、0ppm、8ppm、20ppm、50ppmの4種類に変えて作製したイエロー、シアン、マゼンタの3色のインクについて試験を実施した。
【0041】
シアンインクにおける、クエン酸濃度とSiNの膜減り量の相関を図7に示す。クエン酸濃度の増加に伴い、SiNの膜減り量は直線的に増加しており、SiNの膜減り抑制のためには、インクに含有するクエン酸の濃度が限りなく低い、理想的には0ppm、すなわちクエン酸が全く含まれていないことが好ましいと判明した。シアン以外の2色についても同様の結果であった。
(ノズル内へのインク充填手順による記録特性への影響)
続いて、上記インクを使用してノズル内へのインク充填手順による記録特性への影響を調べた。
【0042】
第1の充填手順は以下のとおりである。
【0043】
各色インクは、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも下流、すなわち記録素子基板H1101に近い側の領域にのみ注入した。ノズル部内へのインクの充填は記録素子基板H1101側からインクを吸引することで行った。
【0044】
インク充填後、記録素子基板H1101の表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いたテープ基材の一面にアクリル系の粘着材が塗布されたものである。
【0045】
この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。図8に示すように、クエン酸濃度が0ppmおよび8ppmの場合は良好な記録であったが、クエン酸濃度が20ppmおよび50ppmの場合は、かすれた記録となったり、あるいは全く記録されなかった。これは、インクを発泡させないで予備加熱するための予備加熱パルスと、インクを吐出させるためのメインパルスの2つ以上のパルスを電気熱変換素子H1103に印加する駆動設計がなされた場合に特に問題となる。つまり、SiNの膜減り量がある値以上大きくなると、予備加熱パルスを印加した時点でインクが発泡してしまい、続いてメインパルスを印加してもインク吐出が正常に行われていないことが原因と考えられる。
【0046】
以上の結果より、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の駆動性能を確保するためには、記録素子基板H1101内に保持するインクのクエン酸濃度は多くても8ppm程度である必要があることが明らかとなった。
【0047】
第1の手順と比較するための第2の手順は以下のとおりである。
【0048】
各色インクは、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも上流、すなわちインク吸収体に近い側の領域にのみ注入し、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは上記と同様のものを使用した。この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がし、記録素子基板H1101側からインクを吸引してノズル部内にインクを充填して記録を行った。図9に示すように、クエン酸濃度が8ppm、20ppmおよび50ppmの場合は良好な記録であったが、クエン酸濃度が0ppmの場合は、ヨレの大きな記録となった。これは、インクタンク部の金属部材、例えばインク吸収体に含まれるアルミニウムがインクにより腐食された後、ノズル部の吐出口付近に析出したことによりインク吐出が正常に行われていないことが原因と考えられる。
【0049】
以上の結果より、記録ヘッドの保証期間が数年単位の場合、保障期間中の信頼性を確保するためには、インク供給保持部材H1501内に保持するインクのクエン酸濃度は少なくとも8ppm程度が必要であることが明らかとなった。
【0050】
以上、ノズル内に予めインクを充填しておいたヘッドと、使用直前にノズル内にインクを充填したヘッドとを用いてインクのクエン酸濃度の影響を調べた。その結果、インクのクエン酸濃度が8ppm程度であれば、発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、および、インクタンク部の金属部材のインクによる腐食を抑制することが可能であることが明らかとなった。ただし、より多くのマージンを確保するためには、本発明の形態、すなわちインク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態が不可欠である。
(インクの拡散状態)
続いて、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内のインクの拡散状態を、インクジェット記録ヘッドを作製して確認した。クエン酸濃度が20ppmのインクを使用し、インク供給保持部材H1501内のフィルタよりも上流にインクを充填した。すなわちインク吸収体に近い側の領域に各色インクを注入した後、記録素子基板H1101側からインクを吸引してノズル部内にインクを充填し、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープを貼り付けた。保護テープは上記と同様のものを使用した。
【0051】
この状態のインクジェット記録ヘッドに、60℃に保たれた環境下で1ヶ月、2ヶ月および3ヶ月間の各期間保存する加速試験を行った。その後、記録素子基板H1101のみをインク供給保持部材H1501から分離し、ノズル部を発煙硝酸で溶解して、SiNの膜減り量を測定した。シアンインクにおける、加速試験期間とSiNの膜減り量の相関を図10に示す。初期的には、試験期間に応じてSiNの膜減り量も変化するが、試験期間が2ヶ月を越えると、SiNの膜減り量はほとんど変化しなかった。シアン以外の2色についても同様の結果であった。
【0052】
インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内のインクが互いに拡散し合うならば、両者のインクへのSiNの溶解が何れも飽和状態になるまで、SiNの膜減りは継続されると考えられる。
【0053】
両者のインクへのSiNの溶解が飽和状態になるには多量のSiNの溶解が必要である。図10に加速試験期間とSiN膜減り量の相関を示すグラフを示す。これによると試験期間が2ヶ月を越えるとSiNの膜減り量はほとんど変化しなくなる。これは、記録素子基板H1101内のインクにおけるSiNの溶解は試験期間2ヶ月ほどで飽和状態になり、インク供給保持部材H1501内のインクとの拡散が起こらなくなったためと推定される。
【0054】
すなわち、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とで成分濃度の異なるインクを保持しても、互いのインクは拡散し合わないことが確認された。
(インクジェット記録ヘッドの作製)
続いて、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された形態のインクジェット記録ヘッドを作製した。
【0055】
図11に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。図11は、インクジェット記録ヘッドのノズル部H1130におけるシアンインクのインク供給口での断面を示す。なお、吐出口はインク供給口を挟んで対向する位置に設けられているため、インク供給口での断面では図示されないが、電気熱変換素子近傍におけるインクの状態を示すために図示している。また、インク供給保持部材H1501の断面は、シアンおよびマゼンタインク部が図示してあり、イエローインク部は図示されていない。フィルタH1702、H1703からインク供給口に連通する各インク流路部は複雑な形状をしているため、破線で模式的に図示している。
【0056】
まず、図11(a)に示すように、インク供給保持部材H1501内に挿入されたインク吸収体H1601、H1602、H1603にそれぞれイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを注入した。シアンインクAは図中H2002で、マゼンタインクAは図中H2003で示している。インク注入後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に溶着した。イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAは、何れもクエン酸濃度が20ppmである。
【0057】
続いて、図11(b)に示すように、ノズル部H1130側から各色インクを吸引して、ノズル部H1130内、具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを充填した。吸入によるノズル部内へのインク充填後、記録検査を行った。
【0058】
さらに、図11(c)に示すように、ノズル部H1130側からインクC(図中H2020で示す)を専用治具を使用して注入した。インクCは、イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAよりもクエン酸濃度が低く、具体的にはクエン酸濃度が0ppmで、かつ、色材成分を含有していないインクである。
【0059】
ノズル部H1130側からインク注入には、インク吸収体H1601、H1602、H1603で発生している負圧を用いた。すなわち、ノズル部H1130、具体的には吐出口部にインク溜まりがあれば、上記負圧により吐出口からノズル部H1130内部にインクが引き込まれるので、これを用いてインクを注入した。注入量は上記専用治具でノズル部H1130、具体的には吐出口部にインク溜まりを発生させ、吐出口部がインクに触れている時間で管理した。最後に、記録素子基板H1101の表面を覆うように保護テープH1951を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。記録結果は良好であった。
【0060】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
[実施例2]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とでクエン酸濃度の異なるインクが保持された、実施例1とは別の形態および製造方法のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認した。
【0061】
図12に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。なお、図12は、図11と同様、インクジェット記録ヘッドのノズル部H1130におけるシアンインクのインク供給口での断面を示す。
【0062】
まず、図12(a)に示すように、インク供給保持部材H1501内に溶着されているフィルタH1701、H1702、H1703からそれぞれイエローインクB、シアンインクB、マゼンタインクB(図中H2012)を注入した。その後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に装着した。
【0063】
イエローインクB、シアンインクBおよびマゼンタインクBは、何れもクエン酸濃度が0ppmである。このとき、インク供給保持部材H1501内に挿入されたインク吸収体H1601、H1602、H1603には一切インクは注入されていない。また、蓋部材H1901は簡易的に装着されており、容易に取り外し可能な状態としている。
【0064】
続いて、図12(b)に示すように、ノズル部H1130側から各色インクを吸引して、ノズル部H1130内に充填した。具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にイエローインクB、シアンインクB、マゼンタインクBを充填した。
【0065】
さらに、蓋部材H1901を取り外し、図12(c)に示すように、インク吸収体H1602、H1603にそれぞれイエローインクA、シアンインクA、マゼンタインクAを注入した。なお、イエローインクAを保持するインク吸収体は図示されておらず、シアンインクAは図中H2002で、マゼンタインクAは図中H2003で示されている。インク注入後、蓋部材H1901をインク供給保持部材H1501に溶着した。イエローインクA、シアンインクAおよびマゼンタインクAは、何れもクエン酸濃度が20ppmである。
【0066】
最後に、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープH1951を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行った。記録結果は良好であった。
【0067】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
[実施例3]
本実施例では、インク供給保持部材H1501内と記録素子基板H1101内とで色材濃度の異なるインクが保持された、実施例1および実施例2とは別の形態のインクジェット記録ヘッドにおける信頼性を確認する。
【0068】
まず、インクに含有する色材、具体的にはカーボンブラック顔料の濃度と、SiNの膜減り量の関係を調査した。
【0069】
実施例1と同様の、記録素子基板H1101状に切断された記録素子基板H1101を使用し、これらを8mlのインクとともに密封性の高いテフロン製の容器に入れて、60℃に保たれた環境下で2週間保存する加速試験を行った。ブラック顔料の濃度のみ、0%および4%の2種類に変えて作製したブラックインクについて試験を実施した。
【0070】
試験結果を図13に示す。顔料濃度が0%のインクでは、SiNの膜減り量は100Å以下であったのに対して、顔料濃度が4%のインクでは、SiNの膜減り量が2000Å以上と桁違いに大きくなった。すなわち、SiNの膜減りには顔料の濃度が大きく関係しており、SiNの膜減り抑制のためには、インクに含有する顔料の濃度が限りなく低い、理想的には0%、すなわち顔料が全く含まれていないことが好ましいと判明した。
【0071】
しかしながら、色材の濃度を低くすると、SiNの膜減りは抑制可能であるが、記録品位が著しく低下してしまう。上述した課題を克服可能な顔料の濃度設定は非常に困難であり、課題解決のためには、本発明の形態、すなわちインク供給保持部材内と記録素子基板内とで顔料濃度の異なるインクが保持された形態が不可欠である。
【0072】
図14に本実施例のインクジェット記録ヘッドの製造工程の断面模式図を示す。本実施例のインクジェット記録ヘッドは、インク供給保持部材H1501および記録素子基板H1101ともに顔料を使用したブラックインク1色を吐出する形態に対応している。なお、図14は、インクジェット記録ヘッドのノズル部におけるブラックインクのインク供給口での断面図を示す。
【0073】
まず、図14(a)に示すように、インク供給保持部材H1502内に挿入されたインク吸収体H1604にブラックインクA(図14(b)中のH2004)を注入する。その後、蓋部材H1902をインク供給保持部材H1502に溶着した。ブラックインクAの顔料濃度は4%である。
【0074】
続いて、図14(b)に示すように、ノズル部H1131内に、ノズル部H1131側からインクを吸引充填した。具体的にはインク供給口から吐出口に連通する領域にブラックインクA(図14(b)中のH2004)を充填した。インク充填後、記録検査を行った。
【0075】
さらに、図14(c)に示すように、ノズル部H1131側からインクD(図14(c)中のH2030)を専用治具を使用して注入した。インクDは、ブラックインクAよりも顔料濃度が低く、具体的には顔料濃度が0%のインクである。インク供給保持部材H1502内のインク吸収体H1604には負圧が発生しているため、実施例1と同様の現象により、ノズル部H1131側からインクを注入可能である。注入量は上述した専用治具でノズル部H1131、具体的には吐出口部にインク溜まりを発生させ、吐出口部がインクに触れている時間で管理した。最後に、記録素子基板H1101表面を覆うように保護テープH1952を貼り付け、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして記録を行ったところ、記録結果は良好であった。
【0076】
以上、インク供給保持部材内と記録素子基板内とでクエン酸濃度の異なるインクを保持することで発熱抵抗体を保護するための保護膜層のインクによる膜減り、インクタンク部の金属部材の腐食を抑制できていることが確認された。
【0077】
上述した各実施例における図2、図11、図12および図14に示したインクジェット記録ヘッドの断面模式図においては、フィルタからインク供給口に連通するインク流路部は破線で模式的に図示してある。前述したように、インク供給保持部材内と記録素子基板内とで成分濃度の異なるインクを保持しても、互いのインクは拡散し合わない。よって、インク流路部におけるインク状態については、特に制限を設ける必要はなく、場合によっては、気泡により両インクが分断されている形態でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】インクジェット記録ヘッドの一例の分解図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図3】記録素子基板の一部破断がなされた斜視図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドの一部断面図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドの外観斜視図である。
【図6】インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図7】クエン酸濃度とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図8】記録素子基板に近い側の領域にのみ色インクを注入してクエン酸濃度を変化させた場合の記録判定結果である。
【図9】インク吸収体に近い側の領域にのみ色インクを注入してクエン酸濃度を変化させた場合の記録判定結果である。
【図10】加速試験期間とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例1におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【図12】本発明の実施例2におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【図13】顔料濃度とSiN膜減り量の相関を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例3におけるインクジェット記録ヘッドの製造工程の一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0079】
H1001 インクジェット記録ヘッド
H1101 記録素子基板
H1103 電気熱変換素子
H1130 ノズル部
H1501 インク供給保持部材
H2002 シアンインクA
H2003 マゼンタインクA
H2004 ブラックインクA
H2012 シアンインクB
H2020 インクC
H2030 インクD
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
使用前の状態では、前記インク供給保持部材内には記録用インクが保持されており、前記記録素子基板内には保存用インクが充填されており、前記保存用インクは、前記記録用インクよりも前記保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記発熱抵抗体の保護膜の材質がSiNを含む、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記記録用インクが複数色からなり、かつ、前記保護膜層を溶解する成分がクエン酸である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記記録用インクが単色からなり、かつ、前記保護膜層を溶解する成分が色材である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インク供給保持部材内に記録用インクを注入した後、前記記録用インクよりも前記保護膜層を溶解する成分の濃度が低い保存用インクを前記ノズル部表面から注入する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記保存用インクを、前記インク供給保持部材内のインク吸収体が発生する負圧を利用して、前記ノズル部に形成された吐出口から注入する、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記記録素子基板内に保存用インクを注入した後、前記インク供給保持部材内に前記保存用インクよりも前記保護膜を溶解する成分の濃度が高い記録用インクを注入することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項1】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
使用前の状態では、前記インク供給保持部材内には記録用インクが保持されており、前記記録素子基板内には保存用インクが充填されており、前記保存用インクは、前記記録用インクよりも前記保護膜層を溶解する成分の濃度が低いことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記発熱抵抗体の保護膜の材質がSiNを含む、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記記録用インクが複数色からなり、かつ、前記保護膜層を溶解する成分がクエン酸である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記記録用インクが単色からなり、かつ、前記保護膜層を溶解する成分が色材である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インク供給保持部材内に記録用インクを注入した後、前記記録用インクよりも前記保護膜層を溶解する成分の濃度が低い保存用インクを前記ノズル部表面から注入する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記保存用インクを、前記インク供給保持部材内のインク吸収体が発生する負圧を利用して、前記ノズル部に形成された吐出口から注入する、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
インクを吐出するための発熱抵抗体を含む電気熱変換素子、前記電気熱変換素子の前記発熱抵抗体を保護するための保護膜層、およびノズル部が形成された記録素子基板と、インクが保持されているインク供給保持部材とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記記録素子基板内に保存用インクを注入した後、前記インク供給保持部材内に前記保存用インクよりも前記保護膜を溶解する成分の濃度が高い記録用インクを注入することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−253466(P2007−253466A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80828(P2006−80828)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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