説明

インクジェット記録方法

【課題】写像性に優れた印字物を得るためのインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】異なる組成の2種以上の水系インクを備えたインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、該水系インクの内、少なくとも一つのインクが、水100gに溶解しうる最大重量(20℃)が5g以下である水不溶性有機化合物を含有し、該インクが先に打たれたドットの上に、他のインクのドットが後から重ねて打たれる、インクジェット記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
その中でも、印字物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料系インクを用いるものが主流となってきている。(例えば、特許文献1〜3参照)
【0003】
特許文献1には、ビニルポリマーに顔料を含有させた水系インクが開示されている。
特許文献2には、着色剤(B)を含有するビニルポリマー粒子又はポリエステル系ポリマー粒子の水分散体、及び水不溶性有機化合物(A)を含有する、インクジェット記録用水分散体が開示されている。
特許文献3には、2種以上の異なる色のインクを備えたインクセットであって、該インクが、水不溶性有機化合物(A)、ポリマー粒子(B)及び着色剤(C)を含有するインクである、インクジェット記録用インクセットが開示されている。
しかしながら、上記の顔料分散体を含む水系インクは、写像性を向上させる印字方法については記載されていない。
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/39226号パンフレット
【特許文献2】特開2007−77375号公報
【特許文献3】特開2006−316246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、写像性に優れた印字物を得るためのインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するためには、水不溶性有機化合物を含有するインクが写真用紙上にインクジェットノズルから吐出され、インク液滴がドットとして存在する上に、後からインクジェットノズルから吐出されたインク液滴のドットが重なることが必要であることを見出した。
すなわち、本発明は、異なる組成の2種以上の水系インクを備えたインクセットを用いたインクジェット記録方法であって、該水系インクの内、少なくとも一つのインクが、水100gに溶解しうる最大重量(20℃)が5g以下である水不溶性有機化合物を含有し、該インクが先に打たれたドットの上に、他のインクのドットが後から重ねて打たれる、インクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、写真用紙(専用紙)に印字した際に、写像性の優れた印字物を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(インクジェット記録方法)
本発明は、異なる組成の2種以上の水系インクを備えたインクセットを用いたインクジェット記録方法であって、該インクの内、少なくとも一つの水系インクが、水100gに溶解しうる最大重量(20℃)が5g以下である水不溶性有機化合物を含有し、該インクが先に打たれたドットの上に、他のインクのドットが後から重ねて打たれる、インクジェット記録方法である。なお、以下、本発明を詳細に説明するが、水100gに溶解しうる最大重量(20℃)が5g以下である水不溶性有機化合物を単に「水不溶性有機化合物」ということがある。
【0009】
本発明のインクジェット記録方法において、先に水不溶性有機化合物を含有するインクが、インクジェットノズルから吐出され、インク液滴が写真用紙上にドットとして存在する。さらにそのドットの上に、次のインクがインクジェットノズルから吐出され、インク液滴のドットが重なることにより、後から打たれたインクがより拡がって印字面が平滑になることで写像性がより向上すると考えられる。これは、先に打たれたインク中に水不溶性有機化合物が存在することでドット表面が疎水的となり、後から打たれたインク中に存在する顔料、ポリマー粒子や活性剤などの疎水性物質や部位との親和性が向上し、濡れ拡がりが促進されるからであると考えられる。
【0010】
先に打たれたドットと後から重ねて打たれたドットとは、少なくとも一部が重なっていればよいが、写像性を効果的に向上させる観点から、後から打たれたドットの面積率で好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上が先に打たれたドットと重なることが好ましい。後述する測定方法による、ドット単独の直径は10〜50μm程度が好ましい。
通常、ドットとドットの重なりは、完全に一致しないので、後のドットの拡がる面積は、最初に打たれたドットの上に重なって拡がった面積と、後から打たれたドットが単独で拡がった面積との合計面積となる(図1(b)参照)。したがって、最初に打たれたドットが連続して広がっている面積、即ち連続したドットのつながりの上に、後のドットのインクが重なることが、後のドットの拡がる面積を増大できることになり、好ましい。
また、後から重ねて打たれるインク中に、水不溶性有機化合物が含有していても、含有していなくてもよいが、該インクに、更に他のインクを重ねて打つような場合には、後から打たれるインク中にも、水不溶性有機化合物が存在することが好ましい。
【0011】
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクセットは、異なる組成の2種以上のインクを備えている。ここで、「異なる組成」とは、インク中に含有される成分及び/又は含有量が異なることを言う。具体的には、色の異なる2種以上のインク、インク中の着色剤の含有量が異なる2種以上のインク、水不溶性有機化合物の種類が異なる2種以上のインク、及びインク中の水不溶性有機化合物の含有量が異なる2種以上のインクから選ばれる1種以上が好ましい。また、「異なる色」とは、クリアインクを除いて、日本電色工業株式会社の分光式色差計SE−2000を用いて、印字物をD65/2の光の波長で反射光を測定し、L***表色系で表示したとき、a*(赤−緑方向の色度)及び/又はb*(黄−青方向の色度)が同一でない色をいう。インクとしては、例えば、シアンインク、イエローインク、マゼンタインク、ライトシアンインク、ダークイエローインク、ライトマゼンタインク、ブラックインク(以上、着色インクという)及びクリアインクからなる群から選ばれる2種以上が挙げられる。ここでクリアインクとは、実質的に着色剤を含まないインクである。
インクセットは、これらから選ばれる2色以上のインクの組み合わせからなるセットが好ましく、3色インクセット、4色インクセット、5色インクセット、6色インクセット、7色インクセット以上のいずれであってもよい。
着色剤の含有量の異なるとは、インク中、着色剤の含有量の差が、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上であることをいう。水不溶性有機化合物の種類が異なるとは、後述する水不溶性有機化合物の化学構造が異なることであり、水不溶性有機化合物の含有量が異なるとは、インク中、水不溶性有機化合物の含有量の差が、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1.0重量%以上であることをいう。
【0012】
本発明のインクジェット記録方法において、先に打たれる水系インク及び/又は後から重ねて打たれる水系インクには、好ましくはポリマー粒子を含有する。
本発明に用いられるインクセットは、好ましくはクリアインクと着色インクとを含む。なお、クリアインクは、好ましくはポリマー粒子を含有しており、写真用紙(専用紙)に印字した際、高印字面積率部分と低印字面積率部分、あるいは印字部分と無印字部分との間のドットの高さの差をなくすために用いられ、写像性を向上させることができる。
【0013】
先に打たれるインクがクリアインクであり、後から重ねて打たれるインクが着色インクである場合の具体的態様としては、クリアインクが、水不溶性有機化合物とポリマー粒子とを含むインクが好ましい。着色インクは、着色剤と、ポリマー粒子とを含むインクであることが好ましく、着色剤を含有するポリマー粒子(以下、「着色剤含有ポリマー粒子」ということがある。)を含むインクであることが更に好ましい。着色インクは、水不溶性有機化合物を含有していてもよい。クリアインク及び着色インクに含有されるポリマー粒子としては、架橋ポリマー粒子であることが好ましい。
ここで、着色剤含有ポリマー粒子を含むインクとは、着色剤を含有するポリマーの固体分が水系インク中に分散しているものをいう。
【0014】
先に打たれるインクが着色インクであり、後から重ねて打たれるインクがクリアインクである場合の具体的態様としては、着色インクが、水不溶性有機化合物と、着色剤と、ポリマー粒子とを含むインクであることが好ましく、水不溶性有機化合物と、着色剤含有ポリマー粒子とを含むインクであることが更に好ましい。クリアインクは、ポリマー粒子を含むインクが好ましい。クリアインクが水不溶性有機化合物を含有していてもよい。着色インク及びクリアインクに含有されるポリマー粒子としては、架橋ポリマー粒子であることが好ましい。
【0015】
先に打たれるインクと、後から重ねて打たれるインクがいずれも着色インク又はクリアインクであってもよく、この場合の具体的態様としては、先に打たれる着色インクが、水不溶性有機化合物と、着色剤と、ポリマー粒子とを含むインクであることが好ましく、水不溶性有機化合物と、着色剤含有ポリマー粒子とを含むインクであることが更に好ましい。後から重ねて打たれる着色インクは、着色剤と、ポリマー粒子とを含むインクであることが好ましく、着色剤含有ポリマー粒子を含むインクであることが更に好ましい。
先に打たれるクリアインクは、水不溶性有機化合物とポリマー粒子とを含むインクであることが好ましい。後から重ねて打たれるクリアインクはポリマー粒子を含むインクが好ましい。
後から打たれる着色インク、クリアインクには、水不溶性有機化合物を含有していてもよい。ポリマー粒子としては、架橋ポリマー粒子であることが好ましい。
【0016】
本発明において、より好ましい態様は、先に打たれるインクがクリアインクであり、後から打たれるインクが着色インクである。クリアインクは着色インクに比較して通常、固形分が少ないので、ドットを拡げる効果が小さい。このため、クリアインクに水不溶性有機化合物を含有させ、後から打たれる着色剤を含有するインクのドットを拡げることで、写像性をより効果的に向上させることができる。
【0017】
本発明のインクジェット記録方法は、ドットを重ねて印字する打ち方が好ましく、パス数が多い方が好ましい。したがって、1パスで打つよりも、2パスや4パスの複数のパスで打つ打ち方が好ましい。
写像性を向上させる観点からは、印字紙は写真用紙(専用紙)を用いることが好ましい。
【0018】
(水不溶性有機化合物)
本発明において、水不溶性有機化合物が、先に打たれたドット中に存在することで、ドット表面が疎水的となり、後から打たれたインク中に存在する顔料、ポリマー粒子や活性剤などの疎水性物質や部位との親和性が向上し、濡れ拡がりが促進されて印字面が平滑になることにより、印字物の写像性が向上すると考えられる。
更に、ポリマー粒子を用いた場合には、水不溶性有機化合物は、少なくともその一部がポリマー粒子に含有されて、ポリマー粒子の柔軟性を改良し、該ポリマー粒子同士の融着性が高まり、該ポリマー粒子が記録紙上に均一に拡散して、印字面が平滑になることにより、印字物の写像性が向上すると考えられる。
【0019】
水不溶性有機化合物は、写像性を向上させる観点から、分子量100〜2,000のものが好ましく、分子量100〜1,200のものがより好ましい。
水100gに溶解しうる水不溶性有機化合物の最大重量(20℃)は、5g以下、好ましくは3g以下、更に好ましくは1g以下、特に好ましくは0.5g以下である。
水不溶性有機化合物は、専用紙に印字した際の印字物の写像性を向上させると共に、水不溶性化合物を含有する水分散体の保存安定性を向上させる観点から、そのLogP値が好ましくは4〜16、より好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
【0020】
ここで「LogP値」とは、水不溶性有機化合物の1−オクタノール/水の分配係数の対数値を意味し、KowWin(Syracuse Research Corporation,USA)のSRC's LOGKOW / KOWWIN Programにより、フラグメントアプローチで計算された数値を用いる(The KowWin Program methodology is described in the following journal article: Meylan, W.M. and P.H. Howard. 1995. Atom/fragment contribution method for estimating octanol-water partition coefficients. J. Pharm. Sci. 84: 83-92.)。フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している。LogP値は、一般に有機化合物の親疎水性の相対的評価に用いられる数値である。
【0021】
水不溶性有機化合物は、ポリマー粒子に含有させ易くするため、エステル化合物、エーテル化合物、及びスルホン酸アミド化合物からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、分子中に、エステル又はエーテル結合を2個以上有する、エステル又はエーテル化合物(f)、及び/又は、分子中に、エステル又はエーテル結合を1個以上と、カルボキシ基、硫酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸残基、カルボニル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を1個以上有する、エステル又はエーテル化合物(g)がより好ましい。前記(f)化合物のエステル又はエーテル結合は、2〜3個が好ましく、エステル結合とエーテル結合とを有するものでもよい。前記(g)化合物のエステル又はエーテル結合は、1〜3個が好ましい。官能基数は、1〜3個が好ましい。なお、リン酸残基とは、リン酸の一部がエステル化された残りのリン酸基のことをいう。
エステル化合物の中では、1価カルボン酸又はその塩と多価アルコールから得られるエステル、多価酸(多価カルボン酸、リン酸)又はその塩と1価アルコールから得られるエステルが好ましく、エーテル化合物の中では、多価アルコールのエーテルが好ましい。塩としては、アルカリ金属塩、アルカノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
1価カルボン酸としては、炭素数1〜18、好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族カルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸等の直鎖脂肪族カルボン酸、ピバリン酸等の分岐脂肪族カルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸)、炭素数6〜12の芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸)等が挙げられる。
多価酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸、フタル酸、トリメリット酸等の炭素数6〜12の芳香族カルボン酸、リン酸等が挙げられる。
1価アルコールとしては、炭素数1〜18、好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族アルコール(例えば、エチルアルコール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール)、炭素数6〜12の芳香族アルコール(例えば、フェノール)及びこれらのアルキレンオキサイド化合物等が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の炭素数2〜12の多価アルコール及びこれらのアルキレンオキサイド化合物等が挙げられる。脂肪酸やアルコールとしては飽和又は不飽和のいずれのものも使用できる。
【0023】
水不溶性有機化合物の具体例としては、(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル、(4)リン酸エステル、(5)オキシ酸エステル、(6)グリコールエステル、(7)エポキシ系エステル、(8)スルホンアミド、(9)ポリエステル、(10)グリセリルアルキルエーテル、(11)グリセリルアルキルエステル、(12)グリコールアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、写像性向上の観点から、前記(1)〜(5)、(8)及び(10)の化合物が好ましく、(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル及び(4)リン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、脂肪族ジカルボン酸エステル、芳香族ジ又はトリカルボン酸エステル、シクロアルカン(ケン)ジカルボン酸エステル及びリン酸ジ又はトリエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0024】
(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、及び(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルは、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、R3は炭素数1〜18の2価の炭化水素基を示す。R1及びR2は同一でも異なっていてもよいが、R1及びR2が共に水素原子である場合を除く。R1〜R3は置換基を有していてもよい。m及びnは、それぞれ独立に0〜30の平均付加モル数を示し、AOはアルカンジイルオキシ基を示す。)
【0027】
1及びR2は、印字物の写像性を向上させる観点から、好ましくは炭素数2〜18、更に好ましくは炭素数4〜12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数7〜23、好ましくは炭素数7〜11のアラルキル基、あるいは炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、セチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。以下の式においても同様である。
3は、2価の脂肪族炭化水素基、環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基が好ましく、好ましくは炭素数2〜15、更に好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルカンジイル基(アルキレン基)又はアルケニレン基あるいは、炭素数6〜10のアリーレン基、更に好ましくはフェニレン基、炭素数3〜8の環式飽和又は不飽和炭化水素基である。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基、ヘプタメチレン基、ヘキサメチレン基、ペンタン−1,5−ジイル基、オクタメチレン基、ドデカメチレン基、フェニレン基等が挙げられる。以下の式においても同様である。
m及びnは、それぞれ独立に、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜15、更に好ましくは1〜15、特に好ましくは2〜14、最も好ましくは2〜12である。
【0028】
AOは、エチレンオキシ基(EO)、プロピレンオキシ基(トリメチレンオキシ基又はプロパン−1,2−ジイルオキシ基)(PO)、又はブチレンオキシ基(テトラメチレンオキシ基等)(BO)等の炭素数2〜4のアルカンジイルオキシ基(アルキレンオキシ基)であり、m及びnが2以上の場合はAOは同一でも異なっていてもよく、異なる場合はAOはブロック付加していても、ランダム付加していてもよい。
1〜R3が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素原子等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、メトキシカルボニル基等のオキシカルボニル基、アセチル、ベンゾイル基等のアシル基、アセチルオキシ基等のアシルオキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、オキソ基、エポキシ基、エーテル基、エステル基等が例示できる(これらを総称して「置換基」という)。これらの置換基は1つであっても2つ以上を組み合わせてもよい。
3が有していてもよい置換基としては、−CO(O)−(AO)L−R4が好ましい。式中、AOは前記と同じである。Lは、前記のmと同じ意味を示し、好ましい範囲も同じである。R4は、前記のR1と同じ意味を示し、好ましい範囲も同じである。この場合、R3は、芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0029】
(1)脂肪族カルボン酸エステルは、より具体的には、前記式(1)において、R3が、置換基を有していてもよい、2価の脂肪族炭化水素基である化合物が更に好ましい。この置換基としては前記の置換基が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、ジメチルアジペート、ジエチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート、ジメチルセバケート、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネート、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート等の脂肪族二塩基酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ジエチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート、ビス(オクトキシポリエチレングリコール)アジペート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EOの各平均付加モル数m及びn=1〜4)、ビス(オクトキシポリプロピレングリコール)アジペート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、POの各平均付加モル数m及びn=1〜6)、ビス(オクトキシポリエチレングリコール・ポロプロピレングリコール)アジペート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ブロック付加)、ビス[オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)]アジペート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ランダム付加)、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジイソブチルセバケート等の炭素数6〜14の脂肪族二塩基酸のジエステルが特に好ましい。
【0030】
(2)芳香族カルボン酸エステルは、より具体的には、下記式(2)で表される化合物が更に好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味であり、同一でも異なっていてもよい。AO、m及びnは、前記と同じ意味であり、m及びnはが2以上の場合、AOは同一でも異なっていてもよい。)
芳香族カルボン酸エステルの具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ステアリルベンジルフタレート、オクチルデシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジフェニルフタレート、ビス(ジメチルシクロヘキシル)フタレート、ビス(t−ブチルシクロヘキシル)フタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル、トリブチルトリメリテート、トリイソブチルトリメリテート、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート等の炭素数1〜5の脂肪族アルコール残基を有するフタル酸ジエステル、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ステアリルベンジルフタレート等の炭素数3〜18のアルキル基を有するベンジルフタレート、ビス(オクトキシポリエチレングリコール)フタレート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EOの各平均付加モル数m及びn=1〜5)、ビス(オクトキシポリプロピレングリコール)フタレート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、POの各平均付加モル数m及びn=1〜4)、ビス(オクトキシポリエチレングリコール・ポロプロピレングリコール)フタレート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ブロック付加)、ビス[オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)]フタレート(R1及びR2は共に2-エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ランダム付加)等のフタル酸エステル、及びトリブチルトリメリテート、トリイソブチルトリメリテート等の炭素数3〜5の脂肪族アルコール残基を有するトリメリット酸ジエステルが特に好ましい。
【0033】
(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルは、下記式(3)で表されるシクロヘキサン(セン)カルボン酸エステルが更に好ましい。(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルは、シクロアルカン(ケン)基としては、炭素数3〜8の不飽和基を1つ有していてもよい、環式炭化水素基が挙げられる。
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味であり、同一でも異なっていてもよい。AO、m及びnは、前記と同じ意味であり、m及びnはが2以上の場合はAOは同一でも異なっていてもよい。)
シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルの具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジブチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル等のシクロヘキサンカルボン酸エステル類、3,4−シクロヘキセンジカルボン酸ジブチルエステル、3,4−シクロヘキセンカルボン酸ジイソノニルエステル等のシクロヘキセンカルボン酸エステル等が挙げられる。
(4)リン酸エステルは下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味であり、同一でも異なっていてもよい。)
(4)リン酸エステルの具体例としては、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート等の炭素数5〜9のアルコキシアルキル基を有するリン酸エステル、トリブチルホスフェート等の炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基を有するリン酸エステル、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等の炭素数7〜12の芳香族炭化水素基を有するリン酸エステルが特に好ましい。リン酸エステルは、リン酸ジ又はトリエステルが好ましい。
【0038】
(5)オキシ酸エステルの具体例としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸メチル等が挙げられる。
【0039】
(6)グリコールエステルの具体例としては、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキソエート)等が挙げられる。
【0040】
(7)エポキシ系エステルの具体例としては、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸オクチル等が挙げられる。
【0041】
(8)スルホンアミドの具体例としては、o−及びp−トルエンスルホンアミド、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
【0042】
(9)ポリエステルの具体例としては、ポリ(1,2−ブタンジオールアジペート)、ポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)等が挙げられる。
【0043】
(10)グリセリルアルキルエーテルの具体例としては、グリセリルモノエーテル、グリセリルジエーテル、グリセリルトリエーテルが挙げられる。これらの中では、炭素数8〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するグリセリルモノエーテルが好ましい。アルキル基の炭素数としては、より好ましくは8〜22、更に好ましくは8〜14である。アルキル基の位置に特に制限はない。
【0044】
(11)グリセリルアルキルエステルの具体例としては、グリセリルモノアルキルエステル、グリセリルジアルキルエステル、グリセリルトリアルキルエステルが挙げられる。
これらの中では、炭素数1〜18、好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族カルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸等の直鎖脂肪族カルボン酸、ピバリン酸等の分岐脂肪族カルボン酸)エステルが好ましい。アルキル基の総炭素数は、6以上が好ましく、8以上が更に好ましい。
より具体的には、グリセリルトリアセテート、グリセリルジアセテート、グリセリルモノアセテート等が挙げられる。
【0045】
(12)グリコールアルキルエーテルの具体例としては、グリコールモノアルキルエーテル、グリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
グリコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。アルキル基の総炭素数は、6以上が好ましく、8以上が更に好ましい。
上記の水不溶性有機化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、写像性の観点から前記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0046】
(着色剤)
着色インクに用いられる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができるが、耐水性、保存安定性及び耐擦過性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いることが好ましい。即ち、本発明は、顔料を用いた水系インクの写像性と保存安定性を高めるのに適する。
顔料及び疎水性染料は、水系インクに使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にすることが好ましい。更に、耐滲み性、耐水性等の観点から、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0047】
疎水性染料は、その種類には特に制限がないが、ポリマー粒子中に含有させることができるものが好ましい。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20〜500g/L(25℃)溶解するものが望ましい。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリエント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
上記の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0048】
(ポリマー粒子)
本発明に用いられる水系インクの中で、先に打たれる水系インクには、水不溶性有機化合物をポリマー粒子中に含有させ、水系インク中で安定化させる観点から、ポリマー粒子を含有することが好ましい。
更には、先に打たれた水系インクのドット中の水不溶性有機化合物により、後から重ねて打たれるインクのドットを効果的に拡げることで、写像性を向上させる観点から、後から重ねて打たれる水系インクにも、ポリマー粒子を含有することが好ましい。
したがって、本発明で用いられるインクセットを構成する水系インクには、ポリマー粒子を含有させることが好ましい。着色インクの場合には、水系インク中、着色剤をポリマー粒子に含有させ、着色剤を安定に分散させることもできる。
【0049】
ポリマー粒子に用いられるポリマーは、写像性を向上させる観点及び水不溶性有機化合物や着色剤を安定化させる観点から、水不溶性ポリマーが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。溶解量は、ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0050】
用いるポリマーとしては、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられるが、その保存安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニルポリマーが好ましい。
ポリマー粒子としては、ビニルポリマー粒子、エステル系ポリマー粒子、ウレタン系ポリマー粒子等が挙げられる。これらの粒子は、連続相を水系とする媒体中に、界面活性剤の存在下又は不存在下で、ポリマーエマルジョンとなって分散可能であるポリマー粒子が好ましい。特に、(i)界面活性剤及び/又は反応性界面活性剤を用いて、エチレン性不飽和モノマーを乳化重合してなる乳化重合ポリマー粒子、及び(ii)塩生成基含有モノマー由来の構成単位を含む自己乳化ポリマー粒子が好ましい。
前記(ii)自己乳化ポリマー粒子とは、界面活性剤の不存在下、ポリマー自身の官能基(特に塩基性基又はその塩)によって、水中で乳化状態であるポリマーの粒子をいう。
ここで乳化状態とは、ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で、少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0051】
(ビニルポリマー)
ビニルポリマーとしては、(a)塩生成基含有モノマー(以下「(a)成分」ということがある)と、(b)マクロマー(以下「(b)成分」ということがある)及び/又は(c)疎水性モノマー(以下「(c)成分」ということがある)とを含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ということがある)を共重合させてなるビニルポリマーが好ましい。このビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。より好適なビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位、又は(a)及び(c)成分由来の構成単位を主鎖として有し、(b)成分由来の構成単位を側鎖として有するグラフトポリマーである。
【0052】
(a)塩生成基含有モノマーは、得られる分散体の保存安定性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられ、特に好ましくはカルボキシ基である。
塩生成基含有モノマーとしては、特開平9−286939号公報段落〔0022〕等に記載されているカチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、保存安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0053】
(b)マクロマーは、ポリマー粒子の保存安定性を高める観点から用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。なお、(b)マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(b)マクロマーの中では、ポリマー粒子の保存安定性等の観点から、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0054】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、それらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が好ましい。
スチレン系マクロマー中におけるスチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー中における芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は、顔料との親和性を高める観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0055】
(b)マクロマーは、オルガノポリシロキサン等の他の構成単位からなる側鎖を有するものであってもよい。この側鎖は、例えば下記式(5)で表される片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマーを共重合することにより得ることができる。
CH2=C(CH3)-COOC36-〔Si(CH32O〕t-Si(CH33 (5)
(式中、tは8〜40の数を示す。)。
(b)成分として商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
【0056】
(c)疎水性モノマーは、印字濃度の向上の観点から用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はそれらの両方を示す。
【0057】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、前記のスチレン系モノマー(c−1成分)、前記の芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)が挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、前記のものが挙げられる。
(c)成分の中では、印字濃度向上の観点から、スチレン系モノマー(c−1成分)が好ましく、スチレン系モノマーとしては特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。(c)成分中の(c−1)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2)成分としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。(c)成分中の(c−2)成分の含有量は、印字濃度及び光沢性の向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。また、(c−1)成分と(c−2)成分を併用することも好ましい。
【0058】
モノマー混合物には、更に、(d)水酸基含有モノマー(以下「(d)成分」ということがある)が含有されていてもよい。(d)水酸基含有モノマーは、保存安定性を更に高めるために用いられる。
(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0059】
モノマー混合物には、更に、(e)下記式(6)で表されるモノマー(以下「(e)成分」ということがある)が含有されていてもよい。
CH2=C(R5)COO(R6O)q7 (6)
(式中、R5は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R6は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R7は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基又は炭素数1〜9のアルキル基を有してもよいフェニル基、qは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは1〜30の数を示す。)
(e)成分は、吐出性を更に向上させるために用いられる。
式(12)のモノマーに含まれるヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
5の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
6O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシトリメチレン墓、オキシプロパン−1,2−ジイル基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルカンジイル基(オキシアルキレン基)が挙げられる。
7の好適例としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20、更に好ましくは炭素数1〜8の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基、炭素数1〜8のアルキル基を有していてもよいフェニル基が挙げられる。
【0060】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(6)中のqの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテルが好ましい。
【0061】
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE600B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0062】
ポリマー製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、特に着色剤との相互作用を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(c)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
(d)成分の含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
(e)成分の含有量は、吐出性向上の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
モノマー混合物中における〔(a)成分+(d)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。また、〔(a)成分+(d)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、得られる分散体の保存安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0063】
(ポリマーの製造)
本発明で用いられるポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0064】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0065】
本発明で用いられるポリマーの重量平均分子量は、写像性及び着色剤の保存安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が特に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定した。
本発明で用いられるポリマーは、(a)塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0066】
塩生成基の中和度は、10〜200%であることが好ましく、さらに20〜150%、特に50〜150%であることが好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。ポリマーの酸価又はアミン価は、50〜200が好ましく、50〜150が更に好ましい。
【0067】
(架橋ポリマー粒子)
本発明に用いる水系インクには、ポリマー粒子として、好ましくは架橋ポリマー粒子を含有させることができる。クリアインクに用いられるポリマー粒子が架橋ポリマー粒子である場合は、写像性と保存安定性を向上させることができ、好ましい。着色インクに用いられるポリマー粒子が架橋ポリマー粒子である場合は、保存安定性を向上させることができ、好ましい。
【0068】
(架橋剤)
架橋ポリマー粒子の製造に、ポリマーを適度に架橋する観点から、少なくとも2個の反応性官能基を有する架橋剤(以下、単に「架橋剤」ともいう)を用いることが好ましい。架橋剤の分子量は、反応のし易さ、及び得られる架橋ポリマー粒子の保存安定性の観点から、120〜2000が好ましく、150〜1500が更に好ましく、150〜1000が特に好ましい。
架橋剤に含まれる反応性官能基の数は、分子量を制御して保存安定性を向上する観点から、2〜6が好ましい。反応性官能基としては、水酸基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシ基、オキサゾリン基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。
反応性官能基の数は、分子量を制御して写像性を向上する観点から、2〜4が好ましい。反応性官能基としては、水酸基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、及びカルボキシ基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。
架橋剤の具体例としては、次の(a)〜(g)が挙げられる。
(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物:例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール。
(b)分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
(c)分子中に2つ以上のアルデヒド基を有する化合物:例えば、グルタールアルデヒド、グリオキザール等のポリアルデヒド。
(d)分子中に2つ以上のアミノ基を有する化合物:例えば、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン等のポリアミン。
(e)分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物:例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸の等多価カルボン酸。
(f)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2〜3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物
(g)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
【0069】
前記ポリマーは、架橋剤と反応しうる反応性基(架橋性官能基)を有するが、両者の好適な組合せ例は、次のとおりである。
ポリマーの反応性基がカルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基等のアニオン性基の場合は、架橋剤は前記(a)、(b)、(d)及び(f)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基がアミノ基の場合は、架橋剤は前記(b)、(c)及び(e)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基が水酸基の場合は、架橋剤は前記(c)及び(e)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基がイソシアネート基、エポキシ基の場合は、架橋剤は前記(a)、(d)及び(e)化合物が好ましい。
上記の組合せの中では、ポリマーに適度な架橋構造を付与するように制御する観点から、架橋剤が、ポリマーのアニオン性基と反応する官能基を有することが好ましく、(b)分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物との組合せが特に好ましい。
【0070】
(着色剤含有ポリマー粒子/着色剤含有架橋ポリマー粒子)
本発明において、着色剤をポリマー粒子に含有させる観点から、着色剤含有ポリマー粒子を用いることが好ましく、水不溶性有機化合物を含有させても保存安定性に優れる観点から、着色剤を含有する架橋ポリマー粒子(以下、「着色剤含有架橋ポリマー粒子」ということがある。)を用いることが更に好ましい。
【0071】
着色剤含有ポリマー粒子は、例えば、次の工程(1)及び(2)により製造することができる。また、着色剤含有架橋ポリマー粒子は、例えば、次の工程(1)〜(3)により製造することができる。
工程(1):ポリマー、有機溶媒、着色剤、水、及び必要なら中和剤を含有する混合物を分散処理して、着色剤含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた着色剤含有ポリマー粒子のポリマーを架橋剤で架橋させて、着色剤含有架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0072】
工程(1)では、まず、前記ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。混合物中、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
ポリマーが塩生成基を有する場合、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。前記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては、前記のものが挙げられる。また、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。好ましくは、水100gに対する溶解量が20℃において、5g以上が好ましく、10g以上が更に好ましく、より具体的には、好ましくは5〜80g、更に好ましくは10〜50gのものであり、特に、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0073】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくはアンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いる予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃が更に好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を用いる場合に、顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0074】
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去することで、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られたポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、必要により工程(3)の架橋後に再除去してもよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
得られた着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有するポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤とポリマーにより複合粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0075】
工程(3)では、得られた着色剤含有ポリマー粒子のポリマーを架橋剤で架橋させて、着色剤含有架橋ポリマー粒子を得ることができる。工程(3)では、保存安定性の観点から、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体と架橋剤とを混合してポリマーを架橋させる方法が好ましい。また、触媒、溶媒、反応温度、反応時間は、用いる架橋剤により適宜選択して決めることができる。反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、更に好ましくは1〜5時間、反応温度は、好ましくは40〜95℃である。
また、ポリマーの架橋工程としては、前記工程(1)で得られた着色剤を含有するポリマー粒子の分散体と架橋剤とを混合して、ポリマーを架橋させることもできる。この場合は、該架橋工程で得られた架橋ポリマー粒子の分散体から、有機溶媒を除去する工程を前記工程(2)と同様に行うことにより、着色剤を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。
着色剤含有架橋ポリマー粒子の架橋度は、保存安定性の観点から、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは0.6〜15重量%、更に好ましくは0.7〜10重量%、特に好ましくは0.8〜8重量%である。
着色剤含有架橋ポリマー粒子の架橋剤による架橋度は、後述する方法により求めることができる。
【0076】
(クリアインク用ポリマー粒子/クリアインク用架橋ポリマー粒子)
本発明で用いられるクリアインクには、写像性を向上させる観点から、好ましくはポリマー粒子を含有させるが、水不溶性有機化合物を含有させても保存安定性に優れる観点から、架橋ポリマー粒子を含有させることが更に好ましい。
【0077】
クリアインクに用いるポリマー粒子は、着色剤を含有しないことを除いて、前記工程(1)及び(2)の着色剤含有ポリマー粒子と同じ製法により得ることができる。また、クリアインクに用いる架橋ポリマー粒子は、着色剤を含有しないことを除いて、前記工程(1)〜(3)の着色剤含有架橋ポリマー粒子と同じ製法により得ることができる。
架橋ポリマー粒子の架橋度は、保存安定性の観点から、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは0.6〜15重量%、更に好ましくは0.7〜10重量%、特に好ましくは0.8〜8重量%である。
クリアインク用架橋ポリマー粒子の架橋剤による架橋度は、後述する方法により求めることができる。
【0078】
架橋ポリマー粒子は、下記工程1及び2により製造することもできる。
工程1:ポリマー、少なくとも2個の反応性不飽和基を分子中に有する架橋性モノマー、有機溶媒、必要なら疎水性モノマー、及び水を含有する乳化組成物を得る工程
工程2:工程1で得られた乳化組成物中の該疎水性モノマーと該架橋性モノマーとを重合して架橋ポリマー粒子の分散体を得る工程
【0079】
工程1では、まず、前記ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に少なくとも2個の反応性不飽和基を分子中に有する架橋性モノマー、必要なら疎水性モノマー、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、乳化組成物を得る方法が好ましい。乳化組成物中、有機溶媒は5〜60重量%が好ましく、5〜40重量%が更に好ましく、ポリマーは、1〜30重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、疎水性モノマーは、1〜30重量%が好ましく、2〜20重量%が更に好ましく、架橋性モノマーは、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましく、水は、30〜90重量%が好ましく、40〜85重量%が更に好ましい。ポリマー、有機溶媒としては前記のものが好ましく挙げられる。
ポリマーが塩生成基を有する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えばpHが4.5〜10であることが好ましい。また、塩生成基を有する水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。中和剤としては、前記のものが挙げられる。
【0080】
工程1における乳化方法に特に制限はないが、超音波分散法等によりモノマー混合物を十分に乳化させておくことが好ましい。超音波分散機としては、周波数20〜2000kHz、反応総液量の1リットル当たりのワット数が好ましくは20〜1000W、より好ましくは50〜800Wであるものが望ましい。かかる超音波分散機は、株式会社日本精機製作所、アレックス社等から市販されている。工程1の乳化条件は、5〜50℃が好ましく、0.5〜3時間程度が好ましい。
少なくとも2個の反応性不飽和基を分子中に有する架橋性モノマーの使用量は、写像性、保存安定性の観点から、疎水性モノマーと架橋性モノマーとの合計100重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましく、1〜10重量部が更に好ましい。
【0081】
ここで疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。これらの具体例としては、前記ポリマー欄に記載した疎水性モノマーが挙げられる。これらの中では、特にスチレン、2−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、及びベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族基含有(メタ)アクリレートが好ましい。
【0082】
少なくとも2個の反応性不飽和基を分子中に有する架橋性モノマー(単に「架橋性モノマー」ともいう)としては、(1)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(2)N−メチルアリルアクリルアミド、ビスアクリルアミド酢酸等のアクリルアミド化合物;(3)ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;(4)ペンタエリスリトールのアリルエーテル化体等のポリアリル化合物等が挙げられる。
【0083】
工程2では、得られた乳化組成物中の該疎水性モノマーと該架橋性モノマーとを重合して架橋ポリマー粒子の分散体を得ることができる。
上記反応における触媒、溶媒、温度、時間は、用いるモノマーを考慮して適宜決定することができる。反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、更に好ましくは1〜5時間であり、反応温度は、好ましくは40〜95℃である。
架橋ポリマー粒子の架橋性モノマーによる架橋度は、保存安定性の観点から、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%である。
着色剤含有架橋ポリマー粒子、クリアインク用架橋ポリマー粒子の架橋度は、下記の式により、求めることができる。
架橋ポリマー粒子の架橋度(重量%)=[(架橋性モノマー量+架橋剤量)/架橋ポリマー量]×100 (7)
架橋ポリマー全体量は、架橋後のポリマー量である。
架橋剤により架橋する場合:架橋ポリマー全体量は、架橋剤量とポリマー量との合計仕込み計算量であり、分子の架橋性モノマー量は0となる。
架橋性モノマーにより架橋する場合:架橋ポリマー全体量は、架橋性モノマー量と疎水性モノマー量とポリマー量との仕込み合計計算量であり、分子の架橋剤量は0となる。
架橋性モノマーと架橋剤を両方用いることもできる。
【0084】
(クリアインク)
本発明で用いられるクリアインクは、水不溶性有機化合物とポリマー粒子又は架橋ポリマー粒子とを含むインクが好ましい。クリアインクには、前記で得られたポリマー粒子の水分散体又は架橋ポリマー粒子の水分散体を好ましく用いることができる。
クリアインクは、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加してもよい。
クリアインク中のポリマー粒子及び/又は架橋ポリマー粒子の含有量(固形分量)は、写像性の観点から、0.3〜15重量%が好ましく、0.5〜12重量%が更に好ましく、0.7〜10重量%が特に好ましい。水の含有量は、60〜95重量%が好ましく、60〜90重量%が更に好ましい。
クリアインクが、水不溶性有機化合物を含有する場合、前記ポリマー粒子及び/又は架橋ポリマー粒子を含有する水分散体と水不溶性有機化合物とを混合し、適宜分散することで、水不溶性有機化合物の少なくとも一部は、ポリマー粒子に含有され、安定化される。
クリアインク中、水不溶性有機化合物を含有する場合の含有量は、好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.05〜2重量%、特に好ましくは0.1〜1.5重量%である。
ポリマー粒子及び/又は架橋ポリマー粒子と、水不溶性有機化合物との重量比〔水不溶性有機化合物/(ポリマー粒子又は架橋ポリマー粒子)〕は、1/100〜1/1が好ましく、1/20〜1/5が更に好ましい。
ポリマー粒子、及び架橋ポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び分散安定性の観点から、好ましくは10〜500nm、より好ましくは30〜300nm、特に好ましくは50〜200nmである。なお、平均粒径は、例えば、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて、下記条件で測定することができる。
測定条件:温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力、測定濃度 通常5×10‐3重量%程度
【0085】
(着色インク)
本発明に用いられる着色インクは、水不溶性有機化合物と着色剤とポリマー粒子又は架橋ポリマー粒子とを含むインクであることが好ましい。着色インクには、前記で得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体又は着色剤含有架橋ポリマー粒子の水分散体を好ましく用いることができる。
着色インク中の着色剤の含有量は、1〜15重量%が好ましく、2〜12重量%が更に好ましく、3〜10重量%がより更に好ましい。
着色インクには、通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加してもよい。
着色インク中のポリマー粒子及び/又は架橋ポリマー粒子の含有量(固形分量)は、写像性の観点から、0.3〜15重量%が好ましく、0.5〜12重量%が更に好ましく、0.7〜10重量%が特に好ましい。
着色剤は、保存安定性の観点から、ポリマー粒子中に含有されて着色剤含有ポリマー粒子又は着色剤含有架橋ポリマー粒子となることが好ましい。
【0086】
着色剤含有ポリマー粒子又は着色剤含有架橋ポリマー粒子の含有量は、1〜20重量%が好ましく、1.5〜15重量%が更に好ましく、1.5〜12重量%が好ましい。水の含有量は、50〜80重量%が好ましく、60〜80重量%が更に好ましい。
着色インクが水不溶性有機化合物を含有する場合、前記着色剤含有ポリマー粒子又は着色剤含有架橋ポリマー粒子を含有する水分散体と水不溶性有機化合物とを混合し、適宜分散することで、水不溶性有機化合物の少なくとも一部は、ポリマー粒子に含有され、安定化される。
着色インク中、水不溶性有機化合物を含有する場合の含有量は、好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.05〜2重量%、特に好ましくは0.1〜1.5重量%である。ポリマー粒子及び/又は架橋ポリマー粒子と、水不溶性有機化合物との重量比〔水不溶性有機化合物/(ポリマー粒子又は架橋ポリマー粒子)〕は、1/100〜1/1が好ましく、1/20〜1/5が更に好ましい。
【0087】
着色剤含有ポリマー粒子及び着色剤含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び分散安定性の観点から、好ましくは10〜500nm、更に好ましくは30〜300nm、特に好ましくは50〜200nmである。平均粒径の測定方法は前記と同じである。
クリアインク及び着色インクにおける表面張力(20℃)は、好ましくは25〜50mN/m、更に好ましくは27〜45mN/mである。
クリアインク及び着色インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持する観点から、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。
【実施例】
【0088】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」の意味である。
製造例1(ポリマーの製造)
反応容器内に、メチルエチルケトン20部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、表1に示すモノマー混合物の200部のうちその10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマー混合物の残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマーの重量平均分子量を、以下に記載の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
(1)ポリマーの重量平均分子量
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
【0090】
【表1】

【0091】
なお、表1に示す化合物の詳細は、以下のとおりである。
・スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製、商品名:AS−6(S)(50%トルエン溶液、固形分15部)数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクリロイルオキシ基
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=12、末端:ヒドロキシ基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800
・43PAPE−600B(フェノキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレンオキシド平均付加モル数=6、プロピレンオキシド平均付加モル数=6、末端:フェニル基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマー43PAPE−600B
【0092】
調製例1(マゼンタインクの調製)
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー84部をメチルエチルケトン248部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)15部(中和度60%)及びイオン交換水862部加えて塩生成基を中和し、これに更にキナクリドン顔料(C.I.ピグメント・バイオレット19、クラリアントジャパン株式会社製、商品名:Hostaperm Red E5B02)288部を加え、ビーズミル型分散機UAM05型(寿工業株式会社製)を用いて20℃で2時間混合分散した(分散メディア:ジルコニア、温度:20℃、分散メディア/分散液重量比:8/2、周速15m/s)。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。
得られた分散液に、イオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下で60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が18%のマゼンタ顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得た。
次にこの分散体80部(うちポリマー3.3部)に対して架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX−810、ナガセケムテックス株式会社製、分子量:216、エポキシ当量113)0.10部を加え、イオン交換水を0.45部添加して80℃で3時間攪拌して、固形分濃度が18%のマゼンタ顔料架橋含有ポリマー粒子分散体(架橋度:3重量%)を得た。
【0093】
(インクの調製)
得られたマゼンタ顔料架橋含有ポリマー粒子の水分散体40.2部に、水不溶性有機化合物〔(i)フタル酸と2−エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数4、日本乳化剤株式会社製、商品名:ニューコール1004)とのジエステル25部と(ii)トリメリット酸とラウリルアルコールのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数4、日本乳化剤株式会社製)とのトリエステル75部からなる〕1.3部を混合、攪拌して水不溶性有機化合物をポリマー粒子中に含有させた。この混合液に、グリセリン10部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGMBE)7部、サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)1部、トリエタノールアミン1部、プロキセルXL2(アビシア株式会社製)0.3部、およびイオン交換水39.2部を混合し、得られた混合液を1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより、表2に示す水系インクを得た。
【0094】
調製例2(マゼンタインクの調製)
調製例1において水不溶性有機化合物を添加しない以外は、調製例1と同様にして表2に示す水系インクを得た。
【0095】
調製例3(クリアインクの調製)
(クリアインク用架橋ポリマー粒子の水分散体の製造)
反応容器内に、A液(水酸化ナトリウム0.1%のイオン交換水)137.5部を投入し、攪拌(約100rpm)しながら、室温下、スチレン溶液〔スチレン、ジビニルベンゼン(スチレン100部に対して6.4部、ジビニルベンゼンの純分:81重量%、商品名:DVB−810、新日鐵化学株式会社製)、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(スチレン100部に対して2.1部、商品名:V−65、和光純薬工業株式会社製)〕11.4部と、製造例1で得られたポリマーの35%メチルエチルケトン溶液14.0部とを混合したB液25.4部を滴下した後、超音波分散装置(株式会社日本精機製作所製、Ultrasonic Generater Nissei ModelUSS-300T 、300μA)を用いて超音波分散を1時間行うことで乳化させ、その後75℃に昇温し、3時間攪拌して重合を行い、その後、有機溶媒を除去してイオン交換水で調整することにより固形分濃度が10%のクリアインク用架橋ポリマー粒子の水分散体(架橋度:10重量%)を得た。
【0096】
(クリアインクの調製)
得られたクリアインク用架橋ポリマー粒子の水分散体25.00部に、前記水不溶性有機化合物0.4部、グリセリン17部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGMBE)7部、サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)1部、トリエタノールアミン1部、プロキセルXL2(アビシア株式会社製)0.3部、及びイオン交換水48.3部を混合し、得られた混合液を1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより、表2に示すクリアインクを得た。
【0097】
調製例4(クリアインクの調製)
調製例3において水不溶性有機化合物を添加しない以外は調製例3と同様にして、表2に示すクリアインクを得た。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例1〜4及び比較例1〜4
表3に示すように、調製例1及び2で得られたマゼンタインク、調製例3及び4で得られたクリアインクを用いて、専用紙に二次色のレッド(RGB値がR:255、G:0、B:0)を印字するようにパソコンで指示して、インクの濡れ拡がりについて評価した。結果を表3に示す。
【0100】
(1)インクの濡れ拡がり性の評価
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:PX-A650、ピエゾ方式)を用い、市販のインクジェット写真用紙(セイコーエプソン株式会社製 商品名:写真用紙<光沢> 型番:KA450PSK)に、レッドのベタ印字〔印字条件=用紙種類:EPSON写真用紙、モード設定:フォト〕をするように指定し、2パス目まで印字した。なお、この評価では、イエローインクヘッド(Yヘッド)から吐出されたインクドットの上に、マゼンタインクヘッド(Mヘッド)から吐出されたインクが打たれたドットを評価した。
Yヘッドから吐出された3以上つながったインクドット(約70μm以上)の上に重ねて打たれた、Mヘッドから吐出された単独ドットの長径を、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製 商品名:超深度形状測定顕微鏡 型番:VK−8500)を用いて3回測定し、平均値を求めた。数値が大きい方が、濡れ拡がり性が高い。
ここで、重ねて打たれたドットは通常楕円形となることが多く、その長径を測定する。また、3ドット以上つながったインク(約70μm以上)の上に重ねるのは、この条件では後から重ねて打たれるドットが十分に拡がると考えられたためである。後から打たれるインクは、先に打たれたインクと面積にして50%以上重ねれば、測定に影響はない。
【0101】
なお、図1(a)は、専用紙上にクリアインクが打たれた後に、マゼンタインクが打たれるインクジェット記録方法を示す図であり、図1(b)は、前記方法によりドットが打たれた紙面の拡大図である。図1(b)中、点線で示すドットが3以上つながったクリアインクのドット、実線で示すドットが後から打たれたマゼンタインクのドット及びその拡がりを示し、Xは、マゼンタインクのドットの長径を示す。
【0102】
次に、上記Mヘッドから吐出された単独ドットの長径について、紙面に打たれた単独ドットの直径に対する拡大率を求めた。数値が大きい方が、濡れ拡がり性が高い。なお、調製例1で得られたマゼンタインクの紙面に打たれた単独ドットの直径は23.8μm、調製例3で得られたクリアインクの紙面に打たれた単独ドットの直径は25.4μmであった。結果を表3に示す。
なお、表3に記載のYヘッドはイエローインクヘッド、Mヘッドはマゼンタインクヘッドを示しており、各インクヘッドに表3に記載のインクをセットして印字を行ったことを表す。
【0103】
【表3】

【0104】
実施例5〜7、及び比較例5〜6
表4に示すように、調製例1及び2で得られたマゼンタインク、調製例3および4で得られたクリアインクを用いて、重ね印字した際の、45°写像性の測定を実施した。結果を表4に示す。
【0105】
(2)45°写像性の評価
前記市販のインクジェットプリンターを用い、前記市販のインクジェット写真用紙に、50%Dutyの表4に示すインクを印字(先印字)した後〔印字条件=用紙種類:EPSON写真用紙、モード設定:フォト〕、別のインクとして表4に示すインクを用いて50%Dutyの重ね印字(後印字)を行った。25℃で24時間放置後、45°の写像性を写像性測定器(スガ試験機株式会社製、商品名:写像性測定器、品番:ICM−1T)で3回測定し、平均値を求めた。数値が大きい方が、写像性が高い。
なお、先に印字するインクも後に印字するインクも、マゼンタインクヘッド(Mヘッド)を用いて印字を行った。
【0106】
【表4】

【0107】
表3に示す結果から、実施例1〜4は、比較例1〜4に比べて後かインクが濡れ拡がっており、水不溶性有機化合物を含有するインクが先に打たれると後から打たれたインクは濡れ拡がり性に優れるものであることがわかる。
また、表4に示す結果から、実施例5〜7は、比較例5及び6に比べて写像性が高く、水不溶性有機化合物を含有するインクが先に打たれると写像性が優れるものであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1(a)は、専用紙上にクリアインクのドットが打たれた後に、マゼンタインクが打たれるインクジェット記録方法を示す図であり、図1(b)は、前記方法によりドットが打たれた紙面の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる組成の2種以上の水系インクを備えたインクセットを用いるインクジェット記録方法であって、該水系インクの内、少なくとも一つのインクが、水100gに溶解しうる最大重量(20℃)が5g以下である水不溶性有機化合物を含有し、該インクが先に打たれたドットの上に、他のインクのドットが後から重ねて打たれる、インクジェット記録方法。
【請求項2】
先に打たれるインク及び/又は後から重ねて打たれるインクが、ポリマー粒子を含む、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
先に打たれるインク中の前記水不溶性有機化合物の含有量が、0.05〜3重量%である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記水不溶性有機化合物が、エステル化合物、エーテル化合物及びスルホン酸アミド化合物からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜3いずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
インクセットが、クリアインクと着色インクとを備える、請求項1〜4いずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
先に打たれるインクがクリアインクであり、後から重ねて打たれるインクが着色インクである、請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
クリアインクが、前記水不溶性有機化合物とポリマー粒子とを含有する、請求項5又は6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
着色インクが、前記水不溶性有機化合物と着色剤とポリマー粒子とを含有する、請求項5〜7いずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
ポリマー粒子が、架橋ポリマー粒子である、請求項2、7及び8のいずれかに記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−148922(P2009−148922A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326997(P2007−326997)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】