説明

インクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法、インクジェット記録装置

【課題】普通紙での高品位記録を満足するインクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法、及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録用インクを、下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料と、水と、親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質及び親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とを含有し、表面張力が34mN/m以下である組成とする。


一般式(I)(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通紙に対して画像を形成するインクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムの普及に伴い、インクジェット記録により普通紙に記録を行った場合の、記録の高速化、文字、写真等の記録画像の品位の向上が要求されている。
【0003】
例えば、オフィス文書や、デジタルカメラの写真画像、ホームページ等に掲載されている各種情報を、普通紙に、高速で、且つ両面に記録することが要求されている。また、レーザービームプリンタによる記録で得られる記録画像のような、鮮明な画像品位が要求されている。さらに、文字画像を印字した場合、高い画像濃度を得ることができ、文字画像が小さい小文字に関しても、シャープで、文字のつぶれを抑制することが要求されている。
【0004】
また、カラーの写真や表等の記録画像においては、複数の異なる色の記録インクが接触することによって生ずる、色の境界の部分のにじみ(ブリーディング)を抑制することも要求されている。
【0005】
このような要求に対して、インク中に平均粒径0.5μm以下の内部3次元架橋した有機超微粒子を含有させ、普通紙に対して、ブリーディングを抑制し、高濃度の画像を得るインクが提案されている(特開2004−195706号公報参照)。また、インク中の浸透性付与剤の含有量を、その含有量の増加に伴うインク組成物の表面張力の低下が停止する量よりも多くするインクが提案されている(特開2003−301129号公報参照)。
【特許文献1】特開2004−195706号公報
【特許文献2】特開2003−301129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、普通紙に対して記録画像を形成する際に好適なインクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法、インクジェット記録装置に関するものである。達成しようとする課題を以下に示す。
1)インクの定着が高速である。
2)記録画像が高濃度で鮮明である。
3)記録画像のインク間でのブリーディングが抑制される。
4)記録画像の裏抜けが抑制される。
5)小さな文字を印刷した場合にも、文字がシャープで、文字のつぶれが抑制される。
6)記録画像の耐水性、定着性が良好である。
7)目詰まりの抑制等、吐出特性が良好である。
【0007】
特開2004−195706号公報、特開2003−301129号公報に記載されているインクによれば、耐水性や2色のインク間のブリーディングの抑制は、ある程度良好となる。しかし、これらは上記7つの課題全てを満たすものではなく、特に記録画像の濃度を高くすることや、記録画像の裏抜けの抑制、小文字の良好な印字に課題がある。
【0008】
このように、近年の普通紙での高品位記録への要求である上記7つの課題の全てを同時に十分満足できるインクジェット画像形成方法は見当たらない。
【0009】
したがって本発明の目的は、上記課題1)〜7)を同時に十分満足するインクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一の発明は、下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料と、水と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質及び親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とを含有し、表面張力が34mN/m以下であることを特徴とするインクジェット記録用インクである。
一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
式(A)
【0013】
【数1】

【0014】
本発明の第二の発明は、前記インクジェット記録用インクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することで画像を形成するインクジェット画像形成方法であって、前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量が0.7μl/cm2以下であることを特徴とするインクジェット画像形成方法である。
【0015】
本発明の第三の発明は、前記インクジェット記録用インクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することによって画像を形成する記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置であって、前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm2以下とする制御機構を有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインクジェット記録用インク、インクジェット画像形成方法及びインクジェット記録装置によれば、普通紙に対してインクを付与した場合に、インクの目詰まりを抑制し、インクの定着を高速に行なうことが可能である。また、十分な耐水性と画像濃度を有し、かつブリーディングを抑制した鮮明で高品位な画像を得ることが可能である。また、小文字を印刷した場合にも、文字がシャープで、文字のつぶれを抑制することが可能である。さらに、裏抜けが抑制され、両面印刷にも適した画像の形成が可能である。これらは、本願発明の上記の構成要件の全てが揃って初めて発現する、従来技術からは予測できない顕著な効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、普通紙に対し、高速に定着し、十分な耐水性と画像濃度を有し、鮮明で高品位な画像を提供し、両面印刷に適したインクジェット記録用インク、インクジェット記録方法及び装置について検討した。その結果、普通紙上に着弾後に、顔料と水性媒体が速やかに固液分離するインク構成、インク物性、記録装置側で制御されるインクのインク量、インクの分割付与条件を精密に制御することで、前記目的を達成することを見出した。
【0018】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0019】
<インク>
(色材)
本発明において用いられるインクで使用する色材は、下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料である。
一般式(I)
【0020】
【化2】

【0021】
式(I)中の親水性基中「M1、M2」は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsなどが挙げられる。有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミンなどが挙げられる。
【0022】
また介在させる他の原子団の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状の置換もしくは未置換のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここでアルキレン基、フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0023】
一般的な水溶性染料を色材として使用した場合、普通紙のようなセルロース繊維の露呈した記録媒体では画像の耐水性が劣るが、一般式(I)で表わされる基を有する自己分散
顔料を用いると、画像に良好な耐水性を得ることができる。水分散性顔料のもう一つの分散形態である樹脂分散方式(分散剤としての樹脂を併用する方式)による顔料と比較すると、自己分散顔料では顔料からなる色素成分の紙表層部での定着量が分散剤の無い分、効率的であり、発色性の点でかなり有利である。
【0024】
本発明の自己分散顔料は、併用される水溶性物質との相乗効果によって、インクが紙に着弾した後の固液分離がスムーズに進行し、発色性の点で優れた結果となる。
【0025】
また、自己分散顔料としては、他の官能基、例えばスルホン酸(またはその塩)やカルボン酸(またはその塩)のみの表面修飾基を有するものが知られている。この従来の一般的な自己分散顔料と、本発明における自己分散顔料とを比較すると、本発明における自己分散顔料は普通紙表面に点在するサイズ剤を隠蔽する力が強く、所謂ベタ記録部の白抜け現象を防止するのに抜群の効果が認められる。
【0026】
以上のとおり、本発明における自己分散顔料とは、顔料表面に直接あるいは他の原子団を介して、一般式(I)で示される基を導入する処理によって顔料を自己分散化したもの
で、基本的には分散剤を必須としない顔料である。ここで、顔料粒子への処理量は100〜5000μmol/gであることが好ましく、より好ましくは300〜2500μmol/gである。100μmol/g未満では水溶液中で安定に分散されず、顔料が沈降してしまい、インクとしての信頼性に欠ける場合がある。
【0027】
ブラックインクに使用される顔料としてはカーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料である。カーボンブラック顔料の特性としては、次のような特性が好ましい。一次粒子径が15nm以上40nm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上400m2/g以下、DBP吸油量が40ml/100g以上200ml/100g以下、揮発分が0.5wt%以上10wt%以下の特性である。
【0028】
カラーインクに使用される顔料としては、有機顔料が好適に使用される。具体的には、以下の各顔料を挙げることができる。トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。チオインジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の顔料。
【0029】
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示す。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98。C.I.ピグメントイエロー109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185。C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71。C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192。C.I.ピグメントレッド202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272。C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50。C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64。C.I.ピグメントグリーン7、36。C.I.ピグメントブラウン23、25、26。以上のものが例示できる。これらの顔料の中では、以下の顔料が更に好ましい。イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー13、17、55、74、93、97、98、110、128、139、147、150、151、154、155、180、185。マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19。シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4。勿論、上記の顔料以外でも使用することができる。
【0030】
本発明に用いる自己分散顔料の平均粒径は、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。平均粒径の測定方法としては、レーザ光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製)等を使用して測定できる。(ナノトラックUPAの場合は50%の積算値の値とする)。
【0031】
顔料は必要に応じて2種類以上を組み合わせて同一インク中に用いることができる。
【0032】
以上の自己分散顔料のインク中への添加量は、インク全量に対して好ましくは0.5wt%以上、より好ましくは1wt%以上、さらに好ましくは2wt%以上である。また、15wt%以下が好ましく、より好ましくは10wt%以下、さらに好ましくは8wt%以下である。
【0033】
(水性媒体)
本発明にかかるインクは、水を必須成分とするが、インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましい。また、95質量%以下であることが好ましい。更に、水に加えて、必須成分である2種類の水溶性物質を併用して、水性媒体とする。この水溶性物質とは、20質量%濃度の水との混合液で水と相分離せずに混ざり合う、親水性の高いものである。更に固液分離や目詰まり防止への点から蒸発しやすいものは好ましくなく、20℃での蒸気圧が0.04mmHg以下の物質が好ましい。
【0034】
さらに本発明にかかるインクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質を必須成分とする。
式(A)
【0035】
【数2】

【0036】
式中の水分活性値とは、
水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性物質の20%水溶液を25℃で測定したものである。
【0037】
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性物質の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。
【0038】
水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
【0039】
本発明者らは、インクに含有される水溶性物質の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性物質の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。
【0040】
インクジェット用インクに用いられる水溶性物質の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性物質は、これらにのみ限定されるものではない。
【0041】
【表1】

【0042】
水溶性物質は、インクジェット記録用インクとしての適性を有する各種の水溶性物質の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性物質を選択して用いることができる。
【0043】
本発明者らは、親疎水度係数の異なる水溶性物質がインク中に含まれた場合の、水溶性物質と各種インク性能との関係を検討した結果、以下の知見を得た。
【0044】
2色間のブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性は、親疎水度係数が0.37以上の疎水的傾向の大きい水溶性物質を用いると、極めて良好となった。中でも炭素数4〜7の炭化水素のグリコール構造を有するものは、特に好ましいものであった。これらの水溶性物質は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料との固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。また、この中でも、特に、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。
【0045】
一方、ノズル内での目詰まり防止の観点からは、水分の蒸発によるインクの固化が起こり難いことが重要である。本発明者らは、ある程度以上の水和力を持った水溶性物質を併用することで、ノズル内でのインクの目詰まりを防止することを見出した。親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質に加えて、親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質を併用すると、これらが相乗的に作用し、得られる画像のブリーディングや文字の太りを抑制し、さらにノズル内でのインクの目詰まりを防止することが可能となった。また、この中でも、特に、グリセリン、ジグリセリン、数平均分子量200以上のポリエチレングリコールが好ましい。
【0046】
親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質(A)と、親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質(B)のインク中での含有量は、合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。また、水溶性物質(A)と水溶性物質(B)のインク中での含有量の割合「(A)/(B)」は、好ましくは1/20以上、より好ましくは1/10以上、さらに好ましくは1/5以上である。また、好ましくは20/1以下、より好ましくは10/1以下、さらに好ましくは5/1以下である。
【0047】
本発明に使用するインクは、これらの水溶性物質に加えて、更に親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性物質を含有することが好ましい。このような構成とすることで、親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性物質と、親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質と、親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とが相乗的に作用し、ブリーディングや文字の太りをより良好に抑制する。また、インクの目詰まりをより良好に防止できる。親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性物質のインク中での含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性物質としては、特に、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0048】
(界面活性剤)
本発明に使用するインクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、好ましくはインク中に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0049】
(その他の添加剤)
また、本発明にかかるインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を添加することができる。
【0050】
(表面張力)
本発明に使用するインクの表面張力は、34mN/m以下である。このインクの表面張力は、32mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましい。
【0051】
インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。
【0052】
しかし、普通紙は、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低い。
【0053】
インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、普通紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾しても、すぐには濡れず速やかに浸透を開始することはない。表面張力が高い場合は、紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させても、高速には定着しにくい。さらに、定着性が劣化する傾向にある。インクの表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで本発明では、ポア吸収が主体となるインクとすることによって、高速定着を実現している。
【0054】
ポア吸収が主体となるインクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。また、高い画像濃度を得る点でも有利である。
【0055】
一方、インクの操作性という別の観点から、本発明に使用するインクの表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。表面張力が20mN/m以上であれば、ノズル内でメニスカスを維持することができる。よって、インクが吐出口の外に出てしまい、ノズル内からインクが抜けてしまう「インク落ち」を抑制することができる。
【0056】
<記録方法>
本発明の記録方法においては、1回に付与するインクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とする。好ましくは1.0pl以上であり、より好ましくは1.5pl以上である。また、好ましくは5.0pl以下であり、より好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、画像の定着性、耐水性に劣る場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、2ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。
【0057】
インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙には、一般的に、0.5μmから5.0μmを中心として、0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。尚、本発明において普通紙とは、プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等のことを言う。普通紙への水性インクの浸透現象としては、普通紙のセルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクである。このため、本発明で用いられるインクが普通紙に付与され、普通紙表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触すると、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、普通紙での高発色の発現において極めて不利となる。一方、インクが小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔への接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、普通紙上で得られる画像は高発色となる。
【0058】
インクの6.0plという上限の臨界値は、本発明者により実験的に得られたものである。6.0plのインクを球と仮定すると、普通紙に着弾すると、直径23μm程度となる。普通紙における10μm程度以上の大きめな細孔の分布状態を考えると、インクがこの直径以下であると、大きめな細孔とインクの着弾時の接触確率が低くなり、深い浸透が生じない好ましい状態になると考えられる。
【0059】
本発明において定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステム等によると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高デューティー部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在するなどし、画像の均一性が良好でなくなる。
【0060】
インクの定量化に適した付与方式としては、インクの付与を熱エネルギーの作用により行なうサーマルインクジェット方式が、吐出のメカニズムの点で好ましい。即ち、サーマルインクジェット方式は、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像は高濃度で、均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
【0061】
次に、本発明の課題は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上となる部分を有する画像を形成する場合に要求されるものである。デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上の部分を有する画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される部分を有する画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。
【0062】
基本マトリクス中の80%デューティー以上となる部分を有する画像とは、基本マトリクス中に1色のインクで80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有していない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれやブリーディング等の問題が生じない場合も多い。
【0063】
本発明の基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
また、本発明の課題は、画像を形成するための基本マトリクス中に、インクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する場合に要求されるものである。インクの総付与量を算出する部分は、前記のデューティーを算出する部分と同じである。インクの総付与量が5.0μl/cm2を越える部分を有する画像を形成する場合は、鮮明な画像が得られなかったり、裏抜けが発生して両面印刷に適さない場合がある。
【0065】
本発明では、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割する。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量は、0.7μl/cm2以下、好ましくは0.6μl/cm2以下、より好ましくは0.5μl/cm2以下である。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量が0.7μl/cm2を越えると、裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングが発生する場合がある。
【0066】
本発明で、画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割することが必須要件である理由は、分割をしない場合と、分割をした場合では、格段の性能差があることに基づいている。分割回数は少なくとも2回以上であるが、3回以上であると、記録画像はより高濃度となり、発色性が良好である。また、好ましくは8回以下、より好ましくは4回以下である。分割回数が8回を越えると、ブリーディングの抑制や、小文字の良好な印字には効果的だが、普通紙表面でのインクの隠蔽率が低下し、発色性が劣化する傾向となる。
【0067】
<インクジェット記録装置>
次に、本発明に関するインクジェット記録装置について説明する。本発明に好適な装置としては、0.5pl以上6pl以下の定量のインクを付与する記録ヘッドを搭載したものである。本願発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドは、インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドであることが好ましい。このような記録ヘッドは、圧電素子を用いてインクを吐出させる記録ヘッドに比べてノズルの高密度化に適している。さらに、インクを定量とすることに優れているので、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像の均一性を良好とする点で優れている。
【0068】
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書、米国特許第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0069】
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略を示す正面図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数の記録ヘッド211〜214が搭載されている。また、記録ヘッド211〜214にはインクを吐出するためのインク吐出口が複数配列されている。211、212、213及び214は、夫々、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出するための記録ヘッドである。
【0070】
インクカートリッジ221〜224は、記録ヘッド211〜214、及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。
【0071】
40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。
【0072】
記録ヘッド211〜214への制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。
【0073】
普通紙等のセルロース繊維の露呈した記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。
【0074】
ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。
【0075】
記録ヘッド211〜214のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。
【0076】
記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜314を持つ回復ユニット32が設置されている。記録を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、記録ヘッド211〜214のインク吐出口面をそれぞれが対応するキャップ311〜314によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。更に、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。
【0077】
インク受け部33は、記録ヘッド211〜214が記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、記録ヘッド211〜214のインク吐出口形成面をクリーニングすることが可能でとなっている。
【0078】
以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段等がある。また、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを備えることも安定した記録を行うために有効である。
【0079】
加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0080】
図2は、記録ヘッド211〜214の構成図である。図において、記録ヘッド211〜214の記録走査方向は、図の矢印で示した方向とする。各記録ヘッド211〜214には、記録走査方向と略直行する方向に配列した複数のノズルの吐出口が配備されている。記録ヘッドは、図の記録走査方向へ移動走査しながら、各吐出口より所定のタイミングでインク滴を吐出する。これにより、記録媒体には、ノズルの配列密度に応じた記録解像度で画像が形成される。この際、記録ヘッドは、記録走査方向のどちらの方向で記録動作を行ってもよい。また、往復のどちらで記録動作を行ってもよい。
【0081】
また、以上の実施形態は記録ヘッドを走査して記録を行うシリアルタイプの記録装置であったが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプの記録装置であっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、図2に開示されているようなシリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい。
【0082】
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録装置は、独立化あるいは一体的に形成された4色インク(Y,M,C,K)を用いた4吐出口列(またはノズル列)構成のヘッドを搭載した例である。吐出口列数(またはノズル列数)を5〜12程度として、4色インクの少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、図2に示したヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等が挙げられる。
【0083】
本発明のインクジェット記録装置は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割して行なう。また、分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm2以下とする。本発明のインクジェット記録装置は、かかる分割付与を行なうための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、普通紙の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行なう。
【0084】
インクを付与する際の分割回数は、所望とする記録条件に応じて設定できる。図3に、2回に分割する例を示す。本例は、基本マトリクスの解像度は1200dpi(横)×1200dpi(縦)で、画像の100%デューティーの部分を形成する場合の例である。図3では、1回目のインクの着弾位置を第1のインク、2回目のインクの着弾位置を第2のインクとして示している。第1のインク、第2のインクは、それぞれ定量である。
【実施例】
【0085】
次に実施例、比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載で部、及び%とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0086】
まず、実施例及び比較例に使用するインクに含まれる顔料分散体の製造方法を説明する。
【0087】
(顔料分散体の製造)
<自己分散顔料分散体Aの製造>
比表面積が320m2/gでDBP吸油量が110ml/100gのカーボンブラック10gと、アミノプロピルリン酸2.8gとを水72gによく混合した後、これに硝酸1.62gを滴下して70℃で攪拌した。ここにさらに数分後、5gの水に1.07gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面に下記化学式(II)で示される基を導入したブラック顔料を作製した。
化学式(II)
【0088】
【化3】

【0089】
上記で作製したブラック顔料の表面官能基密度を水酸化ナトリウムによる中和滴定を行い、その値から表面官能基密度を換算したところ、620μmol/gであった。また上記で作製したブラック顔料の50%積算粒径をナノトラックUPA 150EX(日機装製)にて測定したところ110nmであった。この顔料を濃度が10%となるようにイオン交換水にて調整後、アンモニア水溶液にてpH7.5とした。さらにプレフィルター及び1μmフィルターの併用系で濾過して自己分散顔料分散体Aを得た。
【0090】
<自己分散顔料分散体Bの製造>
カーボンブラックの代わりにC.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は、自己分散顔料分散体Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料分散体Bを得た。
【0091】
<自己分散顔料分散体Cの製造>
カーボンブラックの代わりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は、自己分散顔料分散体Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料分散体Cを得た。
【0092】
<自己分散顔料分散体Dの製造>
カーボンブラックの代わりにC.I.ピグメントブルー15:3を用いた以外は、自己分散顔料分散体Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料分散体Dを得た。
次に本発明の実施例及び比較例のインクの調製例について説明する。水はイオン交換水を用いた。
【0093】
<実施例1>
(インク1の調製)
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、アンモニア水によりpH8.5とし、2.5μmのフィルターを用いてろ過して実施例のインク1を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は115nmであった。
・自己分散顔料分散体A:40部
・グリセリン(親疎水度係数 0.11):16部
・1,6−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.76):4部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル:0.5部
・水:残部
<実施例2>
(インク2の調製)
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、アンモニア水によりpH8.5とし、2.5μmのフィルターを用いてろ過して実施例のインク2を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は120nmであった。
・自己分散顔料分散体A:40部
・グリセリン(親疎水度係数 0.11):8部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):8部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):4部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル:0.5部
・水:残部
<比較例1>
(インク3の調製)
アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物の含有量を1部より0.1部に代えた以外は、インク1の調製と同様な処理をして比較例のインク3を得た。表面張力は、36mN/m、自己分散顔料の粒径は110nmであった。
【0094】
<比較例2>
(インク4の調製)
グリセリンを1,2−ペンタンジオール(親疎水度係数 0.93)に代えた以外は、インク1の調製と同様な処理をして比較例のインク4を得た。表面張力は、28mN/m、自己分散顔料の粒径は120nmであった。
【0095】
<比較例3>
(インク5の調製)
1,6−ヘキサンジオールをトリエチレングリコール(親疎水度係数 0.07)に代えた以外は、インク1の調製と同様な処理をして比較例のインク5を得た。表面張力は、30mN/m、自己分散顔料の粒径は110nmであった。
【0096】
<実施例3>
(インク6の調製)
自己分散顔料分散体Aの代わりに自己分散顔料分散体Bを用いた以外は、インク1の調製と同様な処理をして実施例のインク6を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は130nmであった。
【0097】
<実施例4>
(インク7の調製)
自己分散顔料分散体Aの代わりに自己分散顔料分散体Cを用いた以外は、インク1の調製と同様な処理をして実施例のインク7を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は90nmであった。
【0098】
<実施例5>
(インク8の調製)
自己分散顔料分散体Aの代わりに自己分散顔料分散体Dを用いた以外は、インク1の調製と同様な処理をして実施例のインク8を得た。表面張力は、29mN/m、自己分散顔料の粒径は110nmであった。
【0099】
実施例1及び2のインク1及び2、比較例のインク3〜5を用いて、以下の条件にて、記録物の評価を行ない、本発明及び比較のための画像形成方法例と記録装置例とした。(実施例1及び2、比較例1〜3)
(評価条件)
記録媒体:PPC/BJ共用紙オフィスプランナー紙(普通紙。キヤノンマーケティングジャパン製。)
プリンタA:F930(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、基本マトリクスの解像度;2400dpi(横)×1200dpi(縦)。)
画像形成方法:インク1〜5は、プリンタのブラックインクヘッド部に搭載してベタ画像を印刷した。ベタ部分の形成に際し、インクの付与は、4回に分割して1回あたり、0.3μl/cm2の等量で合計付与量は、1.2μl/cm2とした。
【0100】
実施例1及び2、比較例1〜3による記録物の画像濃度(O.D.)、定着性、小文字印字、均一性の評価を行ない、結果を表2に示した。画像関連の評価はブラックヘッドを用いて、3cm×3cmのベタ印字画像及び5ポイントのJIS第1水準の漢字を印字して評価した。なお、記録の評価方法及び基準は、以下の方法によった。
(画像濃度)
ベタ部のO.D.を濃度計(マクベスRD915:マクベス社製)にて測定した。
A:1.40以上であった
B:1.35以上、1.40未満であった。
C:1.30以上、1.35未満であった。
D:1.30未満であった。
(定着性)
ベタ部を印字後、10秒後にシルボン紙を押し付け、転写する度合いを下記の評価基準にて目視で評価した。
A:転写は認められない。
B:転写が僅かに認められる。
C:転写がはっきりと認められる。
(小文字印字)
漢字の小文字印字の尖鋭度について下記の評価基準にて目視で評価した。
A:複雑な文字でも表現できる。
B:複雑な文字について、僅かに輪郭が乱れるが許容範囲である。
C:複雑な文字については、十分に表現できない。
D:単純な文字でも乱れる場合がある。
(均一性)
ベタ部の白抜けの発生の程度について下記の評価基準にて目視で評価した。
A:白抜けは認められない。
B:白抜けが僅かに認められる。
C:白抜けがはっきりと認められる。
【0101】
【表2】

【0102】
実施例1及び2と比較例1の結果を比較すると、本願発明のインクは、インクの表面張力を34mN/m以下とすることで、画像濃度が高くなり、定着性、均一性が良好になることが分かる。実施例1及び2と比較例2の結果を比較すると、本願発明のインクは、新疎水度係数が0.25以下の水溶性物質を含有することで、画像濃度が高くなることが分かる。実施例1及び2と比較例3の結果を比較すると、本願発明のインクは、新疎水度係数が0.37以上の水溶性物質を含有することで、小文字印字が良好にでき、均一性が良好になることが分かる。
【0103】
実施例1及び2の各インクを用いて、表3及び表4に示した組み合わせ条件で実施例6〜15の画像形成方法及びそれを実施する記録装置例とした。表3は、各回の付与量を等分に分割した例であり、表4は、分割して付与する量が等分でない例である。評価項目、方法は、実施例1及び2に準じた。結果を表5に示す。
【0104】
尚、追加した評価プリンタBは、キヤノン製F950(6ヘッド搭載、各512ノズル、液滴量2pl。基本マトリクスの解像度;2400dpi×1200dpi。)である。
【0105】
【表3】

【0106】
【表4】

【0107】
【表5】

【0108】
次に、実施例1〜5、比較例1〜3の各インクとプリンタBを用いて、表6に示した4色インクを搭載した組み合わせと同じ条件で、実施例16及び17、並びに比較例4〜6のカラー画像形成方法及びそれを実施する記録装置例とした。
【0109】
記録画像の評価は、記録媒体として、PPC/BJ共用紙オフィスプランナー紙(普通紙。キヤノンマーケティングジャパン製)を用いた。
【0110】
【表6】

【0111】
実施例16及び17、並びに比較例4〜6による記録物のブリーディング、目詰まり性の評価を行い、結果を表7に示した。ブリーディングに関しては、搭載した4インクの全ての組合せ6通りを同条件で隣接してベタ印字画像を印字し、その境界部の様子を目視にて観察した。目詰まり性については,各条件での検討後、キャッピング状態で常温にて1ヶ月放置し、回復操作後の印字状況を観察した。なお、記録の評価方法及び基準は、以下の方法によった。
(ブリーディング)
A:ブリーディングが認められない。
B:ブリーディングが僅かに認められるが許容範囲である。
C:ブリーディングが認められる。
D:ブリーディングが多く認められる。
(目詰まり性)
回復操作後のノズルチェックパターン印字の状況にて評価した。
A:クリーニング操作(記録ヘッドの吐出口でインクを吸引する操作)1回で正常の印字ができる。
B:クリーニング操作1回では正常の印字ができないが、3回で正常の印字ができる。
C:クリーニング操作3回では正常の印字ができないが、強力クリーニング(クリーニング操作よりも、記録ヘッドの吐出口でインクを強く吸引する操作)3回で正常の印字ができる。
D:強力クリーニングを繰り返しても、安定した吐出ができず、正常の印字ができない。
【0112】
【表7】

【0113】
実施例16及び17と比較例4を比較すると、インクの表面張力を34mN/m以下とすることでブリーディングが良好に抑制されることが分かる。実施例16及び17と比較例5及び6を比較すると、インク中に親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質と、0.25以下の水溶性物質を併用することで、ブリーディングと目詰まりが良好に抑制されることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に適用可能な実施形態に係るインクジェット記録装置の概略を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態に適用可能な記録ヘッドの構成図である。
【図3】記録ドットの形成方法の一例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料と、水と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質及び親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とを含有し、表面張力が34mN/m以下であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
一般式(I)
【化1】

(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
式(A)
【数1】

【請求項2】
さらに式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上、0.37未満の水溶性物質を含有する請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
自己分散顔料の粒径が60nm以上、145nm以下である請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することで画像を形成するインクジェット画像形成方法であって、
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量が0.7μl/cm2以下であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【請求項5】
少なくともブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色のインクを、それぞれ0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することで画像を形成するインクジェット画像形成方法であって、
前記4色のインクのそれぞれが、下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料と、水と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質及び親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とを含有し、表面張力が34mN/m以下であり、
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量が0.7μl/cm2以下であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。
一般式(I)
【化2】

(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
式(A)
【数2】

【請求項6】
前記基本マトリクスの解像度が600dpi以上、4800dpi以下である請求項4または5に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項7】
前記分割回数が2回以上、8回以下である請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項8】
前記インクの付与を熱エネルギーの作用により行なうことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することによって画像を形成する記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置であって、
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm2以下とする制御機構を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
少なくとも、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色のインクを、それぞれ0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することによって画像を形成する記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置であって、
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm2以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm2以下とする制御機構を有し、
前記インクが、下記一般式(I)で表わされるアニオン性官能基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合した自己分散顔料と、水と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以上の水溶性物質及び親疎水度係数が0.25以下の水溶性物質とを含有し、表面張力が34mN/m以下のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
一般式(I)
【化3】

(但し、式中のM1、M2は、独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わす。)
式(A)
【数3】

【請求項11】
前記記録ヘッドが、熱エネルギーの作用によりインクの付与を行なう記録ヘッドであることを特徴とする請求項9または10に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−221456(P2009−221456A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189981(P2008−189981)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】