説明

インクジェット記録用紙の製造方法とインクジェット記録用紙

【課題】 スライド塗布方式で無機微粒子含有塗布液を高速塗布する際に、塗布スジ、ひび割れを抑制し、生産効率に優れ、塗布故障が無い空隙型インクジェット記録用紙の製造方法とインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 連続走行する支持体上に、2層以上の塗布層を同時重層塗布し乾燥する際、支持体に接して設けられる最下層の塗布液の粘度、ウエット膜厚を、より上層の塗布液粘度、ウエット膜厚よりいずれも低くするインクジェット記録用紙の製造方法において、塗布液中に溶媒、無機微粒子及び電離放射線により架橋する水溶性の高分子化合物を含有させ、塗布後に電離放射線を照射して高分子化合物を架橋した後に、溶媒を蒸発させる乾燥工程を有し、該塗布液中の溶存酸素量を、塗布液温度における飽和量の0.3倍以上0.8倍以下で、かつ2.5mg/L以上にするインクジェット記録用紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用紙に関し、生産性が高く、塗布故障が低減できるインクジェット記録用紙の製造方法とそれにより造られたインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて紙などの記録材に付着させ、画像・文字などの記録を行うものであるが、比較的高速、低騒音で多色化が容易である等の利点を有しており、近年急速に普及してきている。
【0003】
無論、写真等の高画質印刷にも用いられており、インクジェット記録用紙(記録材、単に記録用紙ということもある)として1)インク吸収量が多く、吸収速度が速い、2)にじみが無い、3)色濃度が高い、4)耐水、耐光、耐オゾン性が高い、5)光沢性、6)シート上に異物、クラック(ひびわれ)等の故障が無く、7)生産性が高いこと等が要求されている。
【0004】
上記した諸特性の向上を目的として、近年ではインク吸収層に多孔構造を有するインクジェット記録用紙が開発され実用化されている。このような記録用紙は多孔構造を有することで、インク吸収性(速乾性)に優れ高い光沢を有するものとなる。
【0005】
ところで、通常、インクジェット記録用紙は、支持体にインク吸収層塗布液を塗布乾燥することにより製造される。生産性の点で、複数層を同時に高速で重層塗布し乾燥できることや、塗布液中の固形分を多くして塗布することも可能なことが要求される。
【0006】
塗布液は、無機微粒子、もしくは無機微粒子を水性媒体中に分散した分散液に親水性樹脂を添加して製造される。無機微粒子としてはシリカが用いられることが多く、特に気相法で作製されたシリカが、塗膜にしたときの空隙率の多さから用いられる。しかしながら、空隙率が多くなるため、乾燥中にひび割れるといった塗布故障が発生する可能性もある。
【0007】
また、塗布液を同時重層する方法としてカーテン方式やスライド方式が一般に用いられているが、高速で塗布したり、現在用いられているより更に塗布液固形分を多くすると、塗布性が劣化し特にスジ状の故障が発生する。これに対して特許文献1においては、最下層の塗布液粘度、膜厚、バインダー割合を上層と同じか、それ以下にする方法を提案している。この方法は、高速で塗布するには有効であるが、その後の乾燥過程で、塗布液の粘度が低くなるため乾燥風による塗膜の乱れ(吹かれ)が生じ、特に塗布速度200m/min以上になると顕著になり、その対応策は現状では不十分である。
【0008】
これに対して特許文献2では、乾燥前に塗膜をゲル化させる方法として、主に無機ゾルと電離放射線硬化性のモノマー/オリゴマーからなる塗工液を用いて塗布し、塗工後に電離放射線を照射して該化合物を硬化させる工程を経た後、塗膜を乾燥してインク受容層を形成する方法を提案している。
【0009】
しかし、この方法では比較的高密度で緻密な三次元架橋をした膜を形成してしまうため、塗膜の折れ割れ耐性が悪く、逆に耐ひび割れ性が劣化するという新たな課題が生じた。また、一般的に電離放射線硬化型のモノマー/オリゴマー等は比較的低分子量であり皮膚刺激性が強いものが多く、未反応成分による印画品質への悪影響や安全性の面で懸念される点がある。さらに、上市されているほとんどの該化合物は、親水性が低いためインクジェット受容層の塗工に用いられる一般的な水系塗工には適さず、おのずと材料選択の幅も狭いものとなる。
【特許文献1】特開2000−250171号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−263038号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の実態に鑑みてなされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、スライド塗布方式で無機微粒子含有塗布液を高速塗布する際に発生しやすい、塗布スジ、ひび割れを抑制し、生産効率に優れ、塗布故障が無い空隙型インクジェット記録用紙の製造方法とインクジェット記録用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、以下の構成を採ることにより達成された。
【0012】
(請求項1)
連続走行する支持体上に、2層以上の塗布層を同時重層塗布し乾燥する際、支持体に接して設けられる最下層の塗布液の粘度、ウエット膜厚を、より上層の塗布液粘度、ウエット膜厚よりいずれも低くするインクジェット記録用紙の製造方法において、塗布液中には少なくとも溶媒、無機微粒子及び電離放射線により架橋する水溶性の高分子化合物を含有させ、塗布後に電離放射線を照射して前記高分子化合物を架橋する工程を経た後に、溶媒を蒸発させる乾燥工程を有し、該塗布液中の溶存酸素量を、塗布液温度における飽和量の0.3倍以上0.8倍以下で、かつ2.5mg/L(リットル)以上にすることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【0013】
(請求項2)
前記無機微粒子がシリカ微粒子であり、気相法で造られたシリカであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0014】
(請求項3)
前記同時重層塗布がスライド塗布方式であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0015】
(請求項4)
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法により作製されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0016】
本願の発明者が種々検討した結果によると、本発明の如きインクジェット記録用紙において、ひび割れは、塗布液中の泡の影響が大きいことを見出した。即ち、泡の存在に起因して乾燥過程にてひび割れが発生することを突き止めた。鋭意検討した結果、泡の指標として溶存酸素量を用いると良い相関性がえられ、本発明の場合、塗布液温度における飽和溶存酸素量の0.3倍以上0.8倍以下、かつ2.5ppm以上にすることがひび割れ防止に有効であることを見出した。特に上層側の溶存酸素量が与える影響が大きい。
【0017】
塗膜中に泡が存在すると、電離放射線を照射した際に、均一に膜内に照射されずに架橋ムラが生じ、これが原因で乾燥中に応力が不均一になり、ひび割れにつながる、更に塗布スジも劣化することを見出した。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、スライド方式塗布で無機微粒子含有塗布液を高速塗布する際に発生しやすい、塗布スジ、ひび割れを抑制し、生産効率に優れ、塗布故障が無い空隙型インクジェット記録用紙の製造方法とインクジェット記録用紙を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のインクジェット記録用紙の塗布液に用いられる化合物、塗布液組成、塗布方法等につきさらに説明する。
【0020】
〔無機微粒子〕
本発明に用いられる無機微粒子としては、低い屈折率を有するものが透明性が要求されるインクジェット記録用紙のインク吸収層(以下、空隙層ともいう)形成に好ましく用いられ、特にシリカ微粒子がよい。
【0021】
シリカとしては、通常の湿式法で合成されたシリカ、コロイダルシリカ或いは気相法で合成されたシリカ等が好ましく用いられる。コロイダルシリカまたは気相法で合成されたシリカがより好ましく、中でも気相法により合成されたシリカは高い空隙率が得られる。シリカ粒子の1次粒子平均粒径は3〜100nmが好ましく、より好ましくは4〜50nm、最も好ましくは4〜20nmである。
【0022】
最も好ましく用いられる、1次粒子の平均粒径が4〜20nmである気相法により合成されたシリカとしては、例えば、日本アエロジル社よりアエロジル系の商品名を付して市販されている。
【0023】
通常、シリカは水性媒体中に分散し、分散液とし親水性ポリマー等を添加、混合して塗布液を作製する。その際、シリカは2次凝集粒子を形成した状態で存在する。
【0024】
シリカを分散する方法としては、公知の方法を用いることが出来る。例えば高圧ホモジナイザー、サンドミル、超音波、高速撹拌型分散機等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、プリント時に高い濃度と好ましい画質を得る観点から平均粒径は200nm以下が好ましい。平均粒径は、そのものあるいは空隙層の断面や表面を電子顕微鏡で観察し、100個の任意の粒子を用いて粒径を求め、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒径はその投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0026】
〔電離放射線により架橋する高分子化合物〕
本発明のインク需要層に用いられる水溶性の電離放射線により架橋する高分子化合物とは、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により、反応を起こして架橋反応をする水溶性の樹脂であり、架橋反応前には水溶性であるが、架橋反応後には実質的に非水溶性となる樹脂である、かかる樹脂は架橋反応後も親水性を有し、十分なインクとの親和性を維持するものである。
【0027】
このような樹脂としては、ポリ酢酸ビニルのケン化物、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、または前記親水性樹脂の誘導体、ならびにこれらの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種であるか、またはその親水性樹脂に、光二量化型、光分解型、光重合型、光変性型、光解重合型などの変性基により変性したものである。
【0028】
なかでも、光二量化型、光重合型の変性基により変性した樹脂が、感度または樹脂自身の安定性の観点から好ましい。
【0029】
光二量化型の変性基としては、ジアゾ基、シンナモイル基、スチリルピリジニウム基、スチリルキノリウム基を導入したものが好ましく、光二量化後アニオン染料等の水溶性染料により染色される樹脂が好ましい。このような樹脂としては、たとえば一級アミノ基ないし4級アンモニウム基等のカチオン性基を有する樹脂、たとえば特開昭62−283339号、特開平1−198615号、特開昭60−252341号、特開昭56−67309号、特開昭60−129742号等の各公報に記載された感光性樹脂(組成物)、硬化処理によりアミノ基になるアジド基のような硬化後カチオン性になる樹脂、たとえば特開昭56−67309号等の公報に記載された感光性樹脂(組成物)があげられる。
【0030】
具体的には、例えば次のような物が上げられる。
【0031】
特開昭56−67309号公報記載の感光性樹脂は、ポリビニルアルコール構造体中に、式(I)で表される2−アジド−5−ニトロフェニルカルボニルオキシエチレン構造又は式(II)で表される4−アジド−3−ニトロフェニルカルボニルオキシエチレン構造を有する樹脂組成物である。
【0032】
【化1】

【0033】
樹脂の具体例は該公報中の実施例1及び2に、樹脂の構成成分及びその使用割合は該公報第2頁に記載されている。
【0034】
特開昭60−129742号公報記載の感光性樹脂は、ポリビニルアルコール構造体中に一般式(III)で表される化合物を記載している。
【0035】
【化2】

【0036】
(式中、Rはフェニル基である)
光重合型の変性基としては、例えば特開2000−181062号公報に示される樹脂が反応性との観点から好ましい。
【0037】
【化3】

【0038】
(式中、R1は水素原子又はメチル、nは1又は2、Xは−CO−(CH2m−、−O−CO−CH2−、−O−、Yは単結合又は芳香族環、mは0〜6の整数である。)
〔光開始剤・光増感剤〕
本発明においては、塗布液中には光開始剤や光増感剤を添加するのも好ましい。これらの化合物は溶媒に溶解、または分散した状態か、もしくは感光性樹脂に対して化学的に結合されていてもよい。
【0039】
適用される光開始剤、光増感剤について特に制限はなく、従来公知の物を用いることができる。
【0040】
例えば、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス−N,N−ジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、チオキサトン、2、4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類、エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン類、アセトフェノン類、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類、2,4,6−トリハロメチルトリアジン類、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2,−ジ(p−メトキシフェニル)−5−フェニルイミダゾール2量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体の2,4,5−トリアリールイミダゾール2量体、ベンジルジメチルケタール、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェナントレンキノン、9,10−フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等ベンゾイン類、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9’−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、ビスアシルフォスフィンオキサイド、及びこれらの混合物等があげられ、上記は単独で使用しても混合して使用してもよい。
【0041】
特に、水溶性の1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、チオキサントンアンモニウム塩、ベンゾフェノンアンモニウム塩等の水溶性光開始剤が、混合性等に優れ架橋効率の観点からも好ましい。
【0042】
これらの光開始剤に加え、促進剤等を添加することもできる。これらの例として、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等があげられる。
【0043】
〔非水溶性水親和性樹脂〕
本発明における非水溶性、且つ水親和性樹脂の定義、もしくは耐水性の定義は下記の如くである。
【0044】
80度の温水に5分浸析した場合の質量残存率が85%以上のものをいう。
【0045】
〔電離放射線とその照射方法〕
本発明でいう電離放射線とは、例えば電子線、紫外線、α線、β線、γ線、エックス線等が上げられるが、取り扱いが容易で、工業的にもその利用が普及している電子線、紫外線が好ましい。
【0046】
電子線の照射方法としては、例えばスキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式などがあるが、処理能力の観点からカーテンビーム方式が好ましい。
【0047】
電子線の加速電圧は、塗膜の比重と膜圧により適時変化させることができるが、20〜300kVが適当である。電子線の照射量は0.1〜20Mradの範囲が好ましい。
【0048】
紫外線照射の場合、光源として例えば数0.1mkPa〜1000kPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が用いられるが、光源の波長分布という観点で高圧水銀灯、メタルハライドランプが好ましく、メタルハライドランプがより好ましい。また、300nm以下の波長光をカットするフィルターをもうけることが好ましい。ランプの出力としては400W〜30kW、照度としては10mW/cm2〜1W/cm2、照射エネルギーとしては0.1〜800mJ/cm2が好ましく、1〜100mJ/cm2がより好ましい。
【0049】
〔親水性ポリマー〕
前記水溶性の電離放射線により架橋する高分子化合物以外に、公知の親水性ポリマーを併用して用いてもよい。好ましい親水性ポリマーはポリビニルアルコールである。
【0050】
前記ポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる一般的なポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0051】
ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは平均重合度が300以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1000〜5000のものが好ましく用いられる。
【0052】
ケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0053】
親水性ポリマーとしてポリビニルアルコールを含有する場合には被膜の造膜性を改善し、また被膜の強度を高めるために硬膜剤を添加するのが好ましい。親水性バインダーとしてポリビニルアルコールを用いる場合、硬膜剤としてはエポキシ系硬膜剤またはホウ酸塩を用いるのが好ましい。
【0054】
ホウ酸塩としては、ホウ素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことを示し、具体的的には、オルトホウ酸、メタホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸およびそれらの塩が含まれる。
【0055】
ホウ酸またはその塩の使用量は、塗布液の無機微粒子や親水性ポリマーの量により広範に変わり得るが、親水性ポリマーに対して概ね1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%である。
【0056】
〔インク吸収層〕
インク吸収層は多孔質が好ましく、多孔質とするためには、無機微粒子に対して少量の親水性バインダーを使用することにより得られるが、親水性バインダーに対する無機微粒子の割合は質量比で3〜10倍、好ましくは4〜8倍である。
【0057】
ここで言う親水性バインダーは、前記水溶性の電離放射線により架橋する高分子化合物と前記親水性ポリマーの合計質量を指す。
【0058】
インク吸収層には上記以外の各種の添加剤を添加することが出来る。例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号公報、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたは非イオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0059】
上記多孔質のインク吸収層の乾燥膜厚はインク吸収量との関係で決められ、一般には20〜70μmであるが、インク溶媒を一時的に全て保持しなければならない観点から30〜50μmが好ましい。特に好ましい乾燥膜厚は35〜50μmである。
【0060】
本発明で最下層の塗布液の粘度、ウエット膜厚が上層の粘度、ウエット膜厚以下にすることで高速塗布が可能となる。特にスライド塗布方式が有効である。塗布速度としては、200m/min以上400m/min以下が好ましく用いられる。
【0061】
最下層の粘度としては、5〜20mPaが好ましい。ウエット膜厚としては、3〜20μmが好ましい。上層側の粘度としては最下層より高ければよいが、300mPa以下にすることがハンドリング上好ましい。
【0062】
最下層の塗布液としては、隣接する上側の層に用いる塗布液を、希釈することで粘度を調整して用いることが好ましい。
【0063】
〔溶存酸素量〕
溶存酸素量を本発明の範囲内とするための手段としては、塗布液を脱泡することで塗布液中に溶存している空気を除く方法が有効である。塗布液の脱泡方法には、従来公知の静置法、減圧法、静置減圧法や、減圧タンク内に高速回転する円盤を設けてその円盤から脱泡すべき液体の液滴を射出し、タンクの壁面に衝突させて泡を破壊する方式のもの(分散板式脱泡法)や、減圧されたチャンバー内で液体を薄膜に引き延ばして泡の湧出を促進させるとともに、泡が内包する気体の圧力で泡を破壊する方法(真空薄膜法)、減圧タンク内で液体中の泡を膨張、浮上させた後に浮上した泡に向けて圧力空気を噴射して泡を破壊する方法、超音波を用いる方法等が挙げられる。これらを単独、または複数を組み合わせて塗布液の脱泡を行うことが出来る。
【0064】
また、塗布液を作製した温度より、塗布直前に塗布液温度を下げることにより飽和溶存酸素量を上げることも有効である。この場合の手段として、バッチで塗布液を作製後、塗布機まで塗布液を供給する配管を冷却する方法、熱交換器を用いる方法、塗布機を冷却しておく方法等が挙げられる。
【0065】
塗布液作製時の温度と塗布直前の温度差は1℃以上10℃以下が好ましい。
【0066】
その他、溶存酸素量を調整する手段として、シリカを分散したり、親水性バインダーを溶解する際に脱気水を用いるのも有効である。
【0067】
また、溶存酸素量を2.5mg/L以下にするには、装置も大きくなり、時間もかかることで生産効率上好ましくない。更に、2.5mg/L以下になると、シリカ粒子が凝集促進されることがあり、逆にひび割れを悪化させたり、光沢低下を招くことになる。
【0068】
塗布液の塗布直前の温度は、30℃以上55℃以下が好ましい。30℃より低いと、塗布液の粘度が上昇し、ハンドリング性が悪くなる。また55℃より高いと、シリカ粒子が凝集するためひび割れが劣化する。
【0069】
塗布液中のシリカ質量濃度としては、8〜30%の範囲が好ましく、10〜20%の範囲が特に好ましい。8%以下であると乾燥負荷が大きくなり、また30%より高い場合は、塗布液の流動性が悪くなり、ハンドリングの点で問題を生じやすくなる。
【0070】
塗布液を塗布する前にろ過を行い、異物や粗大粒子を除去しておくことが好ましい。
【0071】
脱泡処理を効率的に行うため、塗布液にせん断を与え、粘度を下げておくことも好ましい。せん断速度として10-3〜10-5(1/S)が好ましく用いることが出来る。
【0072】
〔支持体〕
本発明のインクジェット記録用紙の支持体としては、従来インクジェット記録用紙として公知の紙支持体、プラスチック支持体(透明支持体)、複合支持体など適宜使用できるが、より高い濃度で鮮明な画像を得るためには支持体中にインク液が浸透しない疎水性支持体を用いるのが好ましい。
【0073】
透明支持体としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、セルロイド等の材料からなるフィルム等が挙げられ、中でもOHPとして使用されたときの輻射熱に耐える性質のものが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。このような透明な支持体の厚さとしては、10〜200μmが好ましい。透明支持体のインク受容層側およびバッキング層側には公知の下引き層を設けることが、インク受容層やバック層と支持体の接着性の観点から好ましい。
【0074】
また、透明である必要のない場合に用いる支持体としては、例えば、基紙の少なくとも一方に白色顔料等を添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(いわゆるRCペーパー)、ポリエチレンテレフタレートに白色顔料を添加してなるいわゆるホワイトペットが好ましい。
【0075】
〔インクジェット記録用紙の作製〕
本発明のインクジェット記録用紙のインク受容層は、例えば支持体表面に少なくとも無機微粒子分散液と親水性バインダーを含む塗布液を塗布、乾燥することで得られる。必要に応じて複数の異なる塗布液を順次もしくは同時に塗布して得られる。
【0076】
複数の塗布液を用いる場合、同時に重層して塗布する方が好ましい。また、塗布直前に必要な添加剤を塗布液中にインライン添加して塗布することも出来る。
【0077】
インク吸収層は、インクの液滴を全て吸収する必要があり、吸収容量として10ml/m2以上の吸収容量を持つことが好ましく、更に好ましくは15ml/m2以上である。
【0078】
インク受容層の無機微粒子付き量は10〜25g/m2が好ましい。受容層の膜厚としては10〜50μmが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に断りのない限り絶乾質量%を示す。
【0080】
(予備分散液の作製)
水性媒体(以後A液と称す)として、
水 800L
ホウ酸 5.8kg
硼砂 6.4kg
5%硝酸 3.4L
エタノール 16.0L
P−1(10%溶液) 440L
(P−1:下記特開2001−10207号公報の段落番号0072「化1」記載の化合物)
を混合、溶解した。
【0081】
【化4】

【0082】
無機微粒子として1次粒子の平均粒径が約7nmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、A300:以後A300と称す)を温度が25℃になるよう、保存しておいたものを用いた。
【0083】
A液を8.3kg/min、A300を3.56kg/minの割合で別々に連続的にフロージェットミキサー(粉研社製、以後FJMと称す)に供給した。FJMから連続的に排出してきた分散液をファインフローミル(太平洋機工社製、以後FFMと称す)に連続的に通し、予備分散液を得た。予備分散液の温度は40℃であった。FJM、FFMの条件は周速30m/secで行った。
【0084】
実施例1
(無機微粒子分散液の作製・・・本分散)
前記予備分散液を、RL125V(連続式湿式メディア型粉砕機、アシザワ社製、以後RLと称す)に予備分散液を10kg/minで供給し本分散を行い、無機微粒子分散液を得た。RL条件は、ビーズ径0.3mmジルコニア、ビーズ充填率80%、滞留時間3分、ロータ回転周速10m/sec、ベッセル、ローターはウレタン樹脂製で行った。
【0085】
(インク受容層用塗布液1の作製・・・上層用塗布液、以下塗布液1という)
前記無機微粒子分散液に、スチリルピリジニウム基を導入した、濃度を10%に調整した光架橋性ポリビニルアルコール誘導体水溶液(東洋合成工業社製:SPP−SHR、主鎖PVA重合度2300、ケンカ度88%)水を加え、撹拌、混合し塗布液を得た。塗布液の温度は40℃に調整した。粘度は200mPa・sであった。溶存酸素量は7mg/Lで飽和溶存酸素量であった。溶存酸素量は、Yellow springs instrument Co.Inc.製溶存酸素計モデル52を用い、プローブは5905タイプを使用して測定した。
【0086】
シリカ微粒子と水溶性樹脂との質量比は6:1にした。塗布液中のシリカ微粒子の質量濃度として17%になるように水で調整した。
【0087】
(インク受容層用塗布液2の作製・・・最下層用塗布液)
前記塗布液1を脱気水で希釈し、5mPa・sに調整した。このときの溶存酸素量は5.6mg/Lであった。またシリカ濃度は5.64%であった。
【0088】
(インクジェット記録用紙の作製)
前記塗布液1を脱泡処理を行い、溶存酸素量を5.6mg/L(飽和の0.8倍)にした。支持体上に塗布液1(上層)、2(下層)をスライド式塗布装置を用いて、同時重層塗布した。塗布速度は300m/minで行った。上層のウエット膜厚は100μm、下層は15μmで行った。その後、365nmに主波長を持つメタルハライドランプで、エネルギー量50mJ/cm2の紫外線を照射し、乾燥して記録用紙1を得た。塗布直前の塗布液温度は40℃で行った。
【0089】
支持体は両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚みが220μmでインク吸収層面のポリエチレン中にはポリエチレンに対して13質量%のアナターゼ型酸化チタンを含有)を用いた。上層塗布液1中溶存酸素量、下層塗布液2中の溶存酸素量、上下層ウエット膜厚、粘度、塗布速度、塗布液温度を表1に示すように変えて記録用紙2〜23を作製した。
【0090】
記録用紙1〜23のひび割れ、塗布筋を評価し結果を表1に示す。尚、塗布液の粘度は水で希釈し調整した。また、シリカ微粒子の付き量は、16.15g/m2になるようにした。
【0091】
(記録用紙の評価)
ひび割れ
塗布面の0.3m2当たりのひび割れ点数を目視でカウントした。ひび割れ点数は、通常10点以下であれば実用上問題ないと考えられる。
【0092】
塗布スジ
塗布面を目視で評価した。
【0093】
○:無し
△:若干発生あるが実用上問題なし
×:多発していて実用上問題
【0094】
【表1】

【0095】
本発明内のものはいずれの特性もよいが、本発明外のものは少なくとも何れかの特性に問題があることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する支持体上に、2層以上の塗布層を同時重層塗布し乾燥する際、支持体に接して設けられる最下層の塗布液の粘度、ウエット膜厚を、より上層の塗布液粘度、ウエット膜厚よりいずれも低くするインクジェット記録用紙の製造方法において、塗布液中には少なくとも溶媒、無機微粒子及び電離放射線により架橋する水溶性の高分子化合物を含有させ、塗布後に電離放射線を照射して前記高分子化合物を架橋する工程を経た後に、溶媒を蒸発させる乾燥工程を有し、該塗布液中の溶存酸素量を、塗布液温度における飽和量の0.3倍以上0.8倍以下で、かつ2.5mg/L(リットル)以上にすることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項2】
前記無機微粒子がシリカ微粒子であり、気相法で造られたシリカであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項3】
前記同時重層塗布がスライド塗布方式であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法により作製されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2006−346960(P2006−346960A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174774(P2005−174774)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】