説明

インクジェット記録装置

【課題】記録ヘッドを保護する各キャップ内のインクを共通の吸引ポンプで吸引しても各キャップ内のインクの残留をなくすること。
【解決手段】インクジェット記録装置は、ノズルからインクを吐出してシートに画像を形成する記録ヘッドを複数備えており、さらに、各記録ヘッドのノズルを覆って、記録ヘッドのインクを溜めるキャップ118と、各キャップに連通して、キャップに溜まったインクを排出する接離可能な弁座142及び弁体143を有する排出弁141と、各排出弁の弁体と弁座とを接触させて排出弁を閉塞する方向に付勢する密着ばね122と、各排出弁に共通に接続され、キャップ内のインクiを吸引する吸引ポンプと、を備え、吸引ポンプの吸引により、キャップ内のインクが排出される際、弁座と弁体との間に介在するインクの抵抗が、密着ばねの付勢力に抗して弁座と弁体を解放保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置には、カラー画像をシートに形成するタイプのものがある。このタイプのインクジェット記録装置は、各色に対応して複数の記録ヘッドを備えている。記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口としてのノズルを備えている。ノズルは、シートに鮮明な画像を形成するため、清浄に保たれている必要がある。ノズルを清浄に保つ機能を備えたインクジェット記録装置として、特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
この従来のインクジェット記録装置は、ノズルをキャップで覆って、ノズルを保護し清浄に保っている。この場合、ノズルをクリーニングする予備吐によって発生したインクがキャップ内に溜まることがある。このため、従来のインクジェット記録装置は、各キャップに共通の吸引ポンプで、溜まったインクを吸引して回収するようになっている。
【0004】
この場合、キャップ内にインクが無いと流路抵抗が少なくなり、有ると流路抵抗が高くなる。このため、従来のインクジェット記録装置は、バルブの開閉量を調節して流路抵抗によるインク残存がないようにインクの流れを調整していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−181034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のインクジェット記録装置は、各キャップ内のインクを共通の吸引ポンプで吸引している。このため、従来のインクジェット記録装置は、インクが無い空のキャップ内の空気を吸引してしまい、インクが有るキャップ内のインクを充分に吸引することができないため、キャップ内のインクの残存量が多い場合があった。
【0007】
本発明は、共通の吸引手段でキャップ内のインクを吸引する場合において、各キャップ内のインクの残留を抑えることのできるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、吐出口からインクを吐出してシートに画像を形成する複数の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置において、各前記記録ヘッドの吐出口を覆って、前記記録ヘッドから吐出されたインクを溜めるキャップと、各前記キャップに連通して、前記キャップに溜まったインクを排出する接離可能な弁座及び弁体を有する排出弁と、各前記排出弁の弁体と弁座とを接触させて前記排出弁を閉塞する方向に付勢する付勢手段と、各前記排出弁に共通に接続され、前記キャップに溜まったインクを吸引する吸引手段と、を備え、前記吸引手段の吸引により前記キャップに溜まったインクが排出される際、前記弁座と前記弁体との間に介在するインクの抵抗により前記付勢手段の付勢力に抗して前記弁座と前記弁体とを解放されるように各前記排出弁が構成されている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、吸引手段により、キャップ内のインクが吸引されて排出される際、弁座と弁体との間に介在するインクの抵抗が付勢手段の付勢力に抗して弁座と弁体を解放するように保持している。このため、本発明のインクジェット記録装置は、キャップ内のインクを吸引してインクの残留をなくすることができて、記録ヘッドを清浄にし、シートに鮮明な画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の外観斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置のシート搬送方向に沿った断面図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置の記録ヘッドとクリーニング装置との概略図である。
【図4】図3のクリーニング装置における排出機構の周辺の断面図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の断面図である。
【図5】図4の状態から排出弁がキャップの排出口を開いた図である。
【図6】クリーニング装置の動作説明用のフローチャートである。
【図7】クリーニング装置において、ポンプの吸引時間と排出弁に作用する力との相関図である。
【図8】第2実施形態のインクジェット記録装置における、クリーニング装置の排出弁周辺の図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の図である。
【図9】図8の状態から、排出弁がキャップの排出口を開いた状態の図である。
【図10】第3実施形態のインクジェット記録装置において、クリーニング装置の排出弁周辺の図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の図である。
【図11】図10の状態から排出弁がキャップの排出口を開いた状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1乃至第3実施形態のインクジェット記録装置を各実施形態の順に図に基づいて説明する。
【0012】
(第1実施形態のインクジェット記録装置)
図1は、本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の外観斜視図である。図2は、図1のインクジェット記録装置のシート搬送方向に沿った断面図である。図3は、図1のインクジェット記録装置の記録ヘッドとクリーニング装置との概略図である。
【0013】
インクジェット記録装置101は、画像情報が送られてくるホストPC102に接続されている。インクジェット記録装置101は、上ユニット103と下ユニット104とで構成されている。
【0014】
上ユニットは、後述する吐出口としてのノズルからインクを吐出してシートに画像を形成する複数の記録ヘッド105Y,105M,105C,105Kと、記録ヘッドの印字性能を維持するクリーニング装置106等からなる記録エンジン107を内蔵している。記録ヘッド105Y,105M,105C,105Kは、シート搬送方向(矢印A方向)に対して交差する方向(シートの幅方向)に位置を異にして2組配設されている。
【0015】
下ユニット104は、シートPを保持する給紙ユニット110と、シートPを給紙ユニット110から搬送する搬送ユニット108等を内蔵して、印字されたシートPが蓄積されるスタッカ109を外部に備えている。
【0016】
インクジェット記録装置は、記録エンジン107の直下に配置された搬送ユニット108で、シートPを搬送する。記録ヘッド105は、インクを吐出してシートPに画像を形成する。画像を形成されたシートPは排出口111から排出されて、スタッカ109上に堆積される。
【0017】
クリーニング装置106は、シートが通過する領域から外れた領域に設けられている。クリーニング装置106(図3)は、記録ヘッド105を清浄にするとき、シートに画像を形成する位置から上方の待機位置に移動した記録ヘッドの下側にキャップ118Y,118M,118C,118Kが進入して、記録ヘッドのノズルを覆うようになっている。
【0018】
記録ヘッド105Y,105M,105C,105Kは、ノズル117Y,117M,117C,117KからシートPにイエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの各インクを吐出するようになっている。各記録ヘッドは、シートの搬送方向に対して交差する方向に複数配列されたノズルを有している。このため、インクジェット記録装置は、ラインプリンタである。
【0019】
クリーニング装置106は、各記録ヘッドのノズルを覆うことのできるキャップ118Y,118M,118C,118Kと、各キャップに分岐路113Y,113M,113C,113Kによって共通に接続されたパイプ113とを備えている。また、クリーニング装置は、パイプ113に接続されて記録ヘッド105Y,105M,105C,105Kをクリーニングする際に負圧を発生する吸引ポンプ112と、この吸引ポンプの負圧を一時的に蓄えるバッファ114とを備えている。さらに、クリーニング装置106は、バッファ弁115も備えている。バッファ弁115は、各キャップとバッファ114との間のパイプ113の途中に開閉自在に設けられて、開くことによって、バッファ114内に蓄積した負圧を瞬時に各記録ヘッド105に付与するようになっている。吸引ポンプ112の下流側には、クリーニングによって収集した各キャップ内のインクを蓄積するメンテナンスタンク116が接続されている。
【0020】
吸引ポンプ112、バッファ114及びバッファ弁115は、吸引手段を構成しているが、吸引手段は、吸引ポンプ112だけでもよい。吸引手段は、各記録ヘッドに対応する各排出弁141(図4)に共通に接続されている。
【0021】
キャップ118Y,118M,118C,118Kは、各記録ヘッドに対応した位置で、記録ヘッドのノズル117Y,117M,117C,117Kを覆い、乾燥から守り、バッファ114に蓄えられている負圧を各記録ヘッドに付与するために設けられている。各キャップは、記録ヘッド毎の全部のノズルを封止するため、弾性体で蛇腹状に形成されて、記録ヘッドの形状に追従変形して、記録ヘッドに密着するようになっている。また、キャップ118Y,118M,118C,118Kは、記録ヘッドのノズル117Y,117M,117C,117K近傍をクリーニングする予備吐によって発生したインクを溜めることができるようになっている。各キャップ内に溜まるインクの量は、同じではない。
【0022】
キャップの下部119Y,108M,108C,108Kには、キャップの排出口118bを開閉する排出機構120Y,120M,120C,120Kが設けられている。
【0023】
図4は、図3のクリーニング装置における排出機構の周辺の断面図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の断面図である。図5は、図4の状態から排出弁がキャップの排出口を開いた図である。図6は、クリーニング装置の動作説明用のフローチャートである。図7は、クリーニング装置において、ポンプの吸引時間と排出弁に作用する力との相関図である。
【0024】
なお、クリーニング装置の各排出機構120Y,120M,120C,120Kは、各記録ヘッドに対して同様な構造をして同様な動作をするようになっている。このため、各色の補助符号「Y,M,C,K」は、省略する。図4、図5に記載の符号も、色の補助符号を省略する。
【0025】
排出機構120は、キャップ118に連通して、キャップに溜まったインクを排出する接離可能な弁座142及び弁体143を有する排出弁141と、弁体と弁座とを接触させて排出弁を閉塞する方向に付勢する付勢手段としての密着ばね122とを有している。弁座142は、キャップ118の排出口118bに接することができるように円錐状に形成されている。排出弁141及び密着ばね122は、パイプ113側に備えられている。
【0026】
また、排出機構120は、キャップ118の排出口118bと弁体143と密着ばね122とを貫通する保持軸123を備えている。弁体143は、中央に保持軸123が貫通する孔143aが形成されて、保持軸123と互いに摺動するようになっているが、吸引ポンプ112による負圧やキャップ内に溜まったインクが漏れないようになっている。
【0027】
保持軸123は、キャップ118の底部118aに当接するカップ状の頭部123aを有している。頭部123aには、保持軸123の軸中心を中心に放射状に横孔123bが形成されている。保持軸123の下端部には、保持ナット124がねじ込まれている。保持ナット124と弁体143との間に密着ばね122が介在している。密着ばね122は、弁体134を弁座142側に付勢して、弁体143を排出口118bに接触させる方向に付勢し、かつ保持ナット124を介して保持軸123を下方に付勢して、保持軸123の頭部123aをキャップの底部118aに圧接させている。なお、保持軸123は、キャップ118の底部118aに取り付けてキャップ118と一体化してもよい。
【0028】
以上の構成において、インクジェット記録装置101は、シートに画像を形成し終わり、ホストPC102から全ての記録ヘッド105のクリーニング実施の指令を受けると(図6、S601)、全ての記録ヘッド105を図2に示すように上昇させる。そして、インクジェット記録装置101は、全てのキャップ118と排出機構120を記録ヘッド105の下に移動させて、キャップ118を記録ヘッド105のノズル117に密着させて、ノズル117を覆う(S602)。このとき、バッファ弁115、バッファ114、吸引ポンプ112及びメンテナンスタンク116は、移動しない。このため、パイプ113は、キャップ118の移動に追従できるように弾性変形になっている。
【0029】
その後、インクジェット記録装置101は、記録ヘッドのノズル117近傍のクリーニングを行う回復予備吐出を行い(S603)、バッファ弁115を密閉し(S604)、吸引ポンプ112を駆動させて(S605)、バッファ114内を負圧に保持する。記録ヘッドのノズル117近傍のクリーニングを行ったとき、各キャップ118K,118C,118M,118Yの内、少なくとも1つのキャップにインクが溜まる場合と、全部のキャップにインクが溜まらない場合とがある。
【0030】
仮に、いずれか1つのキャップにインクが溜まったとする。すべてのキャップの排出弁141は、密着ばね122によって、円錐状に形成された弁座142に圧接されている。このため、インクが溜まったキャップの排出弁141は、キャップ118内に溜まっているインクの漏れを防止している。
【0031】
その後、インクジェット記録装置101は、所定時間経過後(S606のYES)、吸引ポンプ112の駆動を停止させ(S607)、バッファ弁115を開く(S608)。バッファ弁115が開かれると、キャップ毎に接続されている全部の排出弁141に負圧が加わり、弁体143が密着ばね122に抗して弁座142から離れる。すなわち、各排出弁141が、開放される。排出弁141が開放されると、インクが溜まっているキャップの弁体143と弁座142との隙間からインクiが排出される。インクが排出されている間、排出弁141は、インクiの摩擦により、密着ばね122に抗して開放し続けている。インクは、パイプ113に流入し、バッファ弁115、バッファ114、吸引ポンプ112を介して、メンテナンスタンク116に溜められる。所定時間経過後(S609のYES)、クリーニングが終了する(S610)。
【0032】
キャップ内のインクiがなくなると、弁体143が密着ばね122によって弁座142に圧接されて、排出弁141は、閉じられる。
【0033】
図7の相関図の横軸はバッファ弁115を開放してからの経過時間を示し、縦軸は排出弁141を押し下げる力を示している。
【0034】
密着ばね122が弁体143を弁座142に押し付ける力F1は、密着ばね122のばね定数をk、インクが流れているときの圧縮長さをlとした場合、
F1=k・l 式(1)
となる。
【0035】
キャップ118内にインクiが溜まっている場合、排出弁141を開放する方向に働く力F2は、次の式(2)のように、パイプ113内の負圧により弁体143を引き下げる力p、インクの摩擦力τ(i)、及び弁体143の自重wを加算したものである。
F2=p+τ(i)+w 式(2)
となる。
【0036】
そして、排出弁141が開くために必要な条件は、
F1<F2 式(3)
である。
【0037】
すなわち、排出弁141が開くには、
kl<(p+τ(i)+w) 式(4)
が成り立つ必要がある。
【0038】
パイプ113内の負圧により弁体143を引き下げる力pは、時間の経過とともに減少するため、図7の時間T2の範囲において式(4)が成り立ち、時間T2は、キャップ118内にインクiが溜まっているインクの吸引時間になる。
【0039】
このように、吸引ポンプ112の負圧による吸引により、キャップ内のインクが排出される際、弁座142と弁体143との間に介在するインクの抵抗が、密着ばね122の付勢力に抗して弁座142と弁体143を解放して保持するようになっている。このため、インクジェット記録装置101は、インクを排出することができる。
【0040】
キャップ内にインクiが溜まらなかった場合、排出弁を開放する方向に働く力F3は、次の式(8)のように、パイプ113内の負圧により弁体143を引き下げる力p、空気流体の摩擦力τ(a)、及び排出弁141自重wを加算したものである。
F3=p+τ(a)+w 式(5)
【0041】
バッファ弁115が開放されて、パイプ113内が負圧になった直後に、
F1<F3 式(6)
が成り立ち、排出弁141が開放される。
【0042】
すなわち、
kl<(p+τ(a)+w) 式(7)
が成り立つ場合、排出弁141は、開放される。
【0043】
図7の時間T3の範囲において式(7)が成り立ち、時間T3は、キャップ内にインクiが溜まっていない排出弁141の開放時間になる。
【0044】
空気の摩擦力τ(a)はインクの摩擦力τ(i)に対して小さいため、
F2>F3 式(8)
となる。
【0045】
すなわち、
T2>T3 式(9)
が成り立つ。
【0046】
このように、インクが溜まらなかったキャップの排出弁141の弁体143は、弁座142から離れても、インクが流れていないため、インクによる摩擦がなく、直ぐに弁座132に密着する。すなわち、インクが溜まっていないキャップの排出弁141は、式(9)に示すように、一旦、開いた後、インクが溜まっているキャップの排出弁141よりも早く、直ちに、閉じる。しかも、バッファ114内の負圧は、インクが溜まっているキャップの排出弁141から流出しているインクの吸引に作用するため、インクが溜まっていないキャップの排出弁141は、一旦、開いた後、開くことが無い。
【0047】
よって、第1実施形態のインクジェット記録装置101は、キャップ内にインクiが有る場合、インクが無い場合と比較して、排出弁141が長く開放されるためインクのみを吸引でき、無駄な空気の吸引(空吸引)をすることがない。しかも、キャップ内のインクが、負圧により吸引されて排出される際、弁座142と弁体143との間で抵抗によって、密着ばね122に抗して弁座と弁体を解放して保持するようになっている。このため、インクジェット記録装置は、電気的構成によることなく、機械的構成によって作動するので構成を簡単にすることができる。
【0048】
(第2実施形態のインクジェット記録装置)
図8は、第2実施形態のインクジェット記録装置における、クリーニング装置の排出弁周辺の図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の図である。図9は、図8の状態から、排出弁がキャップの排出口を開いた状態の図である。図8、図9は、クリーニング装置206における排出機構220の、記録ヘッド105のノズルの配列方向に沿った断面図である。
【0049】
第2実施形態のインクジェット記録装置201は、第1実施形態のインクジェット記録装置101と比較して、クリーニング装置のキャップと排出機構が異なっており、他の構成は同様であるので他の構成の図示及び説明を省略する。
【0050】
第1実施形態のインクジェット記録装置のクリーニング装置106は、弁座142が移動しないキャップ118に形成され、弁体143が移動するようになっている。しかし、第2実施形態のインクジェット記録装置のクリーニング装置206は、弁座242が移動しない部材に設けられて、弁体243が移動するキャップ218に形成されている。すなわち、キャップ218は、弁体243が形成された側とは反対側の端部に設けられた固定の支軸230を中心にして弁体243側が矢印B方向に上下動自在になっている。キャップ218内は、排出口218bが最底部になるように傾斜している。
【0051】
クリーニング装置206の排出機構220について説明する。
【0052】
キャップ218の排出口218bには、弁体243が形成されている。弁座242は、固定部材としての弁座軸251の上部に形成されている。弁体243と弁座242は、排出弁241を形成している。ベース板252とキャップ218の弁体243側との間に付勢手段としての密着ばね222を介在させてある。ベース板252とキャップ218とには、ベース板252とキャップ218との間から密着ばね222が外れないようにする突部218c,252cが向き合って突設されている。密着ばね222は、キャップ218を押し上げて、弁体243を弁座242に密着させている。
【0053】
キャップ218の弁体243側とベース板252との間には、弁座軸251を収納した蛇腹ジョイント231を介在させてある。蛇腹ジョイント231の上部はキャップ218に接続され、下部はベース板252に固定されている。弁座軸251の下端は支持部材253を介してベース板252に固定されている。支持部材253は、蛇腹ジョイント231の下部内に位置して、横孔253aが複数形成されている。パイプ213の上流端部はベース板252に固定され、下流端部はバッファ弁115(図3)に接続されている。蛇腹ジョイント231の内部とパイプ213は、横孔253aとベース板252の連通孔252aとによって連通している。蛇腹ジョイント231、支持部材253の横孔253a、ベース板252の連通孔252a及びパイプ213は、インクの流路を形成している。本実施形態においても、吸引手段は、各記録ヘッドに対応する各排出弁241に共通に接続されている。
【0054】
図8、図9に示すインクジェット記録装置201も、記録ヘッドを清浄にするとき、シートに画像を形成する位置から上方の待機位置に移動した記録ヘッド105(図2)の下側に、キャップ218と排出機構220が進入する。そして、キャップ218が記録ヘッドのノズルを覆う。なお、弁座軸251、支軸230及びベース板252は、固定されている説明になっているが、これは、キャップ218に対して移動しないという意味であり、記録ヘッドに対しては、キャップとともに移動するようになっている。
【0055】
キャップ218内にインクiが溜まる場合、インクiは、キャップ218内の勾配により排出弁241周辺に溜まる。この状態で、バッファ弁115(図3)を開くと、バッファ114内の負圧によって、キャップ218が、密着ばね222に抗して下方に吸引される。そして、キャップ218は、支軸230を中心にして下方に傾動(移動)し、弁体243が弁座242から離れて、蛇腹ジョイント231が縮められる。このとき、キャップ218に溜まっているインクの重量がキャップ218の傾動に寄与する。弁体243が弁座242から離れて、排出弁241に隙間が生じると、インクiが負圧によって吸引されて排出弁241に閉じられていた排出口218bから蛇腹ジョイント231へ流出する。インクが流れている間、排出弁241は、インクiの摩擦により、密着ばね222に抗して開放し続けている。インクは、メンテナンスタンク116に溜められる。キャップ218内のインクが無くなると、キャップ218が密着ばね222によって押し上げられ、弁体243が弁座242に密着して排出口218bを塞ぎ、排出弁241が閉じられる。
【0056】
一方、インクが溜まらなかったキャップの排出弁241の弁体243は、負圧によって弁座242から離れても、インクが流れていないため、インクによる摩擦がなく、直ぐに弁座232に密着する。すなわち、インクが溜まっていないキャップの排出弁241は、一旦、開いた後、インクが溜まっているキャップの排出弁241よりも早く、直ちに、閉じる。しかも、バッファ114内の負圧は、インクが溜まっているキャップの排出弁241から流出しているインクの吸引に作用するため、インクが溜まっていないキャップの排出弁241は、一旦、開いた後、開くことが無い。
【0057】
よって、第2実施形態のインクジェット記録装置201も、第1実施形態のインクジェット記録装置101と同様な効果を奏する。
【0058】
(第3実施形態のインクジェット記録装置)
図10は、第3実施形態のインクジェット記録装置において、クリーニング装置の排出弁周辺の図であり、排出弁がキャップの排出口を閉じた状態の図である。図11は、図10の状態から排出弁がキャップの排出口を開いた状態の図である。
【0059】
第3実施形態のインクジェット記録装置301は、第1実施形態のインクジェット記録装置101と比較して、クリーニング装置の排出機構が異なっており、他の構成は同様であるので他の構成の図示及び説明を省略する。
【0060】
クリーニング装置306の排出機構320は、キャップ318に排出口318bを介して連通して、キャップのインクを排出する接離可能な弁座342及び弁体343を有する排出弁341を備えている。排出機構320は、弁体と弁座とを接触させて排出弁を閉塞する方向に付勢する付勢手段としての密着ばね322及びキャップ内のインクによって浮力が生じるフロート327も備えている。弁座342は、キャップ318の排出口318bに円錐状に形成されている。
【0061】
弁体343には、弁体軸353が設けられている。弁体軸353の上端部には、連結軸354が設けられている。キャップ318内には、支点支柱355が立設されている。支点支柱355の上端部には、フロート支軸356が水平に設けられている。フロート支軸356には傾動軸357が設けられている。傾動軸357は、フロート支軸356を中心に上下方向に傾動するようになっている。傾動軸357の一端は、連結軸354を貫通して連結軸354に対して摺動できるようになっている。
【0062】
傾動軸357の他端には、フロート327が設けてある。フロート支軸356には、密着ばね322が設けられている。密着ばね322は反転ばねであり、一端はキャップ318の底部に係合し、他端は傾動軸357に係合している。このため、密着ばね322は、弁体343を弁座342に接触させる方向に付勢している。また、キャップ318にインクが溜まっていないとき、フロート327は、キャップの底部318aとの間に隙間Gが生じており、自重で弁体343を弁座342に接触させる方向に付勢している。排出弁341は、キャップ318の下部に設けたパイプ313に連通している。
【0063】
図10、図11に示すインクジェット記録装置301も、記録ヘッドを清浄にするとき、シートに画像を形成する位置から上方の待機位置に移動した記録ヘッド105(図2)の下側に、キャップ318と排出機構320が進入する。そして、キャップ318が記録ヘッドのノズルを覆う。
【0064】
キャップ318内にインクiが溜まった場合、フロート327がインクによる浮力によって浮き上がろうとする。しかし、密着ばね322が、フロート327の浮き上がりを阻止して、弁体343を弁座342に圧接している。このため、排出弁341は、閉じられており、インクiの流出を阻止している。
【0065】
しかし、バッファ弁115(図3)が開き、バッファ114内の負圧が排出弁341に加わると、弁体343が密着ばね322に抗して吸引されて、弁座342から離れる。このとき、フロート327の浮力が、弁体343が弁座342から離れるのを助ける方向に作用する。排出弁341が開くと、キャップ318内に溜まっているインクは、負圧に吸引され、パイプ313に案内されてメンテナンスタンク116に溜られる。
【0066】
インクが流れている間、排出弁341は、インクiの摩擦により、密着ばね322に抗して開放し続けている。キャップ318内のインクが無くなると、弁体343が密着ばね322の弾力とフロート327の自重とによって弁座342に密着する。この結果、排出弁341が閉じられる。
【0067】
一方、インクが溜まらなかったキャップの排出弁341の弁体343は、負圧によって、弁座342から離れても、インクが流れていないため、インクによる摩擦がなく、直ぐに弁座332に密着する。すなわち、インクが溜まっていないキャップの排出弁341は、一旦、開いた後、インクが溜まっているキャップの排出弁241よりも早く、直ちに、閉じる。しかも、バッファ114内の負圧は、インクが溜まっているキャップの排出弁341から流出しているインクの吸引に作用するため、インクが溜まっていないキャップの排出弁341は、一旦、開いた後、開くことが無い。
【0068】
よって、第3実施形態のインクジェット記録装置301も、第1実施形態のインクジェット記録装置101と同様な効果を奏する。
【0069】
また、第3実施形態のインクジェット記録装置301のフロート327は、キャップ内にインクが溜まらないとき、自重によって、密着ばね322と協働して排出弁を閉じるように作用している。また、フロート327は、メンテナンスタンク116内の負圧によって、キャップ内のインクを吸引する際、負圧と協働して弁体343を弁座342から離間するように作用する。このため、第3実施形態のインクジェット記録装置301は、インクが溜まっていないキャップからの空気の漏れを少なくし、インクが溜まっているキャップからのインクの排出を速やかに行うことができるという効果も奏する。
【符号の説明】
【0070】
i:漏洩インク、
101:第1実施形態のインクジェット記録装置、106:クリーニング装置、107:記録エンジン(画像形成部)、112:吸引ポンプ(吸引手段)、113:パイプ、114:バッファ、115:バッファ弁、116:メンテナンスタンク、117:記録ヘッドのノズル(吐出口)、118:キャップ、118a:キャップの底部、118b:排出口、120:排出機構、122:密着ばね(付勢手段)、141:排出弁、142:弁座、143:弁体、
201:第2実施形態のインクジェット記録装置、206:クリーニング装置、213:パイプ、218:キャップ、218b:排出口、220:排出機構、322:密着ばね(付勢手段)、231:蛇腹ジョイント、241:排出弁、242:弁座、243:弁体、
301:第3実施形態のインクジェット記録装置、306:クリーニング装置、318:キャップ、318b:排出口、320:排出機構、322:密着ばね(付勢手段)、327:フロート(付勢手段)、341:排出弁、342:弁座、343:弁体。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口からインクを吐出してシートに画像を形成する複数の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置において、
各前記記録ヘッドの吐出口を覆って、前記記録ヘッドから吐出されたインクを溜めるキャップと、
各前記キャップに連通して、前記キャップに溜まったインクを排出する接離可能な弁座及び弁体を有する排出弁と、
各前記排出弁の弁体と弁座とを接触させて前記排出弁を閉塞する方向に付勢する付勢手段と、
各前記排出弁に共通に接続され、前記キャップに溜まったインクを吸引する吸引手段と、を備え、
前記吸引手段の吸引により前記キャップに溜まったインクが排出される際、前記弁座と前記弁体との間に介在するインクの抵抗により前記付勢手段の付勢力に抗して前記弁座と前記弁体とを解放されるように各前記排出弁が構成されている、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記排出弁の弁座は、前記キャップに形成され、
前記付勢手段は、前記弁体を付勢して、前記弁体を前記弁座に接触させる方向に付勢するばねであり、
前記吸引手段の吸引により、前記キャップに溜まったインクが排出される際、前記ばねに抗して前記弁体が前記弁座から離間する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記キャップは、前記弁体を形成されて上下動自在であり、
前記弁座は、固定部材に固定されており、
前記付勢手段は、前記キャップを付勢して、前記弁体を前記弁座に接触させる方向に付勢するばねであり、
前記吸引手段の吸引により、前記キャップに溜まったインクが排出される際、前記ばねに抗して前記キャップが下方に移動して、前記弁体が前記弁座から離間する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記弁座は、前記キャップに形成され、
前記付勢手段は、前記弁体を前記弁座に接触させる方向に付勢するばねと、前記キャップに溜まったインクによって浮力が生じるフロートとを有し、
前記フロートは、前記キャップにインクが溜まっていないとき、前記ばねと協働して前記弁体を前記弁座に接触させる方向に付勢し、前記吸引手段が、前記キャップの内のインクを吸引する際、前記吸引手段と協働して前記弁体を前記弁座から離間させる方向に付勢する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−31937(P2013−31937A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168341(P2011−168341)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】