説明

インスリン抵抗性マーカー

【課題】インスリン抵抗性マーカー、インスリン抵抗性を評価する方法、インスリン抵抗性を改善する物質をスクリーニングする方法、及びインスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列(プロエピセリンタンパク質)の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。上記特定のアミノ酸配列をコードする塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン抵抗性に関連する生体物質に関し、具体的には、インスリン抵抗性マーカー、インスリン抵抗性を評価する方法、インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法、及びインスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物に関する。より具体的には、インスリン抵抗性及びインスリン抵抗性を伴う疾病状態及び容態の発生予防、診断及び治療に関する。
【背景技術】
【0002】
現在日本国では、深刻な生活習慣病を引き起こす、糖尿病、高血圧、高脂血症などのメタボリック症候群の患者数が急増しており、その予防、診断、及び治療の方法の開発が求められている。
【0003】
メタボリック症候群の主因が肥満にあることから、肥満のメカニズムを解明すべく、様々な研究が行われている。マウス由来の3T3-L1株化細胞は、脂肪組織のモデルとしてこのような研究に最も頻繁に利用されている細胞のひとつである。3T3-L1細胞は、分化を誘導することによって、細胞内に脂肪滴を蓄積し、インスリン受容体を介して細胞外グルコースの取り込みが促進されるなど、実際の脂肪組織における生化学的及び生理学的特長と極めて一致する性質を持っていることが証明されている(非特許文献1:Cell, Vol. 5, 19-27, May 1975)。
【0004】
3T3-L1細胞を用いた研究例として、具体的には、特許文献1:特開2004−105175号公報に、脂肪細胞が分泌するタンパク質及び遺伝子について報告されており、特許文献2:特開2004−135605号公報には、脂肪細胞の分化に関連するタンパク質及び遺伝子について報告されており、特許文献3:特開2005−247740号公報には、脂肪細胞の分化過程において発現する、脂肪酸代謝の制御機能を有するタンパク質について報告されており、特許文献4:特開2006−141233号公報には、脂肪細胞の肥大化に関連する分泌タンパク質及び遺伝子について報告されている。
【0005】
3T3-L1細胞のモデル系は、ヒト生体中の脂肪組織のモデル系としても用いられている。例えば、核内受容体PPARγ(ペルオキシソーム増殖剤応答性レセプターγ)などの増殖・分化に働く鍵因子は、3T3-L1細胞でも同様に機能していることがわかっている。さらに、このようなモデル系において機能又は変動するタンパク質が、マウス白色脂肪組織及びヒト脂肪組織で同様に機能又は変動している例が多数報告されている。そのようなタンパク質の具体例としては、アディポネクチン(非特許文献2:Biochemical and Biophysical Research Communications 290, 1084-1089 (2002)、非特許文献3:NATURE MEDICINE, VOLUME 7, NUMBER 8, 941-946, AUGUST 2001、特許文献5:国際公開第2003/063894号パンフレット、特許文献6:国際公開第2004/061108号パンフレット)、レジスチン(非特許文献4:NATURE, VOL 409, 18, 292-293, JANUARY 2001、非特許文献5:Biochemical and Biophysical Research Communications 288, 1027-1031 (2001)、特許文献5、特許文献6)、遊離脂肪酸(非特許文献6:THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 280, NO. 42, pp. 35361-35371, October 21, 2005)、ビスファチン(非特許文献7:Biochemical and Biophysical Research Communications 359 (2007) 194-201)などが挙げられる。
【0006】
脂肪細胞の肥大化、すなわち肥満は、インスリン抵抗性の一要因である。脂肪細胞は、体内のインスリン感受性を調節する重要な内分泌器官として知られている。現在、脂肪の分化・増殖や肥大化、及びインスリン感受性に影響を与えるアディポサイトカイン(例えば、上述のアディポネクチンや、レプチン、腫瘍壊死因子α(TNFα)など)が多数同定されている。
【0007】
インスリン抵抗性は、2型糖尿病をはじめとするメタボリック症候群などの根源的要因である。従って、インスリン抵抗性を診断及び改善することは、糖尿病をはじめとする生活習慣病全体の予防及び根本的治療につながると推定される。
しかしながら、実際には、すでにインスリン抵抗性を発症した後、さらに血圧や脂質代謝に異常を来たしてはじめて、健康診断などでメタボリック症候群が発覚することが現状である。すなわち、早期にインスリン抵抗性発症を診断することは非常に困難であることが現状である。
このため、インスリン抵抗性を特異的に検出することができる新規診断マーカーの発見が求められている。
【0008】
上述のアディポサイトカインは、治療や診断といった実用化には至っていない。一方、糖尿病におけるインスリン抵抗性改善薬としては、核内受容体PPARγを標的としたチアゾリジン系薬剤が現在のところ代表的なものである。チアゾリジン系薬剤は、インスリン感受性を上げることで、体内の糖代謝調節を正常化させる作用がある。しかしながら、この薬については、肝機能障害などの副作用や、厳密な投薬コントロールの必要性などの問題が指摘されている。
このため、インスリン抵抗性に対して特異的作用を示す新規創薬ターゲットの発見が求められている。
【0009】
一方、インスリン抵抗性は、肥満や生活習慣などの環境要因だけでなく、妊娠や長期的ステロイド服用など様々な臨床的要因によって発症することも知られている。なぜ、このような多くの要因によってインスリン抵抗性が起こるのかについては知られていないが、これらの現象は実験レベルにおいても当てはまることが報告されている。すなわち、肥満関連因子(TNFα)が3T3-L1脂肪細胞のインスリン抵抗性を誘起する(非特許文献8:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 91, pp. 4854-4858)だけでなく、糖質コルチコイド(例えばデキサメサゾン)などが3T3-L1脂肪細胞のインスリン抵抗性を誘起する(May 1994、非特許文献9:DIABETES, VOL. 49, 1700-1708, OCTOBER 2000)ことが報告されている。
【0010】
なお、インスリン情報伝達の分子メカニズムについては、広く概括論表されている(非特許文献10:Mol Cell Biochem 182, 31-48 (1998)、非特許文献11: Diabetes Metab 24, 477-89 (1998)、非特許文献12: Cell 92, 593-6 (1998)、非特許文献13: J Clin Invest 103, 931-43 (1999))。
具体的には、インスリンが、筋肉細胞や脂肪細胞に存在するインスリン受容体に結合すると、チロシンキナーゼが活性化されて、IRS-1(insulin receptor substrate-1)などがチロシンリン酸化される。IRS-1のリン酸化チロシンに、PI3-キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase)、Grb2・Sos複合体、SHP-2が結合する。これにより、PI3-キナーゼが活性化され、Akt(別名:PKB、プロテインキナーゼB)が結合する。Aktは、PDK1(phosphatidylinositol-dependent protein kinase 1)によりリン酸化され、活性型Aktになる。活性化Aktは、細胞膜を離れ、種々のタンパク質をリン酸化する。そのため、筋肉細胞(骨格筋、心筋)、脂肪細胞では、糖輸送担体(グルコーストランスポーター:glucose transporter)のGLUT4(グルットフォー:glucose transporter 4)含有小胞の細胞膜への移動(トランスロケーション:translocation)が促進され、細胞膜上にGLUT4が発現され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進される。
【0011】
ところで、7種のエピセリン(Epithelin)ドメインを持つepithelins前駆体タンパク質であるプロエピセリン(Proepithelin)タンパク質(別名:Progranulin / PCDGF / PEPI / GEP / GP88)が知られている。Proepithelin及びepithelinsは成長因子様の作用を持ち、細胞外へ分泌されることでオートクリン成長因子として機能し、炎症及び細胞遊走性に関与することが報告されている(非特許文献14:Journal of Molecular Medicine 81, 600-612 (2003))。
しかしながら、このタンパク質及びペプチドとインスリン抵抗性との関連性は全く知られていない。
【0012】
【特許文献1】特開2004−105175号公報
【特許文献2】特開2004−135605号公報
【特許文献3】特開2005−247740号公報
【特許文献4】特開2006−141233号公報
【特許文献5】国際公開第2003/063894号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2004/061108号パンフレット
【非特許文献1】Cell, Vol. 5, 19-27, May 1975
【非特許文献2】Biochemical and Biophysical Research Communications 290, 1084-1089 (2002)
【非特許文献3】NATURE MEDICINE, VOLUME 7, NUMBER 8, 941-946, AUGUST 2001
【非特許文献4】NATURE, VOL 409, 18, 292-293, JANUARY 2001
【非特許文献5】Biochemical and Biophysical Research Communications 288, 1027-1031 (2001)
【非特許文献6】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 280, NO. 42, pp. 35361-35371, October 21, 2005
【非特許文献7】Biochemical and Biophysical Research Communications 359 (2007) 194-201
【非特許文献8】The Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol. 91, pp. 4854-4858, May 1994
【非特許文献9】DIABETES, VOL. 49, 1700-1708, OCTOBER 2000
【非特許文献10】Molecular and Cellular Biochemistry, 182, 31-48 (1998)
【非特許文献11】Diabetes& Metabolism24, 477-89 (1998)
【非特許文献12】Cell 92, 593-6 (1998)
【非特許文献13】The Journal of ClinicalInvestigation 103, 931-43 (1999)
【非特許文献14】Journal of Molecular Medicine 81, 600-612 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、インスリン抵抗性に関連する生体物質及びその利用法を提供することにある。すなわち本発明の目的は、インスリン抵抗性マーカー、インスリン抵抗性を評価する方法、インスリン抵抗性を改善する物質をスクリーニングする方法、及びインスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、マウス前駆脂肪細胞(3T3-L1)を分化処理して得た成熟脂肪細胞を対照群とし、当該成熟脂肪細胞を肥満関連因子のTNFαを用いてインスリン抵抗性を誘導して得たインスリン抵抗性成熟脂肪細胞、及び、糖質コルチコイドのデキサメサゾンを用いてインスリン抵抗性を誘導して得たインスリン抵抗性成熟脂肪細胞の両者に共通した発現変動を示すタンパク質について解析を行った。その結果、当該両インスリン抵抗性成熟脂肪細胞に共通して有意に発現が増加するタンパク質として、これまでインスリン抵抗性との関連が知られていなかったタンパク質プロエピセリンを同定した。
【0015】
本発明は、以下の発明を含む。
(1)
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。
【0016】
「ポリペプチド」には、特定の配列(すなわち配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなる配列)で特定されるポリペプチド、及び、当該ポリペプチドの同族体及び変異体であり且つ当該ポリペプチドと同等のインスリン抵抗性に関与する生物学的機能を有するポリペプチドが含まれる。
従って、「配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチド」には、一例として、配列番号3に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドが含まれる。
「ポリペプチド」には、オリゴペプチド及びタンパク質が含まれる。
【0017】
「インスリン抵抗性」とは、正常な量のインスリンによって正常な生理または分子応答を生じさせることができない状態をいう。場合により、内在的に生産されるか、又は外から加えられる過剰な生理学的量のインスリンによって、インスリン抵抗性を少なくとも一部改善することができる、又は生物学的応答を生じさせることができる状態を含むことができる。
【0018】
「インスリン抵抗性マーカー」とは、インスリン抵抗性を評価するマーカーをいい、インスリン抵抗性を伴う容態を識別するマーカー、及びインスリン抵抗性を伴う疾患の罹患状態を識別するマーカーが含まれる。
【0019】
(2)
インスリン抵抗性を評価する方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料中におけるレベルを測定する工程、及び
得られた測定レベルと、前記ポリペプチドの正常レベルとを比較する工程、
を含み、
前記得られた測定レベルが、前記正常レベルよりも増加していることを、前記対象となる個体がインスリン抵抗性の状態にある可能性が高いことの指標の1つとする方法。
【0020】
「インスリン抵抗性を評価する」には、インスリン抵抗性を伴う容態を識別すること、及びインスリン抵抗性を伴う疾患の罹患状態を識別することが含まれ、より具体的には、インスリン抵抗性の検出及び診断、及び、インスリン抵抗性を伴う疾患の検出、診断、モニタリング、ステージング及び予後判定を行うことが含まれる。
【0021】
「個体」には、あらゆる動物が含まれる。例えば、霊長類(ヒトなど)、齧歯類(マウス、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなどの哺乳動物が挙げられる。
「レベル」には、発現レベル及び分泌レベルが含まれる。
【0022】
(3)
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む試料、又は前記ポリペプチドの発現能又は分泌能を有する細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルを測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における測定された前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルと、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルと、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記レベル、発現レベル又は分泌レベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記レベル、発現レベル又は分泌レベルよりも減少していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【0023】
「インスリン抵抗性を改善する」ことには、インスリン抵抗性を、よりインスリン感受性へ変化させること、及び、インスリン抵抗性を、よりグルコース輸送活性へ変化させることが含まれ、より具体的には、インスリン抵抗性におけるインスリン情報伝達抑制作用を制御すること、及び、グルコース輸送系抑制作用を制御することが含まれ、例えば、インスリン抵抗性を伴う疾患を治療することが挙げられる。
【0024】
上記(3)の方法によって、本発明のインスリン抵抗性マーカーの発現を制御することによってインスリン抵抗性を改善する物質を選択することができる。
【0025】
(4)
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む試料、又は前記ポリペプチドを発現又は分泌している細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における前記ポリペプチドの機能を測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における測定された前記ポリペプチドの機能と、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における前記ポリペプチドの機能と、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記機能が、前記候補物質を接触させない場合の前記機能より制御されていることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【0026】
「機能」には、インスリン抵抗性誘発活性が含まれる。
上記(4)の方法によって、本発明のインスリン抵抗性マーカーによるインスリン抵抗性誘発活性(例えばインスリン情報伝達経路の抑制活性)を制御することによってインスリン抵抗性を改善する物質を選択することができる。
【0027】
前記(4)の方法において、
前記ポリペプチドの機能の測定は、Akt、リン酸化Akt及びインスリン情報伝達経路におけるAktの下流で機能する因子からなる群から選ばれるインスリン情報伝達関連因子のレベルを測定することにより行い、
前記候補物質を接触させた場合の前記インスリン情報伝達関連因子の測定レベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記インスリン情報伝達関連因子のレベルより減少又は増加していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【0028】
「Akt」は、PKB、プロテインキナーゼBとも呼称されるセリン/スレオニンキナーゼである。
【0029】
「インスリン情報伝達経路におけるAktの下流で機能する因子」とは、インスリン情報伝達経路において、リン酸化Aktによる活性化を受け、グルコースを細胞内に取り込むまでの一連の経路(すなわちグルコース輸送系)に関与する因子をいう。
【0030】
(5)
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0031】
(6)
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドに対する抗体を含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0032】
「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及び、分子生物学的技術により調製した抗体が含まれる。
「抗体」とは、広く免疫特異的に結合する物質をいい、抗体フラグメントや抗体融合タンパク質も含まれる。
【0033】
(7)
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルを制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0034】
(8)
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドによる機能を制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0035】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの発現により下方制御されるインスリン情報伝達関連因子を上方制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0036】
(9)
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。
【0037】
「配列番号2に記載の塩基配列」は、配列番号に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。
「ポリヌクレオチド」には、特定の配列(すなわち配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなる配列)で特定されるポリヌクレオチド、及び、当該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの同族体及び変異体であり且つ当該ポリペプチドと同等のインスリン抵抗性に関与する生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。
従って、「配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチド」には、一例として、配列番号4に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドが含まれる。
【0038】
「ポリヌクレオチド」には、オリゴペプチド及びポリヌクレオチドが含まれる。
「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAが含まれる。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAが含まれる。RNAには、totalRNA、mRNA、rRNA、及び合成RNAが含まれる。
「ポリヌクレオチド」には、1本鎖ポリヌクレオチド及び2本鎖ポリヌクレオチドが含まれる。
【0039】
(10)
インスリン抵抗性を評価する方法であって、以下の工程:
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料中におけるレベルを測定する工程、及び
得られた測定レベルと、前記ポリヌクレオチドの正常レベルとを比較する工程、
を含み、
前記得られた測定レベルが、前記正常レベルよりも増加していることを、前記対象となる個体がインスリン抵抗性の状態にある可能性が高いことの指標の1つとする方法。
【0040】
(11)
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む試料、又は前記ポリヌクレオチドの発現能を有する細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリヌクレオチドの発現レベルを測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における測定された前記ポリヌクレオチドの発現レベルと、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリヌクレオチドの発現レベルと、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記レベル、又は発現レベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記レベル、又は発現レベルよりも減少していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【0041】
上記(11)によって選択された候補物質は、本発明のインスリン抵抗性マーカーであるポリヌクレオチドの発現を制御することができる物質である。
【0042】
(12)
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【0043】
(13)
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの発現レベルを制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【発明の効果】
【0044】
本発明によると、インスリン抵抗性マーカー、インスリン抵抗性を評価する方法、インスリン抵抗性を改善する物質をスクリーニングする方法、及びインスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物を提供することができる。本発明によると、インスリン抵抗性及びインスリン抵抗性を伴う疾病状態及び容態の発生予防、診断及び治療が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
1.インスリン抵抗性マーカー
「インスリン抵抗性」とは、正常な量のインスリンによる正常な生理または分子応答を生じさせることができない状態をいう。場合により、内在的に生産されるか、又は外から加えられる過剰な生理学的量のインスリンによって、インスリン抵抗性を少なくとも一部改善することができる、又は生物学的応答を生じさせることができる状態を含むことができる。
【0046】
ここで、「正常な量」の具体的な定義は、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、成人の場合、血中インスリン(IRI値)が空腹時で10μU/ml以下である。しかしながら、これに限定されることなく、正常な量はその他の様々なファクターでも定義される。
また、「インスリン抵抗性」の量的な定義も、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、HOMA−R値の正常値である2.5以下を逸脱すればインスリン抵抗性の疑い有りと診断されることが多い。しかしながら、これに限定されることなく、インスリン抵抗性の量的な定義は、その他のファクターで定義されて良い。
【0047】
本発明は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が、インスリン抵抗性のモデルにおいて有意な発現亢進を示すことを見出したことに基づく。
【0048】
インスリン抵抗性のモデルとしては、マウス前駆脂肪細胞(3T3-L1)を分化処理して得た成熟脂肪細胞を、肥満関連因子のTNFαを用いてインスリン抵抗性を誘導して得たインスリン抵抗性成熟脂肪細胞と、糖質コルチコイドのデキサメサゾンを用いてインスリン抵抗性を誘導して得たインスリン抵抗性成熟脂肪細胞との両者が用いられた。マウス前駆脂肪細胞(3T3-L1)を分化処理して得た、インスリン抵抗性を誘導しない成熟脂肪細胞を対照群とし、当該両者に共通して有意な発現亢進(p<0.05)を示すタンパク質として、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するプロエピセリンが同定されたものである。
【0049】
ここで、肥満関連因子のTNFα、及び肥満と関連性が薄い糖質コルチコイドのデキサメサゾンによる刺激は、いずれもインスリン抵抗性を引き起こすものであるが、互いに大きく異なる機構を介してインスリン抵抗性を引き起こす。すなわち、TNFαが、細胞表面のサイトカイン受容体を介するのに対して、デキサメサゾンは核ホルモン受容体を介する。このように、大きく異なる機構を介するインスリン抵抗性誘発因子に共通した発現変動を示す本発明のタンパク質は、インスリン抵抗性との直接的な関連性を強く示唆するもの、すなわちインスリン抵抗性マーカーとして有用に用いられるものである。
【0050】
従って、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質とともに、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質のヒトホモログ(すなわち配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質)、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド(すなわち配列番号4に記載のポリヌクレオチド)、及び、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド(すなわち配列番号2に記載のポリヌクレオチド)も、インスリン抵抗性マーカーとして有用に用いられるものである。
【0051】
「インスリン抵抗性マーカー」とは、インスリン抵抗性を評価するマーカーをいい、インスリン抵抗性を伴う容態を識別するマーカー、及びインスリン抵抗性を伴う疾患の罹患状態を識別するマーカーが含まれる。
【0052】
インスリン抵抗性を伴う容態及び疾患の罹患状態にある例としては、2型糖尿病、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患、及び抹消血管疾患などが挙げられる。
【0053】
1−1.ポリペプチド
本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性マーカーである。
【0054】
「ポリペプチド」には、オリゴペプチド及びタンパク質が含まれる。
「配列番号1に記載のアミノ酸配列」は、プロエピセリンのヒトホモログの配列である。
「配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチド」には、プロエピセリン、エピセリンペプチド(具体的には、1−エピセリン、2−エピセリン、3−エピセリン、4−エピセリン、5−エピセリン、6−エピセリン、及び7−エピセリン)、及び、プロエピセリン配列中のインスリン抵抗性に関わる最小配列を一部又は全体に含むいかなるポリペプチドも含まれる。
【0055】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドは、当該配列の連続する少なくとも50個のアミノ酸からなるポリペプチドであっても良いし、当該配列の連続する少なくとも593個のアミノ酸からなるポリペプチドであっても良い。
【0056】
「配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチド」には、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなる配列で特定されるポリペプチド、及び、当該ポリペプチドの同族体及び変異体であり且つ当該ポリペプチドと同等のインスリン抵抗性に関与する生物学的機能を有するポリペプチドが含まれる。
【0057】
上記の同族体には、プロエピセリンのヒトホモログに相当する、マウス、ラット、及びその他の種のホモログの全部又は部分配列が含まれる。
従って、「配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチド」には、マウスホモログである配列番号3に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドが含まれる。
【0058】
上記の変異体には、プロエピセリンの天然に存在する変異体、及び人為的にアミノ酸の置換、付加、挿入及び欠失させることにより改変された変異体が含まれる。
これら同族体及び変異体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなる配列との相同性が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%のものが挙げられる。
【0059】
例えば、マウスとヒトとの間ではアミノ酸レベルで84%以上の相同性があることが周知である。生命の根幹を担う代謝機構及び情報伝達機構に関しては、マウスとヒトとは極めて類似しているという一般的な認識があり、実際に、脂肪細胞においてマウスとヒトとの間で同等の機能及び発現変動を示すものが多数報告されていることから、糖代謝調節やインスリン情報伝達においても例外でないことは明らかである。糖代謝調節やインスリン情報伝達などは、マウス及びヒトを含めた哺乳類全体に共通する機序としての可能性が極めて高いということは、当業者の間では共通した認識である。このため、本発明におけるポリヌクレオチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなる配列を基本とし、相同性が少なくとも80%であるものを含むことが極めて妥当である。例えば、配列番号3によって表されるマウスホモログは、配列番号1によって表されるヒトホモログの84%(BLASTホモロジー検索による)である。
【0060】
1−2.ポリヌクレオチド
本発明は、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性マーカーである。
【0061】
「ポリヌクレオチド」には、オリゴペプチド及びポリヌクレオチドが含まれる。また、「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAが含まれる。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAが含まれる。RNAには、totalRNA、mRNA、rRNA、及び合成RNAが含まれる。さらに、「ポリヌクレオチド」には、1本鎖ポリヌクレオチド及び2本鎖ポリヌクレオチドが含まれる。
【0062】
「配列番号2に記載の塩基配列」は、配列番号1のポリペプチドをコードする塩基配列であり、すなわちプロエピセリンのヒトホモログをコードする塩基配列である。
【0063】
「配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド」には、プロエピセリン、エピセリンペプチド(具体的には、1−エピセリン、2−エピセリン、3−エピセリン、4−エピセリン、5−エピセリン、6−エピセリン、及び7−エピセリン)、及び、プロエピセリン配列中のインスリン抵抗性に関わる最小配列を一部又は全体に含むいかなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含まれる。
【0064】
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチドは、当該配列の連続する少なくとも150個のアミノ酸からなるポリペプチドであっても良いし、当該配列の連続する少なくとも1779個のアミノ酸からなるポリペプチドであっても良い。
「配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド」には、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなる配列で特定されるポリヌクレオチド、及び、当該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの同族体及び変異体であり且つ当該ポリペプチドと同等のインスリン抵抗性に関与する生物学的機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0065】
上記の同属体をコードするポリヌクレオチドには、プロエピセリンをコードするポリヌクレオチドのヒトホモログに相当する、マウス、ラット、及びその他の種のホモログの全部又は部分配列が含まれる。
従って、「配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチド」には、マウスホモログである配列番号4に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドが含まれる。
【0066】
上記の変異体をコードするポリヌクレオチドには、プロエピセリンをコードするポリヌクレオチドの天然に存在する変異体、及び人為的に塩基の置換、付加、挿入及び欠失させることにより改変された変異体が含まれる。
【0067】
これら同族体及び変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなる配列との相同性が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%のものが挙げられる。
【0068】
2.インスリン抵抗性を評価する方法
上記の本発明のインスリン抵抗性マーカーは、インスリン抵抗性を評価する方法において有用である。そこで、本発明は、前述のインスリン抵抗性マーカーを使用することにより、インスリン抵抗性を評価する方法を提供する。
【0069】
「インスリン抵抗性を評価する」には、インスリン抵抗性を伴う容態を識別すること、及びインスリン抵抗性を伴う疾患の罹患状態を識別することが含まれ、より具体的には、インスリン抵抗性の検出及び診断、及び、インスリン抵抗性を伴う疾患の検出、診断、モニタリング、ステージング及び予後判定を行うことが含まれる。予後判定には、当該疾患の改善のための治療を行った場合において、治療後の当該疾患の改善の有無又はその程度を判断することが含まれる。
【0070】
本発明のインスリン抵抗性を評価する方法は、以下の工程:
インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料中におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルを測定する工程、及び
得られた測定レベルと、前記インスリン抵抗性マーカーの正常レベルとを比較する工程、を含み、
前記得られた測定レベルが、前記正常レベルよりも増加していることを、前記対象となる個体がインスリン抵抗性の状態にある可能性が高いことの指標の1つとする。
【0071】
本発明の方法は、本発明のインスリン抵抗性マーカーを単独で測定してもよいし、インスリン抵抗性の容態又は病態に関連する他のいかなるマーカーと組み合わせて測定してもよい。従って、本発明の方法は、本発明のインスリン抵抗性マーカーのレベルと同様に他のマーカーのレベルを測定することを含んでいてよい。
【0072】
本発明において、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料としては、特に限定されない。例えば、細胞や組織、体液、及びその抽出物などが挙げられる。細胞や組織には、組織生検材料及び検死解剖材料などが含まれる。体液としては、血液、及び体分泌物などが含まれる。血液としては、全血、血漿、血清などが含まれる。組織抽出物とは、当業者に公知の方法によってホモジネート又は可溶化された細胞又は組織をいう。これら例示された試料の中でも、脂肪組織又は脂肪細胞の抽出物を試料とすることが好ましい。
【0073】
「個体」には、あらゆる動物が含まれる。例えば、霊長類(ヒトなど)、齧歯類(マウス、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなどの哺乳動物が挙げられる。
【0074】
「レベル」には、発現レベル及び分泌レベルが含まれる。
【0075】
「正常レベル」には、正常な試料におけるレベルが含まれる。正常な試料には、細胞や組織、体液、及びその抽出物など、好ましくは、脂肪組織又は脂肪細胞の抽出物が挙げられ、インスリン感受性であるものをいう。
インスリン感受性とは、正常な量のインスリンによる正常な生理または分子応答を生じさせることができる状態をいう。
【0076】
ここで、正常な量の具体的な定義は、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、成人の場合、血中インスリン(IRI値)が空腹時で10μU/ml以下である。しかしながら、これに限定されることなく、正常な量はその他の様々なファクターでも定義される。
また、インスリン抵抗性感受性の量的な定義も、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、HOMA−R値の正常値である2.5以下であればインスリン感受性と診断されることが多い。しかしながら、これに限定されることなく、インスリン感受性の量的な定義は、その他のファクターで定義されて良い。
【0077】
測定値レベルにおける増加の度合いとしては、測定法などによって異なるため特に限定されるものではないが、例えば、測定値レベルが正常レベルの1.25倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上(モル基準)となる程度を目安にすることができる。
【0078】
2−1.ポリペプチドのレベルに基づく場合
具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのマウスホモログは、インスリン抵抗性を有する容態又は病態のモデルとなりうる3T3-L1細胞の成熟細胞において、特異的に発現量が増加していた。従って、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドが、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料において特異的に増加(例えば、正常レベルの1.25倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上(モル基準)増加)していれば、インスリン抵抗性の容態又は病態が疑われうる。
【0079】
ポリペプチドのレベルの測定法としては特に限定されず、特定のポリペプチドを特異的に検出することが出来るいかなる方法も用いることができる。好ましくは、生体特異的親和性に基づく検査によって測定される。生体特異的親和性に基づく検査は当業者に良く知られた方法であり、特に限定されないが、イムノアッセイが好ましい。具体的には、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、サンドイッチイムノアッセイ、免疫沈降法、沈降反応、ゲル内拡散沈降反応、免疫拡散法、凝集測定、補体結合分析検定、免疫放射定量法、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの、競合及び非競合アッセイ系を含むイムノアッセイが挙げられる。これらの方法においては、個体の試料中のインスリン抵抗性マーカーに結合する抗体の存在を検出する。具体的には、アッセイ培地中、或いは組織切片上において、測定すべき腫瘍マーカーポリペプチド及び当該ポリペプチドの抗体からなる免疫複合体を形成しうる条件のもと、試料を当該抗体に接触させることによって行われる。より具体的なプロトコルは、当業者であれば容易に決定することができる。
【0080】
ポリペプチドのレベルは、上記のように、生体特異的親和性に基づく検査によって測定されることが好ましいが、その他の定量法によって測定することも許容される。例えば、同位体標識法は、定量性に優れた方法である。この場合、上記ポリペプチドを既知レベルで調製した試料や、正常試料などの適当な試料を対照試料として、対象となる個体の試料との間における前記ポリペプチドの存在量の差を調べることによって、測定を行うことができる。
【0081】
2−2.ポリヌクレオチドのレベルに基づく場合
具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのマウスホモログは、インスリン抵抗性を有する容態又は病態のモデルとなりうる3TL3-L1細胞の成熟細胞において、特異的に発現量が増加していた。従って、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドが、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料において特異的に増加(例えば、正常レベルの1.25倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上(モル基準)増加)していれば、インスリン抵抗性の容態又は病態が疑われうる。
【0082】
ポリヌクレオチドのレベルの測定法としては、特に限定されず、特定のポリヌクレオチドを特異的に検出することが出来るいかなる方法も用いることができる。例えばノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション法などを用いることが出来る。これらの方法は、当業者によく知られたものである。
【0083】
3.インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法
上記の本発明のインスリン抵抗性マーカーは、インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法において有用である。そこで、本発明のインスリン抵抗性マーカーの発現を制御する、又は、本発明のインスリン抵抗性マーカーの機能(具体的にはインスリン抵抗性誘発活性、例えばインスリン情報伝達経路の抑制活性)を制御することによってインスリン抵抗性を改善する物質をスクリーニングする方法を提供する。
このようにして得られる候補物質は、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物の有効成分として有用である。
【0084】
「インスリン抵抗性を改善する」ことには、インスリン抵抗性を、よりインスリン感受性へ変化させること、及び、インスリン抵抗性を、よりグルコース輸送活性へ変化させることが含まれ、より具体的には、インスリン抵抗性におけるインスリン情報伝達抑制作用を制御すること、及び、グルコース輸送系抑制作用を制御することが含まれ、例えば、インスリン抵抗性を伴う疾患を治療することが挙げられる。
【0085】
候補物質となり得るものとしては、特に限定されないが、核酸、タンパク質、ペプチド、有機化合物、無機化合物などが挙げられる。このような候補物質を含む試料としては、特に限定されないが、細胞抽出物、ポリヌクレオチドライブラリの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0086】
3−1.インスリン抵抗性マーカー(ポリペプチド又はポリヌクレオチド)のレベルに基づく場合
この方法は、インスリン抵抗性マーカーの発現を制御するインスリン抵抗性改善物質のスクリーニング方法であり、インスリン抵抗性マーカーのレベルの上昇が、インスリン抵抗性の容態又は病態と関連することを利用するものである。
従って、インスリン抵抗性を改善する候補物質のスクリーニングには、本発明のインスリン抵抗性マーカーの発現の変動が指標の1つとなる。
【0087】
インスリン抵抗性マーカーの発現量に基づいてインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法は、以下の工程:
インスリン抵抗性試料 と、候補物質とを接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記インスリン抵抗性試料におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルを測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記インスリン抵抗性マーカーのレベルと、前記候補物質を接触させない場合の前記インスリン抵抗性マーカーのレベルと、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記インスリン抵抗性マーカーのレベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記インスリン抵抗性マーカーのレベルよりも減少していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする。
【0088】
測定されたインスリン抵抗性マーカーレベルの減少の度合いとしては、測定法などによって異なるため特に限定されるものではないが、正常レベルに近いレベルまで、或いは、インスリン抵抗性を治癒させる観点からは、正常レベルにまで減少することが好ましい。
【0089】
「正常レベル」とは、正常な細胞におけるレベルとすることができる。正常な細胞とは、インスリン感受性である細胞をいう。インスリン感受性とは、正常な量のインスリンによる正常な生理または分子応答を生じさせることができる状態をいう。
【0090】
ここで、正常な量の具体的な定義は、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、成人の場合、血中インスリン(IRI値)が空腹時で10μU/ml以下である。しかしながら、これに限定されることなく、正常な量はその他の様々なファクターでも定義される。
また、インスリン抵抗性感受性の量的な定義も、当業者によって適宜なされるものである。例を挙げると、HOMA−R値の正常値である2.5以下であればインスリン感受性と診断されることが多い。しかしながら、これに限定されることなく、インスリン感受性の量的な定義は、その他のファクターで定義されて良い。
【0091】
測定されたインスリン抵抗性マーカーのレベルにおける減少の具体的な度合いとしては、例えば、測定されたインスリン抵抗性マーカーのレベルの1/1.25以下、好ましくは1/1.5以下、より好ましくは1/2以下(モル基準)となる程度を目安にすることができる。
【0092】
候補物質を選択するための指標は、本発明のインスリン抵抗性マーカーのレベルのみに基づいてもよいし、インスリン抵抗性の容態又は病態に関連する他のいかなるマーカーの情報を組み合わせてもよい。従って、本発明の方法は、本発明のインスリン抵抗性マーカーが関与するインスリン抵抗性試料と同様に、他のマーカーが関与する試料を組み合わせて用いてよい。
【0093】
スクリーニングに用いられるインスリン抵抗性試料には、インスリン抵抗性マーカーを含む試料や、インスリン抵抗性マーカーの発現能又は分泌能を有する細胞が挙げられる。
【0094】
ポリヌクレオチドの発現量を指標としてスクリーニングする場合に用いられるインスリン抵抗性試料としては、以下に挙げるような試料を用いることができる。
スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを含む試料としては、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む水溶液、細胞(例えば後述の細胞)由来画分などが挙げられる。
例えば、上記のポリヌクレオチドを含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液などが挙げられる。
【0095】
スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを発現しうる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを発現しうる細胞が挙げられる。
【0096】
例えば、上記のポリヌクレオチドを内在的に発現している細胞を用いることができる。 このような細胞としては、例えば、マウス細胞(3T3-L1、NIH3T3など)、ヒト細胞(A431、MCF-7など)が挙げられる。
【0097】
また例えば、上記のポリヌクレオチドを導入した遺伝子導入細胞を用いることができる。遺伝子導入に用いられる宿主細胞としては、例えば、マウス由来細胞(NIH 3T3、C127、COP 、MOP、WOPなど)、ハムスター由来細胞(CHO 、CHO DHFR-など)、サル由来細胞(COS-7 、COS-1、CV-1など)、ヒト由来細胞(HeLaなど)、昆虫由来細胞(Sf21、Sf9、High Fiveなど)が挙げられる。
【0098】
ポリペプチドの発現量を指標としてスクリーニングする場合に用いられるインスリン抵抗性試料としては、以下に挙げるような試料を用いることができる。
スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを含む試料としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む水溶液、細胞(例えば後述の細胞)由来画分などが挙げられる。
例えば、上記のポリペプチドを含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液などが挙げられる。
【0099】
スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを発現しうる細胞としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを発現しうる細胞が挙げられる。
すなわち、内在性及び外来性を問わず、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを発現し、その翻訳産物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを発現しうる細胞が挙げられる。
【0100】
このような細胞としては、ポリヌクレオチドの発現量を指標としてスクリーニングする場合において述べたように、上記のポリヌクレオチドを内在的に発現している細胞や、上記のポリヌクレオチドを導入した細胞などが用いられる。
【0101】
なお、本発明の方法において、スクリーニングに用いられる細胞には、細胞の集合体である組織も含まれる。
【0102】
候補物質と細胞とを接触させる際の条件としては、特に限定されず、当業者によって、インスリン抵抗性マーカー(上記のポリヌクレオチド又は上記のポリペプチド)を発現することが可能な培養条件(培地組成、温度、pHなど)が適宜決定されるものである。
【0103】
本発明のインスリン抵抗性マーカーの発現量を制御する物質の選択は、以下のように行うことができる。
例えば、候補物質を接触させた試料におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルが、当該候補物質を接触させない試料におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルより減少すること;又は、候補物質を接触させた細胞におけるインスリン抵抗性マーカーの発現レベル又は分泌レベルが、当該候補物質を接触させない細胞におけるインスリン抵抗性マーカーの発現レベル又は分泌レベルより減少すること、を指標に、物質の選択を行うことができる。
【0104】
また、例えば、インスリン抵抗性マーカーの発現に発現誘導物質(例えば、TNFα、グルココルチコイド(デキサメサゾン)、遊離脂肪酸、レジスチン、PAI-1など)を必要とする細胞を用いる場合は、当該発現誘導物質の存在下で候補物質を接触させた細胞におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルが、当該発現誘導物質の存在下で候補物質を接触させない細胞におけるインスリン抵抗性マーカーのレベルより減少することを指標に、物質の選択を行うことができる。
【0105】
3−2.ポリペプチドの機能(活性)に基づく場合
この方法は、インスリン抵抗性マーカーの恒常的存在が、インスリン情報伝達を阻害すること、すなわちインスリン抵抗性の容態又は病態と関連することを利用するものである。
従って、インスリン抵抗性を改善する候補物質のスクリーニングには、本発明のインスリン抵抗性マーカーの機能(具体的にはインスリン抵抗性マーカーの恒常的存在によるインスリン抵抗性誘発活性、例えばインスリン抵抗性マーカーの恒常的存在によるインスリン情報伝達経路の抑制活性)の変動が指標の1つとなる。
【0106】
ポリペプチドの機能(活性)に基づいてインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法は、以下の工程:
恒常的にインスリン抵抗性である試料と、候補物質とを接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記インスリン抵抗性試料におけるインスリン抵抗性マーカーの機能を測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリペプチドの機能又は前記細胞における測定された前記ポリペプチドの機能と、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリペプチドの機能又は前記細胞における前記ポリペプチドの機能と、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記インスリン抵抗性マーカーの機能が、前記候補物質を接触させない場合の前記インスリン抵抗性マーカーの機能より制御されていることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする。
【0107】
候補物質を選択するための指標は、本発明のインスリン抵抗性マーカーの機能のみに基づいてもよいし、インスリン抵抗性の容態又は病態に関連する他のいかなるマーカーの情報を組み合わせてもよい。従って、本発明の方法は、本発明のインスリン抵抗性マーカーが関与するインスリン抵抗性試料と同様に、他のマーカーが関与する試料を組み合わせて用いてよい。
【0108】
スクリーニングに用いられるインスリン抵抗性試料には、インスリン抵抗性マーカーの恒常的存在下にある試料が用いられ、具体的には、インスリン抵抗性マーカーに長期暴露された試料や、インスリン抵抗性マーカーを恒常的に発現又は分泌している細胞が挙げられる。
【0109】
当該試料や細胞としては、基本的に、上述のインスリン抵抗性マーカー(ポリペプチド)のレベルに基づく場合と同様のものが用いられうる。
従って、スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを含む試料としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む水溶液、細胞(例えば後述の細胞)由来画分などが挙げられる。
例えば、上記のポリペプチドを含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液などが挙げられる。
【0110】
スクリーニングに用いられる、インスリン抵抗性マーカーを発現又は分泌しうる細胞としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを発現又は分泌しうる細胞が挙げられる。
すなわち、内在性及び外来性を問わず、配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを発現し、その翻訳産物として、配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを発現又は分泌しうる細胞が挙げられる。
【0111】
このような細胞としては、上記のポリヌクレオチドを内在的に発現している細胞を用いることができる。このような細胞としては、例えば、マウス細胞(3T3-L1、NIH3T3など)、ヒト細胞(A431、MCF-7など)が挙げられる。
また例えば、上記のポリヌクレオチドを導入した遺伝子導入細胞を用いることができる。遺伝子導入に用いられる宿主細胞としては、例えば、マウス由来細胞(NIH 3T3、C127、COP 、MOP、WOPなど)、ハムスター由来細胞(CHO 、CHO DHFR-など)、サル由来細胞(COS-7 、COS-1、CV-1など)、ヒト由来細胞(HeLaなど)、昆虫由来細胞(Sf21、Sf9、High Fiveなど)が挙げられる。
なお、スクリーニングに用いられる細胞には、細胞の集合体である組織も含まれる。
【0112】
さらに、スクリーニングに用いられる試料は、インスリン抵抗性マーカーに長期暴露されるか、或いはインスリン抵抗性マーカーを恒常的に発現又は分泌していることを条件とすることができる。ここでいう長期及び恒常的とは、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも16時間とすることができる。
【0113】
候補物質と細胞とを接触させる際の条件としては、特に限定されず、当業者によって、インスリン抵抗性マーカー(上記のポリヌクレオチド及び/又は上記のポリペプチド)を発現及び/又は分泌することが可能な培養条件(培地組成、温度、pHなど)が適宜決定されるものである。
【0114】
より具体的には、インスリン抵抗性マーカーの機能とは、インスリン抵抗性誘発活性をいう。インスリン抵抗性誘発活性としては、例えばインスリン情報伝達経路並びにグルコース輸送系を抑制する活性が挙げられる。このような活性としては、例えば、インスリン受容体を介したリン酸化Aktの増加を抑制させ、或いはその他のインスリン情報伝達経路におけるAktの下流で機能する因子及びグルコース輸送担体などを、細胞外からのグルコース輸送を抑制するように増加又は減少させる活性をいう。これらの機能は、インスリン抵抗性マーカーが恒常的に存在していることによって獲得される。
この方法においては、インスリン抵抗性マーカーによる上記のような機能を抑制する物質を選択する。
【0115】
「Akt」は、PKB、プロテインキナーゼBとも呼称されるセリン/スレオニンキナーゼである。
「リン酸化Akt」は、Aktの活性化体である。
【0116】
「インスリン情報伝達経路におけるAktの下流で機能する因子」とは、インスリン情報伝達経路において、リン酸化Aktによる活性化を受け、グルコースを細胞内に取り込むまでの一連の経路(すなわちグルコース輸送系)に関与する因子をいう。グルコース輸送担体には、GLUT−4などのグルコース輸送タンパク質が挙げられる。
【0117】
この場合、本発明のインスリン抵抗性マーカーの機能を制御する物質の選択は、以下のように行うことができる。
例えば、候補物質を接触させたインスリン抵抗性試料におけるリン酸化Aktのレベルが、当該候補物質を接触させないインスリン抵抗性試料におけるリン酸化Aktのレベルより増加すること;又は、候補物質を接触させたインスリン抵抗性細胞において発現したリン酸化Aktの発現レベルが、当該候補物質を接触させないインスリン抵抗性細胞におけるリン酸化Aktのレベルより減少すること、を指標の1つとして、物質の選択を行うことができる。
【0118】
また、例えば、インスリン抵抗性マーカーの発現に発現誘導物質(例えば、TNFα、グルココルチコイド(デキサメサゾン)、遊離脂肪酸、レジスチン、PAI-1など)を必要とする細胞を用いる場合は、当該発現誘導物質の存在下で候補物質を接触させたインスリン抵抗性細胞において発現したリン酸化Aktの発現レベルが、当該発現誘導物質の存在下で候補物質を接触させないインスリン抵抗性細胞におけるリン酸化Aktのレベルより減少することを指標の1つとして、物質の選択を行うことができる。
【0119】
インスリン情報伝達関連因子の中でも、上記のリン酸化Aktのように、その発現亢進によりグルコース輸送系を活性化させる因子については、上記と同様にインスリン抵抗性マーカーの機能を制御する物質の選択を行うことができる。
【0120】
一方、インスリン情報伝達関連因子の中でも、Aktのように、その発現亢進によりグルコール輸送系を不活性化させる因子については、上記と反対に、候補物質を接触させたインスリン抵抗性試料における当該因子のレベルが、当該候補物質を接触させないインスリン抵抗性試料における当該のレベルより減少すること;又は、候補物質を接触させたインスリン抵抗性細胞において発現した当該因子の発現レベルが、当該候補物質を接触させないインスリン抵抗性細胞における当該因子のレベルより増加すること、を指標の1つとして、物質の選択を行うことができる。
【0121】
4.インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物
本発明における薬剤組成物は、インスリン抵抗性を評価するための診断薬、インスリン抵抗性を改善するための潜在的又は実用的な治療薬として用いられうるものである。
【0122】
本発明のインスリン抵抗性マーカーや、上記スクリーニング方法で選択された物質は、薬剤組成物の有効成分として有用である。
すなわち、本発明の薬剤組成物における有効成分としては、以下のものが挙げられる。薬剤組成物は、このような有効成分に、薬剤として許容される希釈剤、担体、賦形剤などを混合して調製することができる。
【0123】
4−1. 配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチド
【0124】
本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドと競争してリガンドに結合する能力を有している可能性形態の当該ポリペプチドは、その投与によって治療を可能にする。従って、当該ポリペプチドを有効成分として含む薬剤組成物は、治療剤として有用である。
【0125】
4−2.配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドに対する抗体
【0126】
「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及び、分子生物学的技術により調製した抗体が含まれる。これらの抗体の調製は、当業者によって良く知られた方法によって行われるものである。
「抗体」とは、広く免疫特異的に結合する物質をいい、抗体フラグメントや抗体融合タンパク質も含まれる。
【0127】
上述のインスリン抵抗性を評価する方法において述べたように、本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの抗体は、インスリン抵抗性を評価するために有用に用いられる。従って、当該ポリペプチドを有効成分として含む薬剤組成物は、診断薬として有用である。
【0128】
当該抗体は、本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドに特異的に結合するため、当該インスリン抵抗性マーカーの機能を減弱することができる。従って、当該ペプチドを有効成分として含む薬剤組成物は、治療薬として有用である。
【0129】
4−3.配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルを制御する物質
この物質は、上述のインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法によって選択されるものであり、当該方法において述べたように、本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの発現量又は分泌量を減少させるものである。従って、この物質を有効成分として含む薬剤組成物は、治療薬として有用である。
【0130】
4−4.配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドによる機能を制御する物質
この物質は、上述のインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法によって選択されるものであり、当該方法において述べたように、本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの機能を減弱させるものである。従って、この物質を有効成分として含む薬剤組成物は、治療薬として有用である。
【0131】
このような物質の例としては、当該方法において述べたように、本発明のインスリン抵抗性マーカーであるポリペプチドの発現又は分泌により下方制御されるインスリン情報伝達関連因子を制御する物質を増加させる、或いは、本発明のインスリン抵抗性マーカーであるポリペプチドの発現又は分泌により上方制御されるインスリン情報伝達関連因子を制御する物質を減少させるものが挙げられる。
【0132】
4−5.配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチド
本発明のインスリン抵抗性マーカーであるこのポリヌクレオチドを標的RNAとした場合、当該標的RNAと配列相同性を持つ二本鎖RNA(これも本発明のインスリン抵抗性マーカーとして提供されるポリヌクレオチドに含まれる)は、RNA干渉機構によって、標的RNAの分解を誘導することができる。従って、当該ポリヌクレオチドを有効成分として含む薬剤組成物は、治療剤として有用である。
【0133】
また、本発明のインスリン抵抗性マーカーであるこのポリヌクレオチドを標的とした場合、当該標的ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドは、その投与によって、遺伝子の活性化を阻害することができる。従って、当該ポリヌクレオチドを有効成分として含む薬剤組成物は、治療剤として有用である。
【0134】
4−6.配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの発現レベルを制御する物質
この物質は、上述のインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法によって選択されるものであり、当該方法において述べたように、本発明のインスリン抵抗性マーカーである配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの発現量を減少させるものである。従って、この物質を有効成分として含む薬剤組成物は、治療薬として有用である。
【実施例】
【0135】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[参考例1]脂肪細胞への分化
マウス3T3-L1細胞(ATCC No.CCL-92.1.)に、ダルベッコ改変イーグル培地-低グルコース Dulbecco’s modified Eagle’s medium - low glucose(和光純薬)に10%ウシ血清(GIBCO BRL)、及びペニシリン/ストレプトマイシン溶液(GIBCO BRL)を添加して、37℃、5%二酸化炭素で培養した。
【0136】
細胞はコンフルエントになった後、2日間培養し続けた。その後、分化誘導培地に置き換えた。分化誘導培地はダルベッコ改変イーグル培地-高グルコースDulbecco’s modified Eagle’s medium - high glucose(和光純薬)に10%ウシ胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(GIBCO BRL)、0.5 mM 1-メチル-3-イソブチルキサンチン、1 μM デキサメサゾン、及び5 μg/ml インスリンを用いた。
【0137】
3日後、培地をダルベッコ改変イーグル培地-高グルコースDulbecco’s modified Eagle’s medium - high glucose(和光純薬)、10%ウシ胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(GIBCO BRL)、及び5 μg/ml インスリンに置き換え2日間培養した。その後、培地を脂肪細胞維持培地に置き換え、2日おきに培地交換を行なった。脂肪細胞維持培地はダルベッコ改変イーグル培地Dulbecco’s modified Eagle’s mediumに10%ウシ胎児血清、及びペニシリン/ストレプトマイシン溶液(GIBCO BRL)を用いた。
上記の分化誘導処理後、4日目には細胞内に脂肪滴を形成し、8日目には80%以上の細胞が脂肪滴を含んだ成熟脂肪細胞に分化していることを確認した。
【0138】
[参考例2]インスリン抵抗性誘導
上記の分化誘導処理後8日目以降の成熟脂肪細胞を用い、脂肪細胞維持培地に20 nM デキサメサゾンを添加して8日間培養することによってインスリン抵抗性誘導を行い、デキサメサゾンによってインスリン抵抗性誘導した脂肪細胞を得た。またその一方で、上記の分化誘導処理後8日目以降の成熟脂肪細胞を用い、脂肪細胞維持培地に4 ng/ml TNFαを添加して4日間培養する事によってインスリン抵抗性誘導を行い、TNFαによってインスリン抵抗性誘導した脂肪細胞を得た。
【0139】
[実施例1]NBS法によるプロエピセリンタンパク質の発現変動解析
(i)同位体標識法(NBS(2-nitrobenzenesulfenyl)法)
参考例2に記載の方法によってインスリン抵抗性誘導した脂肪細胞を、6 Mグアニジン塩酸,50 mMトリス-塩酸(pH 8.0),2 mM EDTA,1mM PMSF,10 μg/ml ロイペプチン,10 μg/ml アプロチニンを用いて可溶化し、タンパク質を抽出した。それぞれ、抽出したタンパク質200 μgを、NBSラベル化キット(島津バイオテック)を用いて、トリプトファン残基を標識した。
【0140】
一方、参考例1の方法によって得られた、インスリン抵抗性を誘導しなかった脂肪細胞を、12C-NBS試薬で標識(12C-NBS標識)を行い、対照群(コントロール)とした。
【0141】
TNFaによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞、及びデキサメサゾンによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞を、それぞれ、13C-NBS試薬を用いて安定同位体標識(13C-NBS標識)を行った。さらに、それぞれの13C-NBS標識タンパク質について、等量の対照群と混合し、トリプシンによる断片化を行い、13C-NBS標識ペプチド及び12C-NBS標識ペプチド(これらをまとめてNBS標識ペプチドという。)を含む消化物を得た。
【0142】
得られた消化物について、NBSラベル化キットのプロトコルに基づいた処理を行い、NBS標識ペプチドを濃縮した。さらに、LC-10ADvp-μHPLCシステム(島津製作所)により、NBS標識ペプチドを分画し、各フラクションを、Accuspot LCスポッティングシステム(島津製作所)を用いて、MALDI-TOF MSターゲッティングプレートに直接分取した。12C-NBS標識ペプチドと13C-NBS標識ペプチドの比較定量解析はMALDI-TOF MS(AXIMA-CFR Plus ; 島津製作所)の自動解析によって得られた結果を、ペアピーク解析ソフト(TWIP)を用いて行った。
【0143】
(ii)質量分析によるプロエピセリン(Proepithelin)タンパク質の同定
上記(i)で得られた解析結果において、12C-NBS標識ペプチド(正常脂肪細胞に由来)に対する13C-NBS標識ペプチド(インスリン抵抗性脂肪細胞に由来)の相対強度が1.25倍以上の差があるピークに関して、MS/MS解析によってタンパク質の同定を行った。具体的には、AXIMA-QIT (島津製作所)を用いてMS/MS解析を行い、得られたスペクトルデータを、マスコット検索エンジン(マトリックスサイエンス社)を用いたMS/MSイオンサーチに供し、NCBI等の公共の遺伝子・タンパク質配列データベースに対し検索を行う事により実施した。
【0144】
上記の工程は、TNFαによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞、及びデキサメサゾンによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞のそれぞれについて、3回の独立した実験において行われた。その結果、インスリン抵抗性誘導した脂肪細胞に共通して有意(p値<0.05)に発現が増加する新規インスリン抵抗性関連タンパク質プロエピセリン(Proepithelin)を同定した。
【0145】
本実施例によって得られた結果(NBS法によるProepithelinタンパク質の発現変動解析結果)を図1に示す。図1においては、縦軸は相対強度Relative intensity(正常脂肪細胞normal adipocyteにおける強度に対する、インスリン抵抗Insulin resistance脂肪細胞における強度)を表し、TNFαによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞(TNFα)、及びデキサメサゾンによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞(DEX)のそれぞれについて、NBS標識ペプチド(NBS Labeled Peptide)の定量値に基づき、Proepithelin(aa297-309:プロエピセリンタンパク質を構成するエピセリン−4ペプチドの部分配列に相当する酵素消化断片)及び比較用のハウスキーピングタンパク質GADPH(aa308-321)の当該相対強度を示した(平均値±標準偏差(mean±S.D.), n=4, p値(p-value): **<0.05)。
【0146】
図1が示すように、NBS法によって、Proepithelin(aa297-309)が、両方のインスリン抵抗性脂肪細胞において有意に(p-value<0.05)増加する(TNFα:1.66倍に増加、DEX:3.01倍に増加)ことが示された。
【0147】
[実施例2]ウェスタンブロット法によるプロエピセリンタンパク質の解析
上記参考例2の方法によってインスリン抵抗性を誘導した成熟脂肪細胞を、TNE緩衝液{1 % (w/w) ノニデットP-40, 150 mM 塩化ナトリウム, 20 mM トリス塩酸 (pH 7.4), 2 mM EDTA, 10 μg / ml ロイペプチン, 10 μg / ml アプロチニン, 5 mM メルカプトエタノール, 1 mM PMSF, 1 mM Na3VO4, 10 μM モリブデン酸ナトリウム, 50 mM フッ化ナトリウム}で可溶化して、タンパク質を抽出した。抽出したタンパク質は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にて分離した後、Polyvinylidene fluoride (PVDF)膜、またはニトロセルロース膜に転写した。1次抗体にはヤギ抗Proepithelin抗体(R&Dシステムズ)を、2次抗体にはウサギ抗ヤギIgG HRP標識抗体(ZYMED)、HRP標識抗体の検出にはECL Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を用いた。
【0148】
本実施例によって得られた結果(ウェスタンブロット法によるProepithelinタンパク質の解析結果)を図2に示す。図2(a)においては、縦軸はハウスキーピングタンパク質GADPHの発現量に対するProepithelinタンパク質の発現量の相対値を表し、コントロール(Control)、TNFαによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞(TNFα)、及びデキサメサゾンによってインスリン抵抗性を誘導した脂肪細胞(Dex)のそれぞれについて、当該相対値を示した(平均値±標準偏差(mean±S.D.), n=4, p値(p-value): **<0.05)。図2(b)は、それぞれのインスリン抵抗性脂肪細胞(TNFα及びDex)の抽出物から得られたProepithelinタンパク質及び比較用のハウスキーピングタンパク質GADPHについてのウェスタンブロット像を示す。
【0149】
図2が示すように、Proepithelinタンパク質の抗体を用いたウェスタンブロット法においても、Proepithelinが、両方のインスリン抵抗性脂肪細胞において有意に(p-value<0.05)発現亢進する(TNFα:1.83倍に増加、Dex:1.95倍に増加)ことが示された。
【0150】
[実施例3]TNFα及びデキサメサゾンの濃度によるProepithelinタンパク質の発現変化
インスリン抵抗性誘導に用いたTNFαの濃度(TNFα(ng/ml))及びデキサメサゾンの濃度(Dexamethasone(nM))を変化させたこと以外は上記参考例2と同じ方法を行い、さまざまな種類のインスリン抵抗性脂肪細胞を得た。このようなインスリン抵抗性脂肪細胞について、上記の実施例2と同様のウェスタンブロット法を行った。Proepithelinタンパク質及び比較用のハウスキーピングタンパク質GADPHについてのウェスタンブロット像を図3に示す。図3が示すように、Proepithelinタンパク質の発現量の亢進は、TNFαの濃度及びデキサメサゾンの濃度に対し、濃度依存的であることが示された。
【0151】
[実施例4]脂肪分化におけるProepithelinタンパク質発現の変化
上記参考例1において、分化誘導処理を開始した日を0日目(Day 0)とし、脂肪滴を蓄積し始める5日目(Day 5)、分化が完了する8日目(Day8)、その後10日目(Day10)、12日目(Day12)、16日目(Day16)、及び20日目(Day20)の細胞を回収した。
それぞれの細胞は、インスリン感受性が低い(すなわちインスリン抵抗性である)未分化の前駆脂肪細胞(Preadipocyte)が、成熟脂肪細胞(matured adipocyte)へ分化する過程における細胞である。すなわち、このようにして得られた一連の細胞は、脂肪細胞の分化モデルとして用いられる。
【0152】
それぞれの細胞について、実施例2と同様のウェスタンブロット法を行い、Proepithelinタンパク質の発現量の変化を調べた。その結果を比較用のハウスキーピングタンパク質GADPHについての結果とともに図4に示す。図4が示すように、Proepithelinタンパク質は、インスリン感受性の低い前駆脂肪細胞において極めて発現レベルが高く、脂肪分化により顕著に減少することが示された。
従って、上記の実施例2及び3(インスリン抵抗性誘導脂肪細胞を使用)と、本実施例4(インスリン抵抗性誘導しない脂肪細胞を使用)とから、Proepithelinタンパク質の発現量は、インスリン抵抗性誘導の有無に関わらず、インスリン抵抗性(感受性)と直接的な関連性を持つものであるということが示された。
【0153】
[実施例5]Proepithelinタンパク質発現増大に対するチアゾリジン系化合物の効果
本実施例では、インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン系化合物(ピオグリタゾンPioglitazone)を使用し、インスリン抵抗性誘導におけるプロエピセリン発現に対するピオグリタゾンの効果を調べた。
【0154】
上記参考例2の方法によってTNFα及びデキサメサゾンによるインスリン抵抗性誘導処理を行って得られた脂肪細胞(TNFα、Dexamethasone)、及び上記参考例1の方法によって得られた脂肪細胞(Control)のそれぞれについて、10 μMピオグリタゾンを添加した場合(+Pioglitazone(10μM))と、添加しなかった場合(−Pioglitazone(10μM))とについて、実施例2と同様のウェスタンブロット法を行った。なお、インスリン抵抗性誘導処理を行った脂肪細胞についてピオグリタゾンを添加する場合は、TNFα及びデキサメサゾンと同時にピオグリタゾンを添加した。
【0155】
得られた結果(Proepithelinタンパク質発現増大に対するPioglitazoneの効果)を、図5に示す。図5(a)は、Proepithelinタンパク質及び比較用のハウスキーピングタンパク質GADPHについてのウェスタンブロット像である。図5(b)は、縦軸にGADPHの発現量に対するProepithelinタンパク質の発現量の相対値を表したグラフである(平均値±標準偏差(mean±S.D.), n=4, p値(p-value): **<0.05)。図5(b)が示すように、インスリン抵抗性誘導によって有意に(p-value<0.05)発現亢進するProepithelinタンパク質は、インスリン抵抗性改善薬で処理することによって、コントロールと同等の発現レベルまで有意に(p-value<0.05)すなわち完全に抑制された。従って、このことからも、Proepithelinタンパク質の発現量は、インスリン抵抗性と直接的な関連性を持つものであるということが示された。
【0156】
[実施例6]Proepithelinタンパク質によるインスリン情報伝達への効果
上記参考例1の方法によって調製した成熟脂肪細胞に、100 nMインスリンとProepithelinタンパク質(アディポジェン社)とを添加して30分間培養し、又は、Proepithelinタンパク質を添加せず100 nMインスリンを添加して30分間培養し、インスリン刺激ありの脂肪細胞(+100nM Insulin)を調製した。Proepithelinタンパク質を添加する場合、Proepithelinタンパク質の濃度は、10 nM、50 nM、100 nM、及び200 nMとした。
【0157】
得られたインスリン刺激ありの脂肪細胞を、RIPA緩衝液{1 % (w/w) TritonX-100, 1% デオキシコール酸ナトリウム, 0.1% ドデシル硫酸ナトリウム, 150 mM 塩化ナトリウム, 20 mM トリス塩酸 (pH 7.4), 2 mM EDTA, 10 μg / ml ロイペプチン, 10 μg / ml アプロチニン, 5 mM メルカプトエタノール, 1 mM PMSF, 1 mM Na3VO4, 10 μM モリブデン酸ナトリウム, 50 mM フッ化ナトリウム}で可溶化して、タンパク質を抽出した。
【0158】
抽出したタンパク質は、ウェスタンブロット法に供した。すなわち、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にて分離した後、Polyvinylidene fluoride (PVDF)膜、またはニトロセルロース膜に転写した。1次抗体にラビット抗リン酸化AKT(Ser473)抗体(サンタクルーズ・テクノロジー)を、2次抗体にはヤギ抗ラビットIgG HRP標識抗体(ZYMED)、HRP標識抗体の検出にはECL Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を用いた。
【0159】
上記参考例1の方法によって調製した成熟脂肪細胞に、インスリンを添加せずProepithelinタンパク質(アディポジェン社)を添加して30分間培養し、又は、インスリン及びProepithelinタンパク質のいずれも添加せずに30分間培養し、インスリン刺激なしの脂肪細胞(−Insulin)を調製した。Proepithelinタンパク質を添加する場合、Proepithelinタンパク質の濃度は、10 nM、50 nM、100 nM、及び200 nMとした。
得られたインスリン刺激なしの脂肪細胞(−Insulin)について、上記と同様にタンパク質抽出及びウェスタンブロットを行った。
【0160】
インスリン刺激なしの脂肪細胞(−Insulin)のAktリン酸化レベルに対する、インスリン刺激ありの脂肪細胞(+100nM Insulin)のAktリン酸化レベルを調べることによって、インスリン情報伝達計の活性化を調べた。Aktリン酸化レベルの検出に際しては、Aktタンパク質の473番目セリンがリン酸化されたもの(pAkt-Ser473)を検出ターゲットとした。
【0161】
得られた結果を図6に示す。図6が示すように、添加したProepithelinの濃度依存的に
Aktタンパク質の473番目セリンのリン酸化レベルの亢進が起こった。Aktタンパク質はインスリン受容体の下流で機能するタンパク質リン酸化酵素である。従って、Proepithelinタンパク質はインスリン情報伝達を亢進する働きがある事が示された。
【0162】
[実施例7]Proepithelinタンパク質の恒常的存在によるインスリン情報伝達抑制作用
上記参考例1の方法によって調製した成熟脂肪細胞に、Proepithelinタンパク質(アディポジェン社)を添加して6時間インキュベートし、その後、100 nMインスリンを加えて30分間培養し、又は、Proepithelinタンパク質を添加せず100 nMインスリンを添加して30分間培養し、インスリン刺激ありの脂肪細胞(+100nM Insulin)を調製した。Proepithelinタンパク質を添加する場合、Proepithelinタンパク質の濃度は、50 nM、100 nM、及び200 nMとした。
【0163】
上記参考例1の方法によって調製した成熟脂肪細胞に、Proepithelinタンパク質(アディポジェン社)を添加して6時間培養し、又は、インスリン及びProepithelinタンパク質のいずれも添加せずに30分間培養し、インスリン刺激なしの脂肪細胞(−Insulin)を調製した。Proepithelinタンパク質を添加する場合、Proepithelinタンパク質の濃度は、50 nM、100 nM、及び200 nMとした。
【0164】
上記のようにして得られたインスリン刺激ありの脂肪細胞(+100nM Insulin)及びインスリン刺激なしの脂肪細胞(−Insulin)それぞれについて、実施例6と同様にタンパク質抽出及びウェスタンブロットを行った。
【0165】
得られた結果を図7に示す。図7が示すように、Proepithelinタンパク質を用いて脂肪細胞を事前処理する事により、Aktタンパク質のリン酸化レベルの低下が起こった。従って、Proepithelinタンパク質が培地中に恒常的に存在する事でインスリン情報伝達が抑制される事が判明した。
【0166】
上記実施例6の結果及び実施例7の結果は、Proepithelinタンパク質が一過性にインスリン情報伝達を促進する作用を持つ一方で、恒常的存在下においてはインスリン情報伝達を阻害する作用がある事を示したものである。
すなわち、プロエピセリンが、インスリンと同様に増殖作用のある公知のタンパク質であることから、その機能の1つとして、インスリン等の増殖シグナルを促進させる機能があると推測される一方で、恐らくはプロエピセリンとインスリンシグナルを介在する情報伝達経路が存在し、長期的暴露によってその経路が何らかの制御を受け、作用を逆転させるものと考えることができる。
【0167】
これらの結果はProepithelinタンパク質とインスリン抵抗性との関連性をさらに強く示唆するだけでなく、さらに、Proepithelinタンパク質がインスリン感受性調節に直接機能していることを示唆するものである。
【0168】
一連の結果をまとめた模式図を図8に示す。インスリン抵抗性に対する従来の治療法としては、チアゾリジン誘導体(PPARγアゴニスト)で、脂肪細胞の分化、小型化を促進し、再びインスリン抵抗性を解除する治療法が考えられてきた。一方、Proepithelinは、脂肪細胞の分化および増殖過程では発現レベル並びに分泌レベルは低下し、インスリン感受性を個体に付与している事が考えられる。また、肥大化した脂肪細胞ではTNFαが過剰分泌し、それによってProepithelinの発現並びに分泌レベルが増大し、インスリン抵抗性を惹起する。つまり、Proepithelinの発現並びに分泌レベルを抑制させ、或いは作用を低下させることによってインスリン抵抗性を解除する治療法が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】NBS法によるProepithelinタンパク質の発現変動解析結果を示す。
【図2】ウェスタンブロット法によるProepithelinタンパク質の発現変動解析結果を示す。
【図3】TNFα及びデキサメサゾンの濃度変化によるProepithelinタンパク質の発現量の変化を示す。
【図4】脂肪分化におけるProepithelinタンパク質発現の変化を示す。
【図5】Proepithelinタンパク質発現増大に対するPioglitazoneの効果を示す。
【図6】Proepithelinタンパク質によるインスリン情報伝達への効果を示す。
【図7】Proepithelinタンパク質の恒常的存在によるインスリン情報伝達抑制作用を示す。
【図8】脂肪細胞におけるProepithelinタンパク質とインスリン抵抗性との関連性についての模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。
【請求項2】
インスリン抵抗性を評価する方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料中におけるレベルを測定する工程、及び
得られた測定レベルと、前記ポリペプチドの正常レベルとを比較する工程、
を含み、
前記得られた測定レベルが、前記正常レベルよりも増加していることを、前記対象となる個体がインスリン抵抗性の状態にある可能性が高いことの指標の1つとする方法。
【請求項3】
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む試料、又は前記ポリペプチドの発現能又は分泌能を有する細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルを測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における測定された前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルと、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリペプチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルと、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記レベル、発現レベル又は分泌レベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記レベル、発現レベル又は分泌レベルよりも減少していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【請求項4】
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む試料、又は前記ポリペプチドを発現又は分泌している細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における前記ポリペプチドの機能を測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における測定された前記ポリペプチドの機能と、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリペプチドの機能、又は前記細胞における前記ポリペプチドの機能と、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記機能が、前記候補物質を接触させない場合の前記機能より制御されていることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【請求項5】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドを含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【請求項6】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドに対する抗体を含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【請求項7】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドの発現レベル又は分泌レベルを制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【請求項8】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の連続する少なくとも15個のアミノ酸からなるポリペプチドによる機能を制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【請求項9】
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性マーカー。
【請求項10】
インスリン抵抗性を評価する方法であって、以下の工程:
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの、インスリン抵抗性を評価すべき対象となる個体に由来する試料中におけるレベルを測定する工程、及び
得られた測定レベルと、前記ポリヌクレオチドの正常レベルとを比較する工程、
を含み、
前記得られた測定レベルが、前記正常レベルよりも増加していることを、前記対象となる個体がインスリン抵抗性の状態にある可能性が高いことの指標の1つとする方法。
【請求項11】
インスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む試料、又は前記ポリヌクレオチドの発現能を有する細胞と、候補物質と、を接触させる工程、
前記候補物質を接触させた場合の前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリヌクレオチドの発現レベルを測定する工程、及び
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における測定された前記ポリヌクレオチドの発現レベルと、前記候補物質を接触させない場合の前記ポリヌクレオチドのレベル、又は前記細胞における前記ポリヌクレオチドの発現レベルと、を比較する工程、
を含み、
前記候補物質を接触させた場合の測定された前記レベル、又は発現レベルが、前記候補物質を接触させない場合の前記レベル、又は発現レベルよりも減少していることを、インスリン抵抗性を改善する物質として前記候補物質を選択することの指標の1つとする方法。
【請求項12】
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドを含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。
【請求項13】
配列番号2に記載の塩基配列の連続する少なくとも45個の塩基からなるポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれるポリヌクレオチドの発現レベルを制御する物質を有効成分として含む、インスリン抵抗性を改善するための薬剤組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−204475(P2009−204475A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47536(P2008−47536)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】