説明

インドール誘導体三量体の製造方法

【課題】酸化剤由来の不純物含有量が低減されたインドール誘導体三量体を提供し、漏れ電流特性、サイクル特性に優れた電気化学セルを提供する。
【解決手段】インドール誘導体(A)を、有機溶媒(B)、酸化剤(C)、酸(D)及び水を含む混合溶媒において化学反応させてインドール誘導体三量体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ、コンデンサなどの電気化学セルの電極材料として好適なインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インドール誘導体三量体は、電荷キャリアとしてプロトンが作用するプロトン伝導型の電気化学セルの電極材料として用いられることが知られている。
【0003】
特開2002−93419号公報(特許文献1)には、インドール系化合物を用いた二次電池及びキャパシタについて開示されている。インドール系化合物として、6−ニトロインドール三量体、5−シアノインドール三量体を正極材料として用い、電荷キャリアとしてプロトンを用いる二次電池が記載されている。
【0004】
インドール誘導体三量体の製造方法としては、例えば、J.Chem.Soc.,Faraday Trans.,93(1997)3791頁(非特許文献1)に、無置換インドール、5−シアノインドールの電解反応による三量体の合成方法が開示されている。このような電解反応による製造方法によって取得したインドール三量体は、サイクル試験を行うと経時的に構造劣化が進行するため、サイクル特性が悪いという問題がある。また、電解反応では、インドール三量体を大量に合成することは困難であり、工業的製法として製造コスト等の点で問題を有している。
【0005】
一方、WO2002/032903号公報(特許文献2)には、電解反応を利用しないインドール誘導体三量体の製造方法ついて開示されている。この製造方法は、インドール誘導体を、少なくとも一種の酸化剤と少なくとも一種の有機溶媒を含む反応混合物中において反応するものである。具体的には、インドール誘導体と有機溶媒を含む溶液中に、酸化剤と有機溶媒と水を含む溶液を滴下して反応することが開示されている。
【0006】
この製造方法は、電解反応に比較して、高純度で大量生産が容易であり、工業的な製造方法に適し、また、得られたインドール誘導体三量体は、高導電性を有し、高い酸化還元電位および酸化還元容量を有し、かつサイクル特性が良好なインドール誘導体三量体を提供できることが記載されている。
【0007】
しかし、この製造方法は、酸化剤として塩化第二鉄や塩化第二銅などの金属塩を用いているため、得られたインドール誘導体三量体は、金属化合物や塩化物などの不純物を多く含有する。その結果、このようなインドール誘導体三量体を用いた電気化学セルは、漏れ電流が大きく、高温サイクル特性が悪いという問題がある。この問題は、特に酸化剤として鉄の塩化物を用いた場合に著しい。
【0008】
さらに、このような問題を避けるため、鉄の塩化物等の金属塩以外の酸化剤を用いた場合、この製造方法は、酸化剤の種類により、必ずしも十分な収率で所望の性能を有するインドール誘導体三量体が得られなかった。
【0009】
生成物からの金属を除去する方法として、例えば、鉄化合物の場合、イオン交換法や酸化法が一般的に知られている。
【0010】
イオン交換法は、水酸化第一鉄(2価の鉄イオン)については、pH7付近の水中に溶解するので除去は可能であるが、水酸化第二鉄(3価の鉄イオン)については、水に不溶であるため除去することが困難である。この水に不溶な鉄化合物は、塩基物質であり、鉱酸(35%塩酸、98%硫酸、60%硝酸)に溶解することが知られているが、例えば、35%塩酸で、インドール誘導体三量体を洗浄するとインドール誘導体三量体自体が溶解してしまうという問題があった。逆に、酸濃度を低く設定すると、鉄化合物が完全に溶解せず、十分に除去することができないという問題があった。また、このような強酸を用いる方法は、装置に耐酸性が求められ、樹脂材が劣化しやすく、作業コストが高くなってしまうという問題がある。
【0011】
一方、酸化法による鉄成分の除去は、水中に溶解している2価の鉄イオンを酸化して水酸化第二鉄として析出させて除去する方法である。この方法では、水に難溶性のインドール誘導体三量体に含有する鉄成分を除去することは困難である。
【0012】
以上のように、インドール誘導体三量体の製造方法として、電解反応による方法では、工業的製造への適用に問題があり、化学的な酸化反応による製造方法は、不純物の除去が困難であることから、生成物の電極材料用途への適用に問題があった。特に、後者の製造方法では、酸化剤として、インドール誘導体の酸化反応に近い電極電位を有し、且つ水やアルコール、有機溶媒に対する溶解性に優れているという観点から、塩化第二鉄や塩化第二銅がもっぱら使用されるため、得られたインドール誘導体三量体は、金属化合物や塩化物などの不純物を多量に含有している。そして、この不純物は、一般的な除去作業では充分に除去することが困難である。
【0013】
このような不純物を含有したインドール誘導体三量体を用いた電気化学セルは、充放電反応において、不純物イオンによる副反応や、電極上又は、集電体/電極界面への析出などが起こるため、電気化学特性が著しく悪化する。具体的には、漏れ電流、高温サイクル特性、スタックセルのサイクル特性等が悪化する。ここでいうスタックセルとは、電気化学セルの耐電圧を増加させる手段として用いられる、任意の数のセルを電気的に直列接続した電気化学セルのことを指す。
【0014】
その他に、セパレータとして、イオン交換機能を有する膜を用いた場合、イオン交換基に不純物イオンが捕捉され、目的イオンの交換反応が阻害されてしまうため、セパレータの機能を低下させてしまうという問題があった。
【0015】
このように、従来の製造方法で得られるインドール誘導体三量体は、電気化学セルの電極材料としては満足できるものではなく、漏れ電流特性、サイクル特性等に優れた電気化学セルを提供する観点から、より不純物が少ないインドール誘導体三量体を提供するための工業的な製造方法が求められている。特にバックアップ用途向けなどの電気化学セルは、漏れ電流をできる限り抑えることが要求されている。
【特許文献1】特開2002−93419号公報
【特許文献2】WO2002/032903号公報
【非特許文献1】J.Chem.Soc.,Faraday Trans.,93(1997)3791頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、電気化学セルの電極材料に好適なインドール誘導体三量体の製造方法を提供することにある。特に、製造に用いられる酸化剤由来の金属成分の含有量が抑えられたインドール誘導体三量体を提供し、この三量体を用いることにより、漏れ電流特性およびサイクル特性に優れた電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、下記一般式(1)で表されるインドール誘導体(A)を、有機溶媒(B)、酸化剤(C)、酸(D)及び水を含む混合溶媒において化学反応させる工程を有する、下記一般式(2)で表されるインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキルチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物残基を表す。)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキルチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物残基を表す。)。
【0022】
また本発明は、酸化剤(C)として、前記化学反応において価数が変化する元素が非金属元素である化合物を用いる上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0023】
また本発明は、酸化剤(C)が過硫酸塩である上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0024】
また本発明は、酸(D)が、硫酸、テトラフルオロホウ酸、六フッ化燐酸から選ばれる少なくとも1種の酸である上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0025】
また本発明は、有機溶媒(B)が、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種の溶媒である上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0026】
また本発明は、前記混合溶媒中の酸(D)が、10〜70質量%の水溶液として混合される上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0027】
また本発明は、前記混合溶媒のpHが3未満である上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0028】
また本発明は、インドール誘導体(A)が、6位にカルボン酸エステル基を有する上記のインドール誘導体三量体の製造方法に関する。
【0029】
また本発明は、上記のいずれかの方法でインドール誘導体三量体を製造し、得られた製造物を電極活物質として用いることを特徴とする電気化学セル用電極の製造方法に関する。
【0030】
また本発明は、上記のいずれかの方法でインドール三量体誘導体を製造し、得られた製造物を電極活物質として用いることを特徴とする電気化学セルの製造方法に関する。
【0031】
また本発明は、前記電気化学セルが、プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンが作用して動作するプロトン伝導型の電気化学セルである上記の電気化学セルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、塩化鉄等の化学反応において価数が変化する金属を含有する酸化剤に代えて、他の酸化剤を用いる場合であっても、混合溶媒中に酸を添加するため、酸化反応が十分に促進され、結果、高収率で且つ容易にインドール誘導体三量体を製造することができる。
【0033】
また、鉄成分等の電気化学特性を悪化させる酸化剤由来の不純物含有量を抑えることができるため、得られたインドール誘導体三量体を用いた電気化学セルは、漏れ電流特性、サイクル特性等の電気化学特性に優れる。
【0034】
さらに、混合溶媒中に酸を添加するため、化学反応中にインドール誘導体三量体にプロトン酸が付与される、つまりインドール誘導体三量体の生成と同時にドーピング処理が行なうことができる。結果、導電性が高く、高容量のインドール誘導体三量体を得ることができる。
【0035】
本発明により得られたインドール誘導体三量体を用いた電気化学セルは、充放電において、不純物の影響による副反応が抑えられるため、漏れ電流を抑制することができる。また、不純物イオンが電極表面又は電極/集電体界面へ析出したり、イオン交換基を持つセパレータへ捕捉されることがないため、電極反応の阻害や界面抵抗の上昇、セパレータの機能低下などに伴う、電気化学セルの内部抵抗上昇を防止することができる。したがって、本発明によるインドール誘導体三量体を用いた電気化学セルは、漏れ電流特性やサイクル特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のインドール誘導体三量体の製造方法は、一般式(1)で表されるインドール誘導体(A)を、有機溶媒(B)、酸化剤(C)、酸(D)及び水を含む混合溶媒において、化学反応させ、一般式(2)で表されるインドール誘導体三量体の製造する方法である。
【0037】
本発明に用いられる一般式(1)で表されるインドール誘導体(A)としては、インドール、4−メチルインドール、5−メチルインドール、6−メチルインドール、7−メチルインドール、4−エチルインドール、5−エチルインドール、6−エチルインドール、7−エチルインドール、4−n−プロピルインドール、5−n−プロピルインドール、6−n−プロピルインドール、7−n−プロピルインドール、4−iso−プロピルインドール、5−iso−プロピルインドール、6−iso−プロピルインドール、7−iso−プロピルインドール、4−n−ブチルインドール、5−n−ブチルインドール、6−n−ブチルインドール、7−n−ブチルインドール、4−sec−ブチルインドール、5−sec−ブチルインドール、6−sec−ブチルインドール、7−sec−ブチルインドール、4−t−ブチルインドール、5−t−ブチルインドール、6−t−ブチルインドール、7−t−ブチルインドールなどの炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基置換インドール類;これらのアルキル基を有する炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルチオ基置換インドール類;4−フェニルインドール、5−フェニルインドール、6−フェニルインドール、7−フェニルインドールなどの炭素数6〜20、好ましくは6〜10のアリール基置換インドール類;これらのアリール基を有する炭素数6〜20、好ましくは6〜10のアリールチオ基置換インドール類;4−メトキシインドール、5−メトキシインドール、6−メトキシインドール、7−メトキシインドール、4−エトキシインドール、5−エトキシインドール、6−エトキシインドール、7−エトキシインドール、4−n−プロポキシインドール、5−n−プロポキシインドール、6−n−プロポキシインドール、7−n−プロポキシインドール、4−iso−プロポキシインドール、5−iso−プロポキシインドール、6−iso−プロポキシインドール、7−iso−プロポキシインドール、4−n−ブトキシインドール、5−n−ブトキシインドール、6−n−ブトキシインドール、7−n−ブトキシインドール、4−sec−ブトキシインドール、5−sec−ブトキシインドール、6−sec−ブトキシインドール、7−sec−ブトキシインドール、4−t−ブトキシインドール、5−t−ブトキシインドール、6−t−ブトキシインドール、7−t−ブトキシインドールなどの炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基置換インドール類;4−アセチルインドール、5−アセチルインドール、6−アセチルインドール、7−アセチルインドールなどのアセチル基置換インドール類やインドール−4−カルバルデヒド、インドール−5−カルバルデヒド、インドール−6−カルバルデヒド、インドール−7−カルバルデヒドなどのアルデヒド基(ホルミル基)置換インドール類などの炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基置換インドール類;インドール−4−カルボン酸、インドール−5−カルボン酸、インドール−6−カルボン酸、インドール−7−カルボン酸などのカルボン酸基置換インドール類;インドール−4−カルボン酸メチル、インドール−5−カルボン酸メチル、インドール−6−カルボン酸メチル、インドール−7−カルボン酸メチルなどの炭素数2〜20、好ましくは2〜10のカルボン酸エステル基置換インドール類;インドール−4−スルホン酸、インドール−5−スルホン酸、インドール−6−スルホン酸、インドール−7−スルホン酸などのスルホン酸基置換インドール類;インドール−4−スルホン酸メチル、インドール−5−スルホン酸メチル、インドール−6−スルホン酸メチル、インドール−7−スルホン酸メチルなどの炭素数1〜20、好ましくは1〜10のスルホン酸エステル基置換インドール類;インドール−4−カルボニトリル、インドール−5−カルボニトリル、インドール−6−カルボニトリル、インドール−7−カルボニトリルなどのシアノ基置換インドール類;4−ヒドロキシインドール、5−ヒドロキシインドール、6−ヒドロキシインドール、7−ヒドロキシインドールなどのヒドロキシル基置換インドール類;4−ニトロインドール、5−ニトロインドール、6−ニトロインドール、7−ニトロインドールなどのニトロ基置換インドール類;4−アミノインドール、5−アミノインドール、6−アミノインドール、7−アミノインドールなどのアミノ基置換インドール類;4−カルバモイルインドール、5−カルバモイルインドール、6−カルバモイルインドール、7−カルバモイルインドールなどのアミド基置換インドール類;4−フルオロインドール、5−フルオロインドール、6−フルオロインドール、7−フルオロインドール、4−クロロインドール、5−クロロインドール、6−クロロインドール、7−クロロインドール、4−ブロモインドール、5−ブロモインドール、6−ブロモインドール、7−ブロモインドール、4−ヨードインドール、5−ヨードインドール、6−ヨードインドール、7−ヨードインドールなどのハロゲン基置換インドール類;4−ビニルインドール、5−ビニルインドール、6−ビニルインドール、7−ビニルインドールなどのビニル基置換インドール類;トリフルオロメチル基置換インドール類;トリフルオロメチルチオ置換インドール類、ヘテロ環式化合物残基置換インドール類などを挙げることができる。ここでヘテロ環式化合物残基としては、炭素数が2〜20、好ましくは2〜10、ヘテロ原子数が1〜5、好ましくは1〜2、へテロ原子が酸素、硫黄、窒素である3〜10員環のものが挙げられる。
【0038】
これらのなかで、取り扱い及び電気化学特性の点で、カルボン酸エステル基置換インドール類、アシル基置換インドール類、カルボン酸基置換インドール類が好ましく、特にカルボン酸エステル基置換インドール類が好ましい。
【0039】
本発明に用いられる有機溶媒(B)は、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、N−メチルピロリドン、メタクレゾール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの有機溶媒(B)は、それぞれ単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。これらのなかで、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが好ましく、特に、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミドが実用上好ましい。
【0040】
本発明に用いられる酸化剤(C)は、化学反応において価数が変化する元素が非金属元素である化合物を用いることが好ましい。化学反応後に酸化剤由来の不純物が生成物中に残留しても、この生成物を用いた電気化学セルは、不純物(非金属元素成分)の酸化還元電位が、インドール誘導体三量体を活物質として含むセルの電極電位と異なるため、不純物による副反応が抑えられ、漏れ電流を抑制することができる。
【0041】
また、酸化剤(C)は、サイクル特性等の電気化学的特性の点から、その陰イオン成分あるいは酸化反応後に形成する陰イオンが、電気化学セルに用いられるドーパントの陰イオン成分と同じであることが好ましい。例えば、ドーパントに硫酸を用いる場合は、酸化剤(C)として過硫酸塩を用いることが好ましい。
【0042】
酸化剤(C)としては、テトラフルオロホウ酸ニトロソニウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過ヨウ素酸カリウム等の無機塩、過酸化水素、オゾン、臭素、ヨウ素等が挙げられる。これらのなかで、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩が好ましく、特に過硫酸アンモニウムが好ましい。これらの酸化剤はそれぞれ単独で用いても、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0043】
本発明で用いられる酸(D)は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などの無機酸、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などの有機酸が挙げられる。これらのなかで、硫酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸が好ましく、特にテトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸が好ましい。
【0044】
本発明の製造方法において、インドール誘導体(A)、有機溶媒(B)、酸化剤(C)、酸(D)、水の混合順は、特に限定されず、一括添加してもよいし、分割して添加してもよい。これらの混合方法としては、酸(D)と水を含む溶液を予め調製し、この溶液とインドール誘導体(A)、有機溶媒(B)、酸化剤(C)を一括混合する方法を行うことができる。また、インドール誘導体(A)及び有機溶媒(B)を含有する溶液(X)と、酸化剤(C)、酸(D)及び水を含む溶液(Y)を予め調製し、溶液(X)へ溶液(Y)を徐々に添加する方法を行うことができる。
【0045】
混合溶媒中のインドール誘導体(A)の濃度は、有機溶媒(B)に対して、完全に溶解する濃度であれば特に限定されないが、生産性や溶解性等の観点から0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜50質量%がより好ましく、0.1〜30質量%がさらに好ましい。
【0046】
本発明で用いるインドール誘導体(A)と酸化剤(C)とのモル比(A/C)は、インドール誘導体の三量化反応における6電子分に相当する比を基本とし、1/0.5〜1/100が好ましく、1/0.5〜1/50がより好ましい。ここで、酸化剤の割合が低いと反応性が低下して原料が残存し、収率が低下してしまう。逆にその割合が高すぎると生成した三量体を過剰に酸化して、構造劣化を引き起こし、性能を低下させる傾向にある。
【0047】
混合溶媒中の酸化剤(C)の濃度は、酸化剤が完全に溶解していれば、特に限定されない。例えば、過硫酸アンモニウムを用いた場合は、水に対して80質量%以下であることが好ましい。
【0048】
混合溶媒中の酸(D)濃度は、水に対して10〜70質量%であり、好ましくは20〜50質量%である。酸濃度が低すぎると、酸化反応を促進する触媒効果が小さく、収率が低下してしまう。逆に、高すぎると、生成した三量体を過剰に酸化して、構造劣化を引き起こし、十分な性能が得られない傾向にある。
【0049】
混合溶媒のpHは、3未満であることが好ましく、2以下がより好ましい。pHが高すぎると、酸化反応が十分に進行せず収率が低下し、あるいは酸化反応が進行しない。逆にpHが低すぎると、生成した三量体を過剰に酸化して、構造劣化を引き起こし、十分な性能が得られない傾向にある。
【0050】
インドール誘導体(A)と水の質量比(A/水)は、特に限定されないが、1/1〜1/100が好ましく、1/10〜1/70がより好ましい。また、水と有機溶媒の質量比(水/有機溶媒)は、1/100〜100/1が好ましく、1/10〜10/1がより好ましい。
【0051】
反応温度は、特に限定されないが、一般的には、使用する溶媒の還流温度付近であり、10℃〜120℃の範囲が好ましく、20℃〜80℃がより好ましく、20℃〜50℃がさらに好ましい。反応温度が、高すぎると生成した三量体の構造劣化が引き起こされ、十分な性能が得られない傾向にあり、低すぎると反応性が低下し、収率が低下する傾向にある。
【0052】
反応時間は、混合・攪拌を開始してから15分〜12時間程度が好ましい。
【0053】
より好ましい反応状態は、インドール誘導体の酸化反応に伴う発熱をなるべく抑えながら、反応温度を制御して、ゆっくりと反応を進行させることが好ましい。
【0054】
反応終了後、析出した生成物を濾過等により回収し、有機溶媒やエタノール、水等で洗浄し、乾燥することにより、目的物であるインドール誘導体三量体を得ることができる。
【0055】
得られたインドール誘導体三量体は、式(2)で表され、式中のRとしては、前述の式(1)のRと同様な置換基が挙げられる。
【0056】
本発明におけるインドール誘導体三量体としては、電極電位とサイクル特性等の電気化学的特性の観点から、カルボン酸エステル基置換インドール誘導体三量体、アシル基置換インドール誘導体三量体が好ましく、特にカルボン酸エステル基置換インドール誘導体三量体が好ましい。
【0057】
次に、本発明の電気化学セルの構成および作製方法について説明する。
【0058】
本発明の電気化学セルは、本発明の上記製造方法により得られたインドール誘導体三量体を用いて作製されることを特徴とする。
【0059】
本発明の電気化学セルは、充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンが作用するプロトン伝導型の電気化学セルであることが好ましい。このプロトン伝導型電気化学セルは、プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う酸化還元反応の電子授受において、電極活物質のプロトンの吸脱着のみが関与する。
【0060】
このような電気化学セルは、正極および負極の活物質として、それぞれプロトン伝導型化合物を含有し、電解質としてプロトン源を含む電解液を含有する構成をとることができ、プロトン伝導型化合物の活物質として、本発明の製造方法で得られたインドール誘導体三量体を一方の電極に含有する。
【0061】
電極活物質として使用される他のプロトン伝導型化合物としては、プロトン源を含む溶液中において、酸化還元性を有しているものであれば、特に限定されない。例えば以下の化合物を使用することができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリペリナフタレン、ポリフラン、ポリフルラン、ポリチエニレン、ポリピリジンジイル、ポリイソチアナフテン、ポリキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリインドール、ポリアミノアントラキノン、ポリイミダゾール及びこれらの誘導体などのπ共役系高分子、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン等のキノン系化合物、ポリアントラキノン、ポリベンゾキノン等のキノン系高分子(キノン酸素が共役によりヒドロキシル基になり得るもの)、前記高分子を与えるモノマーの2種以上の共重合で得られる導電性高分子などが挙げられる。これらの化合物にドーピングを施すことによりレドックス対が形成され、導電性が発現する。これら化合物は、その酸化還元電位の差を適宜調整することによって正極及び負極活物質として選択使用される。
【0062】
ここでは、正極活物質として本発明の一般式(2)で表されるインドール誘導体三量体、負極活物質としては、下記一般式(3)で表されるポリフェニルキノキサリン誘導体を用いる例を挙げる。
【0063】
【化3】



【0064】
(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アセチル基、アシル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキルチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物残基を表す。)
ここで言う「それぞれ独立に」とは、各繰り返し単位においてすべてが同じでも良く、また、すべてが異なっていても良いことを意味し、さらに、重合体のそれぞれの構造においても独立であることを示している。式(3)中のRとしては、前述の式(1)のRと同様な置換基が挙げられる。
【0065】
図1に電気化学セルの基本素子の模式的断面図、図2に電気化学セル(単セル)の模式的断面図を示す。
【0066】
本発明における電気化学セルは、図1に示すように、正極集電体1上に正極電極2を、負極集電体4上に負極電極3をそれぞれ配置し、これらをセパレータ5を介して貼り合わせた構成を有することができる。セル内には、電解液としてプロトン源を含む水溶液または非水溶液が充填され、ガスケット6により封止され、基本素子8が形成される。図2に示すように、この基本素子の正極側と負極側に金属等の導電性材料からなる端子板7を設けることにより、基本素子1個からなる電気化学セル(単セル)が形成される。
【0067】
また、図1に示す基本素子8を任意の数、電気的に直列に積層し、両側に端子板7を設けることにより、図3に示す任意の耐電圧の電気化学セル(スタックセル)を形成することができる。
【0068】
電極2、3は、活物質と、導電剤と、必要により結着剤を含有し、次のようにして作製することができる。
【0069】
導電補助剤としては、カーボン類を用いることができ、例えば気相成長法で得られる繊維状カーボン(VGCF(登録商標)、昭和電工製)や、粒子状カーボンであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル製)を用いることができる。導電補助剤の含有量は、活物質100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは10〜30質量部混合することができる。
【0070】
必要に応じて、結着剤を活物質に対して1〜20質量部、好ましくは5〜10質量部混合することができる。結着剤の種類としては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。
【0071】
この電極材料の混合粉末を、常温〜400℃、好ましくは100〜300℃で加圧成形することで電極を形成することができる。またこの方法に代えて、その混合粉末を任意の有機溶媒ないし水に分散させたスラリーを調製し、このスラリーを導電性基材上にスクリーン印刷し、乾燥することでも電極を形成することができる。
【0072】
電解液としては、プロトンを含有する水溶液または非水溶液を用いることができる。例えば、プロトン源の酸としては、有機酸又は無機酸を用いることができ、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などの無機酸、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などの有機酸が挙げられる。プロトンの含有量としては、10-3mol/l〜18mol/lが好ましく、より好ましくは、10-1mol/l〜7mol/lである。
【0073】
セパレータ5は、電気化学セルの正極/負極間を電気的に絶縁でき、プロトンを透過できるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系多孔質膜やイオン交換膜、多孔性不織布を用いることができる。厚みとしては、特に限定されないが、10〜200μmが好ましく、10〜80μmがより好ましい。
【0074】
電気化学セルの外装形状は、コイン型、ラミネート型などの従来使用されている形状をとることが可能であり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕:インドール誘導体三量体の製造
100mlの反応容器に、インドール−6−カルボン酸メチル単量体0.6gとアセトニトリル40ml、過硫酸アンモニウムを0.9g、42質量%テトラフルオロホウ酸水溶液を30ml加え、固形物を完全に溶解させ、マグネチックスターラーを用いて常温にて攪拌を行いながら反応を進行させた。反応溶液が薄黄色から次第に淡赤色〜濃赤色を経て15分後に深緑色に変化し、析出物が観測された。さらに、反応容器を75℃のウォーターバスに移し、15分間攪拌を行なった。このとき、反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ1未満であった。
【0077】
反応を終了し、吸引ろ過を行い、深緑色の析出物を得た。得られた析出物を50mlのイオン交換水中で攪拌しながら洗浄した。吸引濾過した後、さらに同様にして50mlのエタノールにて洗浄し、次いで吸引ろ過をしながら、少量のイオン交換水で洗浄した後、大気中にて120℃で5時間乾燥させた。
【0078】
以上の製造方法により、深緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−3,8,13−トリカルボン酸メチル(インドール−6−カルボン酸メチル三量体)0.29g(収率48.3%)を得た。
【0079】
化学構造の同定は、1H−NMR分析、赤外分光分析(IR分光分析)により確認した(図4、図5)。
【0080】
得られたインドール誘導体三量体の純度は、HPLC分析を行い、面積値より算出した。その結果、純度は92.3%であった。
【0081】
得られたインドール誘導体三量体に含有する鉄量の分析を、塩酸にて鉄を抽出した後、ICP発光分析法によって行い、塩素量の分析を、燃焼法−イオンクロマトグラフィーによって行った。その結果、鉄イオンの含有濃度は0.07質量%、塩化物イオンの含有濃度は0.14質量%であった。
【0082】
次に、サイクリックボルタンメトリ(CV)法により、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。図6にサイクリックボルタモグラムを示す。
【0083】
測定用サンプルは、インドール誘導体三量体と繊維状カーボン(VGCF(登録商標)、昭和電工製)を7:3の質量比で混合し、その混合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解・分散させ、導電性基材上に塗布し、120℃で乾燥して作製した。参照極としてAg/AgCl電極を用い、対極としてPtを用い、電解液として20wt%の硫酸水溶液を用いた。掃引速度は20mV/sec.、掃引電位範囲は0.2V〜1.2V、測定温度は常温にて実施した。酸化容量は261.1C/g、還元容量は264.3C/gであった。
【0084】
〔実施例2〕:インドール誘導体三量体の製造
過硫酸アンモニウムを10.8g加えた以外は、実施例1と同様にして実施し、深緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−3,8,13−トリカルボン酸メチル(インドール−6−カルボン酸メチル三量体)0.47g(収率78.3%)を得た。反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ1未満であった。
【0085】
構造の同定、純度、不純物の測定は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は94.8%であった。鉄イオンの含有濃度は0.08質量%、塩化物イオンの含有濃度は0.17質量%であった。
【0086】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は258.6C/g、還元容量は261.7C/gであった。
【0087】
〔実施例3〕:インドール誘導体三量体の製造
100mlの反応容器に、インドール−6−カルボン酸メチル0.6gとアセトニトリル40mlを入れ、固形物を溶解してインドール誘導体溶液を調製した。一方、42質量%テトラフルオロホウ酸水溶液30mlに過硫酸アンモニウム10.8gを加えて、溶解し、酸化剤溶液を調製した。次に、インドール誘導体溶液に、30分かけて酸化剤溶液を滴下し、反応温度を25℃に制御しながら10時間反応した。以降の処理は、実施例1と同様にして行い、深緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−3,8,13−トリカルボン酸メチル(インドール−6−カルボン酸メチル三量体)0.49g(収率81.6%)を得た。反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ1未満であった。
【0088】
構造の同定、純度、不純物の分析は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は98.6%であった。鉄イオンの含有濃度は0.06質量%、塩化物イオンの含有濃度は0.13質量%であった。
【0089】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は274.6C/g、還元容量は280.1C/gであった。
【0090】
〔実施例4〕:インドール誘導体三量体の製造
酸水溶液として20質量%六フッ化燐酸水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施し、深緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−3,8,13−トリカルボン酸メチル(インドール−6−カルボン酸メチル三量体)0.32g(収率53.3%)を得た。反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ1未満であった。
【0091】
構造の同定、純度、不純物の分析は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は94.4%であった。鉄イオンの含有濃度は0.09質量%、塩化物イオンの含有濃度は0.19質量%であった。
【0092】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は247.1C/g、還元容量は247.9C/gであった。
【0093】
〔実施例5〕:インドール誘導体三量体の製造
100mlの反応容器に、インドール−5−カルボン酸単量体0.2gとアセトニトリル30ml、過硫酸アンモニウムを0.3g、40質量%硫酸水溶液を20ml加え、固形物を完全に溶解させ、マグネチックスターラーを用いて常温にて攪拌を行いながら反応を進行させた。反応溶液が薄黄色から、20分後に薄緑色に変化した。さらに、反応容器を75℃のウォーターバスに移し、30分間攪拌を行なった。その際、反応溶液が濃緑色に変化し、析出物が観測された。このとき、反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ1未満であった。
【0094】
反応を終了し、吸引ろ過を行い、深緑色の析出物を得た。得られた析出物を50mlのイオン交換水中で攪拌しながら洗浄した。吸引濾過した後、同様にして50mlのエタノールにて洗浄し、次いで吸引ろ過をしながら、少量のイオン交換水で洗浄した後、大気中にて120℃で5時間乾燥させた。
【0095】
以上の製造方法により、深緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−2,9,14−トリカルボン酸(インドール−5−カルボン酸三量体)0.071g(収率35.5%)を得た。
【0096】
構造の同定、純度、不純物の分析は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は73.1%であった。鉄イオンの含有濃度は、0.08質量%、塩化物イオンの含有率は、0.19質量%であった。
【0097】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は276.3C/g、還元容量は104.2C/gであった。
【0098】
〔参考例〕
100mlの反応容器に、インドール−6−カルボン酸メチル単量体1.42gとN,N−ジメチルホルムアミド15mlを加え、固形物を溶解し、インドール溶液(濃黄色)を調製した。一方、N,N−ジメチルホルムアミド60ml、過硫酸アンモニウム11.4g、水2.7gを混合し、15分間攪拌して、酸化剤溶液を調製した。このとき、溶液中には、溶解していない過硫酸アンモニウムが多量に存在していた。
【0099】
インドール溶液へ、常温でマグネチックスターラーを用いて攪拌しながら、酸化剤溶液を30分かけて滴下した。この反応溶液を50℃のウォーターバス内で、2時間攪拌を行なった。反応溶液は、濃赤色に変化したが、析出物は観測できなかった。さらに、75℃に昇温して2時間攪拌を行なったが、溶液色の変化は見られず、析出物も観測できなかった。
【0100】
攪拌を停止し、反応溶液を確認したところ、酸化剤の過硫酸アンモニウムが多量に沈殿していた。そこで、水を50ml加え、酸化剤を完全に溶解させた。この反応溶液を75℃のウォーターバス内で、2時間攪拌を行なった。反応溶液は、青色に変化し、浮遊物が観測された。このとき、反応溶液のpHは、pH試験紙にて確認したところ5付近であった。
【0101】
反応を終了し、吸引ろ過を行い、濃青色の沈殿物を得た。この沈殿物を50mlのイオン交換水中で攪拌しながら洗浄した。吸引濾過した後、同様にして50mlのエタノールにて洗浄し、次いで吸引ろ過をしながら、少量のイオン交換水で洗浄した後、大気中にて120℃で5時間乾燥させた。
【0102】
以上の製造方法により、紺色の生成物0.0422gを得た。
【0103】
CV法により、実施例1と同様にして、得られた生成物の電気化学的な活性を評価したところ、酸化容量は1.4C/g、還元容量は0.1C/gであった。
【0104】
〔実施例6〕:電気化学セルの作製および評価
正極活物質として実施例1で製造したインドール−6−カルボン酸メチル三量体、導電補助剤として繊維状カーボン(VGCF(登録商標)、昭和電工製)、結着剤としてPVdF(平均分子量:1100)を用いた。これらを記載の順番で69:23:8の質量比で秤量し、ブレンダーで攪拌・混合した。この混合粉末を70mm角の金型に入れ、200℃、1分間加圧成形することにより正極電極を得た。
【0105】
負極電極は、活物質としてプロトン伝導性高分子であるポリフェニルキノキサリン(式(3)のRが全てH)、導電補助剤としてケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル製)を用いた。これらを記載の順番で75:25の重量比に秤量し、ブレンダーで攪拌・混合した。この混合粉末を70mm角の金型に入れ、300℃、2分間加圧成形することにより負極電極を得た。
【0106】
セパレータとして厚さ50μmの多孔性不織布を用い、このセパレータを介して正極電極および負極電極の電極面を対向させて貼り合わせ、ガスケットで外装し、基本素子を作製した。電解液として20wt%硫酸水溶液を用いた。次いで、正極および負極の両側に端子板を設けて電気化学セルを作製した。
【0107】
得られた電気化学セルについて、60℃における漏れ電流を測定した。CCCV:1mA−1.2V、200時間の条件で充電を行い、充電終止の電流値を測定した。結果、漏れ電流は1.39μAであった。
【0108】
また、電気化学セルの60℃におけるサイクル特性を測定した。CCCV:1mA−1.2V、1時間の条件で充電し、CC:2mAの条件で0Vまで放電した。これを1000回繰り返した。1000サイクル後の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する比率を次式により求めた。結果、1000サイクル後の容量比率は84%であった。
【0109】
容量比率(%)=100×(1000サイクル後の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)。
【0110】
〔実施例7〕:スタックセルの作製および評価
実施例6と同様にして、基本素子を作製し、この素子を10個、電気的に直列接続してスタックセルを作製した。
【0111】
得られたスタックセルについて、実施例6と同様にして60℃におけるサイクル特性を測定した結果、1000サイクル後の容量比率は82%であった。
【0112】
〔比較例1〕
反応容器にアセトニトリル10ml及びインドール−5−カルボン酸1.42gを加え、混合してインドール溶液を調製した。一方、無水塩化鉄第二鉄を16.2gとアセトニトリル40ml、水5.4gを混合して酸化剤溶液を調製した。
【0113】
次に、インドール溶液に、30分かけて酸化剤溶液を滴下した後、60℃で10時間、攪拌した。反応溶液は、薄黄色から緑色に変化した。
【0114】
ここで、反応を終了させ、析出物を吸引ろ過し、これをアセトニトリル、次いでメタノールで洗浄し、大気中で120℃、5時間乾燥させた。
【0115】
以上の製造方法により、緑色の6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−2,9,14−トリカルボン酸(インドール−5−カルボン酸三量体)1.12g(収率79%)を得た。
【0116】
構造の同定、純度、不純物の測定は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は94.8%であった。鉄イオンの含有濃度は5.43質量%、塩化物イオンの含有濃度は12.04質量%であった。
【0117】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は202.6C/g、還元容量は208.4C/gであった。
【0118】
次に、実施例6と同様にして、電気化学セルを作製し、漏れ電流とサイクル特性を測定した。漏れ電流は13.73μAであった。1000サイクル後の容量比率は47%であった。
【0119】
さらに、実施例7と同様にしてスタックセルを作製し、そのサイクル特性を測定した。1000サイクル後の容量比率は8%であった。サイクル試験後のセルを分解調査した結果、負極電極上および負極/集電体界面に析出物が認められた。
【0120】
〔比較例2〕
反応容器にアセトニトリル108g及びインドール−6−カルボン酸メチル32.6gを加え、混合してインドール溶液を調製した。一方、無水塩化第二鉄301.5gをアセトニトリル652g及び水100.5gに溶かし、酸化剤溶液を調製した。
【0121】
インドール溶液を65℃まで昇温した後、このインドール溶液中へ酸化剤溶液を約4時間かけて攪拌しながら滴下した。さらに65℃で2時間攪拌した。
【0122】
室温まで冷却後、析出物をろ過し、濃緑色固体を得た。この固体に20%硫酸水溶液69.8gを加え約2時間攪拌後、ろ過し、濃緑色固体を得た。次いで、この固体に水46.5gを加え約2時間攪拌後、ろ過し、緑色固体を得た。さらに、この固体にメタノール36.8gを加え約2時間攪拌後、ろ過し、これを乾燥した。
【0123】
以上の製造方法により、6,11−ジヒドロ−5H−ジインドロ[2,3−a:2’,3’−c]カルバゾール−3,8,13−トリカルボン酸トリメチルエステル(インドール−6−カルボン酸メチル三量体)25.8g(収率80.1%)を得た。
【0124】
構造の同定、純度、不純物の測定は、実施例1と同様にして行なった。得られたインドール誘導体三量体の純度は92.6%であった。鉄イオンの含有濃度は1.46質量%、塩化物イオンの含有濃度は3.22質量%であった。
【0125】
CV法により、実施例1と同様にして、得られたインドール誘導体三量体の電気化学的な活性を確認した。酸化容量は214.1C/g、還元容量は219.4C/gであった。
【0126】
次に、実施例6と同様にして、電気化学セルを作製し、漏れ電流とサイクル特性を測定した。漏れ電流は5.47μAであった。1000サイクル後の容量比率は53%であった。
【0127】
さらに、実施例7と同様にしてスタックセルを作製し、そのサイクル特性を測定した。1000サイクル後の容量比率は18%であった。サイクル試験後のセルを分解調査した結果、負極電極上に析出物が認められた。その析出物をICP発光分析した結果、鉄イオンを約33wt%含有していた。
【0128】
【表1】

【0129】
図1より、不純物の少ない実施例1は、比較例1と比較してより大きな電流が得られ、電気化学的活性の高い電極材料が得られていることがわかる。また、参考例は、不活性であり、インドール誘導体三量体が重合できていないことがわかる。
【0130】
また表1の結果から、本発明によれば、漏れ電流が少なく、サイクル特性、さらにスタックセルのサイクル特性に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明における電気化学セル(基本素子)の模式的断面図。
【図2】本発明における電気化学セル(単セル)の模式的断面図。
【図3】本発明における電気化学セル(スタックセル)の断面図。
【図4】インドール−6−カルボン酸メチル三量体の1H−NMRチャート。
【図5】インドール−6−カルボン酸メチル三量体のIRチャート。
【図6】実施例1、参考例、比較例2のサイクリックボルタモグラム。
【符号の説明】
【0132】
1 正極集電体
2 正極電極
3 負極電極
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ガスケット
7 端子板
8 基本素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるインドール誘導体(A)を、有機溶媒(B)、酸化剤(C)、酸(D)及び水を含む混合溶媒において化学反応させる工程を有する、下記一般式(2)で表されるインドール誘導体三量体の製造方法。
【化1】

(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキルチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物残基を表す。)
【化2】

(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキルチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数6〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物残基を表す。)
【請求項2】
酸化剤(C)として、前記化学反応において価数が変化する元素が非金属元素である化合物を用いる請求項1に記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項3】
酸化剤(C)が過硫酸塩である請求項2に記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項4】
酸(D)が、硫酸、テトラフルオロホウ酸、六フッ化燐酸から選ばれる少なくとも1種の酸である請求項1、2又は3に記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒(B)が、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項1乃至4のいずれかに記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶媒中の酸(D)は、10〜70質量%の水溶液として混合される請求項1乃至5のいずれかに記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項7】
前記混合溶媒のpHが3未満である請求項1乃至6のいずれかに記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項8】
インドール誘導体(A)は、6位にカルボン酸エステル基を有する請求項1乃至7のいずれかに記載のインドール誘導体三量体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法でインドール誘導体三量体を製造し、得られた製造物を電極活物質として用いることを特徴とする電気化学セル用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法でインドール三量体誘導体を製造し、得られた製造物を電極活物質として用いることを特徴とする電気化学セルの製造方法。
【請求項11】
前記電気化学セルは、プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンが作用して動作するプロトン伝導型の電気化学セルである請求項10に記載の電気化学セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−160633(P2006−160633A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351452(P2004−351452)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】