説明

インナーライナー用ポリマーシートの製造方法および空気入りタイヤの製造方法

【課題】加硫工程において、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間にエアーイン現象を生じさせず、かつインナーライナーとブラダーとの粘着を防止することができるインナーライナー用ポリマーシートの製造方法および空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】インナーライナー用ポリマーシートの製造方法は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを準備する工程と、未加硫ポリマーシートの一面に水溶性ペイントを2〜5回塗布する工程および離型用ゴムを0.001mm〜0.1mmの厚さで塗布する工程の少なくともいずれかとを含む

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーライナー用ポリマーシートの製造方法および空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気透過量)を低減して耐空気透過性を向上させるはたらきをもつインナーライナーにおいても、軽量化などが行われるようになってきた。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物は、ブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチル系ゴムを使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行われている。また、ブチル系ゴムはブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄・加硫促進剤・亜鉛華と相まって、隣接ゴムとの共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となる。
【0004】
そこで、タイヤの軽量化を図るために、ブチル系ゴムより耐空気透過性に優れ、インナーライナー層の厚みをより薄くするために、熱可塑性エラストマーを用いたインナーライナーが提案されている。しかし、ブチル系ゴムよりも薄い厚みで、高い耐空気透過性を示す熱可塑性エラストマーは、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスゴムとの加硫接着力がブチル系ゴムよりも劣る。インナーライナーの加硫接着力が低いと、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に空気が混入し、エアーイン現象と呼ばれる小さな気泡が多数現れる。この現象はタイヤ性能上は特に問題はないが、タイヤの内側に小さな斑模様があることでユーザーには外観が悪いという印象を与えてしまうという問題がある。
【0005】
特許文献1には、空気透過率の低いナイロンを用いてインナーライナー層を形成し、ゴム組成物であるタイヤ内面またはカーカス層との接着性を向上させることのできる空気入りタイヤが提案されている。しかし、特許文献1の技術においては、ナイロンフィルム層を形成するために、ナイロンフィルムをRFL処理した後、ゴム組成物から成るゴム糊を接着する必要があり、工程が複雑化するという問題がある。さらに、加硫工程では一般に、金型内に収容した未加硫タイヤ(生タイヤ)内にブラダー本体を挿入し、ブラダー本体を膨張させて未加硫タイヤの内側から金型内面に押し付けて加硫成形を行うタイヤ加硫方法が採用されているが、特許文献1のインナーライナー層では、ナイロンフィルム層とブラダーとが加熱状態で接触することになり、ナイロンフィルム層がブラダーに粘着、接着するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−165469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、加硫工程において、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間にエアーイン現象を生じさせず、かつインナーライナーとブラダーとの粘着を防止することができるインナーライナー用ポリマーシートおよび空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法は、以下の工程を含む。スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを準備する。未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を塗布する。
【0009】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、離型剤として水溶性ペイントおよび/または離型用ゴムを用いる。
【0010】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、離型剤を塗布する工程は、水溶性ペイントを2〜5回塗布する工程を含む。
【0011】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、離型剤を塗布する工程は、離型用ゴムを0.001mm〜0.1mmの厚さで塗布する工程を含む。
【0012】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、ポリマー混合物が、エチレン‐ビニルアルコール共重合体15〜40質量%を含む。
【0013】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体がスチレンを10〜30質量%の範囲で含む。
【0014】
本発明に係るインナーライナー用ポリマーシートの製造方法において好ましくは、ポリアミド系ポリマーがポリアミド成分とポリエーテル成分からなるブロック共重合体である。
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、以下の工程を含む。スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなるインナーライナーを有する生タイヤを準備する。インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型剤を塗布する。
【0016】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、離型剤として水溶性ペイントおよび/または離型用ゴムを用いる。
【0017】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、離型剤を塗布する工程は、水溶性ペイントを2〜5回塗布する工程を含む。
【0018】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、離型剤を塗布する工程は、離型用ゴムを0.001mm〜0.1mmの厚さで塗布する工程を含む。
【0019】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、ポリマー混合物が、エチレン‐ビニルアルコール共重合体15〜40質量%を含む。
【0020】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体がスチレンを10〜30質量%の範囲で含む。
【0021】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法において好ましくは、ポリアミド系ポリマーがポリアミド成分とポリエーテル成分からなるブロック共重合体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、加硫工程において、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間にエアーイン現象を生じさせず、かつインナーライナーとブラダーとの粘着を防止することができるインナーライナー用ポリマーシートおよび空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態における空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<インナーライナー用ポリマーシートの製造方法>
本発明の一実施の形態において、インナーライナー用ポリマーシートの製造方法は以下の工程を含む。スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを準備する。前記ポリマーシートの一面に離型剤を塗布する。
【0025】
<未加硫ポリマーシートを準備する工程>
本発明の一実施の形態において用いる未加硫ポリマーシートは、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなる。
【0026】
(ポリマー混合物)
ポリマー混合物は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体(以下、SIBSともいう)99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含む。
【0027】
SIBSのイソブチレン部位由来により、該ポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを加硫してインナーライナーに用いた場合、優れた耐空気透過性と耐久性を有する。また、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。一方、ポリアミド系ポリマーのポリアミド部位由来の寄与により、該ポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを加硫してインナーライナーに用いた場合、不飽和ポリマーと接着可能となり、インスレーションゴムやカーカスゴムなどの隣接ゴムとの接着性が向上する。
【0028】
さらに本発明の一実施の形態において、該ポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合、SIBSを含有させることにより耐空気透過性を確保するため、たとえばハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用しないか、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。さらに該ハロゲン化ゴムは、ゴム中のハロゲンにより空気入りタイヤのプライコードとゴムとの間の接着性を悪化させるという問題点を有しているが、本発明においては該ハロゲン化ゴムの使用量を低減できるため、プライコードと該ポリマー混合物との間の接着性の向上による空気入りタイヤの耐久性の向上効果も得られる。
【0029】
(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体)
前記ポリマー混合物において、SIBSの含有量は99〜60質量%とされる。SIBSの含有量が60質量%以上であることにより、優れた耐空気透過性と耐久性を有するインナーライナーを得ることができる。また、耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、該含有量は95〜80質量%とされることが好ましい。
【0030】
該SIBSは一般的にスチレンを10〜40質量%含む。耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、該スチレンの含有量は10〜30質量%であることが好ましい。
【0031】
該SIBSは、イソブチレンとスチレンのモル比(イソブチレン/スチレン)が、該共重合体のゴム弾性の点から40/60〜95/5であることが好ましい。SIBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンでは10,000〜150,000程度、またスチレンでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0032】
該SIBSは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0033】
例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。このほかにも、リビングカチオン重合法によるビニル化合物重合体の製造法が、例えば、米国特許第4,946,899号、米国特許第5,219,948号、特開平3−174403号公報などに記載されている。
【0034】
該SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、分子内に二重結合を有している重合体、例えばポリブタジエン、に比べて紫外線に対する安定性が高く、従って耐候性が良好である。さらに分子内に二重結合を有しておらず、飽和系のゴム状ポリマーであるにも関わらず、波長589nmの光の20℃での屈折率(nD)は、ポリマーハンドブック(1989年:ワイリー(Polymer Handbook, Willy,1989))によると、1.506である。これは他の飽和系のゴム状ポリマー、例えば、エチレン−ブテン共重合体に比べて有意に高い。
【0035】
(ポリアミド系ポリマー)
前記ポリマー混合物において、ポリアミド系ポリマーの含有量は1〜40質量%とされる。ポリアミド系ポリマーの含有量が40質量%以下であることにより、該ポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを加硫して得られたインナーライナーは、耐久性と接着性とが両立される。また、耐久性と接着性が確保でき、耐空気透過性に優れるSIBSとエチレン−ビニルアルコール共重合体をより多く配合できる点で、該含有量は3〜20質量%とされることが好ましい。
【0036】
該ポリアミド系ポリマーは、ショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマーであることが好ましい。ショアD硬度が70を超えるとタイヤ屈曲時および移動時の亀裂性に劣るため好ましくない。ショアD硬度は、好ましくは15〜70の範囲、さらに好ましくは18〜70の範囲、より好ましくは20〜70の範囲、特に好ましくは25〜70の範囲が好ましい。
【0037】
該ポリアミド系ポリマーは、下記のポリエーテルアミドエラストマー(X)を50質量%以上含むことが好ましい。
【0038】
ポリエーテルアミドエラストマー(X):
下記式(II)で表されるトリブロックポリエーテルジアミン化合物(A)、ポリアミド形成性モノマー(B)、及びジカルボン酸化合物(C)を重合して得られるポリアミド成分とポリエーテル成分からなるブロック共重合体である。
【0039】
【化1】

【0040】
(式中、aおよびbは1〜20、cは4〜50を示す。)
上記ポリアミド形成性モノマー(B)が、下記式(II)および/または下記式(III)で表わされることが好ましい。
【0041】
【化2】

【0042】
(式中、R1は炭化水素鎖を含む連結基を表わす。)
【0043】
【化3】

【0044】
(式中、R2は炭化水素鎖を含む連結基を表わす。)
上記ジカルボン酸化合物(C)が、下記式(IV)および/または脂肪族ジカルボン酸化合物および/または脂環族ジカルボン酸化合物で表されることが好ましい。
【0045】
【化4】

【0046】
(式中、R3は炭化水素鎖を含む連結基を表わし、yは0または1を表わす。)
該ポリアミド系ポリマーがポリアミド成分に由来するハードセグメント、ポリエーテル成分に由来するソフトセグメントを有するポリアミド系ポリマーであると、結晶性が低くなり、このため、破断伸びEBが高く、低温から高温領域まで柔軟性を示すポリアミド系ポリマーを得ることができる。
【0047】
また、該ポリアミド系ポリマーはタイヤ加硫温度(140〜180℃)で流動性が高まり、凹凸面との濡れ性が高まるため、隣接ゴムとの接着性においても優れた効果を発揮することができる。
【0048】
該ポリアミド系ポリマーは、公知のポリアミド系ポリマーを用いることができる。ポリアミド系ポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ナイロンからなるポリアミドブロックと、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンから選ばれる少なくとも1種のポリエーテルブロックとから構成されるエラストマーなどを用いることができる。
【0049】
該ポリアミド系ポリマーの製法に関しては特に限定されず、特開昭56−65026号公報、特開昭55−133424号公報、特開昭63−95251号公報等に開示されている方法を利用することができる。
【0050】
前記ポリマー混合物は、SIBSと、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマーに加えて、他のポリマーまたは樹脂を含んでも良い。たとえばエチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン、PET、クロロブチルゴム、天然ゴム、エチレンプロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等を配合することができる。

(エチレン−ビニルアルコール共重合体)
前記ポリマー混合物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を15〜40質量%の範囲内で含むことが好ましい。前記ポリマー混合物中のエチレン−ビニルアルコール共重合体の含有量が15質量%以上であることにより、前記ポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを加硫して得られたインナーライナーのガスバリアー性が確保される。また該含有量が40質量%以下であることにより、未加硫ポリマーシートの作製時の混練性が確保されるとともに、タイヤのインナーライナー層において機械強度等の基本性能が確保される。該含有量は、さらに20質量%以上、さらに25質量%以上とされることが好ましい。また、タイヤの耐久性の観点から、該含有量はさらに30質量%以下とされることが好ましい。
【0051】
該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、下記の一般式(V)
【0052】
【化5】

【0053】
(式中、mおよびnはそれぞれ独立して1〜100であり、xは1〜1000である。)で表わされるエチレン−ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0054】
該エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン由来部位により、前記ポリマー混合物中の他の配合剤との相溶性が良好に付与され、エチレン−ビニルアルコール共重合体は未加硫ポリマーシート中に微細な分散サイズで存在することができる。一方、該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ビニルアルコール由来部位の寄与により良好なガスバリアー性を有する。すなわち、本発明においては、未加硫ポリマーシート中に、ガスバリアー性に優れるエチレン−ビニルアルコール共重合体が微細なサイズで島状に分散していることにより、タイヤのインナーライナー層が薄くされた場合でも良好なガスバリアー性が発現される。これによりタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0055】
一般式(V)において、エチレン−ビニルアルコール共重合体を構成するためにmおよびnは1以上とされる。一方、mおよびnがそれぞれ100以下であることにより、ポリマー混合物中の他の配合剤との相溶性とガスバリアー性とが両立されたエチレン−ビニルアルコール共重合体が得られる。ポリマー混合物中の他の配合剤との相溶性がより良好になる点で、mは、さらに5以上とされることが好ましい。また、ガスバリアー性がより良好になる点で、nは、さらに5以上とされることが好ましい。一方、ビニルアルコール由来部位によるガスバリアー性の発現を損ない難い点で、mは、さらに95以下、さらに80以下とされることが好ましい。また、エチレン由来部位によるポリマー混合物中の他の配合剤との良好な相溶性の発現を損ない難い点で、nは、さらに95以下、さらに80以下とされることが好ましい。
【0056】
一般式(V)において、エチレン−ビニルアルコール共重合体を構成するためにxは1以上とされる。一方、xが1000以下であることにより、未加硫ポリマーシートの作製時の混練性が確保され、エチレン−ビニルアルコール共重合体が均一に分散された未加硫ポリマーシートが得られる。ポリマー混合物中の他の配合剤との相溶性およびガスバリアー性が良好に発現される点で、xは、さらに10以上とされることが好ましく、混練性が良好である点で、xは、さらに500以下、さらに100以下とされることが好ましい。
【0057】
一般式(V)で表されるエチレン−ビニルアルコール共重合体は、他の成分との共重合体とされた状態でポリマー組成物中に含有されても良く、この場合のエチレン−ビニルアルコール共重合体の含有量とは、一般式(V)で表される構造部分の含有量を意味する。
【0058】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の分子構造は、たとえば赤外吸収スペクトル(IR)や核磁気共鳴スペクトル(NMR)等により確認することができる。
【0059】
(未加硫ポリマーシート)
本発明の一実施の形態において、未加硫ポリマーシートは、下記の一般式(VI)、
【0060】
【化6】

【0061】
(式中、Rはアルキル基であり、pおよびqはそれぞれ独立して1〜100であり、zは1〜5である。)で表わされる相溶化剤をさらに含むことが好ましい。該相溶化剤は、未加硫ポリマーシート中で、ポリマー混合物中の他の配合剤とエチレン−ビニルアルコール共重合体との相溶性をさらに高める作用を有する。一般式(VI)中のpおよびqがそれぞれ1以上である場合、相溶化剤としての作用が良好であり、pおよびqがそれぞれ100以下である場合、未加硫ポリマーシート中での該相溶化剤の分散性が良好である。pはさらに5以上が好ましく、またさらに95以下、さらに80以下が好ましい。qはさらに5以上が好ましく、またさらに95以下、さらに80以下が好ましい。
【0062】
一般式(VI)中のzは、ブロック共重合体を構成するために1以上とされる。また、未加硫ポリマーシート中での該相溶化剤の分散性が良好である点で、zは5以下とされることが好ましい。zはさらに2以上が好ましく、またさらに4以下が好ましい。
【0063】
一般式(VI)で表される相溶化剤の未加硫ポリマーシート中の含有量は、0.1〜4.8質量%の範囲内とされることが好ましい。該含有量が0.1質量%以上である場合相溶化剤としての作用が良好に発現され、4.8質量%以下である場合、タイヤのインナーライナー層において機械強度等の基本性能が低下することを良好に防止できる。該含有量は、さらに0.5質量%以上、さらに1.0質量%以上、さらに1.5質量%以上とされることが好ましく、また、さらに4.3質量%以下、さらに3.8質量%以下、さらに3.4質量%以下とされることが好ましい。
【0064】
一般式(VI)で表される相溶化剤は、他の成分との共重合体とされた状態で未加硫ポリマーシート中に含有されても良く、この場合の該相溶化剤の含有量とは、一般式(VI)で表される構造部分の含有量を意味する。
【0065】
未加硫ポリマーシートには、その他の補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤などのタイヤ用または一般のポリマー組成物に配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の含有量も一般的な量とすることができる。
【0066】
未加硫ポリマーシートは、従来から公知の方法で製造することができ、たとえば上記各材料を所定の配合割合となるように秤量した後、オープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて、100〜250℃で5〜60分間混練する方法などがある。
【0067】
<未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を塗布する工程>
次に、準備した未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を塗布する。加硫工程前の未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を塗布することで、ブラダーを用いた加硫工程時に、インナーライナー用ポリマーシートとブラダーの粘着を防ぎ、離型性を向上させ、エアーイン現象を防ぎ、タイヤの外観を向上させることができる。
【0068】
離型剤としては、水溶性ペイントおよび/または離型用ゴムを用いることができる。
水溶性ペイントとしては、シリコンオイルのエマルジョンを主体としたシリコン系ペイント、無機フィラー分を増加させたマイカ、タルク系ペイント、低粘度のポリグリコールに粉末(マイカ、タルク)を加えたノンシリコン系ペイントなどを用いることができる。
【0069】
これらの水溶性ペイントは公知の製法で得ることができる。
これらの水溶性ペイントは、シリコンや無機フィラーの効果でインナーライナー用ポリマーシートとブラダーゴムとの粘着を防ぎ、離型性を向上させることができる。
【0070】
離型用ゴムは、噴霧タイプと塗布タイプがある。
噴霧タイプの離型用ゴムは、たとえば以下の方法で作製することができる。天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、NBR(ニトリルゴム)、ENR(エポキシ化天然ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、シリコーンゴム、ウレタンゴムのいずれか1種以上を含むゴム成分100質量部に対して、たとえば硫黄0.1〜5質量部、加硫促進剤0.5〜5質量部、加硫促進助剤0.5〜5質量部、老化防止剤1〜10質量部を配合してゴム組成物を作製する。前記ゴム組成物に、ナフサ、キシレン、ブタン、ヘキサン、イソヘキサンイソマーズ、エチルベンゼン、メチルn−アミルケトン、イソブチルアセテート、エチル3−エトキシ基プロピオン酸塩のいずれか1種以上を1対99の割合で配合して、噴霧タイプの離型用ゴムを得ることができる。
【0071】
塗布タイプの離型用ゴムは、たとえば以下の方法で作製することができる。天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、NBR(ニトリルゴム)、ENR(エポキシ化天然ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、シリコーンゴム、ウレタンゴムのいずれか1種以上を含むゴム成分100質量部に対して、たとえば硫黄0.1〜5質量部、加硫促進剤0.5〜5質量部、加硫促進助剤0.5〜5質量部を配合してゴム組成物を作製する。前記ゴム組成物に、ナフサ軽油質、ヘキサン、トルエン、メチルエーテルケトンのいずれか1種以上を10対90の割合で配合して、塗布タイプの離型用ゴムを得ることができる。
【0072】
これらの離型用ゴムは、ブラダーを用いた加熱工程により、離型用ゴム自身が加硫して熱硬化するため、ブラダーゴムとは接着せず良好な離型性を発揮する。
【0073】
離型剤として水溶性ペイントを用いる場合は、未加硫ポリマーシートのブラダーと接触する側の一面に水溶性ペイントを2〜5回塗布することが好ましい。水溶性ペイントの塗布回数が2回未満であると、加硫後のインナーライナー用ポリマーシートとブラダーの離型性が悪くなり、エアーイン現象が発生する恐れがある。また、水溶性ペイントの塗布回数が5回を超えると、製造工程が多くなり、生産効率上好ましくない。水溶性ペイントの塗布回数は、3〜4回であることがさらに好ましい。
【0074】
離型剤として離型用ゴムを用いる場合は、未加硫ポリマーシートのブラダーと接触する側の一面に離型用ゴムの厚みが0.001〜0.1mmとなるように噴霧または塗布することが好ましい。離型用ゴムの厚みが0.001mm未満であると、加硫工程時にブラダーの圧力により離型用ゴムが破れる恐れがある。また、離型用ゴムの厚みが0.1mmを超えるとタイヤの軽量化を達成できないため好ましくない。さらに製造工程が多くなり、生産効率上も好ましくない。離型用ゴムの厚みは0.005〜0.05mmであることがさらに好ましい。
【0075】
水溶性ペイントの塗布方法は、ディッピングを用いることができる。
噴霧タイプの離型用ゴムの塗布方法は、スプレーガンを用いることができる。塗布タイプの離型用ゴムの塗布方法は、ローラー塗布、ハケ塗り、ロールコーター、フローコーターを用いることができる。
【0076】
加硫後のインナーライナー用ポリマーシートのショアA硬度は25〜65の範囲内であることが好ましい。該硬度が25以上である場合、インナーライナー用ポリマーシートの機械強度が良好であり、65以下である場合、インナーライナー用ポリマーシートが硬くなり過ぎることによる耐久性の低下等を防止できる。該硬度はさらに40以上、さらに42以上、さらに45以上が好ましく、またさらに62以下、さらに58以下が好ましい。なお上記の硬度は、JIS K 6253にしたがって測定される値である。
【0077】
インナーライナー用ポリマーシートの比重は1.70以下であることが好ましい。該比重が1.70以下である場合、タイヤの軽量化による燃費の向上効果が良好である。該比重はさらに1.40以下、さらに1.20以下に好ましく設定される。
【0078】
<空気入りタイヤの構造>
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法で製造される空気入りタイヤについて図1を用いて説明する。
【0079】
本発明を用いて製造される空気入りタイヤは、乗用車用、トラック・バス用、重機用等として用いることができる。空気入りタイヤ1は、トレッド部2とサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア5を係止するカーカス6と、該カーカス6のクラウン部外側の2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。カーカス6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。さらにインナーライナー9のタイヤ半径方向内側面には離型剤層10が配置される。ベルト層7は、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。またカーカスはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。
【0080】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の一実施の形態において、空気入りタイヤの製造方法は以下の工程を含む。スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなるインナーライナーを有する生タイヤを準備する。前記インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型剤を塗布する。
【0081】
<生タイヤを準備する工程>
本発明の一実施の形態で用いる生タイヤは、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなるインナーライナーを有する。
【0082】
該ポリマー混合物は、上記の未加硫ポリマーシートを準備する工程で用いるものと同様のものを用いることができる。
【0083】
生タイヤは、従来から公知の方法で製造することができる。たとえばポリマー混合物の材料を所定の配合割合となるように秤量した後、オープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて、100〜250℃で5〜60分間混練して、ポリマー混合物の未加硫物を調製し、該未加硫物をインナーライナーの形状に合わせて押出加工し、タイヤ成形機上で他の部材と組み合わせて加圧する方法などがある。
【0084】
<インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型剤を塗布する工程>
次に、準備した生タイヤにおいて、インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型剤を塗布する。加硫工程前の生タイヤにおいて、インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型剤を塗布することで、ブラダーを用いた加硫工程時に、インナーライナーとブラダーの粘着を防ぎ離型性を向上させ、エアーイン現象を防ぎ、タイヤの外観を向上させることができる。
【0085】
離型剤としては、上記の未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を塗布する工程で用いるものと同様のものを用いることができる。
【0086】
離型剤として水溶性ペイントを用いる場合は、インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に水溶性ペイントを2〜5回塗布することが好ましい。水溶性ペイントの塗布回数が2回未満であると、加硫後にインナーライナーとブラダーの離型性が悪くなり、エアーイン現象が発生する恐れがある。また、水溶性ペイントの塗布回数が5回を超えると、製造工程が多くなり、生産効率上好ましくない。水溶性ペイントの塗布回数は、3〜4回であることがさらに好ましい。
【0087】
離型剤として離型用ゴムを用いる場合は、インナーライナーの生タイヤの半径方向内側面に離型用ゴムの厚みが0.001〜0.1mmとなるように噴霧または塗布することが好ましい。離型用ゴムの厚みが0.001mm未満であると、加硫工程時にブラダーの圧力により離型用ゴムが破れる恐れがある。また、離型用ゴムの厚みが0.1mmを超えるとタイヤの軽量化を達成できないため好ましくない。さらに製造工程が多くなり、生産効率上も好ましくない。離型用ゴムの厚みは0.005〜0.05mmであることがさらに好ましい。
【0088】
水溶性ペイントの塗布方法は、ディッピングを用いることができる。
噴霧タイプの離型用ゴムの塗布方法は、スプレーガンを用いることができる。塗布タイプの離型用ゴムの塗布方法は、ローラー塗布、ハケ塗り、ロールコーター、フローコーターを用いることができる。
【実施例】
【0089】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0090】
<実施例1〜10、比較例1〜11>
表1に示す配合処方にしたがって、ポリマー混合物成分、フィラーを2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)に投入してペレット化した後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)にて未加硫ポリマーシートを作製した。
【0091】
前記未加硫ポリマーシートの一面に離型剤を表1に示す条件で塗布および/または噴霧してインナーライナー用ポリマーシートを得た。使用した離型剤は以下の方法で得た。
【0092】
水溶性ペイントは、タルク(日本タルク社製D1000)45質量%、シリコーンエマルジョン(旭化成ワッカーシリコーン社製Wacker E2891)15質量%、界面活性剤(東邦化学(株)社製パクツールS−4D)5質量%、水35質量%を十分に攪拌混合した後、ペイントロールを通し、80メッシュフィルターでろ過して調製した。
【0093】
噴霧タイプ離型用ゴムは、天然ゴム100質量部に対して、カーボンブラック(東海カーボン社製FEF)50質量部、ステアリン酸(日本油脂社製ステアリン酸)2質量部、亜鉛華(三井金属鉱業社製亜鉛華1号)4質量部、加硫促進剤CZ(大内新興化学工業(株)社製ノクセラーCZ)0.5質量部、硫黄(鶴見化学社製粉末硫黄)1質量部をバンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどのゴム混練り機を用いて混練りしてゴム組成物を作製した後、ゴム組成物/ナフサを1/30の割合で十分に攪拌混合して調製した。
【0094】
塗布タイプ離型用ゴムは、上記の噴霧タイプ離型用ゴムと同様のゴム組成物を作製した後、ゴム組成物/ナフサを1/5の割合で十分に攪拌混合して調製した。
【0095】
空気入りタイヤは、上記のインナーライナー用ポリマーシートを、タイヤのインナーライナー部分に適用して170℃で20分間プレス成形し、195/65R15サイズのタイヤを作製した。
【0096】
インナーライナー用ポリマーシートについて以下の試験、評価を行った。
<剥離試験>
厚さ2mmのブラダーゴムシート、厚さ1mmのインナーライナー用ポリマーシートおよび補強キャンバス生地を、前記の順番で重ねて170℃の条件下で12分間加圧加熱することによって剥離用試験片を作製した。なお、インナーライナー用ポリマーシートの離型剤の塗布面がブラダーゴムシートと接触するように重ねた。得られた試験片を用いて、JIS K 6256「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−接着性の求め方」にしたがって剥離試験を行い、インナーライナーとブラダーの接着力(IL/ブラダー接着力)を測定した。試験片の大きさは25mm幅で、剥離試験は23℃の室温条件下で行った。
【0097】
インナーライナー(IL)とブラダーの接着力は小さいほど離型性が良く、10N以下が好ましく、5N以下がさらに好ましい。
【0098】
<空気透過性試験>
ASTM D 1434 75Mにしたがい、170℃の条件下で12分間加硫したインナーライナー用ポリマーシートの空気透過量を測定した。空気透過量が少ないほど空気バリア性が良いので、10×1011・cm3・cm/cm2・s・cm・Hg以下が好ましく、5×1011・cm3・cm/cm2・s・cm・Hg以下がさらに好ましい。
【0099】
<加工性>
ポリマー混合物を未加硫ポリマーシートに押出す工程や、離型剤を未加硫ポリマーシートに噴霧、塗布する工程において、生産性の非常に良いものを「A」、生産性の良いものを「B」、生産性の悪いものを「D」として示した。
【0100】
空気入りタイヤについて以下の試験、評価を行った。
<エアーインの有無>
加硫後のタイヤの内側を検査し、外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの個数が0個のものを「A」、1〜3個のものを「B」、4個以上のものを「D」として示した。なお、エアーインの大きさが直径5mmより大きい場合は、エアーインの個数が1個であっても「D」として示した。
【0101】
<転がり抵抗試験>
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用い、製造した195/65R15スチールラジアルPCタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/時間の条件下で、室温(38℃)にて走行させて、転がり抵抗を測定した。そして、下記計算式により、比較例1を基準(±0)とし、各配合の転がり抵抗変化率(%)を指数で表示した。なお、転がり抵抗変化率が小さいほど、転がり抵抗が低減され、好ましいことを示し、具体的には、マイナスであることが好ましい。
【0102】
(転がり抵抗変化率)=(各配合の転がり抵抗−比較例1の転がり抵抗)÷(比較例1の転がり抵抗)×100
<静的空気圧低下率試験>
195/65R15スチールラジアルPCタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300Kpaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を計算する。
【0103】
<評価結果>
試験結果および総合判定を表1および表2に示す。
【0104】
総合判定の判定基準は表3の通り。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
(注1)SIBS:カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T」(ショアA硬度25、スチレン含量25質量%)
(注2)ポリアミド系ポリマー:宇部興産(株)社製の「UBESTA XPA 9040(ショアD硬度40)」
(注3)エチレン−ビニルアルコール共重合体:クラレ(株)社製の「エバール E105」
(注4)クロロブチル:エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル 1068」
(注5)NR(天然ゴム):TSR20
(注6)フィラー:東海カーボン(株)社製の「シーストV」(N660、N2SA 27m2/g)
【0108】
【表3】

【0109】
実施例1〜6は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体90質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー10質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを2回または5回塗布、または噴霧タイプ離型用ゴムを0.001mmまたは0.1mmの厚さで噴霧、または塗布タイプ離型用ゴムを0.001mmまたは0.1mmの厚さで塗布した。得られたインナーライナー用ポリマーシートはブラダーからの離型性が良好であり、エアーイン現象を防ぐことができた。さらに該インナーライナー用ポリマーシートを用いた空気入りタイヤは、転がり抵抗および静的空気低下率を低減させることができた。
【0110】
実施例7〜8は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体90質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー10質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧、または塗布タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで塗布した。得られたインナーライナー用ポリマーシートはブラダーからの離型性が非常に良好であり、エアーイン現象を防ぐことができた。さらに該インナーライナー用ポリマーシートを用いた空気入りタイヤは、転がり抵抗および静的空気低下率を低減させることができた。
【0111】
実施例9〜10は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体70質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー10質量%と、エチレン‐ビニルアルコール共重合体20質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧、または塗布タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで塗布した。得られたインナーライナー用ポリマーシートはブラダーからの離型性が良好であり、エアーイン現象を防ぐことができた。さらに該インナーライナー用ポリマーシートを用いた空気入りタイヤは、転がり抵抗および静的空気低下率を低減させることができた。
【0112】
比較例1は、クロロブチル80質量%と天然ゴム20質量%からなる従来のインナーライナー用ゴム組成物を用いてインナーライナー用ポリマーシートを作製した。該ポリマーシートは実施例1〜10に比べて、耐空気透過性能および耐静的空気低下性能が劣っていた。
【0113】
比較例2は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体50質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー50質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧した。得られたインナーライナー用ポリマーシートは、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体量が少なく、耐空気透過性能および耐静的空気低下性能が劣っていた。
【0114】
比較例3は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体100質量%を含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧した。得られたインナーライナー用ポリマーシートは、加工性に劣り、エアーイン現象も発生した。
【0115】
比較例4は、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー100質量%を含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧した。得られたインナーライナー用ポリマーシートは、耐空気透過性能および耐静的空気低下性能が劣っていた。さらに加工性に劣り、エアーイン現象も発生した。
【0116】
比較例5は、エチレン‐ビニルアルコール共重合体100質量%を含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを5回塗布し、さらに噴霧タイプ離型用ゴムを0.1mmの厚さで噴霧した。得られたインナーライナー用ポリマーシートは、耐空気透過性能および耐静的空気低下性能が劣っていた。さらに加工性に劣り、エアーイン現象も発生した。
【0117】
比較例6〜11は、スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体90質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー10質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートに離型剤として、水溶性ペイントを1回または6回塗布、または噴霧タイプ離型用ゴムを0.0005mmまたは0.15mmの厚さで噴霧、または塗布タイプ離型用ゴムを0.0005mmまたは0.15mmの厚さで塗布した。比較例6,8,10のインナーライナー用ポリマーシートは、ブラダーからの離型性が劣っていた。比較例7,9,11は離型剤の塗布、噴霧工程が多く、生産効率に劣っていた。
【0118】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカス、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、10 離型剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなる未加硫ポリマーシートを準備する工程と、
前記未加硫ポリマーシートの一面に水溶性ペイントを2〜5回塗布する工程および/または離型用ゴムを0.001mm〜0.1mmの厚さで塗布する工程とを含む、インナーライナー用ポリマーシートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー混合物が、エチレン‐ビニルアルコール共重合体15〜40質量%を含む請求項1に記載のインナーライナー用ポリマーシートの製造方法。
【請求項3】
前記スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体がスチレンを10〜30質量%の範囲で含む請求項1または2に記載のインナーライナー用ポリマーシートの製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミド系ポリマーがポリアミド成分とポリエーテル成分からなるブロック共重合体である請求項1〜3いずれか記載のインナーライナー用ポリマーシートの製造方法。
【請求項5】
スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体99〜60質量%と、ポリアミドを分子鎖に含むショアD硬度が70以下のポリアミド系ポリマー1〜40質量%とを含むポリマー混合物からなるインナーライナーを有する生タイヤを準備する工程と、
前記インナーライナーの前記生タイヤの半径方向内側面に水溶性ペイントを2〜5回塗布する工程および/または離型用ゴムを0.001mm〜0.1mmの厚さで塗布する工程とを含む、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー混合物が、エチレン‐ビニルアルコール共重合体15〜40質量%を含む請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記スチレン‐イソブチレン‐スチレントリブロック共重合体がスチレンを10〜30質量%の範囲で含む請求項5または6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド系ポリマーがポリアミド成分とポリエーテル成分からなるブロック共重合体である請求項5〜7いずれか記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−56812(P2011−56812A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209633(P2009−209633)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】