説明

インナーロータ型モータの回転子製造方法およびインナーロータ型モータ

【課題】マグネットを加工する必要がなく低コストで製造でき、且つ複雑な磁場を形成可能なインナーロータ型モータの回転子製造方法を提供する。
【解決手段】回転子鉄心46にマグネット48が設けられた回転子34を有するインナーロータ型モータ30の回転子34を製造する方法において、回転子鉄心46にはマグネット材料が充填される穴49が形成されており、穴49内にマグネット材料を充填し、穴49内に充填されたマグネット材料を着磁させながら固化させ、マグネット48と回転子鉄心46とが一体となるように成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にDCブラシレスモータのように回転子鉄心にマグネットが取り付けられているインナーロータ型モータの回転子製造方法およびインナーロータ型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
インナーロータ型モータは、回転子鉄心にマグネットが取り付けられた回転子の周囲を回転子が囲繞して構成されている。
固定子は、固定子鉄心にマグネットワイヤが巻き回されることで形成される。
【0003】
従来のインナーロータ型モータの回転子の構造の例を図6に示す。
回転子10は、上述したように回転子鉄心11にマグネット12が取り付けられて構成されている。回転子鉄心11は、電磁鋼板が回転軸の軸線方向に多数枚積層されて形成されている。電磁鋼板が積層されて形成された回転子鉄心11には、マグネット12を挿入するための挿入穴13が周方向に均等間隔で複数個形成されており、この挿入穴13にマグネット12を圧入、または挿入して接着剤で固着することで固定子鉄心11にマグネット12が取り付けられて回転子10が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−86675号公報(図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来のインナーロータ型モータにおいては、マグネットを回転子鉄心の挿入穴に圧入するか、または接着剤を用いて取り付けていたので、マグネットの寸法に高い精度が要求され、マグネットの加工コストが高くなり、マグネットの部品単価が高いという課題がある。
また、圧入や接着によってマグネットを固定しているので、マグネットが外れないように強度管理のための工程が必要であり、コストが下がりにくいという課題もある。
さらに、予め着磁されたマグネットを加工して回転子鉄心に取り付けるため、複雑な磁場を形成することが困難であるという課題もある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、マグネットを加工する必要がなく低コストで製造でき、且つ複雑な磁場を形成可能なインナーロータ型モータの回転子製造方法およびインナーロータ型モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるインナーロータ型モータの回転子製造方法によれば、回転子鉄心にマグネットが設けられた回転子を有するインナーロータ型モータの回転子を製造する方法において、前記回転子鉄心にはマグネット材料が充填される穴が形成されており、該穴内に前記マグネット材料を充填し、前記穴内に充填された前記マグネット材料を着磁させながら固化させ、マグネットと回転子鉄心とが一体となるように成形することを特徴としている。
この方法を採用することによって、予めマグネットとして形成されている物を加工等して回転子鉄心に取り付けることがなくなるので、加工等の手間を省くことができる。また、マグネットと固定子鉄心が一体となるように成形されるので、マグネットが外れにくく強度が高い回転子を得ることができる。さらに、マグネットは回転子鉄心との成型時に着磁させるので、複雑な磁場が必要であっても容易に着磁させることができる。
また、マグネット材料としては、塑性成形樹脂磁石を用いることができる。
【0008】
本発明にかかるインナーロータ型モータによれば、回転子鉄心にマグネットが設けられた回転子を有するインナーロータ型モータにおいて、前記回転子は、マグネット材料が充填される穴が形成された回転子鉄心と、前記穴内に充填されたマグネット材料が着磁されながら回転子鉄心と一体に成形されて固化したマグネットとを具備することを特徴としている。
この構成を採用することによって、予めマグネットとして形成されている物を加工等して回転子鉄心に取り付けることがなくなるので、加工等の手間を省くことができる。また、マグネットと固定子鉄心が一体となるように成形されて成るので、マグネットが外れにくく強度が高い回転子を得ることができる。さらに、マグネットは回転子鉄心との成形時に着磁させるので、複雑な磁場が必要であっても容易に着磁させることができる。
また、マグネット材料としては、塑性成形樹脂磁石等を用いることができる。
さらに、回転子位置検出センサ用磁性体も回転子と一体に成形されていることを特徴としてもよく、この構成によれば、別のセンサマグネットが不要となり、部品点数の削減によりコストの削減を図れる。また、センサマグネットの取り付け工程を省くことができるので、作業工数低減が図られる。さらに、一体成形によって取り付けられるので、一定の取り付け精度が保証できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工の手間を省くと共に工数を削減するので、製造コストの削減を図ることができる。また、複雑な磁場であっても容易に着磁できる。そして、マグネットの圧入や接着による場合よりも機械的な強度を増すことができるので、破損やマグネットの外れ等を防止して安全性の確保も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、インナーロータ型モータの一例を、図面に基づいて説明していく。
本実施例におけるインナーロータ型モータはDCブラシレスモータであって、エアコンのファン、給湯器、あるいはコンプレッサ等に用いられるものである。
【0011】
インナーロータ型モータ30の構成を図1〜図3に基づいて説明する。
インナーロータ型モータ30は、回転軸32と、回転軸32に取り付けられて回転軸32と共に回転する回転子34と、回転子34を回転駆動させるために回転子34の周囲を囲繞した固定子36とを具備する。
固定子36は固定子鉄心にマグネットワイヤが巻き回されて成るコイル39を有している。
回転軸32は、回転子34の中心部に有する中心穴53を貫通して軸受37,38によって回転自在に保持されている。また、軸受37,38は、それぞれブラケット41、42の中心に保持されている。
【0012】
本実施例における回転子34は、複数枚の電磁鋼板44が積層して形成された回転子鉄心46と、回転子鉄心46の内部において回転軸32の周囲を囲むように配置された複数のマグネット48とを有している。
マグネット48は、マグネット材料を回転子鉄心46の内部で固化させて形成されたものである。したがって、各電磁鋼板44には、マグネット材料を充填するための充填穴49が形成されている。充填穴49は、電磁鋼板44の周方向に均等間隔で複数形成されている。
【0013】
さらに、回転子鉄心46を構成する各電磁鋼板44には、突起部51が上面に形成され、突起部51が嵌め込まれる凹部(図示せず)が下面に形成されている。このような電磁鋼板44が積層されると、突起部51が上に積み重ねられる電磁鋼板44の下面の凹部に嵌め込まれ、積み重ねられた電磁鋼板44同士が連結し、一体化した積層体が得られる。
【0014】
本実施形態では、前記マグネット48を塑性成形樹脂磁石によって形成した。
塑性成形樹脂磁石は、フェライトあるいは希土類金属等の磁性粉を含む樹脂剤から成るもので、これらの磁性粉を含む樹脂剤を金型を用いて所定形状に形成すると共に、着磁させることによって形成される。また、ネオジウム・鉄・ボロンを樹脂剤で結合させたネオジボンド磁石も塑性成形樹脂磁石の一例である。
また、樹脂剤として熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0015】
次に、図4および図5に基づいてインナーロータ型モータの製造方法について説明する。
まず、図4に本発明の製造方法を実施するための成形装置について説明する。
成形装置52は、回転子鉄心46とマグネット48とを一体化させた回転子34を製造するために用いられる。具体的には、磁性粉を含む樹脂剤を回転子鉄心46と共に一体成形することによって回転子34を形成する。
【0016】
成形装置52は、互いに相対的に接離動可能なようにプレス装置(図示せず)に設けられた第1金型54と第2金型55との間に回転子鉄心46(未だかしめられていないので電磁鋼板44が複数枚積層されて成る積層体)が装填可能な、装填部56が複数箇所に形成されて成る。
装填部56は、電磁鋼板44の中心近傍に設けられ、収納した複数枚積層した電磁鋼板44の積層方向の厚さtとほぼ同じかやや短い長さの空間を有する部位と、電磁鋼板44の外周側に設けられ、塑性成形樹脂磁石を充填穴49に充填するためにノズル部59に連通する充填空間57が形成された部位とから成る。
【0017】
ノズル部59は、第2金型55の一端面に開口部59aが形成され、開口部59aから第1金型54側に向けて徐々に小径となるような漏斗状に形成されている。また、第1金型54および第2金型55の互いの接触面には、ノズル部59の小径となった先端部59bから充填空間57に向けて塑性成形樹脂磁石を流通させるための流路60が形成されている。
【0018】
さらに、第1金型54には、成形後の回転子鉄心46を成形装置52から排出するための押出しピン62が設けられている。押出しピン62は先端が小径となるように段差部63が形成されており、小径部が回転子鉄心46の中心を貫通して形成されている中心穴53内に進入し、段差部63が回転子鉄心46の中心穴53の周縁部を押圧可能となっている。
なお、第1金型54には、成形終了後に流路60に残った塑性成形樹脂磁石を排出するための押出しピン64が設けられている。
【0019】
また、第1金型54には、着磁用の永久磁石66が設けられている。この永久磁石66の配置方向によって塑性成形樹脂磁石が磁化される。
さらに、塑性成形樹脂磁石の樹脂剤として熱硬化性樹脂を用いている場合には、塑性成形樹脂磁石を加熱するヒータを設ける必要がある(図示せず)。ヒータを設けることによって、回転子鉄心46に充填された塑性成形樹脂磁石は、加熱されて固化する。
なお、マグネット材料が熱可塑性樹脂を用いている場合には、ヒータを設ける必要はない。
【0020】
次に、本発明の製造方法について図5のフローチャートに基づいて説明する。
まず、電磁鋼板44を所定の枚数積層する(ステップS100)。なお、各電磁鋼板44には、予め塑性成形樹脂磁石を流し込むための充填穴49を穿設しておく。
電磁鋼板44を積層して成る積層体(回転子鉄心46)を成形装置52の第1金型54と第2金型55との間の装填部56に装填する(ステップS102)。なお、積層体の装填時には、成形装置52の第1金型54と第2金型55とは互いに離間して型開きの状態となっている。
【0021】
積層体の装填後、第1金型54と第2金型55とを型閉じし、プレスを開始する(ステップS104)。プレス開始と同時に、第2金型55のノズル部59から塑性成形樹脂磁石を成形装置52内に注入する(ステップS106)。ノズル部59から注入された塑性成形樹脂磁石は、流路60と充填空間57を経て積層体(回転子鉄心46)の充填穴49に充填される。ここで塑性成形樹脂磁石は、磁性粉が熱硬化性樹脂に混入されて成るものであるとする。
【0022】
そして、充填穴49内に塑性成形樹脂磁石が充填された積層体(回転子鉄心46)を成形装置52内でプレスし、ヒータによって加熱された塑性成形樹脂磁石が固化することによって、マグネット48と回転子鉄心46が一体となるとともに、着磁用の永久磁石66によってマグネット材料が着磁される。また、重なり合う電磁鋼板44同士において嵌め込まれている突起部51と凹部とがプレスにより強固にかしめられる(ステップS108)。
【0023】
プレス後、成形装置52からマグネット48と回転子鉄心46が一体に成形された回転子34を取り出し、回転子34の製造が終了する(ステップS110)。
【0024】
また、回転子位置検出センサ用磁性体67を回転子と一体となるように成形すると、別のセンサマグネットが不要となり、部品点数の削減によりコストの削減を図れ、且つセンサマグネットの取り付け工程を省くことができるので、作業工数低減が図られる。さらに一定の取り付け精度が保証できる。
【0025】
なお、上述した実施例ではマグネット材料としては塑性成形樹脂磁石を例に挙げ、磁性粉を混入させる樹脂としては熱硬化性樹脂の場合を説明した。しかしながら、マグネット材料としてはこのような物に限定することはなく、磁性粉を熱可塑性樹脂に混入させたものであってもよい。
また、磁性粉を接着剤に混入させ、接着剤の乾燥によって固化させるものであってもよい。
さらに、マグネット材料は流動体状でなくともよく、紛状体のマグネット材料をプレスにより固化させるようにしてもよい。
【0026】
以上本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかるインナーロータ型モータの全体構成を示す断面図である。
【図2】回転子の側面図である。
【図3】図2の回転子の断面図である。
【図4】回転子の成形装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】回転子の製造方法について説明するフローチャートである。
【図6】従来の回転子の製造方法について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0028】
30 インナーロータ型モータ
32 回転軸
34 回転子
36 固定子
39 コイル
41 ブラケット
44 電磁鋼板
46 回転子鉄心
48 マグネット
49 充填穴
51 突起部
52 成形装置
53 中心穴
54 第1金型
55 第2金型
56 装填部
57 充填空間
59 ノズル部
60 流路
62,64 押出しピン
63 段差部
66 永久磁石
67 回転子位置検出センサ用磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心にマグネットが設けられた回転子を有するインナーロータ型モータの回転子を製造する方法において、
前記回転子鉄心にはマグネット材料が充填される穴が形成されており、該穴内に前記マグネット材料を充填し、
前記穴内に充填された前記マグネット材料を着磁させながら固化させ、マグネットと回転子鉄心とが一体となるように成形することを特徴とするインナーロータ型モータの回転子製造方法。
【請求項2】
前記マグネット材料は、塑性成形樹脂磁石であることを特徴とする請求項1記載のインナーロータ型モータの回転子製造方法。
【請求項3】
回転子鉄心にマグネットが設けられた回転子を有するインナーロータ型モータにおいて、
前記回転子は、
マグネット材料が充填される穴が形成された回転子鉄心と、
前記穴内に充填されたマグネット材料が着磁されながら回転子鉄心と一体に成形されて固化したマグネットとを具備することを特徴とするインナーロータ型モータ。
【請求項4】
前記マグネット材料は、塑性成形樹脂磁石であることを特徴とする請求項3記載のインナーロータ型モータ。
【請求項5】
回転子位置検出センサ用磁性体も回転子と一体に成形されていることを特徴とする請求項3または請求項4記載のインナーロータ型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−325405(P2007−325405A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152341(P2006−152341)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】