説明

インバータ発電装置

【課題】高価なセンサ類を必要とせずに同期モータの電気角を推定して、コンバータを制御することが可能なインバータ発電装置を提供する。
【解決手段】コンバータ14は、エンジン11に設けられたECU19より出力されるECUパルスに基づき、同期モータ13の回転軸が1回転する毎に、極対数に対応する個数の鋸歯状波を生成しこれを初期電気角とする。更に、推定された初期電気角によりコンバータ14が駆動された後は、同期モータ13のdq座標軸とコンバータ14が想定する電気角のd'q'座標軸が角度θだけ位相がずれている場合には、Iq'、Id'、Vd'を求めて、これらに基づいて位相差θを算出する。そして、この位相差θに基づいて電気角の位相ずれを補正する。従って、同期モータ13に回転軸の角度位置を検出するためのセンサPを設けることなく、同期モータ13の電気角を推定でき、装置規模を簡素化しコストダウンを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の原動機により駆動される同期モータの交流出力電力を一旦直流電力に変換した後、インバータにより所定周波数の交流電力に変換するインバータ発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の原動機を駆動させて電力を発生させる発電機として、インバータ発電装置が多く用いられている。インバータ発電装置は、エンジンの出力軸に同期モータの回転軸を接続して該同期モータを回転駆動させ、この同期モータで発電された交流電力をコンバータで直流電力に変換し、更に、この直流電力をインバータで交流電力に変換して、所望する電圧及び周波数の電力を出力する。
【0003】
このようなインバータ発電装置のコンバータは、前記同期モータから効率的且つ安定して交流電力を引き出して直流電力に変換するために該同期モータの電気角の情報が必要となり、従来より、同期モータに位置センサを取り付けて該位置センサにより同期モータの回転子の位置データを取得し、この位置データに基づいて固定子が発電する電力の電気角を推定する構成としていた。
【0004】
また、昨今においては、例えば特開2005−295626号公報(特許文献1)、特開2007−185099号公報(特許文献2)に記載されているように、位置センサを用いること無く同期発電機の誘起電圧を測定し、この誘起電圧に基づいて電気角を求める方法が種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−295626号公報
【特許文献2】特開2007−185099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、無負荷時における発電機の誘起電圧を測定して始動モードと通常運転モードの切り替えを行っているので、電圧検出センサが必要になり、且つ、発電の開始までに長時間を要するという欠点がある。特に、電圧検出センサは絶縁が必要になるので、コスト高になるという欠点がある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された技術では、電圧検出センサを用いて発電機の誘起電圧を推定しながらコンバータを制御するので、高価な電圧検出センサが必要になるという欠点がある。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高価なセンサ類を必要とせずに同期モータの電気角を推定して、コンバータ回路を制御することが可能なインバータ発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、原動機と、前記原動機の出力軸に回転軸が接続され、前記出力軸の回転により前記回転軸が回転して交流電力を出力する同期モータと、前記同期モータより出力された交流電力を直流に変換するコンバータと、前記コンバータから出力された直流電力を所定の交流電力に変換するインバータとを備えたインバータ発電装置において、前記コンバータは前記同期モータの電気角を推定する電気角推定手段と、推定した電気角に基づいて複数のスイッチング素子をそれぞれ作動させて前記同期モータより出力される交流電力を直流電力に変換すると共に、前記電気角により電流フィードバック信号を生成して前記同期モータを制御するコンバータ回路とを有し、前記インバータは複数のスイッチング素子をそれぞれ作動させて前記コンバータ回路より出力される直流電力を所定の交流電力に変換するインバータ回路とを有し、前記電気角推定手段は、前記原動機の出力軸の回転角度に基づきパルス信号を出力し前記原動機を制御する制御手段と接続され、前記コンバータ回路の駆動開始前には、前記制御手段より出力される前記パルス信号に基づいて、前記同期モータの初期電気角を推定し、推定された初期電気角により前記コンバータ回路が駆動された後には、前記同期モータの誘起電圧より得られるdq座標軸と、推定電気角のd'q'座標軸との関係から、d'q'軸電流Iq',Id'、及びd'軸電圧Vd'を算出し、これらのIq',Id',Vd'に基づいてdq座標軸とd'q'座標軸との間の位相差θを求め、該位相差θに基づいて前記同期モータの連続電気角を推定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記原動機の出力軸と前記同期モータの回転軸は、前記パルス信号のうち前記出力軸1回転毎に発生する基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相が一致するように機械的に接続され、前記電気角推定手段は、前記基準パルス信号に基づき、同期モータの回転軸が1回転する毎に、該同期モータの極対数と一致する個数となる電気角を初期電気角として推定することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記パルス信号のうち前記出力軸1回転毎に発生する基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間の位相差φを求め、且つ、この位相差φに対応する電気角のプリセット値を求め、前記電気角推定手段は、前記基準パルス信号に基づき、該基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相に対応する電気角が前記プリセット値となり、且つ、前記同期モータの回転軸が1回転する毎に、該同期モータの極対数と一致する個数となる電気角を初期電気角として推定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記電気角推定手段は、前記同期モータのq軸電圧、及びd軸電圧を共にゼロとしたときの、前記同期モータに流れる電流に基づいて、基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間の前記位相差φを求めることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記電気角推定手段は、初期電気角により前記コンバータ回路が駆動された後には、dq座標軸とd'q'座標軸との間の位相差θを、次式にて算出し、該位相差θに基づいて前記同期モータの連続電気角を推定することを特徴とする。
【0014】
θ=(p・ω・Lq・Iq'+Id'・R−Vd')/(Kv・ω)
但し、pは同期モータの極対数、ωは同期モータの角速度、Lqはd軸インダクタンス、Rは抵抗、Kvは誘起電圧定数、Iq'はq'軸電流、Id'はd'軸電流である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、コンバータ回路は、原動機(例えば、エンジン11)に汎用的に設けられている制御手段(例えば、ECU19)より出力されるパルス信号に基づいて、同期モータの初期電気角を推定することができる。また、初期電気角の推定の後においては、d'軸電流Id'、q'軸電流Iq'、及びd'軸電圧Vd'に基づいて同期モータの連続的に電気角を推定するので、コンバータ回路の駆動開始後に前記電気角推定手段で推定される初期電気角及び連続電気角と同期モータの電気角との間にずれが生じた場合でも、同期モータを高精度に制御することができる。従って、同期モータに位置検出用のセンサ類を設ける必要が無く、且つ同期モータの誘起電圧測定用のセンサも不要となり、このため、従来と比較して、複雑なアルゴリズムを用いること無くコンバータ回路を制御することができる。その結果、インバータ発電装置全体の装置規模を簡素化し且つコストダウンを図ることができる。
【0016】
請求項2の発明では、制御手段より出力されるパルス信号の立ち上がりエッジの位相と、同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相が一致するように、原動機と同期モータが機械的に接続されるので、電気角推定手段は、パルス信号の立ち上がりのエッジと電気角の0[deg]を一致させることにより、同期モータの初期電気角を高精度に推定することができる。
【0017】
請求項3の発明では、制御手段より出力されるパルス信号の立ち上がりエッジの位相と、同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間に位相差φが存在する場合には、この位相差φに応じた電気角のプリセット値を設定し、パルス信号の立ち上がりエッジにこのプリセット値を対応させて初期電気角を推定する。従って、位相差φが発生する場合であっても、同期モータの初期電気角を高精度に推定することができる。
【0018】
請求項4の発明では、同期モータのd軸電圧、及びq軸電圧を共にゼロとしたときの同期モータに流れる電流に基づいて、基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間の位相差φを求めるので、請求項3で用いる位相差φを予め測定する必要がなく容易に求めることができる。
【0019】
請求項5の発明では、dq軸とd'q'軸との間の位相差θを簡易な手順(計算式)で求めることができるので電気角推定手段の演算負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置、及びこのインバータ発電装置に接続されるエンジンの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明が適用されない従来のインバータ発電装置、及びこのインバータ発電装置に接続されるエンジンの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に設けられるコンバータと、ECUとの間の通信回路の第1の例を示す回路図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に設けられるコンバータと、ECUとの間の通信回路の第2の例を示す回路図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に設けられるコンバータによる電気角推定処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、ECUパルスの立ち上がりエッジと同期モータの誘起電圧のゼロクロス点が一致する場合の、ECUパルス、電気角、及びモータU相誘起電圧の変化を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に設けられるコンバータによる初期電気角推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、ECUパルスの立ち上がりエッジと同期モータの誘起電圧のゼロクロス点との間に位相差φが存在する場合の、ECUパルス、電気角、及びモータU相誘起電圧の変化を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、d軸、q軸電流と位相差φとの関係を示すベクトル図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、コンバータより出力するd軸電圧、q軸電圧を共にゼロとしたときのd軸電流、q軸電流を測定する場合の回路図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、位相差φを算出する際のサイン波形、コサイン波形を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、dq軸及びd'q'軸と、q'軸電流Iq'の関係を示すベクトル図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、dq軸及びd'q'軸と、d'軸電流Id'の関係を示すベクトル図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置に係り、コンバータの駆動中にIq'、Id'、Vd'を取得する場合の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ発電装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、このインバータ発電装置100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等のエンジン(原動機)11にカップリング12を介して結合され、エンジン11の回転によりU相、V相、W相の3相交流の誘起電圧を発生する同期モータ13、例えば回転子に永久磁石が埋め込まれたIPMモータと、該同期モータ13に接続され、同期モータ13より出力されるU相、V相、W相の各誘起電圧をPN直流電圧に変換するコンバータ(コンバータ回路)14と、該コンバータ14より出力されるPN直流電圧からR相、S相、T相の3相交流電圧を生成するインバータ(インバータ回路)15と、スイッチングノイズを軽減するためのLCフィルタ16と、負荷18への電圧の供給、遮断を切り替える遮断器17を備えている。
【0022】
コンバータ14は、IGBT、或いはMOSFET等のスイッチング素子、及びダイオードを複数備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることにより、U相、V相、W相の3相交流電圧をPN直流電圧に変換する。更に、コンバータ14は、負荷18に出力する電力に応じて、同期モータ13に適宜電流を流すことにより、エンジン11の回転数を頻繁に変化させることなく、所望の電力を発生させるようにしている。つまり、コンバータ14は、通常の整流器とは異なり、同期モータ13より出力される交流電圧から所望の大きさの直流電圧を生成すると共に、負荷に出力する電力に応じて同期モータ13に電流を流すことにより、負荷変動に応じた安定した電力を発生させている。また、コンバータ14は、同期モータ13の電気角を推定する処理を行う電気角推定部(電気角推定手段)14aを備えている。
【0023】
インバータ15は、上述のコンバータ14と同様に、IGBT、MOSFETのスイッチング素子、及びダイオードを複数備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることによりR相、S相、T相の3相交流電圧を生成する。また、各スイッチング素子のスイッチングのパターンにより、出力電圧及び周波数を任意の値に設定することができる。
【0024】
そして、本実施形態に係るインバータ発電装置100では、コンバータ14でPN直流電圧を生成する際に、同期モータに磁極センサや位置センサ等のセンサ類を取り付けることなく、エンジン11に設けられたタコセンサから発信・出力された該エンジンの出力軸の回転数に基づく回転パルス信号を取得し、この回転パルス信号に基づいて電気角を推定する。
【0025】
即ち、従来のインバータ発電装置は、図2に示すように同期モータ13に位置センサ52を設け、この位置センサ52とコンバータ14をセンサケーブル53で接続し、位置センサ52より出力される同期モータ13の回転軸の位置データを用いて、電気角を推定しこの電気角に基づいて、コンバータ14に設けられる各スイッチング素子のスイッチングを制御する構成であったが、本実施形態では、エンジンに取り付けられた図示しないタコセンサから発信・出力される回転パルス信号をECU(Engine Control Unit)19に入力し、図1に示すようにECU19と前記コンバータ14とをセンサケーブル51で接続し、ECU19で前記回転パルス信号を変換又は生成し、コンバータ14はECU19より出力される前記回転パルス信号に基づくパルス信号(ECUパルス)を用いて電気角を推定し、コンバータ14のスイッチングを制御する。このため、同期モータ13に取り付ける磁極センサ或いは位置センサを割愛でき、その分小型化、低コスト化を図ることができる。
【0026】
通常、エンジン11には、出力軸が所定角度回転する毎に1パルス発信するタコセンサが取り付けられており、前記タコセンサが発信・出力する回転パスル信号をエンジン11の回転数の表示や、エンジンへの燃料の供給量を制御するために用いられている。前記ECU19は、前記回転パルス信号に基づいてエンジン11の回転数を求め、この回転数と目標回転数とを比較して偏差が0になるよう最適な燃料の供給量(又は燃料の増減量)を算出し、エンジン11の燃料供給装置に対して燃料制御信号を出力する。このことから、前記タコセンサやECU19は前記同期モータ13の電気角を推定するために別途新たに設けるものではない。前記エンジン11の出力軸と前記同期モータ13の回転軸とはカップリング12により結合され、エンジン11の出力軸と同期モータ13とは同期回転するので、エンジン11のタコセンサが発信・出力する回転パルス信号は同期モータ13の回転子の回転角度位置データとして利用できる。従って、新たに機器を追加すること無く、コンバータ14は、ECU19より出力される前記ECUパルスを同期モータの回転子の回転角度位置データとして取得することができる。
【0027】
図3は、ECU19とコンバータ14との間の第1の接続例を示す説明図である。図3に示すように、ECU19は、パルス信号出力用のオープンコレクタ方式のトランジスタ21を備えており、該トランジスタ21のコレクタは、端子22a,23aを介してコンバータ14内に設けられた直流電源27のプラス端子に接続されている。また、トランジスタ21のエミッタは、端子22b,23bを介してコンバータ14内に設けられた抵抗24に接続され、更に抵抗25を介して直流電源27のマイナス端子に接続されている。
【0028】
更に、抵抗25に対して並列にフォトカプラ26が設けられ、該フォトカプラ26の発光ダイオード26aが抵抗25に対して並列に接続されている。更に、フォトカプラ26に設けられるフォトトランジスタ26bは、図示しない受信回路に接続される。従って、フォトトランジスタ26bは、ECU19より出力されるパルス信号を受信することができる。
【0029】
図4は、ECU19とコンバータ14との間の第2の接続例を示す説明図である。図4に示すように、ECU19には、CANモジュール31が設けられ、ケーブル35a,35bを介してコンバータ14に設けられるCANモジュール34に接続される。即ち、ECU19側のCANモジュール31のCAN_Highは、端子32a、ケーブル35a、端子33aを経由して、コンバータ14側のCANモジュール34のCAN_Highに接続され、CANモジュール31のCAN_Lowは、端子32b、ケーブル35b、端子33bを経由して、コンバータ14側のCANモジュール34のCAN_Lowに接続される。そして、ECU19側からコンバータ14側に、CAN通信を用いてパルス信号が送信される。
【0030】
[電気角の推定処理の説明]
次に、本実施形態に係るインバータ発電装置100による電気角の推定処理の手順を、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0031】
インバータ発電装置100を作動させる際には、まずエンジン11を回転駆動させる(ステップS11)。
【0032】
次いで、エンジン11に搭載されるECU19より出力されるECUパルスに基づいて、コンバータ14の初期電気角を推定する(ステップS12)。この処理では、エンジン11の回転軸が1回転する毎に、U相誘起電圧の極対数(例えば、「5」)の鋸歯状波が発生する電気角を推定する。初期電気角推定処理の詳細については、後述する。
【0033】
更に、初期電気角の位相差φを測定する(ステップS13)。この処理では、後述する初期電気角推定処理の第3の例ように、エンジン11のECU19より出力される矩形波パルス(以下、「ECUパルス」という)の立ち上がりエッジと、U相誘起電圧のゼロクロス点との間の位相差φを測定する。なお、初期電気角推定処理の第3の例を実施しない場合にはこのステップはなくてもよい。
【0034】
その後、初期電気角の推定、及び位相差φの測定が完了したか否かを判定し(ステップS14)、初期電気角の推定、及び位相差φの測定が完了したと判定した場合には(ステップS14でYES)、推定された初期電気角、及び測定された位相差φに基づいて連続電気角の推定処理を実行する(ステップS15)。連続電気角の推定処理の詳細については後述する。
【0035】
次いで、コンバータ14の制御が中断したか否かを判定し(ステップS16)、制御が中断した場合には(ステップS16でYES)、エンジン11が停止したか否かを判定し(ステップS17)、エンジンが停止していない場合には(ステップS17でNO)、ステップS12の処理に戻る。即ち、何らかの理由によりコンバータ14の制御が中断した場合には、再度初期電気角の推定処理を実行する。そして、エンジン11が停止したと判定された場合には(ステップS17でYES)、電気角の推定処理を終了する。
【0036】
次に、図5のステップS12に示した初期電気角の推定処理について説明する。
【0037】
[初期電気角推定処理の第1の例]
図6は、初期電気角の推定処理の第1の例に係るタイミングチャート、図7は、初期電気角推定処理の手順を示すフローチャートである。この処理では、コンバータ14に設けられる電気角推定部14aは、ECU19より出力されたECUパルスに基づいて、同期モータ13の初期電気角を推定する。
【0038】
図6(a)は、ECU19より出力されるECUパルスの一例を示し、同図(b)は、コンバータ14の電気角推定部14aで推定される初期電気角を示し、同図(c)は同期モータ13のU相誘起電圧の変化の一例を示している。この例では、エンジン11が一定速度で回転しているとき、図6(a)に示すように、エンジン11の出力軸が1回転する毎に、ECU19より4個の同一周期の矩形波パルス信号(これを、「ECUパルス」という)が出力される。
【0039】
また、同期モータ13の回転子の極対数は5(極数は10)とされており、従って、図6(c)に示すように、同期モータ13の回転子が1回転する毎に5周期分のU相誘起電圧が出力される。つまり、図1に示すように前記エンジン11の出力軸と前記同期モータ13の回転軸とはカップリング12により結合され、エンジン11の出力軸と同期モータ13とは同期回転するので、ECUパルス4個分とU相誘起電圧5周期分が対応することになる。更に、図6(a)、(c)に示すように、ECUパルス4個毎及びU相誘起電圧5周期毎に同期モータ13のU相誘起電圧のゼロクロス点(マイナスからプラスに転じる際のゼロクロス点)とECUパルスの立ち上がりエッジの位相が一致している。これは、後述するように、図1に示したカップリング12で前記エンジン11の出力軸と前記同期モータ13の回転軸とを結合するときにECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点が一致するように調整していることによるものである。即ち、ECUパルス4個毎及びU相誘起電圧5周期毎にECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点との位相差φが「0deg」になる。
【0040】
そして、コンバータ14では、初期電気角として図6(b)に示すように、U相誘起電圧の周期と連動した鋸歯状波形の電気角を生成する。この場合、ECUパルスと初期電気角とは、4:5の関係となることを利用して、U相誘起電圧を測定することなく後述する(1)式を用いて初期電気角を推定する。
【0041】
次に、図7に示すフローチャートを参照して、初期電気角の推定処理について説明する。初めに、電気角推定部14aは、ECU19より出力されるECUパルスをカウントして、所定のサンプリング周期(例えばCm=4)でECUパルスの立ち上がりエッジを検出する(ステップS31)。本実施形態ではエンジン11の出力軸が1回転する毎(同期モータ13の回転軸が1回転する毎)に4個のECUパルスが出力されることから、前記所定のサンプリング周期をCm=4とし、エンジン11の出力軸が1回転するCm=4毎に出力されるECUパルス(基準パルス)の立ち上がりエッジを検出する。
【0042】
そして、基準パルスの立ち上がりエッジが検出されない場合には(ステップS31でNO)、カウント値Tをインクリメントし(ステップS32)、更に、初期電気角Q[deg]の値を下記の(1)式で設定する(ステップS33)。
【0043】
Q=Q+(Mp/Ep)×(360/Ta) …(1)
但し、TaはECUパルス間のカウント値、Mpは同期モータ13の回転子の極対数(この例では「5」)、Epはエンジンの出力軸が1回転する毎にECU19から出力されるECUパルスの数(この例では「4」)である。従って、カウント値Tがインクリメントされる毎に、初期電気角Qの位相が「(Mp/Ep)×(360/Ta)」ずつ進むことになる。
【0044】
更に、初期電気角Qが360を上回った場合にはQから360を減じた値をQとし(即ち、Q=Q−360)とし、そうでなければQのままとする(ステップS34)。
【0045】
一方、基準パルスの立ち上がりエッジが検出された場合には(ステップS31でYES)、この時点でのカウント値Tをパルス間カウント値Taとしてメモリ等に保存する(ステップS35)。このカウント値Tは、同期モータ13の出力軸が1回転した場合(エンジン11の出力軸が1回転した場合)の、カウント値である。
【0046】
その後、カウント値Tをクリアする(ステップS36)。更に、このときの初期電気角Qをプリセット値Prとして設定する(ステップS37)。ここで、図6に示したように、ECUパルス(基準パルス)の立ち上がりエッジと同期モータ13のゼロクロス点が一致する場合には、プリセット値Prは0となる。
【0047】
上記の処理を繰り返すことにより、図6(b)に示すように、ECUパルスが4個分出力される毎に、5周期の鋸歯状波が発生する初期電気角を得ることができる。
【0048】
また、上述した初期電気角推定処理の第1の例では、図6に示したように、ECUパルスの立ち上がりエッジと、U相誘起電圧のゼロクロス点とが一致している。この手法としては、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸との位置を機械的に徐々にずらすことにより、ECUパルスの立ち上がりエッジと、U相誘起電圧のゼロクロス点とが一致する角度を見い出して、この角度で両者を固定すれば良い。具体的には、オシロスコープを用いて同期モータ13のU相誘起電圧の立ち上がりゼロクロス点と、ECUパルスの立ち上がりエッジとが一致するように、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸を合わせれば良い。
【0049】
そして、ECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点を、一度機械的に合わせれば、以後この状態を維持できるので、製造工場で組立時に位置合わせを行う等により、その後位置合わせを行う必要が無い。
【0050】
[初期電気角推定処理の第2の例]
次に、初期電気角推定処理の第2の例について説明する。第2の例では、ECUパルスの立ち上がりエッジと同期モータ13のゼロクロス点との間に、位相差φが発生している場合における、初期電気角の推定手順について説明する。図8は、ECUパルスの立ち上がりエッジと同期モータ13のゼロクロス点との間に位相差φが発生している場合のタイミングチャートである。上述の図6に示した例(第1の例)では、ECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点とを一致させるために、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸とを機械的に合わせるようにしたが、図8に示す例では、両者の位相差φを予め測定し、この位相差φを考慮して初期電気角を生成する方式を採用する。
【0051】
図8(a)は、ECU19より出力されるECUパルスを示し、同図(b)は、コンバータ14の電気角推定部14aで推定される初期電気角を示し、同図(c)は、同期モータ13のU相誘起電圧の変化を示している。この例では、位相差φが発生しているので、図8(a)に示しECUパルスの立ち上がりエッジと、図8(c)に示すU相誘起電圧のゼロクロス点とが一致していない。そこで、第2の例では、位相差φを予め測定しECUパルスの立ち上がりエッジと電気角の0[deg]との間に角度φだけ位相差を持たせて初期電気角を推定する。
【0052】
即ち、予めU相誘起電圧のマイナスからプラスに向かうゼロクロス点と、ECUパルスの立ち上がりエッジとの間の位相差φが測定されていれば、この位相差φだけECUパルスの立ち上がりエッジに対して、電気角0[deg]の位相をずらせば良い。従って、前述した図7に示したフローチャートのステップS37の処理で、プリセット値Prをゼロではなく、ECUパルスの立ち上がりエッジに対応する初期電気角に設定すれば良い。具体的には、オシロスコープを用いて同期モータ13のU相誘起電圧の立ち上がりゼロクロス点と、ECUパルスの立ち上がりエッジとの位相差φを測定し、図8(b)に示す符号Prの値をプリセット値とすれば良く、このプリセット値はコンバータ14のEEPROMやバッテリでバックアップしたメモリに格納し、発電装置の起動時に呼び出す。
【0053】
こうすることにより、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸との間に位相差φが生じた場合であっても、U相誘起電圧に同期した初期電気角を推定することができる。
【0054】
そして、ECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点との位相差を、コンバータ14にプリセット値として一度EEPROMやバッテリでバックアップしたメモリに格納させればよく、製造工場から出荷する前に位相ずれ角度をオシロスコープで測定し、プリセット値としてメモリに格納しておくことにより、その後位置合わせや、位相差の測定を行う必要が無い。
【0055】
[初期電気角推定処理の第3の例]
次に、初期電気角推定処理の第3の例について説明する。この演算例ではエンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸とを機械的な位置関係に関わらず、以下に示す演算手法によりECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点との間の位相差φを算出する。そして、この位相差φに基づいて前述した第2の例と同様の方法で初期電気角を推定する。以下、詳細に説明する。
【0056】
図9は、ECUパルスの立ち上がりエッジと、U相誘起電圧のゼロクロス点との間に位相差φが発生している場合の、誘起電圧Vと位相差φとの関係を示すベクトル図である。なお、図9において、位相差がない場合(φ=0の場合)には、誘起電圧Vはq軸方向に発生する電圧と一致する。
【0057】
そして、図9に示すように誘起電圧Vが発生する状態で、コンバータ14からq軸電圧、d軸電圧をそれぞれ0Vで出力した場合に、誘起電圧Vの大きさ及び位相差φに応じたq軸電流(Iq)、及びd軸電流(Id)が流れる。そして、角度φと電流Iq、Idの関係は、下記の(2)、(3)式となる。
【0058】
Vq=V・cosφ+R・Iq−p・ω・Ld・Id …(2)
Vd=V・sinφ+R・Id−p・ω・Lq・Iq …(3)
但し、Rは抵抗値、Lqはq軸インダクタンス、Ldはd軸インダクタンス、pは極対数、ωは角速度である。
【0059】
そして、(2)式、(3)式において、コンバータ14側でVq=Vd=0を出力すると、cosφ、及びsinφは、次の(4)式、(5)式で示すことができる。
【0060】
cosφ=−(R・Iq−p・ω・Ld・Id)/V …(4)
sinφ=−(R・Id−p・ω・Lq・Iq)/V …(5)
従って、(5)式を用いれば角度φ(これを「φs」とする)は、次の(6)式で示すことができる。
【0061】
φs=sin−1{−(R・Id−p・ω・Lq・Iq)/V} …(6)
また、(4)式を用いれば角度φ(これを「φc」とする)は、次の(7)式で示すことができる。
【0062】
φc=cos−1{−(R・Iq−p・ω・Ld・Id)/V} …(7)
但し、角度φs、φcは共に±45[deg]以内とする。
【0063】
そして、sinφとcosφの関係より、図11に示す領域a〜hに区分し、各領域毎に下記のようにφsまたはφcのうちの一方を選択して角度φを算出する。
【0064】
領域aの場合: cosθ>0、sinθ>0、 |cosθ|>|sinθ| θ=θs
領域bの場合: cosθ>0、sinθ>0、 |cosθ|≦|sinθ| θ=θc
領域cの場合: cosθ<0、sinθ>0、 |cosθ|<|sinθ| θ=θc
領域dの場合: cosθ<0、sinθ>0、 |cosθ|≧|sinθ| θ=θs
領域eの場合: cosθ<0、sinθ<0、 |cosθ|>|sinθ| θ=θs
領域fの場合: cosθ<0、sinθ<0、 |cosθ|≦|sinθ| θ=θc
領域gの場合: cosθ>0、sinθ<0、 |cosθ|<|sinθ| θ=θc
領域hの場合: cosθ>0、sinθ<0、 |cosθ|≧|sinθ| θ=θs
ここで、(6)、(7)式においてR、Lq、Ld、pの値は予め測定することができ、ωの値もエンジン11の同期パルスを測定することにより算出が可能である。従って、位相差φを演算により求めることができる。更に、誘起電圧Vは誘起電圧定数Kvを用いて「V=Kv×ω」に置き換えることができ、且つ、この誘起電圧定数Kvは予め測定して求めることができるので、誘起電圧Vの値も予め取得することができる。
【0065】
従って、上記の各領域毎にφsまたはφcを選択する条件を予め対応テーブルとして記憶しておき、領域が決定した場合に、φs或いはφcのいずれかを用いることにより、位相差φを求めることができる。
【0066】
図10は、図1に示したコンバータ14の詳細な構成を示すブロック図であり、上述した(6),(7)式で用いるq軸電流(Iq)、及びd軸電流(Id)を取得する場合の説明図である。
【0067】
図10に示す2相・3相変換器に入力するq軸電圧及びd軸電圧を共に0Vとすることにより、コンバータ14側の電圧を0Vとすることが可能である。結果的に、同期モータ13の各相に流れる電流を、コンバータ14の仮想電気角を利用し、3相・2相変換器でdq軸の電流値に変換し、q軸電流(Iq)及びd軸電流(Id)を求める。
【0068】
なお、同期モータ13の誘起電圧は、モータの種類やエンジン11の回転数によって異なり、更に、モータの各定数(R、Lq、Ld、p)も異なるために、コンバータ14側で0Vを出力した場合に、同期モータ13側に過大な電流が流れ込む場合が想定される。例えば、エンジン11の回転数を低下させた状態でq軸電流、d軸電流を測定することができれば、同期モータ13に流れる電流値も小さくなるが、エンジン11は任意の低い回転数に制御することが困難であるために、アイドリング回転数が下限値となる。そのような場合は、測定時にのみ同期モータ13のU相、V相、W相に直列にそれぞれ抵抗r1,r2,r3を接続して測定を行うことにより、大電流が流れることを防止することも可能である。具体的には、各抵抗r1,r2,r3に対してそれぞれ並列にスイッチSW1,SW2,SW3を設け、測定時は、各スイッチSW1〜SW3を遮断(開放)すれば良い。
【0069】
また、コンバータ14側で0Vを出力する時間が長時間になると、エンジン11に対して大きな負荷となり、回転数を維持することができなくなる場合も想定されるので、0Vを出力する時間は同期モータ13の抵抗とインダクタンスで決まる時定数の、約5倍程度とすれば良い。
【0070】
また、位相差φを検出した場合には、エンジン11と同期モータ13の回転軸との結合を動かしたり、取り外したりしなければ、エンジン11と同期モータ13を組み付けた初回のみ測定を実施し、その後はコンバータ14にプリセット値としてEEPROMやバッテリでバックアップしたメモリに格納することによって、2度目以降は測定の必要がなくなる。
【0071】
こうして、上述の第1〜第3の例に示した手法により、位相差φを求め、更に、この位相差φに基づいて、初期電気角を推定することができる。
【0072】
[連続電気角推定モードによる位相差の角度θの算出手順について]
次に、図5のステップS15に示した連続電気角の推定処理の詳細な処理手順について説明する。初期電気角の推定が完了した場合には、その後、この初期電気角に基づいてコンバータ14の制御を実行すると共に、電気角の連続推定モードに切り替える。
【0073】
図12,図13は、同期モータ13より出力される誘起電圧の位相と、コンバータ14で想定している電気角の位相との間に位相差θが発生している場合の、電圧及び電流のベクトルを示す説明図である。図12,図13に示すdq軸は誘起電圧の位相に基づいて設定される軸であり、d'q'軸はコンバータ14の電気角に基づいて設定される軸である。そして、図12は、q'軸電流Iq'のみを制御する場合のベクトル図を示し、図13は、d'軸電流Id'のみを制御する場合のベクトル図を示している。
【0074】
図12に示すように、q軸上に現れる誘起電圧Kv・ωに対して、d'q'軸上でフィードバック電流を制御しようとすると、制御上はd'軸電流Id'(図13参照)、及びq'軸電流Iq'を制御することになる。このため、図12に示すq'軸電流Iq'を、dq軸上のd軸電流Id1、Iq1に分解し、図13に示すd'軸電流Id'を、dq軸上のd軸電流Id2、Iq2に分解する。
【0075】
そして、上記の内容を考慮すると、図12に示すベクトル図において、q'軸電流Iq'に対応するq軸電流Iq1の、抵抗Rによる電圧降下は「Iq1・R」で示すことができ、q軸電流Iq1の、インダクタンスLqによる電圧降下は「p・ω・Lq・Iq1」で示すことができる。また、d軸電流Id1の、抵抗Rによる電圧降下は「Id1・R」で示すことができ、d軸電流Id1の、インダクタンスLdによる電圧降下は「p・ω・Ld・Id1」で示すことができる。従って、これらをベクトル的に加算することにより、図12に示す電圧V1を得ることができる。この電圧V1は、d'q'軸をdq軸に変換した場合で、q'軸電流Iq'のみを制御した場合の、同期モータ13に生じる誘起電圧を示すことになる。
【0076】
同様に、図13に示すベクトル図において、d'軸電流Id'に対応するq軸電流Iq2の、抵抗Rによる電圧降下は「Iq2・R」で示すことができ、q軸電流Iq2の、インダクタンスLqによる電圧降下は「p・ω・Lq・Iq2」で示すことができる。また、d軸電流Id2の、抵抗Rによる電圧降下は「Id2・R」で示すことができ、d軸電流Id2の、インダクタンスLdによる電圧降下は「p・ω・Ld・Id2」で示すことができる。従って、これらをベクトル的に加算することにより、図13に示す電圧V2を得ることができる。この電圧V2は、d'q'軸をdq軸に変換した場合で、d'軸電流Id'のみを制御した場合の、同期モータ13に生じる誘起電圧を示すことになる。
【0077】
そして、図12,図13に示したd'軸電圧Vd'は、次の(8)式で示すことができる。
【0078】
Vd’=−Kv・ω・sinθ+p・ω・Iq'・(Ld・sin2θ+Lq・cos2θ)
+Id'・R +p・ω・(Ld−Lq)・Id'sinθ・cosθ …(8)
ここで、同期モータ13として、非突極モータを使用した場合は、Lq≒Ldとなるので「Ld」を「Lq」と置き、更に(8)式をsinθについて解くと、次の(9)式が得られる。
【0079】
sinθ=(p・ω・Lq・Iq'+Id'・R−Vd')/(Kv・ω) …(9)
ここで、−30deg<θ<30degであるならば、sinθ≒θと見なすことができるので、次の(10)式が得られる。
【0080】
θ=(p・ω・Lq・Iq'+Id'・R−Vd')/(Kv・ω) …(10)
そして、上述の(10)式において、q'軸電流Iq'、d'軸電流Id'、及びd'軸電圧Vd'は、それぞれコンバータ14の制御中に計測することができるので、位相差θの値をリアルタイムで計測することができる。従って、図5のステップS12の処理で初期電気角を求めた後に、位相差θが変化した場合であっても、上述の(10)式によりコンバータ14の運転時に適宜位相差θを求めることができ、求めた位相差θにより連続電気角を算出できる。このため、初期電気角の推定処理後にECUパルスの立ち上がりエッジとU相誘起電圧のゼロクロス点との間の位相差θが変化した場合でも、位相差θの変化に追従させて連続電気角を推定することができ、高精度な制御が可能となる。
【0081】
また、上記した例では、同期モータ13として非突極モータを用いる場合について説明したが、突極モータを用いる場合であっても位相差θを演算する際の計算量が多くなるものの、上述した(8)式に基づいて計算すれば、位相差θを求めることは可能であり、上述の効果を発揮することが可能である。
【0082】
更に、コンバータ14の動作中において、位相差θを常時「0」とするように連続電気角を補正する制御を行えば、より効率の良いモータ制御が可能となる。また、角速度ωは初期電気角推定時と同様に、ECUパルス間隔を測定することにより容易に計測することが可能となる。
【0083】
図14は、コンバータ14の詳細な構成を示すブロック図であり、q軸電流指令値としてIq'を入力し、d軸電流指令値としてId'を入力し、更にd軸電圧指令Vd'を取得することができる。そして、取得したIq'、Id'、Vd'を前述した(10)式に代入することにより位相差θを求めることができる。こうして、コンバータ14の駆動時に連続して位相差θを算出することができるのである。
【0084】
このようにして、本実施形態に係るインバータ発電装置100では、同期モータ13に位置センサのような付属センサを取り付ける必要がなく、また電圧を測定するセンサも不要で、エンジン11に汎用的に設けられるECU19より出力されるECUパルスを利用して初期電気角及び連続電気角を推定することができる。このため、コストダウンを図ることができ、且つ高精度な電気角の推定が可能となる。
【0085】
以上、本発明のインバータ発電装置100を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ECU19から出力されるECUパルスの利用に代えて、エンジンに取り付けられたタコセンサから発信・出力される回転パスル信号をコンバータ14の電気角推定部14aに入力するようにしてもよく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、インバータ発電装置に設けられたコンバータをセンサレスで制御することに利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
100 インバータ発電装置
11 エンジン
12 カップリング
13 同期モータ
14 コンバータ
14a 電気角推定部
15 インバータ
16 LCフィルタ
17 遮断器
18 負荷
19 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、前記原動機の出力軸に回転軸が接続され、前記出力軸の回転により前記回転軸が回転して交流電力を出力する同期モータと、前記同期モータより出力された交流電力を直流に変換するコンバータと、前記コンバータから出力された直流電力を所定の交流電力に変換するインバータとを備えたインバータ発電装置において、
前記コンバータは前記同期モータの電気角を推定する電気角推定手段と、推定した電気角に基づいて複数のスイッチング素子をそれぞれ作動させて前記同期モータより出力される交流電力を直流電力に変換すると共に、前記電気角により電流フィードバック信号を生成して前記同期モータを制御するコンバータ回路とを有し、
前記インバータは複数のスイッチング素子をそれぞれ作動させて前記コンバータ回路より出力される直流電力を所定の交流電力に変換するインバータ回路とを有し、
前記電気角推定手段は、前記原動機の出力軸の回転角度に基づきパルス信号を出力し前記原動機を制御する制御手段と接続され、前記コンバータ回路の駆動開始前には、前記制御手段より出力される前記パルス信号に基づいて、前記同期モータの初期電気角を推定し、
推定された初期電気角により前記コンバータ回路が駆動された後には、前記同期モータの誘起電圧より得られるdq座標軸と、推定電気角のd'q'座標軸との関係から、d'q'軸電流Iq',Id'、及びd'軸電圧Vd'を算出し、これらのIq',Id',Vd'に基づいてdq座標軸とd'q'座標軸との間の位相差θを求め、該位相差θに基づいて前記同期モータの連続電気角を推定することを特徴とするインバータ発電装置。
【請求項2】
前記原動機の出力軸と前記同期モータの回転軸は、前記パルス信号のうち前記出力軸1回転毎に発生する基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相が一致するように機械的に接続され、
前記電気角推定手段は、前記基準パルス信号に基づき、同期モータの回転軸が1回転する毎に、該同期モータの極対数と一致する個数となる電気角を初期電気角として推定することを特徴とする請求項1に記載のインバータ発電装置。
【請求項3】
前記パルス信号のうち前記出力軸1回転毎に発生する基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間の位相差φを求め、且つ、この位相差φに対応する電気角のプリセット値を求め、
前記電気角推定手段は、前記基準パルス信号に基づき、該基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相に対応する電気角が前記プリセット値となり、且つ、前記同期モータの回転軸が1回転する毎に、該同期モータの極対数と一致する個数となる電気角を初期電気角として推定することを特徴とする請求項1に記載のインバータ発電装置。
【請求項4】
前記電気角推定手段は、前記同期モータのq軸電圧、及びd軸電圧を共にゼロとしたときの、前記同期モータに流れる電流に基づいて、基準パルス信号の立ち上がりエッジの位相と、前記同期モータの任意の相の誘起電圧のゼロクロス点の位相との間の前記位相差φを求めることを特徴とする請求項3に記載のインバータ発電装置。
【請求項5】
前記電気角推定手段は、初期電気角により前記コンバータ回路が駆動された後には、dq座標軸とd'q'座標軸との間の位相差θを、次式にて算出し、該位相差θに基づいて前記同期モータの連続電気角を推定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインバータ発電装置。
θ=(p・ω・Lq・Iq'+Id'・R−Vd')/(Kv・ω)
但し、pは同期モータの極対数、ωは同期モータの角速度、Lqはd軸インダクタンス、Rは抵抗、Kvは誘起電圧定数、Iq'はq'軸電流、Id'はd'軸電流である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−125030(P2012−125030A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272901(P2010−272901)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【出願人】(000241795)北越工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】