説明

インバータ装置

【課題】電流波形の歪振動によるノイズを低減したインバータ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】1シャント方式を用いたインバータ装置において、電流センサに流れる電流を検出しなければならない場合にもPWMDUTYパルスの出力タイミングをずらす頻度を落とすためにキャリア周期を逓倍し、逓倍したキャリア周期のうち、1回は電流検出のためにDUTYパルスの出力タイミングをずらし、残りはDUTYパルスの出力タイミングをずらさず、理想の正弦波に近づけ、かつ逓倍したキャリア数分のPWMDUTYパルス幅が等しくなる構成により、音・振動を低減する効果を奏することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動時の音や振動を低減させるための電動コンプレッサに用いられるインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインバータ装置は、モーターに流れる電流値を読み取り、読み取った電流値に基づきパルス幅、即ち、DUTY比を算出し、算出されたDUTY比のDUTYパルスをインバータ回路に出力し、このDUTYパルスによって直流から交流への変換を制御している。
【0003】
この際、歪みのない交流波を生成するために、DUTYパルスはインバータ回路の基本の制御周期であるキャリア周期の中心から左右対称となるタイミングで出力している。
【0004】
一方、インバータ装置を小型化する方式として1シャント方式が知られている(例えば特許文献1)。インバータ装置では3相の交流電流を生成するため、各相に対し電流値を検出するためのセンサーが必要となるが、1シャント方式では1つのセンサーによって3相の電流値を測定する。
【0005】
以下、図面を用いて1シャント方式のインバータ装置について説明する。図6は従来のインバータ装置の構成を示した図、図7は図6のインバータ回路62からの出力波形を示す図、図8は図6のインバータ回路62を制御するするためにDUTYパルス発生装置からインバータ回路62に出力するDUTYパルスの概念を示す図、図9は、図8に示すDUTYパルスに対応してインバータ回路62から出力される交流波の概略を説明する図である。
【0006】
図6において、電流制御装置65に設けられた電流読み取り装置は、インバーター装置内に設けられた1つの電流センサー63からモーターに流れる電流値を読み取る。この測定は1つのセンサーを用いて行われているため、図7に示す一定領域、即ち、2相の電流値の差がある一定の値以下になる場合には、各相毎に正確な電流値を測定することができない。
【0007】
そこで、1シャント方式では2相の電流値の差がある一定の値以下になる場合、各相の電流値を1つのセンサーで検出するために、DUTYパルスをキャリア周波数の中心から非対称のタイミングで出力している。非対称のタイミングとすることにより出力の交流波形がゆがみ、騒音・振動の原因となっていいる。
【0008】
図8において、2相の電流値の差が一定値以上に対応するt1、t5ではキャリア周期の中心から対称なパルスをインバータ回路に出力し、一定値以下に対応するt2からt4では非対称となるタイミングでパルスを出力している。
【0009】
図9は、このパルスに対応したインバータ回路からの出力波形を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−189670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
1シャント方式における上記波形の歪みによる騒音は、例えば室内機と室外機を離れた場所に設置できる場合や、コンプレッサ装置の筐体に防振材、防音材を設けることによりある程度防止することが可能だが、車載機のような限られた空間でかつ軽量化が強く要求される環境では、この防振・防音を解決することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、車載のような限られた空間で用いられ、小型軽量化に適したインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のインバータ装置は、第1に、1シャント方式のインバータ装置において電流測定頻度と測定値に基づくDUTY比演算回数の割合を変えずにキャリア周期を逓倍としたものである。
【0014】
第2に、1シャント方式のインバータ装置において電流測定頻度と測定値に基づくDUTY比演算回数の割合を変えずにキャリア周期を逓倍にすると共に、電流測定後の次の電流測定まで、測定された電流値に基づき算出されたDUTY比でキャリア周期の中心から左右対称となるタイミングでDUTYパルスを出力するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1に高性能な演算回路を用いることなく、騒音・振動の周波数が逓倍され可聴域周波数帯を超えて耳障りな音・振動をある程度軽減することができる。
【0016】
第2に、電流値を測定するためにキャリア周期の中心から非対象としてDUTYパルスを発生する頻度、すなわち発生する期間を短くすることが可能なり、これによりインバータ回路から出力される波形の歪みを少なくし、騒音・振動を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態におけるインバータ装置のブロック図
【図2】本発明における第1のDUTYパルス制御を表す図
【図3】本発明における第1のDUTYパルス制御と出力電流波形との関係を示す概念図
【図4】本発明における第2のDUTYパルス制御を表す図
【図5】本発明における第2のDUTYパルス制御と出力電流波形との関係を示す概念図
【図6】従来の1シャント方式を用いたインバータ装置のブロック図
【図7】従来の1シャント方式を用いたインバータ装置における出力電流波形図
【図8】従来のDUTYパルス制御を表す図
【図9】従来のDUTYパルス制御と出力電流波形との関係を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態におけるインバータ装置について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は本願発明における1シャント方式を用いたインバータ装置の構成を示すブロック図である。図において従来の構成と異なるのは、基本周波数発生装置6が任意の逓倍値に設定可能とした点と、電流制御装置5がDUTYパルス出力タイミング調整装置を備えた点、および基本周波数の逓倍に応じて、逓倍分の1で動作するように構成した点である。
【0020】
まず、電流測定頻度及び出力電流算出装置の演算回数を変えずに、基本周波数発生装置
の発生周波数を2倍とした場合の動作について図2、図3を用いて説明する。
【0021】
基本周波数発生装置のキャリア周波数が倍になれば、インバータ回路のスイッチング周波数が倍になり、結果として音・振動の周波数も倍になり、可聴域周波数帯を超えて耳障りがある程度軽減できる。理論上は、スイッチング周波数がおよそ20KHzを超えればノイズは聞こえなくなる。
【0022】
しかしながら、単にスイッチング周波数を倍にすると電流制御装置5の演算周期も倍になり、より高性能なマイコンを使用しなければならなく、低機能のマイコンでの実現は困難である。
そこで、本発明においては、キャリア周波数を倍にし、電流制御装置において、電流読み取り装置が行う電流検出と、出力電流(電圧)算出装置が行う演算を2キャリアに1回行う構成としている。
図2、図3は、従来技術の説明で用いた図8、図9に対応する図面であり、キャリア周期が2倍となっている点、すなわち、図9の1つのパルスが図3では2つのパルスによって構成されている点で異なる。
電流測定、およびDUTY比の演算を2回に1回行っているため、1回の電流測定値に基づき算出されたDUTY比が2パルスによって使用される。すなわち、同じパルス幅のパルス2つによって従来の1パルスが構成させる。
【0023】
このように高性能な演算回路を用いることなく、キャリア周期を2倍とすることにより、騒音・振動の周波数も2倍され可聴域周波数帯を超えて耳障りな音・振動をある程度軽減することができる。
【0024】
次に図4、図5を用いて、さらに改良された本願発明のインバータ装置の動作について説明する。図2、図3で開示した方法では、周波数自体が2倍となることにより騒音・振動は低減されるものの、電流値を測定するためにキャリア周期の中心から否対称のタイミングでDUTYパルスを出力することによる騒音・振動は改善されていない。
【0025】
そこで改良された方法では、電流測定頻度と測定値に基づくDUTY比演算回数の割合を変えずにキャリア周期を2倍とし、2回のキャリア周期に対し1回だけ電流値の測定とDUTY比を算出し、電流測定後の次の電流測定まで、測定された電流値に基づき算出されたDUTY比でキャリア周期の中心から左右対称となるタイミングでDUTYパルスを出力するようにしたものである。
【0026】
図に示すようにt1ではパルスを非対称とすることなく電流値を測定することが可能であり、すなわち、キャリア周期の中心を軸としてパルス幅が対称となるタイミングで出力」し、続くt1‘でもt1と同じDUTY比のパルスを対称となる形で出力する。
【0027】
続く電流測定タイミングt2では測定のため非対称として出力し、このタイミングで測定した電流値に基づくDUTY比を算出し、算出したDUTY比と同じDUTY比のパルスをt2‘ではDUTYパルス出力タイミング調整装置によりキャリア周期の中心から対称となるタイミングで出力する。
【0028】
このようにして非対称となるパルスの頻度を下げることにより、インバータ回路からは歪みの少ない交流波が出力され、従来の非対称に基づく騒音・振動を防止することができる。
【0029】
なお、実施の形態では2倍で説明したが、任意の逓倍に対し同様の制御を行うことで、騒音・振動を低減することができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、モータ駆動時の音や振動を低減させるための電動コンプレッサ等として有用である。
【符号の説明】
【0031】
5 電流制御装置
6 基本周波数発生装置
62 インバータ回路
63 電流センサー
65 電流制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、前記直流電源で供給される直流を交流に変換するインバータ回路と、インバータ回路から出力されたPWM変調で駆動するモータと、前記直流電源と前記インバータ回路間の電流を検出する電流センサと、前記インバータ回路が前記モータへ出力すべき3相PWM変調の交流電流値を前記電流センサで検出した電流値に基づき演算し前記インバータ回路に供給する電流制御装置と、前記インバータ回路のキャリア周期を決定する基本周波数発生装置を備え、
前記電流制御装置が、前記電流センサに流れる電流を検出する時に前記モータへ流れる電流が3相のうちいずれか2相に流れる電流値の差がある基準値以下の場合、前記電流制御装置から前期インバータ回路に供給される交流電流値を規定するDUTYパルスをキャリア周期の中心を基準に非対称とするインバータ装置であって、
インバータ回路に電流値を供給するための電流測定頻度と測定値に基づくDUTY比演算回数の割合を変えずにキャリア周期を逓倍としたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の構成に加え、電流制御装置がDUTYパルス出力タイミング調整装置を備え、DUTYパルス出力タイミング調整装置により、電流制御装置が出力電流(電圧)算出後の次の出力電流(電圧)算出まで、測定された電流値に基づき算出されたDUTY比で出力されるDUTYパルスの立ち上がりから立ち上がりまで、またはパルスの中心から中心まで、またはパルスの立ち下がりから立ち下がりまでの時間が一定となるタイミングでDUTYパルスを出力することを特徴とするインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−213277(P2012−213277A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77643(P2011−77643)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】