説明

インバータ負荷模擬装置

【課題】インバータと接続された状態において相電圧が平衡するように運転することが可能なインバータ負荷模擬装置を提供する。
【解決手段】インバータ負荷模擬装置100は、被試験インバータである供試体1の負荷を模擬する模擬負荷である。インバータ負荷模擬装置100は、2相/3相変換部21によって生成された電圧指令を、供試体1の出力電圧(相電圧)を調整するための補正電圧指令に変換する電圧指令補正部22と、補正電圧指令に従ってインバータ26を制御する線間電圧制御部25と、相電圧検出部6によって検出された供試体1の出力電圧(相電圧)を補正する検出電圧補正部24とを備える。検出電圧補正部25は、相電圧検出部6によって検出された相電圧に対して、電圧指令補正部22とによる電圧指令から補正電圧指令への変換の逆変換を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの負荷を模擬するためのインバータ負荷模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータの試験のためにインバータの負荷を模擬する模擬負荷装置が従来から提案されている。たとえばモータ駆動用インバータの試験に模擬負荷装置を使用することによって、モータを使用せずともインバータの試験が可能となる。
【0003】
たとえば特許文献1(特開2008−167655号公報)は、インバータに実際の負荷であるモータを接続することなく、モータの運転を模擬的に行ないながらインバータを試験することが可能なインバータ試験装置の構成を開示する。上記文献によれば、インバータ試験装置は、被試験用の第1のインバータの擬似負荷となる第2のインバータと、トランスと、制御手段とを備える。トランスの1次側には上記第1のインバータの交流出力が入力され、トランスの2次側には、上記第2のインバータの交流出力が入力される。制御手段は、第1のインバータの実負荷であるモータの角度センサを模擬する信号に応じて第1のインバータの出力電流を所定の値に制御する。制御手段は、モータ回転数とモータ定数と検出された第1のインバータの出力電圧・電流のいずれかまたは両方に基づいて第2のインバータの出力電圧の振幅・位相を所定に制御する。
【0004】
また、特許文献2(特開2005−176427号公報)は、出力電圧の基本波成分を正確に検出または制御できるインバータを開示する。上記文献によれば、インバータは、出力電圧を検出する出力電圧検出手段を備える。出力電圧検出手段は、出力電圧を増幅する増幅手段と、上記増幅手段の出力電圧から基本波成分を取り出すローパスフィルタと、上記ローパスフィルタの出力信号を所定の位相値に基づいて三相/二相変換を行なう相変換手段と、上記相変換手段の基準となる位相値および相変換手段の出力信号の振幅に対してローパスフィルタの周波数特性の補正を行なう特性補正手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−167655号公報
【特許文献2】特開2005−176427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は、インバータ負荷模擬装置の動作確認試験の流れを示した模式図である。図6(a)を参照して、まず、インバータ負荷模擬装置(図中「ILS」と示す)110および供試体120の各々の単体での動作確認試験が行なわれる。供試体120は、被試験インバータであり、具体的には三相インバータである。インバータ負荷模擬装置110は三相の模擬負荷として機能する。
【0007】
インバータ負荷模擬装置110の単体試験では、インバータ負荷模擬装置110が単体試験用負荷112に接続されて動作試験が行なわれる。たとえばインバータ負荷模擬装置110が電圧制御されて、相電圧Vu,Vv,Vwが互いに等しいこと、すなわち出力電圧が三相で平衡していることが確認される。
【0008】
同じく供試体120の単体試験では、供試体120は単体試験用負荷114に接続されて動作試験が行なわれる。たとえば供試体120であるインバータが電流制御されて、各相の電流Iu,Iv,Iwが互いに等しいこと、すなわち出力電流が三相で平衡していることが確認される。
【0009】
次に図6(b)に示されるように、インバータ負荷模擬装置110と供試体120とが組み合わされる。単体試験では出力電圧および出力電流ともに三相平衡の状態にあるのでインバータ負荷模擬装置110と供試体120とを組み合わせても出力電圧、出力電流ともに三相平衡の状態が保たれるものと考えられる。
【0010】
しかしながら、インバータ負荷模擬装置110と供試体120とを組み合わせて運転した場合に、種々の理由によって出力電圧が三相で不平衡となる場合がある。このような三相不平衡のままインバータの実際の試験を行なった場合、インバータを正確に評価できない可能性が生じ得る。しかしながら上記の特許文献1および特許文献2のいずれにも、このような課題およびその解決方法については示されていない。
【0011】
この発明は上述の課題を解決するためのものであって、その目的は、インバータと接続された状態において相電圧が平衡するように運転することが可能なインバータ負荷模擬装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被試験インバータに接続されて被試験インバータの負荷を模擬するインバータ負荷模擬装置であって、被試験インバータの模擬負荷となる負荷用インバータと、被試験インバータの出力電流を検出する電流検出部と、被試験インバータの出力電圧を検出する電圧検出部と、電圧指令生成部と、指令補正部と、インバータ制御部と、検出電圧補正部とを備える。電圧指令生成部は、模擬負荷を設定するための指令と電流検出部によって検出された出力電流とに基づいて被試験インバータの出力電圧を制御するための基準電圧値を生成する。電圧指令生成部は、入力電圧値を基準電圧値に近づけるためのフィードバック制御を実行することにより、被試験インバータの出力電圧を制御するための電圧指令を生成する。指令補正部は、電圧指令生成部によって生成された電圧指令を、出力電圧を調整するための補正電圧指令に変換する。インバータ制御部は、補正電圧指令に従って負荷用インバータを制御する。検出電圧補正部は、電圧指令生成部によるフィードバック制御に用いられる入力電圧値を生成するために、電圧検出部によって検出された出力電圧の値を補正する。検出電圧補正部は、電圧検出部によって検出された出力電圧に対して、指令補正部による電圧指令から補正電圧指令への変換の逆変換を実行する。
【0013】
上記の構成によれば、電圧指令生成部は、被試験インバータの出力電圧を制御するための基準電圧値を生成する。電圧指令生成部は、入力電圧値を基準電圧値に近づけるためのフィードバック制御を実行することにより、被試験インバータの出力電圧を制御するための電圧指令を生成する。電圧指令補正部がその電圧指令を補正することで、被試験インバータの出力電圧を調整できる。
【0014】
さらに、電圧指令生成部によるフィードバック制御に用いられる入力電圧値を生成するために、検出電圧補正部が電圧検出部によって検出された出力電圧の値を補正する。具体的には、検出電圧補正部は、電圧検出部によって検出された出力電圧に対して指令補正部による電圧指令から補正電圧指令への変換の逆変換を実行する。電圧指令補正部が電圧指令を補正することによって被試験インバータの出力電圧が変化するものの、検出電圧補正部がその出力電圧の値を補正(逆変換)することで、電圧指令生成部に入力される電圧値を変わらなくすることができる。これにより電圧指令生成部において実行されるフィードバック制御への影響を小さくすることができるので、そのフィードバック制御を安定させることができる。
【0015】
したがって上記の構成によれば、インバータとインバータ負荷模擬装置とが接続された状態において相電圧を平衡させることができる。
【0016】
好ましくは、被試験インバータおよび負荷用インバータの各々は、三相インバータである。指令補正部は、被試験インバータの出力電圧が三相平衡となるように、補正電圧指令を生成する。
【0017】
上記の構成によれば、三相インバータとインバータ負荷模擬装置とが接続された状態において三相平衡の状態を得ることができる。
【0018】
好ましくは、インバータ負荷模擬装置は、記憶部をさらに備える。記憶部は、電圧指令を補正電圧指令に変換するためのパラメータおよび電圧検出部によって検出された出力電圧に対する逆変換を実行するためのパラメータを予め記憶する。
【0019】
上記の構成によれば、記憶部に予め記憶されたパラメータを用いて、電圧指令から補正電圧指令への変換および、電圧検出部によって検出された出力電圧に対する逆変換を実行することができる。これにより、相電圧が平衡となるようにインバータ負荷模擬装置を調整するための工数を削減することが可能となるので、被試験インバータの試験を効率よく行なうことが可能となる。
【0020】
好ましくは、被試験インバータは、モータ駆動用インバータである。インバータ負荷模擬装置は、電流検出部によって検出された出力電流を、d軸電流およびq軸電流に3相−2相変換する第1の変換部と、電圧検出部によって検出された出力電圧を、電圧指令生成部に対する入力電圧値としてのd軸電圧およびq軸電圧に3相−2相変換する第2の変換部とをさらに備える。電圧指令生成部は、モータモデル演算部と、第1の増幅部と、第2の増幅部と、第3の変換部とを含む。モータモデル演算部は、モータ電圧方程式と、d軸電流およびq軸電流と、模擬負荷を設定するための指令としての回転速度指令とを用いてd軸電圧およびq軸電圧のそれぞれの基準電圧値となるd軸基準電圧およびq軸基準電圧を生成する。第1の増幅部は、d軸基準電圧とd軸電圧との間の偏差を増幅することによってd軸電圧指令を生成する。第2の増幅部は、q軸基準電圧とq軸電圧との間の偏差を増幅することによってq軸電圧指令を生成する。第3の変換部は、d軸電圧指令およびq軸電圧指令を2相−3相変換することによって、指令補正部によって補正されるための電圧指令を生成する。
【0021】
上記の構成によれば、インバータ負荷模擬装置を、モータ駆動用インバータを試験するための装置として用いることができる。さらにモータ駆動用インバータとインバータ負荷模擬装置とを接続した状態において、三相平衡の状態を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インバータと接続された状態において相電圧が平衡するように動作するインバータ負荷模擬装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態によるインバータ負荷模擬装置の構成の例を示した図である。
【図2】図1に示したインバータ負荷模擬装置の比較例の構成を示したブロック図である。
【図3】U相電圧、V相電圧およびW相電圧が不平衡である状態を模式的に示した図である。
【図4】図1に示したインバータ負荷模擬装置の主要部の構成を示したブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態によるインバータ負荷模擬装置によって三相間で相電圧が平衡した状態を示した図である。
【図6】インバータ負荷模擬装置の動作確認試験の流れを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態によるインバータ負荷模擬装置の構成の例を示した図である。図1を参照して、インバータ負荷模擬装置100は供試体1の模擬負荷として供試体1に接続される。供試体1は、被試験インバータであり、この実施形態ではモータ駆動用の三相インバータである。供試体1すなわち三相インバータの交流出力側はインバータ負荷模擬装置100のU、V、W端子に接続される。
【0026】
インバータ負荷模擬装置100は、モータの任意の運転条件に応じて任意の負荷インピーダンスを設定することによって、モータの運転を模擬的に行ないながら供試体1を試験する。この実施形態では、インバータ負荷模擬装置100は、PMモータ(永久磁石同期モータ)の運転を模擬する。モータを用いなくともインバータの試験が可能であるので、騒音の低下、装置の発熱の抑制、試験時の安全性の確保の点で有利となる。
【0027】
インバータ負荷模擬装置100は、線間電圧制御部25と、インバータ26と、出力リアクトル27とを備える。線間電圧制御部25は、入力されるU相、V相、W相の電圧指令(相電圧指令)に従って、三相交流の線間電圧を制御するためにインバータ26を制御する。この実施の形態では、線間電圧制御部25は、インバータ26をPWM(パルス幅変調)方式に従って駆動するための制御信号を生成する。
【0028】
インバータ26は、供試体1の模擬負荷となる負荷用インバータである。インバータ26は、図示しない半導体スイッチング素子(たとえばIGBT)によって構成された三相インバータである。インバータ26の構成としては公知の構成を適用できるのでここでは詳細な説明を繰り返さない。線間電圧制御部25からの制御信号は、インバータ26を構成する半導体スイッチング素子のゲートに入力される。この制御信号によって半導体スイッチング素子がオンオフされる。インバータ26の出力電流の振幅および位相を制御することにより、供試体1(三相インバータ)にモータが接続されているのと同等の状態で供試体1を試験することができる。
【0029】
出力リアクトル27は、インバータ26の交流出力と供試体1である三相交流インバータの交流出力との間に接続されて、インバータ26から発生するノイズを除去するためのフィルタとして機能する。
【0030】
インバータ負荷模擬装置100は、さらに、電流検出器2と、減算部3と、オフセット/ゲイン補正部4と、3相/2相変換部5とを備える。
【0031】
電流検出器2は、供試体1(インバータ)の出力電流を検出する。この実施形態では、U相電流およびW相電流が電流検出器2によって直接的に検出され、V相電流は、減算部3によって算出される。減算部3は0からU相電流の検出値およびW相電流の検出値を減算することによって、V相電流の値を算出する。ただしインバータのU相、V相およびW相の各々の電流を電流検出器2によって直接的に検出してもよい。
【0032】
オフセット/ゲイン補正部4は、電流検出器2および減算部3によって得られたU相電流、V相電流およびW相電流の各値をアナログ/デジタル変換するとともに、変換後のデジタル値に対して、アナログ/デジタル変換でのオフセットおよびゲインを補正する。3相/2相変換部5は、オフセット/ゲイン補正部4から出力されたU相電流Iu、V相電流Iv、およびW相電流Iwの値を、モータの回転角度に相当するθ(以後、回転角度θと呼ぶ)を用いて3相−2相変換する。これにより3相/2相変換部5はd軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。
【0033】
インバータ負荷模擬装置100は、さらに、相電圧検出部6と、ローパスフィルタ(LPF)7と、増幅部8と、LPFゲイン補正部9Aと、LPF位相補正部9Bと、3相/2相変換部10とを備える。
【0034】
相電圧検出部6は、供試体1(インバータ)の相電圧を検出する。この実施形態では、相電圧検出部6は、U相電圧を検出する電圧検出器6Aと、W相電圧を検出する電圧検出器6Bとを備える。V相電圧は、減算部6Cによって算出される。減算部6Cは、0からU相電圧の検出値およびW相電圧の検出値を減算することによって、V相電圧の値を算出する。なお、図1に示す構成によれば電圧検出器の数を少なくすることができるが、インバータのU相、V相およびW相の各々の電圧を電圧検出器によって直接的に検出するように構成されていてもよい。
【0035】
ローパスフィルタ7は、相電圧検出部6の出力信号から高周波成分を除去する。増幅部8はLPFゲイン補正部9Aから送られた信号によって増幅度を設定するとともに、ローパスフィルタ7を通過した信号を増幅する。ローパスフィルタ7による信号の減衰は、増幅部8による信号の増幅によって補償される。
【0036】
LPF位相補正部9Bは、回転速度ωに従って、ローパスフィルタ7の位相遅れを補正するための信号を出力する。3相/2相変換部10は、増幅部8より出力された信号と回転角度θとを用いて、U相電圧、V相電圧、およびW相電圧の値を3相−2相変換する。これにより3相/2相変換部10は、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqを算出する。
【0037】
インバータ負荷模擬装置100は、さらに、相電圧指令を生成するための電圧指令生成部50を備える。電圧指令生成部50は、模擬モータ負荷を設定するための指令と電流検出器2によって検出された電流とに基づいて、供試体1の出力電圧を制御するための基準電圧値を生成する。さらに電圧指令生成部50は、入力電圧値(具体的には、3相/2相変換部10によって算出されたd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vq)を基準電圧値に近づけるためのフィードバック制御を実行することにより、供試体1の出力電圧を制御するための相電圧指令を生成する。
【0038】
具体的には、電圧指令生成部50は、回転速度設定部12と、角度算出部13と、減算部14〜16と、モータモデル演算部18と、減算部19A,19Bと、増幅部20A,20Bと、2相/3相変換部21とを備える。
【0039】
回転速度設定部12は、モータの回転速度ωが入力されたときに、回転速度を0からωまで次第に大きくする。一方、回転速度設定部12は回転速度を0にする場合には、回転速度ωから0まで次第に小さくする。回転速度設定部12によって設定された回転速度ωは、角度算出部13、モータモデル演算部18、LPFゲイン補正部9AおよびLPF位相補正部9Bに送られる。回転速度ωは、模擬モータ負荷を設定するための指令である。
【0040】
角度算出部13は、回転速度設定部12によって設定された回転速度ωを積分することによって回転角度θを算出する。減算部14は、供試体1との0°調整のための補正値Δθを回転角度θから減算することによって回転角度θを算出する。
【0041】
減算部15は、回転角度θを30°だけ低下させる。この30°とは、線間電圧と相電圧との位相差に相当する。減算部16は、減算部15から出力された回転角度から、LPF位相補正部9Bによる補正分(すなわちローパスフィルタ7の位相遅れ分)を減算する。減算部16によって算出された回転角度は3相/2相変換部10に送られる。
【0042】
モータモデル演算部18は、PMモータの電圧方程式に従って、d軸電圧およびq軸電圧のそれぞれの基準電圧値となるd軸基準電圧Vd_refおよびq軸基準電圧Vq_refを算出する。モータモデル演算部18は、3相/2相変換部5からd軸電流Idおよびq軸電流Iqを受けるとともに、回転速度設定部12から回転速度ωを受ける。PMモータの電圧方程式は、以下の式(1)および式(2)によって表わされる。
【0043】
Vd=R×Id−ω×Lq×Iq ・・・(1)
Vq=ω×Ld×Id+R×Iq+ω×φ ・・・(2)
Rはモータの電機子抵抗であり、Ldはd軸上のモータインダクタンスであり、Lqはq軸上のモータインダクタンスであり、φはモータ誘起電圧定数である。これらは、電圧方程式を解くための定数としてモータモデル演算部18に予め記憶される。
【0044】
減算部19Aは、q軸基準電圧Vq_refとq軸電圧Vqとの偏差(Vq_ref−Vq)を算出する。増幅部20Aは、q軸偏差(Vq_ref−Vq)を増幅してq軸電圧指令を生成する。
【0045】
減算部19Bは、d軸基準電圧Vd_refとd軸電圧Vdとの偏差(Vd_ref−Vd)を算出する。増幅部20Bは、d軸偏差(Vd_ref−Vd)を増幅してd軸電圧指令を生成する。
【0046】
2相/3相変換部21は、増幅部20A,20Bからそれぞれ出力されたq軸電圧指令およびd軸電圧指令を、回転角度θを用いて2相−3相変換することによって、相電圧指令を生成する。
【0047】
インバータ負荷模擬装置100は、さらに、バランス設定部23と、電圧指令補正部22と、検出電圧補正部24とを備える。電圧指令補正部22は、2相/3相変換部21からの相電圧指令を、相電圧を調整するために補正する。電圧指令補正部22は、その補正指令を線間電圧制御部25に与える。
【0048】
一方、検出電圧補正部24は、電圧指令生成部50によるフィードバック制御に用いられる入力電圧値を生成するために、増幅部8の出力信号から得られた相電圧の値(すなわち検出電圧の値)を補正して、その補正された電圧値を3相/2相変換部10に与える。具体的には、検出電圧補正部24は、増幅部8の出力信号から得られた相電圧の値に対して、電圧指令補正部22による相電圧指令から補正指令への変換の逆変換を実行する。3相/2相変換部10は、検出電圧補正部24によって補正された電圧値を用いて、電圧指令生成部50への入力電圧値(d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vq)を算出する。
【0049】
バランス設定部23は、電圧指令補正部22および検出電圧補正部24による補正のための値を記憶するとともに、その値を電圧指令補正部22および検出電圧補正部24に出力する。バランス設定部23には、相電圧が平衡となるように実験などによって予め定められた値が記憶される。予め定められた値を用いることによって、インバータ負荷模擬装置100を調整するための工数を削減することが可能となるので、供試体1の試験を効率よく行なうことが可能となる。
【0050】
インバータ負荷模擬装置100は、さらに、角度センサ模擬制御部30を備える。角度センサ模擬制御部30は、モータの回転軸と共に回転する回転角度検出用のレゾルバの機能を模擬するものである。角度センサ模擬制御部30は、供試体1内の角度センサ(図示せず)からの励磁信号に応答して、帰還信号(レゾルバ信号)S1,S2を出力するように構成されている。これにより、インバータ負荷模擬装置100を、レゾルバ付きの模擬モータ負荷として機能させることができる。
【0051】
具体的には、角度センサ模擬制御部30は、余弦波信号生成部31と、正弦波信号生成部32と、乗算部33〜36とを備える。余弦波信号生成部31は、回転角度θを受けて余弦波信号(cosθ)を生成する。正弦波信号生成部32は、回転角度θを受けて正弦波信号(sinθ)を生成する。
【0052】
乗算部33は、余弦波信号(cosθ)にレゾルバ変圧比Kを乗じる。乗算部34は、正弦波信号(sinθ)にレゾルバ変圧比Kを乗じる。
【0053】
乗算部35は、乗算部33の算出結果(=K×cosθ)に、供試体1からの励磁信号によって示される定数(R1)を乗じて帰還信号S1を生成する。乗算部36は、乗算部35の算出結果(=K×sinθ)に、定数(R1)を乗じて帰還信号S2を生成する。すなわちS1=K×R1×cosθ、S2=K×R2×sinθである。
【0054】
インバータ負荷模擬装置100は、基本的に、偏差(Vd_ref−Vd),(Vq_ref−Vq)を0に近づけるフィードバック制御を実行する。このフィードバック制御のために相電圧および相電流の検出値が用いられる。インバータ負荷模擬装置100は、バランス設定部23と、電圧指令補正部22と、検出電圧補正部24とを備えることで、供試体であるインバータと接続された状態において、フィードバック制御を実行しつつ、相電圧が平衡となるように運転することが可能となる。この点について、比較例の構成と本実施の形態に係る構成とを対比しながら説明する。
【0055】
図2は、図1に示したインバータ負荷模擬装置の比較例の構成を示したブロック図である。図2を参照してインバータ負荷模擬装置100Aは、図1に示したインバータ負荷模擬装置100からバランス設定部23と、電圧指令補正部22と、検出電圧補正部24とを省略した構成を有する。なお図2には示していないがインバータ負荷模擬装置100Aの他の部分の構成は、図1に示したインバータ負荷模擬装置100の対応する部分の構成と同じである。このため図2には、インバータ負荷模擬装置100と共通の部分については示していない。なお、出力リアクトル27と供試体1との間には抵抗40が接続されている。
【0056】
図2に示した構成によれば、相電圧検出部6および減算部6Cによって、U相電圧Vu_FB、V相電圧Vv_FBおよびW相電圧Vw_FBが得られる。3相/2相変換部10は、U相電圧Vu_FB、V相電圧Vv_FBおよびW相電圧Vw_FBに基づいてq軸電圧Vqおよびd軸電圧Vdを算出する。インバータ負荷模擬装置100Aは、d軸偏差(Vd_ref−Vd)およびq軸偏差(Vq_ref−Vq)を0に近づけるフィードバック制御を実行する。
【0057】
図3に示すように、インバータ負荷模擬装置100Aと供試体1とを接続した段階で、供試体1の出力電圧(U相電圧Vu、V相電圧VvおよびW相電圧Vw)が三相不平衡となる場合が生じうる。この場合、3相/2相変換部10に入力される電圧Vu_FB,Vv_FB,Vw_FBも不平衡となる。しかしながら、インバータ負荷模擬装置100Aでは、フィードバック制御が実行されることによって、偏差(Vd_ref−Vd),(Vq_ref−Vq)が、ある値(好ましくは0である)に収束する。したがって、供試体1の出力電圧が三相不平衡の状態であるものの、インバータ負荷模擬装置100Aの制御にとっては三相平衡であるのと同じ状態になる。
【0058】
ここで、供試体1の出力電圧(U相電圧Vu、V相電圧VvおよびW相電圧Vw)を三相平衡にするための方法として、たとえば三相平衡の状態が得られるように、線間電圧制御部25に入力される相電圧指令のみを調整する方法が考えられる。しかしながら偏差(Vd_ref−Vd),(Vq_ref−Vq)が変化するためインバータ負荷模擬装置100Aは、偏差(Vd_ref−Vd),(Vq_ref−Vq)を収束させるためのフィードバック制御を実行する。この結果、供試体1の出力電圧が再び三相不平衡となる可能性がある。
【0059】
図4は、図1に示したインバータ負荷模擬装置の主要部の構成を示したブロック図である。図4を参照して、本発明の実施の形態においては、インバータ負荷模擬装置100がバランス設定部23と、電圧指令補正部22と、検出電圧補正部24とを備える。電圧指令補正部22は、演算部22A,22B,22Cを備える。検出電圧補正部24は、演算部24A,24B,24Cを備える。
【0060】
2相/3相変換部21は、相電圧指令として、U相基準電圧Vu_ref、V相基準電圧Vv_ref、およびW相基準電圧Vw_refを出力する。
【0061】
電圧指令補正部22は、2相/3相変換部21から出力された相電圧指令に対してゲイン補正およびオフセット補正を行ない、補正指令を生成する。
【0062】
具体的には、演算部22Aは、バランス設定部23から出力されたパラメータAu,Buを用いて、U相基準電圧Vu_refをAu×Vu_ref+Buへと補正する。演算部22Bは、バランス設定部23から出力されたパラメータAv,Bvを用いて、V相基準電圧Vv_refをAv×Vv_ref+Bvへと補正する。演算部22Cは、バランス設定部23から出力されたパラメータAw,Bwを用いて、W相電圧指令(W相基準電圧)Vw_refをAw×Vw_ref+Bwに補正する。すなわち、2相/3相変換部21から出力された相電圧指令に定数(Au,Av,Aw)を乗じることがゲイン補正であり、そのゲイン補正された相電圧指令に定数(Bu,Bv,Bw)を加算することがオフセット補正である。
【0063】
一方、検出電圧補正部24は、相電圧の値に対して、電圧指令補正部22による相電圧指令から補正指令への変換の逆変換を実行する。具体的には、演算部24Aは、バランス設定部23から出力されたパラメータAu,Buと、相電圧検出部6から出力されたU相電圧Vu_FBとを用いて、U相電圧(検出電圧)Vu_FBを(Vu_FB−Bu)/Auに補正する。演算部24Bは、バランス設定部23から出力されたパラメータAv,Bvと、減算部6Cから出力されたV相電圧Vv_FBとを用いて、V相電圧(検出電圧)Vv_FBを(Vv−Bv)/Avに補正する。演算部24Cは、バランス設定部23から出力されたパラメータAw,Bwと、相電圧検出部6から出力されたW相電圧Vw_FBとを用いて、W相電圧(検出電圧)Vw_FBを(Vw_FB−Bw)/Awに補正する。
【0064】
すなわち検出電圧補正部24では、相電圧の値から、電圧指令補正部22でのオフセット補正に相当する定数(Bu,Bv,Bw)が減算される。さらに、オフセット補正分が差し引かれた検出値を電圧指令補正部22でのゲイン補正に相当する定数(Au,Av,Aw)で割ることによって、フィードバック制御用の電圧値が生成される。
【0065】
このように本発明の実施の形態に係るインバータ負荷模擬装置100では、電圧指令補正部22が電圧指令生成部50(より特定的には2相/3相変換部10)によって生成された相電圧指令を補正する。これによって、図5において破線の波形で示すように、U相電圧Vu、V相電圧VvおよびW相電圧Vwの大きさを互いに等しくすることができる。すなわち、三相平衡の状態を得ることができる。これによって、インバータ負荷模擬装置100を運転して被試験インバータを評価した際に、正確な評価結果を得ることが可能となる。
【0066】
さらに、本発明の実施の形態に係るインバータ負荷模擬装置100では、検出された相電圧の値(減算部6Cによって算出された電圧値も含む)を、フィードバック制御用の電圧値に補正する。具体的には、検出電圧補正部24が、相電圧の検出値に対して、電圧指令補正部22における電圧指令から補正指令への変換の逆変換を実行する。
【0067】
電圧指令補正部22が2相/3相変換部21からの電圧指令を補正することによってインバータ(供試体1)の出力電圧が三相平衡の状態となるように変化した場合にも、検出電圧補正部24が電圧検出値を補正するので3相/2相変換部10に入力される電圧値は変化しない。これにより、インバータ負荷模擬装置100(より特定的には、電圧指令生成部50)におけるフィードバック制御への影響(d軸偏差およびq軸偏差の拡大)を小さくすることができる。したがって本発明の実施の形態によれば、インバータと接続された状態において相電圧が平衡するように運転することが可能なインバータ負荷模擬装置を実現できる。
【0068】
なお、検出電圧補正部24は図1に示したように増幅部8の後段に配置されるものと限定されない。検出電圧補正部24を増幅部8の前段に配置することも可能である。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1,120 供試体、2 電流検出器、3,6C,14〜16,19A,19B 減算部、4 オフセット/ゲイン補正部、5,10 3相/2相変換部、6 相電圧検出部、6A,6B 電圧検出器、7 ローパスフィルタ、8,20A,20B 増幅部、9A LPFゲイン補正部、9B LPF位相補正部、12 回転速度設定部、13 角度算出部、18 モータモデル演算部、21 2相/3相変換部、22 電圧指令補正部、22A,22B,22C,24A,24B,24C 演算部、23 バランス設定部、24 検出電圧補正部、25 線間電圧制御部、26 インバータ、27 出力リアクトル、30 角度センサ模擬制御部、31 余弦波信号生成部、32 正弦波信号生成部、33〜36 乗算部、40 抵抗、50 電圧指令生成部、100,100A,110 インバータ負荷模擬装置、112,114 単体試験用負荷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験インバータに接続されて前記被試験インバータの負荷を模擬するインバータ負荷模擬装置であって、
前記被試験インバータの模擬負荷となる負荷用インバータと、
前記被試験インバータの出力電流を検出する電流検出部と、
前記被試験インバータの出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記模擬負荷を設定するための指令と前記電流検出部によって検出された前記出力電流とに基づいて前記被試験インバータの前記出力電圧を制御するための基準電圧値を生成するとともに、入力電圧値を前記基準電圧値に近づけるためのフィードバック制御を実行することにより、前記被試験インバータの前記出力電圧を制御するための電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
前記電圧指令生成部によって生成された前記電圧指令を、前記出力電圧を調整するための補正電圧指令に変換する指令補正部と、
前記補正電圧指令に従って前記負荷用インバータを制御するインバータ制御部と、
前記電圧指令生成部による前記フィードバック制御に用いられる前記入力電圧値を生成するために、前記電圧検出部によって検出された前記出力電圧の値を補正する検出電圧補正部とを備え、
前記検出電圧補正部は、前記電圧検出部によって検出された前記出力電圧に対して、前記指令補正部による前記電圧指令から前記補正電圧指令への変換の逆変換を実行する、インバータ負荷模擬装置。
【請求項2】
前記被試験インバータおよび前記負荷用インバータの各々は、三相インバータであって、
前記指令補正部は、前記被試験インバータの前記出力電圧が三相平衡となるように、前記補正電圧指令を生成する、請求項1に記載のインバータ負荷模擬装置。
【請求項3】
前記インバータ負荷模擬装置は、
前記電圧指令を前記補正電圧指令に変換するためのパラメータおよび前記電圧検出部によって検出された前記出力電圧に対する前記逆変換を実行するためのパラメータを予め記憶する記憶部をさらに備える、請求項2に記載のインバータ負荷模擬装置。
【請求項4】
前記被試験インバータは、モータ駆動用インバータであり、
前記インバータ負荷模擬装置は、
前記電流検出部によって検出された前記出力電流を、d軸電流およびq軸電流に3相−2相変換する第1の変換部と、
前記電圧検出部によって検出された前記出力電圧を、前記電圧指令生成部に対する前記入力電圧値としてのd軸電圧およびq軸電圧に3相−2相変換する第2の変換部とをさらに備え、
前記電圧指令生成部は、
モータ電圧方程式と、前記d軸電流および前記q軸電流と、前記模擬負荷を設定するための指令としての回転速度指令とを用いてd軸電圧およびq軸電圧のそれぞれに対する前記基準電圧値となるd軸基準電圧およびq軸基準電圧を生成するモータモデル演算部と、
前記d軸基準電圧と前記d軸電圧との間の偏差を増幅することによってd軸電圧指令を生成する第1の増幅部と、
前記q軸基準電圧と前記q軸電圧との間の偏差を増幅することによってq軸電圧指令を生成する第2の増幅部と、
前記d軸電圧指令および前記q軸電圧指令を2相−3相変換することによって、前記指令補正部によって補正されるための前記電圧指令を生成する第3の変換部とを含む、請求項3に記載のインバータ負荷模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−217459(P2011−217459A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81119(P2010−81119)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】