説明

インプリントリソグラフィ用モールド製作方法及びモールド

【課題】インプリントリソグラフィに使用するモールドの凹部の深さを均一にしつつ、モールド面内の任意位置の一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化し、製造コストを低減した上で、優れたモールド特性を実現する。
【解決手段】インプリントリソグラフィに使用するモールドを、マスクを用いたエッチングにより製作するモールド製作方法において、モールド面上に所望のパターンを形成するための第1マスクと、第1マスクを覆う第2マスクとを用いてエッチングを行い、第2マスクは、一定の面積内において、モールド面上に形成するパターンの開口率が高いほど、第1マスク開口部を覆う第2マスクの厚みが大きくなるよう設定され、エッチング時、第1マスクによるモールドのエッチングが開始時期を遅延することにより、パターンの開口率が高いほど、エッチングにより形成されるモールド凹部を一定領域内で均一に浅くし、前記一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体等のリソグラフィ手法の一つであるインプリントリソグラフィのモールド製作方法及びその方法によって製作されたモールドに関する。
【背景技術】
【0002】
インプリントリソグラフィは図1のように、パターンPが形成されているモールド1を可塑性・硬化性のあるインプリント可能媒体2が塗布された試料3に押しつけることで、パターンPの反転形状を転写する手法である。インプリントリソグラフィでは形状を転写した際に形成される転写パターンFの膜厚は図2に示したように残膜tと呼ばれる部分を有する。
【0003】
インプリントリソグラフィではインプリント可能媒体2をマスクとして使用するために、残膜tを除去するプロセスが必要であり、この残膜除去のプロセスを短時間でマスクの質を損なわないように行なうために、残膜tをインプリント領域全面にわたり薄く均一にする必要がある。
【0004】
インプリントリソグラフィでは、例えばパターンドメディアやフォトニッククリスタルのような、パターンPの粗密が均一な場合には均一な残膜tを実現することは容易である。
しかし、図3のようにパターンPに粗密がある場合では、転写パターンFにおける残膜tを均一にすることは困難である。
すなわち、モールド1のパターンPにおいて、モールド1に凹部として形成される部分をパターンとするとき、一定面積あたりのこのパターンの面積が広い程パターン密度が密であるとするとき、図中右側部分のパターン程密で、左側部分のパターン程粗となる。
このとき図3(a)の状態から(b)のようにモールド1のパターンPを均一な厚さのインプリント可能媒体2に押し付けると、インプリント可能媒体2はパターンPの内部に隅々まで入った後他の部分に流動しないときには、パターンが密であった部分である図中右側の残膜tの厚さtRは、パターンが粗であった部分である図中左側の残膜tの厚さtLよりも薄くなり、パターンの密度に対応して残膜tの厚さが異なる。
【0005】
このようにパターンの粗密により残膜の厚さが異なることは、このパターンを一般的なICレイアウトでの任意の回路構成として作成したときには必然的にパターンの粗密ができるため、常に厚さの異なった残膜が生じることになり、厚さの厚い部分が除去できる迄の長時間の残膜除去作業を行わなければならず、無駄な時間を浪費するばかりか、形成された転写パターンFの形状劣化も顕著となる。
さらに、残膜の不均一が大きい場合などでは残すべき転写パターンFそのものが除去されてしまう状況も生じる。また、低粘度のインプリント可能媒体を使用し、より長時間のインプリントを行うことで、最終的な残膜分布の均一化を図れるが、そのためには理想的な平坦性を有するモールドや基板を使用することが必要であり、しかもかなり長時間のプロセスでなければ、均一化はあまり期待できない。
【0006】
現状で任意のパターンPに対して、残膜を均一にする手法としては、インプリント可能媒体をインプリント領域に無数の液滴状態で配置し、その際にパターンの粗密に対応させて液滴の分量を調整するという手法が提案されている。
しかしながらこの手法は複雑な機構を必要とし、インプリント可能媒体の材料が限られるなど、任意のインプリント可能媒体に対して適用可能な手法ではない。
【0007】
また、インプリント可能媒体を均一塗布した基板に対するインプリントリソグラフィにおいては、例えば下記特許文献1に開示された「インプリント・リソグラフィ」によれば、ICレイアウトの設計中にパターン密度が平均化する工程を入れるなどにより、パターンの2次元的配置を工夫することによってパターン密度の均一化を行うことが提案されている。
【0008】
前記特許文献1に提案されているような、ICレイアウトの設計中にパターン密度を均一化する工程を入れることが可能であるとしても、モールドに刻まれるパターンを設計する際にはデバイス機能のみならずパターン密度に関しても同時に考慮して設計する必要がある。
また、粗密が均一になるように既存パターンの寸法補正を行うことや、本来は不要なダミーパターンを既存パターン近傍に追加すること、あるいは既存パターンの配置の変更などで粗密の緩和を図る種々の手法も考えられているが、これらの手法は、パターンの寸法の変更が許容される場合やダミーパターンの追加が可能な場合、パターンの再配置が可能な場合といった特殊な場合にしか対応ができず、パターン密度の不均一はインプリントリソグラフィを実現する上での本質的な問題となっている。
【0009】
ところで、モールドパターンの深さや高さに対して十分大きな厚みのインプリント可能媒体へのインプリントや、リソグラフィを意識したデュアルダマシンのためのインプリントリソグラフィにおいては、段差のついたモールドが使用される場合があるが、基板加工を目指した一般に使用されるインプリントリソグラフィ用モールドは、マスクを1度利用するプロセスによって作製される、凹部の深さないし凸部の高さが一定のモールドであり、これらのモールドを利用するインプリントリソグラフィではパターン密度が不均一である場合には、形成される残膜も不均一となってしまう。
【0010】
そこで、発明者は、下記特許文献2にみられるように、インプリントリソグラフィにより基板上に用意された均一な膜厚のインプリント可能媒体をモールドにより加工する場合に、モールドのパターン密度に依存した残膜分布が発生するという問題に対して、所望のパターンに対してパターンの寸法変更や追加およびパターンの移動等の変更を伴うことなく、残膜分布の均一化を実現するため、インプリントリソグラフィに使用するモールドを、マスクを用いたエッチングにより製作するモールド製作方法において、モールド面上に形成する所望のパターンを作製するための第1マスクと、前記第1マスクを部分的に覆う第2マスクとを用いてエッチングを行い、前記第2マスクは前記モールド面上に形成するパターンの開口率が高い程、第1マスク開口部を覆う面積を広くし、一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化するインプリントリソグラフィ用モールド製作方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−303503号公報
【特許文献2】特開2009−072976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献2で提案したインプリントリソグラフィ用モールド製作方法によれば、所望のパターンに対してパターンの寸法変更や追加およびパターンの移動等の変更を伴うことなく、残膜分布を均一化するためモールドを作製できる。
しかしながら、第2マスクが第1マスクの開口部を部分的に覆い第2マスクにより覆われていない部分が、覆われている部分と比較して深くエッチングされるため、このモールドを利用してインプリントを行った場合に、高さが2段階のパターンが形成されることとなる。このことは、ある領域において、たとえ単一パターンの均一配置によりパターンが構成されているとしても、インプリントされたパターンの高さがその領域内で2段階になり、インプリント後の残膜除去やその後の基板加工プロセスにおいて、わずかではあるが加工結果に差が生じ、例えば、極めて高い加工均一性が要求される半導体プロセス等への適用に問題となる。
【0013】
ここで、特許文献2で提案したインプリントリソグラフィ用モールド製作方法により形成されたモールドによるパターンと残膜の関係2を図4に示す。正しく作製されたモールドを使用すれパターンの下層の残膜は図4の様に均一に形成される。これは、モールドに形成される単位面積あたりの容積が一定としたためである。図4から明らかなように、容積を均一にするために、モールドの第1マスクの開口部は、第2マスクにより断続的に覆い、モールドパターンの1つの凹部についてみてみると、エッチング深さが断続的に異なることになり、凹部の高さが変化し、それを反映したパターン凸部の高さが断続的になっている。
【0014】
また、上記特許文献2には、例えば、UVインプリントリソグラフィ用モールド作製においては、次のような手法が記載されている。すなわち、
(1)モールドとなる石英基板上にCr膜を形成し、その上に電子ビーム用レジストを塗布する。
(2)電子ビーム描画により回路パターンを発生させ現像し、電子ビーム用レジストをマスクとしたCrエッチングにより、Crにパターンを形成する。
(3)第1マスクであるCrが付着した状態のエッチングされた石英基板に対し、塗布するフォトレジストの厚みを適当に選択し、フォトレジストに露光し現像し、所望の第2マスクパターンを形成した状態で、石英のエッチングを行う。
このような手法により、第1マスクであるCrの開口部でエッチングが行われるが、第2マスクであるフォトレジストが存在する部分では石英のエッチングが阻害され、第2マスクが石英エッチングプロセス中に完全に除去されてしまう時間だけその部分の石英エッチングの開始を遅らせることができ、モールド面内の任意位置の一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化する。
【0015】
ここではフォトレジストはCr膜の開口部を部分的に被覆することで、フォトレジストとCr膜による合成開口率をフォトレジストの有無で決定している。このために、被覆しているフォトレジストの厚みは、エッチングを完全に阻害する目的であるならば十分厚く(膜厚は不均一でも良い)、また、エッチングを遅延する目的であるならば膜厚は一様でなければならない。いずれにせよ、モールドのCr膜の開口部に形成されるパターンの深さはフォトレジストの有無により2段階になることになる。このため、先の段落0012で述べたように、同一パターンであっても高さの異なるパターンがインプリントにより形成されることになり、インプリント後の残膜除去やその後の基板加工プロセスにおいて、極めて高い加工均一性が要求される半導体プロセス等への適用に問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明のインプリントリソグラフィ用モールド製作方法においては、モールド面上に所望のパターンを形成するための第1マスクと、前記第1マスクを覆う第2マスクとを用いてエッチングを行い、前記第2マスクは、一定の面積内において、前記モールド面上に形成するパターンの開口率が高いほど、第1マスク開口部を覆う第2マスクの厚みが大きくなるよう設定され、エッチング時、前記第1マスクによるモールドのエッチングが開始時期を遅延することにより、エッチングにより形成されるモールド凹部をパターンの開口率が高い領域ほど浅くし、開口率が低い領域ほど深くすることで、前記一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化した。
【0017】
このインプリントリソグラフィ用モールドは、モールド面上に形成されるパターン凹部の深さが当該領域内でのパターンの開口率が高いほど均一に浅く、また、開口率が低いほど均一に深くさせ、同一開口率の領域内でのパターン凹部の深さが一定でありながら、該一定面積における各パターンの容積をモールド面全域にわたって均一化した。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上記のように構成したので、パターンの開口率が高い領域ほど、エッチングにより形成されるモールド凹部を均一に浅くし、パターンの開口率が一定と見なした領域内では、凹部の深さを均一にしつつ、一定面積におけるモールド凹部の容積をモールド内のどこでも等しくしているために、インプリントにおいては残膜をインプリント領域全体で0あるいは均一にすることができ、かつ、形成されるパターンの高さがおのおのの開口率の領域内で単一の高さとなり、その後の加工プロセスにおいておのおのの開口率の領域内で高い寸法均一性を確保できるようになり、製造コストを低減した上で、優れた特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】インプリントリソグラフィを説明する断面図である。
【図2】インプリントリソグラフィでの残膜を説明する断面図である。
【図3】粗密パターンによるインプリントリソグラフィの状態を示す断面図である。
【図4】従来技術のインプリントリソグラフィ用モールド製作方法により形成されたモールドを使用して形成されたインプリントパターンと残膜を示す図である。
【図5】粗密パターンのマスクの例を示す平面図である。
【図6】パターンの粗密によらずエッチング深さが一定の場合の説明図である。
【図7】パターンの粗密に応じて5段階の深さのエッチングを行った場合の説明図で ある。
【図8】本発明のインプリントリソグラフィ用モールド製作方法により形成されたモールドを使用して形成されたインプリントパターンと残膜を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
モールドに例えば図5のような所望のパターンをエッチングにより形成する場合には、モールド面上にはエッチングされない部分を覆うためのマスクが用意され、エッチングを行うことにより、所望のモールドを作製する。エッチング深さは、エッチングの不均一性やパターン寸法効果等によって若干の違いはあるものの基本的には一様の深さと見なせる。この深さをdとする。
【0021】
適当な一定面積Sの領域を考え、モールド面内の一定面積Sのある領域でのマスクの開口率がaである場合、その領域内での凹部の容積Vは深さdから、以下のように表わせる。
V=Sad (式1)
このモールドを使用し、インプリント可能媒体の初期膜厚hに対してインプリントを行った時に、インプリント可能媒体の体積が面積S内で変化しなかったとし、残膜bが形成されたとすると、
Sh=Sb+Sad (式2)
すなわち、
b =h−ad (式3)
である。マスクで適当な一定面積Sを考えたときのその領域内でのマスクの開口率aがモールド面内で最小値aminから最大値amaxまで変化している場合、残膜は開口率aが最小の場合に最大値bmax、最大の場合に最小値bminをとり、その値は(式3)を利用してそれぞれ以下のようになることがわかる。
max=h−amind (式4)
min=h−amaxd (式5)
【0022】
残膜を薄く均一にすることを考えると、(式5)でbmin=0となる場合を考えればよく、その場合の初期膜厚hは、
h=amaxd (式6)
であり、このときの残膜の最大値は、
max=(amax − amin)d (式7)
である。
【0023】
モールド面内の任意位置における一定面積Sの領域内での第1マスクの開口率aが一定でなければbmaxを0にすることはできない。
これが前述したインプリントリソグラフィで問題となる。
例えば、図5のある一定面積を切り出した開口率aが0.25、0.33、0.5、0.66、0.75の場合、図6に示すように開口率最大の領域で残膜が0になるh=0.75dの初期膜厚でインプリントリソグラフィを行うと、残膜はおのおの、0.5d、0.41d、0.25d、0.08d、0という値になり、残膜をインプリント領域全体で0とすることができないことがわかる。
【0024】
もし仮に、モールド面内でのエッチング深さを任意に制御可能な技術が存在するとして、エッチングされた凹部の単位面積あたりの容量を一定とするようにエッチングを行うことを仮定する。このためには、開口率最大の部分でのエッチング深さをdとするとき、任意の位置でのエッチング深さdをその領域内での開口率aに対して
d=(amax/a)d (式8)
とすればよく、このように作製されたモールドを使用し、初期膜厚hのインプリント可能媒体に対してインプリントを行うと、(式3)は以下のようになる。
b=h−a(amax/a)d (式9)
b=h−amax (式10)
(式10)より、残膜bは開口率aによらず一定となる。
ここで、
h=amax (式11)
なる初期膜厚を採用すれば、理想的にはインプリント領域のいたるところでb=0を実現することが可能となる。
【0025】
この場合の例を図7に示す。この方法により理論的には問題は解決できる。しかしながら、一般的なマスク使用し、マスクの開口部をエッチングする手法においては、場所ごとに自由にエッチング深さを制御するということは行えず、このような深さの異なるエッチングを実現することはできない。また、開口率ごとにマスクとエッチングを組み合わせる手法では、開口率が異なるごとにマスクを用意する必要があり、この場合では5種類のマスクが必要である。一般的なパターンを考えるとそれ以上のマスクが必要になる場合もあり、プロセス回数が非常に多くなってしまう。さらに、これらのマスクの重ね合せ精度の確保も課題となる。
【0026】
ところで、光、電子、イオンなどを偏向しながらレジストに照射しパターンを形成するマスクレス描画とよばれるリソグラフィ手法は、レジストパターンを一括でなく部分的に次々描画する手法であり、照射量を均一にしてパターンを描画するほかに、任意の部分の照射量を自在に可変することで、結果的に形成されるレジストパターンの膜厚を膜厚0からレジスト塗布膜厚までの範囲で任意の膜厚を残すことが可能である。この描画方法はグレースケール描画と呼ばれ、グレースケール描画により局所的に厚みの異なるレジストパターンの作製が可能である。
【0027】
このようなグレ-スケール描画により凹凸を有するレジストパターンをモールド上に作製し、リアクティブイオンエッチングでモールドにパターンを刻み込むことを考えると、例えば、モールド材料のエッチングレートとレジスト材料のエッチングレートとが等しい場合には、レジスト材料に形成した凹凸の形状そのままをモールドに形成することが原理的には可能である。また、モールド材料のエッチングレートがレジスト材料のエッチングレートの1/kである場合には、モールドに作製したい凹凸の形状のk倍の凹凸の差を有するレジストパターン形状をグレースケール描画により作製し、リアクティブイオンエッチングを行うことで、所望の可変深さを有するモールドの作製が原理的には可能である。
【0028】
ところが、グレースケール描画でパターンを形成する場合には、形成されるレジストパターンを所望の膜厚にする必要から、照射量を可変すると、パターンの寸法そのものにも影響を与えてしまうという問題がある。例えば、同一寸法でレジスト膜厚のみを変化させるということは困難であり、このような単純なグレースケール描画とリアクティブイオンエッチングの組み合わせではパターン幅の寸法精度を高く維持したまま、所望の可変深さを有するモールドの作製を行うことはできない。
【0029】
そこで、グレースケール描画を利用しながら、高い寸法精度も同時に実現する本発明の実施例を次に示す。ここでは均一な厚みを有するマスク(第1マスク)とグレースケール描画により厚みが局所的に可変されているマスク(第2マスク)の2種類を使用する。この第1マスクは所望の開口が高精度に形成されているマスクである。
【0030】
まず、モールド上に第1マスクを作製する。この第1マスクの上にレジスト塗布し、グレースケール描画を行い、領域ごとに異なる膜厚を有する第2マスクを作製する。この状態で、リアクティブイオンエッチングを行う。このリアクティブイオンエッチングでのエッチングレートは、モールド材料でEm、第2マスク材料でE2であるとし、E2のエッチングレートはEmのk倍であるとする。
E2=k・Em (式12)
ここでは便宜的に理想的な第1マスクを仮定し、第1マスクの膜厚を0、第1マスク材料のエッチングレートは0とする。
【0031】
適当な一定面積Sを考え、モールド面内のある位置において一定面積Sの領域内での当該領域の第1マスクによる開口率がaであるとする。また、最大の開口率をamax、最小の開口率をaminとする。第2マスクの厚みzはグレースケール描画により領域ごとに変化させることが可能である。
【0032】
最大の開口率amaxの領域でt時間のエッチングを行い、モールドに深さdのエッチングをおこなったとすると、
t=z/E+d/E (式13)
容積均一化のためには、開口率が最大の部分はモールドのエッチング深さが最小であるべきであり、よって、第2マスクの厚みzは最大であるべきである。このときのzをzmaxと表記すると(式12)および(式13)から、
max=kEt−kd (式14)
同様に、開口率aの領域で同じt時間エッチングを行い、モールドに深さdが形成されたとすると(式15)となる。
z=kEt−kd (式15)
(式14)と(式15)から次式を得る。
d=d+(zmax−z)/k (式16)
【0033】
この場合で、(式8)で求めたd=(amax/a)d の条件が満たされるならば、残膜は均一化することができる。そのためのzは以下のようになる。
z=zmax−kd((amax/a)−1) (式17)
(式17)は開口率aがamaxのとき最大値zmax、aminのとき最小値zminをとる。
min=zmax−kd((amax/amin)−1) (式18)
min≧0であるためには、zmax≧kd((amax/amin)−1)であればよく、第2マスクの最も厚い部分の膜厚zmaxをそのように用意することは何ら問題なく行うことが可能である。
【0034】
確認のため開口率aである領域の面積がSである場合に(式17)の第2マスクを用意しエッチングした結果得られるモールド凹部の容積Vを求める。容積は、面積×開口率×深さであるので、
V=Sad
=Sa(d+(zmax−z)/k)
=Sa(d+(zmax−(zmax−kd((amax/a)−1)))/k)
=Sa(d+(kd((amax/a)−1))/k)
=Sa(d+d((amax/a)−1))
=Sad(amax/a)
=Samax (式19)
このように、開口率によらず容積は一定となる。単位面積あたりの容積はV/Sであり、
V/S=amax (式20)
開口率aに依存せず、一定値amaxであることが確かめられた。
【0035】
ここまでは、議論を簡単にするために、厚さ0の第1マスクを形成し、モールドは第1マスクの作製時にエッチングされていないという条件で議論を進めた。実際には、第1マスクは厚みを有し、第1マスク作製と同時にモールド全面を均一な深さdにエッチングする場合も想定される。このようなプロセスを採用した場合でも、問題無く第2マスクを用意し、モールドの容積均一化を図ることができることを次に示す。第1マスクの膜厚をcとし、モールドがエッチングされている深さをdとする。描画、現像後に第2マスクとなるレジストは厚さcの第1マスクおよび既にエッチングされている深さdの第1マスク表面からの深さc+dの溝を埋め、第1マスクの上に平坦化されて形成されているとし、このレジスト膜に対してグレースケール描画を行い、開口率aの領域において、第1マスクの表面からのzの厚みの第2マスクが形成されたとする。このとき溝の形成されている部分では第2マスクの膜厚は上記に述べたように第1マスクの膜厚と形成されている溝の分だけ厚くなり、z+c+dとなる。
【0036】
最大の開口率amaxの領域は容積均一化のためには最後にエッチングされるべきであり第2マスクの膜厚は最大であるべきである。この領域においてモールドの溝中の第2マスクの材料が時間tでちょうどエッチングされたとする。ここでの膜厚をzmaxと表記すると、
t=(zmax+c+d)/E
=(zmax+c+d)/kEm (式21)
同様に、開口率aの領域ではモールドの深さがdからdになったとすると
t=(z+c+d)/E+(d−d)/E (式22)
zについて整理すると
z=kEt−kd−c−(1−k)d (式23)
(式21)と(式23)から次式を得る。
d=d+(zmax−z)/k (式24)
【0037】
この場合で、(式8)で求めたd=(amax/a)dの条件が満たされるならば、残膜は均一化することができる。そのためのzは以下のようになる。
z=zmax−kd((amax/a)−1) (式25)
(式17)は開口率aがamaxのとき最大値z、aminのとき最小値zminをとる。
min=zmax−kd((amax/amin)−1) (式26)
min≧0であるためには、zmax≧kd((amax/amin)−1)であればよく、zmaxをそのように用意することは何ら問題なく行うことが可能である。
(式24)〜(式26)は(式16)〜(式18)と全く同じであり、このような構造のモールドは(式19)や(式20)と全く同じように単位面積あたりの容積は、開口率aに依存せず、一定値amaxであることが分かる。
【0038】
以下に本発明による実現可能なプロセス例を述べる。
例えば、UVインプリントリソグラフィ用モールド作製においては、モールドとなる石英基板上にCr膜を形成し、その上に電子ビーム用レジストを塗布し、電子ビーム描画により回路パターンを発生させ現像し、電子ビーム用レジストをマスクとしたCrエッチング、Crをマスクとした石英エッチングにより、石英にパターンが刻まれる。通常はここでCrマスクを除去することで、エッチング深さが一定の一般的なUVインプリントリソグラフィ用モールドが完成する。
【0039】
しかし、本発明においては、Crマスクの除去はここでは行わない。ここで除去しないこのCrマスクが本発明の第1マスクに相当する。
【0040】
上記プロセスにより作製された、第1マスクであるCrが付着した状態のエッチングされた石英基板に対し、例えばフォトレジストを塗布し、レーザー描画によりグレースケール描画つまりレジストが解像する感度付近で微妙にレーザーの照射量を制御することで中途上記説明に基づくエッチング阻止用パターンを描画し現像して第2マスクとする。
【0041】
第2マスクは、このように、解像する感度付近で微妙に照射量が調整されていることから、形成される耐エッチング被膜の厚さに差が生じる。
例えば、ポジ型のフォトレジストを第2マスクとして使用するならば、照射量が少ない部分では第2マスクは厚く、照射量が多い部分では第2マスクが薄くなり、この状態で、再度追加的にエッチングを行うと、照射量が少ない部分では第2マスクの除去に長時間を要するために石英のエッチング時間が短く石英に刻まれるパターンは浅くなり、照射量が多い部分では第2マスクが短時間で除去され石英が長時間エッチングされるために刻まれるパターンは深くなる。
【0042】
そこで、モールド面上に形成するパターンの開口率が低いほど照射量を多くし第2マスクを薄くし2回目のエッチングによる石英エッチングを早期に開始させ、開口率が高いほど照射量を少なくし第2マスクを厚くし2回目のエッチングによる石英エッチングを回避、あるいは遅らせ、石英基板上に形成される凹部の深さを、パターンの開口率が高いほど浅くし、パターンの開口率が低いほど深くすることができる。
【0043】
このように、2段階の石英エッチングを行うことで、第1マスクの開口部のみが、パターンの幅が第1マスクにより規定された状態で、第2マスクの厚さに応じて所望の深さまでエッチングされ、フォトレジストおよびCrを除去することで、本発明に基づくモールド面内の任意位置の一定面積におけるモールド凹部の容積が一定ないし第1マスクのみを利用した場合よりも均一化された、単位領域内で均一な深さを有するモールドが完成する。
【0044】
以上の説明においては、説明の単純化のためにモールドに刻まれた溝そのものや第1マスクパターンの存在が第2マスクのグレースケール描画に与える影響を無視して説明を行ったが、これらがグレースケール描画に影響を与えることは想定され、その補正などを必要に応じて行うことは言うまでもない。
【0045】
ここでは、UVインプリントリソグラフィ用モールドの例を示したが、使用する基板、マスク材料、リソグラフィ手法は任意である。また、上記手法により作製したモールドや所望のモールドの反転形状を上記手法により作製し、多段の深さを反映した反転形状を形成するような複製プロセスにより所望の多段の深さを有するモールドを作製することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、インプリントリソグラフィ用モールドのモールド面上に形成するモールドパターン凹部の深さを変化させ、多段形状とすることで一定面積あたりのパターンの容積を均一化したパターンを作製するものであるが、インプリント、エンボス、射出形成、めっき、キャスティングなどのように、モールドを利用する手法によって、モールドの有する多段形状を反映した反転形状を形成する複製手段を含む手法により作製された複製モールドにも適用される。
【符号の説明】
【0047】
1 モールド
2 インプリント可能媒体
3 試料
P パターン
F 転写パターン
t 残膜
M マスク
M1 第1マスク
M2 第2マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリントリソグラフィに使用するモールドを、マスクを用いたエッチングにより製作するモールド製作方法において、
モールド面上に所望のパターンを形成するための第1マスクと、前記第1マスクを覆う第2マスクとを用いてエッチングを行い、
前記第2マスクは、一定の面積内において、前記モールド面上に形成するパターンの開口率が高いほど、第1マスク開口部を覆う第2マスクの厚みが大きくなるよう設定され、エッチング時、前記第1マスクによるモールドのエッチングが開始時期を遅延することにより、パターンの開口率が高いほど、エッチングにより形成されるモールド凹部を均一に浅くし、同一開口率で深さが前記一定面積におけるモールド凹部の容積を均一化することを特徴とするインプリントリソグラフィ用モールド製作方法。
【請求項2】
前記第1マスクによりモールドをエッチングした後、前記第1マスクを除去することなく、レジストを塗布し、その後、照射量を制御することによりエッチング阻止用パターンの厚さを連続的に調整することにより、前記第2マスクを形成するようにしたことを特徴とする請求項1記載のインプリントリソグラフィ用モールド製作方法。
【請求項3】
モールド面上に形成するパターンの開口率が高いほど、一定面積におけるモールド凹部の深さを一定領域内で均一に浅くさせ、該一定面積における各パターンの容積を均一化したことを特徴とするインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項4】
前記インプリントリソグラフィ用モールドは、請求項1、2に記載されたモールド製作方法により製作されたものであることを特徴とする請求項3記載のインプリントリソグラフィ用モールド。
【請求項5】
請求項3または4記載のモールドによって、該モールドの反転形状のパターンを形成した複製モールド。
【請求項6】
請求項5記載の複製モールドによって、該モールドの反転形状のパターンを形成した複製モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129671(P2011−129671A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286145(P2009−286145)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「超高速ナノインプリントリソグラフィ技術のプロセス科学と制御技術の開発/超高速ナノインプリントリソグラフィ−高スループット−」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】